【実施例】
【0030】
1.LCSTを有するイオン液体の探索
1.1.イオン液体の選定
或るイオン液体がLCSTを有するかどうか、明確な指導原理はこれまで報告されていないが、アニオンの水和力が一つの指標になり得る(D. Dupont et al., J. Phys. Chem. B 2015, 119, 6747-6757.)。本発明者らは、この指標から水和力の異なる複数のアニオン種と、カチオン構造(下記化学式(1)において、R1〜R3で示すイミダゾリウム環の側鎖)を様々に変化させて親水性を変えたカチオン種と、を含むイオン液体の物性を網羅的に評価し、イミダゾリウム系イオン液体のうち、LCSTを有する物質群を明らかにした。
【0031】
【化1】
【0032】
具体的には、検討したアニオン種はメトキシ酢酸イオン(CH
3OCH
2COO
−)、トリフルオロメタンスルホナート(CF
3SO
3−)、トリフルオロ酢酸イオン(CF
3COO
−)、臭化物イオン(Br
−)、塩化物イオン(Cl
−)の5種類である。
一方、検討したカチオン種の側鎖の構造は1−メチル−3−アリル(式(1)においてR1=CH
3、R2=H、R3=CH
2CH=CH
2)、1−メチル−3−アルキル(式(1)においてR1=CH
3、R2=H、R3=n−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−ドデシル)、1−ブチル−3−アルキル(式(1)においてR1=−CH
2CH
2CH
2CH
3、R2=H、R3=n−ブチル)、1,2−ジメチル−3−アルキル(式(1)においてR1=CH
3、R2=CH
3、R3=n−ブチル、n−ヘキシル、n−オクチル、n−ドデシル)である。なお、1,2−ジメチル−3−アルキルと塩化物イオンとの組み合わせにおいては、アルキルがR3=n−ブチル、n−ドデシルの場合についてのみ検証を行った。
【0033】
上記アニオン種及びカチオン種を組み合わせた複数のイオン液体を合成し、LCST挙動を測定した。結果を表1、2に示す。表1、2において、「LCST」とは、イオン液体と水との混合物がLCST挙動を示したことを意味し、「UCST」とは、イオン液体と水との混合物がUCST挙動(水に対する上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution temperature,UCST)を有し、UCSTより低い温度では、イオン液体と水とが相分離(脱水和)し、UCSTより高い温度では、イオン液体と水とが相溶(水和)する挙動)を示したことを意味する。また、表1、2において、「親水」とは、測定の間、イオン液体と水とが常に相溶していたことを意味し、「不溶」とは、測定の間、イオン液体と水とが常に相分離していたことを意味する。
【0034】
【表1】
【0035】
【表2】
【0036】
表1、2にまとめたように、1−メチル−3−アリルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナ−ト、1−メチル−3−アリルイミダゾリウムトリフルオロ酢酸、1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミド、1,3−ジブチルイミダゾリウムクロライド、1,2−ジメチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミド、1,2−ジメチル−3−オクチルイミダゾリウムブロミド、1,2−ジメチル−3−ドデシルイミダゾリウムブロミド、1,2−ジメチル−3−ブチルイミダゾリウムクロライド、1,2−ジメチル−3−ドデシルイミダゾリウムクロライドの9種類のイオン液体が、LCST挙動を示すことが確認された。
以下、これらのイオン液体のLCST挙動の測定方法及び測定結果を示す。
【0037】
1.2.LCST挙動の測定
上記イオン液体を含む水溶液について、表3に示す電極構成で、LCST挙動の測定を行った。
【0038】
【表3】
【0039】
(1)1−メチル−3−アリルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナ−ト
(1−1)定電流(ガルバノスタット)モード測定
1−メチル−3−アリルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナ−ト水溶液(30wt%)について、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃の各温度における定電流(ガルバノスタット)モード測定を行った。結果を
図1に示す。
図1は10mHz〜1MHzにおけるPhaseAngle(位相角)を示す図である。
図1に示すように、0.1Hz〜1Hzにおいて、45℃でピークが出現し、他の温度と異なる挙動を示した。よって、1−メチル−3−アリルイミダゾリウムトリフルオロメタンスルホナ−トは45℃付近にLCSTを有することが確認された。
【0040】
(2)1−メチル−3−アリルイミダゾリウムトリフルオロ酢酸
(2−1)定電流(ガルバノスタット)モード測定
1−メチル−3−アリルイミダゾリウムトリフルオロ酢酸水溶液(30wt%)について、15℃、20℃、30℃、40℃、50℃の各温度における定電流(ガルバノスタット)モード測定を行った。結果を
図2に示す。
図2に示すように、1Hz〜10Hzにおいて、40℃でピークが出現し、他の温度と異なる挙動を示した。よって、1−メチル−3−アリルイミダゾリウムトリフルオロ酢酸は40℃付近にLCSTを有することが確認された。
【0041】
(3)1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミド
(3−1)定電位(ポテンショスタット)モード測定
1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミド水溶液(30wt%)について、1℃、3℃、5℃、7℃の各温度における定電位(ポテンショスタット)モード測定を行った。結果を
図3に示す。
図3に示すように、0.1Hz〜10Hzにおいて、7℃でショルダーが出現し、他の温度と異なる挙動を示した。よって、1−メチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミドは7℃付近にLCSTを有することが確認された。
【0042】
(4)1,3−ジブチルイミダゾリウムクロライド
(4−1)定電位(ポテンショスタット)モード測定
1,3−ジブチルイミダゾリウムクロライド水溶液(15wt%)について、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃の各温度における定電位(ポテンショスタット)モード測定を行った。結果を
図4に示す。
図4に示すように、1Hz〜100Hzにおいて、45℃〜50℃でピークが出現し、他の温度と異なる挙動を示した。よって、1,3−ジブチルイミダゾリウムクロライドは45℃〜50℃の間にLCSTを有することが確認された。
【0043】
(5)1,2−ジメチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミド
(5−1)定電位(ポテンショスタット)モード測定
1,2−ジメチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミド水溶液(15wt%)について、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃の各温度における定電位(ポテンショスタット)モード測定を行った。結果を
図5に示す。
図5に示すように、1Hz〜100Hzにおいて、30℃でピークが消失し、他の温度と異なる挙動を示した。よって、1,2−ジメチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミドは30℃付近にLCSTを有することが確認された。なお、50℃においてピークが消失しているのは、1,2−ジメチル−3−ヘキシルイミダゾリウムブロミドが50℃付近にUCSTを有するためであると考えられる。
【0044】
(6)1,2−ジメチル−3−オクチルイミダゾリウムブロミド
(6−1)定電位(ポテンショスタット)モード測定
1,2−ジメチル−3−オクチルイミダゾリウムブロミド水溶液(30wt%)について、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃の各温度における定電位(ポテンショスタット)モード測定を行った。結果を
図6に示す。
図6に示すように、0.1Hz〜1Hzにおいて、20℃でピークが出現し、他の温度と異なる挙動を示した。よって、1,2−ジメチル−3−オクチルイミダゾリウムブロミドは20℃付近にLCSTを有することが確認された。
【0045】
(7)1,2−ジメチル−3−ドデシルイミダゾリウムブロミド
(7−1)定電位(ポテンショスタット)モード測定
1,2−ジメチル−3−ドデシルイミダゾリウムブロミド水溶液(30wt%)について、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃の各温度における定電位(ポテンショスタット)モード測定を行った。結果を
図7に示す。
図7に示すように、0.1Hz〜1Hzにおいて、20℃で変曲点が出現し、他の温度と異なる挙動を示した。よって、1,2−ジメチル−3−ドデシルイミダゾリウムブロミドは20℃付近にLCSTを有することが確認された。
【0046】
(8)1,2−ジメチル−3−ブチルイミダゾリウムクロライド
(8−1)定電流(ガルバノスタット)モード測定
1,2−ジメチル−3−ブチルイミダゾリウムクロライド水溶液(30wt%)について、5℃、10℃、15℃、20℃、30℃、40℃、50℃の各温度における定電流(ガルバノスタット)モード測定を行った。結果を
図8に示す。
図8に示すように、0.1Hz〜10Hzにおいて、15℃でピークが出現し、他の温度と異なる挙動を示した。よって、1,2−ジメチル−3−ブチルイミダゾリウムクロライドは、15℃付近にLCSTを有することが確認された。
【0047】
(9)1,2−ジメチル−3−ドデシルイミダゾリウムクロライド
(9−1)定電位(ポテンショスタット)モード測定
1,2−ジメチル−3−ドデシルイミダゾリウムクロライド水溶液(20wt%)について、15℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃の各温度における定電位(ポテンショスタット)モード測定を行った。結果を
図9に示す。
図9に示すように、0.1Hz〜1Hzにおいて、25℃でピークが出現し、他の温度と異なる挙動を示した。よって、1,2−ジメチル−3−ドデシルイミダゾリウムクロライドは、25℃付近にLCSTを有することが確認された。
【0048】
2.水蒸気吸放出材料の吸湿特性評価
2.1.実施例1
(1)水蒸気吸放出材料の合成
メソ多孔体として市販のアミノプロピルシリカゲル(ジーエルサイエンス(株)製、粒子径10μm、平均細孔径10nm)0.162gと、イオン液体として1,2−ジメチル−3−オクチルイミダゾリウムブロミド(以下、「DMOImBr」という。)0.0405gとを水中で10分間撹拌したのち、100℃で乾燥させることにより、水蒸気吸放出材料を合成した。
【0049】
(2)水蒸気吸着量の測定
(1)で合成した水蒸気吸放出材料を真空中、60℃で6時間乾燥させた後、20℃及び50℃における任意の相対湿度に対する水蒸気吸着量の平衡値を、ガス吸着評価装置(BELSORP−MAX、日本ベル(株)製)にて測定した。水蒸気吸着等温線の測定結果を
図10に示す。
【0050】
2.2.比較例1
実施例1で使用したアミノプロピルシリカゲルに何も保持させない状態で、実施例1と同様に水蒸気吸着量を測定した。水蒸気吸着等温線の測定結果を
図11に示す。
【0051】
図10に示すように、メソ多孔体にDMOImBrを保持させた実施例1に係る水蒸気吸放出材料の吸着等温線は20℃と50℃とで大きく異なり、50℃において吸湿量が低下していた。これは、DMOlmBrが、20℃においては水和する性質があるため、細孔内が親水性を示すのに対し、50℃においては水と分離する性質があるため、細孔内が疎水化するためであると考えられる。一方、
図11に示すように、当該性質を有さない比較例1に係るアミノプロピルシリカゲルの吸着等温線は、20℃と50℃とで大きな変化が見られなかった。