(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-155323(P2017-155323A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】マグネシウム金属材料表面の処理方法。
(51)【国際特許分類】
C25D 11/30 20060101AFI20170810BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20170810BHJP
B05D 7/24 20060101ALI20170810BHJP
B05D 3/02 20060101ALI20170810BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20170810BHJP
【FI】
C25D11/30
B05D7/14 P
B05D7/24 302C
B05D3/02 Z
B05D3/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】書面
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-54486(P2016-54486)
(22)【出願日】2016年3月1日
(71)【出願人】
【識別番号】595179549
【氏名又は名称】株式会社アート1
(72)【発明者】
【氏名】秋本 政弘
【テーマコード(参考)】
4D075
【Fターム(参考)】
4D075AA01
4D075AB00
4D075AB51
4D075AB55
4D075AC57
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4D075CA13
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4D075DB01
4D075DC38
4D075EA05
4D075EB07
4D075EB08
4D075EB56
4D075EC30
(57)【要約】
【課題】マグネシウム合金表面の微細孔に漆成分を充填担持固定化し、金属材料表面に漆の強固な塗膜を形成し、美しさと、耐腐食性を兼ね備えた金属材料製品を開発する。
【解決手段】マグネシウムまたはマグネシウム合金の材料表面に、平均孔径が50nm〜30μmの微細孔を多数有する多孔質層とその下部に酸化マグネシウムからなる無孔質層(バリヤー層)を陽極酸化法で形成し、該多孔質層の孔内部に漆成分含有液を含浸させ、短時間の乾燥で固定化し、多孔質層の微細孔に漆成分を充填すると共にマグネシウム金属材料の表面に耐食性の漆皮膜を形成する処理方法である。漆成分を希釈して使用するために、漆成分含有液の濃度は、刷毛塗りなど或いは浸漬含浸などのように金属材料への適用手段によって変えることが好ましい。耐食性が著しく改善される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均孔径が10nm〜30μmの微細孔を有する多孔質層を表面層として持つマグネシウムまたはマグネシウム合金金属材料の表面に、漆成分を含有する液を適用し、少なくとも該微細孔内部に漆成分を含浸させ、湿度30〜80%、20〜70℃の温度雰囲気下に10分以上処理し、更に常温で12時間以上放置することで乾燥させることを特徴とするマグネシウム金属材料表面の処理方法。
【請求項2】
平均孔径が10nm〜30μmの微細孔を有する多孔質層を表面層として持つマグネシウムまたはマグネシウム合金金属材料の表面に、漆成分を含有する液を用いて、少なくとも該微細孔内部に漆成分を含浸させてアンカー効果を利用して漆と金属の密着性向上を発揮させ、100℃以上での加熱を省いて処理することを特徴とする請求項1のマグネシウム金属材料表面の処理方法。
【請求項3】
漆含有液として漆成分を5〜50%含有する有機溶媒液を用い、はけ塗り、浸漬法、スプレー法、超音波浸漬法、減圧後の浸漬含浸法、浸漬後の加圧含浸法、電気泳動法もしくはこれらの1つまた2つ以上を組合せて材料表面に適用し、乾燥することを特徴とする請求項1または2のマグネシウム金属材料表面の処理方法。
【請求項4】
漆成分はウルシオールを主とし他にゴム質と呼ばれる水溶性多糖類、糖タンパク、ラッカーゼの合計が95〜98重量%と2〜5重量%の水分が含まれていることを特徴とする、請求項1乃至3のいずれか1つのマグネシウム金属材料表面の処理方法。
【請求項5】
金属材料表面の多孔質層の微細孔は、マグネシウムまたはマグネシウム合金に火花放電を伴う火花放電型陽極酸化法によって形成された酸化マグネシウムからなる3次元の円柱状またはラッパ状の孔構造を有するものであることを特徴とする、請求項1乃至4のいずれか1つのマグネシウム金属材料表面の処理方法。
【請求項6】
金属材料表面に存在するラッパ状微細孔の内部に漆成分を含浸させると共に表面にも漆成分を塗着させ、1時間以上乾燥することにより、表面の鉛筆硬度3H以上で、塩水噴霧試験法にて336時間以上の耐食性を有する請求項1乃至5のいずれか1つのマグネシウム金属材料表面の処理方法。
【請求項7】
漆成分を含有する液の溶媒として、テレピン油またはナフテン系、イソパラフィン系もしくは芳香族系炭化水素溶剤を用いる請求項1乃至6のいずれか1つのマグネシウム金属材料表面の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシウム系金属材料の処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
マグネシウム系金属材料は最軽量金属材料として各種製品に多用されているが、空気雰囲気下に腐食されやすく、通常陽極酸化法や塗装などにより表面処理がなされている。
陽極酸化法によって表面処理する場合は処理表面の粗さを少なくするため比較的低電圧で酸化処理を行うため、表面に形成される層は水酸化マグネシウムを主成分とするものとなり、比較的やわらかい表面となり、傷が付きやすく、その部分からの腐食進行が起き易い欠点がある。
【0003】
一方で、陽極酸化の際に比較的に高電圧を用いると表面層成分は酸化マグネシウムが主成分となり、固い層となり、耐擦過性は向上するが、表面に形成される微細孔の孔径が水酸化マグネシウムを主成分とする場合に比して大きくなってしまい、結果として表面が粗くなり、光沢なども劣ってくるという欠点を有している。また、ラッパ状の微細孔の孔径が大きいので、それが基点となって生地であるマグネシウム金属自体の腐食を生じ易くさせるので、耐食性の改良も必要とされている。
【0004】
上述のような欠点を補うためにラッパ状の微細孔を封孔する方法として、従来蒸気加圧法、金属含浸、有機物含浸、無機物含浸法などが行なわれているが、効果が充分ではない。リチウムシリケートを用いる方法も知られているがこれは封孔によって一時的に耐摩耗性が改良されるがその効果が長続きはしない。また、従来の有機系塗装では耐摩耗性や表面硬度を高めることが出来ない。
【0005】
一方、漆は木製品へは古くから適用され、美術・芸術品、実用品として愛用されているが、金属製品に対しては密着性が不十分ですぐに剥がれてしまうため、下地としてプライマーを使用してからの適用例が散見されるに過ぎない。例えばアルミニウム金属材料の表面に直接漆を塗布しても密着性が悪く実用にならない。そしてチタンや鉄材料表面に適用するときは密着性を向上させるために100〜180℃で加熱処理を行なうことが必要条件となっている。プライマーを使用して密着性を向上させた場合、トップコートとしての漆成分のもつ硬度が充分発揮できない。例えば、「最近のマグネシウム合金表面処理の現状と課題」(日本マグネシウム協会:平成15年9月2日)によると、マグネシウム金属表面上にエポキシ系のプライマーを塗付後、トップコートとして、6Hの硬度を持つ塗料を塗付した時の、塗膜硬さはプライマーの硬さである3Hとなる。つまりトップコートの硬度を上げてもプライマーの硬度がないとトップコートの硬さが発揮されないのである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来金属製品への応用が殆ど見られなかった漆をマグネシウム金属製品に対してプライマーの使用無く適用し、かつ通常は金属に適用した場合に必要となる100〜180℃での加熱処理を省略してマグネシウム金属材料の欠点を克服したものであって、特に従来試されたことのない漆を希釈するという手段を用いて、表面硬度が高く、耐摩耗性、耐擦過性、耐食性に優れた製品の製造を可能にする処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、平均孔径が10nm〜30μmの微細孔を有する多孔質層を表面層として持つマグネシウムまたはマグネシウム合金金属材料の表面に、漆成分を含有する液を直接適用し、少なくとも該微細孔内部に漆を含浸させ、湿度30〜80%、20〜70℃の温度雰囲気下に10分以上処理し、更に常温で12時間以上放置することで乾燥させることを特徴とするマグネシウム金属材料表面の処理方法である。
なお、本発明において漆成分を含有する液とは、漆成分が溶剤に完全に溶解または溶剤と完全に均一に混合しているものだけを意味するのではなく、漆成分が溶剤中に懸濁状で存在する液の場合も意味している。
【0008】
漆成分含有液をマグネシウムまたはマグネシウム合金金属材料の表面に直接適用し、少なくとも微細孔内部に含浸させる場合には、塗布または含浸の方法に応じてその漆成分濃度を変えることが適当であり、例えば、はけ塗り、浸漬法またはスプレー法で材料表面または表層近傍に適用する場合には、漆成分含有液として濃度を比較的高くした液が好ましいが、塗りまたは浸漬の適用回数などに依存するので、漆成分を5〜50%含有するものから適宜に選択できる。漆成分含有の濃度が高い場合は液の材料表面への塗布は1回でも十分の時もあるが、通常は2回以上繰り返すことが好ましい。乾燥時間は前記したように第一次乾燥として湿度30〜80%、温度20〜70℃の大気雰囲気下に10分以上、好ましくは30分以上処理し、更に第二次乾燥として常温雰囲気で12時間以上放置する方法で行われるが、塗布を2回以上行なう場合には1回目に塗られた塗膜を第一次乾燥しただけで2回目以降の塗布をすることが好ましい。
【0009】
一方、浸漬含浸法、浸漬超音波含浸法、減圧後の浸漬含浸法、浸漬後の加圧含浸法、電気泳動法などの方法で金属材料表面に適用する場合には、より濃度の低い溶液を用いることが好ましいが、この場合も漆成分の含有濃度としては5〜50%の範囲で適宜に選んで材料表面に適用することが好ましい。これらの方法は2つ以上を組合せて適用することも出来る。
【0010】
本発明において漆成分の含有濃度として示す場合の「%」は、漆成分の使用量を重量(gr)で計量し、これを溶解もしくは懸濁させる溶剤の量を容量(ml)で計量し、重量/容量の比を百分率で表した割合を示している。
【0011】
本発明で用いられる漆成分はウルシオール90〜92重量%前後、糖タンパク5〜8重量%、水分2〜5重量%の精製漆を用いている。
一般に漆とは、ウルシオールを主成分(62〜65%)とし、ゴム質と呼ばれる水溶性多糖類(5〜8%)、糖タンパク(1〜3%)などおよび水分(26〜28%)を含んでおり、これはウルシ属植物の樹皮に傷を付けたときに樹液として分泌されるものである。樹液から樹皮やゴミを取り除き、クロメと呼ばれる加熱脱水工程を施して水分量を3〜5%程度に調整した精製漆が実用に供されている。
これら精製漆中の漆成分としてはウルシオール、糖タンパク、水溶性多糖類と一緒に合計で95〜98%含んでいて、この他に水分が含まれる。この精製漆をそのまま本発明に適用すると、漆自体の粘度が高すぎて適用すべきマグネシウム金属材料表面の微細孔内部にアンカー効果が生じるような量の漆成分を含浸させることが出来ない。微細孔の内部に漆を含浸できない場合はマグネシウム金属表面に直接塗布された漆と材料との密着性が不十分となってしまう。このため一般に使用されている精製漆を溶剤によって希釈し、漆成分の濃度によって粘度を調整して用いることが必要で、その程度は漆を金属材料表面に適用する塗布または含浸手段によって変えることが好ましい。
【0012】
精製漆を希釈する場合の好ましい溶剤(希釈剤)は、灯油、テレピン油、或いはナフテン系、イソパラフィン系、もしくは芳香族系の炭化水素溶剤が好ましい。ナフテン系の炭化水素溶剤としてはエクソンモービル社製のエクソール(TM)Dシリーズ、芳香族系炭化水素溶剤としては同じくエクソンモービル社製のソルベッソ(TM)シリーズの溶剤やベンゼン、ニトロベンゼン、キシレンなどが用いられる。またアセトンなども用いられる。漆成分の濃度が濃すぎると微細孔の内部に充分含浸させることが難しくなり、乾燥時にムラが生じ、塗布面に波目模様等が発生する事があり、外観が劣ることになる。
【0013】
漆の希釈法は、漆成分に溶剤を少しずつ加えて行なう。溶剤の加える量が一定割合を越えて薄くすることは好ましくない。
【0014】
本発明は、従来の漆塗布の場合の乾燥に比べると異なる大きな特徴がある。従来法では漆成分を有機溶剤などに希釈して塗布するという発想がなかったので、漆を塗布後には所定の温度・湿度のもとに一日もしくは数日という長時間の乾燥処理をするという操作を何回も繰り返したのち、ようやく製品とされる。この乾燥に要する時間が長いために大量生産をするための生産性という観点からは問題が生じることになる。本発明においては、漆含有の希釈液の塗布後に、湿度30〜80%、温度20〜70℃の雰囲気下に10分以上好ましくは30分〜1時間程度の一次乾燥を施し、複数回の塗布を行う場合は一次乾燥の後に直ぐに次の塗布を行い、次いで常温で12時間以上放置する方法で行われるので、従来法の乾燥時間に比べると著しく短時間で次の各種処理に進むことが可能となる。
【0015】
本発明の大きな特徴は、マグネシウム金属材料表面の特定の微細孔を利用してアンカー効果を発揮させ、漆と金属との密着性を実用に供せられる程度に向上させるために従来必要とされていた100〜180℃での加熱処理を省いても実用に供せられるように密着性を向上させることができることであり、更には溶剤で希釈した漆を利用するという従来の漆業界では殆ど実行されたことのない手法でマグネシウム金属材料の防食効果を発揮させたことである。本発明の処理を行ったマグネシウム金属材料表面に更に通常公知の方法で漆成分を塗布し、更に装飾性の高い製品とすることも可能である。
【0016】
本発明に用いられるマグネシウム金属材料は、火花放電を伴う陽極酸化処理によって平均孔径が10nm〜30μmの微細孔が多数存在する多孔質層が表面に形成されている。この層の構成成分は酸化マグネシウムを主成分としており、また形成されている微細孔は3次元の円柱状またはラッパ状の孔構造を有している。このように陽極酸化処理された材料の表面層は表面硬度に優れ、耐摩耗性にも優れているが、一方で時には非常に大きな細孔も形成させるので外観、光沢などの点から欠点がある。本発明ではこの大きな細孔に漆成分を含浸充填し、従来の封孔法では達成できなかった耐食性を付与し、更に金属材料の表面にも塗着させ、これを所要の条件下に乾燥することにより、従来の塗装による処理では達成できなかった表面硬度を長期に亘って維持できるようになった。
【0017】
この様な微細孔からなる多孔質層の厚さは陽極酸化条件により3〜50μmの範囲でかなり自由に設定することが可能で、従って微細孔部分に充填する漆の量も必要に応じてかなりの自由度をもって変えることができるが、細孔内部の全部に充填させる必要はない。
【0018】
本発明において使用するマグネシウム金属材料表面の微細孔は火花放電式の陽極酸化法で形成され、表面に50nm〜30μm程度の開口部を有し、各孔の間の壁、および多孔質層の下部に存在するバリヤー層からなり、皮膜の主構成成分は酸化マグネシウムで、スピネル又はこれに近い構造より成り立っている。 微細孔の平均孔径が50nm〜30μmで、各種金属表面の凹凸もしくは微細孔などにおいては充填または強固な接着固化が難しいとされている高分子の漆であっても、このような火花放電式の陽極酸化法で形成された微細孔では細孔内部に充填させることができる。そして細孔内部に部分的に充填され、固化した漆成分はアンカー効果を生じるために金属材料表面に塗布された漆の表面への接着・固化を極めて強固にすることが出来る。
【0019】
本発明においてマグネシウム系の金属材料表面に特定の微細孔を有する皮膜を形成するには、該金属材料をアルカリまたはアルカリ土類金属のリン酸塩、ホウ酸塩、水酸化物、ケイ酸塩もしくはケイフッ化塩の1種以上を0.2〜7モル/リットル、皮膜添加剤を0.01〜5モル/リットルの割合で含む水溶液中で電流密度0.5〜5A/デシ平方メート、電圧25V以上で火花放電を生じさせながら陽極酸化処理することによって達成される。
【0020】
本発明で用いられるアルカリ又はアルカリ土類金属のリン酸塩、ホウ酸塩、ケイ酸塩、もしくは水酸化物で、具体例としては、H
3PO
4,Na
3PO
4、Na
2HPO
4、NaH
2PO
4、K
3PO
4、K
2HPO
4、KH
2PO
4、のリン酸塩、Na
2SiO
3、Na
4SiO
4、K
2SiO
3、K
2SiO
7、K
2Si
4O
9のケイ酸塩及び、NaOH,KOH,の水酸化物があげられる。
【0021】
陽極酸化を行う際の電解液には液の寿命、皮膜の均一性、安定性、性能向上を目的として皮膜添加剤を加えるのが好ましい。添加剤には、フッ化物塩、重フッ化物塩、ケイフッ化物塩、鉱酸塩などの無機化合物、又は水酸基、カルボキシル基、スルホン基を含む環状又は鎖状の有機化合物が用いられ、具体的にはKF、NH
4Fなどのフッ化物、NH
4FHF、などの重フッ化物、Na
2SiO
3、Na
4SiO
4、などのケイ酸化合物、Na
2SiF
6、MgSiF
6、などのケイフッ化物、有機化合物としては(CH
2OH)
2、(CH
2CH
2OH)O、(CH
2OH)
2CHOHなどのアルコール類、(COOH)
2、(CH
2CH
2COOH)
2、〔CH(OH)COOH〕
2、C
6H
4(OHCOOH)、C
6H
5COOH、C
6H
4(COOH)
2どのカルボン酸、などの有機化合物が用いられる。
【0022】
これらの皮膜形成安定剤は単独でも混合して用いても良い。特に無機化合物と有機化合物を組み合わせて使用するときは液管理が容易となり好ましい。この安定剤の添加量は電解液中、0.01〜5モル/リットルの範囲が好ましい。
この様に調整された電解液中でのマグネシウム合金の陽極酸化処理は、浴温を10〜60℃でpH9以上の弱〜強アルカリ性の範囲で行うのが特に好ましい。
【0023】
本発明で使用するマグネシウム金属材料は広範囲に応用可能で、純マグネシウム系の他にアルミニウム、ジルコニウム、亜鉛、希土類、その他各種の金属を加えた合金など陽極酸化皮膜の形成が可能である材料ならば全て利用可能である。
【0024】
これらの材料は、展伸材、鋳物材、ダイキャスト材、鍛造材などいずれのものも用いられ、加工、成形方法についても展伸材からのプレス、板金、インパクト、バルジ法、鋳造からの砂型、金型、ロストワックス,プラススターモールド、スクイズキャスチング法、ダイキャストからホットチャンバー、コールドチャンバー、半溶融法、鍛造から、熱間、温間法があり、これら各種の成形法で望む形状の製品、例えば芸術品として形成した美術品などの製品、また花瓶、ビールカップなどにして用いることが出来る。
【0025】
これらの成形材料は必要に応じて機械的又は化学的な前処理を施した後に陽極酸化することが好ましい。機械的な前処理法としては乾式もしくは湿式ホーニング法、ベルト、バフ研磨法、スクラッチ法、ヘアーライン法などが用いられる。また化学的な前処理法としてはエッチング、化学梨地、食刻法などが用いられ、これらの前処理を1つ又は2つ以上組み合わせても良い。
【0026】
マグネシウム系の金属材料表面の細孔中に漆を含浸充填させ固定化する方法には、調整した溶液の漆成分濃度に応じて塗布または含浸の手段を変えることが好ましい。5〜50%の範囲の中で比較的低濃度にした場合、常圧含浸法、減圧含浸法、加圧含浸法、ゾルゲル法、電気泳動法、浸漬超音波含浸法などがあり、特に減圧加圧を併用する含浸法、浸漬超音波含浸法が好ましい。具体的な含浸法としては適当な真空容器中に陽極酸化皮膜を形成したマグネシウム合金材料を置き、細孔内部を減圧にしてから濃度を調整した漆成分含有液を導入することによって細孔内に漆成分を含浸充填することが出来る。含浸した漆成分の固化・固定は湿度が存在する加湿加熱または遠赤外線加熱などで行うことが出来る。一方、はけ塗り、浸漬、スプレー法などを用いる場合は5〜50%範囲の中で比較的高濃度とすることが好ましく、低濃度液の場合は2回塗り、3回塗りが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明のマグネシウム系金属材料は前処理を含む火花放電型陽極酸化処理によって形成された多孔質皮膜の微細孔中に漆成分を充填させることによって耐食性を改善することが出来る。また、漆成分を塗布した後の乾燥を短時間で行なうことができる利点も有している。漆による表面処理の大きな特徴は、従来の処理法がいずれも経年劣化するのに対して複数回の塗布などにより皮膜厚さを30μ以上にすると時間の経過に従って漆の酸化重合が進行し、益々表面硬度が向上し、そのほかの効果も10年〜15年に亘って劣化が少ないという、従来の塗装による表面処理では全く達成が不可能な格別の効果を有することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を具体的に説明する。
【実施例1】
【0029】
板厚1mm、50×70mmのマグネシウム合金AZ31B圧延材を用いて、脱脂、酸処理後、NaOH;3±0.05モル/リットル、Na
2HPO
4;0.3±0.01モル/リットル、皮膜添加剤としてNa
2SiO
3;0.05±0.005モル/リットルと、酒石酸ナトリウム;0.1±0.05モル/リットル、KF;0.2±0.01モル/リットルを添加した電解液で液温28±2℃、電流密度2±0.5A/平方デシメートル、火花放電開始電圧約50Vで60分火花放電型陽極酸化処理を行った。この皮膜を電子顕微鏡で表面観察すると、約5〜15μmの微細孔が点在し、断面を同様に観察すると、約25μmの皮膜厚さの中、表面側より約10μmまでは、5〜10μmの細孔が多く存在し、ラッパ状形状を有し素地側近づくに従い孔径が小さくなり、素地側の皮膜厚さ約4μmに、1〜3μm以下の微細孔が確認出来た。
【0030】
この製品に、MR透素黒目漆((株)佐藤喜代松商店:漆成分‐約97%、水分‐約3%)をテレピン油(略称:T)、エクソールD−80(略称:D)、エクソールDSP(略称:S)の各溶剤で、下記の割合に希釈した。
なお、ここで用いた、エクソールD−80及びエクソールDSPはエクソンモービル社の商品名で、各々CAS−NO.64742−47−8及び64742−49−0で示されるナフテン系炭化水素溶剤である。漆の希釈は所定量の黒目漆に所定量の溶剤を少量ずつ攪拌下に加えて行なった。
作業及び乾燥方法は
▲1▼はけ塗り及び常圧での浸漬を各1〜3回を繰り返した。
▲2▼塗布作業は室温35〜40℃、相対湿度55〜70%の環境下で実施し、1回目の塗布と2回目、3回目の塗布の間隔は、濃度5%の場合10分、10%の場合20分、50%の場合は60分とした。3回目の塗布完了後は温度35〜50℃、湿度50〜70%で120分乾燥した後、常温、常圧で1日以上のエージングを施した。
塗布した製品について576時間の塩水噴霧試験を行い、表1の結果を得た。塩水噴霧試験の手法はJIS Z2371に規定されている手法を用いた。表中のSSTは塩水噴霧試験結果を示す。
【0031】
【表1】
【0032】
マグネシウム金属の表面皮膜の塩水噴霧試験については、JIS規格に定められた公式の合否判定規格が無く、96時間の試験結果について判定は当事者間で決めるようになっている。しかし、今回の上記実施例1における処理皮膜に関する試験では576時間(24日間)という長期の試験を連続で実施したため、例えば5%濃度の漆成分液での塗布処理が実質的な効果を生じているのか否かが明確でない。この為、硬質アルマイトのMILA8625F TypeIIIの腐食試験方法を適用して対照製品(漆の塗布を行なわない比較製品)の腐食試験を行なった。この規格は336時間の連続塩水噴霧試験で、マグネシウム製品にしてみればより厳しい規格で、腐食有、なしを判定することになる。本実験に使用したマグネシウム製品も漆の塗布を行なわない比較製品では336時間の連続塩水噴霧試験で殆どの製品(75×75×t1.0)で腐食部位が白くなり、中には貫通した部位も2〜4個認められた。この結果、576時間の塩水噴霧試験では×評価であった本実施例1の結果であっても対象製品に比べると、効果があることについては十分予想することが出来る。
【実施例2】
【0033】
実施例1と同様の電解条件で得た製品について、同じ希釈方法、評価方法を用いて、ただし噴霧時間を336時間として下記の作業方法で得た漆の塗布処理製品について腐食について評価した。結果塩水噴霧試験結果は表2となった。ここでは漆成分濃度20%の液(希釈割合wt/vol%=5/25)を追加して実験した。
作業方法は 刷毛塗り:1回(塗り‐乾燥)
刷毛塗り:2回、(塗り‐30分乾燥‐塗り‐乾燥)
【0034】
【表2】
【実施例3】
【0035】
実施例1と同様の陽極酸化作業工程及び評価方法も行い、浸漬を各1回、2回と、25KHz超音波浸漬10分を1回行い、塩水噴霧試験を行った結果を表3に示す。表中、浸漬USBは超音波浸漬を示す。
【0036】
【表3】
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明のマグネシウム金属製品は大量製品化が容易で、またマグネシウム製品に漆特有の優雅な、優しさを有する各種の日用品、芸術品などに使用できる。またマグネシウムの耐腐食性を単純な陽極酸化皮膜に比しても格段に向上させることが出来る。