(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-153582(P2017-153582A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】歯科用光照射装置
(51)【国際特許分類】
A61C 19/06 20060101AFI20170810BHJP
【FI】
A61C19/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-37890(P2016-37890)
(22)【出願日】2016年2月29日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、経済産業省、医工連携事業化推進事業「歯科細菌感染症を安全かつ効果的に治療可能な光殺菌装置の開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】504338656
【氏名又は名称】株式会社アイキャット
(74)【代理人】
【識別番号】100115200
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 修之
(72)【発明者】
【氏名】野村 誠次
(72)【発明者】
【氏名】十河 基文
(72)【発明者】
【氏名】西願 雅也
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA20
4C052CC01
4C052EE02
(57)【要約】
【課題】本発明は、歯牙の根管や歯周ポケット等のような狭隘な箇所に挿入可能で、且つLED光源からの照射光を効率的に集光して照射することができる歯科用光照射装置を提供する。
【解決手段】本歯科用光照射装置は、 口腔内の狭隘な箇所に挿入可能な細長形状の先端チップと、前記先端チップを遠位側端部に取り付けたハンドピース本体と、前記ハンドピース本体の遠位側内部に取付けられたLED光源と、前記LED光源からの照射光を受光して前記先端チップまで導光するレンズ体とを備え、前記レンズ体は、前記LED光源からの照射光の受光面が非球面で形成され、前記先端チップは先細りするテーパ形状の導光部分と、前記導光部分で導光された光を発光させるように導光部分の先端で一体に形成される照射部分とを有する。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
口腔内の狭隘な箇所に挿入可能な細長形状の先端チップと、
前記先端チップを遠位側端部に取り付けたハンドピース本体と、
前記ハンドピース本体の遠位側内部に取付けられたLED光源と、
前記LED光源からの照射光を受光して前記先端チップまで導光するレンズ体とを備え、
前記レンズ体は、前記LED光源からの照射光の受光面が非球面で形成され、
前記先端チップは先細りするテーパ形状の導光部分と、前記導光部分で導光された光を発光させる照射部分とを有する、ことを特徴とする歯科用光照射装置。
【請求項2】
前記レンズ体の照射面は、非球面で形成される、ことを特徴とする請求項1に記載の歯科用光照射装置。
【請求項3】
口腔内の狭隘な箇所に挿入可能な細長形状の先端チップと、
前記先端チップを遠位側端部に取り付けたハンドピース本体と、
前記ハンドピース本体の遠位側内部に取付けられたLED光源と、
前記LED光源からの照射光を受光して前記先端チップまで導光するレンズ体とを備え、
前記レンズ体は、前記LED光源からの照射光の受光面が平面で、照射面が非球面で形成され、
前記先端チップは先細りするテーパ形状の導光部分と、前記導光部分で導光された光を発光させる照射部分とを有する、ことを特徴とする歯科用光照射装置。
【請求項4】
前記先端チップのレンズ体側の受光面は、非球面で形成される、ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の歯科用光照射装置。
【請求項5】
前記先端チップの導光部分のテーパ形状の角度は、その内面で略全反射するように鋭角である、ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の歯科用光照射装置。
【請求項6】
前記レンズ体の受光面は、前記LED光源からの照射光の光束の所定割合以上が含まれる照射角度範囲内に位置決めされる、ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の歯科用照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯科における光殺菌治療等に使用する光照射装置、とりわけLEDを光源とするハンドピースの先端で口腔内の狭隘な箇所に効率よく所望の強度で光照射し得る先端チップ等の構成を有する歯科用光照射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯牙の根管や歯周ポケット等のように狭隘な部位を光照射することは、かかる部位の診療に極めて有効である。このように歯牙の狭隘な部位にまで光照射し得るようにした先行技術としては、特許文献1〜4に開示された技術を挙げることができる。特許文献1〜4には、歯牙の根管や歯周ポケット等のように狭隘な部位を光照射するという技術思想が開示されている。
【0003】
しかしながら、これらは共通して、光源からの光をライトガイド或いはこれに相当するもの(集光部材等も含む)を介して導光して目的部位に照射するよう構成されており、ライトガイド等を介して導光する場合は、光の照射ムラや光量の減衰が生じることは不可避であり、照射端において充分な光量を得るには、容量の大きな光源を用いる必要があり、これに伴い光源及び付随する関連機器が大型化され、あるいは消費電力が大きなものとなる。特に歯科用の光照射器においては、光源やその関連機器は、ハンドピースタイプのグリップ部等に内蔵され、その為グリップ部等も自ずと大型化され、その取扱適性を低下させる要因となっていた。
【0004】
このような問題を解決するものとして特許文献4では、歯牙の根管や歯周ポケット等のように狭隘な部位に挿入可能な細長部材7の先端部に光源を取付け、診療部位を直接照射する構成のハンドピースタイプの光照射装置が提供されているが、この装置においては光源を先端に設けるために先端を尖った形状にすることができず、逆に先端をより細くするとLEDのごとき強度の弱い光源では照射強度が不足するという問題が発生する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2003−525072号公報
【特許文献2】特開2003−310641号公報
【特許文献3】特開2004−321422号公報
【特許文献4】特開2011−135973号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、本発明は、上記課題を解決すべく創作されたものであり、歯牙の根管や歯周ポケット等のような狭隘な箇所に挿入可能で、且つLED光源からの照射光を効率的に集光して照射することができる歯科用光照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の歯科用光照射装置は、
口腔内の狭隘な箇所に挿入可能な細長形状の先端チップ(例えば本実施形態におけるチップ15)と、
前記先端チップを遠位側端部に取り付けたハンドピース本体(例えば本実施形態における本体12、ヘッド13)と、
前記ハンドピース本体の遠位側内部に取付けられたLED光源(例えば本実施形態におけるLED光源16)と、
前記LED光源からの照射光を受光して前記先端チップまで導光するレンズ体と(例えば本実施形態におけるレンズ体17)を備え、
前記レンズ体は、前記LED光源からの照射光の受光面が非球面で形成され、
前記先端チップは先細りするテーパ形状の導光部分(例えば本実施形態におけるテーパ部15a)と、前記導光部分で導光された光を発光させる照射部分(例えば本実施形態における細長部15b)とを有する、ことを特徴とする。
【0008】
本発明の歯科用光照射装置は光殺菌治療等に使用するときに、歯牙の根管や歯周ポケット等のように狭隘な部位にLEDを光源とする先端チップを挿入して光照射する。この歯科用光照射装置によれば、ハンドピースの遠位側の端部にLED光源が用いられているため光源からの導光路が先端チップに近く、照射光の減衰、強度低下が小さい。その一方、先端チップ内に光源を配設していないので、先端チップの小型化、細長化ができ、より狭隘な部位にも挿入・光照射可能である。なお、先端チップとレンズ体とは、それぞれ別個の部材と形成されても、両者一体に成型されても良い。
【0009】
また、本歯科用光照射装置によれば、LED光源からの照射光を受光するレンズ体の端面が非球面(本明細書で非球面と称するときは非球面に平面を含まない)で構成されているためレンズ体内でLED光源からの光の主ビームを平行光に変えて導光することができる。したがって、LED光源からの光を最大限効率よく先端チップで発光させることができる。
【0010】
前記レンズ体の照射面も非球面で形成されても良い。
【0011】
レンズ体の内部は概ね平行光で導光されるが、先端チップへの照射面も非球面にすると中心軸に向かって先端チップ内で集光し、先端チップ内での反射による導光に依存しなくても又は反射回数を減じて照射部分まで導光することができる。とりわけ歯牙の根管や歯周ポケット等の特に狭隘な部位に照射部分を挿入するような極細の先端チップであり、導光部分のテーパ角度をあまり大きな鋭角とすることができないような場合にも良好である。
【0012】
また、本発明の歯科用光照射装置における、
前記レンズ体は、前記LED光源からの照射光の受光面が平面で、照射面が非球面で形成されても良い。
【0013】
上述してきた本歯科用光照射装置では、レンズ体の受光面を非球面にしていたが、レンズ体の受光面を平面にしても照射面側を非球面にすれば同様である。
【0014】
また、前記先端チップの導光部分のテーパ形状の角度は、その内面で略全反射するように鋭角である、ことが好ましい。
【0015】
この構成によればレンズ体から受光する先端チップの導光部分のテーパ角度を鋭角にし、導光部分の内部で概ね全反射するように構成している。このような構成を採用すると先端チップの内面(内壁)に全反射角よりも光があたると外部に透過せず全反射する性質を有する。また、反射回数が多いほど光路が長くなり光の減衰が増加するので効率には不利となる。したがって、反射回数が少ないほど導光効率が高い。したがって、本発明では、レンズ体から受光した平行光を鋭角のテーパ角度(先細り)の導光部分として内部で概ね全反射し、反射回数(理想的には高々2回程度)も減らすように形成している。
【0016】
また、前記レンズ体の受光面は、前記LED光源からの照射光の光束の所定割合以上が含まれる照射角度範囲内に位置決めされる、ことが好ましい。
【0017】
LED光源からの照射光は、拡散するが実際にはそれぞれ所定の照射角度の範囲に大部分の光束が含まれる。したがって、高強度の照射光を得るには反射板や別途の導光路を設けるよりも有効強度の光をLED光源から直接レンズ体の受光面に照射することが好ましいとわかった。したがって、本歯科用光照射装置では、受光面が有効な照射角度範囲内に位置するように構成している。
【0018】
さらに、前記先端チップのレンズ体側の受光面は、非球面で形成される場合も考えられる。
【0019】
先の例では、レンズ本体の照射面側を非球面で形成し、先端チップの導光部分内で集光していたが、この例では、先端チップの受光面側の形状を非球面することで同様の効果を企図している。
【発明の効果】
【0020】
本発明の歯科用光照射装置によれば、LED光源を使用する充電式等のハンドピースでありながら、歯牙の根管や歯周ポケット等のような狭隘な箇所に挿入可能な形状とすることができ、同時にLED光源からの照射光の強度を低減させずに効率的に集光して照射することができる。例えば、本歯科用光照射装置を光殺菌治療等に用いた場合、迅速かつ効果的な光殺菌をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態としての歯科用光照射装置1の全体構成を示す斜視図である。
【
図2】(a)に
図1のハンドピースの平面図、(b)に正面図が示されている。
【
図3】LED光源、レンズ体、チップを模式化した図が示されている。
【
図4】(a)にLED光源の模式平面図が示され、(b)にその発光の指向分布の結果を示している。
【
図5】(a)はLED光源からレンズ体へ入射する光線のシミュレーションについて示す模式図であり、(b)はシミュレーション結果を評価するときにLED光源の発光部分についての選択の様子を示す略図である。
【
図6】実際に、(a)に示す3種類形状のレンズ体について、
図5の光線シミュレーション結果を比較し、評価したグラフ図が(b)、(c)に示されている。
【
図7】光導光が高効率であるレンズ体とチップと組み合わせの例であり、(a)は、LED光源側の上部が非球面状で下部が平面状、(b)は、LED光源側の上部が非球面状でチップ側の下部も非球面、(c)は、LED光源側の上部が非球面状でチップの上部が非球面である。
【
図8】
図7の変形例であり、(a)は、LED光源側の上部が平面状で下部が非球面状、(b)は、LED光源側の上部が平面状で下部が非球面状、チップの上部も非球面である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
図1は本発明の光照射用装置10を含む概ね筒状のハンドピース全体の斜視図、
図2は該ハンドピースの平面図(
図2(a))、正面図(
図2(b))が示されている。
図1は、本発明の一実施形態としての歯科用光照射装置10の全体構成を示す斜視図である。
図1に示す歯科用光照射装置10は、主に歯牙の根管や歯周ポケット内を照射し得るコードレスのハンドピースタイプに構成されたものである。本歯科用光照射装置10は、術者が歯科診療する際に手に持つ部分であるグリップ形状の本体12と、本体12の先側部に着脱自在に装着されたヘッド13とより構成される。本体12にはLED光源12への給電用の充電バッテリーが配設される。LED光源12はヘッド13内に配設されるため
図1〜
図2では図示しないが、その概位置が
図2において点16で示されている(以下、LED光源12とも表記する)。
【0023】
さらに、ヘッド13は、ヘッド基部13aと、ヘッド基部13aの先端に装着されたヘッド先端部13bとよりなり、ヘッド先端部13bにはチップ15が着脱自在に取り付けられる。ヘッド12の表面には、照射時間や照明強度、設定された照射時間や残り照射時間、電池の残量等を表示する操作・表示部14が設けられている。ヘッド基部13aの内部には操作・表示部14からの操作および本体12内のバッテリーからの給電を受けてLED光源16の光照射の開始・停止等を制御する電気制御部(図示せず)が配設されている。
【0024】
また、ヘッド先端部13bは、本体12及びヘッド基部13aの軸線に対して所定の傾斜角(
図2の例ではθ=25°)で上方に傾斜している。ヘッド先端部13bには、内部のLED光源16からの照射光をチップ15まで導光するレンズ体17が装着されている。チップ15はこのレンズ体17に直接取り付けられることによってヘッド先端部13bに取り付けられることとなる。このような構成でチップ15は光照射する。
【0025】
術者は、上記構成のハンドピース10の本体12を把持し、ヘッド先端部13bを口腔内に入れ、歯牙の根管や歯周ポケット等にチップ15の先端を挿入し、光照射することで光殺菌治療等を行うことができる。以下、光照射部分となるチップ15、チップ15に給光するLED光源16、LED光源16からチップ15まで導光するレンズ体17、の構成および導光について以下に例示説明する。
【0026】
図3には、LED光源16、レンズ体17、チップ15を模式化した図が示されている。本発明の歯科用光照射装置では、LED光源16の発光パワーをいかに効率よくチップ15まで導光するかが検討された。具体的には、条件(1)LED光源16のパワーを高効率でレンズ体17に捕捉させる、条件(2)捕捉したレンズ体17への入射光を下部(チップ側)に高効率で導光する、条件(3)レンズ体17からチップ15への入射光を高効率かつ無方向に散光させる、構成を検討した。
【0027】
なお、本検証では、受光、導光要素となるレンズ体17およびチップ15として、下記のポリカーボネートを使用した。
密度:1.20 g/cm3
可用温度: −100 °C to +180 °C
融点:約250 °C
屈折率: 1.585 ± 0.001
光透過率:90% ± 1% (3mm)
線減弱係数μ:0.3512 cm-1
熱伝導率:0.19 W/mK
内面全反射角:39.1°
【0028】
また、LED光源16としては以下の仕様のLED Engin社製LED(型番:LZ4-00R208)を使用した。
照明色:Red
波長:660nm
光度:2.6cd
光束/放射束:2.6W
If-順電流:700mA
Vf-順電圧:10.5V
電力定格:7.4W
最高動作温度/最低動作温度:+125°C/-40°C
視角:95deg
【0029】
詳細には後述するが、まずLED光源16からの照射光は、レンズ体17の上部に入射される。LED光源16から照射光は拡散されるが、前記条件(1)に鑑みて拡散光の多くがレンズ体17に入射されることが望ましい。拡散光を周囲に反射板を設けて集光させる方法も考えられるが反射光の利用率を考慮し、ここではLED光源16から照射光の指向性に基づいてLED光源16とレンズ体17までの距離lと、レンズ体17の上部17aの径r1を設定する。なお、レンズ体17の径r1は小さくすることが好ましい。周辺部材との干渉、装置の小型化、後述するチップ17のテーパ角度αの鋭角化のためである。
【0030】
レンズ体17は一体成型されるが、その上部17aは非球面レンズとなっている。これにより入射光の主ビームを軸線方向に平行化し、中央部の副ビームも鋭角化して内部反射を促し、外部への放出を低減する。平行光の入射光は、そのままレンズ体17内を導光され、
レンズ体17の上部17aの非球面形状は、上方に凸形状であっても上方を開放する凹形状であっても良い。
【0031】
レンズ体17内で導光された光は、下部17bから放出される。
図3の例では下部17bが平面形状であるが、後述する
図7(b)のように非球面形状であっても良い。
【0032】
レンズ体17の下部17bから放出される光は、そのままチップ15に入射される。チップ15は、レンズ体17の下部17bに取り付けられる。チップ15は、下方に向かって径r2が小さくなるテーパ部15aとテーパー部15aと一体成型で下方に延びる細長部17bとで構成される。細長部15bは、歯牙の根管や歯周ポケット内等に直接挿入され、その下端が尖っている場合もあり得るが、
図3では下端の表示を省略している(下端については
図1、
図2の例を参照)。
【0033】
テーパ部15aに入射された光は、その強度が低下が小さい状態で細長部15bまで導光されることが好ましく、内面で全反射され、反射回数も少ない方が好ましい(理想的には高々反射回数2回)。したがって、テーパ角度αが小さく鋭角である必要があり、細長部15bの径r3は大きい方が好ましい。一方、細長部15bの径は治療部位により所望される径r3が設定されるものである。
【0034】
このように内面での全反射を利用するには、具体的には以下の関係を有する。
全反射角>K+2nα
(全反射角=90−臨界角)
K:入射光角
n:反射回数(高々n=2回が理想)
α:テーパ角
臨界角=全反射が起きる最も小さな入射角
【0035】
次に、LED光源16、レンズ体17、チップ15それぞれの詳細について言及する。
図4は、(a)にLED光源16の模式平面図が示され、(b)にその発光の指向分布の結果を示している。LED光源16は発光体16aがLED基部16に支持されている。発光体16aは、中心軸の回転対称で形成されている。発光体16aからわかるようにLED光源16は点光源ではなく、矢印に示すように有限の範囲(発光体16aの幅方向距離)に無数の光源点を有するものであり、それぞれの点から全方向に光が放射されている。したがって、光の指向性分布を考慮する必要がある。
【0036】
ここでは、LED基部16bの下面から発行する面発光体からの照射光が球面ガラスレンズである発光体16aを通過したと仮定して、それぞれの球面ガラス表面上の発光点からの光線の広がりや角度を追跡し算出した。その結果、算出された発光体16a(LED光源16)の指向性分布が
図4(b)に示されている。この図からLED光源16では、D照射角β=110°の範囲に97%以上の光束が含まれることがわかり、この範囲の照射光を捕捉することが理想となる。
【0037】
次に、LED光源16からの光線がレンズ体17に照射され、入射していく光線のシミュレーションについて
図5(a)を参照しつつ概説する。まず、LED光源16の発光体16aの表面上の任意の点を発光点(1)として設定する。次に、設定された発光点(1)から放射される光線(2)がレンズ体17の上部17aに入射される角度(入射角)について算出する。算出された入射角に基づいてレンズ体17の上部17a表面に入射光が侵入する際に屈折を算出する。屈折した光については、光線追跡し、壁面(17cや15a)に達した場合は反射するが、反射が起こっても臨界角(=90°−全反射角)を維持できるか否かを評価する。もし臨界角を維持できなければこの光線は先端部に達しないと判断する。反射後も臨界角を維持できた光線は継続して光線追跡し、最終的にこの光線が先端部15bの上辺に達すれば、良しとする。この評価を全光線について実施する。このとき発光体16aのうち発光部分の選択し、
図5(b)に示す(1)〜(4)のように所定の半径以下が発光すると決定する。実際のシミュレーションでは、半径を細かく刻み、多数の光点を評価し、シミュレーション精度の向上を図っている。
【0038】
レンズ体17内で強度低下が少ない光線(高効率の光線)としての評価は、式1のように、総合効率Teを算出し、評価する。
式1に於いて、
半径rに於けるビーム面積率係数:Sr(半径rによって決まるビーム角度の二乗に比例)
半径rに於ける光線分布率 :Dr(半径rによって決まる円周長に比例する)
半径rに於ける評価する光線数 :Nr
半径rの光線の先端到達数 :Mr
としている。
【数1】
【0039】
実際に、3種類形状のレンズ体17で上述した光線シミュレーション結果を比較し、評価したものが
図6に示されている。
図6(a)に示すように、(1)は上部および下部ともに平面状のレンズ体17であり、(2)はLED光源側の上部17aが球面状であり、チップ側の下部17bが平面状のレンズ体17であり、(3)はLED光源側の上部17aが非球面状であり、チップ側の下部17bが平面状のレンズ体17である。なお、ここではレンズ
体直径を4mmから8mmまでを評価している。レンズ
体以下は側部17cがなく直ぐに長さ16mmテーパ部になり、先端直径を0.5mmとしている。(
図3参照)。
【0040】
図6(b)には、
図6(a)の(1)〜(3)のレンズ体17でのTeがそれぞれ順に左側、右側に示されている。このグラフ図からわかるように、(1)のレンズ体17では、総合効率は、高々0.15前後、(2)のレンズ体で、高々0.25前後となっている。(3)では高いほうでは0.35を超えており、
この図からLED光源16から非球面のレンズ体17に入射させる方が高効率でチップ15まで導光することが理解できる。このとき、LED光源に最適化するには、レンズ直径を4.5mm前後とするのが良いことが分かる。
図6(c)は、先端直径を変化させた場合の(3)の非球面レンズでの総合効率の変化を示す。これから分かるように、0.05mmの変化でも効率に影響し、総合効率は先端直径に比例することを示す。先端直径は実用上差支えない範囲でなるべく太くするのが良いと分かる。
【0041】
図7には、光導光が高効率であるレンズ体17とチップ15と組み合わせの例が3種類示されている。(a)は、LED光源側の上部17aが非球面状であり、チップ15側の下部17bが平面状のレンズ体17であり、(b)は、LED光源側の上部17aが非球面状であり、チップ15側の下部17bも非球面のレンズ体17であり、(c)は、LED光源側の上部17aが非球面状であり、チップ15の上部15cが非球面である。
【0042】
図7(a)の例では、レンズ体17の上部17aに入射した光は、屈折して平行光となり、平行光としてチップ15に入射し、テーパ部15a内を導光していることがわかる。平行光はテーパ部15a内で臨界角を維持しながら略全反射して細長部15bに到達する。
【0043】
図7(b)の例では、レンズ体17の上部17aに入射した光は、(a)のように屈折して一旦、平行光となるが(図示省略)、レンズ体17の下部17bの長焦点の非球面で集光されてチップ15に入射し、テーパ部15a内を導光していることがわかる。集光された光はテーパ部15aと細長部17との境界近傍のスポット領域19に収束し、細長部15bに到達する。この例では、テーパ角の鋭角形状に限度がある場合や臨界角を維持することが難しい場合に有利である。これは、反射回数を極力0にするための方式ともいえる。
【0044】
図7(c)の例では、
図7(b)の変形例であり、レンズ体17の上部17aに入射した光は、屈折して一旦、平行光となるが、チップ15の上部15cで(b)の下部17bと同じ長焦点の非球面で集光されてテーパ部15a内を導光していることがわかる。集光された光はテーパ部15aと細長部17との境界近傍のスポット領域19に収束し、細長部15bに到達する。
【0045】
図8(a)は
図7(a)の変形例であり、LED光源側の上部17が平面状で下部が非球面状としている。
図8(b)は
図7(c)の変形例であり、LED光源側の上部が平面状で下部が非球面状、チップの上部も非球面としている。
図7(a)(c)ではLED光源16からの照射光をレンズ体17の上部17aで平行光に変えていたが、
図8(a)(b)の例ではレンズ体17の下部17bで平行光に変えることとしている。
なお、
図7〜
図8の例ではレンズ体17の側部17cに垂直方向の面を設けているが、側部17cはなくても良い。
【0046】
以上、本発明の実施形態について図面に基づいて説明したが、具体的な構成は、これらの実施形態に限定されるものではない。本発明の範囲は、上記した実施形態の説明ではなく特許請求の範囲によって示され、更に特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0047】
10 歯科用光照射装置
12 本体
13 ヘッド
13a ヘッド基部
13b ヘッド先端部
14 操作表示部
15 チップ
15a テーパ部
15b 細長部
15c チップ上部
16 LED光源
16a 発光体
16b LED基部
17 レンズ体
17a 上部
17b 下部
17c 側部
19 スポット領域