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特開2017-155188防汚性膜形成用液組成物及びこの液組成物を用いて防汚性膜を形成する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-155188(P2017-155188A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】防汚性膜形成用液組成物及びこの液組成物を用いて防汚性膜を形成する方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 4/02 20060101AFI20170810BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20170810BHJP
   C09D 133/08 20060101ALI20170810BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170810BHJP
   C09D 5/16 20060101ALI20170810BHJP
【FI】
   C09D4/02
   C09D4/00
   C09D133/08
   C09D7/12
   C09D5/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-42330(P2016-42330)
(22)【出願日】2016年3月4日
(71)【出願人】
【識別番号】597065282
【氏名又は名称】三菱マテリアル電子化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085372
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 正義
(74)【代理人】
【識別番号】100129229
【弁理士】
【氏名又は名称】村澤 彰
(72)【発明者】
【氏名】白石 真也
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038CG141
4J038FA081
4J038FA111
4J038GA12
4J038GA14
4J038JA07
4J038JA17
4J038JA25
4J038JA32
4J038JA34
4J038JA66
4J038JB16
4J038KA03
4J038KA04
4J038KA06
4J038NA05
4J038PA17
4J038PA19
4J038PB05
4J038PB06
4J038PC03
4J038PC08
(57)【要約】
【課題】塗膜を形成した場合に、塗膜表面が親水撥油性になって、防汚機能を塗膜に付与し得る。また水に接触し続けても膜が膨潤剥離しない。
【解決手段】本発明の防汚性膜形成用液組成物は、アクリル酸、アルカリを含む水溶液、3以上のビニル基をそれぞれ有する多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマー、重合開始剤及び溶媒を含有し、アクリル酸100質量部に対してアルカリを5〜23質量部含み、多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマー100質量部に対してアクリル酸を5〜40質量部含み、アクリル酸と多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマーを合計した全アクリル100質量部に対して重合開始剤を1〜10質量部含み、かつ水溶液中の水100質量部に対してアクリル酸とアルカリで形成されるアクリル酸塩を8〜60質量部含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸、アルカリを含む水溶液、3個以上のビニル基をそれぞれ有する多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマー、重合開始剤及び溶媒を含有し、
前記アクリル酸100質量部に対して前記アルカリを5〜23質量部含み、
前記多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマー100質量部に対して前記アクリル酸を5〜40質量部含み、
前記アクリル酸と前記多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマーを合計した全アクリル100質量部に対して前記重合開始剤を1〜10質量部含み、かつ
前記水溶液中の水100質量部に対して前記アクリル酸と前記アルカリで形成されるアクリル酸塩を8〜60質量部含む
ことを特徴とする防汚性膜形成用液組成物。
【請求項2】
前記液組成物100質量部中に、両性型含窒素フッ素系化合物、リン酸含有アクリレートモノマー又はフッ素含有アクリレートモノマーの少なくとも1種を3質量部以下更に含む請求項1記載の防汚性膜形成用液組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の液組成物を基材表面に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を乾燥した後、前記塗膜に紫外線を照射するか前記塗膜を加熱することにより、防汚性膜を形成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性及び撥油性を有する防汚性膜を形成するための液組成物及びこの液組成物を用いて防汚性膜を形成する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
基材に汚れが付着するのを防止する方法として、基材表面を撥水化して汚れをはじきやすくする方法がある。また基材に付着した汚れを容易に洗い流す方法として、基材表面を親水化して水と一緒に汚れを流してしまう方法がある。中でも疎水性成分を多く含む汚れに対しては塗膜の表面をできるだけ親水性にした方がよいという提案がなされている(例えば、非特許文献1参照。)。
【0003】
一方、一般的な樹脂組成物を使用した塗料の塗布表面や成型体表面は、水の接触角が比較的大きく水をはじく性質はあるが油の接触角が小さく油になじむ性質を持っており、防汚に十分な撥液性はなく、親水性でもなく、汚れにくい表面とはなっていない。塗膜を親水化する方法については種々研究されており、例えば光触媒性酸化物を含む防汚性コーティング組成物を使って塗膜を形成する方法などが挙げられる(例えば、特許文献1参照。)。別の塗膜を親水化する方法として光触媒性コーティング液にシリケート系の化合物を添加した浴室部材用コーティング組成物を塗布して塗膜を親水化する方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】高分子、44巻、1995年5月号、307頁
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−88247号公報(要約)
【特許文献2】特開平11−76375号公報(要約)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1及び特許文献2に示される防汚性のコーティング組成物を用いて塗膜を親水化し、水を使用して汚れを落とした場合、この塗膜には親油性の性質が残存するため、塗膜は親水親油性となって、油などの疎水性の汚れが付着した場合、塗膜に油がなじみ、十分な防汚効果が得られないことがあった。
【0007】
本発明の目的は、塗膜を形成した場合に、塗膜表面が親水撥油性になって、塗膜に防汚機能を付与することができ、また水に接触し続けても膜が膨潤剥離しない防汚性膜形成用液組成物を提供することにある。また本発明の別の目的は、この液組成物を用いて防汚性膜を形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の観点は、アクリル酸、アルカリを含む水溶液、3個以上のビニル基をそれぞれ有する多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマー、重合開始剤及び溶媒を含有し、前記アクリル酸100質量部に対して前記アルカリを5〜23質量部含み、前記多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマー100質量部に対して前記アクリル酸を5〜40質量部含み、前記アクリル酸と前記多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマーを合計した全アクリル100質量部に対して前記重合開始剤を1〜10質量部含み、かつ前記水溶液中の水100質量部に対して前記アクリル酸と前記アルカリで形成されるアクリル酸塩を8〜60質量部含む含む防汚性膜形成用液組成物である。
【0009】
本発明の第2の観点は、前記液組成物100質量部中に、両性型含窒素フッ素系化合物、リン酸含有アクリレートモノマー又はフッ素含有アクリレートモノマーの少なくとも1種を3質量部以下更に含むことを特徴とする。
【0010】
本発明の第3の観点は、第1又は第2の観点の液組成物を基材表面に塗布して塗膜を形成し、前記塗膜を乾燥した後、前記塗膜に紫外線を照射するか前記塗膜を加熱することにより、防汚性膜を形成する方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の第1の観点の防汚性膜形成用液組成物は、アクリル酸に対するアルカリの質量割合、多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマーに対するアクリル酸の質量割合、全アクリルに対する重合開始剤の質量割合、及びアクリル酸とアルカリで形成されるアクリル酸塩に対する水溶液中の水の質量割合をそれぞれ所定の範囲に制御して構成される。この液組成物を基材上に塗布した後、上記モノマー及び/又はオリゴマーを重合して塗膜を硬化させることにより、親水性を有する一方、水と接触して塗膜が水を含んでも膜が膨潤せず、基材表面から膜が剥離しない。また水を含んだ塗膜は撥油性を生じる。
【0012】
本発明の第2の観点の防汚性膜形成用液組成物は、液組成物中に、両性型含窒素フッ素系化合物を3質量部以下更に含むことにより、この両性型含窒素フッ素系化合物が塗膜の乾燥時にその低い表面張力により、塗膜の表層部に析出し、より一層塗膜の親水撥油性を高める。また液組成物中に、リン酸含有アクリレートモノマー又はフッ素含有アクリレートモノマー少なくとも1種を3質量部以下更に含むことにより、リン酸含有アクリレートモノマーは、親水性を更に付与し、フッ素含有アクリレートモノマーは更に撥油性を付与する。
【0013】
本発明の第3の観点の防汚性膜を形成する方法は、塗膜に紫外線を照射するか又は塗膜を加熱することにより、上記モノマー及び/又はオリゴマーを重合して塗膜を硬化させ、塗膜に防汚機能を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に本発明を実施するための形態を説明する。
【0015】
〔防汚性膜形成用液組成物〕
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物は、アクリル酸、アルカリを含む水溶液、3以上のビニル基をそれぞれ有する多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマー、重合開始剤及び溶媒を混合して調製される。アクリル酸としては、アクリル酸、メタクリル酸等の不飽和カルボン酸が挙げられる。特にアクリル酸が好ましい。アルカリを含む水溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水溶液等が挙げられる。この液組成物は、多官能アクリレートモノマーと多官能アクリレートオリゴマーのいずれか一方又は双方を含む。これらのモノマー又はオリゴマーは3個以上のビニル基を有する。ビニル基が1個又は2個のものは立体構造を取りにくいため、n−ヘキサデカンの転落性が発現せず、塗膜にしたときに親油性に劣る。多官能アクリレートモノマーとしては、ペンタエリスリトールトリアクリレート(ビニル基:3個)、ペンタエリスリトールテトラアクリレート(ビニル基:4個)、トリペンタエリスリトールトリアクリレート(ビニル基:3個)、トリメチロールプロパントリメタクリレート(ビニル基:3個)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート(ビニル基:5個)、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート(ビニル基:6個)等が挙げられ、多官能アクリレートオリゴマーとしては、ウレタンアクリレートオリゴマー、エポキシアクリレートオリゴマー等が挙げられる。
【0016】
重合開始剤は、上記モノマー及び/又はオリゴマーを重合を開始させるためのものであって、この重合開始剤としては、加熱若しくは紫外線照射によりラジカルを発生してモノマーの重合を開始させるものであれば特に制限はない。熱重合開始剤としては、例えば、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾニトリル化合物、アゾエステル化合物、アゾアミド化合物、tert−ブチルヒドロペルオキシド、過酸化ベンゾイル、ペルオキソ二硫酸アンモニウム等の有機過酸化物が挙げられる。光重合開始剤としては、例えば、アセトフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物等を挙げることができる。上記重合開始剤により上記モノマー及び/又はオリゴマーを重合させると、得られる塗膜は良好な被膜性を有し、また塗膜の基材への接着性に優れる。また塗膜を水に接触させ続けても膜が膨潤せず、基材から剥離しにくくなる。溶媒は、上記モノマー及び/又はオリゴマーを溶解しかつ水溶性であれば特に制限はない。具体的には、エタノール、アセトン、エチレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。
【0017】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物は、両性型含窒素フッ素系化合物、リン酸含有アクリレートモノマー又はフッ素含有アクリレートモノマーの少なくとも1種を更に含んでもよい。両性型含窒素フッ素系化合物は、下記式(1)で示される化合物である。
【0018】
【化1】
【0019】
上記式(1)中、Rf、Rfは、それぞれ同一又は互いに異なる、炭素数1〜6であって直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキル基である。また、Rfは、炭素数1〜6であって、直鎖状又は分岐状のペルフルオロアルキレン基である。
【0020】
また上記式(1)中、Rは、2価の有機基である連結基である。前記Rは、直鎖状又は分岐状の有機基であってもよい。また、前記Rは、分子鎖中にエーテル結合、エステル結合、アミド結合及びウレタン結合から選択される1種以上の結合を含んでいてもよいし、含まなくてもよい。
【0021】
また上記式(1)中、Xは、カルボベタイン型、スルホベタイン型、アミンオキシド型及びホスホベタイン型のうち、いずれかの末端を有する両性型の親水性賦与基である、本実施の形態の含窒素フッ素系化合物は両性型であるため、親水性付与基Xは、末端に、カルボベタイン型の「−N(CHCO」、スルホベタイン型の「−N(CHSO」、アミンオキシド型の「−N」又はホスホベタイン型の「−OPO(CH10」(nは1〜5の整数、R及びRは水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基、R10は水素原子又は炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数1〜10のアルキレン基)を有する。
【0022】
上記式(1)で表される両性型含窒素フッ素系化合物としては、次の式(2)で表されるカルボベタイン型化合物、式(3)〜(5)で表されるスルホベタイン型化合物が例示される。
【0023】
・式(2)で表されるカルボベタイン型化合物
【0024】
【化2】
【0025】
・式(3)で表されるスルホベタイン型化合物
【0026】
【化3】
【0027】
・式(4)で表されるスルホベタイン型化合物
【0028】
【化4】
【0029】
・式(5)で表されるスルホベタイン型化合物
【0030】
【化5】
【0031】
またリン酸含有アクリレートモノマーとしては、トリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート、トリスメタアクリロイルオキシエチルフォスフェート、2−アクリロイルオキシエチルアシッドフォスフェート等が挙げられ、フッ素含有アクリレートモノマーとしては、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロプロペンチルアクリレート等が挙げられる。また、下記式(6)〜(18)に記載されているフッ素含有アクリレートも挙げられる。
【0032】
【化6】
【0033】
【化7】
【0034】
【化8】
【0035】
【化9】
【0036】
【化10】
【0037】
【化11】
【0038】
【化12】
【0039】
【化13】
【0040】
【化14】
【0041】
【化15】
【0042】
【化16】
【0043】
【化17】
【0044】
【化18】
【0045】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物におけるアルカリの質量割合は、アクリル酸100質量部に対して、5〜23質量部、好ましくは5〜16質量部である。アルカリの質量割合が下限値未満であると、親水性を発現するアクリル酸塩が過少となり、塗膜に親水性が発現しない。アルカリの質量割合が上限値を超えると、塗膜が水に接触したときに、吸水量が過剰となることで塗膜が膨潤し、膜の強度を保持することができない。
【0046】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物におけるアクリル酸の質量割合は、多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマー100質量部に対して、5〜40質量部、好ましくは5〜25質量部である。多官能アクリレートモノマーのみに、アルカリを添加した膜は、親水性が全く発現せず、アクリル酸塩を付与することで、親水性が発現する。そのため、アクリル酸の質量割合が下限値未満であると、塗膜中のアクリル酸塩の基が過少となり、塗膜に親水性が発現しない。アクリル酸の質量割合が上限値を超えると、塗膜が水に接触したときに吸水量が過剰となることで塗膜が膨潤し、膜の強度を保持することができない。
【0047】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物における重合開始剤の質量割合は、アクリル酸と多官能アクリレートモノマー及び/又は多官能アクリレートオリゴマーを合計した全アクリル100質量部に対して、1〜10質量部、好ましくは3〜8質量部である。重合開始剤の質量割合が下限値未満であると、ビニル基の架橋が不十分となり塗膜に親水性が発現せず、塗膜が水に接触したときに膨潤し、膜の強度を保持することができない。重合開始剤の質量割合が上限値を超えると、重合開始剤が組成物中に溶解しにくくなること、成膜過程にて、塗膜にひび割れが発生する等不具合が生じる。
【0048】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物におけるアルカリを含む水溶液中の水100質量部に対してアクリル酸とアルカリで形成されるアクリル酸塩(アクリル酸ナトリウム等)の質量割合は、8〜60質量部、好ましくは8〜40質量部である。アクリル酸塩の質量割合が上限値を超えると、水が少ないため、アクリル酸塩が溶解できず、得られた液組成物中にフロック(白だま)が発生し、塗料化することができない。アクリル酸塩の質量割合が下限値未満であると、理由は定かではないが、塗膜の親水性及びn−ヘキサデカンの転落性が劣る他、多官能アクリレートモノマー、重合開始剤が組成物中に溶解しない不具合が生じる。
【0049】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物中の両性型含窒素フッ素系化合物の含有量は3質量部以下である。両性型含窒素フッ素系化合物を含むことにより、防汚性がより向上する。3質量部を超えると、得られた液組成物の安定性及び成膜性が悪化し易い。
【0050】
本実施の形態の防汚性膜形成用液組成物中のリン酸含有アクリレートモノマー又フッ素含有アクリレートモノマー(以下、「その他のモノマー」という。)の含有量は3質量部以下である。その他のモノマーを含むことにより、リン酸含有アクリレートモノマーは、親水性を更に付与し、フッ素含有アクリレートモノマーは更に撥油性がより向上する。3質量部を超えると、組成物の安定性、成膜性の不具合を生じ易い。
【0051】
〔防汚性膜の形成方法〕
本実施の形態の防汚性膜は、例えば、基材であるガラス上、又はポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステルフィルム上に、上記液組成物を、スクリーン印刷法、バーコート法、ダイコート法、ドクターブレード、スピン法等により塗布した後に、25〜130℃の温度で乾燥させ、重合開始剤が熱重合性重合開始剤であれば、25〜130℃の温度で1〜60分間加熱することにより、また重合開始剤が光重合性重合開始剤であれば、100〜1000mJ/cmの強度で紫外線を照射することにより、形成される。
【実施例】
【0052】
次に本発明の実施例を比較例とともに詳しく説明する。
【0053】
<実施例1>
アクリル酸0.200gと、ビニル基を3個有する多官能アクリレートモノマーであるペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業製ビスコート♯300)1.656gと、溶媒であるエタノール6.000gと、光重合開始剤のアルキルフェノン系重合開始剤(チバジャパン製イルガキュア907)0.111gを秤量し、十分に混合した後、この混合液にアルカリ水溶液として12%水酸化ナトリウム水溶液0.093gを更に添加混合して液組成物を調製した。
【0054】
<実施例2>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0055】
<実施例3>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.370g秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0056】
<実施例4>
アクリル酸を0.100g、多官能アクリレートモノマーを2.070g、重合開始剤を0.130gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0057】
<実施例5>
アクリル酸を0.300g、多官能アクリレートモノマーを1.552g、12%水酸化ナトリウム水溶液を0.278gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0058】
<実施例6>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.019gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0059】
<実施例7>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.186gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0060】
<実施例8>
アルカリ水溶液として16.8%水酸化カリウム水溶液を選定し、このアルカリ水溶液を0.185g秤量し、実施例1の液組成物に更に上記式(4)で表されるスルホベタイン型化合物を0.082g添加混合した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0061】
<実施例9>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g秤量し、実施例1の液組成物に更に上記式(3)で表されるスルホベタイン型化合物を0.008g添加混合した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0062】
<実施例10>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g秤量し、実施例1の液組成物に更に上記式(5)で表されるスルホベタイン型化合物0.008g添加混合した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0063】
<実施例11>
アクリル酸0.200gと、ビニル基を3個有する多官能アクリレートモノマーであるトリペンタエリスリトールトリアクリレート(大阪有機化学工業製ビスコート♯802)1.656gと、溶媒であるエタノール6.000gと、光重合開始剤のアルキルフェノン系重合開始剤(チバジャパン製イルガキュア907)0.111gを秤量し、十分に混合した後、この混合液にアルカリ水溶液として12%水酸化ナトリウム水溶液0.185gを更に添加混合して液組成物を調製し、この液組成物に更に上記式(2)で表されるカルボベタイン型化合物0.008gを添加混合した。
【0064】
<実施例12>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.122gそれぞれ秤量し、実施例1の液組成物に更にリン酸含有アクリレートモノマーであるトリスアクリロイルオキシエチルフォスフェート0.186gを添加混合した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0065】
<実施例13>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.122gそれぞれ秤量し、実施例1の液組成物に更にリン酸含有アクリレートモノマーであるトリスメタアクリロイルオキシエチルフォスフェート0.186gを添加混合した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0066】
<実施例14>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.126gそれぞれ秤量し、実施例1の液組成物に更にフッ素含有アクリレートモノマーである2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート0.250gを添加混合した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0067】
<実施例15>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.117gそれぞれ秤量し、実施例1の液組成物に更にフッ素含有アクリレートモノマーである2,2,3,3−テトラフルオロプロピルアクリレート0.093gを添加混合した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0068】
<実施例16>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.117gそれぞれ秤量し、実施例1の液組成物に更にフッ素含有アクリレートモノマーである1H,1H,5H−オクタフルオロプロペンチルアクリレート0.093gと式(3)で表されるスルホベタイン型化合物を0.008gをそれぞれ添加混合した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0069】
<実施例17>
多官能アクリレートモノマーとして多官能アクリル酸エステル(第一工業製薬製MF−001)を選定し、アクリル酸を0.100g、上記多官能アクリレートモノマーを1.000gと3官能アクリレートモノマーのビスコート♯300を0.850gと重合開始剤を0.117gそれぞれ秤量した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0070】
<実施例18>
多官能アクリレートモノマーの代わりに多官能アクリレートオリゴマーを用いた。このオリゴマーとしてウレタンアクリレートオリゴマー(第一工業製薬製GX−8801A)を選定した。多官能アクリレートオリゴマーを1.660g、12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.112gそれぞれ秤量した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0071】
<実施例19>
多官能アクリレートモノマーの代わりに多官能アクリレートオリゴマーを用いた。このオリゴマーとしてウレタンアクリレートオリゴマー(荒川化学工業製ビームセット577)を選定した。この多官能アクリレートオリゴマーを1.450g、アクリル酸を0.580g、12%水酸化ナトリウム水溶液を0.537g、重合開始剤を0.122gそれぞれ秤量した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0072】
<実施例20>
多官能アクリレートモノマーの代わりに多官能アクリレートオリゴマーを用いた。このオリゴマーとしてウレタンアクリレートオリゴマー(日本合成化学製紫光7000B)を選定した。この多官能アクリレートオリゴマーを1.656g、12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.112gそれぞれ秤量した。それ以外、実施例1と同じアクリル酸、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0073】
<実施例21>
アクリル酸を0.500g、多官能アクリレートモノマーを4.100g、20%水酸化ナトリウム水溶液を0.278g、重合開始剤を0.276gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0074】
<実施例22>
アクリル酸を0.500g、多官能アクリレートモノマーを4.100g、3.4%水酸化ナトリウム水溶液を0.463g、重合開始剤を0.276gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0075】
<実施例23>
重合開始剤として熱重合開始剤であるペルオキソ二硫酸アンモニウムを用いた。この重合開始剤0.111gを秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0076】
<比較例1>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.046g秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0077】
<比較例2>
12%水酸化ナトリウム水溶液を0.463g秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0078】
<比較例3>
アクリル酸を0.050g、多官能アクリレートモノマーを2.070g、12%水酸化ナトリウム水溶液を0.046g、重合開始剤を0.127gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0079】
<比較例4>
多官能アクリレートモノマーを0.460g、12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.040gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0080】
<比較例5>
多官能アクリレートモノマーを1.606g、12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.009gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0081】
<比較例6>
多官能アクリレートモノマーを1.606g、12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.223gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0082】
<比較例7>
多官能アクリレートモノマーとしてビニル基を2個有するヒドロキシビバリン酸ネオペンチルグリコールジアクリレート(第一工業製薬製ニューフロンティアHPN)を選定した。この多官能アクリレートモノマーを1.576g、12%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.107gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、アルカリ水溶液、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0083】
<比較例8>
アクリル酸を0.500g、多官能アクリレートモノマーを4.100g、30%水酸化ナトリウム水溶液を0.185g、重合開始剤を0.276gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0084】
<比較例9>
アクリル酸を0.500g、多官能アクリレートモノマーを4.100g、2.5%水酸化ナトリウム水溶液を2.220g、重合開始剤を0.276gそれぞれ秤量した以外、実施例1と同じアクリル酸、多官能アクリレートモノマー、重合開始剤、溶媒を用いて、実施例1と同様にして液組成物を調製した。
【0085】
実施例1〜23及び比較例1〜9の液組成物における、アクリル酸、多官能アクリレートモノマー又は多官能アクリレートオリゴマー、アルカリの種類及び各秤量値を表1に、また重合開始剤、溶媒、その他のモノマー、両性型含窒素フッ素系化合物の種類及び各秤量値を表2にそれぞれ示す。なお、表1中、ビニル基を3個有する、実施例1の多官能アクリレートモノマーは「3官能モノマー1」とし、実施例11の多官能アクリレートモノマーは「3官能モノマー2」としてそれぞれ示している。また実施例18〜20の多官能アクリレートオリゴマーは「多官能オリゴマー1」、「多官能オリゴマー2」、「多官能オリゴマー3」として示し、比較例7のビニル基を2個有する多官能アクリレートモノマーは「2官能モノマー」として示している。また表2中、両性型含窒素フッ素系化合物の種類として、例えば「式(2)」と記載したものは、「式(2)に示される化合物」を意味する。
【0086】
また実施例1〜23及び比較例1〜9の液組成物における、アクリル酸に対するアルカリの割合、多官能アクリレートモノマー・多官能アクリレートオリゴマーに対するアクリル酸の割合、アクリル酸と多官能アクリレートモノマー・多官能アクリレートオリゴマーを合計した全アクリルに対する重合開始剤の割合、アルカリ水溶液中の水に対するアクリル酸塩の割合、液組成物中のその他のモノマー及び両性型含窒素フッ素系化合物の各割合を表3に示す。上記「その他のモノマー」とは、リン酸含有アクリレートモノマー又はフッ素含有アクリレートモノマーをいう。
【0087】
<比較試験及び評価>
実施例1〜23及び比較例1〜9で得られた液組成物を、バーコーター(安田精機製作所製、型番No.8)を用いて、厚さ60μm、たて297mm、よこ210mmのポリエチレンテレフタレート(PET)のフィルム基材(東レ社製ルミラー100A60)上にそれぞれ乾燥後の厚さが1〜3μmとなるように塗布し、塗膜を形成した。実施例1〜22及び比較例1〜9の液組成物から形成された塗膜については、70℃の大気雰囲気中にて30秒間乾燥し、更に、この乾燥した塗膜に紫外線を照射量480mJ/cmにて照射し、31種類の防汚性膜を得た。一方、実施例23で得られた液組成物から形成された塗膜については、100℃の大気雰囲気中にて30分間乾燥して1種類の防汚性膜を得た。これらの防汚性膜について、膜表面の水濡れ性(親水性)、撥油性、ヘキサデカンの転落性及び膜の耐水性を評価した。これらの結果を表3に示す。なお、表3における割合は分母を100として算出し、算出値の小数点以下を四捨五入した値である。また比較例8の液組成物は、フロックが発生し、塗料化できなかったため、水とn−ヘキサデカンの各接触角、ヘキサデカンの転落性及び膜の耐水性は測定できなかった。
【0088】
(1) 膜表面の水濡れ性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のイオン交換水を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するPETフィルム上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。この付着した水の接触角を測定した。静止状態で水が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を水の接触角とし、膜表面の水濡れ性(親水性)を評価した。
【0089】
(2) 膜表面の撥油性(接触角)
協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から2μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するPETフィルム上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。この付着した油の接触角を測定した。静止状態で油が膜表面に触れた1秒後の接触角をθ/2法により解析した値を油の接触角とし、膜表面の撥油性を評価した。
【0090】
(3) ヘキサデカンの転落性
上記(2)の膜表面の撥油性試験時に用いたシリンジの針の先端からn−ヘキサデカンの2μLの液滴を水平状態に置かれたPETフィルム上に落下させた後、このPETフィルムを70度傾斜させ、n−ヘキサデカンが流れ落ちるか否か、即ちヘキサデカンの転落性を評価した。更に、転落した試料に関しては、転落角を測定した。協和界面科学製ドロップマスターDM-700を用いて、シリンジに22℃±1℃のn−ヘキサデカン(以下、油という。)を準備し、シリンジの針の先端から5μLの液滴を飛び出した状態にする。次いで評価するPETフィルム上の防汚性膜をこの液滴に近づけて防汚性膜に液滴を付着させる。次に、試料をのせた台を傾けて、油が転落を開始する角度を測定した。
【0091】
(4) 膜の耐水性
評価する防汚性膜をPETフィルムとともに5〜15℃の水道水が500mL/分の速度で流れている水中に、水平状態で24時間置き、目視にて、防汚性膜がPETフィルムから剥離するか否か、即ち膜の耐水性を評価した。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
表3から明らかなように、比較例1では、アクリル酸に対するアルカリが3質量部であったため、耐水試験で膜は膨潤剥離しなかったが、膜表面の水濡れ性及び撥油性に劣り、ヘキサデカンの液滴は転落しなかった。比較例2では、アクリル酸に対するアルカリが28質量部であったため、膜表面の水濡れ性及び撥油性は良好であり、ヘキサデカンの液滴は転落したが、耐水試験で膜は膨潤剥離した。比較例3では、全アクリルに対するアクリル酸の割合が2質量部であったため、耐水試験で膜は膨潤剥離しなかったが、膜表面の水濡れ性及び撥油性に劣り、ヘキサデカンの液滴は転落しなかった。比較例4では、全アクリルに対するアクリル酸の割合が43質量部であったため、膜表面の水濡れ性が良好であったが、撥油性に劣り、ヘキサデカンの液滴は転落せず、耐水試験で膜は膨潤剥離した。
【0096】
また比較例5では、光重合開始剤の割合が全アクリルに対して0.5質量部であったため、耐水試験で膜は膨潤剥離しなかったが、膜表面の水濡れ性及び撥油性に劣り、ヘキサデカンの液滴は転落しなかった。比較例6では、光重合開始剤の割合が全アクリルに対して12質量部であったため、成膜後の膜にひび割れが発生していた。ただし、膜表面の水濡れ性及び撥油性は良好であった。比較例7では、ビニル基が2個のアクリレートであったため、膜表面の水濡れ性が良好であったが、撥油性に劣り、ヘキサデカンの液滴は転落せず、耐水試験で膜は膨潤剥離した。比較例8では、水に対するアクリル酸ナトリウムの割合が101質量部であったため、得られた液組成物はフロック(白だま)が発生し、塗料化することができなかった。比較例9では、水に対するアクリル酸ナトリウムの割合が6質量部であったため、耐水試験で膜は膨潤剥離しなかったが、膜表面の水濡れ性及び撥油性に劣り、ヘキサデカンの液滴は転落しなかった。
【0097】
これに対して、表3から明らかなように、実施例1〜23では、アクリル酸に対してアルカリが5〜23質量部の範囲に含まれ、多官能アクリレートモノマー・多官能アクリレートオリゴマーに対してアクリル酸が5〜40質量部の範囲に含まれ、全アクリルに対して重合開始剤が1〜10質量部の範囲に含まれ、かつ水に対してアクリル酸塩が8〜60質量部の範囲に含まれていたため、膜表面の水濡れ性及び撥油性は良好であり、ヘキサデカンの液滴は転落せずに、耐水試験で膜は膨潤剥離しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の防汚性膜形成用液組成物は、機械油を使用する工場、油が飛散する厨房、油蒸気が立ちこめるレンジフード等において、油汚れを防止する分野に用いられる。