特開2017-155210(P2017-155210A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-155210(P2017-155210A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】ポリマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 4/00 20060101AFI20170810BHJP
   C08F 20/18 20060101ALI20170810BHJP
【FI】
   C08F4/00
   C08F20/18
【審査請求】有
【請求項の数】12
【出願形態】OL
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2016-202901(P2016-202901)
(22)【出願日】2016年10月14日
(31)【優先権主張番号】特願2016-37274(P2016-37274)
(32)【優先日】2016年2月29日
(33)【優先権主張国】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】田儀 陽一
(72)【発明者】
【氏名】村上 賀一
【テーマコード(参考)】
4J015
4J100
【Fターム(参考)】
4J015EA02
4J015EA04
4J015EA06
4J015EA07
4J015EA08
4J015EA09
4J100AL03P
4J100AL05P
4J100AL08P
4J100BC04P
4J100CA01
4J100DA01
4J100DA04
4J100EA09
4J100FA04
4J100FA19
(57)【要約】
【課題】ラジカル重合開始剤やリビングラジカル重合に使用する特殊な材料を使用することなく、市販の材料で、しかも厳密な重合条件を必要とせずに、分子量や分子量分布を制御したポリマーや、構造が複雑なポリマーを、所望の構造に制御したポリマーが得られる新たな重合技術を提供すること。
【解決手段】(1)不飽和結合を有するモノマー、(2)該モノマーの重合開始基として機能する一般式1及び/又は一般式2で表せる基(式中のXはCl又はBr)が分子内に1個以上導入されている有機化合物、(3)ヨウ素化剤とを、混合及び加温する重合工程を有するポリマーの製造方法。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(1)不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーと、(2)該モノマーの重合開始基として機能する下記一般式1及び/又は下記一般式2で表せる基が、分子内に1個以上導入されている有機化合物と、(3)ヨウ化金属、第四級アンモニウムアイオダイド、第四級ホスホニウムアイオダイド及び第四級アンモニウムトリヨージドからなる群から選ばれる1種以上のヨウ化物塩又はトリヨージド塩であるヨウ素イオン含有化合物とを、混合及び加温する重合工程を有することを特徴とするポリマーの製造方法。
(一般式1中、R1は、H又は任意のアルキル基又はアシル基、R2は、任意のアルキル基又はアリール基、Xは、Cl又はBr、Yは、O又はNHを表す。)
(一般式2中、R3は、H又は任意のアルキル基又はアリール基、R4は、アリール基又はシアノ基又はカルボキシル基又はエステル基又はアミド基、Xは、Cl又はBrを表す。)
【請求項2】
前記重合工程で、アゾ系ラジカル重合開始剤、過酸化物系ラジカル重合開始剤及び光重合ラジカル重合開始剤のいずれについても使用しない請求項1に記載のポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記重合工程で、さらに、(4)ヨウ素、ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物及び有機塩基を有する化合物からなる群から選ばれる少なくともいずれかを使用する請求項1又は2に記載のポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記重合工程の際に、さらに有機溶媒を使用する請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、アルコール系、グリコール系、アミド系、スルホキシド系及びイオン液体からなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項4に記載のポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物が、N−アイオドイミド系化合物である請求項3〜5のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記N−アイオドイミド系化合物が、N−アイオドスクシンイミド、N−アイオドフタルイミド、N−アイオドシクロヘキサニルイミド、1,3−ジアイオド−5,5−ジメチルヒダントイン及びN−アイオドサッカリンからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項6に記載のポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記一般式1で表せる基が、下記一般式3で表せる基である請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
(一般式3中、Yは、O又はNH)
【請求項9】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1及び/又は前記一般式2で表せる基が分子内に2個導入された重合開始基含有ポリマーであり、前記重合工程で得られるポリマーが、ブロック構造或いは櫛形構造をもつポリマーとなる請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1及び/又は前記一般式2で表せる基が分子内に3個以上導入された化合物であり、前記重合工程で得られるポリマーが、分岐構造型ポリマー或いはスターポリマー或いはグラフトコポリマーとなる請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1及び/又は前記一般式2で表せる基が分子内に3個以上導入されたビニルポリマーであり、前記重合工程で得られるポリマーが、前記ビニルポリマーに前記(1)のモノマーが重合してグラフトした構造のポリマー或いはボトルブラシポリマーとなる請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項12】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1及び/又は前記一般式2で表せる基が分子内に1個以上導入されたモノマーと、基材表面に結合する反応性基を有するモノマーとの共重合体であり、該共重合体で基材を処理して基材表面を改質し、その後に、該改質した基材表面上で、前記(1)のモノマーと前記(3)のヨウ素イオン含有化合物とを混合及び加温して、前記基材表面に濃厚ブラシ構造のポリマーを製造する請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーによる新たなポリマーの製造方法、特に、複雑な構造のポリマーを自在に得ることを可能にできるポリマーの製造方法に関し、より詳しくは、コスト的に優位で、ラジカル重合開始剤を使用することなく、容易に複雑な構造のポリマーを得ることができる産業的に有用な重合法、それに加えて、分子量が揃っており、且つ、構造が所望の状態に制御されたポリマーを提供する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ビニル基やビニリデン基やビニレン基等を有する不飽和結合を有するモノマー(以下、単に「モノマー」と称す場合がある)を重合して得られるポリマーは、ラジカル重合、イオン重合などによって得られ、汎用性が高く、様々なところで使用されている。例えば、ラジカル重合に関しては、ラジカルを発生させるために必要なアゾ系ラジカル重合開始剤や過酸化物系重合開始剤を使用しての熱重合や、光ラジカル重合開始剤を使用しての光重合によってポリマーを得ている。
【0003】
一方、これらのラジカル重合では、そのラジカルの寿命は非常に短いことと、ラジカル同士のカップリング反応や、ラジカルが他から水素を引き抜きラジカルが消滅してしまう不均化反応により、重合が停止してしまうという課題がある。この反応の停止によって、分子量が揃わず、例えば、ブロックコポリマー等の構造が制御されたポリマーを得ることができなかった。これに対し、ポリマーの分子量や構造を制御するために発明されたのが、リビングラジカル重合であり、様々な方法があり、検討されている(特許文献1〜7)。その結果、分子量や構造が所望の状態に制御されたポリマーを得ることができ、工業的にも使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平8−179111号公報
【特許文献2】特開2003−227921号公報
【特許文献3】特表2000−500516号公報
【特許文献4】特表2000−514479号公報
【特許文献5】特表2000−515181号公報
【特許文献6】国際公開第1999/05099号
【特許文献7】特開2007−277533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記したように、ラジカル重合開始剤を用いたラジカル重合方法は有用であるものの、例えば、ブロックコポリマーやグラフトコポリマーやスターポリマーなど、構造が複雑なポリマーは、モノマーを通常のラジカル重合する方法では得ることができない。これに対し、リビングラジカル重合によれば、構造が複雑な上記したようなポリマーを得ることができるものの、その場合には、下記の課題があった。すなわち、リビングラジカル重合では、特殊な化合物を使用したり、金属触媒を使用したりするため、それらの化合物や触媒を除去する必要があり、工業的には煩雑で複数の工程が必要であり、また、その重合条件も、使用するモノマーの精製を必要としたり、窒素雰囲気下で行う必要があるなど、厳密にする必要があった。
【0006】
したがって、本発明の目的は、ラジカル重合開始剤や、リビングラジカル重合に使用する特殊な材料や金属系の触媒を使用することなく、簡単な市販の材料を使用し、しかも厳密な重合条件を必要とせずに簡便な方法で、分子量や分子量分布を制御したポリマーや、ブロックコポリマーやグラフトコポリマーやスターポリマーなどの構造が複雑なポリマーを、所望の構造に制御されたポリマーとして得ることができる、工業的に有用な新規なポリマーの製造方法を提供することにある。さらに、本発明の目的は、このようなポリマーの製造方法を見出すことで、構造が所望の状態に制御された有用なポリマーを、工業的に安定して提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討の結果、ラジカル重合性モノマーと、本発明で規定する重合開始基として機能する特定の基が導入された有機化合物と、ヨウ素イオンを有する化合物を使用し、これらを混合、加温(加熱)するだけで、容易に重合が進行して、ポリマーを得ることができる新規な重合方法を見出して本発明を達成した。本発明者らは、さらに、ヨウ素、或いはヨウ素を遊離することができる化合物や有機塩基を使用することによって、得られるポリマーの構造や分子量を、極めて簡便に制御できる新規な重合方法を見出した。本発明者らが見出した新たな重合方法によれば、従来の重合方法に使用されているラジカル重合開始剤や、リビングラジカル重合に使用する特殊な材料や金属系の触媒を使用せずとも、必要な材料を混合及び加温するだけでポリマーを簡便に得られ、さらには、形態や特質が所望する状態に制御されたポリマーを得ることができるようになる。なお、本発明で規定する「加温」とは、室温以上にすることを意味しており、例えば、40℃以上であればよく、その温度は重合速度との兼ね合いで決定すればよい。
【0008】
すなわち、本発明は、少なくとも、(1)不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーと、(2)該モノマーの重合開始基として機能する下記一般式1及び/又は下記一般式2で表せる基が、分子内に1個以上導入されている有機化合物と、(3)ヨウ化金属、第四級アンモニウムアイオダイド、第四級ホスホニウムアイオダイド及び第四級アンモニウムトリヨージドからなる群から選ばれる1種以上のヨウ化物塩又はトリヨージド塩であるヨウ素イオン含有化合物とを、混合及び加温する重合工程を有することを特徴とするポリマーの製造方法を提供する。
(一般式1中、R1は、H又は任意のアルキル基又はアシル基、R2は、任意のアルキル基又はアリール基、Xは、Cl又はBr、Yは、O又はNHを表す。)
(一般式2中、R3は、H又は任意のアルキル基又はアリール基、R4は、アリール基又はシアノ基又はカルボキシル基又はエステル基又はアミド基、Xは、Cl又はBrを表す。)
【0009】
上記したポリマーの製造方法の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。前記重合工程で、アゾ系ラジカル重合開始剤、過酸化物系ラジカル重合開始剤及び光重合ラジカル重合開始剤のいずれについても使用しないこと;前記重合工程で、さらに、(4)ヨウ素、ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物及び有機塩基を有する化合物からなる群から選ばれる少なくともいずれかを使用すること;前記重合工程の際に、さらに、有機溶媒を使用すること;前記有機溶媒が、アルコール系、グリコール系、アミド系、スルホキシド系及びイオン液体からなる群から選ばれる少なくともいずれかであること;前記ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物が、N−アイオドイミド系化合物であること;前記N−アイオドイミド系化合物が、N−アイオドスクシンイミド、N−アイオドフタルイミド、N−アイオドシクロヘキサニルイミド、1,3−ジアイオド−5,5−ジメチルヒダントイン及びN−アイオドサッカリンからなる群から選ばれる少なくともいずれかであること;前記一般式1で表せる基が、下記一般式3で表せる基であることが挙げられる。
【0010】
(一般式3中、Yは、O又はNH)
【0011】
上記したポリマーの製造方法の好ましい形態としては、下記のものが挙げられる。そして、その簡便な手法でありながら、(2)の有機化合物の構成を、下記に挙げるいずれかに変えるだけで、例えば、ABAブロックコポリマー、スターポリマー、ボトルブラシポリマー、濃厚ポリマーブラシ、異種グラフト・ブロック・多分岐ポリマーなどの所望する多様な構成のポリマーを得ることができる。
【0012】
すなわち、上記したポリマーの製造方法において、前記(2)の有機化合物が、前記一般式1及び/又は前記一般式2で表せる基が分子内に2個導入された重合開始基含有ポリマーであると、前記重合工程で得られるポリマーが、ブロック構造或いは櫛形構造をもつポリマーとなる。また、前記(2)の有機化合物が、前記一般式1及び/又は前記一般式2で表せる基が分子内に3個以上導入された化合物であると、前記重合工程で得られるポリマーが、分岐構造型ポリマー或いはスターポリマー或いはグラフトコポリマーとなる。また、前記(2)の有機化合物が、前記一般式1及び/又は一般式2で表せる基が分子内に3個以上導入されたビニルポリマーであると、前記重合工程で得られるポリマーが、前記ビニルポリマーに前記(1)のモノマーが重合してグラフトした構造のポリマー或いはボトルブラシポリマーとなる。また、前記(2)の有機化合物が、前記一般式1及び/又は一般式2で表せる基が分子内に1個以上導入されたモノマーと、基材表面に結合する反応性基を有するモノマーとの共重合体であり、該共重合体で基材を処理して基材表面を改質し、その後に、該改質した基材表面上で、前記(1)のモノマーと前記(3)のヨウ素イオン含有化合物とを混合及び加温すると、前記基材表面に濃厚ブラシ構造のポリマーが製造される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、少なくとも、モノマーの重合開始基として機能する特定の基を有する有機化合物と、ラジカル重合性モノマーと、ヨウ素イオンを有する化合物を、混合、加温(加熱)するだけで、ポリマーを得ることができる非常に簡便なポリマーの製造方法が提供される。また、本発明によれば、その系にヨウ素を遊離する化合物を添加するだけで、分子量や構造が制御されたポリマーを容易に得ることができる、有用なポリマーの製造方法が提供される。本発明によれば、上記した優れた製造方法を利用することで、例えば、ABAブロックコポリマー、スターポリマー、ボトルブラシポリマー、濃厚ポリマーブラシ、異種グラフト・ブロック・多分岐ポリマーなどの、工業的な製造が困難で、煩雑であった複雑な構造のポリマーを容易に得ることが可能になる。
【0014】
本発明の製造方法は、従来の方法に比較し、製造に用いる材料の種類が低減されるため、環境的に有用であり、また、コスト的にも優位である。さらに、本発明のポリマーの製造方法は、従来から使用されているアゾ系の重合開始剤や過酸化物系の重合開始剤のような、爆発的な化合物を使用する必要がないので、安全性が高く、また、それらの開始剤の場合のように、材料を冷凍・冷蔵する必要もない。また、本発明の製造方法は、重合開始基に、塩素原子や臭素原子が結合した化合物を使用するので、その結合は比較的安定であり、リビングラジカル重合で用いられている、非常に有用であるものの、熱や光で分解してしまうようなヨウ素原子を持った重合開始化合物を使用しなくてもよいので、材料の保管などに大きなメリットがあり、その実用価値は極めて高い。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】開始基ポリマー−1のIRチャートを示す図である。
図2】開始基ポリマー−1のNMRチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、好ましい実施の形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らは、本発明の目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、従来の安全性や保存性に課題のある材料を用いることなく、簡単な市販の材料を使用して、複雑な構造のポリマーを容易に得ることができる、工業的に極めて有用な、全く新たな構成の重合方法を見出して本発明を達成した。すなわち、本発明の製造方法では、ラジカル重合性モノマーと、本発明で規定する重合開始基として機能する特定の基が導入された有機化合物と、ヨウ素イオンを有する化合物を使用して、これらを混合、加温(加熱)するだけで、容易に重合が進行して、ポリマーを得ることができる。具体的には、本発明のポリマーの製造方法は、以下のように構成される。
【0017】
少なくとも、(1)不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーと、(2)該モノマーの重合開始基として機能する下記一般式1及び/又は一般式2で表せる基が、分子内に1個以上導入されている有機化合物と、(3)ヨウ化金属、第四級アンモニウムアイオダイド、第四級ホスホニウムアイオダイド及び第四級アンモニウムトリヨージドからなる群から選ばれる1種以上のヨウ化物塩又はトリヨージド塩であるヨウ素イオン含有化合物とを、混合及び加温する重合工程を有することを特徴とする。以下、本発明を構成するそれぞれの材料について詳細に説明する。
(一般式1中、R1は、H又は任意のアルキル基又はアシル基、R2は、任意のアルキル基又はアリール基、Xは、Cl又はBr、Yは、O又はNHを表す。)
(一般式2中、R3は、H又は任意のアルキル基又はアリール基、R4は、アリール基又はシアノ基又はカルボキシル基又はエステル基又はアミド基、Xは、Cl又はBrを表す。)
【0018】
[(1)不飽和結合を有するモノマー]
本発明のポリマーの製造方法では、ポリマーの形成成分である、(1)不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーを必須成分として使用する。本発明に使用する不飽和結合を有するモノマーとしては、例えば、ビニル基、ビニリデン基、ビニレン基を有するモノマー等の、従来公知の不飽和結合を有するモノマーが挙げられる。すなわち、下記に挙げるような、従来公知のラジカル重合しうるモノマーであればいずれも使用でき、特に限定されない。
【0019】
例えば、スチレン、ビニルトルエン、ビニルヒドロキシベンゼン、クロロメチルスチレン、ビニルナフタレン、ビニルビフェニル、ビニルエチルベンゼン、ビニルジメチルベンゼン、α−メチルスチレン、エチレン、プロピレン、イソプレン、ブテン、ブタジエン、1−ヘキセン、シクロヘキセン、シクロデセン、ジクロロエチレン、クロロエチレン、フロロエチレン、テトラフロロエチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、イソシアナトジメチルメタンイソプロペニルベンゼン、フェニルマレイミド、シクロヘキシルマレイミド、ヒドロキシメチルスチレン、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、ビニルアミン、アリルアミン、アミノスチレン、ビニルメチルアミン、アリルメチルアミン、メチルアミノスチレン、ビニルピリジン、ビニルイミダゾール、ビニルベンゾトリアゾール、ビニルカルバゾール、ジメチルアミノスチレン、ジアリルメチルアミン、トリメチルアンモニウムスチレンクロライド、ジメチルラウリルアミノスチレンクロライド、ビニルメチルピリジニルクロライド、ジアリルジメチルアンモニウム塩クロライドなどのモノマーが挙げられる。
【0020】
また、下記のような(メタ)アクリレート系や(メタ)アクリルアミド系モノマーが挙げられる。具体的には、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2−メチルプロパン(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、テトラデシル(メタ)アクリレート、オクタデシル(メタ)アクリレート、べへニル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、t−ブチルシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、イソボロニル(メタ)アクリレート、トリメチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、シクロデシル(メタ)アクリレート、シクロデシルメチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、t−ブチルベンゾトリアゾールフェニルエチル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ナフチル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレートなどの、脂肪族、脂環族、芳香族アルキル(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0021】
水酸基を含有するモノマーとしては、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシへキシル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジオールモノ(メタ)アクリレートなどの、アルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0022】
グリコール基を有するモノマーとしては、ポリ(n=2以上、以下同様)エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、モノ又はポリエチレングリコールモノ又はポリプロピレングリコールランダムコポリマーのモノ(メタ)アクリレート、モノ又はポリエチレングリコールモノ又はポリプロピレングリコールブロックコポリマーのモノ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールのモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0023】
さらには、(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノオクチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノステアリルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノオレイルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノステアリン酸エステル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノノニルフェニルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノエチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノオクチルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールモノラウリルエーテル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノメチルエーテル(メタ)アクリレートなどの(ポリアルキレン)グリコールモノアルキル、アルキレン、アルキンエーテル又はエステルのモノ(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0024】
また、酸基(カルボキシル基、スルホン酸、リン酸)を有するモノマーとして、以下のようなモノマーが挙げられる。カルボキシル基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、アクリル酸二量体、イタコン酸、フマル酸、クロトン酸、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートや4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸などを反応させたモノマー、マレイン酸やイタコン酸のモノエステル系のモノマーが挙げられる。また、スルホン酸基を有するモノマーとしては、例えば、ジメチルプロピルスルホン酸(メタ)アクリルアミド、スルホン酸エチル(メタ)アクリレート、スルホン酸エチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。リン酸基を有するモノマーとしては、例えば、(ジ、トリ)メタクリロイロキシエチルリン酸エステルなどが挙げられる。
【0025】
酸素原子含有モノマーとしては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、オキセタニルメチル(メタ)アクリレート、モルホリノ(メタ)アクリレート、メチルモルホリノ(メタ)アクリレート、メチルモルホリノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0026】
アミノ基を有するモノマーとしては、例えば、以下のものが挙げられる。一級アミノ基を有するモノマーとしては、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられ、2級アミノ基を有するモノマーとしては、t−ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート、t−ブチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。3級アミノ基を有するモノマーとしては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、N−エチルモルホリノ(メタ)アクリレート、ジメチルプロピル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。4級アミノ基を有するモノマーとしては、塩化トリメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、塩化ジエチルメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、塩化ベンジルジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、トリメチルアミノエチル(メタ)アクリレートメチル硫酸塩などが挙げられる。また、前記したグリシジル(メタ)アクリレートの如きグリシジル基含有モノマーに、1級、2級のアミンを反応させて得られるモノマーなどが挙げられる。
【0027】
窒素原子含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクロイロオキシエチルイソシアネート、(メタ)アクロイロオキシエトキシエチルイソシアネート、及び、それらのカプロラクトンなどでイソシアネートをブロックしてあるブロック化イソシアネート含有(メタ)アクリレート、エチレンイミノエチル(メタ)アクリレートや(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミドなどのアミド系単量体、N−ビニルピロリドン、N−ビニルアセトアミド、N−ビニルカプロラクタムなどが挙げられる。
【0028】
さらに、その他のモノマーとして、下記のものも使用できる。(メタ)アクリロイロキシエチルモノ又はポリカプロラクトンなどの前記(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルを開始剤として、ε−カプロラクトンやγ−ブチロラクトンなどのラクトン類を開環重合して得られるポリエステル系モノ(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレートや2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルスクシネートなどの前記した(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルに2塩基酸を反応させてハーフエステル化した後、もう一方のカルボン酸にアルコール、アルキレングリコールを反応させたエステル系(メタ)アクリレート;
【0029】
グリセロールモノ(メタ)アクリレートやジメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレートなどの3個以上の水酸基をもつ多官能水酸基化合物のモノ(メタ)アクリレート;3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、オクタフルオロオクチル(メタ)アクリレート、テトラフルオロエチル(メタ)アクリレートなどのハロゲン原子含有(メタ)アクリレート;トリメトキシシリル基やジメチルシリコーン鎖をもったケイ素原子含有モノマー;2−(4−ベンゾキシ−3−ヒドロキシフェノキシ)エチル(メタ)アクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5−(メタ)アクリロイロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールの如き紫外線を吸収するモノマー;さらにエチル−α−ヒドロキシメチルアクリレートなどのα位水酸基メチル置換アクリレート類などである。
【0030】
さらに、環状のビニル系モノマーが使用できるし、2個以上の付加重合性基を有するモノマーも必要に応じて使用できる。例えば、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンのポリアルキレングリコール付加物の(メタ)アクリル酸エステル、ビスフェノールAのアルキレンオキサイド付加物の(メタ)アクリル酸エステルなどが挙げられる。上記した不飽和結合を有するモノマーは、1種以上を使用することができる。本発明は、ABAブロックコポリマー、スターポリマー、ボトルブラシポリマー、濃厚ポリマーブラシ、異種グラフト・ブロック・多分岐ポリマーなどを簡便に得ることを目的としているため、通常は、2種以上で使用される。以下、これらのモノマーを、「(1)のモノマー」と記載する場合がある。
【0031】
[(2)一般式1及び/又は一般式2で表せる基を分子内に1個以上有する有機化合物]
次に、本発明のポリマーの製造方法を特徴づける、上記した(1)のモノマーの重合開始基として機能する、(2)の有機化合物について説明する。本発明者らの検討によれば、下記一般式1又は2で表せる構造を有する基(以下、「式1又は2の基」とも呼ぶ)の存在下、(1)のモノマーを混合して加温すると重合が開始し、結果として、本発明を特徴づける上記特有の基から重合が開始された構造が制御された種々のポリマーが得られる。本発明で使用し、本発明を特徴づける(2)の有機化合物は、以下に示すような構造が分子内に導入されていればよく、この構造が、(1)のモノマーの重合開始基として機能する。(2)の有機化合物は、従来から使用されているアゾ系の重合開始剤や過酸化物系の重合開始剤と比較し、安全性が高く、従来の開始剤のように材料を冷凍・冷蔵する必要もなく、また、その構造中に塩素原子や臭素原子が結合した化合物を使用するので、その結合は比較的安定であり、リビングラジカル重合で用いるヨウ素原子が結合した重合開始化合物のように、熱や光で分解してしまうこともない。
【0032】
(一般式1中、R1は、H又は任意のアルキル基又はアシル基、R2は、任意のアルキル基又はアリール基、Xは、Cl又はBr、Yは、O又はNHを表す。)
(一般式2中、R3は、H又は任意のアルキル基又はアリール基、R4は、アリール基又はシアノ基又はカルボキシル基又はエステル基又はアミド基、Xは、Cl又はBrを表す。)
【0033】
本発明で規定する「式1又は2の基」は、その構造中にXとして、塩素原子(クロロとも呼ぶ)又は臭素原子(ブロモとも呼ぶ)が結合しており、これらの原子が、反応的に、脱離や置換できる基であることが特徴であり、さらに、これらの原子が結合している炭素に、少なくとも1個以上の電子吸引性基である、エステル基、アミド基、シアノ基、カルボキシル基或いはアリール基などが結合しているものである。本発明の製造方法では、このような基が分子内に1個以上導入されている構造を有する有機化合物であれば、どのようなものでも使用できる。(2)の有機化合物としては、例えば、低分子量化合物、モノマー、ポリマー等のいずれの形態ものも使用できる。以下、「式1の基」と「式2の基」について、それぞれ説明する。
【0034】
まず、「式1の基」を具体的に例示するが、下記に限定されるものではない。「式1の基」としては、例えば、以下に示すような、その構造中にエステル結合やアミド結合を有するものが挙げられる。本発明で用いる「式1の基」が分子内に1個以上導入されている有機化合物は、下記に示したように、エステル結合やアミド結合を介して、塩素原子(Cl)又は臭素原子(Br)を結合させている。
【0035】
例えば、下記のような、β−クロロ又はブロモアルカン酸の、エステル結合又はアミド結合を有する基などが挙げられる。
【0036】
例えば、下記のような、β−クロロ又はブロモアリール置換アルカン酸の、エステル結合又はアミド結合を有する基などが挙げられる。
【0037】
例えば、下記のような、クロロ又はブロモ置換アセトアルカン酸の、エステル結合又はアミド結合を有する基などが挙げられる。
【0038】
次に、「式2の基」について具体的に例示するが、下記に限定されるものではない。「式2の基」としては、例えば、以下に示す基が挙げられ、これらの基が有機化合物に直接結合しているものは、本発明で規定する(2)の有機化合物成分としていずれも使用できる。
【0039】
例えば、下記のような、クロロ又はブロモ置換アリール置換アルキル基などが挙げられる。
【0040】
例えば、下記のような、クロロ又はブロモ置換シアノ基含有アルキル基などが挙げられる。
【0041】
例えば、下記のような、クロロ又はブロモ置換アルカン酸基、それらのカルボン酸のエステル化物などが挙げられる。
【0042】
例えば、下記のような、クロロ又はブロモ置換アルカン酸アミド、それらの窒素のアルキルモノ置換、ジ置換の基などが挙げられる。
【0043】
上記に例示したような「式1又は2の基」の、有機化合物への導入は、任意の方法とすることができ、特に限定されない。例えば、「式1の基」を導入する場合、対応するカルボン酸基含有化合物を、エステル化或いはアミド化することで得られるし、或いは、エポキシ基を有する化合物に、「式1の基」をもつ化合物を反応させることで得られる。また、上記「式1又は2の基」の構造中のX、すなわち、塩素又は臭素が結合している基のところに水酸基が結合している化合物を用い、ハロゲン化リン、濃塩酸や臭化水素酸を使用して該化合物の水酸基部分を塩素や臭素へと置換することで導入してもよい。また、上記「式1又は2の基」の構造中のC−Xの部分に不飽和結合を有する化合物を用い、該不飽和結合に塩化水素や臭化水素を付加させてクロロやブロモを導入してもよい。上記した方法は、例示であり、特にこれらに限定されず、従来公知の化合物、有機反応が使用される。
【0044】
本発明のポリマーの製造方法では、(2)の有機化合物として、先述した(1)のモノマーの重合開始基として機能する上記した「式1又は2の基」が導入されていれば、どのような有機化合物を使用してもよい。本発明者らの検討によれば、「式1の基」の中でも特に、開始重合反応の速度が高く、しかも市販品の化合物で合成が容易にできることから、下記一般式3で表せる構造の基(以下、「式3の基」と呼ぶ)が導入されている有機化合物を用いることが好ましい。
(Yは、O又はNH)
【0045】
上記「式3の基」は、従来公知の材料や方法で得ることができ、「式3の基」が導入された有機化合物も簡便に得ることができる。その方法は、特に限定されない。下記に、「式3の基」が導入された有機化合物が容易に合成できる一例について説明する。2−ブロモイソ酪酸系化合物を原料として、「式3の基」を導入する有機化合物に、そのカルボキシ基及びその誘導体と反応しうる基を有する有機化合物を用い、これらを反応させることによって得ることができる。その際に使用する化合物は特に限定されない。2−ブロモイソ酪酸系化合物としては、例えば、2−ブロモイソ酪酸、2−ブロモイソ酪酸ブロマイド、無水2−ブロモイソ酪酸が挙げられ、これらの化合物と、水酸基、アミノ基、エポキシ基、カルボジイミド基、オキサゾリン基、イソシアネート基、エチレンイミン基などの、カルボキシル基系の化合物と反応しうる対となる反応性基を有する有機化合物とを反応させて、エステル結合、アミド結合にて、「式3の基」を有機化合物に導入することができる。
【0046】
本発明の製造方法で使用する(2)の化合物は、前記(1)のモノマーの重合開始基として機能する、上記した「式1又は2の基」、中でもより好ましい「式3の基」(これらを、まとめて「式1〜3の基」と呼ぶ場合がある)が、分子内に1個以上導入されている有機化合物である。先に述べたように、使用する有機化合物としては、どのような形態のものであってもよく、従来公知の有機化合物が使用される。従来公知の有機化合物は種類が非常に多く例示することはできない。以下に、本発明を特徴づける(2)の有機化合物を使用することで、従来、重合に用いられているアゾ系ラジカル重合開始剤、過酸化物系ラジカル重合開始剤及び光重合ラジカル重合開始剤のいずれについても使用することなく、(1)のモノマーの重合が可能になり、様々な構造のポリマーの形成が可能になることについての説明をする。
【0047】
本発明で規定する「式1〜3の基」が1個分子内に導入されている(2)の有機化合物を使用して、(1)のモノマーを重合すると、その有機化合物を開始基としてその有機化合物から重合が開始し、ラジカル重合性モノマーを構成成分とする直鎖状のポリマーを得ることができる。また、「式1〜3の基」が2個分子内に導入されている(2)の有機化合物を使用した場合は、その有機化合物から2本の鎖が伸びる形で重合が開始する構造となる。このため、使用する(2)の有機化合物の形態がポリマー成分であった場合、当該有機化合物の両末端に「式1〜3の基」があると、そのポリマーをBとし、(1)のモノマーの重合物をAとすると、A−B−Aブロックコポリマーとすることができる。また、この場合に、使用する(2)の有機化合物のポリマーの形態が、分子中に「式1〜3の基」が2個ぶら下がっている場合は、得られるポリマーを、二本の櫛形構造のポリマーとすることができる。(2)の有機化合物としてのポリマーには、従来公知のものが使用でき、特に限定されない。例えば、ポリエーテル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリオレフィン、ポリイミド、ポリアクリル、ポリメタクリル、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリシリコーン、ポリハロゲン化オレフィン、ポリビニルアルコールなどのポリマーが挙げられる。これらは、単独重合物、共重合物、グラフトコポリマー、ブロックコポリマーのいずれの構造を有するポリマーであってもよい。
【0048】
また、本発明の製造方法において、(2)の有機化合物として、3個以上の複数個の「式1〜3の基」が導入されている有機化合物を使用した場合は、分岐構造型のポリマーや、スターポリマーや、グラフトポリマーを得ることができる。その中でも、(2)の有機化合物として、3個以上の「式1〜3の基」が導入されているビニルモノマーの重合物を使用することが好ましい。すなわち、(2)の有機化合物に、「式1〜3の基」が導入されているビニルポリマーを使用すると、(1)のモノマーが重合して得られるポリマーが、(2)の有機化合物であるビニルポリマーにグラフトした構造や、ボトル状の構造を有するボトルブラシポリマーになる。本発明の製造方法を上記のように構成することで、特異性質を有する有用なポリマーを、工業的に簡便に且つ安価に得ることが可能になる。「式1〜3の基」が導入されているビニルポリマーは、「式1〜3の基」が導入されているモノマーを重合して得てもよいし、予め、水酸基などを有するモノマーを重合した後、「式1〜3の基」を導入してもよい。また、「式1〜3の基」が導入されているモノマーと、前記した他のモノマーとを共重合させてコポリマーとしたものであってよい。この場合、「式1〜3の基」が導入されているモノマーの配合量は任意であり、特に限定されない。
【0049】
また、(2)の有機化合物として用いる、上記した「式1〜3の基」が導入されているポリマーは、リビングラジカル重合で得ると、分子量分布が狭くなるので好ましい。リビングラジカル重合の方法の中では、「式1〜3の基」が導入されているモノマーを使用して、ニトロキサイドラジカルを使用するニトロキサイド法(NMP法)や、ジチオエステル化合物などを使用する可逆的付加開裂型連鎖移動重合(RAFT法)や、ヨウ素化合物と有機触媒を使用する可逆的移動触媒重合(RTCP法)などが使用され、特に限定されない。しかし、酸化還元を利用する原子移動ラジカル重合では、モノマーの重合と、クロロ基又はブロモ基からの重合開始があるので、ゲル化してしまう可能性があるので好ましくない。
【0050】
さらには、「式1〜3の基」が導入されているモノマーと、他のモノマー成分として、特に反応性モノマーを用い、これらを共重合させて、この反応性基を有する共重合体を使用して物品の表面を処理し、その後に、共重合体を構成している「式1〜3の基」を重合開始基として、(1)のモノマーを重合することで、物品表面にポリマーをグラフト的に導入することができる。すなわち、グラフト的に導入したポリマーによって物品を表面改質させることができる。さらには、その「式1〜3の基」が導入されているモノマーを用いての重合方法がリビングラジカル重合であった場合、該特有のモノマーの共重合体への導入速度が一定で且つ停止反応がないので、ポリマーが伸び切り鎖であり且つ分子量の揃った、濃厚ポリマーブラシ構造を導入することができる。具体的には、「式1〜3の基」が導入されているモノマーと、アルコキシシリル基を有するビニルモノマーを共重合させて、「式1〜3の基」が導入され且つアルコキシシリル基を有するポリマー成分とし、これをガラス、金属、プラスチックなどの基材表面に塗布して、表面改質し、その後に本発明を特徴づける「式1〜3の基」を重合開始基として、(1)のモノマーの重合をすることで、物品に濃厚ブラシ構造を容易に導入することができる。
【0051】
以上のように、本発明では、(2)の有機化合物として、「式1〜3の基」が1個以上導入されている有機化合物を使用することができるが、より好ましくは、「式1〜3の基」を2個以上有する化合物を使用する。このように構成することで、従来の技術では容易に得ることができなかった構造のポリマーを簡便に得ることができるので好ましい。「式1〜3の基」が1個の場合は、先に述べたように、本発明の製造方法で得られるポリマーは、直鎖状のものになる。直鎖状のポリマーは、通常のラジカル重合やリビングラジカル重合でも得ることができるので、「式1〜3の基」が2個以上導入されている有機化合物を使用する本発明の製造方法に比べると、そのメリットは、あまり大きくはない。
【0052】
また、(2)の有機化合物に、導入する「式1〜3の基」の量を調整することで、得られるポリマーの分子量をコントロールできる場合があり、このことも、本発明の製造方法の特徴である。本発明の製造法では、(2)の有機化合物に導入された「式1〜3の基」から重合が開始されるので、「式1〜3の基」を含む化合物1molに対して、(1)のモノマーの量を調整することで、製造するポリマーの分子量が調整できる。しかし、この重合はラジカル重合のような停止反応を伴い、カップリングして高分子量ができる場合があり、その場合は開始基の量で調整はできない。なお、その場合は、後述する触媒を添加することによって、回避することができる。
【0053】
[(3)ヨウ化物塩又はトリヨージド塩であるヨウ素イオン含有化合物]
本発明のポリマーの製造方法では、(3)ヨウ化金属、第四級アンモニウムアイオダイド、第四級ホスホニウムアイオダイド及び第四級アンモニウムトリヨージドからなる群から選ばれる1種以上のヨウ化物塩又はトリヨージド塩であるヨウ素イオン含有化合物を使用することを必須とする。以下、これらの化合物について説明する。これらの化合物の作用については、詳細は解明されていないが、この化合物を使用することによって、前記した「式1〜3の基」の臭素がヨウ素に置き換わり、ヨウ素が移動する重合が起こると考えられる。また、この化合物が酸化還元の触媒として作用して重合を進行させる可能性もある。以下、上記した化合物を「ヨウ素化剤」と称す場合がある。
【0054】
これらの化合物は、いずれもヨウ素イオンを有する化合物であって、ヨウ化金属、第四級アンモニウムアイオダイド、第四級ホスホニウムアイオダイド、第四級アンモニウムトリヨージドの群から選ばれる1種以上である、ヨウ化物塩又はトリヨージド塩である化合物であり、従来公知のものが使用でき、特に限定されない。具体的に例示すると、ヨウ化金属としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化カルシウム、ヨウ化マグネシウムなどが挙げられる。第四級アンモニウムアイオダイドとしては、テトラメチルアンモニウムアイオダイド、テトラエチルアンモニウムアイオダイド、テトラブチルアンモニウムアイオダイドなどが挙げられる。第四級ホスホニウムアイオダイドとしては、テトラブチルホスホニウムアイオダイド、トリブチルメチルホスホニウムアイオダイド、トリフェニルメチルホスホニウムアイオダイドなどが挙げられる。第四級アンモニウムトリヨージドとしては、トリブチルメチルアンモニウムトリヨージドなどが挙げられる。ヨウ素イオンを有していれば、どのような化合物でも使用できる。
【0055】
また、これらのヨウ素化剤の使用量は、併用する(2)の「式1〜3の基」と当モル程度が好ましいが、製造目的のポリマーに応じて使用量を決定すればよく、特に限定されない。例えば、このヨウ素に置換させたい「式1〜3の基」のモル数だけ添加して、ヨウ素化し、本発明で規定する重合工程を行えば、このヨウ素化剤の量で重合する鎖の数を調整できる。また、残った「式1〜3の基」は、前記したように、酸化還元のリビングラジカル重合である原子移動ラジカル重合の開始基であるので、この原子移動ラジカル重合することで、他の重合方法でビニル系ポリマーを導入することができる。
【0056】
[(4)ヨウ素又はヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物又は有機塩基を有する化合物]
本発明のポリマーの製造方法では、以上で説明した(1)〜(3)の材料を使用し、混合及び加温すれば重合が進行し、ポリマーを得ることができる。本発明者らの検討によれば、上記の材料に加え、さらに、(4)のヨウ素、ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物及び有機アミン等の有機塩基を有する化合物から選ばれるいずれかを添加し、重合工程を行うことも好ましい形態である。本発明者らの検討によれば、これらの成分をさらに添加することで、前記しているラジカル重合の停止反応を防止することができ、高分子量化やゲル化を防止することができる。その作用は不明であるが、ヨウ素やアミノ基がラジカルとなって、成長ラジカルのカップリング防止に寄与するのではないかと考えられる。以下、(4)の成分を、簡易的に「(4)の触媒」と称す場合がある。
【0057】
(4)の触媒としては、ヨウ素、ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物及び有機塩基を有する化合物であればよく、従来公知の化合物が使用され、それらは特に限定されない。ヨウ素以外のものを具体的に例示する。ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物としては、ヨウ素が結合していれば熱や光でヨウ素を遊離するので、どのような化合物も使用できる。好ましくは、N−アイオドイミド系化合物であり、より好ましくは、市販品で入手しやすいN−アイオドスクシニルイミド、N−アイオドフタルイミド、N−アイオドシクロヘキサニルイミド、1,3−ジアイオド−5,5−ジメチルヒダントイン、N−アイオドサッカリンなどが挙げられる。また、有機塩基を有する化合物としては、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン(DBU)、ジアザビシクロオクタン(DABCO)、ホスファゼン塩基などの従来公知のものが使用できる。
【0058】
これら(4)の触媒の量は任意であり、特に限定されない。好ましくは、併用する重合開始基として機能する(2)の「式1〜3の基」の0.001モル倍〜0.1モル倍の範囲で使用される。使用量があまりに多いと、触媒としての作用が十分発揮されず、副反応などが生じる可能性があるので好ましくない。
【0059】
[溶媒]
以下に、本発明のポリマーの製造方法に用いることができる他の材料について説明する。本発明のポリマーの製造方法の重合工程は、有機溶媒を使用して重合する溶液重合が好ましい。これは、(1)のモノマー材料に、(3)のようなイオン性の材料を溶解することができない場合があり、また、(2)の「式1〜3の基」の構造中の塩素又は臭素と、(3)のヨウ素化剤のヨウ素イオンの交換は、前記したようなヨウ素化剤を溶解して行う必要があり、そのためには、下記に挙げるような極性が高い有機溶媒を一部又は全部に使用することが好ましい。具体的には、アルコール系、グリコール系、アミド系、スルホキシド系、イオン液体である溶媒を使用することが好ましい。しかし、これらの溶媒は必ずしも必要でなく、例えば、ヨウ素化剤を溶解するモノマーを使用した場合は、特に有機溶媒を使用せずとも重合できる。一般に使用される有機溶媒としては従来公知の、炭化水素系、ハロゲン系、ケトン系、エステル系、グリコール系などの非極性の溶媒があり、これらの溶媒と併用して、上記したような極性の高い溶媒を使用すればよい。その場合、極性が高い溶媒の比率は任意であり、モノマーを重合して得られる本発明のポリマーを溶解させるように溶媒が選択される。
【0060】
上記したように、溶媒は従来公知のものが使用でき、好ましい溶媒として、アルコール系、グリコール系、アミド系、スルホキシド系、イオン液体が挙げられる。具体的に例示すると、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール系溶媒;エチレグリコール、プロピレングリコール、グリセリン、ジエチレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコール系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド、3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミドなどのアミド系溶媒;ジメチルスルホキシドなどのスルホキシド系溶媒;イミダゾリウム塩や第四級アンモニウム塩等のイオン液体が挙げられ、単独又は2種以上で使用できる。
【0061】
これらの溶媒の重合時の使用量は、(3)のヨウ素化剤を溶解させればよく、特に限定されないが、好ましくは、質量基準で、30%〜80%である。30%より少ないと固形分が高すぎて高粘度になってしまう場合があるし、80%より多いと、モノマー濃度が低すぎて重合率が上がらない場合がある。より好ましくは、40%〜70%である。
【0062】
本発明のポリマーの製造方法は、基本的には、ラジカルが発生するラジカル重合開始剤を使用しないで済むことに大きな特徴がある。従来、不飽和結合を有するモノマーを重合する場合は、アゾ系や過酸化物系、さらにはチオールなどのラジカルを生成する化合物を使用して重合を行っていた。しかし、本発明の製造方法では、このようなラジカル重合開始剤を使用せずとも、上記した(1)〜(3)の材料を混合して、熱にて容易に重合が進む。場合によっては、ラジカル重合開始剤を併用しても、本発明の重合方法によるポリマーが得られると予想されるが、その場合は、ラジカル重合開始剤からの重合も始まる場合があるので、所望する複雑な構造のポリマーを得る目的からは好ましくない。本発明の製造方法では、ラジカル重合開始剤を使用せず重合することが好ましい。すなわち、ラジカル重合が「式1〜3の基」の構造から始まるので、前記したように、「式1〜3の基」が導入されている有機化合物の量や変換するための(3)のヨウ素化剤の量によって、分子量をコントロールすることができ、ラジカル開始剤由来のポリマーができないので、通常のラジカル重合が制御され、「式1〜3の基」を使用したポリマーのみを得ることができる。
【0063】
[重合工程]
以上が本発明のポリマーの製造方法に必要な材料であって、本発明では、これらの材料を混合して、加温(加熱)することで、「式1〜3の基」からモノマーの重合が進行し、ポリマーを得ることができる。その重合条件としては特に限定はなく、従来公知の方法がとられる。好ましい具体的な条件を列記すると、窒素やアルゴン雰囲気にしたり、バブリングしたりした方が、酸素の影響がなく、よく重合が進行する。また、温度としては、室温以上であればよく、例えば、40℃以上あればよいが、室温程度であると重合時間が多大にかかるので、好ましくは60℃以上、さらには70℃以上で重合させることが、実用の製造の製造時間に適している。また、撹拌速度は特に重合に影響はなく、また、遮光が必ずしも必要ではない。重合率も任意であり、完全にモノマーが消費されていなくてもよい。
【0064】
[ポリマー]
本発明のポリマーの製造方法では、以上のような条件の下、先に述べたそれぞれの材料を用意して、混合し、加温することで、ポリマーを簡便に作製することができ、さらには、容易に特異(複雑)な構造のポリマーを工業的に得ることができる。具体的には、本発明の方法を利用することで、下記に挙げるような多様な形態に制御されたポリマーを容易に提供できる。提供されるポリマーとしては、直鎖状のポリマー、ABブロックポリマー、ABAブロックポリマー、分岐型ポリマー、グラフトポリマー、スターポリマー、濃厚ポリマーブラシ、ボトルブラシポリマーなどが挙げられる。
【0065】
本発明の製造方法によれば、今までになく簡易的にこれらのポリマーを合成することができる。具体的例を記載すると、濃密なグラフトポリマーであるボトルブラシポリマーを、従来公知の市販の材料を使用して、精製が必要なく、場合によっては1ポットで合成することができる。さらに具体例を示すと、まず、グリシジルメタクリレートと、ブロモイソ酪酸を、テトラエチルアンモニウムブロマイドを触媒として、アミド系溶媒で反応させて、エポキシ基を開環させてエステルとして、「式3の基」が導入されたモノマーを得る。ついで、その系に、アゾ系開始剤を入れてラジカル重合したり、ほかに、ヨウ素、アゾ系開始剤、触媒としてジフェニルメタンを触媒として、可逆的移動触媒重合にて重合したりして、「式3の基」が導入された(2)の有機化合物であるポリマーとする。ついで、これに、(3)のヨウ素化剤としてトリブチルアンモニウムアイオダイド、(1)のモノマー、(4)の触媒としてN−アイオドスクシンイミドを添加して、混合及び加温して本発明の重合工程を実施することによって、各材料を精製せずとも、1ポットでボトルブラシを合成できる。
【0066】
以上のようにして得られた本発明のポリマーは、そのまま使用してもよいし、貧溶剤に添加して析出させて、精製してポリマー成分を使用してもよい。
【0067】
その得られるポリマーの使用は、従来公知の用途に使用でき、特に限定されない。例えば、インク、塗料、コーティング、プラスチック、インクジェットインク、カラーフィルター材料、エネルギー関係材料、機械部品関係材料、医療機器、医療材料、薬剤関係など、様々な分野に適用できる。
【実施例】
【0068】
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下、文中の「部」及び「%」は、特に断りのない限り、質量基準である。
【0069】
[実施例1]
撹拌機、還流コンデンサー、温度計及び窒素導入管を取り付けた反応装置に、溶媒として、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロパンアミド(以下、MDPAと略記)を100.0部、(2)の有機化合物として、2−ブロモイソ酪酸エチルを4.0部、(1)のモノマーとして、メタクリル酸メチル(以下、MMAと略記)を100.0部、(3)のヨウ素化剤として、ヨウ化ナトリウム3.0部を仕込んで、窒素をバブリングしながら75℃に加温し、7時間重合した。得られたポリマーの重合率は95%、数平均分子量(以下、Mnと略記)は7600、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量、以下、PDIと略記)は1.87であった。以上のことから、本発明の製造方法によれば、従来使用されていたアゾ系や過酸化物系のラジカル発生剤を使用せずに、ポリマーを得ることができることが確認された。
【0070】
上記における重合率は、180℃で溶液を乾燥して不揮発分を測定することで算出した。以下の例でも、同様の方法で算出した。また、分子量は、ゲルパークロマトグラフ(GPC)にて測定し、溶媒は特に断りがない限りテトラヒドロフラン(THF)であり、ポリスチレン換算の分子量である。以下の例でも、同様にして測定した。
【0071】
上記で行った反応系において、(3)のヨウ化ナトリウムを使用しなかった場合と、(2)の2−ブロモ酪酸エチルを使用しなかった場合のそれぞれについて、上記と同様の操作を行った。しかし、いずれの場合も重合は進行せず、ポリマーを得ることができなかった。一方、(3)のヨウ化ナトリウムに替えて、テトラブチルアンモニウムアイオダイドを使用した場合、トリブチルメチルホスホニウムアイオダイドを使用した場合、テトラブチルアンモニウムトリヨージドを使用した場合のそれぞれについて、上記と同様の操作を行ったところ、いずれの場合も、ヨウ化ナトリウムを使用した場合と同様のポリマーを得ることができた。
【0072】
[実施例2]
実施例1の系に、さらに、本発明で規定する(4)の成分としてN−アイオドスクシンイミド(以下、NISと略記)を0.2部添加して、実施例1で行ったと同様にして7時間重合した。この時点でサンプリングしたところ、重合率は68%であり、Mnが5200、PDIが1.43であった。そこで、同様の条件でさらに5時間重合したところ、重合率は95%に達し、Mnが8700、PDIが1.47であった。実施例1で得られたポリマーとの比較から、系内に触媒としてN−アイオド系化合物を添加することで、重合が制御され、得られるポリマーの粒度分布が狭くなることが確認された。
【0073】
[実施例3]
実施例2の系に、さらに、本発明で規定する(4)の成分である有機塩基を有する化合物としてトリエチルアミン1.0部を加え、同様に重合を行った。7時間後にサンプリングしたところ、重合率は91%に達し、Mnが7800、PDIが1.61であった。実施例2との比較から、重合速度が速くなることが確認され、また、実施例1との比較から、その場合でもある程度、粒度分布が制御されたポリマーを得ることができることが確認された。
【0074】
[実施例4、5]
実施例2の系において、(2)の2−ブロモイソ酪酸エチル4.0部に替えて、2−クロロイソプロピオン酸エチル2.8部を使用した場合(実施例4)と、2−ブロモイソプロピオン酸エチル3.3部を使用した場合(実施例5)、のそれぞれについて、加温条件を替えた以外は実施例2で行ったと同様にしてポリマーを調製した。加温条件は、2−クロロイソプロピオン酸エチルを用いた実施例4では85℃とし、2−ブロモイソプロピオン酸エチルを用いた実施例5では80℃として重合を行った。7時間後にサンプリングし、重合率と分子量を測定したところ、実施例4の場合は、重合率が82%で、Mnが7600、PDIが1.65であり、実施例5の場合は、重合率が79%で、Mnが6900、PDIが1.56であった。以上のことから、上記で用いた化合物も、重合の開始基として機能することが確認された。
【0075】
[合成例1−重合開始基含有ポリマーの調製]
実施例1と同様の反応装置を使用し、溶媒としてMDPAを561.0部、ヨウ素を1.0部、アゾ系重合開始剤の2,2’−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)〔商品名:V−70(以下、V−70と略記)、和光純薬社製〕を3.7部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルを208.0部仕込み、NISを0.113部添加し、窒素をバブリングしながら、65℃で7時間重合した。その結果、得られた重合物の重合率はほぼ100%であり、また、ジメチルスルホキシド溶媒のGPC装置にて重合物の分子量を測定した結果、Mnが18500、PDIが1.35であった。
【0076】
ついで、上記の反応系にピリジンを189.5部添加し、氷浴で5℃に冷却した。滴下ロートに2−ブロモイソ酪酸ブロマイド459.8部を仕込んで上記装置に滴下ロートを装着し、10℃を超えないように3時間で滴下した後、その温度で2時間放置した。その後、45℃に加温して1時間反応させた。そして室温まで冷却した後、メタノールを561部添加して撹拌した。ついで、別容器に5000gのメタノールを用意し、ディスパーで撹拌しながら、上記溶液を徐々に添加した。ポリマーが析出し、軟質のポリマーを得た。ポリマーを分取し、大量の水中にディスパーで撹拌しながら添加して洗浄し、濾過して、水洗し、50℃の送風乾燥機にて揮発分がなくなるまで乾燥した。その結果、白色の粉末状の固体が得られた。
【0077】
上記操作で得られた白色の粉末状固体は、下記に示すように、本発明で規定する一般式3の構造の基(「式3の基」)が側鎖に結合したポリマーとなる。粉末状固体が、その側鎖に「式3の基」が複数導入されたポリマーであることは、赤外分光光度計(IR)、核磁気共鳴装置(NMR)にて同定することで確認できた。以下、これを開始基ポリマー−1と称する。この開始基ポリマー−1のIRチャートを図1に、NMRチャートを図2に示した。また、開始基ポリマー−1の分子量をTHF溶媒GPCにて測定したところ、Mnが26000、PDIが1.41であった。
【0078】
[合成例2、3−重合開始基含有ポリマーの調製]
合成例1で用いたヨウ素とV−70の量をそれぞれ変化させて、それ以外は合成例1と同様にして分子量の違う開始基ポリマーを2種類合成した。具体的には、ヨウ素の量を1.2部とし、V−70の量を4.4部にしたものを合成例2とし、ヨウ素の量を0.75部にし、V−70を2.8部にしたものを合成例3とし、得られた白色の粉末状固体を、それぞれ開始基ポリマー−2、−3とした。合成物の構造は、合成例1と同様にIRとNMRを用いて確認した。その結果、いずれも、その側鎖に「式3の基」が導入されたポリマーであった。また、合成例1と同様にして分子量を測定した結果、開始基ポリマー−2は、Mnが14500、PDIが1.38であり、開始基ポリマー−3は、Mnが31400、PDIが1.55であった。
【0079】
[実施例6]
実施例1と同様の反応装置を使用して、溶媒のMDPAを200部、(1)のMMAを200部、(2)の合成例1で調製した開始基ポリマー−1を6部、(3)の化合物としてテトラブチルアンモニウムアイオダイド(以下、TBAIと略記)7.9部を仕込み、(4)の成分であるNISを0.3部添加し、75℃で8時間重合した。重合が進行し、高粘度の液体となったのでサンプリングし、重合率を測定したところ87%であった。また、Mnが2970000、PDIが1.48であった。このことから、上記のようにして、側鎖に「式3の基」が導入された開始基ポリマー−1の存在下で重合すると、得られるポリマーは、主鎖に、側鎖がある構造をもつグラフトコポリマーとなり、さらに、高分子量のポリマーを得ることができることが確認された。
【0080】
[実施例7、8]
実施例6で用いた開始基ポリマー−1に替えて、実施例7では開始基ポリマー−2を用い、実施例8では開始基ポリマー−3を使用し、それ以外は実施例6と同様にして、それぞれ重合を行った。その結果、実施例6で用いた開始基ポリマー−1よりも分子量が小さい開始基ポリマー−2を使用して得たポリマーは、重合率が95%で、Mnが1870000、PDIが1.45であった。一方、実施例6で用いた開始基ポリマー−1よりも分子量が大きい開始基ポリマー−3を使用して得たポリマーは、重合率が80%であって、Mnが330000、PDIが1.72であった。このことから、使用する開始基ポリマーの分子量の違いによって、最終的に得られるポリマーの分子量を調整することができることが確認された。
【0081】
[実施例9]
実施例6において、開始基ポリマー−1の使用量の6部を、4部と、8部にそれぞれ替えた以外は同様にして重合を行った。その結果、開始基ポリマー−1を4部使用した場合は、重合率71%で、Mnが3210000、PDIが1.56であり、開始基ポリマー−1を8部使用した場合は、重合率が89%であり、Mnが190000、PDIが1.42であった。以上の結果から、開始基ポリマーの使用量、すなわち、開始基の量によっても、最終的に得られるポリマーの分子量を調整できることが分かった。
【0082】
[比較例1]
実施例1と同様の反応装置を使用して、溶媒のMDPAを200部、第1臭化銅を0.29部、ペンタメチルジエチレントリアミンを0.52部、合成例1で得た(2)の開始基ポリマー−1を6部、(1)のMMAを200部、ジオクタン酸錫0.22部を添加し、窒素をバブリングしながらよく混合した。ついで、65℃に昇温した。その結果、加温中に増粘し、ゲル化を起こしてしまい、重合が停止した。その理由は、この場合の反応は原子移動ラジカル重合であり、酸化還元で重合は進行するが、副反応の停止反応が起こってしまい、且つ、固形分濃度が高いので、多官能性の開始基ポリマー−1による重合物のゲル化が著しかったためと考えられる。
【0083】
そこで、MDPAを200部から600部に増量し、粘度を下げて重合を行った。65℃に達したが、ゲル化は起こらず、重合は進行した。7時間後、高粘度となり、サンプリングすると、重合率は45%であった。また、GPCを測定するため、THF溶液に溶解し、0.45μmのフィルターをかけたところ、詰まりが生じていた。そして、その濾過分の分子量を測定すると、高分子量体が生じており、Mnが5400000であり、粒度分布は2コブのピークであった。以上のことから、重合は進行したものの高分子量化してしまい、ゲル化する一歩手前であり、工業的にこのような事態になった場合は、反応装置の使用が困難になったり、事故などの危険性を生じたりする恐れがあるので、工業的に利用することはできない。これに対し、先の実施例6〜8で示したように、本発明の製造方法によれば、高固形分で、高重合率でもゲル化することなく、高分子量で、且つ、多分岐型構造のポリマーを得ることができるので、工業的に、多様なポリマーを得るために利用できる有用な方法である。
【0084】
[実施例10、11]
実施例6で使用した(1)のMMAに替えて、実施例10ではメタクリル酸ラウリル(以下、LMAと略記)を(1)のモノマーに用い、実施例11は、メタクリル酸シクロヘキシル(以下、CHMAと略記)を(1)のモノマーに使用して、それ以外は実施例6と同様にして重合を行った。その結果、LMAを使用した実施例10では、得られたポリマーの重合率は95%であり、Mnが350000、PDIが1.32であった。得られたポリマーをメタノールに析出させて、ポリマー分を採取し、乾燥してメタノールを除去したところ、粘調な液体であり、高分子量であるにも関わらず、液状であった。また、CHMAを使用した実施例11では、得られたポリマーの重合率は70%であり、Mnが181000、PDIが1.78であった。これらのことから、本発明の製造方法は、MMAに限られず、他のメタクリレート系モノマーの重合に適用できることが確認された。
【0085】
[実施例12]
実施例6で使用した(1)のMMAに替えて、アクリル酸ブチルを使用して、温度を120℃にして重合を行った。その結果、7時間の時点で重合率は57%であり、分子量が114000、PDIが1.89であった。このことから、本発明の製造方法は、アクリレート系モノマーの重合への適用が可能であることが確認された。
【0086】
[合成例4−重合開始基含有ポリマーの調製]
実施例1と同様の反応装置を使用し、溶媒のプロピレングリコールモノメチルエーテル(以下、PGMと略記)を370.2部、メタクリル酸グリシジルを85.1部、2−ブロモイソ酪酸を100部、メトキシフェノール1.0部、テトラエチルアンモニウムブロマイド4.6部を混合して、90℃、8時間反応させた。得られた反応物の酸価を測定したところ、0.4mgKOH/gであり、ほとんどの2−ブロモイソ酪酸が反応していた。また、IRにて水酸基の生成、エポキシ基の消滅を確認した。このことから、得られた反応物は、メタクリル酸グリシジルのエポキシ基とカルボン酸を反応させて得られた、「式3の基」が導入されたメタクリレートであることがわかる。
【0087】
ついで、この溶液を65℃に冷却し、別容器に、メタクリル酸ベンジル(BzMA)を185.1部、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)(以下、V−65と称す)5.6部を混合して、均一化したものを滴下ロートに仕込み、その3分の1を添加し、ついで、1時間かけて滴下した。さらに、続けて、その温度で7時間重合した。その時点でサンプリングして重合率を測定したところ、ほぼ100%であり、不揮発分は50.3%であった。また、Mnは8900、PDIは2.31であった。得られたポリマーを開始基ポリマー−4と称し、この溶液を開始基ポリマー−4溶液と称す。
【0088】
[実施例13]
実施例1と同様の反応装置を使用し、溶媒としてPGMを194部、(1)のモノマーとして、MMAを100部、メタクリル酸ブチル(BMA)を100部、上記で得た(2)の開始基ポリマー−4溶液を12部、(3)のトリブチルメチルホスホニウムアイオダイドを7.4部添加し、80℃で7時間重合した。重合終了後、固形分を測定したところ、96.1%であり、Mnは198000、PDIは2.6であった。これによって、それぞれの材料を精製せずともグラフトポリマーができ、且つ、開始基ポリマー−4がランダムコポリマーでも重合に使用できることが確認できた。
【0089】
[実施例14]
実施例1と同様の反応装置を使用し、MDPAを200部、(1)のMMAを100部、合成例1で調製した(2)の開始基ポリマー−1を6部、(3)のTBAIを7.9部仕込み、(4)の成分として、NISを0.3部と、トリエチルアミンを1部添加し、75℃で5時間重合した。重合が進行し、高粘度の液体となった。その時点でサンプリングし、重合率を測定したところ、68%であった。また、Mnが154000、PDIが1.59であった。ついで、(1)のポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート(分子量約400、以下、PMEと称す)を100部添加し、さらに6時間重合した。重合後、分子量を測定したところ、Mnが387000、PDIが2.45であり、先に測定した時点から高分子量化していることが確認された。このことから、重合率が68%であった時点のMMAの重合から、その後に、添加したPMEと残留モノマーのMMAが重合してブロックコポリマーとなったと推測され、多分岐構造のブロックコポリマーを得ることができた。これを水に析出させたところ、スライム状のぶよぶよしたポリマーとなった。
【0090】
[合成例5−反応性基にアルコキシシリル基を有する重合開始基含有ポリマーの調製]
下記の処方にて、開始基ポリマーを得た。実施例1と同様の反応装置に、MDPAを50.0部、メタクリル酸2−ヒドロキシエチルを20.8部、ピリジンを18.9部添加し、氷浴で5℃に冷却した。滴下ロートに2−ブロモイソ酪酸ブロマイド45.9部を仕込んで装置に装着し、10℃を超えないように3時間で滴下した。ついで、滴下後その温度で2時間放置し、その後、45℃に加温して1時間反応させた。室温まで冷却した後、酢酸エチルを200部加え、ついで、大量の水を添加し、分液ロートにて得られたモノマーを抽出した。ついで、大量の水で数回洗浄し、無水塩化マグネシウムにて乾燥した後、エバポレーターにて溶媒を除去した後、分留装置にて目的生成物である、2−メタクリル酸2−(2−ブロモ−2メチルプロピオニルオキシ)エチルエステル(以下、BMPMAと略記)を得た。
【0091】
ついで、実施例1と同様の反応装置を使用し、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMAcと略記)を100部仕込んで、85℃に加温した。別容器に、上記で得たBMPMAを80部、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランを20部、2,2’−アゾビス(イソ酪酸)ジメチル(V−601)を3部、PGMAcを100部のモノマー混合溶液を用意した。そして、PGMAcを仕込んだ反応装置内に、滴下装置を使用して上記のモノマー混合溶液の1/3を添加し、ついで、3時間かけて残りの溶液を滴下した。ついで、85℃の温度で7時間重合したところ、重合率がほぼ100%で、Mnが12000、PDIが2.21の重合物を得た。ついで、得られた重合物を冷却して、PGMAcを添加し、固形分濃度5%のポリマー溶液を得た。これは、重合開始基として機能する「式3の基」を有し、且つ、反応性基にアルコキシシリル基を有する開始基ポリマー−5である。この溶液を開始基ポリマー−5溶液と称す。
【0092】
[実施例15]
合成例5で得た反応性基にアルコキシシリル基を有する開始基ポリマー−5溶液を10部、エタノール10部、25%アンモニア水2gを混合して開始基ポリマー混合溶液とした。ついで、5センチ角に切ったシリコン基板を用意し、基板の一方の面(以下、正面と称す)に、スピンコーターにて、上記の開始基ポリマー混合溶液をスピンコートした。その後、80℃で10分、150℃で10分乾燥して焼き付けた。この結果、シリコン基板は、基板の正面に重合開始基が確実に導入されたものになる。すなわち、上記のようにして得られた基板は、基板正面に重合を開始する基が、濃度の高い状態でポリマー膜状となって存在し、且つ、アルコキシシリル基がシリコン基板と強固に結合した状態のものになる。
【0093】
ついで、実施例1で使用したと同様の反応装置に、上記で得たシリコン基板と、溶媒のMDPAを100.0部、(2)の2−ブロモイソ酪酸エチルを0.04部、(1)のMMAを100.0部、(3)のTBAIを1部仕込み、窒素をバブリングしながら75℃に加温し、14時間重合した。反応後、シリコン基板を取り出すことにより、重合開始基が導入されていた基板の正面に、ポリメチルメタクリレート(PMMA)がグラフトしたポリマー処理シリコン基板を得ることができた。上記の重合開始基として機能する2−ブロモイソ酪酸エチルによるポリマーは、Mnが28700、PDIが1.67であり、このポリマーが、シリコン基板の表面に導入されていると考えられる。本実施例の手法を活用すれば、種々の材料からなる基板表面に、極めて簡便にポリマーブラシを生やすことが可能であり、材料表面を種々に改質することが可能になるので、その利用が期待される。
【0094】
[実施例16:多分岐ポリマーの合成−1]
実施例1と同様の反応装置を使用し、溶媒としてMDPAを100.0部、(2)の有機化合物として、重合開始基を4個有するペンタエリスリトールテトラキス(2−ブロモイソブチレート)を1.83部、(1)のMMAを100.0部、(3)のTBAIを4.1部、仕込んで、窒素をバブリングしながら75℃に加温し、ついで、(4)のトリエチルアミン0.74部を添加し、7時間重合した。得られたポリマーの重合率は94.8%、Mnは26000、PDIは1.49であった。このことから、4本鎖の多分岐ポリマーが得られることが確認できた。
【0095】
[実施例17:多分岐ポリマーの合成−2]
実施例1と同様の反応装置を使用し、溶媒としてMDPAを100.0部、(2)の有機化合物として、重合開始基を6個有するジペンタエリスリトールヘキサキス(2−ブロモイソブチレート)を1.91部、(1)のMMAを100.0部、(3)のTBAIを4.1部、仕込んで、窒素をバブリングしながら75℃に加温し、ついで、(4)のトリエチルアミン0.74部を添加し、7時間重合した。得られたポリマーの重合率は93.3%、Mnは44500、PDIは1.46であった。このことから、6本鎖の多分岐ポリマーが得られることが確認できた。
【0096】
[合成例6−重合開始基含有ポリマーの調製]
下記の処方にて、開始基ポリマーを得た。実施例1と同様の反応装置に、溶媒のMDPAを50.0部、4−tert−ブチルカリックス[8]アレーンを25.9部、ピリジンを18.9部添加し、氷浴で5℃に冷却した。滴下ロートに、2−ブロモイソ酪酸ブロマイド45.9部を仕込んで装置に装着し、10℃を超えないように3時間で滴下した。ついで、滴下後その温度で2時間放置し、その後、45℃に加温して1時間反応させた。室温まで冷却した後、酢酸エチルを200部加え、ついで、大量の水を添加し、分液ロートにて得られたモノマーを抽出した。ついで、大量の水で数回洗浄し、無水塩化マグネシウムにて乾燥した後、エバポレーターにて溶媒を除去した後、分留装置にて目的生成物である、4−tert−ブチルカリックス[8]アレーンのヒドロキシル基が全て2−ブロモイソブチリル基で置換された重合開始基を8個有する化合物を得た。これをC8AMAと称す。
【0097】
[実施例18:多分岐ポリマーの合成−3]
実施例1と同様の反応装置を使用し、溶媒としてMDPAを100.0部、(2)の有機化合物として、合成例6で得た重合開始基を8個有するC8AMAを3.1部、(1)のMMAを100.0部、(3)のTBAIを4.1部、仕込んで、窒素をバブリングしながら75℃に加温し、ついで、(4)のトリエチルアミン0.74部を添加し、7時間重合した。得られたポリマーの重合率は91.1%、Mnは63600、PDIは1.49であった。このことから、8本鎖の多分岐ポリマーが得られることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明の活用例としては、様々な構造のポリマーを工業的に簡便に製造することができる方法が提供されることから、今までに使用することができなかった分野への材料としての提供による革新的な技術発展が期待できる。具体的には、接着性、摩擦特性、耐摩耗性、ぬれ性、バリヤー性、特定物質の吸着・分離・輸送特性などの特異性質を有するポリマー材料や、このような特異性質のポリマーで基材表面が処理された各種材料の提供がなされ、その利用が期待される。
図1
図2
【手続補正書】
【提出日】2017年4月24日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(1)不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーと、(2)該モノマーの重合開始基として機能する下記一般式1で表せる構造の基が、分子内に1個以上導入されている有機化合物と、(3)ヨウ化金属、第四級アンモニウムアイオダイド、第四級ホスホニウムアイオダイド及び第四級アンモニウムトリヨージドからなる群から選ばれる1種以上のヨウ化物塩又はトリヨージド塩であるヨウ素イオン含有化合物とを、混合及び加温することで、前記構造の基から停止反応を伴うラジカル重合が始まる重合工程を有することを特徴とするポリマーの製造方法。
(一般式1中、R1は、H又は任意のアルキル基又はアシル基又はアリール基、R2は、任意のアルキル基又はアリール基、Xは、Cl又はBr、Yは、O又はNHを表す。
【請求項2】
前記重合工程で、アゾ系ラジカル重合開始剤、過酸化物系ラジカル重合開始剤及び光重合ラジカル重合開始剤のいずれについても使用しない請求項1に記載のポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記重合工程で、さらに、(4)ヨウ素、ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物及び有機塩基を有する化合物からなる群から選ばれる少なくともいずれかを使用する請求項1又は2に記載のポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記重合工程の際に、さらに有機溶媒を使用する請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、アルコール系、グリコール系、アミド系、スルホキシド系及びイオン液体からなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項4に記載のポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物が、N−アイオドイミド系化合物である請求項3〜5のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記N−アイオドイミド系化合物が、N−アイオドスクシンイミド、N−アイオドフタルイミド、N−アイオドシクロヘキサニルイミド、1,3−ジアイオド−5,5−ジメチルヒダントイン及びN−アイオドサッカリンからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項6に記載のポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記一般式1で表せる基が、下記一般式3で表せる基である請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
(一般式3中、Yは、O又はNH)
【請求項9】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1で表せる基が分子内に2個導入された重合開始基含有ポリマーであり、前記重合工程で得られるポリマーが、ブロック構造或いは櫛形構造をもつポリマーとなる請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1で表せる基が分子内に3個以上導入された化合物であり、前記重合工程で得られるポリマーが、分岐構造型ポリマー或いはスターポリマー或いはグラフトコポリマーとなる請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1で表せる基が分子内に3個以上導入されたビニルポリマーであり、前記重合工程で得られるポリマーが、前記ビニルポリマーに前記(1)のモノマーが重合してグラフトした構造のポリマー或いはボトルブラシポリマーとなる請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項12】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1で表せる基が分子内に1個以上導入されたモノマーと、基材表面に結合する反応性基を有するモノマーとの共重合体であり、該共重合体で基材を処理して基材表面を改質し、その後に、該改質した基材表面上で、前記(1)のモノマーと前記(3)のヨウ素イオン含有化合物とを混合及び加温して、前記基材表面に濃厚ブラシ構造のポリマーを製造する請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項13】
アゾ系ラジカル重合開始剤、過酸化物系ラジカル重合開始剤及び光重合ラジカル重合開始剤のいずれについても使用せずに、不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーの、停止反応を伴うラジカル重合を行わせるためのラジカル重合の開始基含有化合物であって、
ヨウ化金属、第四級アンモニウムアイオダイド、第四級ホスホニウムアイオダイド及び第四級アンモニウムトリヨージドからなる群から選ばれる1種以上のヨウ化物塩又はトリヨージド塩であるヨウ素イオン含有化合物と併用することで、前記ラジカル重合性モノマーの重合開始基として機能するものとなる下記一般式1で表せる構造の基が、分子内に1個以上導入されていることを特徴とするラジカル重合の開始基含有化合物。
(一般式1中、R1は、H又は任意のアルキル基又はアシル基又はアリール基、R2は、任意のアルキル基又はアリール基、Xは、Cl又はBr、Yは、O又はNHを表す。)
【請求項14】
前記一般式1で表せる基が、下記一般式3で表せる基である請求項13に記載のラジカル重合の開始基含有化合物。
(一般式3中、Yは、O又はNH)
【請求項15】
前記一般式1で表せる基が、分子内に2個導入されたポリマーである請求項13又は14に記載のラジカル重合の開始基含有化合物。
【請求項16】
前記一般式1で表せる基が、分子内に3個以上導入された化合物である請求項13又は14に記載のラジカル重合の開始基含有化合物。
【請求項17】
前記一般式1で表せる基が、分子内に3個以上導入されたビニルポリマーである請求項13又は14に記載のラジカル重合の開始基含有化合物。
【請求項18】
前記一般式1で表せる基が、分子内に1個以上導入されたモノマーと、基材表面に結合する反応性基を有するモノマーとの共重合体である請求項13又は14に記載のラジカル重合の開始基含有化合物。
【手続補正書】
【提出日】2017年7月7日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、(1)不飽和結合を有するラジカル重合性モノマーと、(2)該モノマーの重合開始基として機能する下記一般式1で表せる構造の基が、分子内に1個以上導入されている有機化合物と、(3)ヨウ化金属、第四級アンモニウムアイオダイド、第四級ホスホニウムアイオダイド及び第四級アンモニウムトリヨージドからなる群から選ばれる1種以上のヨウ化物塩又はトリヨージド塩であるヨウ素イオン含有化合物とを、混合及び加温することで、前記構造の基から停止反応を伴うラジカル重合が始まる重合工程を有することを特徴とするポリマーの製造方法。
(一般式1中、R1は、H又は任意のアルキル基又はアシル基又はアリール基、R2は、任意のアルキル基又はアリール基、Xは、Cl又はBr、Yは、O又はNHを表す。)
【請求項2】
前記重合工程で、アゾ系ラジカル重合開始剤、過酸化物系ラジカル重合開始剤及び光重合ラジカル重合開始剤のいずれについても使用しない請求項1に記載のポリマーの製造方法。
【請求項3】
前記重合工程で、さらに、(4)ヨウ素、ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物及び有機塩基を有する化合物からなる群から選ばれる少なくともいずれかを使用する請求項1又は2に記載のポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記重合工程の際に、さらに有機溶媒を使用する請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項5】
前記有機溶媒が、アルコール系、グリコール系、アミド系、スルホキシド系及びイオン液体からなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項4に記載のポリマーの製造方法。
【請求項6】
前記ヨウ素を遊離することができるヨウ化有機化合物が、N−アイオドイミド系化合物である請求項3〜5のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項7】
前記N−アイオドイミド系化合物が、N−アイオドスクシンイミド、N−アイオドフタルイミド、N−アイオドシクロヘキサニルイミド、1,3−ジアイオド−5,5−ジメチルヒダントイン及びN−アイオドサッカリンからなる群から選ばれる少なくともいずれかである請求項6に記載のポリマーの製造方法。
【請求項8】
前記一般式1で表せる基が、下記一般式3で表せる基である請求項1〜7のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
(一般式3中、Yは、O又はNH)
【請求項9】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1で表せる基が分子内に2個導入された重合開始基含有ポリマーであり、前記重合工程で得られるポリマーが、ブロック構造或いは櫛形構造をもつポリマーとなる請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項10】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1で表せる基が分子内に3個以上導入された化合物であり、前記重合工程で得られるポリマーが、分岐構造型ポリマー或いはスターポリマー或いはグラフトコポリマーとなる請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項11】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1で表せる基が分子内に3個以上導入されたビニルポリマーであり、前記重合工程で得られるポリマーが、前記ビニルポリマーに前記(1)のモノマーが重合してグラフトした構造のポリマー或いはボトルブラシポリマーとなる請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。
【請求項12】
前記(2)の有機化合物が、前記一般式1で表せる基が分子内に1個以上導入されたモノマーと、基材表面に結合する反応性基を有するモノマーとの共重合体であり、該共重合体で基材を処理して基材表面を改質し、その後に、該改質した基材表面上で、前記(1)のモノマーと前記(3)のヨウ素イオン含有化合物とを混合及び加温して、前記基材表面に濃厚ブラシ構造のポリマーを製造する請求項1〜8のいずれか1項に記載のポリマーの製造方法。