供給口が、排気配管の排気口よりも鉛直方向の下側に位置し、圧力容器内に加圧した水蒸気を供給する水蒸気配管の水蒸気供給口が、排気配管の排気口よりも鉛直方向の上側に位置した鉄鋼スラグの処理装置であり、また、これを用いて鉄鋼スラグの蒸気エージングと、鉄鋼スラグの炭酸化処理とを行う鉄鋼スラグの処理方法である。
鉄鋼スラグが投入されるスラグ容器と、該スラグ容器を収容して密閉することができる圧力容器と、圧力容器内に加圧した水蒸気を供給する水蒸気配管と、圧力容器内に加圧したCO2含有ガスを供給するCO2配管と、圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出する排気配管とを備えて、前記水蒸気配管と圧力容器との接続口である水蒸気供給口が、前記排気配管と圧力容器との接続口である排気口よりも鉛直方向の上側に位置すると共に、前記CO2配管と圧力容器との接続口であるCO2供給口が、前記排気配管と圧力容器との接続口である排気口よりも鉛直方向の下側に位置しており、圧力容器内を水蒸気雰囲気に置換する際には、前記水蒸気供給口から吹き込まれた水蒸気により、圧力容器内の雰囲気ガスが前記排気口から排出され、また、圧力容器内をCO2含有ガス雰囲気に置換する際には、前記CO2供給口から吹き込まれたCO2含有ガスにより、圧力容器内の雰囲気ガスが前記排気口から排出されるようにした接続口位置関係を有することを特徴とする鉄鋼スラグの処理装置。
前記エージング工程後にスラグ容器を圧力容器から一旦外部に取り出して、スラグ容器内の鉄鋼スラグを90℃以下の温度に冷却した上で、再びスラグ容器を圧力容器に収容して炭酸化工程を行う請求項8に記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【背景技術】
【0002】
製鉄所での製鉄過程や精錬過程において発生する高炉スラグや製鋼スラグ等の鉄鋼スラグ(以下、単にスラグと称する場合がある)は、道路の路盤材を始めとして、土木材料、建築材料、海域環境修復資材等として広く利用されているが、スラグに含まれた遊離CaOが水と接触してCa(OH)
2となると体積が約2倍に膨張することから、例えば、路盤材として利用した際に、亀裂や隆起を発生させてしまうおそれがある。また、遊離CaOやCa(OH)
2等のような水可溶性カルシウム成分(水可溶性Ca成分)は、雨水等の水と接触するとpH値の高いスラグ溶出水(pHが約12.5の高アルカリ水)を溶出し、更には、このスラグ溶出水中のカルシウム成分が大気中の二酸化炭素と反応して炭酸カルシウムを生成すると、スラグ溶出水中の水分が蒸発した後に白色沈殿物として残存し、白色痕として周辺の美観を損ねる等の環境保全の面で問題となるおそれがある。
【0003】
そこで、スラグを土木材料、建築材料等として利用するにあたり、一般には、スラグ中の遊離CaOの膨張を事前に進行させて割れ等の発生を防止するエージング処理が行われる。また、高アルカリ水等の溶出を防ぐには、スラグ中に含まれる水可溶性カルシウム成分を事前にCO
2と反応させて不溶化させる炭酸化処理がある。
【0004】
このうち、エージング処理については、スラグを野外で山積みし、3〜6月以上放置して雨水等により水和反応を行わせて遊離CaOを安定化させる大気エージングや、側壁三方をコンクリート擁壁で囲ったピット等にスラグを堆積させ、その上面に保温シートを被せて下方から蒸気を供給して水和反応させる蒸気エージングのほか、圧力容器内にスラグを収容し、加圧した水蒸気を供給して所定の圧力の水蒸気雰囲気下でスラグをエージング処理する加圧式蒸気エージングが知られている(例えば特許文献1参照)。このような加圧式蒸気エージングによれば、大気下で行われるエージング処理に比べてスラグ中の遊離CaOの水和反応速度が向上して、例えば、JIS A5015“道路用鉄鋼スラグ”で規定される路盤材膨張抑制のための水浸膨張比1.5%以下までの処理時間を大幅に短縮することができる。
【0005】
一方、炭酸化処理としては、積み上げられたスラグの左右側面と上面の三方をビニールシートや鉄板等の囲繞材で囲むと共に前後の面を開閉可能な囲繞材で囲み、その底部のガス配管からCO
2含有ガスを供給してスラグの炭酸化処理を行う固定床式の炭酸化処理装置を用いるほか、炭酸化を促進させるために、例えば、内部に攪拌羽等を備えた回転ドラムにスラグを入れてCO
2含有ガスを供給し、スラグに機械攪拌を加えるロータリー式の処理装置を用いた方法が知られている(例えば特許文献2参照)。
【0006】
ちなみに、この炭酸化処理は、スラグ中の水可溶性Ca成分(CaOやCa(OH)
2)が水に溶解して生成するCa
2+イオンと、CO
2が水に溶解して生成するCO
32−イオンとが反応し、水に不溶性のCaCO
3を生成するという水可溶性Ca成分の炭酸化反応を利用するものであり、その際、水は水可溶性Ca成分を溶解する媒体として働く。
【0007】
ところで、上記で説明したように、スラグのエージング処理では、遊離CaOと水との反応によりCa(OH)
2を形成するのに対して、炭酸化処理では、エージング処理で生成したCa(OH)
2や残された遊離のCaOにCO
2を反応させて、不溶性のCaCO
3を形成するため、これらは異なる反応を利用した処理である。その際、仮に炭酸化処理を先に行うと、スラグ表面に形成された不溶性のCaCO
3がスラグ内部への水の浸入を阻害するため、エージング処理を十分に行うことができず、また、同時に行ったとしても、やはりエージング処理が不十分になってしまう。そのため、通常は、スラグのエージング処理を行った後に炭酸化処理が行われ、また、これらの反応速度を向上させるために、それぞれの処理に即した異なる装置が用いられる。そして、エージング処理が終わったスラグは、一旦ヤード等に仮置きされ、数ヶ月から半年程度保管された後に、ホイルローダー等の重機で炭酸化処理装置まで搬送して、炭酸化処理を行っているのが現状である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明者らは、エージングや炭酸化といったスラグの処理を効率よく行うための手段について鋭意検討した結果、上述した特許文献1に記載されるような加圧式蒸気エージングに用いる装置を一部改良することで、スラグからの高アルカリ水等の溶出を抑制する炭酸化反応の速度が向上して、しかも、炭酸化処理を効率よく行うことができるようになることを見出した。
そして、この改良した装置でスラグのエージング処理と炭酸化処理とを共用することで、スラグの膨張を防ぐ水和反応と高アルカリ水等の溶出を抑制する炭酸化反応とを共に効率よく行うことができ、ヤード等の仮置きから重機による搬送といったこれまでの処理で掛かる手間やコストを大幅に削減することができるようになることから、本発明を完成させた。
【0010】
したがって、本発明の目的は、スラグの炭酸化における反応速度を高めて、しかも効率よく炭酸化処理することができる処理装置を提供することにあり、また、スラグのエージングと炭酸化とを共用できる処理装置を提供することにある。
【0011】
更に、本発明の別の目的は、上記の処理装置を用いることで、従来に比べて効率よくスラグのエージングと炭酸化とを行って処理することができるスラグの処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)鉄鋼スラグが投入されるスラグ容器と、該スラグ容器を収容して密閉することができる圧力容器と、圧力容器内に加圧したCO
2含有ガスを供給するCO
2配管と、圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排気する排気配管とを備えて、前記CO
2配管と圧力容器との接続口であるCO
2供給口が、前記排気配管と圧力容器との接続口である排気口よりも鉛直方向の下側に位置しており、前記圧力容器内をCO
2含有ガス雰囲気に置換する際には、前記CO
2供給口から吹き込まれたCO
2含有ガスにより、圧力容器内の雰囲気ガスが前記排気口から排出されるようにしたことを特徴とする鉄鋼スラグの処理装置。
(2)鉄鋼スラグが投入されるスラグ容器と、該スラグ容器を収容して密閉することができる圧力容器と、圧力容器内に加圧した水蒸気を供給する水蒸気配管と、圧力容器内に加圧したCO
2含有ガスを供給するCO
2配管と、圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出する排気配管とを備えて、前記水蒸気配管と圧力容器との接続口である水蒸気供給口が、前記排気配管と圧力容器との接続口である排気口よりも鉛直方向の上側に位置すると共に、前記CO
2配管と圧力容器との接続口であるCO
2供給口が、前記排気配管と圧力容器との接続口である排気口よりも鉛直方向の下側に位置しており、圧力容器内を水蒸気雰囲気に置換する際には、前記水蒸気供給口から吹き込まれた水蒸気により、圧力容器内の雰囲気ガスが前記排気口から排出され、また、圧力容器内をCO
2含有ガス雰囲気に置換する際には、前記CO
2供給口から吹き込まれたCO
2含有ガスにより、圧力容器内の雰囲気ガスが前記排気口から排出されるようにした接続口位置関係を有することを特徴とする鉄鋼スラグの処理装置。
(3)前記圧力容器内を水蒸気雰囲気に置換する際に雰囲気ガスを排出する水蒸気排気配管と、前記圧力容器内をCO
2含有ガス雰囲気に置換する際に雰囲気ガスを排出するCO
2排気配管とを個別に備えて、これらの排気配管と圧力容器との接続口が、それぞれ前記接続口位置関係を満たす(2)に記載の鉄鋼スラグの処理装置。
(4)前記圧力容器内を水蒸気雰囲気に置換する際に雰囲気ガスを排出する排気配管と、前記圧力容器内をCO
2含有ガス雰囲気に置換する際に雰囲気ガスを排出する排気配管とが共用され、この排気配管と圧力容器との接続口が、前記接続口位置関係を満たす(2)に記載の鉄鋼スラグの処理装置。
(5)前記CO
2供給口から吹き込まれるCO
2含有ガスの流れを減速させる又は鉛直方向の下側に向けるガス速度調整手段を備える(1)に記載の鉄鋼スラグの処理装置。
(6)前記水蒸気供給口から吹き込まれる水蒸気の流れを減速させる又は鉛直方向の上側に向けるガス速度調整手段を備えると共に、前記CO
2供給口から吹き込まれるCO
2含有ガスの流れを減速させる又は鉛直方向の下側に向けるガス速度調整手段を備える(2)に記載の鉄鋼スラグの処理装置。
(7)圧力容器から外部に漏れ出すCO
2濃度を計測するCO
2濃度計を備える(1)又は(2)に記載の鉄鋼スラグの処理装置。
【0013】
(8)(2)に記載の処理装置を用いて鉄鋼スラグを処理する方法であって、
鉄鋼スラグが投入されたスラグ容器を収容した圧力容器内に水蒸気配管から加圧した水蒸気を供給すると共に排気配管から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出して水蒸気雰囲気に置換した上で、圧力容器内を0.1MPa以上2.0MPa以下の水蒸気雰囲気にして鉄鋼スラグの蒸気エージングを行うエージング工程と、
鉄鋼スラグが投入されたスラグ容器を収容した圧力容器内にCO
2配管から加圧したCO
2含有ガスを供給すると共に排気配管から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出してCO
2含有ガス雰囲気に置換した上で、圧力容器内を0.1MPa以上2.0MPa以下のCO
2含有ガス雰囲気にして鉄鋼スラグの炭酸化処理を行う炭酸化工程とを備えたことを特徴とする鉄鋼スラグの処理方法。
(9)前記エージング工程後にスラグ容器を圧力容器から一旦外部に取り出して、スラグ容器内の鉄鋼スラグを90℃以下の温度に冷却した上で、再びスラグ容器を圧力容器に収容して炭酸化工程を行う(8)に記載の鉄鋼スラグの処理方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明におけるスラグの処理装置によれば、スラグからの高アルカリ水等の溶出を抑制する炭酸化処理を効率よく行うことができ、しかも、炭酸化反応の速度を向上させることができる。また、本発明の処理装置によれば、スラグのエージングと炭酸化とを共用することができ、スラグの膨張を防ぐ水和反応と高アルカリ水等の溶出を抑制する炭酸化反応とを効率よく行え、ヤード等の仮置きから重機による搬送といったこれまでの処理で掛かる手間やコストを大幅に削減することができるようになる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明に係るスラグの処理装置について、先ず、第1の処理装置としては、スラグの炭酸化処理を行うものであって、鉄鋼スラグが投入されるスラグ容器と、該スラグ容器を収容して密閉することができる圧力容器とを備えて、スラグの炭酸化処理の際には、CO
2配管から圧力容器内に加圧したCO
2含有ガスが供給されて、スラグ中のCa(OH)
2やエージング処理で残った遊離のCaO(これらをまとめて水可溶性Ca成分と言う)を加圧状態で炭酸化反応させることができる。
【0017】
詳しくは、
図1に示した例のように、開閉蓋2aを有して内部にスラグ容器1を収容して密閉することができる円筒状の圧力容器2には、加圧したCO
2含有ガスが供給されるCO
2配管5と、圧力容器内の雰囲気ガスが外部に排出される排気配管(CO
2排気配管)8とが備え付けられており、また、これらの給排気配管はそれぞれバルブ9を備える。
【0018】
ここで、スラグの炭酸化処理を行う場合には、予め、CO
2配管5のバルブとCO
2排気配管8のバルブとを開放して、CO
2配管5から加圧したCO
2含有ガスを供給すると共にCO
2排気配管8から圧力容器2内の雰囲気ガスを外部に排出して圧力容器2内をCO
2含有ガス雰囲気に置換した上で、所定の圧力のCO
2含有ガス雰囲気下でスラグの炭酸化処理を行う。その際、CO
2配管5と圧力容器2との接続口であるCO
2供給口は、CO
2排気配管8と圧力容器2との接続口であるCO
2排気口よりも鉛直方向の下側に位置して、空気より重いCO
2(CO
2の分子量は44)が圧力容器2内の下方から徐々に充満して、圧力容器2内の雰囲気ガス(空気)が鉛直方向の上側に位置するCO
2排気口より排出されるようにする。仮に、CO
2供給口とCO
2排気口との位置関係が、上記とは逆であると、圧力容器内に供給されたCO
2含有ガスはCO
2排気口から排出される方が支配的となり、圧力容器内をCO
2含有ガスで満たすのが困難になる。特にCO
2の場合は、系外に放出される量が多くなることは環境面や健康面で望ましくない。
【0019】
また、本発明に係る第2の処理装置としては、スラグのエージングと炭酸化とで共用するものであり、鉄鋼スラグが投入されるスラグ容器と、該スラグ容器を収容して密閉することができる圧力容器とを備えると共に、エージング処理の際には水蒸気配管から圧力容器内に加圧した水蒸気が供給されて、スラグ中の遊離CaOを水和反応させ、また、炭酸化処理の際にはCO
2配管から圧力容器内に加圧したCO
2含有ガスが供給されて、スラグ中の水可溶性Ca成分を炭酸化反応させる。このように、エージング処理における遊離CaOの水和反応と、炭酸化処理における水可溶性Ca成分の炭酸化反応とを、いずれも加圧状態で行うことで、それぞれの反応速度が向上する。
【0020】
詳しくは、
図2に示した例のとおり、第1の処理装置として説明したものに加えて、第2の処理装置では、更に、加圧した水蒸気が供給される水蒸気配管4と、圧力容器2内の雰囲気ガスが外部に排出される排気配管(水蒸気排気配管)7とを備えており、これらの給排気配管はそれぞれバルブ9を有する。
【0021】
先ず、この第2の処理装置によりスラグのエージング処理を行う場合には、水蒸気配管4のバルブと水蒸気排気配管7のバルブとを開放して、水蒸気配管4から加圧した水蒸気を供給すると共に水蒸気排気配管7から圧力容器2内の雰囲気ガスを外部に排出して圧力容器2内を水蒸気雰囲気に置換した上で、所定の圧力の水蒸気雰囲気下でスラグの蒸気エージングを行う。その際、水蒸気配管4と圧力容器2との接続口である水蒸気供給口は、水蒸気排気配管7と圧力容器2との接続口である水蒸気排気口よりも鉛直方向の上側に位置しており、空気より軽い水蒸気(H
2Oの分子量は18)が圧力容器2内の上方から徐々に充満して、圧力容器2内の雰囲気ガス(空気)が鉛直方向の下側に位置する水蒸気排気口より排気されるようにする。また、スラグの炭酸化処理を行う場合には、第1の処理装置と同様にして圧力容器2内をCO
2含有ガス雰囲気に置換した上で、所定の圧力のCO
2含有ガス雰囲気下でスラグの炭酸化処理を行う。このような圧力容器に対する給排気配管の接続口位置関係を有することで、それぞれの処理における圧力容器内の雰囲気ガスの置換を効率よく行うことができる。
【0022】
第2の処理装置では、例えば
図3に示したように、エージング処理で圧力容器2内を水蒸気雰囲気に置換する際に雰囲気ガスを排出する排気配管6と、炭酸化処理で圧力容器2内をCO
2含有ガス雰囲気に置換する際に雰囲気ガスを排出する排気配管6とを共通にして、それぞれの処理で使用するようにしてもよい。すなわち、この場合には、水蒸気配管4と圧力容器2との接続口である水蒸気供給口4aが、排気配管6と圧力容器2との接続口である排気口6aよりも鉛直方向の上側に位置し、また、CO
2配管5と圧力容器2との接続口であるCO
2供給口5aが、排気配管6の排気口6aよりも鉛直方向の下側に位置するようにすればよい。
【0023】
それぞれの処理における圧力容器内の雰囲気ガスの置換効率をより高めるためには、好ましくは、例えば
図4に示したように、排気配管6として、水蒸気雰囲気に置換する際に用いる水蒸気排気配管7とCO
2含有ガス雰囲気に置換する際に用いるCO
2排気配管8とを個別に備えるようにするのがよい。その際、例えば地面に横向きに据え置いた円筒状の圧力容器2の頂上部付近に水蒸気配管4の水蒸気供給口4aを設けると共に底面部付近に水蒸気排気配管7の排気口7aを設け、同様に、圧力容器2の底面部付近にCO
2配管5のCO
2供給口5aを設けると共に頂上部付近にCO
2排気配管8の排気口8aを設けるなどして、それぞれの給排気配管の接続口の距離をできるだけ離して、上記で説明したような接続口位置関係を満たすようにするのが望ましい。
【0024】
また、本発明に係る処理装置では、第1及び第2の処理装置において、CO
2供給口から圧力容器内に吹き込まれるCO
2含有ガスの流れを減速させる、又はこのCO
2含有ガスの流れを鉛直方向の下側に向けるガス速度調整手段を備えるようにしたり、水蒸気供給口から圧力容器内に吹き込まれる水蒸気の流れを減速させる、又はこの水蒸気の流れを鉛直方向の上側に向けるガス速度調整手段を備えるようにしてもよい。すなわち、CO
2供給口や水蒸気供給口から吹出される加圧したガスの流速を抑えたり、向きを変えるなどして調整することで、圧力容器内をそれぞれの雰囲気に置換する際の置換効率をより確保しやすくすることができる。このようなガス速度調整手段については特に制限はないが、例えば、
図3中に示したように、CO
2供給口5aからの吹き出し方向に設けてCO
2含有ガスの流れを下側に向ける調整板14や、水蒸気供給口4aからの吹き出し方向に設けて水蒸気の流れを上側に向ける調整板14のほか、これらの調整板をハニカム構造等からなる多孔体で形成して、それぞれのガスの速度を減速させたり、或いは、
図4中で示したように、これらの供給口を配管の径より大きくすることで、配管内でのガス流速に比べて圧力容器内でのガスの流速を抑えることができる。
【0025】
また、本発明における第1の処理装置には、圧力容器2に圧力計11を設けて圧力容器2内の圧力を計測したり、CO
2配管5に積算流量計12を設けて圧力容器2内に供給されるCO
2含有ガスの総流量を計測するようにしてもよい。エージング処理の場合、スラグの持ち込み熱や圧力容器からの放熱等の影響でドレンが発生するため、正確な管理が行えないが、炭酸化処理ではドレンが発生することがないため、圧力容器内の圧力や加圧した水蒸気の総供給量に基づいて、炭酸化反応の状況を予測することが可能である。そのため、圧力計や積算流量計を設けることで、炭酸化処理の終点を管理するようにしてもよい。更には、圧力容器2にCO
2濃度計13を取り付けて、圧力容器2から外部に漏れ出たり、スラグの炭酸化処理後に開閉蓋2aを開けてスラグ容器1を取り出す際のCO
2濃度を計測するようにしてもよい。
【0026】
一方、第2の処理装置については、第1の処理装置と同様に、圧力計11、積算流量計12、及びCO
2濃度計13のほか、更に、圧力容器2にドレン配管10を設けて、エージング処理で発生したドレンを外部に排出するようにしてもよい。
【0027】
また、本発明に係るスラグの処理装置におけるスラグ容器1は、第1及び第2の処理装置ともに、処理対象のスラグが投入されて、非密閉状態で圧力容器2内に収容されるものであれば特に制限はなく、公知のものを用いることができる。その際、例えば、スラグ容器1内のスラグに水蒸気やCO
2含有ガスが通風可能なように、スラグ容器の側面には通風孔やスリットを設けるようにしてもよい。また、このスラグ容器1は、スラグ容器搬入搬出装置3を使って圧力容器2内に収容されるようにしてもよい。更には、上記のような接続口位置関係を有するようにして、スラグ容器1の内部に水蒸気配管やCO
2配管を配置して、スラグ容器内のスラグに加圧した水蒸気やCO
2含有ガスを直接供給するようにしてもよい。
【0028】
本発明において、上記のような第2の処理装置でスラグのエージングを行うには、先ず、スラグが投入されたスラグ容器を圧力容器に収容し、水蒸気配管と排気配管のバルブを開けて、水蒸気配管から加圧した水蒸気を供給すると共に排気配管から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出して、圧力容器内を水蒸気雰囲気に置換する。その際、好ましくは、圧力容器内が大気圧下で水蒸気濃度が80vol%以上になるようにするのがよい。次いで、排気配管のバルブを閉めて、圧力容器内を0.1MPa以上2.0MPa以下、好ましくは0.4MPa以上2.0MPa以下の水蒸気雰囲気にして、スラグの蒸気エージングを行うことができる(エージング工程)。
【0029】
また、上記のような第1又は第2の処理装置を用いてスラグの炭酸化処理を行うには、先ず、スラグが投入されたスラグ容器を圧力容器に収容し、CO
2配管と排気配管のバルブを開けて、CO
2配管から加圧したCO
2含有ガスを供給すると共に排気配管から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出して、圧力容器内をCO
2含有ガス雰囲気に置換する。その際、好ましくは、圧力容器内が大気圧下でCO
2濃度が80vol%以上になるようにするのがよい。次いで、排気配管のバルブを閉めて、圧力容器内を0.1MPa以上2.0MPa以下、好ましくは0.4MPa以上2.0MPa以下のCO
2含有ガス雰囲気にして、スラグの炭酸化を行うことができる(炭酸化工程)。ここで、炭酸化処理に用いるCO
2含有ガスについては、二酸化炭素(CO
2)を含有したものであればよく、工業用の炭酸ガスをはじめ、排ガスのようなCO
2濃度が数%程度のものを用いるようにしてもよい。
【0030】
第2の処理装置を用いてスラグのエージングと炭酸化とを行う場合には、エージング終了後に圧力容器内を大気圧に開放した上で、圧力容器の開閉蓋を開けるなどしてスラグ容器を一旦外部に取り出す。その際、エージング処理での加圧した水蒸気の供給により、スラグ容器内のスラグは100℃程度まで昇温している場合もあることから、スラグ容器内のスラグを90℃以下の温度に冷却した後、再びスラグ容器を圧力容器に収容して炭酸化工程を行うようにするのがよい。
【0031】
また、本発明で処理対象とする鉄鋼スラグとしては、製鉄所での製鉄過程や精錬過程において発生する高炉スラグや製鋼スラグ等を挙げることができる。なかでも、靭性・加工性のある鋼にする製鋼工程で生じる製鋼スラグは石灰分を主体としたものであり、遊離のCaOを多く含むことから、本発明に係る処理装置で処理するのに比較的適している。
【実施例】
【0032】
以下、試験例等に基づいて、本発明を具体的に説明する。なお、本発明は下記の内容に制限されるものではない。
【0033】
〔試験例1〕
第1及び第2の処理装置を用いてスラグを炭酸化処理するにあたり、圧力容器内をCO
2含有ガス雰囲気に置換する上での置換効率を確認するCO
2置換試験を行った。この試験では、
図5に示したような、直径80cm×長さ120cmの円筒状の試験用圧力容器(容量530L)を用意し、長さ方向の一端面の中心(地面に横向きに据え置いた圧力容器の底面側から高さ約40cmの位置)に、加圧したCO
2含有ガスを供給するためのCO
2配管(内径25mm)が接続したCO
2供給口を設けた。また、この一端面から約75cm離れた位置であって圧力容器の頂上部には、排気配管(内径25mm)が接続した排気口Aを設けると共に、底面部にも同じく排気配管(内径25mm)が接続した排気口Bを設けて、試験用圧力容器とした。
【0034】
そして、大気圧下におかれたこの試験用圧力容器を用いて、以下の試験条件1〜5により試験用圧力容器内をCO
2含有ガス雰囲気に置換しながら、排気口から排出されるガスのCO
2濃度を測定した。
すなわち、CO
2供給口から試験用圧力容器内にCO
2含有ガスを吹き込むと共に、試験用圧力容器内の雰囲気ガスを排気口Aから排出する場合(試験条件1)、CO
2供給口から試験用圧力容器内にCO
2含有ガスを吹き込むと共に、試験用圧力容器内の雰囲気ガスを排気口Bから排出する場合(試験条件2)のほか、ガス速度調整手段として、
図6(a)に示したように、CO
2供給口にハニカム構造を有した多孔体を取り付けて、CO
2配管内での流速に比べて減速したCO
2含有ガスが吹き込まれるようにした以外は試験条件1と同様とした場合(試験条件3)、
図6(b)に示したように、CO
2含有ガスの吹き出し方向に傾斜板(調整板)を取り付けて、圧力容器内の鉛直方向下側に向けてCO
2含有ガスが流れるようにした以外は試験条件1と同様とした場合(試験条件4)、及び、
図6(c)に示したように、CO
2供給口の吹き出し口をCO
2配管の径より大きくして、CO
2配管内での流速に比べて減速したCO
2含有ガスが吹き込まれるようにした以外は試験条件1と同様とした場合(試験条件5)である。なお、試験条件1〜5の内容を表1にまとめて示した。
【0035】
【表1】
【0036】
これらの各試験条件において、圧力容器内にCO
2配管から30L/minの流量でCO
2ガス(濃度100vol%)を供給しながら、排気口(A又はB)から排出されたガスのCO
2濃度を測定し、圧力容器内へのCO
2ガスの供給時間と排気口から排出されるガスのCO
2濃度との関係を調べた。結果は表2及び
図7に示したとおりであり、CO
2ガスの供給開始から10分までは、CO
2供給口よりも鉛直方向下側にある排気口Bから排出されるガス(試験条件2)の方が、CO
2供給口よりも鉛直方向上側にある排気口Aから排出されるガス(試験条件1、3〜5)に比べてCO
2濃度が高いが、CO
2ガスの供給開始から15分経過した以降ではこの関係が逆転する。
【0037】
【表2】
【0038】
すなわち、試験条件2において初期のCO
2濃度が高いのは、圧力容器内に供給されたCO
2ガスの一部がそのまま排気口Bから流れ出たものであり、また、CO
2ガスの供給開始から時間が経っても排気口Aを使用した他の試験条件に比べてCO
2濃度が高くならないのは、圧力容器内の上側に残った空気により容器内がなかなかCO
2ガスで置換できなかったためと考えられる。これに対して、試験条件1、3〜5では、初期のCO
2濃度が低いのは容器内の空気が排出されたためであり、試験条件3や5ではCO
2ガスの供給開始から15分で、残りの試験条件1や4でも開始から20分で排気口Aから排出されたガスのCO
2濃度が80vol%に達し、それ以降の排出ガスのCO
2濃度がほぼ飽和することから、これらのタイミングで容器内が濃度80vol%以上のCO
2ガスで置換されたと考えられる。
【0039】
また、表3には、排気口から排出されたガスのCO
2濃度が80vol%に達するまでに圧力容器内に供給されたCO
2ガス供給量(L)と排気口から排出されたCO
2排出量(L)とを示している。この場合には、排出口Aを使用すれば、排出口Bに比べて1/2以下のCO
2ガス供給量で済むことが分かり、また、CO
2排気量も1/5から1/30程度まで削減できることが分かる。
【0040】
【表3】
【0041】
〔実施例1〕
試験用のスラグ処理装置を用いて、下記表4に示した組成を有するスラグAのエージング処理と炭酸化処理とを行った。ここで、スラグAは、銑鉄を脱リン処理と脱炭処理とに分けて精錬する精錬工程において脱リン処理で排出されたスラグであり、粒度範囲0−35mmに粒度調整されたものである。また、この試験用スラグ処理装置は、
図2に示したような第2の処理装置を構成しており、縦40cm×横80cm×高さ25cmであってスラグAが投入されるスラグ容器1と、このスラグ容器1を収容して密閉することができる直径80cm×長さ120cmの円筒状の圧力容器2(容量530L)とを備えると共に、地面に横向きに据え置いた圧力容器2の頂上部側には水蒸気配管4とCO
2排気配管8とが接続され、圧力容器2の底面部側にはCO
2配管5と水蒸気排気配管7とが接続されて、これらの接続口は本発明に係る接続口位置関係を有している。
【0042】
【表4】
【0043】
先ず、上記のスラグ容器1にスラグAを100kg入れ、圧力容器2にスラグ容器1ごと収容して開閉蓋2aを閉じた。そして、この圧力容器内に水蒸気配管4から加圧した水蒸気を供給すると共に水蒸気排気配管7から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出して、圧力容器2内が大気圧下で水蒸気濃度が90vol%になるまで置換した。次いで、水蒸気排気配管7のバルブ9を閉めて、圧力容器2内が水蒸気により圧力0.5MPaGで維持されるようにして、スラグAの蒸気エージングを5時間行った。ここまでの処理時間は、スラグAが投入されたスラグ容器1を圧力容器2に入れて蓋をしてからエージング終了までおよそ5.5時間であった。また、このエージング終了後のスラグAについて、JIS A5015“道路用鉄鋼スラグ”で規定される水浸膨張比を測定したところ1.2%であった。
【0044】
エージング終了後、圧力容器2内を大気圧に開放した上で、圧力容器2の開閉蓋2aを開けてスラグ容器1を一旦外に取り出し、1時間程度外気に晒してスラグ容器1内の全てのスラグAの温度が80℃以下に低下したところで、再びスラグ容器1ごと圧力容器2に収容して開閉蓋2aを閉じた。このとき、スラグAが投入されたスラグ容器1を圧力容器2に入れて蓋をするまでに要した時間はおよそ5分である。
【0045】
そして、この圧力容器内にCO
2配管5から加圧したCO
2ガス(濃度100vol%)を供給すると共にCO
2排気配管8から圧力容器内の雰囲気ガスを外部に排出して、圧力容器2内が大気圧下でCO
2濃度が80vol%になるまで置換した。このガス置換に要した時間はおよそ20分である。次いで、CO
2排気配管8のバルブ9を閉めて、圧力容器2内がCO
2ガスにより圧力0.02MPaGで維持されるようにして、60分間スラグAを炭酸化反応させた。炭酸化終了後、圧力容器2内を大気圧に開放した上で、圧力容器2の開閉蓋2aを開けてスラグ容器1を取り出して処理を終了した。なお、スラグ容器1を外部に取り出すのに要した時間はおよそ5分であり、この取り出し時間を含めると、表5に示したとおり、スラグAが投入されたスラグ容器1を圧力容器2に入れて蓋をしてから炭酸化を終了させるまでに要した合計時間はおよそ90分であった。
【0046】
【表5】
【0047】
炭酸化終了後のスラグAについて、水中に入れて炭酸化処理後のスラグAから溶出されるスラグ溶出水のpHを測定した。このpH測定にあたっては、JIS K0058-1を参考にして、スラグ40g(S)と純水1リットル(L)とを混合し(液固比:L/S=25)、150rpmの回転速度で溶液部分を攪拌しながら24時間静置した後、ガラス電極式pH計を用いて測定した。その結果、実施例1で得られた炭酸化終了後のスラグAのスラグ溶出水のpHはpH=10.4まで低下していた。また、後述する実施例2及び3と比較するために、炭酸化反応の時間を30分にした以外は上記実施例1と同様にした場合と、同じく炭酸化反応の時間を90分にした以外は上記実施例1と同様にした場合とについて、それぞれ取り出したスラグAのスラグ溶出水のpHを測定した。結果は
図8に示したとおりである。
【0048】
〔実施例2〕
実施例1と同様にしてエージング処理したスラグAについて、炭酸化処理での圧力容器内の圧力を0.50MPaGにし、炭酸化反応時間を30分にした以外は実施例1と同様にして炭酸化処理を行った。このとき、炭酸化処理のためにスラグAが投入されたスラグ容器1を圧力容器2に入れて蓋をするまでに要した時間は5分であり、また、圧力容器内をCO
2ガスで置換するのに20分、圧力容器内の圧力を0.50MPaGに昇圧するのに3分、炭酸化反応に30分、及びスラグ容器1を外部に排出するのに5分を要し、炭酸化処理に要した合計時間は63分であった。
【0049】
上記で得られた炭酸化終了後のスラグAについて、実施例1と同様にスラグ溶出水のpHを測定したところ、pH=10.2まで低下していた。また、この実施例2において炭酸化反応の時間を15分、60分、及び90分にした以外は上記実施例2と同様にした場合について、それぞれ取り出したスラグAのスラグ溶出水のpHを測定したところ結果は
図8に示したとおりであった。
【0050】
〔実施例3〕
実施例1と同様にしてエージング処理したスラグAについて、炭酸化処理での圧力容器内の圧力を0.95MPaGにし、炭酸化反応時間を15分にした以外は実施例1と同様にして炭酸化処理を行った。このとき、炭酸化処理のためにスラグAが投入されたスラグ容器1を圧力容器2に入れて蓋をするまでに要した時間は5分であり、また、圧力容器内をCO
2ガスで置換するのに20分、圧力容器内の圧力を0.95MPaGに昇圧するのに3分、炭酸化反応に30分、及びスラグ容器1を外部に排出するのに7分を要し、炭酸化処理に要した合計時間は52分であった。
【0051】
上記で得られた炭酸化終了後のスラグAについて、実施例1と同様にスラグ溶出水のpHを測定したところ、pH=10.3まで低下していた。また、この実施例3において炭酸化反応の時間を30分、及び60分にした以外は上記実施例3と同様にした場合について、それぞれ取り出したスラグAのスラグ溶出水のpHを測定した。結果は、
図8に示したとおりであった。
【0052】
これらの結果から分かるように、本発明に係るスラグ処理装置を用いれば、スラグの積み替え作業や重機の使用等を要せずに、スラグのエージング処理から炭酸化処理まで効率よく行うことができる。特に、炭酸化処理については、例えば、海域利用や土工利用用途での白濁水溶出リスクの心配のないスラグ溶出水のpH(pH=10.5以下)までいずれも60分以内の炭酸化反応時間で達成している。なかでも、炭酸化処理の圧力条件を0.50MPaGとした場合(実施例2)や0.95MPaGとした場合(実施例3)には、圧力条件が0.02MPaGの実施例1に比べてより短時間でスラグ溶出水のpHを低下させることができる。しかも、これら実施例2、3では、スラグ溶出水のpHを炭酸化処理の理論値近傍まで(炭酸カルシウム(CaCO
3)の溶解平衡がおよそpH=10)低下させることが可能である。