特開2017-155915(P2017-155915A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ショーワの特許一覧

<>
  • 特開2017155915-懸架装置 図000003
  • 特開2017155915-懸架装置 図000004
  • 特開2017155915-懸架装置 図000005
  • 特開2017155915-懸架装置 図000006
  • 特開2017155915-懸架装置 図000007
  • 特開2017155915-懸架装置 図000008
  • 特開2017155915-懸架装置 図000009
  • 特開2017155915-懸架装置 図000010
  • 特開2017155915-懸架装置 図000011
  • 特開2017155915-懸架装置 図000012
  • 特開2017155915-懸架装置 図000013
  • 特開2017155915-懸架装置 図000014
  • 特開2017155915-懸架装置 図000015
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-155915(P2017-155915A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】懸架装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 9/32 20060101AFI20170810BHJP
   B62K 25/08 20060101ALI20170810BHJP
   F16F 9/348 20060101ALI20170810BHJP
【FI】
   F16F9/32 J
   B62K25/08 Z
   F16F9/32 C
   F16F9/348
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-42426(P2016-42426)
(22)【出願日】2016年3月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000146010
【氏名又は名称】株式会社ショーワ
(74)【代理人】
【識別番号】100104880
【弁理士】
【氏名又は名称】古部 次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100125346
【弁理士】
【氏名又は名称】尾形 文雄
(72)【発明者】
【氏名】島崎 正雄
【テーマコード(参考)】
3D014
3J069
【Fターム(参考)】
3D014DE02
3J069AA46
3J069CC03
3J069CC10
3J069EE06
3J069EE28
3J069EE39
(57)【要約】
【課題】シリンダの内径を車体側と車輪側とで同じにしても、緩衝装置の剛性をアップしつつ、乗り心地も確保できる懸架装置を提供する。
【解決手段】減衰機構および懸架ばねの少なくとも一方を内蔵する一対の懸架装置を備え、車両のハンドルと車輪との間を接続する懸架装置は、アウターチューブ部110と、インナーチューブ部120と、アウターチューブ部110及びインナーチューブ部120の内側に設けられ、軸方向において、外周側に脆弱部を有する筒状のシリンダ151と、アウターチューブ部110及びインナーチューブ部120の内側に位置し、アウターチューブ部110とインナーチューブ部120との移動に伴ってシリンダ151の軸方向に相対的に移動するロッド部材181と、ロッド部材181の端部に固定されると共にシリンダ151の軸方向に移動可能にシリンダ151に接触して設けられ、シリンダ151内の空間を区画するピストン182と、を備える懸架装置。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
減衰機構および懸架ばねの少なくとも一方を内蔵する一対の懸架装置を備え、車両のハンドルと車輪との間を接続する懸架装置は、
管状に形成され車体側に位置する車体側部材と、
管状に形成されて車輪側に位置すると共に前記車体側部材に接続し、前記車体側部材の軸方向において前記車体側部材に対して相対的に移動する車輪側部材と、
前記車体側部材及び前記車輪側部材の内側に設けられ、軸方向において、外周側に脆弱部を有する筒状のシリンダと、
前記車体側部材及び前記車輪側部材の内側に位置し、前記車体側部材と前記車輪側部材との移動に伴って前記シリンダの軸方向に相対的に移動するロッド部材と、
前記ロッド部材の端部に固定されると共に前記シリンダの軸方向に移動可能に前記シリンダに接触して設けられ、前記シリンダ内の空間を区画する第1の区画部材と、
を備える懸架装置。
【請求項2】
前記シリンダは、前記第1の区画部材の移動範囲以外の箇所で前記脆弱部を有する請求項1に記載の懸架装置。
【請求項3】
前記シリンダは、車体側に配され、前記シリンダの車体側の箇所で前記脆弱部を有する請求項1または2に記載の懸架装置。
【請求項4】
前記シリンダの前記脆弱部は、外径が端部よりも小径部分となっている箇所である請求項1乃至3の何れか1項に記載の懸架装置。
【請求項5】
前記一対の懸架装置の各々は、軸方向において、内径は同一径であるとともに外径に同じ箇所で小径部分を有する請求項4に記載の懸架装置。
【請求項6】
前記第1の区画部材に対し軸方向において前記シリンダが配される側に配され、前記シリンダ内の空間を区画し、前記車体側部材と前記車輪側部材とが相対的に移動することで生ずる振動を減衰させる減衰機構を有する第2の区画部材を更に備え、
前記第1の区画部材は、減衰機構を有し、
前記シリンダは、軸方向において、前記第2の区画部材に対し前記シリンダが配される側において外周側に前記脆弱部を有する請求項1乃至5の何れか1項に記載の懸架装置。
【請求項7】
前記一対の懸架装置は、一方が減衰機構を内蔵するとともに懸架ばねを内蔵せず、他方が懸架ばねを内蔵するとともに減衰機構を内蔵しない請求項1乃至6の何れか1項に記載の懸架装置。
【請求項8】
管状に形成され車体側に位置する車体側部材と、
管状に形成されて車輪側に位置すると共に前記車体側部材に接続し、前記車体側部材の軸方向において前記車体側部材に対して相対的に移動する車輪側部材と、
前記車体側部材及び前記車輪側部材の内側に設けられ、軸方向において、外周側に脆弱部を有する筒状のシリンダと、
前記車体側部材及び前記車輪側部材の内側に位置し、前記車体側部材と前記車輪側部材との移動に伴って前記シリンダの軸方向に相対的に移動するロッド部材と、
前記ロッド部材の端部に固定されると共に前記シリンダの軸方向に移動可能に前記シリンダに接触して設けられ、前記シリンダ内の空間を区画し、前記車体側部材と前記車輪側部材とが相対的に移動することで生ずる振動を減衰させる減衰機構を有する第1の区画部材と、
前記第1の区画部材に対し軸方向において前記シリンダが配される側に配され、前記シリンダ内の空間を区画し、減衰機構を有する第2の区画部材と、
前記第2の区画部材に対し軸方向において前記シリンダが配される側に配され、前記シリンダ内の空間を区画するとともに、前記ロッド部材の移動に伴って前記シリンダ内を軸方向に移動する第3の区画部材と、
を備える懸架装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸架装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1には、ダンパ脚とスプリング脚を平行配置したフロントフォークであって、スプリング脚が、車体側チューブと車軸側チューブを互いに挿入し、ガイドシリンダを車体側チューブと車軸側チューブの一方の内部の中央に設け、車体側チューブと車軸側チューブの他方の内部の中央に設けたガイドロッドのガイドをガイドシリンダに挿入してなり、ガイドシリンダの内部にガイドロッドのガイドが区画する内側空気ばね室と、車体側チューブと車軸側チューブがガイドシリンダにおける少なくとも上記内側空気ばね室の外側に区画する外側空気ばね室とを有するフロントフォークが開示されている。
また特許文献2には、フロントフォークのスプリング脚であって、リバウンド空気ばね室に連通する空気室を備えたサブタンクが設けられてなるものが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−92945号公報
【特許文献2】特開2013−228089号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
シリンダの内径を、例えば、車体側では大きく、車輪側では小さくした場合、ピストンの受圧面積が十分ではなくなる。その結果、ピストンにより押圧される空間内の圧力が増加しやすくなり、懸架装置のフリクションが悪くなる。これに対し、シリンダの内径を車体側と車輪側とで同じにすると、シリンダの剛性が過度に大きくなりやすく、その結果、懸架装置がしなりにくくなり、乗り心地が悪化する問題が生ずる。
本発明は、シリンダの内径を車体側と車輪側とで同じにしても、緩衝装置の剛性をアップしつつ、乗り心地も確保できる懸架装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
かかる目的のもと、本発明は、減衰機構および懸架ばねの少なくとも一方を内蔵する一対の懸架装置を備え、車両のハンドルと車輪との間を接続する懸架装置は、管状に形成され車体側に位置する車体側部材と、管状に形成されて車輪側に位置すると共に車体側部材に接続し、車体側部材の軸方向において車体側部材に対して相対的に移動する車輪側部材と、車体側部材及び車輪側部材の内側に設けられ、軸方向において、外周側に脆弱部を有する筒状のシリンダと、車体側部材及び車輪側部材の内側に位置し、車体側部材と車輪側部材との移動に伴ってシリンダの軸方向に相対的に移動するロッド部材と、ロッド部材の端部に固定されると共にシリンダの軸方向に移動可能にシリンダに接触して設けられ、シリンダ内の空間を区画する第1の区画部材と、を備える懸架装置である。本構成では、シリンダの内径を車体側と車輪側とで同じにしても、緩衝装置の剛性をアップしつつ、乗り心地も確保できる。
【0006】
また本発明は、管状に形成され車体側に位置する車体側部材と、管状に形成されて車輪側に位置すると共に車体側部材に接続し、車体側部材の軸方向において車体側部材に対して相対的に移動する車輪側部材と、車体側部材及び車輪側部材の内側に設けられ、軸方向において、外周側に脆弱部を有する筒状のシリンダと、車体側部材及び車輪側部材の内側に位置し、車体側部材と車輪側部材との移動に伴ってシリンダの軸方向に相対的に移動するロッド部材と、ロッド部材の端部に固定されると共にシリンダの軸方向に移動可能にシリンダに接触して設けられ、シリンダ内の空間を区画し、車体側部材と車輪側部材とが相対的に移動することで生ずる振動を減衰させる減衰機構を有する第1の区画部材と、第1の区画部材に対し軸方向においてシリンダが配される側に配され、シリンダ内の空間を区画し、減衰機構を有する第2の区画部材と、第2の区画部材に対し軸方向においてシリンダが配される側に配され、シリンダ内の空間を区画するとともに、ロッド部材の移動に伴ってシリンダ内を軸方向に移動する第3の区画部材と、を備える懸架装置である。本構成では、シリンダの内径を車体側と車輪側とで同じにしても、緩衝装置の剛性をアップしつつ、乗り心地も確保できる。
【発明の効果】
【0007】
シリンダの内径を車体側と車輪側とで同じにしても、緩衝装置の剛性をアップしつつ、乗り心地も確保できる懸架装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本実施形態のフロントフォークの全体図である。
図2】第1フロントフォークを説明するための図である。
図3図2に示す第1フロントフォークの車輪側の拡大図である。
図4図2に示す第1フロントフォークの車体側の拡大図である。
図5】第2フロントフォーク11Bを説明するための図である。
図6図5に示す第2フロントフォークのVI部の拡大図である。
図7図5に示す第2フロントフォークのVII部の拡大図である。
図8図5に示す第2フロントフォークを矢印VIII方向からみた図である。
図9】(a)〜(b)は、第2フロントフォーク11Bの圧側行程および伸側行程における動作を説明するための図である。
図10】シリンダについて示した斜視図である。
図11】(a)は、シリンダと、シリンダ保持部、およびピストンとの位置関係を示した図である。(b)は、シリンダと、シリンダ保持部、ピストン、およびピストンとの位置関係を示した図である。
図12】(a)〜(b)は、本実施形態のシリンダの構成を採用しなかった場合と、採用した場合とで、減衰装置である第2フロントフォークの反力特性を比較した図である。
図13】(a)〜(b)は、伸びきり状態から、徐々に荷重を増大させてストローク量がaの状態まで第2フロントフォークを縮めたときの反力特性を比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0010】
〔フロントフォークの全体説明〕
図1は、本実施形態のフロントフォーク1の全体図である。
【0011】
本実施形態のフロントフォーク1(懸架装置)は、図1に示すように、倒立型フロントフォークである。フロントフォーク1は、第1フロントフォーク11Aと、第2フロントフォーク11Bと、ブラケット12と、ステアリングシャフト13とを有している。そして、フロントフォーク1は、例えば二輪車や三輪車等の車両のハンドル(不図示)と車輪14との間を接続するように設けられ、衝撃を緩衝するとともにハンドルの操舵を車輪14に伝達する。
【0012】
第1フロントフォーク11Aと第2フロントフォーク11Bとは、車軸14Sを介し、車輪14の左右にそれぞれ取り付けられる。そして、第1フロントフォーク11Aおよび第2フロントフォーク11Bは、軸方向に伸縮可能である。
【0013】
第1フロントフォーク11Aは、減衰装置の一例であり、オイルダンパなどの減衰機構を内蔵し、懸架ばねを内蔵しない。また、本実施形態では、第2フロントフォーク11Bは、懸架ばね装置の一例であり、例えば減衰機構と金属ばねからなる懸架ばねを内蔵せず、空気ばねからなる懸架ばねを内蔵する。また第1フロントフォーク11Aおよび第2フロントフォーク11Bは、双方とも懸架装置の一例として把握することができる。
ブラケット12は、第1フロントフォーク11Aおよび第2フロントフォーク11Bを接続する。そして、ブラケット12は車体に連結される。ステアリングシャフト13は、一端側がブラケット12に固定され、他端側にてハンドルに接続される。
【0014】
本実施形態のフロントフォーク1(懸架装置)は、減衰機構を内蔵するとともに懸架ばねを内蔵しない第1フロントフォーク11A(減衰装置)と懸架ばねを内蔵するとともに減衰機構を内蔵しない第2フロントフォーク11B(懸架ばね装置)とを備え、車両のハンドルと車輪14(車輪)との間を接続する。
【0015】
〔第1フロントフォーク11Aの構成および機能〕
図2は、第1フロントフォーク11Aを説明するための図である。
図3は、図2に示す第1フロントフォーク11Aの車輪側の拡大図である。
図4は、図2に示す第1フロントフォーク11Aの車体側の拡大図である。
【0016】
第1フロントフォーク11A(懸架装置、減衰装置)は、管状に形成され車体側に位置するアウターチューブ部110(車体側部材)と、管状に形成されて車輪14(車輪)側に位置すると共にアウターチューブ部110に接続し、アウターチューブ部110の軸方向においてアウターチューブ部110に対して相対的に移動するインナーチューブ部120(車輪側部材)と、アウターチューブ部110及びインナーチューブ部120の内側に設けられ、軸方向において、外周側に脆弱部を有する筒状のシリンダ151(シリンダ)と、アウターチューブ部110及びインナーチューブ部120の内側に位置し、アウターチューブ部110とインナーチューブ部120との移動に伴ってシリンダ151の軸方向に相対的に移動するロッド部材181(ロッド部材)と、ロッド部材181の端部に固定されると共にシリンダ151の軸方向に移動可能にシリンダ151に接触して設けられ、シリンダ151内の空間を区画するピストン182(第1の区画部材)と、を備える。
【0017】
また他の観点からは、第1フロントフォーク11A(懸架装置、減衰装置)は、管状に形成され車体側に位置するアウターチューブ部110(車体側部材)と、管状に形成されて車輪14(車輪)側に位置すると共にアウターチューブ部110に接続し、アウターチューブ部110の軸方向においてアウターチューブ部110に対して相対的に移動するインナーチューブ部120(車輪側部材)と、アウターチューブ部110及びインナーチューブ部120の内側に設けられ、軸方向において、外周側に脆弱部を有する筒状のシリンダ151(シリンダ)と、アウターチューブ部110及びインナーチューブ部120の内側に位置し、アウターチューブ部110とインナーチューブ部120との移動に伴ってシリンダ151の軸方向に相対的に移動するロッド部材181(ロッド部材)と、ロッド部材181の端部に固定されると共にシリンダ151の軸方向に移動可能にシリンダ151に接触して設けられ、シリンダ151内の空間を区画し、アウターチューブ部110とインナーチューブ部120とが相対的に移動することで生ずる振動を減衰させる減衰機構を有するピストン182(第1の区画部材)と、ピストン182に対し軸方向においてシリンダ151が配される側に配され、シリンダ151内の空間を区画し、減衰機構を有するピストン192(第2の区画部材)と、ピストン192に対し軸方向においてシリンダ151が配される側に配され、シリンダ151内の空間を区画するとともに、ロッド部材181の移動に伴ってシリンダ151内を軸方向に移動するフリーピストン194(第3の区画部材)と、を備える。
【0018】
第1フロントフォーク11Aは、図2に示すように、外筒部20Aと、車軸ブラケット部40Aと、ダンパ部50Aと、を備えている。なお、本実施形態において、以下の説明では、第1フロントフォーク11Aの長手方向を「軸方向」と呼び、軸方向において車軸ブラケット部40Aが位置する側の車輪14側の端部を「一端」と呼び、逆側の車体側の端部を「他端」と呼ぶ。またこれは、第2フロントフォーク11Bでも同様である。
【0019】
(外筒部20A)
外筒部20Aは、図2に示すように、車体側部材の一例としてのアウターチューブ部110と、車輪側部材の一例としてのインナーチューブ部120と、フォークボルト部130とを備えている。
【0020】
(アウターチューブ部110)
アウターチューブ部110は、図2に示すように、アウターチューブ111と、ブッシュ112と、シール部材113とを有する。
アウターチューブ111は、管状の部材であって、本実施形態では車体側に位置する。
【0021】
(インナーチューブ部120)
インナーチューブ部120は、図2に示すように、インナーチューブ121と、ボトムピース122とを有する。
インナーチューブ121は、管状の部材であって、本実施形態では車輪14側に位置する。インナーチューブ121は、アウターチューブ111に接続し、アウターチューブ111の内側に挿入され、軸方向においてアウターチューブ111に対して相対的に移動する。
ボトムピース122は、インナーチューブ121の一端側に配置される。ボトムピース122は、内側にロッド部材181(後述)が貫通する開口を有する環形状をしている。
【0022】
(フォークボルト部130)
フォークボルト部130は、図4に示すように、フォークボルト131と、シリンダ保持部132とを有する。
フォークボルト131は、シリンダ保持部132の他端側を閉塞する。
シリンダ保持部132は、円筒形状をなし、アウターチューブ111の内周に挿入されて螺着される。
なおシリンダ保持部132には、貫通孔132Kが設けられ、気体室T1と後述するフリーピストン194の背後の気体室T6とを連通している。
上述したように本実施形態の第1フロントフォーク11Aは、倒立型フロントフォークである。よってアウターチューブ111は、インナーチューブ121の半径方向外側に配置されている。
【0023】
(車軸ブラケット部40A)
車軸ブラケット部40Aは、図3に示すように、チューブ保持部141と、車軸連結部142と、ロッド保持部143とを有する。
チューブ保持部141は、インナーチューブ121の外径よりも大きな内径を有し、インナーチューブ121の一端部が挿入される。
車軸連結部142は、車輪14の車軸14S(図1参照)が挿入される車軸孔142Hを有し、車輪14の車軸14Sを締め付け可能である。
ロッド保持部143は、ボトムボルト143Aとボトムボルト孔143Bとを有し、ボトムボルト孔143Bは、ボトムボルト143Aと接続する。
【0024】
(ダンパ部50A)
ダンパ部50Aは、減衰機構の一例であり、図2に示すように、シリンダ部150と、メインバルブ装置160と、サブバルブ装置190とを有している。ダンパ部50Aは、メインバルブ装置160とサブバルブ装置190の発生する減衰力により、第1フロントフォーク11Aによる衝撃力の吸収に伴うアウターチューブ111とインナーチューブ121の伸縮振動を抑制する。
【0025】
(シリンダ部150)
シリンダ部150は、図2に示すように、シリンダ151を備える。
シリンダ151は、筒状の部材であって、本実施形態では、車体側に配され、アウターチューブ111及びインナーチューブ121の内側に設けられる。シリンダ151は、シリンダ保持部132の内周に挿入されて螺着されることで保持される。シリンダ151については、後で詳述する。
またアウターチューブ111およびインナーチューブ121と、シリンダ151との間は、空気が充填される気体室T1とオイルが充填される油室T2とが設けられる。気体室T1内の空気と油室T2内のオイルとは、自由界面を介して接触している。
【0026】
(メインバルブ装置160)
メインバルブ装置160は、図3に示すように、下シリンダ部170と、ロッド部180とを備えている。
【0027】
(下シリンダ部170)
下シリンダ部170は、図3に示すように、ロッドガイド171と、オイルロックカラー172と、ブッシュ173と、リバウンドスプリング174と、ばね受け175とを有する。
ロッドガイド171は、シリンダ151の一端部に位置し、シリンダ151の端部に固定される。また、ロッドガイド171は、貫通孔176にロッド部材181(後述)が貫通して設けられ、軸方向にスライド可能に支持する。
ロッドガイド171は、油室T2とロッド側油室T3とを区画する。
リバウンドスプリング174は、例えば、金属コイルばねである。リバウンドスプリング174のばね力は、アウターチューブ111とインナーチューブ121とを収縮させる方向に付勢する。
【0028】
(ロッド部180)
ロッド部180は、図3に示すように、ロッド部材181と、ピストン182と、ピストンリング183とを備える。
ロッド部材181は、本実施形態では、車輪14側に配され、軸方向に沿って延びる棒状の部材である。また、ロッド部材181は、内側に、軸方向の一端から他端まで延びた貫通孔であるロッド内室181Rが形成され、中空状となっている。
ロッド部材181は、ボトムボルト143Aを介して車軸ブラケット部40Aに固定される。
ロッド部材181は、アウターチューブ111及びインナーチューブ121の内側に位置する。ロッド部材181は、アウターチューブ111とインナーチューブ121との移動に伴ってシリンダ151の軸方向に相対的に移動する。
ピストン182は、減衰機構を有する第1の区画部材の一例であり、ロッド部材181の他端側端部(車体側の端部)に位置し、ロッド部材181の他端側に固定される。
またピストン182は、伸側減衰バルブ182NBを備えてロッド側油室T3とピストン側油室T4とを連絡可能とする伸側流路182NRと、圧側チェックバルブ182PBを備えてロッド側油室T3とピストン側油室T4とを連絡可能とする圧側流路182PRとを備える。
ピストン182は、シリンダ151の軸方向に移動可能にシリンダ151に接触して設けられ、シリンダ151内の空間を区画する。即ち、ピストン182は、シリンダ部150の内部を、ロッド部材181が収容されるロッド側油室T3とロッド部材181が収容されないピストン側油室T4とに区画する。
【0029】
(サブバルブ装置190)
サブバルブ装置190は、図4に示すように、ロッド部材191と、ピストン192と、加圧スプリング193と、フリーピストン194とを備える。
ロッド部材191は、軸方向に沿って延びる棒状の部材である。ロッド部材191は、他端側端部においてフォークボルト131の内周に挿入されて螺着される。さらにロッド部材191は、内側に、軸方向の他端から一端まで延びた貫通孔であるロッド内室191Rが形成され、中空状となっている。
ピストン192は、ロッド部材191の一端側端部に位置し、保持される。これによりピストン192は、ピストン側油室T4とサブ油室T5とを区画する。
またピストン192は、圧側減衰バルブ192PBを備えてピストン側油室T4とサブ油室T5とを連絡可能とする圧側流路192PRと、伸側チェックバルブ192NBを備えてピストン側油室T4とサブ油室T5とを連絡可能とする伸側流路192NRとを備える。
これによりピストン192は、ピストン182に対し軸方向においてシリンダ151が配される側に配され、シリンダ151内の空間を区画し、アウターチューブ部110とインナーチューブ部120とが相対的に移動することで生ずる振動を減衰させる減衰機構を有する第2の区画部材として機能する。
加圧スプリング193は、圧縮コイルばねである。そして加圧スプリング193は、フリーピストン194をピストン192の側に向けて付勢する。
フリーピストン194は、第1フロントフォーク11Aの伸縮に伴なってシリンダ151に進入、退出するロッド部材181の容積を補償するために、シリンダ151の内径部を液密に摺動する。
これによりフリーピストン194は、ピストン192の側でピストン側油室T4に連通しているサブ油室T5と、フリーピストン194の背後の気体室(体積補償室)T6とを区画する。
フリーピストン194は、ピストン182に対し軸方向においてシリンダ151が配される側に配され、シリンダ151内の空間を区画するとともに、ロッド部材181の移動に伴ってシリンダ151内を軸方向に移動する第3の区画部材として機能する。
【0030】
上記構成の第1フロントフォーク11Aは、以下のように動作する。
【0031】
(圧側行程)
第1フロントフォーク11Aの圧側行程においては、アウターチューブ111とインナーチューブ121とが軸方向において相対的に近づく方向に移動する。このときピストン182と下シリンダ部170とは、軸方向に相対的に遠ざかる方向に移動する。またピストン182とピストン192とは、軸方向に相対的に近づく方向に移動する。
【0032】
ピストン182と下シリンダ部170とが遠ざかることで、ロッド側油室T3の容積が広がる。一方、ピストン182とピストン192とが近づくことでピストン側油室T4の容積が狭まる。これによりピストン側油室T4のオイルは、圧側チェックバルブ182PBを開き、圧側流路182PRを通り、ロッド側油室T3に移動する。
【0033】
またこのときロッド部材181が、ロッド側油室T3に侵入する。そのためロッド部材181がロッド側油室T3に侵入した容積分のオイルが、ピストン側油室T4からサブ油室T5へ移動する。この場合、ピストン側油室T4のオイルは、圧側減衰バルブ192PBを開き、圧側流路192PRを通り、サブ油室T5に移動する。このときさらに減衰力が生じる。
【0034】
そしてサブ油室T5にオイルが移動すると、フリーピストン194が軸方向他端側に移動する。その結果、気体室T6の容積が狭まる。この容積分の気体は、貫通孔132Kを通り、気体室T6から気体室T1へ移動する。
【0035】
(伸側行程)
第1フロントフォーク11Aの伸側行程においては、アウターチューブ111とインナーチューブ121とが軸方向において相対的に遠ざかる方向に移動する。このときピストン182と下シリンダ部170とは、軸方向に相対的に近づく方向に移動する。またピストン182とピストン192とは、軸方向に相対的に遠ざかる方向に移動する。
【0036】
ピストン182と下シリンダ部170とが近づくことで、ロッド側油室T3の容積が狭まる。一方、ピストン182とピストン192とが遠ざかることでピストン側油室T4の容積が広がる。これによりロッド側油室T3のオイルは、伸側減衰バルブ182NBを開き、伸側流路182NRを通り、ピストン側油室T4に移動する。このとき減衰力が生じる。
【0037】
またこのときロッド部材181が、ロッド側油室T3から退出する。そのためロッド部材181がロッド側油室T3から退出した容積分のオイルが、サブ油室T5からピストン側油室T4へ移動する。この場合、サブ油室T5のオイルは、伸側チェックバルブ192NBを開き、伸側流路192NRを通り、ピストン側油室T4に移動する。
【0038】
そしてピストン側油室T4にオイルが移動すると、フリーピストン194が軸方向一端側に移動する。その結果、気体室T6の容積が広がる。この容積分の気体は、貫通孔132Kを通り、気体室T1から気体室T6へ移動する。
【0039】
〔第2フロントフォーク11Bの構成および機能〕
図5は、第2フロントフォーク11Bを説明するための図である。
図6は、図5に示す第2フロントフォーク11BのVI部の拡大図である。
図7は、図5に示す第2フロントフォーク11BのVII部の拡大図である。
図8は、図5に示す第2フロントフォークを矢印VIII方向からみた図である。
【0040】
第2フロントフォーク11B(懸架装置、懸架ばね装置)は、管状に形成され車体側に位置するアウターチューブ部210(車体側部材)と、管状に形成されて車輪14(車輪)側に位置すると共にアウターチューブ部210に接続し、アウターチューブ部210の軸方向においてアウターチューブ部210に対して相対的に移動するインナーチューブ部220(車輪側部材)と、アウターチューブ部210及びインナーチューブ部220の内側に設けられ、軸方向において、外周側に脆弱部を有する筒状のシリンダ311(シリンダ)と、アウターチューブ部210及びインナーチューブ部220の内側に位置し、アウターチューブ部210とインナーチューブ部220との移動に伴ってシリンダ311の軸方向に相対的に移動するロッド部材321(ロッド部材)と、ロッド部材321の端部に固定されると共にシリンダ311の軸方向に移動可能にシリンダ311に接触して設けられ、シリンダ311内の空間を区画するピストン322(第1の区画部材)と、を備える。
【0041】
第2フロントフォーク11Bは、図5に示すように、外筒部20Bと、内筒部30Bと、車軸ブラケット部40Bと、サブタンク部50Bとを備えている。
【0042】
(外筒部20B)
外筒部20Bは、図5に示すように、車体側部材の一例としてのアウターチューブ部210と、車輪側部材の一例としてのインナーチューブ部220とを備えている。
(アウターチューブ部210)
アウターチューブ部210は、アウターチューブ211と、ブッシュ212と、シール部材213とを有する。
アウターチューブ211は、管状の部材であって、本実施形態では車体側に位置する。
【0043】
(インナーチューブ部220)
インナーチューブ部220は、図5に示すように、インナーチューブ221と、ブッシュ222と、ボトムピース223とを有する。
インナーチューブ221は、管状の部材であって、本実施形態では車輪14側に位置する。インナーチューブ221は、アウターチューブ211の内側に挿入されてアウターチューブ211と接続する。そして、インナーチューブ221は、軸方向においてアウターチューブ211に対して相対的に移動する。
ボトムピース223は、図7に示すように、インナーチューブ221の一端側に配置される。ボトムピース223は、内側にロッド部材321(後述)が貫通する開口を有する環形状をしている。
上述したように本実施形態の第2フロントフォーク11Bは、倒立型フロントフォークである。よってアウターチューブ部210は、インナーチューブ部220の半径方向外側に配置されている。
【0044】
(内筒部30B)
内筒部30Bは、図5に示すように、シリンダ部310と、ロッド部320とを備えている。
【0045】
(シリンダ部310)
シリンダ部310は、シリンダ311、ロッドガイド312、ブッシュ313、ストッパ314、およびフォークボルト部315を有する。そして、シリンダ部310は、アウターチューブ211およびインナーチューブ221の間にガスを収容する外側室R3(第3室)を形成する。
シリンダ311は、アウターチューブ211及びインナーチューブ221の半径方向内側に設けられ、筒状の形状をとる。本実施形態では、シリンダ311は、車体側に配され、後述するシリンダ保持部315Cの内周に挿入されて螺着されることで保持される。シリンダ311については、後で詳述する。
ロッドガイド312は、図6に示すように、シリンダ311の一端側の端部に位置し、シリンダ311の端部に固定される。また、ロッドガイド312は、貫通孔312Hにロッド部材321(後述)が貫通して設けられ、軸方向にスライド可能に支持する。
フォークボルト部315は、図5に示すように、フォークボルト315Bと、シリンダ保持部315Cとを有する。さらに図8に示すように、フォークボルト部315は、内側ガス圧調整部315A1と外側ガス圧調整部315A2とを有する。
フォークボルト315Bは、シリンダ保持部315Cの他端側を閉塞する。
シリンダ保持部315Cは、円筒形状をなし、アウターチューブ211の内周に挿入されて螺着される。内側ガス圧調整部315A1は、内側第2室R2(後述)に連通する。内側ガス圧調整部315A1は、基本的には内側から第2フロントフォーク11Bの外側へのガスの流出を阻止するとともに、調整時においては内側第2室R2(後述)の封入ガス圧を調整可能にする。外側ガス圧調整部315A2は、外側室R3に連通する。外側ガス圧調整部315A2は、基本的には内側から第2フロントフォーク11Bの外側へのガスの流出を阻止するとともに、調整時においては外側室R3の封入ガス圧を調整可能にする。
【0046】
(ロッド部320)
ロッド部320は、図6に示すように、ロッド部材321と、ピストン322と、ピストンリング323と、シール部材324とを備える。
ロッド部材321は、軸方向に沿って延びる棒状の部材である。本実施形態では、ロッド部材321は、インナーチューブ221側に固定される。また、ロッド部材321は、内側に、軸方向の一端から他端まで延びた貫通孔であるロッド内室321R(第1の空間部)が形成され、中空状となっている。
ロッド部材321は、ボトムボルト431を介して車軸ブラケット部40Bに固定される。
ロッド部材321は、図6に示すように、他端側にピストン322を保持する。さらに、ロッド部材321は、内側にてロッド内室321Rの他端側においてピストン322の孔部322H(後述)に接続する。また、ロッド部材321のロッド内室321Rは、後述するように、孔部322Hおよび連絡孔322Rを介して内側第1室R1に連通する。この内側第1室R1は、シリンダ311、ロッド部材321、ピストン322およびロッドガイド312の間の空間であり、第2の空間部として機能する。
ロッド部材321は、アウターチューブ211及びインナーチューブ221の半径方向内側に位置し、アウターチューブ211とインナーチューブ221との移動に伴ってシリンダ311の軸方向に相対的に移動する。
ピストン322は、図6に示すように、ロッド部材321に保持される。そして、ピストン322は、内側に孔部322Hおよび連絡孔322Rを有している。
連絡孔322Rは、一方の開口がロッド内室321Rに接続し、他方の開口がピストン322の外周部まで延びて形成される。そして、連絡孔322Rは、ロッド内室321Rと後述の内側第1室R1とを連通する。
本実施形態では、ピストン322、ピストンリング323およびシール部材324によって、シリンダ311内の気室を区画する。具体的には、ピストン322の一端側であるロッド部材321側に内側第1室R1(第1室)を形成し、ピストン322の他端側に内側第2室R2(第2室)を形成する。
ピストン322は、ロッド部材321の車体側の端部に固定されると共にシリンダ311の軸方向に移動可能にシリンダ311に接触して設けられ、シリンダ311内の空間を区画する第1の区画部材として機能する。
【0047】
(車軸ブラケット部40B)
車軸ブラケット部40Bは、図7に示すように、チューブ保持部41と、車軸連結部42と、ロッド保持部43と、サブタンク装着部44とを有する。
チューブ保持部41は、インナーチューブ221の外径と略同じ内径を有し、インナーチューブ221の一端側の端部が挿入される。
車軸連結部42は、車輪14の車軸14S(図1参照)が挿入される車軸孔42Hを有し、車軸ボルト42Bによって、車輪14の車軸14Sを締め付け可能である。
ロッド保持部43は、ボトムボルト431、ボトムボルト孔432およびカバー433を有する。
ボトムボルト431は、肉厚の円筒形状を有し、ボトムボルト孔432は、ボトムボルト431と接続する。
カバー433は、ロッド保持部43の一端側の端部に位置して、ボトムボルト431を覆う。カバー433は、ボトムボルト孔432の内側に固定される。またカバー433には、連絡孔433Hが形成されており、この連絡孔433Hによりロッド部材321の一端側と後述する下部タンク室SLとが接続される。即ち、連絡孔433Hによりロッド内室321Rと下部タンク室SLとが連通する。
サブタンク装着部44は、円筒状部441と、接続部442とを有する。
円筒状部441は、他端側においてサブタンク部50Bを装着し保持する。
接続部442は、後述するサブタンク部50B内部の空間部をロッド保持部43の連絡孔433Hに接続する。
【0048】
(サブタンク部50B)
サブタンク部50Bは、アウターチューブ211およびインナーチューブ221の外部に設けられる。サブタンク部50Bは、図7に示すように、円筒部材51とバルブ部52とを有する。
円筒部材51は、円筒形状を有し、サブタンク装着部44の内側に保持される。
バルブ部52は、円筒部材51の内側に配置される。
以上のようなサブタンク部50Bは、円筒部材51およびバルブ部52の内部の空間である上部タンク室SU(第3の空間部)を形成する。そして接続部442の内部の空間である下部タンク室SL(第4の空間部)とともにサブタンク室Sを形成する。
下部タンク室SLは、上述のように連絡孔433Hによりロッド内室321Rと連通する。さらにロッド内室321Rは、連絡孔322Rおよび孔部322Hを介して、内側第1室R1と連通する。すなわち、内側第1室R1、ロッド内室321Rおよびサブタンク室Sとは全てガスが相互に流通可能に接続している。
バルブ部52は、基本的には内側から第2フロントフォーク11Bの外側へのガスの流出を阻止するとともに、調整時においてはロッド内室321Rを介して内側第1室R1の封入ガス圧を調整可能にする。
【0049】
上記構成の第2フロントフォーク11Bは、以下のように動作する。
【0050】
図9(a)〜(b)は、第2フロントフォーク11Bの圧側行程および伸側行程における動作を説明するための図である。
【0051】
(圧側行程)
第2フロントフォーク11Bの圧側行程においては、図9(a)に示すように、アウターチューブ211とインナーチューブ221とが軸方向において相対的に近づく方向に移動する。また、シリンダ311の他端側に向けてピストン322およびロッド部材321が軸方向に相対的に近づく方向に移動する。
【0052】
アウターチューブ211とインナーチューブ221とが近づくことで、外側室R3の容積が狭まって外側室R3における空気が圧縮される。このとき、外側室R3は、密封されているため空気ばねとして作用する。そして、外側室R3において、アウターチューブ211とインナーチューブ221とを伸張させる方向の反力が発生する。
【0053】
同様に、シリンダ311の他端側に向けてピストン322が挿入されることで、内側第2室R2の容積が狭まって内側第2室R2における空気が圧縮される。このとき、内側第2室R2は、密封されているため空気ばねとして作用する。そして、内側第2室R2においてもアウターチューブ211とインナーチューブ221とを伸張させる方向の反力が発生する。
【0054】
(伸側行程)
第2フロントフォーク11Bの伸側行程においては、図9(b)に示すように、アウターチューブ211とインナーチューブ221とが軸方向において相対的に遠ざかる方向に移動する。また、シリンダ311の一端側に向けてピストン322およびロッド部材321の他端側が軸方向に相対的に近づく方向に移動する。
【0055】
シリンダ311の一端側に向けてピストン322が近づく方向に移動することにより、ピストン322とロッドガイド312とが相対的に近づく。これによって、内側第1室R1の容積が狭まって内側第1室R1における空気が圧縮される。また、内側第1室R1は、ピストン322の連絡孔322Rおよび孔部322Hを介してロッド内室321Rと接続し、ロッド内室321Rは、連絡孔433Hを介して、サブタンク室Sと接続している。そのため、これら内側第1室R1、ロッド内室321Rおよびサブタンク室Sが空気ばねとして作用する。そして、内側第1室R1、ロッド内室321Rおよびサブタンク室Sにおいて、アウターチューブ211とインナーチューブ221とを収縮させる方向の反力が発生する。
【0056】
本実施形態では、内側第1室R1に加えてロッド内室321Rやサブタンク室Sを設けることによって、内側第1室R1の容積が従来の構成と比較して拡大されるため、より安定した反力を確保することができる。
【0057】
以上のように、本実施形態が適用される第2フロントフォーク11Bにおいては、第2フロントフォーク11Bの伸縮ストロークに対し、アウターチューブ211とインナーチューブ221とを伸長させる方向に付勢する外側室R3および内側第2室R2により形成される空気ばねのばね力と、アウターチューブ211とインナーチューブ221とを収縮させる方向に付勢する内側第1室R1等により形成される空気ばねのばね力が発生する。
【0058】
〔シリンダ151およびシリンダ311の説明〕
次に第1フロントフォーク11Aのシリンダ151、および第2フロントフォーク11Bのシリンダ311について詳述する。
【0059】
図10は、シリンダ151およびシリンダ311について示した斜視図である。
また図11(a)は、シリンダ311と、シリンダ保持部315C、およびピストン322との位置関係を示した図である。さらに図11(b)は、シリンダ151と、シリンダ保持部132、ピストン192、およびピストン182との位置関係を示した図である。
本実施形態のシリンダ151、311は、軸方向において、外周側に脆弱部を有する。具体的には、例えば、外径が端部よりも小径部分となっている箇所を設け、この箇所を脆弱部とする。図示する例では、シリンダ151、311は、軸方向において、内径は同一径であるとともに外径に端部よりも小径部分を有する。ここで端部とは、一端側および他端側の双方であり、図示する例では、位置N1より他端側(車体側)および位置N2より一端側(車輪14側)の範囲である。また中間部とは、端部以外の箇所であり、図示する例では、軸方向における位置N1〜位置N2の範囲である。この構造は、もともと円筒形であったシリンダの外周面を軸方向の位置N1〜位置N2の範囲において、切削等により肉抜きすることで得ることができる。
【0060】
シリンダ311の内径を同一径、即ち、内径を一端側から他端側までほぼ一様とするのは、ピストン322の受圧面積を拡大するためである。従来のシリンダとして、内径が他端側では大きく、一端側では小さくしたものを使用した場合、ピストン322は、内径が小さい側に挿入されることになり、ピストン322はより小径のものを使用することになる。即ち、ピストン322の受圧面積はより小さくなる。そして空気ばねのばね力を確保するためには、内側第2室R2内に封入される空気圧をより高くする必要がある。そしてこのときシール部材324は、より高い空気圧に対抗して封止をする必要があり、シール部材324のシリンダ311側への張り出しがより大きくなる。その結果、シール部材324とシリンダ311とのフリクション(摩擦)が大きくなり、第2フロントフォーク11Bが動作するときのフリクションが増大し、フレキシブルな動作をすることが難しくなる。
【0061】
よって本実施形態では、シリンダ311の内径を同一径とし、この問題の抑制を図っている。即ち、シリンダ311の内径は、一端側でより大きくなる。この場合、ピストン322は、より大径のものを使用することができる。そしてピストン322の受圧面積をより大きくすることができ、内側第2室R2内に封入される空気圧をより低くすることができる。その結果、シール部材324とシリンダ311とのフリクション(摩擦)が小さくなり、第2フロントフォーク11Bが動作するときのフリクションが低減し、フレキシブルな動作をすることがより容易となる。また内側第2室R2内に封入される空気圧をより低くすることができた結果、反力特性がよりリニアになる。
【0062】
ただし単にシリンダ311の内径を一端側でより大きくした場合、シリンダ311の剛性が過度に大きくなってしまう。そしてその結果、第2フロントフォーク11Bが、しなりにくくなり、車両の乗り心地が低下しやすくなる。さらに第2フロントフォーク11Bの重量の増大につながる。
【0063】
そこで本実施形態では、シリンダ311の外径を端部よりも小径部分を有することで、この問題の抑制を図っている。即ち、端部以外の中間部においてシリンダ311の肉厚は小さくなり、そのためシリンダ311の内径を一端側でより大きくしても、シリンダ311の剛性が大きく変化しにくい。そしてその結果、剛性が過度に大きくならず、第2フロントフォーク11Bが、しなりやすくなり、車両の乗り心地が向上しやすくなる。即ち、剛性をアップしつつ、乗り心地も確保することができる。さらに第2フロントフォーク11Bの重量も増大しにくい。
【0064】
また減衰装置の側である第1フロントフォーク11Aでは、内径についてこのような問題は生じにくいが、本実施形態では、第1フロントフォーク11Aのシリンダ151についてもシリンダ311と同様とする。これは、第1フロントフォーク11Aと第2フロントフォーク11Bとの剛性を同様とするためである。つまりシリンダ151とシリンダ311とを同様としないと第1フロントフォーク11Aと第2フロントフォーク11Bとの剛性が異なるようになる。その結果、車両を運転するときに両者のしなり具合が異なるようになり、車両の操舵性が低下しやすい。そのため両者の剛性を同様にすることで、車両の操舵性が低下しないようにしている。
【0065】
またシリンダ151の外径については、軸方向において、ピストン192に対しロッド部材181が配される側では外径を小径とせず、ピストン192に対しシリンダ151が配される側において外径を小径とすることが好ましい。図示する例では、ピストン192に対しロッド部材181が配される側は、位置N2より一端側(車輪14側)である。またピストン192に対しシリンダ151が配される側は、位置N2より他端側(車体側)である。
【0066】
これは、位置N2より一端側は、位置N2より他端側よりもより高圧になりやすいためである。即ち、上述したように第1フロントフォーク11Aの圧側行程では、ピストン182とピストン192とが近づくことでピストン側油室T4の容積が狭まる。このときピストン側油室T4には大きな圧力が加わる。ピストン側油室T4が配される箇所は、位置N2より一端側である。そのためシリンダ151のこの箇所で外径を小径とし、肉薄にした場合、シリンダ151が膨らみやすく、ピストン182およびピストン192によるシール性が低下しやすい。この場合、第1フロントフォーク11Aの減衰装置としての機能が低下する。よってピストン側油室T4を設ける箇所では、シリンダ151を肉薄にしない方がよい。そのため位置N2より一端側は、シリンダ151の外径を小径とせず、位置N2より他端側においてシリンダ151の外径を小径とすることを行なう。
【0067】
なおこれは、シリンダは151は、ピストン182の移動範囲(位置N2より一端側(車輪側))以外の箇所で小径部分を有する、と言うこともできる。またピストン182は、シリンダ151の位置N2より一端側(車輪側)の範囲で移動するため、シリンダ151は、シリンダ151の他端側(車体側)の箇所で小径部分を有する、と言うこともできる。さらにシリンダ151は、軸方向において、ピストン192に対しシリンダ151が配される側(位置N2より他端側(車体側))において外径が小径部分を有する、と言うこともできる。
【0068】
さらにシリンダ151の外径については、軸方向において、シリンダ保持部132により保持される箇所では外径を小径としないことが好ましい。図示する例では、シリンダ保持部132により保持される箇所は、位置N1より他端側(車体側)である。このようにすることでシリンダ保持部132とシリンダ151との間に隙間が生じにくくなる。
【0069】
なお第2フロントフォーク11Bのシリンダ311では、外径についてこれらの問題は生じにくいが、上述したように第1フロントフォーク11Aと第2フロントフォーク11Bとの剛性を同様とするために、外径についてもシリンダ151と同様としている。つまり第1フロントフォーク11Aと第2フロントフォーク11Bの各々は、軸方向において、内径は同一径であるとともに外径に同じ箇所で小径部分を有する。
【0070】
なお上述した例では、シリンダ151とシリンダ311の構成は同様としたが、これは厳密に同様とすることを意味するものではない。例えば、剛性に影響を与えない限り異なるものとしてもよい。具体的には、シリンダ151とシリンダ311とで、表面処理を異なるようにしてもよい。
【0071】
また上述した例では、シリンダ151およびシリンダ311について、内径は同一径であるとともに外径に端部よりも小径部分を有するとしたが、例えば、シリンダ151およびシリンダ311を他の部材と接続するために端部において内径や外径を拡張したり、狭めたりすることまで排除することを意味するものではない。この場合、シリンダ151およびシリンダ311の内径および外径を規定するための箇所として、この部分を含まないことはもちろんである。
【0072】
そして上述した例では、シリンダ151、311の外周部に設けられる脆弱部は、外径が端部よりも小径部分となっている箇所を設けることで作成したが、これに限られるものではない。例えば、シリンダ151、311の外周部に表面加工を行い、これにより脆弱部を設けるようにしてもよい。この場合、外径は、軸方向において同一径であるが、表面加工を行なうことで脆弱な箇所とすることができる。また外径が端部よりも小径部分となっている箇所を設けることと表面加工とを併用して脆弱部を設けるようにしてもよい。
【0073】
さらに上述した例では、第1フロントフォーク11A(減衰装置)が、減衰機構を内蔵するとともに懸架ばねを内蔵しないものであり、第2フロントフォーク11B(懸架ばね装置)が、懸架ばねを内蔵するとともに減衰機構を内蔵しないものであったが、これに限られるものではない。本実施の形態では、一対のフロントフォーク(懸架装置)の各々が減衰機構および懸架ばねの少なくとも一方を内蔵するものであれば適用が可能である。即ち、例えば、減衰機構および懸架ばねの双方を有する通常のフロントフォークに適用してもよい。
【0074】
〔フリクションおよび反力特性の説明〕
図12(a)〜(b)は、本実施形態のシリンダ311の構成を採用しなかった場合と、採用した場合とで、懸架ばね装置である第2フロントフォーク11Bの反力特性を比較した図である。図12(a)〜(b)では、横軸がストローク量を表し、縦軸が荷重を表す。
このうち図12(a)は、本実施形態のシリンダ311の構成を採用しなかった場合の反力特性を示し、図12(b)は、本実施形態のシリンダ311の構成を採用した場合の反力特性を示している。なお本実施形態のシリンダ311の構成を採用しなかった場合とは、上述した従来のシリンダであり、内径が他端側では大きく、一端側では小さくしたものを使用した場合である。
また減衰装置である第1フロントフォーク11A側のピストン側油室T4も同様に高圧になるとフリクションが上がる、また熱などによっても圧力変化するため第2フロントフォーク11Bと同様にフリクション変化がある。よってシリンダ151のピストン182の摺動部(移動箇所)が膨らむのを抑制するため、第2フロントフォーク11Bと同様にシリンダ内径を大きくし、外径の小さい部分を作ることは有効である。
【0075】
ここでは、ストローク量が0の状態から、徐々に荷重を増大させてストローク量がaの状態まで第2フロントフォーク11Bを縮め、その後、徐々に荷重を減少させてストローク量が0の状態に戻した場合のストローク量と荷重との関係を示している。
反力特性は、図示するように略平行四辺形の形状のループを描く。そしてフリクションがより大きい場合は、この略平行四辺形の面積はより大きくなり、フリクションがより小さい場合は、この略平行四辺形の面積はより小さくなる。
【0076】
図12(a)と図12(b)とを比較すると、図12(b)の場合の方が、図12(a)の場合よりも略平行四辺形の面積は小さい。よって本実施形態のシリンダ311の構成を採用した場合の方が、フリクションがより小さくなっていることがわかる。
【0077】
図13(a)〜(b)は、伸びきり状態から、徐々に荷重を増大させてストローク量がaの状態まで第2フロントフォーク11Bを縮めたときの反力特性を比較した図である。
このうち図13(a)は、本実施形態のシリンダ311の構成を採用しなかった第2フロントフォーク11B、本実施形態のシリンダ311の構成を採用した第2フロントフォーク11B、および金属ばねを使用した懸架装置について反力特性を比較している。また図13(b)は、図13(a)の一部を拡大した図である。
【0078】
図示するように、本実施形態のシリンダ311の構成を採用した場合(「同一径」として図示)は、採用しなかった場合(「小径」として図示)よりも、金属ばねを使用した懸架装置(「金属ばね」として図示)に反力特性が近くなっており、よりリニアな反力特性を有していることがわかる。
【符号の説明】
【0079】
1…フロントフォーク(懸架装置の一例)、11A…第1フロントフォーク(懸架装置、減衰装置の一例)、11B…第2フロントフォーク(懸架装置、懸架ばね装置の一例)、110、210…アウターチューブ部(車体側部材の一例)、120、220…インナーチューブ部(車輪側部材の一例)、132、315c…シリンダ保持部、151、311…シリンダ、171、312…ロッドガイド、181、321…ロッド部材、182、322…ピストン(第1の区画部材の一例)、192…ピストン(第2の区画部材の一例)、194…フリーピストン(第3の区画部材の一例)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13