【課題】心材の一方の面にろう材が、他方の面には犠牲陽極材が、それぞれクラッドされてなる熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材において、フィンと伝熱管との接合部の耐食性を効果的に改善し、伝熱管の防食性に優れるアルミニウム合金製ブレージングフィン材を提供する。
【解決手段】心材を、Mn:0.5〜2.0質量%及びZn:0.1質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成し、ろう材を、Si:6.5〜12.5質量%、Zn:0.1質量%以下及びCu:0.001〜0.5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成すると共に、犠牲陽極材を、Zn:7〜15質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成して、熱交換器用アルミニウム合金ブレージングフィン材を形成した。
心材の一方の側の面に、Al−Si系ろう材をクラッドする一方、かかる心材の他方の側の面に、Al−Zn系犠牲陽極材をクラッドしてなる熱交換器用ブレージングフィン材であって、前記心材が、Mn:0.5〜2.0質量%及びZn:0.1質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成され、且つ前記ろう材が、Si:6.5〜12.5質量%、Zn:0.1質量%以下及びCu:0.001〜0.5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されると共に、前記犠牲陽極材が、Zn:7〜15質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されていることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材。
前記心材が、更に、Cu:0.1質量%以下を含有すると共に、前記犠牲陽極材が、更に、Cu:0.1質量%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材。
前記ろう材が、更に、Sr:0.1質量%以下を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載の熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材。
前記心材が、更に、Si:1.5質量%以下、Fe:0.5質量%以下、Mg:1.0質量%以下、Cr:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、及びNi:1.5質量%以下のうちの1種または2種以上を含有すると共に、前記犠牲陽極材が、更に、Mn:2.0質量%以下及びFe:1.0質量%以下のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載の熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材。
前記心材が、更に、Ti:0.3質量%以下を含有すると共に、前記犠牲陽極材が、更に、Ti:0.35質量%以下、Sn:0.05質量%以下、及びIn:0.05質量%以下のうち1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材。
請求項1乃至請求項6の何れか1項に記載の熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材を成形加工したフィン部材と、アルミニウム製伝熱管とをろう付けして得られるアルミニウム製熱交換器であって、前記熱交換器のフィン表面における自然電位、該フィンと前記アルミニウム製伝熱管との接合部表面の自然電位、及び該アルミニウム製伝熱管表面の自然電位が、フィン表面<接合部表面<伝熱管表面の順、若しくはフィン表面<伝熱管表面<接合部表面の順に、貴となることを特徴とするアルミニウム製熱交換器。
【背景技術】
【0002】
従来から、空調機や冷蔵庫における熱交換器としては、所定の間隔をあけて積層された多数のプレートフィンとそれらを貫通する伝熱管とを組み合わせて、構成されるタイプの熱交換器(以下、プレートフィン型熱交換器という)が、多用されてきている。そして、上記プレートフィンには、軽量で、熱伝導性及び加工性に優れていることから、アルミニウム板が使用されており、また伝熱管には、熱伝導性に優れ、加工性にも優れている銅管が使用されている。また、そのようなプレートフィン型熱交換器では、所定形状の円筒状の貫通穴が形成されたプレートフィンを積層した後、かかる円筒状の貫通穴に伝熱管を挿入し、次いで伝熱管の径を拡張させることにより、伝熱管の外周面と上記貫通穴の内面とを当接させることによって、機械的に、伝熱管とフィンとが固着せしめられて、接合されるようになっている。
【0003】
ところで、近年、プレートフィン型熱交換器における伝熱管に使用されている銅の価格上昇により、銅管を用いた場合のプレートフィン型熱交換器のコストが高くなるという問題があるところから、伝熱管の材料を、銅からアルミニウムに換えることが、検討されている。また、この伝熱管材料として、アルミニウム合金を用いることにより、リサイクル性が向上するというメリットも得られることとなる。
【0004】
そして、そのような伝熱管材料にアルミニウムを用いたプレートフィン型熱交換器において、プレートフィンと伝熱管とを接合する方法としては、銅管を用いた場合と同様に、伝熱管を拡管してプレートフィンを密着させる方法の他に、ブレージングフィン材を用いて、それから得られたフィン部材をアルミニウム製の伝熱管に組み付けて、それらをろう付け接合させる方法が、知られている。
【0005】
また、上記したアルミニウム製の伝熱管とのろう付け接合により熱交換器を与えるブレージングフィン材としては、Al−Mn系アルミニウム合金製心材の両面に若しくは片面側に、Al−Si系アルミニウム合金製ろう材をクラッドしたブレージングフィン材が、用いられている。そして、そのようなAl−Mn系アルミニウム合金製心材やAl−Si系アルミニウム合金製ろう材には、フィンの犠牲陽極作用により伝熱管を防食するため、合金成分としてZnが0.5〜5%ほど添加されているブレージングフィン材が、一般的に用いられるのである(特許文献1:特開2014−084521号公報(WO 2014/065355 A1))。
【0006】
さらに、プレートフィン型熱交換器用のブレージングフィン材としては、接合面がフィン材の片面のみであることから、ラジエータやヒータコアなどの自動車用アルミニウム製熱交換器の伝熱管材として用いられるAl−Mn系アルミニウム合金製心材の片面に、Al−Zn系アルミニウム合金製の犠牲陽極材をクラッドする一方、この犠牲陽極材のクラッド側とは反対側の心材面に、Al−Si系アルミニウム合金製ろう材をクラッドしたブレージングシートを、フィン材として用いることが明らかにされている(特許文献2:特開平11−241133号公報、特許文献3:特開2004−217982号公報、特許文献4:特開2010−18872号公報、特許文献5:特開2014−177694号公報)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載の、心材の片面にろう材がクラッドされているアルミニウム合金製ブレージングシートを、フィン材として用いて、伝熱管にろう付け接合して得られる熱交換器では、フィン材の犠牲防食作用により伝熱管を防食するために、フィン材を構成する心材へ、所定量のZnが添加されていることから、ろう付け後の接合部にZnが濃縮し、そのために接合部の優先腐食により、フィンが早期に剥離する不具合が生じることとなる。
【0009】
また、特許文献2、特許文献4及び特許文献5に記載の、心材の片面にろう材、そしてろう材とは反対側の面に犠牲陽極材がクラッドされてなるブレージングシートを、フィン材として用いて、それを伝熱管にろう付け接合して得られる熱交換器では、犠牲陽極材のZn添加量が低いことから、伝熱管を防食するための有効な犠牲陽極作用を得ることが困難となる問題がある。更に、特許文献3に記載の、心材の片面にろう材、そしてろう材とは反対側の面に犠牲陽極材がクラッドされたブレージングシートを、フィン材として用いて、伝熱管にろう付け接合して得られる熱交換器では、犠牲陽極材のZn含有量が高過ぎることとなるところから、犠牲陽極材に添加されているZn成分が、ろう付け加熱中にフィン板厚方向へ拡散し、接合部に濃縮して、接合部の優先腐食により、フィンが早期に剥離する不具合が生じる。
【0010】
従って、本発明の目的乃至は課題とするところは、心材の片面にろう材、そしてろう材とは反対側の心材面に犠牲陽極材が、それぞれクラッドされているアルミニウム合金製ブレージングフィン材であって、このフィン材を用いて形成されるフィンと伝熱管との接合部の耐食性を効果的に改善することにより、伝熱管を防食する能力に極めて優れた熱交換器のフィンを与えるアルミニウム合金製ブレージングフィン材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そして、本発明は、上記の課題を解決すべく、鋭意検討した結果、ブレージングフィン材における心材及びろう材のZn濃度を規制することにより、ろう付け後の接合部へのZn成分の濃縮を抑制しつつ、ろう材とは反対側の心材面に、Al−Zn合金(以下、犠牲陽極材)をクラッドしたブレージングフィン材を用いることで、ろう付け後のフィンの電位を有利に卑化させつつ、接合部の電位の卑化を抑制し、接合部の優先腐食を抑制できることを見出したことに基づいて、完成されたものである。
【0012】
従って、本発明の要旨とするところは、心材の一方の側の面に、Al−Si系ろう材をクラッドする一方、かかる心材の他方の側の面に、Al−Zn系犠牲陽極材をクラッドしてなる熱交換器用ブレージングフィン材であって、前記心材が、Mn:0.5〜2.0質量%及びZn:0.1質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成され、且つ前記ろう材が、Si:6.5〜12.5質量%、Zn:0.1質量%以下及びCu:0.001〜0.5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されると共に、前記犠牲陽極材が、Zn:7〜15質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されていることを特徴とする熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材にある。
【0013】
なお、かかる本発明に従う熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材の望ましい態様の一つによれば、前記心材は、更に、Cu:0.1質量%以下を含有すると共に、前記犠牲陽極材が、更に、Cu:0.1質量%以下を含有している。
【0014】
また、本発明の他の望ましい態様によれば、前記犠牲陽極材は、更に、Si:8質量%以下を含有する。
【0015】
さらに、本発明の別の望ましい態様によれば、前記ろう材は、更に、Sr:0.1質量%以下を含有している。
【0016】
更にまた、本発明の異なる態様によれば、有利には、前記心材は、更に、Si:1.5質量%以下、Fe:0.5質量%以下、Mg:1.0質量%以下、Cr:0.3質量%以下、Zr:0.3質量%以下、及びNi:1.5質量%以下のうちの1種または2種以上を含有すると共に、前記犠牲陽極材が、更に、Mn:2.0質量%以下及びFe:1.0質量%以下のうちの1種または2種を含有している。
【0017】
加えて、本発明に従うブレージングフィン材にあっては、望ましくは、前記心材が、更に、Ti:0.3質量%以下を含有すると共に、前記犠牲陽極材が、更に、Ti:0.35質量%以下、Sn:0.05質量%以下、及びIn:0.05質量%以下のうち1種または2種以上を含有している。
【0018】
また、本発明は、少なくとも、心材の片面にろう材が、ろう材とは反対側の面に犠牲陽極材が、それぞれクラッドされているブレージングフィン材からなるフィン部材と、アルミニウム合金製の伝熱管とが組み付けられた組付け体を、ろう付け加熱して得られた熱交換器であり、ろう付け加熱によってフィン部材にて形成されるフィンの電位と、フィンと伝熱管との接合部の電位と、伝熱管のそれぞれの表面の電位について、フィン表面の電位が最も卑となり、次いで接合部表面や、伝熱管表面の順に貴となる電位構成を有する熱交換器をも提供するものである。
【0019】
具体的には、上述の如き本発明に従う熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材から成形加工して得られるフィン部材と、アルミニウム製伝熱管とをろう付けして得られるアルミニウム製熱交換器であって、前記熱交換器のフィン表面の自然電位、該フィンと前記アルミニウム製伝熱管との接合部表面の自然電位、及び該アルミニウム製伝熱管表面の自然電位が、フィン表面<接合部表面<伝熱管表面の順、若しくはフィン表面<伝熱管表面<接合部表面の順に、貴となることを特徴とするアルミニウム製熱交換器をも、その要旨としている。
【発明の効果】
【0020】
このように、本発明に従って、特定のアルミニウム合金からなる心材の片面に特定のアルミニウム合金からなるろう材が、またこのろう材とは反対側の心材面に特定のアルミニウム合金からなる犠牲陽極材が、それぞれクラッドされてなるブレージングフィン材を用いることにより、熱交換器の作製のためのろう付け加熱において、かかるブレージングフィン材を用いて作製した熱交換器用フィンと伝熱管との接合部の優先腐食によるフィン剥離を効果的に改善し、伝熱管に対する耐食性の優れた熱交換器を提供することができることとなったのである。また、そのようなブレージングフィン材を用いることにより、耐食性に優れた特性の付与された熱交換器を、有利に提供することができるのである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
ところで、本発明に従う熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材は、
図1に示されるように、心材2の一方の側の面に、Al−Si系ろう材4をクラッドする一方、かかる心材2の他方の側の面には、Al−Zn系犠牲陽極材6をクラッドしてなる、全体として板状を呈する熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材8である。そこにおいて、心材2は、Mn:0.5〜2.0質量%及びZn:0.1質量%以下を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成され、また、ろう材4は、Si:6.5〜12.5質量%、Zn:0.1質量%以下及びCu:0.001〜0.5質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されると共に、犠牲陽極材6は、Zn:7〜15質量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金で構成されるようにしたものであるが、この熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材8を構成する3種のアルミニウム合金における各合金成分の意義は、それぞれ、以下の通りである。
【0023】
先ず、本発明に係る熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材8を構成する心材2を与えるアルミニウム合金における合金成分の意義及び限定理由について、説明する。
【0024】
[Mn:0.5〜2.0質量%]
Mnは、心材2の強度を向上させ、耐高温座屈性を改善するよう機能する合金成分である。このMnの必要とされる含有量は0.5〜2.0質量%の範囲であり、このMn含有量が0.5質量%未満では、その効果が小さく、また2.0質量%を超えるようになると、鋳造時に粗大な化合物が生成し、圧延加工性が低下して、割れ等の不具合が発生し、健全な板材が得難くなる。なお、このようなMnの好ましい含有量は、1.0〜1.5質量%である。
【0025】
[Zn:0.1質量%以下]
Znは、心材2の電位を卑化させると共に、ろう材4中に拡散し、ろう材4の電位を卑化して、接合部の優先腐食を促進させるところから、その含有量は0.1質量%以下とする必要がある。なお、Znの含有量が0.1質量%を超えると、接合部の優先腐食が促進されるようになる。また、このZnの更に好ましい含有量は、0.001〜0.05質量%である。
【0026】
そして、本発明にあっては、上述の如き心材2を与えるアルミニウム合金における必須の合金成分の他に、以下の各種の合金成分も、単独で或いは組み合わせて、適宜に含有せしめられることとなるのである。
【0027】
[Cu:0.1質量%以下]
心材2中のCuは、ろう付け前のフィン材及びろう付け後のフィンの強度を向上させるものであるが、その含有量が多くなると、耐粒界腐食性を低下させる恐れを生じる。このため、心材2中のCu含有量は、0.1質量%以下とすることが望ましく、更に好ましくは0.02〜0.08質量%である。なお、心材2中のCu含有量が、上記範囲を超えると、フィンの電位が貴となって、フィンの犠牲陽極効果が低下し易くなると共に、耐粒界腐食性も低下し易くなる。
【0028】
[Si:1.5質量%以下]
心材2中のSiは、MnあるいはFe等のその他の添加元素と微細析出物を形成して、心材2の強度を向上させ、またMnの固溶量を減少させて、熱伝導度(電気伝導度)を向上させる機能を有する。このため、心材2中のSi含有量は、0.1〜1.5質量%の範囲とすることが望ましく、その含有量が0.1質量%未満では、その効果が十分でなく、また1.5質量%を超えると、耐食性が低下すると共に、心材2の融点を下げ、ろう付け時に局部溶融が生じ易くなる。なお、Si含有量の更に好ましい範囲は、0.3〜1.1質量%である。
【0029】
[Fe:0.5質量%以下]
心材2中のFeは、Mnと共存して、ろう付け前及びろう付け後のフィン材やそれから生じるフィンの強度を向上させる。この心材2中のFe含有量は、0.5質量%以下、特に0.1〜0.5質量%の範囲内が望ましく、その含有量が少なくなるに従って、その効果が小さくなる、一方、0.5質量%を超えるようになると、結晶粒が細かくなって、溶融ろうが心材2中に浸食し易くなり、耐高温座屈性が低下し易くなって、自己腐食性が増大し易くなる恐れがある。なお、Fe含有量の更に好ましい範囲は、0.1〜0.3質量%である。
【0030】
[Mg:1.0質量%以下]
心材2中のMgは、Siとの析出物の形成によって、ろう付け前及びろう付け後のフィン材やフィンの強度を向上させる機能を有する。この心材2中のMgの含有量は、好ましくは1.0質量%以下、更に好ましくは0.05〜1.0質量%である。心材2中のMg含有量が、上記範囲を超えると、心材2の融点が低下して、ろう付時の変形や局部溶融が生じ易くなる。
【0031】
[Cr:0.3質量%以下]
心材2中のCrは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材やフィンの強度を向上させると共に、高温座屈性を改良する成分である。この心材2中のCr含有量は、0.3質量%以下であることが望ましく、これに反して0.3質量%を超えるようになると、鋳造時に粗大な晶出物が生成して、圧延加工性を害し易くなり、板材の製造が困難となり易い。なお、Cr含有量の更に好ましい範囲は、0.02〜0.2質量%である。
【0032】
[Zr:0.3質量%以下]
心材2中のZrは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材やフィンの強度を向上させると共に、高温座屈性を改良する成分である。この心材2中のZr含有量は、0.3質量%以下であることが望ましく、0.3質量%を超えるようになると、鋳造時に粗大な晶出物が生成して、圧延加工性を害し易くなり、板材の製造が困難となり易い。なお、Zr含有量の更に好ましい範囲は、0.02〜0.2質量%である。
【0033】
[Ni:1.5質量%以下]
心材2中のNiは、ろう付前及びろう付け後のフィン材やフィンの強度を向上させる成分である。この心材2中のNi含有量は、好ましくは1.5質量%以下、更に好ましくは0.05〜1.5質量%である。なお、心材2中のNi含有量が、1.5質量%を超えるようになると、結晶粒が細かくなって、溶融ろうが心材中に浸食し易くなり、耐高温座屈性が低下し易く、自己腐食性が増大し易くなる。
【0034】
[Ti:0.3質量%以下]
心材2中のTiは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材やフィンの腐食を層状腐食形態として、局部的な腐食を緩和する成分である。この心材2中のTi含有量は、好ましくは0.3質量%以下である。なお、Ti含有量が、0.3質量%を超えると、鋳造時に粗大な晶出物が生成して、圧延加工性を害し易くなり、板材の製造が困難となり易い。このTi含有量の更に好ましい範囲は、0.02〜0.2質量%である。
【0035】
また、本発明に従うブレージングフィン材8を構成するろう材4を与えるアルミニウム合金における各合金成分は、以下の意義及び限定理由を有するものである。
【0036】
[Si:6.5〜12.5質量%]
Siは、ろう材4の融点を下げて、ろう材4の流動性を高め、ろうとしての有効な機能を発揮させる元素である。このSiの含有量は、6.5〜12.5質量%の範囲内とされる。これに対し、Si含有量が6.5質量%未満では、流動性が低下して、ろうとして有効に作用しない問題を惹起し、また12.5質量%を超えるようになると、圧延で割れ等の欠陥が生じ、健全な板材の製造が難しくなる問題がある。
【0037】
[Zn:0.1質量%以下]
Znは、ろう材4の電位を卑化させ、接合部の優先腐食を促進させるところから、このZnの含有量は0.1質量%以下とする必要がある。これに対し、Znの含有量が0.1質量%を超えるようになると、接合部の優先腐食が促進される恐れを生ずる。なお、Znの好ましい含有量は、0.001〜0.05質量%である。
【0038】
[Cu:0.001〜0.5質量%]
ろう材4中のCuは、ろう付け後のフィレットの電位を貴化して、接合部の耐食性を向上させる成分である。このため、ろう材4中のCu含有量は、0.001〜0.5質量%とする必要があり、更に好ましくは0.01〜0.3質量%である。このろう材4中のCu含有量が、0.001質量%よりも少なくなると、その添加効果を充分に発揮することが出来ず、一方0.5質量%を超えるようになると、フィン材の電位が貴となって、フィンの犠牲陽極効果が低下し易くなる問題を惹起する。
【0039】
そして、本発明にあっては、上述の如きろう材4を与えるアルミニウム合金における必須の合金成分に加えて、必要に応じて、更に、以下の如きSrの所定量が含有せしめられることが望ましい。
【0040】
[Sr:0.1質量%以下]
このSrは、ろう材4中のSi粒子を微細且つ均一に分散させる効果がある。そして、Si粒子が微細且つ均一に分散することにより、ろうの溶融が均一になり、ろう付け性が改善されることとなるのであり、またろう付け後のSi粒子の存在形態も、微細且つ均一となるために、外面の耐食性も向上せしめられ得ることとなる。このような作用を為すSrの好ましい含有量は、0.1質量%以下、特に0.005〜0.1質量%の範囲内であり、その含有量が、0.1質量%を超えるようになると、その添加効果が飽和するようになる。このSrの更に好ましい含有量は、0.01〜0.03質量%である。なお、このSrに代えて、Na:1〜100ppm又はSb:0.001〜0.5質量%を添加しても、Srと同等の効果を得ることが出来る。
【0041】
さらに、本発明に従うブレージングフィン材8を構成する犠牲陽極材6を与えるアルミニウム合金における各合金成分の意義及び限定理由は、以下の通りである。
【0042】
[Zn:7〜15質量%]
Znは、犠牲陽極材6の電位を卑にし、熱交換器の伝熱管に対するフィンによる犠牲陽極効果を発揮させ、伝熱管の孔食を防止する効果を有するものである。このため、Znの含有量は7〜15質量%の範囲内とする必要がある。なお、Znの含有量が7質量%未満では、その効果が小さく、また15質量%を超えて含有すると、ブレージングフィンの自己腐食量が増大する問題を惹起する。また、かかるZnの更に好ましい含有量は、7.5〜12質量%である。
【0043】
また、本発明に従うブレージングフィン材8を構成する犠牲陽極材6を与えるアルミニウム合金は、合金成分として、上記したZnを必須の成分とする他、以下の各種の合金成分が、単独で又は組み合わせて、適宜に含有せしめられることとなる。
【0044】
[Cu:0.1質量%以下]
犠牲陽極材6中のCuは、ろう付け前及びろう付け後のフィン材やフィンの強度を向上させるが、犠牲陽極材6の電位を貴化させ、フィンによる犠牲陽極作用の効果を低下させるところから、犠牲陽極材6中のCu含有量は、0.1質量%以下となるように、調整される。なお、この犠牲陽極材6中のCu含有量が、上記範囲を超えると、フィンの電位が貴となって、フィンの犠牲陽極効果が低下し易くなると共に、耐粒界腐食性も低下し易くなる等の問題を生じる。なお、このようなCuの更に好ましい範囲は、0.01〜0.08質量%である。
【0045】
[Si:8.0質量%以下]
Siは、Mn及びFeと共に、Al−Mn−Fe−Si系化合物を多量に晶出させ、犠牲陽極材6の結晶粒の過度の粗大化を抑制することに加え、Al−Mn−Fe−Si系化合物が腐食の起点となり、孔食を分散させることにより、耐食性を向上させる機能を発揮する。このSiの好ましい含有量は8.0質量%以下であり、その含有量が8.0質量%を超えるようになると、耐食性が低下する問題を生じる。なお、かかるSiの更に好ましい含有範囲は、0.3〜4質量%である。
【0046】
[Mn:2.0質量%以下]
Mnは、犠牲陽極材6の強度を向上させるように機能する成分である。このMnの好ましい含有範囲は2.0質量%以下であり、その含有量が2.0質量%を超えるようになると、鋳造時に粗大な化合物が生成して、圧延加工性が害され、割れ等の不具合が発生し、健全なクラッド板が得難くなる問題を生じる。このMnの更に好ましい含有量は、0.2〜1.3質量%である。
【0047】
[Fe:1.0質量%以下]
Feは、Mn及びSiと共に、Al−Mn−Fe−Si系化合物を多量に晶出させ、犠牲陽極材6の強度を向上させるように機能することに加え、Al−Mn−Fe−Si系化合物が腐食の起点となり、孔食を分散させることにより、耐食性を向上させる特徴を発揮する。このFeの好ましい含有量は1.0質量%以下であり、1.0質量%を超えるようになると、耐食性が低下する問題がある。なお、Feの更に好ましい含有範囲は、0.1〜0.5質量%である。
【0048】
[Ti:0.35質量%以下]
Tiは、犠牲陽極材6の厚さ方向にTi濃度の高い領域と低い領域に分かれ、これらの領域が交互に層状に分布するよう機能する。そして、Ti濃度の低い領域は、その高い領域に比べて、優先的に腐食するため、腐食形態が層状となり、厚さ方向への腐食の進行が妨げられる結果、耐孔食性が向上する特徴を発揮する。このようなTiの好ましい含有量は、0.35質量%以下、特に0.01〜0.35質量%の範囲であり、その含有量が少なくなるに従って、その効果が小さくなるのであり、また0.35質量%を超えると、鋳造が困難となり、加工性が低下して、割れ等の不具合が発生し、健全なクラッド板材の製造が難しくなる問題がある。なお、かかるTiの更に好ましい含有範囲は、0.1 〜0.2質量%である。
【0049】
[Sn:0.05質量%以下]
Snは、その微量の添加によって、犠牲陽極材6の電位を卑と為し、犠牲陽極効果によって、心材2の孔食の発生を防止する機能を発揮する。このようなSnの好ましい含有範囲は、0.05質量%以下である。これに対し、0.05質量%を超える割合のSnの含有は、犠牲陽極材の自己腐食量が増大する問題を惹起する。なお、Snの更に好ましい含有量は、0.01〜0.03質量%である。
【0050】
[In:0.05質量%以下]
Inは、上記したSnと同様に、微量の添加によって、犠牲陽極材6の電位を卑と為し、犠牲陽極効果によって、心材の孔食の発生を防止する機能を発揮する。このようなInの好ましい含有範囲は、0.05質量%以下である。これに対し、0.05質量%を超える割合のInの含有は、犠牲陽極材6の自己腐食量が増大する問題を惹起する。このようなInの更に好ましい含有量は、0.01〜0.03質量%である。
【0051】
なお、本発明に従うブレージングフィン材8を構成する心材2、ろう材4及び犠牲陽極材6を与える各アルミニウム合金において、上記した合金成分以外の残部は、アルミニウムと不可避的不純物とから構成されることとなる。そこにおいて、不可避的不純物は、ブレージングフィン材としての特性が悪化しないように、その含有量は少ない程好ましく、一般に、JIS規格等にて規定される不純物成分の上限値以下の含有量となるように調整されることとなる。
【0052】
また、上述せる如き合金成分を有する各アルミニウム合金からなる心材2、ろう材4及び犠牲陽極材6にて一体的に構成される板状のブレージングフィン材8において、ろう材4や犠牲陽極材6の厚さは、それぞれ、ろう付け後の犠牲陽極材6側の表面電位、ろう材4面側の表面電位、接合部の表面電位との関係等を考慮して、公知の厚さ範囲内において適宜に選択されることとなるが、好ましくは7μm以上、更に好ましくは7〜40μmである。なお、ろう材4や犠牲陽極材6の厚さが7μm未満となる場合には、ろう付け作用や犠牲陽極効果を有効に発揮させ難くなる恐れがある他、接合部の電位を卑化し易く、接合部の耐食性が劣るようになる問題を生じる。一方、ろう材4や犠牲陽極材6の厚さが40μmを超えるような場合には、一般的なフィン材の厚さである50〜200μmの範囲においては、それらろう材4や犠牲陽極材6を心材2へ接合することが困難となり、健全なクラッド板の製造に支障を来すこととなる恐れがある。
【0053】
さらに、本発明に従う熱交換器用ブレージングフィン材8においては、ろう材4及び犠牲陽極材6は、それぞれ、心材2の片面のみに、クラッドされているが、それらろう材4や犠牲陽極材6のクラッド率は、常識的な範囲であれば適用可能であり、適宜に選択されることとなるが、好ましくは、フィン材8の全体厚さに対して、それぞれ3〜25%程度である。それらクラッド率において、例えば、ろう材のクラッド率が、上記範囲未満となると、ろう付け加熱時に、溶融したろう材が少なくなり易く、フィレットが十分に形成されない場合があり、一方上記範囲を超えるようになると、ろう付け加熱時に溶融するろう材が多くなり過ぎるために、心材が溶ける恐れがある等の問題を惹起する。
【0054】
そして、上述の如き
図1に示される熱交換器用アルミニウム合金製ブレージングフィン材8は、心材2の片面にろう材4をクラッドする一方、ろう材4とは反対側の心材2の面に犠牲陽極材6をクラッドすることにより、得られるものであるが、そこにおいて、心材2にろう材4及び犠牲陽極材6をクラッドする方法としては、本発明にて規定される心材2、ろう材4及び犠牲陽極材6における各合金元素の組成とそれぞれ同じ組成を有する心材用のアルミニウム合金鋳塊、ろう材用のアルミニウム合金鋳塊、及び犠牲陽極材用のアルミニウム合金鋳塊を鋳造し、次いで、心材用のアルミニウム合金鋳塊や犠牲陽極材用のアルミニウム合金鋳塊については、常法に従って均質化処理を行う一方、ろう材用のアルミニウム合金鋳塊については、かかる均質化処理の施された犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊と共に、それぞれ、熱間圧延を行い、そして、均質化処理後の心材用のアルミニウム合金鋳塊の片側の面にろう材用のアルミニウム合金鋳塊の熱間圧延材を、また他方の側の面には、犠牲陽極材用のアルミニウム合金鋳塊の熱間圧延材を、それぞれ重ね合わせて、熱間クラッド圧延を行うことにより、アルミニウム合金製クラッド材を作製する手法が、採用されることとなる。更にその後、そのようなクラッド材には、冷間圧延を行い、更に必要に応じて中間焼鈍を行い、そして仕上げ冷間圧延を行うことにより、目的とするアルミニウム合金製ブレージングフィン材8が、製造されるのである。なお、かかるブレージングフィン材8は、仕上げ冷間圧延を行った後、製品幅に条切断され、フィン用素材とされることとなる。
【0055】
その後、かくの如くして得られたブレージングフィン材(フィン用素材)8は、所定の伝熱管との組付けのために、プレス加工等の周知の加工によって、例えば
図2に示されるようなフィン部材10に成形加工されることとなる。この
図2に示されるフィン部材10は、プレートフィン型熱交換器におけるプレートフィンを与えるものであって、矩形プレート状のフィン本体12の幅方向(図において上下方向)の一端に開口し、他端側に延びるU字形状のスリットからなる組付け孔14が、フィン本体12の長手方向に所定間隔を隔てて複数個配設されている。また、そのような組付け孔14の周りには、所定高さのカラー部16が、従来と同様に、フィン本体12と一体的に形成されている。ここでは、かかるフィン部材10には、
図3に示される如く、公知のアルミニウム製扁平多穴管20が、その組付け孔14に嵌入、組み付けられて、組立てコア30とされ、ろう付け工程に供されるようになっている。即ち、図示の如く、互いに平行に且つ一定距離を隔てて配置された複数枚のフィン部材10に対して、ここでは、2本の扁平多穴管20、20が、かかるフィン部材10に形成されたスリット状の組付け孔14に嵌入されて、組み付けられているのである。なお、アルミニウム製扁平多穴管20は、よく知られているように、アルミニウム若しくはアルミニウム合金からなる金属材料を用いて、押出法等にて形成された、ここでは、管軸方向に延びる互いに平行な7つの穴22が形成されてなる、扁平形状を呈する多穴管とされている。
【0056】
そして、本発明に従う熱交換器は、少なくとも、本発明に従うアルミニウム合金製ブレージングフィン材8を加工して得られたフィン部材10と、アルミニウム製の伝熱管20とが、組み付けられてなる組付け体たる組立てコア30を、従来と同様にして、ろう付け加熱することにより、製造されるものである。即ち、少なくともフィン部材10と伝熱管20とを組み付けて得られる組立てコア30を、所定の温度及び時間で、ろう付け加熱することにより、目的とする熱交換器が形成されるのであるが、その際、フィン部材10は、
図4に示される形態から、
図5に示される如く、それを構成するろう材4の溶融により、フィレット41aの形成された接合部41を介して伝熱管20に接合、固定せしめられて、一体の熱交換器40が形成されるのである。また、かかるろう付け加熱によって、ろう材4が溶融することにより、実質的に心材2と犠牲陽極材6とからなるフィン18が、伝熱管20に対して立設せしめられてなる形態において、形成されることとなる。なお、この際のろう付け加熱温度としては、一般に、590℃〜605℃程度が採用され、またろう付け加熱時間としては、1〜10分間程度が採用されるのである。更に、ろう付け加熱の際の雰囲気には、窒素ガス雰囲気、ヘリウムガス雰囲気、アルゴンガス雰囲気等の不活性ガス雰囲気が、採用されることとなる。
【0057】
このように、プレートフィン型熱交換器を製造する場合において、フィンの形状は、基本的にプレート状とされることとなる。このプレート状フィンは、例えば、アルミニウム合金製ブレージングフィン材に対し、その伝熱管を配置する部分に、従来と同様に、フィンカラーと呼ばれる内壁を設けて、複数の貫通孔を開ける一方(
図2参照)、貫通孔との間の平坦部には、空気の乱流化を促進させるための複数のスリットを設けることにより、作製されることとなる。このとき、カラーの先端は、所定の高さに揃えるか、フレア加工して、押し広げた形状とされる。そして、伝熱管とプレート状フィンとをろう付け接合させるため、プレート状フィンのろう材側の面は、カラーの内面側、すなわち、伝熱管と接触する側の面とすると(
図4参照)、強固な金属接合が得られ(
図5参照)、冷媒と空気との間の伝熱性能が高くなり、熱交換器としての強度も向上するのである。なお、伝熱管としては、例示のアルミニウム管の他、従来より用いられている銅管等を用いることも可能である。そして、多数のプレート状フィンを、間隔を開けて積層し、それらの貫通孔に伝熱管を挿通させて、フィンと伝熱管とを組み付け、必要に応じて他の部材を組み付けて、組付け体を得る(
図3参照)。次いで、かかる組付け体をろう付け加熱して、目的とするプレートフィン型熱交換器が製造されるのである。
【0058】
なお、本発明にあっては、伝熱管の材質には、アルミニウム含有量が99.0質量%以上となる純アルミニウムや、JIS A3003合金、純アルミニウムにCuやMnをそれぞれ0.1〜0.5質量%程度添加したアルミニウム合金が、好適に採用されることとなる。また、そのような伝熱管表面には、Zn成分を有する被膜が付与されており、このZn成分を有する被膜の付与は、溶射、クラッド、若しくは塗装によって実施されることとなる。更に、伝熱管には、扁平状の多穴管や丸管等の公知のものが採用されることとなる。
【0059】
そして、かくの如くして得られた、本発明に従うアルミニウム合金製ブレージングフィン材を加工してなるフィン部材とアルミニウム製伝熱管とをろう付けしてなるアルミニウム製熱交換器にあっては、かかるブレージングフィン材(フィン部材)から形成されるフィンの表面の自然電位と、そのようなフィンとアルミニウム製伝熱管との接合部の表面の自然電位と、そのアルミニウム製伝熱管の表面の自然電位とが、フィン表面<接合部表面<伝熱管表面の順に、若しくはフィン表面<伝熱管表面<接合部表面の順に、貴となるように構成され、これによって、熱交換器の耐食性が有利に高められ得ることとなるのである。
【実施例】
【0060】
以下に、本発明の代表的な実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した具体的記述以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当事者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0061】
(1)ブレージングフィン材の製造
公知の連続鋳造法によって、下記表1に示される合金組成を有する各種心材用アルミニウム合金、下記表2に示される合金組成を有する各種ろう材用アルミニウム合金、及び下記表3に示される合金組成を有する各種犠牲陽極材用アルミニウム合金の、それぞれの鋳塊を鋳造した。そして、それら鋳塊のうち、心材用アルミニウム合金鋳塊及び犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊については、それぞれ、均質化処理を実施した。その後、かかる均質化処理された犠牲陽極材用アルミニウム合金鋳塊に対しては、ろう材用アルミニウム合金鋳塊と共に、それぞれ熱間圧延を施して、所定の厚さ(2〜6mm)の熱間圧延板を得た。次いで、それら得られたろう材用アルミニウム合金No.及び犠牲陽極材(犠材)用アルミニウム合金No.にそれぞれ対応するろう材記号及び犠材記号の熱間圧延板と共に、心材用アルミニウム合金No.に対応する心材記号を有する心材用均質化処理材を用いて、下記表4〜表6に示される各種組合せにおいて、心材用均質化処理材の一方の側に、ろう材用熱間圧延板を重ね、他方の側には、犠材用熱間圧延板を重ね合わせて、合わせ材と為し、そしてその合わせ材を熱間圧延(クラッド圧延)することにより、三層構造の各種クラッド材を得た。その後、それらクラッド材を、それぞれ、冷間圧延、中間焼鈍、及び冷間圧延することによって、厚さ:0.1mmの板材(H14)とし、最終的に、
図1に示される如き構造の、各種のブレージングフィン材:X1〜X56及びY1〜Y26を製造した。なお、それら得られた各ブレージングフィン材における各部材のクラッド割合は、何れも、心材:0.06mm、犠牲陽極材:0.02mm、ろう材:0.02mmとなるように構成した。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
【表5】
【0067】
【表6】
【0068】
(2)組立てコアの作製
上記で得られた各種のブレージングフィン材を、それぞれプレス成形し、
図2に示される如き、組付孔14を有する各種のプレートフィン部材10を作製した。なお、それらプレートフィン部材10は、何れも、幅:20mm、長さ:100mmであり、組付孔14は、幅:17mm、長さ:2mmのサイズにて、10mmピッチにおいて設けられた。次いで、Zn溶射によって、Zn成分が8g/m
2 となる被膜を表面に付着させた、純アルミニウム製の扁平多穴管20からなる伝熱管を用い、それを、上記で得られたプレートフィン部材10をピッチ:1.5mmで積層してなるフィン群に差し込み、組み付けることにより、100mm×100mmのサイズを有する、
図3に示される如き組立てコア30を作製した。なお、プレートフィン部材10は、そのろう材4側の面が、
図4に示される如く、扁平多穴管20に接触するように、プレス加工時にカラー16を形成してなる形態において、扁平多穴管20に組み付けた。
【0069】
その後、かかる組立てコア30に対して、公知のフッ化物系フラックスを吹き付けた後、不活性雰囲気中において、600℃(最高到達温度)に昇温して600℃で3分間保持し、ろう付け加熱を行うことにより、
図5に示される如く、実質的に心材2と犠牲陽極材6とからなるフィン18が、溶融したろう材4によって、扁平多穴管20との間においてフィレット41aを形成しつつ、接合部41を介して、一体的にろう付けされてなる組立てコアの作製を行った。なお、表7〜表9に示されるコア作製例:X1〜X56及びY1〜Y26は、それぞれ、用いられたフィン材の記号と一致させられており、例えば、コア作製例X1においては、フィン材としてX1のものを用いて、組立てコアを作製したものであることを示している。
【0070】
(3)自然電位の測定
上記で得られた各種のろう付け加熱後の組立てコア(熱交換器40)について、冷却の後、
図5に示されるように、フィン18における犠牲陽極材6側の表面42、ろう材(4)配置側の表面43、フィン18と伝熱管(扁平多穴管20)との接合部41の表面(フィレット表面)44、及び伝熱管(扁平多穴管20)の表面45の、それぞれの自然電位を測定し、その結果を、下記表7〜表9に示した。
【0071】
なお、自然電位の測定に際しては、先ず、ろう付け加熱後のコア(40)について、その測定部位のみを露出させた形態において、シリコンシーラントにてマスキングしてなる試験材料を、自然電位測定用サンプルとした。5%NaCl水溶液中へ酢酸を添加して、pH3に調製してなる測定液中に、上記の自然電位測定用サンプルを浸漬し、室温にて24時間保持した後、ポテンショスタットを用いて、測定部位(フィンろう材側、フィン犠材側、フィレット並びに伝熱管表面)について測定を行い、10分毎に採取されたデータの平均値を、各部位の自然電位の値とした。なお、ポテンショスタットは、北斗電工株式会社製HAL−3001を用いた。
【0072】
(4)SWAAT腐食試験
各種のコア作製例に従って、ろう付け加熱して得られた各種のコア(40)について、それぞれの扁平多穴管20の開口部(冷媒出入口)をシリコンシーラントにてマスキングした後、500時間のSWAAT腐食試験を、ASTM規格(G85 A3)に準拠した方法により、実施した。そして、そのような腐食試験の後、リン酸クロム酸にて腐食生成物を除去し、乾燥させた後、フィン18と扁平多穴管20との接合状態を観察し、評価した。このSWAAT試験後のフィン18と扁平多穴管20との接合状態に関して、腐食試験を実施していないコアの接合部面積と、腐食試験を実施した後のコアに関して、残存している接合部面積を画像解析にて測定し、接合面積残存率を求めた。接合面積は、プレートフィン10の枚数が20枚分となる接合面積として求めた。そして、かかる接合面積残存率が80%以上で「◎」、60%以上80%未満で「○」、20%以上60%未満で「△」、20%未満を「×」として、本SWAAT腐食試験後の接合状態を評価した。また、コアのろう付け接合状態を示すろう付け性の評価は、目視にて、未接合部の有無を確認し、未接合部の無いものを「○」とする一方、未接合部の存在やフィン溶融等の欠陥が生じた場合には、その旨を表示した。そして、それらの評価結果を、下記表7〜表9に示す。
【0073】
(5)フィン材の特性評価
上記(1)ブレージングフィン材の製造において得られた各種のブレージングフィン材について、それぞれ、幅:100mm、長さ:300mmの大きさに切断し、板材の状態において、ろう付け相当加熱処理を施した。即ち、所定の大きさに切断されたフィン材を、ろう付け炉内に吊り下げ、不活性雰囲気下において、600℃(最高到達温度)に加熱することからなる加熱処理を実施した。そして、かかる加熱処理後のフィン材から、JIS−Z2201の5号試験片を作製し、JIS−Z2241に従って、室温下において引張試験を行い、その結果を、下記表7〜表9に示した。なお、それぞれのブレージングフィン材の製造に際して、ろう付け加熱が可能なフィン材が得られた場合に「○」、ろう付け性に問題を生じた場合に「△」、フィン材の製造が不可となった場合に「×」として、製造の可否を評価し、その結果を、下記表7〜表9に併せ示した。
【0074】
【表7】
【0075】
【表8】
【0076】
【表9】
【0077】
かかる表7〜表9の結果から明らかな如く、本発明に従うブレージングフィン材X1〜X56を用いて、それぞれ組立てコアを作製してなるコア作製例のX1〜X56にあっては、何れも、ブレージングフィン材としての製造が有利に実現され、且つろう付け加熱後の引張強さも充分なものであると共に、ろう付け性も良好であり、且つSWAAT試験500時間後のフィンの接合状態も良好であることが認められる。そして、ろう付け加熱により得られた組立てコア(熱交換器40)における自然電位に関しても、フィン18の犠材側表面42やろう材側表面43の自然電位が最も卑となり、次いで、基本的には、フィレット41aの表面44、そして扁平多穴管20の表面であるチューブ表面の順に、電位が貴となる結果が得られ、これによって、優れた耐食性が発揮され得るものであることが、認められた。
【0078】
これに対して、本発明の範囲外となる、前記表6に示されるクラッド構成において、ブレージングフィン材Y1〜Y26を製造しようとしたとき、その製造に各種の問題が生じた他、得られたフィン材を用いて、それぞれのコアを作製するコア作製例Y1〜Y26においても、以下のような各種の問題を生じることが明らかとなった。
すなわち、コア作製例Y1では、心材のMn量が少ないために、フィン強度が低くなり、コア組付け時にフィンが変形して、ろう付け加熱後に接合部が座屈する問題を惹起した。また、コア作製例Y3においては、心材のZn量が多いため、ろう材に拡散するZn量が多くなり、接合部電位がフィン材よりも卑化して、SWAAT試験後の接合面積率が低下した。更に、コア作製例Y4においては、心材のCu量が多いために、フィン表面の電位が接合部の電位より貴化し、SWAAT試験後の接合面積率が低下した。コア作製例Y5においては、心材のSi量が多く、またコア作製例Y10においては、心材のNi量が多く、心材の結晶粒が微細化し、ろう材が心材へ浸透することで、フィンが座屈した。また、コア作製例Y6においては、心材のFe量が多いために、心材の結晶粒が微細化し、ろう材が心材へ浸透することで、フィンが座屈した。更に、コア作製例Y7においては、心材のMg量が多く、心材の融点が下がり、ろう付け加熱時にフィンが溶融する問題が惹起された。加えて、コア作製例Y2においては心材のMn量が多く、またコア作製例Y8においては心材のCr量が多く、更にコア作製例Y9においては心材のZr量が多く、更にまたコア作製例Y11においては心材のTi量が多いために、圧延時に割れが生じ、健全な板材を得ることが出来なかった。
【0079】
また、コア作製例Y12においては、ろう材のSi量が少ないために、充分なろう付け接合を得ることが出来ず、コア作製例Y13においては、ろう材のSi量が多過ぎるために、フィンが溶融する問題を生じた。また、コア作製例Y14においては、ろう材のZn量が多く、接合部の電位がフィン材の電位より卑化して、SWAAT試験後の接合面積率が低下する問題が生じ、コア作製例Y15においては、ろう材のCu量が少なく、接合部電位がフィン材の電位よりも卑化し、SWAAT試験後の接合面積率が低下する問題を惹起し、一方、コア作製例Y16においては、ろう材のCu量が多く、フィンの電位がチューブ表面電位よりも貴化して、チューブ表面から優先腐食することにより、SWAAT試験後の接合面積率が低下することを認めた。加えて、コア作製例Y17においては、ろう材のSr量が多く、圧延時に割れが生じ、健全な板材を製造することが出来なかった。
【0080】
さらに、コア作製例Y18においては、犠牲陽極材のZnが少なく、接合部電位がフィン電位よりも卑化して、SWAAT試験後の接合面積率が低下する問題があり、一方コア作製例Y19においては、犠牲陽極材のZn量が多いために、接合部位がフィン電位よりも卑化し、SWAAT試験後の接合面積率が低下する問題を惹起した。また、コア作製例Y20においては、犠牲陽極材のCu量が多く、そのために接合部位がフィン電位よりも卑化して、SWAAT試験後の接合面積率も低下する問題があり、コア作製例Y21においては、犠牲陽極材のSi量が多く、そのために心材へのSi拡散量が増大して、ろう付け時にフィンが溶融する問題を惹起した。更に、コア作製例Y22においては、犠牲陽極材のFe量が多く、そのために、接合部位がフィン電位よりも卑化して、SWAAT試験後の接合面積率も低下した。加えて、コア作製例Y23においては、犠牲陽極材のMn量が多く、またコア作製例Y24においては、犠牲陽極材のTi量が多く、更にコア作製例Y25においては、犠牲陽極材のSn量が多く、更にまたコア作製例Y26においては、犠牲陽極材のIn量が多いために、圧延時に割れが生じ、良好な板材を得ることが出来なかった。