【解決手段】表面にカルボキシル基又はカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維に対し、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属元素のイオンを含有してなる金属イオン含有セルロース繊維と、熱可塑性繊維とを含む不織布シートである。
表面にカルボキシル基又はカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維に対し、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属元素のイオンを含有してなる金属イオン含有セルロース繊維と、熱可塑性繊維とを含む不織布シート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る不織布シートは、後述する金属イオン含有セルロース繊維と、熱可塑性繊維とを含む。
不織布シートは、上述の各繊維をカード機に装入して繊維の集積層(不織ウェブ)を形成し、これを熱可塑性繊維の溶融温度以上の温度で熱処理を施し、熱可塑性繊維の一部を溶融させて繊維同士を結合させるサーマルボンド法、又は上記不織ウェブに水流交絡を施した後、熱処理を施す方法で製造することができる。
ここで、
図2に実施例の不織布シートの繊維構造の透過型電子顕微鏡像を示す。
図2の金属イオン含有セルロース繊維2の上に熱可塑性繊維4が交差し、交差部で熱可塑性繊維4が変形してその径が広がっている。このように熱可塑性繊維4の径が広がったものを「融着している(結合している)」とみなす。
なお、カード機によるウェブの製法としては、パラレルウェブ、クロスレイドウェブ、ランダムウェブ又はセミランダムウェブが挙げられる。
【0010】
熱可塑性繊維としては、PE、PP、PET、ポリエステル等の繊維を用いることができ、好ましくは、融点の異なる2種類の樹脂を2層にした芯鞘型繊維がよい。
不織布シートは、上記熱可塑性繊維を5〜30質量%含むことが好ましい。熱可塑性繊維の含有量が5質量%未満であると、繊維同士を十分に結合してシート化することが困難な場合がある。熱可塑性繊維の含有量が30質量%を超えると、金属イオン含有セルロース繊維の割合が減少して消臭抗菌機能が低下する合がある。
【0011】
又、上記した金属イオン含有セルロース繊維及び熱可塑性繊維に加え、他の繊維を不織布シートに含有させてもよい。他の繊維としては、例えば、木材パルプや非木材パルプの再生セルロース系繊維が挙げられ、具体的にはレーヨン、コットン、キュプラが挙げられる。カード機に使用できる繊維は一般に1〜4インチの繊維長のため、上記したレーヨン等の再生セルロース系繊維が好ましい。レーヨンとしては、例えば銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセルを用いることができる。
又、融着、強度、風合い、伸び等を改善するため、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、アクリル、ポリウレタン等を用いることができる。これら他の繊維は要求品質に合わせて、適宜所定の種類及び配合割合で適宜配合される。
【0012】
不織布シートは、上記金属イオン含有セルロース繊維を2〜30質量%含むことが好ましい。
原紙中の金属イオン含有セルロース繊維の割合が2質量%未満であると、抗菌消臭機能が低下し、金属イオン含有セルロース繊維の割合が30質量%を超えるとコストアップとなる場合がある。
【0013】
不織布シートの坪量を例えば20〜200g/m
2とすることができる。
又、不織布シートの厚さを0.2〜2.0μm(JIS -P 8118により測定)とすることができる。
不織布シートの透気抵抗度を100〜900m
3/m
2/分とすることができる。
【0014】
金属イオン含有セルロース繊維は、表面にカルボキシル基又はカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維に対し、Ag、Au、Pt、Pd、Ni、Mn、Fe、Ti、Al、Zn及びCuの群から選ばれる1種以上の金属元素のイオンを含有してなる。
金属イオン含有セルロース繊維としては、木材パルプや非木材パルプの再生セルロース系繊維が挙げられ、具体的にはレーヨン、コットン、キュプラが挙げられる。乾式不織布をカード機にて製造する場合、繊維長が20mm以上であることが望ましいため、繊維長を長くできる上記したレーヨン等の再生セルロース系繊維が好ましい。レーヨンとしては、例えば銅アンモニアレーヨン、ビスコースレーヨン、リヨセルを用いることができる。
金属イオン含有セルロース繊維は、セルロース繊維表面にカルボキシル基又はカルボキシレート基を導入した酸化セルロース繊維に対し、金属化合物水溶液を接触させることによって得ることができる。また、上記原紙の製造方法としては、酸化セルロース繊維を含む原料を抄造したシートに上記金属化合物水溶液を接触させる方法の他、予め酸化セルロース繊維に金属イオンを含有させ、この金属イオン含有セルロース繊維を含む原料を抄造する方法を例示することできる。
【0015】
上記酸化セルロース繊維は、N−オキシル化合物を触媒に用いて木材パルプなどのセルロース繊維を酸化することにより製造できる。この酸化反応により、セルロース表面のグルコピラノース環のC6位の一級水酸基が選択的に酸化され、表面にカルボキシル基またはカルボキシレート基を有する酸化セルロース繊維が得られる。原料のセルロースは天然セルロースが好ましい。上記酸化反応は、水中で行うことが好ましい。反応におけるセルロース繊維の濃度は特に限定されないが、5質量%以下が好ましい。N−オキシル化合物の量は、反応系に対し0.1〜4mmol/L程度であればよい。反応には公知の共酸化剤を用いてもよい。共酸化剤の例には、ジ亜ハロゲン酸またはその塩が含まれる。共酸化剤の量は、N−オキシル化合物1molに対して1〜40molが好ましい。
反応温度は4〜40℃が好ましく、室温がより好ましい。反応系のpHは8〜11が好ましい。酸化の度合いは、反応時間、N−オキシル化合物の量等により適宜調整できる。
このようにして得た酸化セルロース繊維は、表面に酸基が存在し、内部にはほとんど酸基は存在しない。これはセルロース繊維が結晶性であるため、酸化剤が繊維の内部にまで拡散しにくいためと考えられる。
【0016】
カルボキシル基とは−COOHで表される基をいい、カルボキシレート基とは−COO−で表される基をいう。酸化セルロース繊維を製造する際のカルボキシレート基のカウンターイオンは特に限定されない。そして、後述する金属のイオンが上記カウンターイオンと置き換わってカルボキシレート基とイオン結合する。また、カルボキシル基は金属イオンとして銅イオンと配位すると思われる。カルボキシル基またはカルボキシレート基を合わせて「酸基」ともいう。
酸基の含有量は、特開2008−001728号公報の段落0021に開示されている方法によって測定できる。すなわち、精秤した乾燥セルロース試料を用いて0.5〜1質量%のスラリー60mLを調製し、0.1mol/Lの塩酸水溶液によってpHを約2.5とする。その後、0.05mol/Lの水酸化ナトリウム水溶液を滴下して電気伝導度測定を行う。測定はpHが約11になるまで続ける。電気伝導度の変化が緩やかな弱酸の中和段階を示すまでに消費された水酸化ナトリウム量(V)から、下式を用いて酸基量X1を求める。
X1(mmol/g)=V(mL)×0.05/セルロースの質量(g)
【0017】
上記セルロース繊維の酸基の量は、0.2〜2.2mmol/gが好ましい。酸基の量が0.2mmol/g未満であると、セルロース繊維表面に存在する金属イオンの量が十分でなく、消臭機能に劣る場合がある。酸基の量が2.2mmol/gを超えると、抄紙の際のろ水性が悪化し、脱水負荷が大きくなる場合がある。
【0018】
次に、上記酸化セルロース繊維に対し、上記金属の化合物を含む水溶液を接触させ、金属化合物に由来する金属イオンが、カルボキシレート基とイオン結合を形成する。なお、カルボキシル基は電離してカルボキシレート基を経て金属イオンとイオン結合するか、上述のように金属イオンと配位すると思われる。
金属化合物水溶液とは、金属塩の水溶液である。金属塩の例には、錯体(錯イオン)、ハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、および酢酸塩が含まれる。金属塩は水溶性であることが好ましい。
金属化合物の接触方法に関しては、予め調製したセルロース繊維の分散液と金属化合物水溶液を混合してもよく、セルロース繊維を含む分散液を基材の上に塗布して膜とし、当該膜に金属化合物水溶液を添加して含浸させてもよい。このとき、膜は基板上に固定されたままであってもよいし、基板から剥離された状態であってもよい。
金属化合物水溶液の濃度は特に限定されないが、セルロース繊維100質量部に対して10〜80質量部が好ましく、30〜60質量部がより好ましい。
金属化合物を接触させる時間は適宜調整してよい。接触させる際の温度は特に限定されないが20〜40℃が好ましい。また、接触させる際の液のpHは特に限定されないが、pHが低いと、カルボキシル基に金属イオンが結合しにくくなるため、7〜13が好ましく、pH8〜12が特に好ましい。
【0019】
酸化セルロース繊維が金属イオンを含有(配位)していることは、走査型電子顕微鏡像、及び強酸による抽出液のICP発光分析で確認できる。つまり、金属イオンは走査型電子顕微鏡像では存在を確認できず、一方でICP発光分析では金属を含有していることを確認できる。これに対し、例えば上記金属がイオンから還元されて金属粒子として存在している場合は、走査型電子顕微鏡像または透過型電子顕微鏡像でも金属粒子を確認することができるので、金属粒子の有無を判定できる。また、走査型電子顕微鏡像と元素マッピングによっても金属イオンの有無を判定できる。つまり、走査型電子顕微鏡像では金属イオンを確認できないが、元素マッピングをすることで金属イオンが存在することを確認できる。
金属イオンとして、上記金属元素のイオンを用いることにより、抗菌機能が付与される。一方、セルロース繊維の酸基のすべてに金属粒子が結合しなくても良く、残存した酸基も臭い成分であるアンモニア等を中和することができ、消臭機能が発揮される。
【0020】
金属イオン含有セルロース繊維において、酸化セルロース繊維に対する金属イオンの含有量が10〜60mg/gであることが好ましい。
金属イオンの含有量が10mg/g未満であると、金属イオン含有セルロース繊維による抗菌/消臭性能が低下することがある。
金属イオンの含有量が60mg/gを超えるものを製造することは、金属イオン含有セルロース繊維の収率の低下につながり、コストアップとなることがある。
【0021】
不織布シートに対する金属イオンの含有量が30mg/m
2以上であることが好ましい。
不織布シートに対する金属イオンの含有量が30mg/m
2未満であると、金属イオン含有セルロース繊維による抗菌/消臭性能が低下することがある。
不織布シートに対する金属イオンの含有量の上限は特に限定されないが、コスト等から例えば200mg/m
2とすることができる。
【0022】
本発明の実施形態に係る不織布シートは、例えばフィルター、衛生材料、ワイピング材等に好適に使用できるが、用途は特に限定されない。
本発明は上記した実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【実施例】
【0023】
以下、実施例を挙げて、本発明を具体的に説明するが、本発明は勿論これらの例に限定されるものではない。
【0024】
<金属イオン含有セルロース繊維の製造>
乾燥重量で5.00gのレーヨン繊維、39mgの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)及び514mgの臭化ナトリウムを水500mlに分散させた後、15質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1gのレーヨン(絶乾)に対して次亜塩素酸ナトリウムの量が5.5mmolとなるように加えて反応を開始した。反応中は3MのNaOH水溶液を滴下してpHを10.0に保った。pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、反応物をガラスフィルターにてろ過した後、十分な量の水による水洗、ろ過を2回繰り返し、固形分量15質量%の水を含浸させたTEMPO酸化レーヨン(セルロース)繊維を得た。
このTEMPO酸化レーヨン(セルロース)繊維はその表面にカルボキシル基またはカルボキシレート基を有する。金属イオンを含有する前のTEMPO酸化レーヨン(セルロース)繊維の酸基量(酸化セルロース繊維1g当たり)を表1に示す。
【0025】
次に、得られたTEMPO酸化レーヨン(セルロース)繊維(この時点では金属イオンを含有していない)に対し、表1に示すpHと濃度(TEMPO酸化レーヨン(セルロース)繊維1g当たり)の金属塩水溶液を加えて撹拌した。これにより、TEMPO酸化レーヨン(セルロース)繊維に金属イオンを担持させた。
なお、
図1に、実施例に用いた金属イオン含有セルロース繊維の透過型電子顕微鏡像を示す。
【0026】
<不織布シートの製造>
次に、金属イオン含有レーヨン(セルロース)繊維と、レーヨン繊維(繊維径:2デシテックス、繊維長:40mm)と、熱可塑性繊維(芯鞘型繊維、繊維径:2デシテックス、繊維長:40mm、芯/鞘:PP/PE)とを、表2に示す配合比で配合してカード機に装入し、繊維の集積層(不織ウェブ)を形成した。このウェブを140℃で熱処理を施すサーマルボンド法で熱可塑性繊維の一部を溶融させ、不織布シートを製造した。
比較例1として、金属イオン含有セルロース繊維を配合せずに不織布シートを製造した。
【0027】
なお、各実施例につき、強酸で溶解した後の抽出液のICP((高周波誘導結合プラズマ)発光分析を行い、いずれも金属が含有されていることが確認された。以上のことより、各実施例は酸化セルロース繊維に金属イオンを含有していることがわかる。
【0028】
得られた不織布シートにつき、以下の評価を行った。
<消臭性>
ガスバッグに25cm×25cmの不織布シートサンプルを設置し、5ppmの硫化水素ガスを0.5L 注入後の消臭能力を官能評価した。比較として、ガスバッグに不織布シートサンプルを設置しないブランク試験を行った。評価が◎、○であれば、実用上問題はない。
◎:まったく臭わない
○:ほとんど臭気が気にならない
×:ブランクと同等の臭気が残る
<抗菌性>
繊維製品の抗菌性試験方法及び抗菌効果 JIS-L1902:2008 定量試験(菌液吸収法)に従って評価した。数値(静菌活性値)が2.0以上であれば問題ない。
【0029】
得られた結果を表1、表2に示す。
【0030】
【表1】
【0031】
【表2】
【0032】
表2から明らかなように、各実施例の場合、十分な消臭、抗菌機能を有していた。
一方、不織布シート中の金属イオンの含有量が30mg/m
2未満の比較例1、及び不織布シートに金属イオン含有セルロース繊維を含まない比較例2の場合、消臭、抗菌機能が各実施例よりも大幅に劣った。