特開2017-155004(P2017-155004A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-155004(P2017-155004A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】低分子化プロテオグリカン
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/73 20060101AFI20170810BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20170810BHJP
【FI】
   A61K8/73
   A61Q19/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-39830(P2016-39830)
(22)【出願日】2016年3月2日
(71)【出願人】
【識別番号】309015019
【氏名又は名称】地方独立行政法人青森県産業技術センター
(72)【発明者】
【氏名】商 怡
(72)【発明者】
【氏名】市田 淳治
(72)【発明者】
【氏名】内沢 秀光
(72)【発明者】
【氏名】早野 亜衣子
【テーマコード(参考)】
4C083
【Fターム(参考)】
4C083AD411
4C083CC02
4C083EE12
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れたコラーゲンゲル収縮促進効果や抗糖化作用等の皮膚の引締め効果を有する低分子化プロテオグリカンの提供。
【解決手段】プロテオグリカンをタンパク質分解酵素で消化し、タンパク質含量が6%(重量比)未満、ウロン酸含量が35%(重量比)未満で、30℃での純水の粘度1とし、0.5w/v%水溶液の相対粘度が2.0未満で、紫外可視吸収スペクトルで275nmに極大吸収があり1%当たりの吸光係数が0.1未満、赤外吸収スペクトルで波数3423±10cm−1、1736±10cm−1、1638±10cm−1、1560±10cm−1、1378±10cm−1、1229±10cm−1、及び1072±10cm−1に吸収ピークを有し、70℃で測定した重水中におけるプロトン核磁気共鳴スペクトルで2.02±0.05ppmと、3.39±0.05〜4.74±0.05ppmにシグナルを有する低分子化プロテオグリカン。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記のア)〜オ)の性質を全て満たす低分子化プロテオグリカン。
ア)タンパク質含量が6%(重量比)未満であり、ウロン酸含量が35%(重量比)未満である
イ)30℃で純水の粘度を1としたとき、0.5(w/v)%水溶液の相対粘度が2.0未満である
ウ)紫外可視吸収スペクトルで、275nmに極大吸収があり、1(w/v)%当たりの吸光係数が0.1未満である
エ)赤外吸収スペクトルにおいて、波数3423±10cm−1、1736±10cm−1、1638±10cm−1、1560±10cm−1、1378±10cm−1、1229±10cm−1、および1072±10cm−1全てに吸収ピークを有する
オ)70℃で測定した重水中におけるプロトン核磁気共鳴スペクトルにおいて、2.02±0.05ppm、3.39±0.05ppmから4.74±0.05ppmにかけてシグナルを有する
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料や飲食品などで使用される低分子化プロテオグリカンに係り、皮膚のタルミやシワ、ハリの改善等皮膚の引きしめ効果を有する、低分子化プロテオグリカンに関するものである。
【背景技術】
【0002】
老化により皮膚の弾力性やハリが低下し、タルミやシワの原因となる。老化皮膚に見られるタルミやシワは、加齢に伴って現れる外見上の主なものであり多くの高齢者にとって切実な悩みの一つとなっている。これらの変化は、皮膚のハリや弾力性を主に担っている細胞外マトリックスの分解生成バランスおよび構造変化に伴って収縮力が低下することが原因の一つと考えられている。
【0003】
皮膚老化予防又は改善剤に関しては、従来、コラーゲンゲル収縮促進効果を有するケタニグサおよびその抽出物(特許文献1)や抗糖化効果を有するプロポリスを有効成分とするもの(特許文献2)などが開示されているが、いずれも効果、安全性、安定性、コスト等の観点において必ずしも十分であるとはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−34181号公報
【特許文献2】特開2012−77042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、優れたコラーゲンゲル収縮促進効果や抗糖化作用等の皮膚の引きしめ効果を有する低分子化プロテオグリカンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、コラーゲンゲル収縮促進効果や抗糖化作用等の皮膚の引きしめ効果を有する物質に関する研究を進めた結果、プロテオグリカンの酵素分解生成物に高い効果を見出した。そして、さらに研究を進めた結果、構造を特定し、本発明に至った。すなわち、本発明は、
以下の全ての特性を有する低分子化プロテオグリカン、
ア)タンパク質含量が6%(重量比)未満であり、ウロン酸含量が35%(重量比)未満である。
イ)30℃で純水の粘度を1としたとき、0.5(w/v)%水溶液の相対粘度が2.0未満である。
ウ)紫外可視吸収スペクトルで、275nmに極大吸収があり、1%当たりの吸光係数が0.1未満である。
エ)赤外吸収スペクトルにおいて、波数3423±10cm−1、1736±10cm−1、1638±10cm−1、1560±10cm−1、1378±10cm−1、1229±10cm−1、および1072±10cm−1の全てに吸収ピークを有する。
オ)70℃で測定した重水中におけるプロトン核磁気共鳴スペクトルにおいて、2.02±0.05ppm、3.39±0.05ppmから4.74±0.05ppmにかけてシグナルを有する。
に関する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の低分子化プロテオグリカンによれば、線維芽細胞―コラーゲンマトリックスゲル構造の収縮を促すと共に糖化タンパク質の生成を抑制し、加齢に伴う皮膚の弾力やハリの低下、タルミやシワを予防又は改善することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の、実施例2の低分子化プロテオグリカンの分析に係り、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンのゲルろ過クロマトグラフィーを表す図である。
図2】比較として、実施例1で原料として用いたプロテオグリカンのゲルろ過クロマトグラフィーを表す図である。
図3】本発明の、実施例2の低分子化プロテオグリカンの分析に係り、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンの紫外可視吸収スペクトルを表す図である。
図4】比較として、実施例1で原料として用いたプロテオグリカンの紫外可視吸収スペクトルを表す図である。
図5】本発明の、実施例2の低分子化プロテオグリカンの分析に係り、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンの赤外吸収スペクトルを表す図である。
図6】比較として、実施例1で原料として用いたプロテオグリカンの赤外吸収スペクトルを表す図である。
図7】本発明の、実施例2の低分子化プロテオグリカンの分析に係り、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンのプロトン核磁気共鳴スペクトルを表す図である。
図8】比較として、実施例1で原料として用いたプロテオグリカンのプロトン核磁気共鳴スペクトルを表す図である。
図9】低分子化プロテオグリカン添加48時間後におけるコラーゲンゲル収縮の様子を示す図である。(低分子化PG;低分子化プロテオグリカン、原料PG;原料プロテオグリカン)
図10】低分子化プロテオグリカン添加48時間後におけるコラーゲンゲル収縮率を示す図である。(低分子化PG;低分子化プロテオグリカン、原料PG;原料プロテオグリカン)
図11】低分子化プロテオグリカン添加30日後における糖化コラーゲン生成率を示す図である。(低分子化PG;低分子化プロテオグリカン、原料PG;原料プロテオグリカン)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施の形態をより具体的に説明するが、本発明の技術的思想を具体化するための方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、下記のものに特定するものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
本発明でいう原料プロテオグリカンは、動物や魚類に存在するグリコサミノグリカンとタンパク質の共有結合物からなる分子量数十万から数百万の高分子化合物である。起源となる原料や抽出・製造条件により、分子量や含まれるアミノ酸や糖(中性糖、ウロン酸、アミノ糖など)の種類や量、比率も異なっているが、本発明でいう原料プロテオグリカンは、起源となる原料や抽出・製造条件を問わない。
【0011】
より具体的に本発明は、以下の1)から5)の全ての要件を満たす低分子化プロテオグリカンである。1)タンパク質含量が6%(重量比)未満であり、ウロン酸含量が35%(重量比)未満である。2)30℃で純水の粘度を1としたとき、0.5(w/v)%水溶液の相対粘度が2.0未満である。3)紫外可視吸収スペクトルで、275nmに極大吸収があり、1(w/v)%当たりの吸光係数が0.1未満である。4)赤外吸収スペクトルにおいて、波数3423±10cm−1、1736±10cm−1、1638±10cm−1、1560±10cm−1、1378±10cm−1、1229±10cm−1、および1072±10cm−1全てに吸収ピークを有する。5)70℃で測定した重水中におけるプロトン核磁気共鳴スペクトルにおいて、2.02±0.05ppm、3.39±0.05ppmから4.74±0.05ppmにかけてシグナルを有する。
【0012】
本発明品は、原料プロテオグリカンをタンパク質分解酵素であるアクチナーゼEなどにより消化することで、容易に製造することができる。
【0013】
本発明の低分子化プロテオグリカンには、原料プロテオグリカンと比較し、有意なコラーゲンゲル収縮促進効果及び抗糖化効果を示し、化粧品や飲食品に利用することができる。
【0014】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これは単に例示の目的で述べるものであり、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例1】
【0015】
(低分子化プロテオグリカンの製造)
原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン:角弘プロテオグリカン研究所社製)を、タンパク質分解酵素アクチナーゼE(科研製薬製)を用いて消化し、得られた分解生成物をゲルろ過クロマトグラフィーにより精製し、低分子化プロテオグリカンを製造した。図1は、アクチナーゼE消化により得られた分解生成物をセファアクリル(Sephacryl) S−500HRゲルろ過カラム(2.8cm×120cm、GEヘルスケア・ジャパン製)に供して得られたクロマトグラム(溶出液:0.1M NaCl、流速:0.5mL/min)であり、溶出体積350mLから550mLまでの画分を集め、低分子化プロテオグリカンとした。図2は、原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン)のクロマトグラムである。カルバゾール硫酸法にてウロン酸を、ローリー法にてタンパク質を測定した。
【実施例2】
【0016】
(比色法によるタンパク質含量及びウロン酸含量の測定)
実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンのタンパク質含量を、比色法であるローリー法にて、牛血清アルブミン(アクロス社製)を標準物質とした検量線から求めたところ、3.2重量%であった。ウロン酸含量を、比色法であるカルバゾール硫酸法にて、グルクロン酸(シグマ社製)を標準物質とした検量線から求めたところ、29.1重量%であった。原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン)について同様に分析したところ、タンパク質含量は5.8重量%、ウロン酸含量は30.7重量%であった。
【0017】
(熱分析装置による水分量の測定)
実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンの水分含量は、熱分析装置(Thermo Plus TG8210、リガク社製)にて、120℃で試料重量が恒量となるまで加熱し、重量減少分を試料に含まれていた水分とした。その結果、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンの水分含量は12.2±2.3重量%であった。同様に、原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン)の水分含量について分析したところ、14.2±1.7重量%であった。
【0018】
(オストワルド粘度計による粘度の測定)
実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンについて、熱分析で得られた水分含量をもとに、乾燥重量に換算して30mgになるように秤量し、6mLの脱イオン水を加え、低温室(4℃)で一昼夜静置した(5mg/mL)。この溶液から5mL(含む25mgの低分子化プロテオグリカン)を量りとり、30℃の恒温槽の中で、オストワルド粘度計(粘度計No.1、毛細管内径0.5mm、柴田科学製)を用いて毛細管の落下時間(秒)を計測した。同じ溶液による測定を7回繰り返し、最小値と最大値を除く5回の測定値を平均した。溶媒として脱イオン水の落下時間を測定した。その結果、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンの落下時間は118.88±0.09秒であった。このとき、同じ条件で測定した脱イオン水の落下時間は60.54±0.06秒であった。原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン)について、同じ条件で落下時間を測定したところ、281.51±0.30秒であった。
【0019】
(低分子化プロテオグリカン溶液の密度の測定)
風袋を計量した台付きメスフラスコ(2mL、岩城硝子製)に、粘度測定で用いた溶液2mL(含む10mgの実施例1で得られた低分子化プロテオグリカン)を加えた重量を計量し、風袋を差し引いた数値から密度(g/cm)を求めた。同じ操作を3回繰り返して平均値を求めた。溶媒として脱イオン水の密度を測定した。その結果、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカン溶液の密度は、0.98993±0.01004g/cmであった。同じ条件下で測定した脱イオン水の密度は、0.98637±0.00321g/cmであった。原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン)についても、同じ条件で粘度を測定した溶液の密度を測定した結果、0.98928±0.00392g/cmであった。
【0020】
(低分子化プロテオグリカン溶液の相対粘度)
オストワルド粘度計の測定値と密度の測定値から、溶液の落下時間(秒)と溶液の密度(g/cm)の積を、溶媒の落下時間(秒)と溶媒の密度(g/cm)の積で割った値を相対粘度として算出した。実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンの30℃における相対粘度は、脱イオン水を1としたとき1.97であった。同じ条件で測定した原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン)の相対粘度は4.66であった。
【0021】
(低分子化プロテオグリカンの紫外可視吸収スペクトル)
実施例1で得られた低分子化プロテオグリカン溶液について、紫外可視吸収スペクトルを測定して、濃度当たりの吸光係数を求めた。紫外可視吸収スペクトルは、U−3010分光光度計(日立ハイテクノロジーズ製)を用いて、400nm〜200nmの測定範囲における吸光度を測定した。分解能は0.5nm、セル長は10mmであった。図3は、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンを、1(w/v)%、0.5(w/v)%、0.25(w/v)%及び0.125%(w/v)になるように、脱イオン水で調製した溶液の紫外可視吸収スペクトルである。図3のグラフの横軸は波長(nm)を表し、縦軸は吸光度を表す。図3のグラフにおいて、すべての濃度の溶液で275nmに極大吸収が見られた。このとき、吸光度(A)と濃度(C)は、「吸光度(A)=吸光係数(a)×濃度(%)」の関係式が成り立つ(ランベルト―ベールの法則)。実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンでは、極大吸収275nmにおける1(w/v)%あたりの吸光係数は0.091であった。図4には、比較として原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン)について、同じ条件で測定した紫外可視吸収スペクトルを示した。原料プロテオグリカンは、同様に275nmに極大吸収が見られ、1(w/v)%あたりの吸光係数は0.36であった。
【0022】
(低分子化プロテオグリカンの赤外吸収スペクトル)
実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンの赤外吸収スペクトルをKBrディスク透過法で測定した。赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光光度計(FT/IR−420、日本分光製)を用いて、測定範囲4000〜400cm−1、分解能4cm−1、積算回数65、スキャンスピード2mm/秒の条件で測定した。図5のグラフの横軸は波数(cm−1)を表し、縦軸は透過率(%T)を表す。図5のグラフにおいて、谷となっている部分が吸収ピークであり、吸収ピークに記載された数字1〜7は、図5の右の表の「No.」に対応する。表中の波数(cm−1)は、数字1〜7の各吸収ピークの波数(cm−1)を表す。図5より、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンは、波数3423cm−1、1736cm−1、1638cm−1、1560cm−1、1378cm−1、1229cm−1、および1072cm−1全てに吸収ピークを有する。低分子化プロテオグリカンは、1736cm−1に吸収ピークを有し、1420cm−1付近に吸収ピークが見られないことが特徴である。図6には、比較として原料の鮭由来プロテオグリカンについて、同じ条件で測定した赤外吸収スペクトルを示した。原料プロテオグリカンは、波数3398cm−1、1638cm−1、1421cm−1、1384cm−1、1231cm−1、および1068cm−1全てに吸収ピークを有した。本発明の低分子化プロテオグリカンは、原料として用いた市販の鮭由来プロテオグリカンが有する1421cm−1に吸収ピークを有せず、原料プロテオグリカンが有しない1735cm−1付近に吸収ピークを有していた。
【0023】
(低分子化プロテオグリカンの核磁気共鳴スペクトル)
実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンについて、重水中におけるプロトン核磁気共鳴(H−NMR)スペクトルを測定した。H−NMRスペクトルの測定は、JNM−EX270(日本電子製)を用いた。最初に、10.4mgの低分子化プロテオグリカンを2mLの重水(D2O、99%)に溶解し、37℃の恒温槽で24時間振とうして重水置換を行った。溶液を凍結乾燥した後、同じ操作を繰り返した。2回目の凍結乾燥後、0.75mLの重水(DO、99.9%)に溶解し、石英綿を通して直径が5mmの試料管に導入した。内部標準として、少量のアセトンを加えた。測定は70℃で行った。最初に標準測定を行った。内部標準として加えたアセトンの化学シフトを2.22ppmとしたとき、水に由来するシグナルが4.33ppmに見られたことから、このシグナルを選択し、対応する周波数を照射しながらデカップリング測定を行った。測定温度は70℃に設定した。図7は、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンの重水溶液のH−NMRである。グラフの横軸は化学シフト(ppm)、縦軸は相対強度を表している。実施例1で得られた低分子化プロテオグリカンのH−NMRでは、2.02ppmと、3.39ppmから4.74ppmにシグナルが観測された。図8には、比較として原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン)について、同じ条件で測定したH−NMRを示した。原料プロテオグリカンは、1.90ppmおよび2.02ppmと、3.38ppmから4.74ppmにシグナルが観測された。
【実施例3】
【0024】
(低分子化プロテオグリカンのコラーゲンゲル収縮促進効果)
線維芽細胞を包埋したコラーゲンゲルの収縮率を本発明の低分子化プロテオグリカンの添加時と非添加時で比較し、コラーゲンゲル収縮促進作用を評価した。氷冷下で、コラーゲンI−PC溶液(高研製、終濃度1mg/mL)に、DMEM培地で調製した正常ヒト皮膚線維芽細胞の細胞懸濁液1.0×10cells/mL(終濃度)を泡立てないように穏やかに混合した後、24ウェルプレートの各ウェルに0.8mLずつ注入し、直ちに37℃でゲル化させた。その後、実施例1で得られた低分子化プロテオグリカン及び比較とした原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン)について、各プロテオグリカン(添加濃度200μg/mL)を含有するDMEM培地を加え、ウェル壁面からゲルを剥離しコラーゲンゲル収縮を行った。48時間培養後、コラーゲンゲルの写真を撮影し、画像解析ソフトImageJによって画像解析してサンプル添加培養後のコラーゲンゲルの面積を測定した。ゲルの収縮状態を撮影した画像を図9に示す。ダネット(Dunnett)の検定により5%及び1%有意水準で各サンプルのゲル収縮率を比較した。
【0025】
コラーゲンゲルの収縮率は次式により算出した。
ゲル収縮率(%)=100−サンプル添加48時間培養後のゲル面積/サンプル添加前のゲル面積×100
サンプル添加前のコラーゲンゲル面積を1.9cm(ウェル底の直径:15.6mm)とした。
【0026】
図9で明らかなように、低分子化プロテオグリカンはコラーゲンゲルを収縮した。ImageJによって画像解析してコラーゲンゲルの面積を定量した結果を図10に示す。無添加コントロール群の収縮率は43.79±3.06%、原料プロテオグリカンの収縮率は50.51±3.51%、低分子化プロテオグリカンの収縮率は63.07±1.84%であり、低分子化プロテオグリカンに有意なコラーゲンゲル収縮効果が認められた。したがって、原料プロテオグリカン以上に低分子化プロテオグリカンには皮膚のシワやタルミを予防し、改善する効果が認められ、化粧品の成分として好適である。
【実施例4】
【0027】
(低分子化プロテオグリカンの抗糖化効果)
コラーゲン抗糖化アッセイキット(コスモ・バイオ製)を用い、本発明に係る低分子化プロテオグリカン添加時と非添加時を比較検討することで、抗糖化作用を評価した。氷冷下、96ウェルプレートに中和したコラーゲン溶液を50μL/ウェルに分注し、37℃インキュベーターで一晩静置しゲル化させた。コラーゲンゲル上に緩衝液もしくはフルクトース溶液を50μL/ウェル重層した。その後、低分子化プロテオグリカン(添加濃度600μg/mL)を添加し、プレートミキサーで攪拌後、37℃インキュベーターで30日間静置した後、蛍光強度(励起波長370nm、蛍光波長440nm)を測定し、各蛍光強度から糖化コラーゲン生成率を求めた。原料プロテオグリカン(市販の鮭由来プロテオグリカン)についても、同様に試験し、比較した。
【0028】
各サンプルの糖化コラーゲン生成率を図11に示す。無添加コントロール群を100とし、原料プロテオグリカンは54.66±1.74、低分子化プロテオグリカンは40.23±1.72であり、低分子化プロテオグリカンに有意な抗糖化効果が認められた。また、トリプシン消化により得られた低分子化プロテオグリカンの場合は29.39±4.75であった。したがって、原料プロテオグリカン以上に低分子化プロテオグリカンには皮膚の老化を予防する効果が認められ、化粧品の成分として好適である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
老化により皮膚の弾力性やハリが低下し、タルミやシワの原因となるが、コラーゲンゲル収縮促進効果には、皮膚を引き締める作用が期待される。また抗糖化は、抗老化につながりアンチエイジング効果が期待されるものである。本発明の低分子化プロテオグリカンは、コラーゲンゲル収縮促進効果及び抗糖化作用を有し、それ自体が皮膚のタルミ予防又は改善に有効であり、皮膚を引き締め、あるいは皮膚の老化予防又は改善のための化粧品、医薬品外品、医薬品であってもよく、化粧品、医薬品外品、医薬品等に配合して使用される素材又は製剤であってもよい。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11