【実施例】
【0036】
(実施例1)
本例は、本発明の実施例にかかるフィン材(試料E1〜試料E18)および比較例にかかるフィン材(試料R1〜試料R6)を作製し、これらの特性を評価する例である。
図1に示すごとく、試料E1〜試料E14のフィン材1(試料E1〜試料E14)は、アルミニウムよりなる基板2と、その表面に形成された塗膜3とを有する。塗膜3は、親水性皮膜31からなる。基板2と塗膜3との間には化成皮膜4が形成されている。試料R1〜試料R6の皮膜の積層構成は試料E1〜試料E14と同様である。
【0037】
また、試料E15〜試料E18のフィン材1は、
図2に示すごとく、塗膜3として、親水性皮膜31と耐食性皮膜32とを有し、最外層が親水性皮膜31からなる。その他の構成は試料E1〜試料E14と同様である。すなわち、試料E15〜試料E18のフィン材1は、基板2と、基板2上に形成された化成皮膜4と、化成皮膜4上に形成された耐食性皮膜32と、耐食性皮膜32上に形成された親水性皮膜31とを有する。
【0038】
試料E1〜試料E18及び試料R1〜試料R6は、後述の表1及び表2に示すごとく親水性皮膜31の構成成分が互いに異なり、親水性皮膜31の固体表面張力極性成分γ
Sp及び固体表面張力水素結合成分γ
Shが互いに異なる。
【0039】
以下、フィン材(試料E1〜試料E14)の製造方法について説明する。まず、基板2として、JIS A 1050−H26、板厚0.1mmのアルミニウム板を準備した。この基板2に対して化成処理を行うことにより、基板2の表面にリン酸クロメートよりなる化成皮膜4を形成した。
【0040】
次に、化成皮膜4上に、バーコーターを用いて所定組成(表1参照)の塗料を塗布し、温度225℃で10秒間加熱することにより、膜厚1μmの親水性皮膜31よりなる塗膜3を形成した。このようにして、
図1に示すごとくフィン材1を得た。各試料E1〜試料E14は、親水性皮膜を形成するための塗料の組成が異なる点を除いては、上記と同様の方法により製造される。試料R1〜試料R6についても同様である。
【0041】
また、試料E15〜E18のフィン材は、次のようにして製造した。まず、試料E1〜試料E14と同様にして、基板2上に化成皮膜4を形成した。次に、化成皮膜4上に所定の樹脂成分を含有する塗料(表1参照)を塗布し、温度225℃で10秒間加熱することで、膜厚1μmの耐食性皮膜32を形成した。空冷後、バーコーターを用いて、耐食性皮膜32の上に所定組成(表1参照)の塗料を塗布し、温度225℃で10秒間加熱することにより、膜厚1μmの親水性皮膜31を形成した。このようにして、
図2に示すごとくフィン材1を得た。
【0042】
なお、表1おいて、親水性皮膜の構成成分および耐食性皮膜の樹脂の種類は、略号で示されており、各略号の意味は下記の通りである。
(1)親水性樹脂A
A1:ポリビニルアルコール(デンカ(株)製のK−50)
A2:シラノール樹脂(三菱化学(株)製のMS51)
A3:カルボキシメチルセルロース(第一工業製薬(株)製のセロゲン7A)
【0043】
(2)化合物B
B1:フッ素系化合物;パーフルオロアルキルアクリレート((株)フロロテクノロジー製のF−6130)
B2:シリコーン系化合物(信越化学製のx−52−2162)
【0044】
(3)樹脂C
C1:ポリアクリル酸(三井化学(株)製のSY31−5A)
C2:ポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製のPEG200000)
C3:ポリエチレンオキシド(住友精化(株)製のPEO−27P)
【0045】
(4)添加剤D
D1:架橋剤;メラミン樹脂(三井化学(株)製のサイメル350)
D2:抗菌剤;ジンクピリジオン(日本曹達(株)製のDP−2479)
【0046】
(5)耐食性樹脂P
P1:アクリル系樹脂(東亞合成(株)製のジュリマー)
P2:アクリル変性エポキシ系樹脂(荒川工業(株)製のモデピクス−304)
P3:ウレタン系樹脂((株)ADEKA製のアデカボンタイターHUX−370)
P4:エステル系樹脂(日本合成化学工業(株)製の水分散型ポリエスターWR−960)
【0047】
次に、各試料のフィン材の表面張力を測定した。具体的には、まず、各フィン材を50mm×100mmに切断して供試板を作製した。次いで供試板の親水性皮膜上に、水、エチレングリコール、およびジヨードメタンをそれぞれ1μl滴下し、滴下15秒後の接触角をθ/2法により測定した。測定には、協和界面科学(株)製の自動接触角計DM−701を用いた。接触角の測定値に基づいて、以下の式(I)で表されるFowkes拡張式により表面張力を求めた。その結果を表1に示す。
γ
L(1+cosθ
L)=2(γ
sd×γ
Ld)
1/2+2(γ
sp×γ
Lp)
1/2+2(γ
sh×γ
Lh)
1/2・・・(I)
γ
L:接触媒体の表面張力
γ
Ld:接触媒体の表面張力分散成分
γ
Lp:接触媒体の表面張力極性成分
γ
Lh:接触媒体の表面張力水素結合成分
γ
sd:固体表面張力分散成分
γ
sp:固体表面張力極性成分
γ
sh:固体表面張力水素結合成分
【0048】
【表1】
【0049】
次に、以下の手順にて各試料のフィン材の耐汚染性と親水性の評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0050】
<耐汚染性>
耐汚染性の評価は、各試料の親水性皮膜に吸着した高級アルコール(具体的にはヘキサデカノール)の占有率を測定することにより行った。具体的には、まず、各試料を50mm×100mmに切断して供試板を作製した。次いで、温度25℃、流速5L/時間の流水中に供試板を1時間浸漬した後、十分に乾燥させた。
【0051】
次に、
図3に示すごとく、容積5Lの蓋付きの密閉瓶60を準備し、ヘキサデカノール3gを入れたアルミカップ61を密閉瓶60の底に配置した。さらに密閉瓶上部に、その直径方向にのびる針金62を張り、さらにこの針金62から密閉瓶の底部方向に針金63を垂らした。そして、針金63の端部に、各供試板1を取り付けた。次に、温度80℃に加熱したオーブン内に密閉瓶60を入れて16時間加熱することにより、ヘキサデカノールを供試板の表面に付着させた(操作a)。次に、密閉瓶60から取り出した供試板1を、温度25℃、流速5L/時間の流水中に8時間浸漬させた後、十分に乾燥させた(操作b)。また、参照試験として、80℃のオーブンで各供試板を16時間加熱した(操作c)。操作a、操作b、操作cの後の各供試板について、親水性皮膜の表面における水接触角をそれぞれ測定した。水接触角の測定方法は、上述の表面張力の測定時における水の接触角と同様である。
【0052】
次に、下記の式(II)、(III)で表されるCassieの式よりヘキサデカノールの付着面積の占有率を算出した。なお、式(II)においては、操作a後の水接触角がθ
汚染、操作c後の水接触角がθ
加熱、ヘキサデカノールの固体表面接触角がθ
HD(θ
HD=65°)であり、x
汚染が操作a後、すなわち、ヘキサデカノールによる汚染後の親水性皮膜表面におけるヘキサデカノールの占有比である。また、式(III)においては、操作b後の水接触角がθ
水洗、操作c後の水接触角がθ
加熱、ヘキサデカノールの固体表面接触角がθ
HD(θ
HD=65°)であり、x
水洗が操作b後、すなわち、水洗後の親水性皮膜表面におけるヘキサデカノールの占有比である。その結果を表2に示す。なお、表2においては、占有比を百分率に換算した値、すなわち占有率(単位:%)を示してある。
cosθ
汚染=xcosθ
HD+(1−x
汚染)cosθ
加熱 ・・・(II)
cosθ
水洗=xcosθ
HD+(1−x
水洗)cosθ
加熱 ・・・(III)
【0053】
<親水性>
協和界面科学(株)製の自動接触角計DM−701を用いて、θ/2法により水接触角を測定した。具体的には、各フィン材を50mm×100mmに切断して供試板を作製した。次いで、各供試板の親水性皮膜上に純水2μlを滴下し、滴下後30秒後の水の接触角を測定した。これを初期の水接触角とする(表2参照)。また、耐汚染性の評価試験における操作b後の供試板の親水性皮膜の表面の水接触角を測定した。これを汚染試験後の水接触角とする(表2参照)。
【0054】
【表2】
【0055】
表1及び表2より知られるように、親水性皮膜の固体表面張力極性成分γ
SpmN/m及び固体表面張力水素結合成分γ
ShmN/mが、35≦γ
Sp≦100、かつγ
Sp+γ
Sh≧60の関係を満足する試料E1〜試料E18のフィン材は、親水性に優れ、かつ高級アルコール系汚染物質の吸着抑制効果に優れている。
【0056】
例えば試料E1〜E4と試料R1、試料R2との比較より、γ
Spを100mN/m以下にすることにより、親水性皮膜に高級アルコール系汚染物質が吸着し難くなり、耐汚染性に優れることが確認される。また、例えば試料E12〜E14と、試料R3、試料R4との比較より、γ
Spを35mN/m以上にし、γ
Spとγ
Shとの和を60mN/m以上にすることにより、親水性皮膜の水濡れ性が良くなり、親水性に優れることが確認される。試料E3と、試料R5、R6との比較より、シリコーン系化合物を用いると、γ
Spが100を超えて高くなり、耐汚染性が不十分になる。
【0057】
以上のように、表面張力極性成分γ
Sp(mN/m)及び固体表面張力水素結合成分γ
Sh(mN/m)が、35≦γ
Sp≦100、γ
Sp+γ
Sh≧60の関係を満たす親水性皮膜を有するフィン材(試料E1〜E18)は、親水性に優れ、ヘキサデカノール等の高級アルコール系汚染物質の吸着を抑制できることがわかる。
【0058】
(実施例2)
本例は、実施例1のフィン材からなるフィンを備えた熱交換器の例である。
図4に示すごとく、熱交換器7は、クロスフィンチューブ型であり、フィン材1からなる多数の板状のフィン8と、これらを貫通する伝熱用の金属管9とを有する。各フィン8は、所定の間隔を明けて平行に配置されている。フィン8の幅は例えば25.4mm、高さは例えば290mm、フィン8の積層ピッチは例えば1.4mm、熱交換器1の全体の幅は例えば300mmである。フィン8の高さ方向が基板の圧延平行方向である。フィン8の幅における金属管7を2列とし、フィン8の高さにおける金属管9の段数を14段とした。なお、
図5においては、図面作成の便宜のため、金属管9の数を省略している。また、金属管9は、内面にらせん溝を有する銅管である。金属管の寸法は、外径:7.0mm、底肉厚:0.45mm、フィン高さ:0.20mm、フィン頂角:15.0°、らせん角:10.0°である。
【0059】
熱交換器7は、次のようにし作製した。まず、フィン材1からなるフィン8に、金属管8を挿通して固定するための高さ1〜4mmのフィンカラー部を有する組み付け孔(図示略)をプレス加工により形成した。フィン8を積層した後に、組み付け孔の内部に、別途作製した金属管7を挿通させた。金属管9としては、転造加工等によって内面に溝加工を施すと共に、定尺切断・ヘアピン曲げ加工を施した銅管を用いた。次に、金属管9の一端から拡管プラグを挿入し、金属管9の外径を広げることにより、金属管9をフィン8に固着させた。拡管プラグを抜いた後、Uベント管を金属管9にろう付け接合することにより、熱交換器7を得た。
【0060】
フィン材1として、実施例1における試料E1〜E18を用いることにより、熱交換器7は、フィン8が親水性に優れ、さらに高級アルコール系汚染物質の吸着を抑制できる。よって、熱交換器8は、水飛び現象を防止することができる。また、熱交換器8においては、フィン8間に結露した水滴がブリッジすることを防止できるため、通風抵抗の増加を防止することができる。