【解決手段】可変シリンダ錠1は、円筒形状の外筒10と、外筒10の内部に収容される内筒30と、内筒30の回転を規制するロッキングバー324と、内筒30に内筒30の中心軸Qに対して垂直方向に変位し、変位方向の軸であるドライバピン軸303Dに対して垂直方向に複数設けられる第1係合溝303Bを有するドライバピン303と、第1係合溝303Bと係合する第2係合溝331A及びロッキングバー324の先端と嵌合するロッキングバー嵌合溝331Cを有するカウンターピン331と、カウンターピン331及びロッキングバー324を収容し、押圧されることによってカウンターピン331をドライバピン303との係合を解く方向に変位させるクラッチ320と、を備える。
【背景技術】
【0002】
可変シリンダ錠はキーコードを変更することができる。従って、鍵を変更する場合にはシリンダ錠ごと交換する必要がなく、鍵の紛失や変更の際に迅速にかつコストをほとんどかけずに対応することができ、普及が進んでいる。
【0003】
この一方において、特に産業用の分野においては製造コストのさらなる低減が求められている。
【0004】
従来の可変シリンダ錠は、シリンダの内筒の回転を規制するロッキングバーと、ロッキングバーをシリンダの内筒が回転することを許容する方向に嵌まり込む切欠き、及び鋸歯状の第1係合部を有する板状のタンブラと、タンブラの第1係合部に係合する第2係合部を有する板状の可変タンブラと、を備える(例えば、特許文献1)。
【0005】
この従来の可変シリンダは、タンブラと可変タンブラの係合位置によってキーコードが定まる。
【0006】
タンブラと可変タンブラは、板状であるため、製造は打ち抜きプレス加工とならざるを得ない。従って、プレス加工用の金型を調製する必要があり、初期投資がかかるため製造コストを押し上げていた。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態の可変シリンダ錠を、図面を参照しながら説明する。以下に述べる実施形態は本発明を実施するための一例であり、構成を適宜追加、削除することが可能である。
【0013】
(可変シリンダ錠の構成)
図1は本発明の一実施形態の可変シリンダ錠1の右側面図、
図2は可変シリンダ錠1の正面図、
図3は可変シリンダ錠1の背面図、
図4は可変シリンダ錠1の分解斜視図である。
図1から
図4に示すように、可変シリンダ錠1は、円筒形状の外筒10と、外筒10の内部に収納される内筒30と、を備える。内筒30には施錠装置と連動するロッド20が設けられる。
【0014】
図2に示すように、内筒30の正面にはクラッチホール301が設けられる。クラッチホール301は、後述するクラッチ320に対応する位置に内筒の正面を貫通するように設けられる。
【0015】
図3に示すように、外筒10、内筒30、及びロッド20は、背面視において同心円状に配置される。この同心円の中心を通る直線を、中心軸Qという。
【0016】
図4に示すように、外筒10は内部に内筒30を収納する。内筒30は、内筒30の正面を貫通し、ロッド20に至る鍵穴302を備える。内筒30は、中心軸Qに対して垂直な左右方向に設けられるドライバピン収納溝306がドライバピン303の数だけ設けられる。また内筒30は、クラッチ320を収納する切欠きを有し、この切欠きの周方向端部にはクラッチ320を摺動可能に支持する壁部であるクラッチガイド307が設けられる。
【0017】
鍵穴302の終端部にはロッド20が設けられる。ロッド20は、鍵穴302の終端部分に配置される付け根の部分に、ロッド20の本体部分より半径が大きい基底部を有する。基底部にはクラッチ320を正面方向に付勢する弾性体322を収納するバネ溝309を備える。
【0018】
ドライバピン収納溝306にはドライバピン303が収納される。ドライバピン303は、ドライバピン303のドライバピン軸303Dが中心軸Qに対して垂直になるように配置される。
【0019】
ドライバピン303は、中心軸Qに対して左右交互に配置される。つまり、中心軸Qの奥側から、右側に第1のドライバピン303が配置されると、対向する左側の位置にはドライバピン303は配置されない。左側に第2のドライバピン303が配置されると、対向する右側の位置にはドライバピン303は配置されない。以降、これが繰り返されたドライバピン303が複数配置される。
【0020】
ドライバピン303は、先端部に先端に向かって細くなる形状をなし、鍵40のキー溝又はキー山である刻み403(
図10参照。)に当接するピンヘッド303Aと、ドライバピン303のドライバピン軸303Dの周りを周回する複数の第1係合溝303Bと、ドライバピン303を鍵穴302の方向に付勢するドライバピン押圧バネ305を収納するバネ穴303Cと、を有する。
【0021】
ドライバピン303は全体がドライバピン軸303Dの方向に長いピン形状をなし、ドライバピン303の第1係合溝303Bは、ピン状のワークを切削加工によって形成することができる。また、ドライバピン303のピンヘッド303A及びバネ穴303Cも切削加工によって形成することができる。従って、プレス用の金型の調製は必要ない。
【0022】
ドライバピン押圧バネ305は、カバープレート310によってバネ穴303Cに封入される。カバープレート310は、背面方向から爪部311Aを有するクラッチ規制部311及び封止部312によって内筒30の内部に位置決めされる。
【0023】
クラッチ320は、ドライバピン収納溝306に対応する位置に、カウンターピン331を収納するカウンターピン収納溝323と、中心軸Qに平行に設けられるロッキングバー収納溝321と、を備える。
【0024】
カウンターピン331は、第1係合溝303Bに係合する複数の第2係合溝331Aと、第2係合溝331Aに対して垂直に延びるカウンターピン軸部331Bと、カウンターピン軸部331Bのロッキングバー324の方向に設けられるロッキングバー嵌合溝331Cと、カウンターピン軸部331Bの先端部に設けられるガイドロッド331Dと、を備える。
【0025】
組み立てられた状態において、ドライバピン303の第1係合溝303Bとカウンターピンの第2係合溝331Aとは互いに係合する。
【0026】
カウンターピン331は全体がカウンターピン軸331Eの方向に長いピン形状をなし、カウンターピン331の第2係合溝331Aは、ピン状のワークを切削加工によって形成することができる。従って、プレス用の金型の調製は必要ない。
【0027】
第2係合溝331Aは、カウンターピン331の変位方向の軸であるカウンターピン軸331Eに対して円弧状に設けられる。つまり、カウンターピン331は第2係合溝331Aが、正面から見て奥側と手前側がカウンターピン軸方向に面取りしてある。カウンターピン収納溝323はこの面取りされた面に対応する形状に設けられる。従って、カウンターピン331はカウンターピン収納溝323に嵌め込まれるとカウンターピン軸331E周りに回転せず、カウンターピン軸331E方向にのみ変位可能となる。よって、ロッキングバー嵌合溝331Cは常にロッキングバー324の方向に向けられることとなる。
【0028】
ロッキングバー収納溝321には、ロッキングバー324が嵌め込まれる。ロッキングバー324は、長手方向に垂直な断面の形状がカウンターピン331の方向に向かって細くなるカウンターピン係合部324Bと、内筒30の回転を規制するロック部324Aと、を備える。
【0029】
ロッキングバー324は、ロッキングバー付勢バネ326によってカウンターピン331の方向に付勢される。ロッキングバー付勢バネ326は、バネ係止片325によって封止される。
【0030】
(可変シリンダ錠の動作)
(施錠/開錠動作)
図5は、可変シリンダ錠1の施錠状態のカウンターピン331付近の断面図である。
図5においては、カウンターピン331のカウンターピン軸331Eに沿って可変シリンダ錠1の中心軸Qに垂直な平面による切断面を示す。可変シリンダ錠1のキーコードは、ドライバピン303の第1係合溝303Bとカウンターピン331の第2係合溝331Aとの相対的な位置関係によって決まる。
【0031】
図5に示すように、施錠状態においては鍵40の刻み403のパターンと可変シリンダ錠1のキーコードが合っていない。ドライバピン303は矢印X2に示す鍵40の方向に、ドライバピン押圧バネ305によって付勢され、ドライバピン303の第1係合溝303Bとカウンターピン331の第2係合溝331Aとは互いに係合している状態にある。従って、カウンターピン331はドライバピン303がドライバピン押圧バネ305によって付勢されるのに従動して矢印X2の方向に変位する。
【0032】
しかし、第1係合溝303Bに対する第2係合溝331Aの係合位置が
図5に向かって右側によりすぎている。このため、カウンターピン331のロッキングバー嵌合溝331Cは、ロッキングバー324の位置に対してカウンターピン331のカウンターピン軸331Eの方向にそってずれる。従って、ロッキングバー324は矢印X1の方向に付勢されてはいるが、ロッキングバー嵌合溝331Cには嵌まり込まず、カウンターピン軸部331Bに当接する。この状態において、ロッキングバー324は内筒30が回転することを阻止する。
【0033】
図6は、第1係合溝303Bに対する第2係合溝331Aの係合位置が溝一つ分
図5に向かって左側にずれて係合した場合の断面図である。
図6に示すように、
図5の状態に比べて、カウンターピン331のロッキングバー嵌合溝331Cは、ロッキングバー324の位置に近づくが、キーコードが合っていないため、まだずれている。
【0034】
図7は、第1係合溝303Bに対する第2係合溝331Aの係合位置が溝一つ分
図6に向かって左側にずれて係合した場合のカウンターピン331付近の断面図である。
図7に示すように、
図6の状態に比べて、カウンターピン331のロッキングバー嵌合溝331Cは、ロッキングバー324の位置に近づくが、他のドライバピン303とカウンターピン331の係合位置がキーコードと合っていないため、ロッキングバー嵌合溝331Cにカウンターピン係合部324Bは嵌まり込まない。
【0035】
図8は、ブランクキーが挿入された場合の可変シリンダ錠1のカウンターピン331付近の断面図である。
図8に示すように、第1係合溝303Bに対する第2係合溝331Aの係合位置が適正であっても、鍵40の刻み403の深さと合ってないとロッキングバー嵌合溝331Cはロッキングバー324に対してずれる。
【0036】
図9は、可変シリンダ錠1のキーコードと合致する刻み403を有する鍵40が挿入された状態のカウンターピン331付近の断面図である。
図9に示すように、可変シリンダ錠1のキーコードと合致する刻み403を有する鍵40が挿入されると、全てのロッキングバー嵌合溝331Cがロッキングバー324の直下に揃い、ロッキングバー嵌合溝331Cにカウンターピン係合部324Bが嵌まり込む。この場合、ロッキングバー324は矢印X4に示す開錠方向に変位し、内筒30は矢印X5に示す回転方向に回転することが可能となる。
【0037】
(キーコードの変更動作)
図10は、可変シリンダ錠1の背面斜視図である。
図10においては、封止部312の図示を省略し、クラッチ規制部311を外した状態を図示してある。
図10に示すように、クラッチ320は、クラッチ規制部311の爪部311Aの位置と、内筒30の回転方向にずれた位置に爪溝部320Aを有する。
【0038】
クラッチ320は、通常の位置においては、爪部311Aに阻止されて矢印X6の方向に変位できない。可変シリンダ錠1のキーコードと合致する刻み403を有する鍵40が挿入され、内筒30が回転されて爪部311Aが爪溝部320Aに嵌まり込む位置に変位されると、クラッチ320はクラッチホール301から挿入された針金などによって押圧されることにより矢印X6の方向に変位する。この機構によりキーコードの誤変換を防止することが可能となる。
【0039】
図11は、クラッチ320が変位する前の状態を示す可変シリンダ錠1の右側面図である。
図12は、クラッチ320が変位した後の状態を示す可変シリンダ錠1の右側面図である。
図11及び
図12に示すように、クラッチ320が矢印X7の方向に変位すると、第1係合溝303Bと第2係合溝331Aとの係合が解除され、ドライバピン303はカウンターピン331に対して変位することができるようになる。
【0040】
この機構を利用して、キーコードの変更は次のように行う。
【0041】
(1)キーコードが合っている第1の鍵40を鍵穴302に挿入する。この際、ロッキングバー324はカウンターピン331のロッキングバー嵌合溝331Cに嵌まり込む。この状態において、鍵40を回転させることにより内筒30を回転させ、クラッチ320を爪部311Aが爪溝部320Aに嵌まり込む位置に変位させる。
【0042】
(2)クラッチホール301から針金等を挿入してクラッチ320を押圧し、中心軸Qの奥側に変位させる。この際、ドライバピン303の第1係合溝303Bとカウンターピン331の第2係合溝331Aとは係合が外れる。
【0043】
(3)クラッチ320を押圧したまま、第1の鍵40を引き抜く。この際、カウンターピン331はロッキングバー324によって変位が阻止され、開錠位置に留まる。
【0044】
(4)クラッチ320を押圧したまま、第1の鍵40とはキーコードが異なる第2の鍵40を鍵穴302に挿入する。この際、ドライバピン303は第2の鍵40のキーコードに合わせて変位する。
【0045】
(5)第2の鍵40を挿入したまま、クラッチ320の押圧を解除する。この際、ドライバピン303の第1係合溝303Bとカウンターピン331の第2係合溝331Aとは互いに係合する。従って、ドライバピン303は、第2の鍵40のコードに従って変位した状態においてカウンターピン331と係合することとなる。
【0047】
(鍵の構成)
可変シリンダ錠1に用いられる鍵40は、複数のキーコードの刻み403を有することができる。鍵40の刻み403はディンプル形状を採用することができる。
【0048】
図13は、第1のキーコードを有する可変シリンダ錠1並びに鍵40の断面図、及び鍵40の右側面図である。
図13(B)は鍵40の
図13(C)のCC線断面図である。
図13(A)に示すように、第1のキーコードを有する可変シリンダ錠1は、ドライバピン303を
図13に向かって上方向右がわから互い違いに配置される。
図13(B)及び
図13(C)に示すように、第1のキーコードを有する鍵40は、第1のキーコードを有する可変シリンダ錠1のドライバピン303に対応する位置に、第1のキーコードにあう深さの刻み403を有する。第1のキーコードを有する鍵40は、
図13に向かって上方向右側面から互い違いに刻み403を有する。
【0049】
図14は、第2のキーコードを有する可変シリンダ錠1並びに鍵40の断面図、及び鍵40の右側面図である。
図14(B)は鍵40の
図14(C)のDD線断面図である。
図14(A)に示すように、第2のキーコードを有する可変シリンダ錠1は、ドライバピン303を
図14に向かって上方向左がわから互い違いに配置される。
図14(B)及び
図14(C)に示すように、第2のキーコードを有する鍵40は、第2のキーコードを有する可変シリンダ錠1のドライバピン303に対応する位置に、第2のキーコードにあう深さの刻み403を有する。第2のキーコードを有する鍵40は、
図14に向かって上方向左側面から互い違いに刻み403を有する。
【0050】
図15は、第1のキーコード及び第2のキーコードに合致する刻み403を有する鍵40の断面図及び右側面図である。
図15(B)は鍵40の
図15(C)のEE線断面図である。
図15に示すように、鍵40は第1のキーコードに合致する刻み403と、第2のキーコードに合致する刻み403と、をそれぞれ互い違いに有する。従って、第1のキーコード及び第2のキーコードに合致する刻み403を有する鍵40は、第1のキーコードを有する可変シリンダ錠1と、第2のキーコードを有する可変シリンダ錠1と、を1本の鍵40によって開錠できるという効果がある。従って、可変シリンダ錠1によれば、複数のキーコードを一つの鍵に刻めるため、例えば分譲マンションの専有部と、共有部とによってキーコードが異なる場合においても1本の鍵によって施錠/開錠ができるようになる。
【0051】
これに対して、タンブラが板状のものである場合、鍵のコードは刻みではなく、いわゆる「蛇溝」といわれる蛇行した溝の形になる。この場合、溝幅を一定にする必要があるため、一つの鍵には一つのキーコードしか刻めない。
【0052】
以上述べたように、本実施形態の可変シリンダ錠1は、円筒形状の外筒10と、外筒10の内部に収容される内筒30と、内筒30の回転を規制するロッキングバー324と、内筒30に内筒30の中心軸Qに対して垂直方向に変位し、変位方向の軸であるドライバピン軸303Dに対して垂直方向に複数設けられる第1係合溝303Bを有するドライバピン303と、第1係合溝303Bと係合する第2係合溝331A及びロッキングバー324の先端と嵌合するロッキングバー嵌合溝331Cを有するカウンターピン331と、カウンターピン331及びロッキングバー324を収容し、押圧されることによってカウンターピン331をドライバピン303との係合を解く方向に変位させるクラッチ320と、を備える。
【0053】
第1係合溝303B及び第2係合溝331Aはピン状のワークを切削加工することによって形成することができる。
【0054】
従って、本実施形態の可変シリンダ錠1によれば、プレス加工用の金型を調製する必要がなくなり、製造コストが少ない可変シリンダ錠を提供することができるという効果がある。