特開2017-155973(P2017-155973A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社UACJの特許一覧

<>
  • 特開2017155973-熱交換器用フィン材及び熱交換器 図000010
  • 特開2017155973-熱交換器用フィン材及び熱交換器 図000011
  • 特開2017155973-熱交換器用フィン材及び熱交換器 図000012
  • 特開2017155973-熱交換器用フィン材及び熱交換器 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-155973(P2017-155973A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】熱交換器用フィン材及び熱交換器
(51)【国際特許分類】
   F28F 13/18 20060101AFI20170810BHJP
   F28F 1/32 20060101ALI20170810BHJP
   F28F 21/06 20060101ALI20170810BHJP
   C09D 7/12 20060101ALI20170810BHJP
   C09D 5/14 20060101ALI20170810BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20170810BHJP
【FI】
   F28F13/18 B
   F28F1/32 H
   F28F21/06
   C09D7/12
   C09D5/14
   C09D201/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-37713(P2016-37713)
(22)【出願日】2016年2月29日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】世古 佳也
(72)【発明者】
【氏名】笹崎 幹根
(72)【発明者】
【氏名】上田 薫
【テーマコード(参考)】
4J038
【Fターム(参考)】
4J038BA022
4J038CE022
4J038CG002
4J038CG062
4J038CG092
4J038DA162
4J038DB002
4J038DD002
4J038DG262
4J038DL032
4J038KA09
4J038MA10
4J038NA03
4J038NA05
4J038PA19
4J038PC02
(57)【要約】
【課題】親水性に優れると共に、高級アルコール系汚染物質の吸着を抑制することができる熱交換器用フィン材、及びこれを用いた熱交換器を提供すること。
【解決手段】アルミニウムからなる基板2と、その上に形成された1層又は2層以上の皮膜からなる塗膜3とを有するフィン材1及びこれを用いた熱交換器である。塗膜3は最表面に親水性皮膜31を有する。 下記の式(I)で表されるFowkes拡張式より算出される親水性皮膜31の固体表面張力極性成分γSpmN/m及び固体表面張力水素結合成分γShmN/mが、35≦γSp≦100、かつγSp+γSh≧60の関係を満足する。
γL(1+cosθL)=2(γsd×γLd1/2+2(γsp×γLp1/2+2(γsh×γLh1/2・・・(I)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムからなる基板と、
該基板上に形成された1層又は2層以上の皮膜からなる塗膜と、を有し
該塗膜は、最表面に親水性皮膜を有し、
下記式(I)で表されるFowkes拡張式より算出される上記親水性皮膜の固体表面張力極性成分γSpmN/m及び固体表面張力水素結合成分γShmN/mが、35≦γSp≦100、かつγSp+γSh≧60の関係を満足する、熱交換器用フィン材。
γL(1+cosθL)=2(γsd×γLd1/2+2(γsp×γLp1/2+2(γsh×γLh1/2・・・(I)
γL:接触媒体の表面張力
γLd:接触媒体の表面張力分散成分
γLp:接触媒体の表面張力極性成分
γLh:接触媒体の表面張力水素結合成分
γsd:固体表面張力分散成分
γsp:固体表面張力極性成分
γsh:固体表面張力水素結合成分
【請求項2】
上記親水性皮膜は、水接触角が30°以下である、請求項1に記載の熱交換器用フィン材。
【請求項3】
上記親水性皮膜は、ビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、及びシラノール系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種類の親水性樹脂(A)を固形分質量比率で70%以上含有し、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物を固形分質量比率で0.6〜5%含有する、請求項1又は2に記載の熱交換器用フィン材。
【請求項4】
上記親水性皮膜が、さらにポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、及びポリエチレングリコール系樹脂からなる群より得られる少なくとも1種を含有する、請求項3に記載の熱交換器用フィン材。
【請求項5】
上記親水性皮膜がブロック化イソシアネート化合物及びメラミン樹脂の少なくとも一方からなる架橋剤を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の熱交換器用フィン材。
【請求項6】
上記親水性皮膜が抗菌剤及び防カビ剤の少なくとも一方を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の熱交換器用フィン材。
【請求項7】
上記塗膜は、上記親水性皮膜と上記基板との間に、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する耐食性皮膜を有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の熱交換器用フィン材。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の熱交換器用フィン材からなるフィンを備えた、熱交換器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器に用いられるフィン材、及びこれを用いた熱交換器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、空調機器用熱交換器は、熱交換効率の向上とコンパクト化が求められ、フィン間隔の短縮により、同一体積あたりの伝熱面積の増大化が図られている。たとえば、冷房運転中の室内機では、金属材料からなるフィンの表面に接触する空気中の水分が露点以下にまで冷やされると、結露水としてフィンの表面に付着する。ここで、金属材料の表面は一般には親水性に乏しいため、この結露水はフィン表面に半円形あるいはフィン間にブリッジ状となり滞留する。これにより、通風抵抗、すなわちフィン間を通過する気流の抵抗値が増加し、その結果、熱交換効率の低下を招いてしまう。そのため、フィン表面には結露水を迅速に排水する表面処理が求められる。
【0003】
この解決法として、フィン表面に親水性皮膜を形成し、結露水を厚みが均一かつ薄い水膜にすることで、排水性を向上させ、結露水による通風抵抗の増加を抑制し、熱交換性能を維持する手法が取り入れられる。例えばフィンの表面にクロメート処理を施し、水ガラスやコロイダルシリカなどのシリカを含む無機系皮膜、あるいはセルロース樹脂やアクリル系樹脂などの親水性高分子を含む有機系皮膜を形成する手法が提案されている。
【0004】
一方、最近では、エアコン等の室内機の運転中に、吹き出し口より水滴が飛散する水飛び現象(露飛び現象ともいう)が問題となっている。これは、室内空間中に浮遊している汚染物質がフィン表面に付着し、表面を撥水化するために起こると考えられている。このような撥水化を引き起こす汚染物質の例としては、ヘキサデカノール、オクタデカノール等の高級アルコールが挙げられる。高級アルコールは、機械のナットやボルトの潤滑剤、保湿クリーム等の化粧品にも含まれているため、美容室や女性従業員の多いオフィスなどで水飛び現象が多く発生していると言われている。このような水飛び現象を防止するため、高級アルコール系の汚染物質の付着抑制効果を有するアルミニウムフィン材が開発されている(特許文献1及び2参照)。
【0005】
例えば特許文献1のアルミニウムフィン材では、ポリビニルアルコール系樹脂を所定量以上含有する親水性塗膜により、高級アルコール系汚染物質の付着を抑え、耐露飛び性を実現している。また、特許文献2のアルミニウムフィン材では、ポリアクリル酸などの親水性樹脂とシリコーン系化合物とを含有する親水性皮膜により、耐露飛び性を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−94873号公報
【特許文献2】特開2013−210144号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1のフィン材は、高級アルコール系汚染物質の付着を抑制できるものの、更なる改良が望まれている。特許文献1においては、親水性塗膜に極性の低いポリビニルアルコール系樹脂が用いられ、さらにそのケン化度が0.9以上であるため、親水性に更なる改良の余地がある。また、特許文献2のフィン材において、ポリアクリル酸などの極性の高い親水性樹脂と、無極性のシリコーン系化合物とを含有する親水性皮膜は、固体表面張力が著しく低下する。そのため、汚染物質の付着抑制と親水性との両立が困難である。したがって、従来のフィン材を熱交換器のフィンに用いると、水飛び現象が起こるおそれがある。また、フィン間に結露した水滴がブリッジし、通風抵抗が増加してしまうおそれがある。
【0008】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、親水性に優れると共に、高級アルコール系汚染物質の吸着を抑制することができる熱交換器用フィン材、及びこれを用いた熱交換器を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様は、アルミニウムからなる基板と、
該基板上に形成された1層又は2層以上の皮膜からなる塗膜と、を有し
該塗膜は、最表面に親水性皮膜を有し、
下記の式(I)で表されるFowkes拡張式より算出される上記親水性皮膜の固体表面張力極性成分γSpmN/m及び固体表面張力水素結合成分γShmN/mが、35≦γSp≦100、かつγSp+γSh≧60の関係を満足する、熱交換器用フィン材にある。
γL(1+cosθL)=2(γsd×γLd1/2+2(γsp×γLp1/2+2(γsh×γLh1/2・・・(I)
γL:接触媒体の表面張力
γLd:接触媒体の表面張力分散成分
γLp:接触媒体の表面張力極性成分
γLh:接触媒体の表面張力水素結合成分
γsd:固体表面張力分散成分
γsp:固体表面張力極性成分
γsh:固体表面張力水素結合成分
【0010】
本発明の他の態様は、上記フィン材からなるフィンを備えた、熱交換器にある。
【発明の効果】
【0011】
上記フィン材は、最表面に形成された親水性皮膜の固体表面張力極性成分γSp[単位:mN/m]及び固体表面張力水素結合成分γSh[単位:mN/m]が、35≦γSp≦100、かつγSp+γSh≧60の関係を満足する。すなわち、親水性皮膜の成分γSpを選択的に所定値以下に低下させることにより、親水性皮膜表面の極性度を低下させている。そのため、高級アルコールの吸着を十分に抑制させることが可能となる。さらに、親水性皮膜表面に高級アルコールが付着しても、皮膜と高級アルコールとの結合間に結露水が入りやすく、結露水により高級アルコールが洗い流されやすい。そのため、皮膜表面の撥水化を防ぐことができる。さらに、成分γSpと成分γShとの和、及び成分γSpが上記所定値以上に調整されているため、高い親水性が得られる。
【0012】
このように、上記フィン材は、高級アルコールの吸着抑制効果と優れた親水性とを兼ね備える。したがって、このようなフィン材を備えた熱交換器は、水飛び現象を防止することができる。さらに、親水性皮膜上における結露水の水膜の厚みが小さくなり、かつ均一になるため、付着した高級アルコールの除去性を高めることができると共に、結露水のフィン間のブリッジ形成を十分に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例における基板と親水性皮膜とを有するフィン材の断面図。
図2】実施例1における基板と耐食性皮膜と親水性皮膜とを有するフィン材の断面図。
図3】実施例1における耐汚染性の評価装置の構成を示す概略図。
図4】実施例2における熱交換器の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
フィン材及びこれを用いた熱交換器の実施形態について説明する。
フィン材は、アルミニウムからなる基板を有する。本明細書において、「アルミニウム」は、アルミニウムを主体とする金属及び合金の総称であり、純アルミニウム及びアルミニウム合金を含む概念である。
【0015】
基板上に形成された塗膜は、1層又は2層以上の皮膜を有する。同一種類の塗料を一回塗布して形成した塗膜は1層であるが、さらに成分組成が同一の塗料を複数回重ね塗りして形成した塗膜も1層である。塗膜は最表面に親水性皮膜を有する。
【0016】
親水性皮膜においては、固体表面張力の極性成分γSpmN/mと水素結合成分γShmN/mとが、35≦γSp≦100かつγSp+γSh≧60の関係を満足する。これらの関係を満足することにより、親水性皮膜の極性の上昇を抑制しつつ、親水性を高めることができる。その結果、親水性皮膜は、高級アルコールの吸着抑制効果と親水性とを高いレベルで両立させることが可能になる。吸着抑制効果をより向上させるという観点からは、γSp≦90が好ましく、γSp≦85がより好ましい。親水性をより向上させるという観点からは、γSp≧45が好ましく、γSp≧50がより好ましい。また、γSp+γShについても、親水性をより向上させるという観点から、γSp+γSh≧90が好ましく、γSp+γSh≧100がより好ましい。親水性と吸着抑制効果とをより高いレベルで両立させるという観点からは、さらに、γSpとγShが近い値を取ることが好ましく、γSp−γSh≦50の関係を満足することがより好ましく、γSp−γSh≦30の関係を満足することがさらに好ましい。
【0017】
γSp<35、又はγSp+γSh<60の場合には、親水性が不十分になるおそれがあり、γSp>100の場合には、高級アルコールが吸着し易くなるおそれがある。親水性皮膜のγSp、γSp+γShは、例えば皮膜の組成等を調整することより制御することができる。
【0018】
上記式(I)で表されるFowkes拡張式において、固体表面張力の分散成分γsd、極性成分γsp、水素結合成分γshは、接触媒体の表面張力γL、分散成分γLd、極性成分γLp、水素結合成分γLhの値が既知の媒体である(a)水、(b)エチレングリコール、(c)ジヨードメタンを、親水性皮膜の表面にそれぞれ所定量滴下して、接触角を測定することにより算出できる。各媒体の表面張力の各値(γL、γLd、γLp、γLh)は下記の通りである。これらの単位はいずれもmN/mである。
(a)水:γL/γLd/γLp/γLh=72.8/29.1/1.3/42.4
(b)エチレングリコール:γL/γLd/γLp/γLh=47.7/30.1/0/17.6
(c)ジヨードメタン:γL/γLd/γLp/γLh=50.8/46.8/4.0/0
【0019】
高級アルコールの除去性をより向上させ、フィン間における結露水によるブリッジ形成をより抑制するという観点から、親水性皮膜の水接触角は、30°以下が好ましく、25°以下がより好ましく、15°以下がさらに好ましい。
【0020】
親水性皮膜は、水酸基を有するモノマー由来の構造単位を主成分とする親水性樹脂を含有することができる。このような親水性樹脂としては、例えば下記式(1)で表される構造単位を有するポリビニルアルコール等のビニルアルコール系樹脂、下記式(2)で表される構造単位を有するカルボキシメチルセルロース等のセルロース系樹脂、下記式(3)で表される構造単位を有するシラノール系樹脂が好ましい。なお、式(1)〜(3)におけるnは、入手可能な各樹脂の分子量などに応じて適宜決定される任意の自然数である。また、式(2)におけるR1〜R3は、それぞれ独立にOH又はCH2COOHを表し、式(3)におけるR1は、H又はCH3を表す。
【0021】
【化1】
【0022】
【化2】
【0023】
【化3】
【0024】
親水性皮膜は、ビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂、及びシラノール系樹脂からなる群から選ばれる少なくとも1種類の親水性樹脂(A)を固形分質量比率で70%以上含有し、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物(B)を固形分質量比率で0.6〜5%含有することが好ましい。この場合には、上述の35≦γSp≦100、かつγSp+γSh≧60の関係を満足する親水性皮膜を容易に得ることができる。具体的には、極性成分の低い上述の親水性樹脂(A)の存在比率を上記所定値以上に高くすることにより、固体表面張力の極性成分γSpと水素結合成分γShとの総和の低下を抑えつつ、固体表面張力に占める極性成分γSpの比率を低下させることができる。さらに、パーフルオロアルキル基を有するフッ素系化合物を上記所定範囲内の質量比で加えることにより、極性成分γSpと水素結合成分γShとの総和の低下を抑えつつ、極性成分γSpを選択的に低下させることができる。その結果、上記関係を満足する親水性皮膜を容易に得ることができる。なお、親水性樹脂(A)の固形分質量比率が高い程、極性成分γSpが低くなる傾向にある。
【0025】
ポリビニルアルコールなどのビニルアルコール系樹脂のケン化度は0.9以上が好ましく、カルボキシメチルセルロースなどのセルロース系樹脂のエーテル化度は0.6以上が好ましい。これらの場合には、ビニルアルコール系樹脂、セルロース系樹脂が結露水などに溶け込むことを抑制できる。そのため、親水性皮膜の耐久性をより向上させることができる。
【0026】
親水性皮膜が、さらにポリアクリル酸、ポリアクリル酸塩、及びポリエチレングリコール系樹脂からなる群より得られる少なくとも1種を含有することが好ましい。ポリアクリル酸及びポリアクリル酸塩の少なくとも一方を含有する場合には、親水性をより向上させることができる。ポリエチレングリコール系樹脂を含有する場合には、潤滑性をより向上させることができる。ポリエチレングリコール系樹脂としては、例えばポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド等がある。ポリアクリル酸、およびポリアクリル酸塩は、例えば下記の式(4)で表される構造単位を有し、式(4)中R1は、H、Na、およびNH2を表す。また、ポリエチレングルコール系樹脂は例えば下記の式(5)で表される。なお、式(4)及び(5)におけるnは、入手可能な各樹脂の分子量などに応じて適宜決定される任意の自然数である。
【0027】
【化4】
【0028】
【化5】
【0029】
上記親水性皮膜がブロック化イソシアネート化合物及びメラミン樹脂の少なくとも一方からなる架橋剤を含有することが好ましい。この場合にも、上述の5≦γSp≦100、かつγSp+γSh≧60の関係を満足する親水性皮膜を容易に得ることができる。さらに、この場合には、塗膜の硬化が促進され、耐食性および耐湿性が向上し、アルミニウム板の腐食を抑制する効果が得られる。
【0030】
親水性皮膜の厚みは、適宜調整可能であるが、例えば0.5〜2μmにすることができる。親水性皮膜が抗菌剤及び抗カビ剤の少なくとも一方を含有することが好ましい。この場合には、この場合には、親水性皮膜の抗菌性や防カビ性を向上させることができる。
【0031】
塗膜は、親水性皮膜と基板との間に、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、エステル系樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂を含有する耐食性皮膜を有することが好ましい。この場合には、フィン材の耐食性をより向上させることができる。耐食性皮膜の厚みは、例えば0.3〜5μmの範囲に調整することができる。耐食性皮膜の厚みが小さすぎると、耐食性が十分に確保できなくなる恐れがあり、厚みが大きくなりすぎると、フィン材の伝熱性能が低下するおそれがある。
【0032】
塗膜と基板との間には、化成皮膜から成る下地処理層を設けることができる。この場合には、塗膜と基板との密着性を向上させることができる。さらに、フィン材の耐食性を向上させることができ、水、塩素化合物などの腐食性物質が基板の表面に浸透した際に惹起される皮膜下腐食が抑制され、皮膜割れや皮膜剥離を防止することができる。
【0033】
化成皮膜としては、例えば、リン酸クロメート、クロム酸クロメートなどのクロメート処理、クロム化合物以外のリン酸チタンやリン酸ジルコニウム、リン酸モリブデン、リン酸亜鉛、酸化ジルコニウムなどによるノンクロメート処理などの化学皮膜処理、いわゆる化成処理により得られる皮膜を採用することができる。なお、クロメート処理やノンクロメート処理などの化成処理方法には、反応型および塗布型があるが、いずれの手法でもよい。下地処理層は100mg/m2以下で形成することができる。
【0034】
親水性皮膜の水接触角は、30°以下であることが好ましい。この場合には、フィン材の表面が十分に優れた親水性を示すことができる。また、親水性皮膜の表面における水接触角は、フィン材の製造直後においても、後述の耐汚染性の評価試験のように、高級アルコールを表面に吸着させ、水洗した後においても、上述のごとく30°以下であることが好ましい。より好ましくは25°以下である。
【0035】
フィン材は、例えば以下のようにして熱交換器の製造に用いられる。具体的には、まず、コイル状のフィン材が所定の寸法に切断され、複数の板状のフィンを得る。次いで、プレス機によって、フィンにスリット加工、ルーバー成型、カラー加工を施す。次いで、所定の位置に配置した金属管をフィンに設けた孔に通しながら、複数のフィンを互いに所定の間隔を空けた状態で積層配置する。その後、金属管内に拡管プラグを挿入して金属管の外径を拡大させることにより、金属管とフィンを密着させる。このようにして、熱交換器を得ることができる。熱交換器は、例えば空調機の室内機、室外機に用いることができ、特に室内機に好適である。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
本例は、本発明の実施例にかかるフィン材(試料E1〜試料E18)および比較例にかかるフィン材(試料R1〜試料R6)を作製し、これらの特性を評価する例である。図1に示すごとく、試料E1〜試料E14のフィン材1(試料E1〜試料E14)は、アルミニウムよりなる基板2と、その表面に形成された塗膜3とを有する。塗膜3は、親水性皮膜31からなる。基板2と塗膜3との間には化成皮膜4が形成されている。試料R1〜試料R6の皮膜の積層構成は試料E1〜試料E14と同様である。
【0037】
また、試料E15〜試料E18のフィン材1は、図2に示すごとく、塗膜3として、親水性皮膜31と耐食性皮膜32とを有し、最外層が親水性皮膜31からなる。その他の構成は試料E1〜試料E14と同様である。すなわち、試料E15〜試料E18のフィン材1は、基板2と、基板2上に形成された化成皮膜4と、化成皮膜4上に形成された耐食性皮膜32と、耐食性皮膜32上に形成された親水性皮膜31とを有する。
【0038】
試料E1〜試料E18及び試料R1〜試料R6は、後述の表1及び表2に示すごとく親水性皮膜31の構成成分が互いに異なり、親水性皮膜31の固体表面張力極性成分γSp及び固体表面張力水素結合成分γShが互いに異なる。
【0039】
以下、フィン材(試料E1〜試料E14)の製造方法について説明する。まず、基板2として、JIS A 1050−H26、板厚0.1mmのアルミニウム板を準備した。この基板2に対して化成処理を行うことにより、基板2の表面にリン酸クロメートよりなる化成皮膜4を形成した。
【0040】
次に、化成皮膜4上に、バーコーターを用いて所定組成(表1参照)の塗料を塗布し、温度225℃で10秒間加熱することにより、膜厚1μmの親水性皮膜31よりなる塗膜3を形成した。このようにして、図1に示すごとくフィン材1を得た。各試料E1〜試料E14は、親水性皮膜を形成するための塗料の組成が異なる点を除いては、上記と同様の方法により製造される。試料R1〜試料R6についても同様である。
【0041】
また、試料E15〜E18のフィン材は、次のようにして製造した。まず、試料E1〜試料E14と同様にして、基板2上に化成皮膜4を形成した。次に、化成皮膜4上に所定の樹脂成分を含有する塗料(表1参照)を塗布し、温度225℃で10秒間加熱することで、膜厚1μmの耐食性皮膜32を形成した。空冷後、バーコーターを用いて、耐食性皮膜32の上に所定組成(表1参照)の塗料を塗布し、温度225℃で10秒間加熱することにより、膜厚1μmの親水性皮膜31を形成した。このようにして、図2に示すごとくフィン材1を得た。
【0042】
なお、表1おいて、親水性皮膜の構成成分および耐食性皮膜の樹脂の種類は、略号で示されており、各略号の意味は下記の通りである。
(1)親水性樹脂A
A1:ポリビニルアルコール(デンカ(株)製のK−50)
A2:シラノール樹脂(三菱化学(株)製のMS51)
A3:カルボキシメチルセルロース(第一工業製薬(株)製のセロゲン7A)
【0043】
(2)化合物B
B1:フッ素系化合物;パーフルオロアルキルアクリレート((株)フロロテクノロジー製のF−6130)
B2:シリコーン系化合物(信越化学製のx−52−2162)
【0044】
(3)樹脂C
C1:ポリアクリル酸(三井化学(株)製のSY31−5A)
C2:ポリエチレングリコール(三洋化成工業(株)製のPEG200000)
C3:ポリエチレンオキシド(住友精化(株)製のPEO−27P)
【0045】
(4)添加剤D
D1:架橋剤;メラミン樹脂(三井化学(株)製のサイメル350)
D2:抗菌剤;ジンクピリジオン(日本曹達(株)製のDP−2479)
【0046】
(5)耐食性樹脂P
P1:アクリル系樹脂(東亞合成(株)製のジュリマー)
P2:アクリル変性エポキシ系樹脂(荒川工業(株)製のモデピクス−304)
P3:ウレタン系樹脂((株)ADEKA製のアデカボンタイターHUX−370)
P4:エステル系樹脂(日本合成化学工業(株)製の水分散型ポリエスターWR−960)
【0047】
次に、各試料のフィン材の表面張力を測定した。具体的には、まず、各フィン材を50mm×100mmに切断して供試板を作製した。次いで供試板の親水性皮膜上に、水、エチレングリコール、およびジヨードメタンをそれぞれ1μl滴下し、滴下15秒後の接触角をθ/2法により測定した。測定には、協和界面科学(株)製の自動接触角計DM−701を用いた。接触角の測定値に基づいて、以下の式(I)で表されるFowkes拡張式により表面張力を求めた。その結果を表1に示す。
γL(1+cosθL)=2(γsd×γLd1/2+2(γsp×γLp1/2+2(γsh×γLh1/2・・・(I)
γL:接触媒体の表面張力
γLd:接触媒体の表面張力分散成分
γLp:接触媒体の表面張力極性成分
γLh:接触媒体の表面張力水素結合成分
γsd:固体表面張力分散成分
γsp:固体表面張力極性成分
γsh:固体表面張力水素結合成分
【0048】
【表1】
【0049】
次に、以下の手順にて各試料のフィン材の耐汚染性と親水性の評価を実施した。その結果を表2に示す。
【0050】
<耐汚染性>
耐汚染性の評価は、各試料の親水性皮膜に吸着した高級アルコール(具体的にはヘキサデカノール)の占有率を測定することにより行った。具体的には、まず、各試料を50mm×100mmに切断して供試板を作製した。次いで、温度25℃、流速5L/時間の流水中に供試板を1時間浸漬した後、十分に乾燥させた。
【0051】
次に、図3に示すごとく、容積5Lの蓋付きの密閉瓶60を準備し、ヘキサデカノール3gを入れたアルミカップ61を密閉瓶60の底に配置した。さらに密閉瓶上部に、その直径方向にのびる針金62を張り、さらにこの針金62から密閉瓶の底部方向に針金63を垂らした。そして、針金63の端部に、各供試板1を取り付けた。次に、温度80℃に加熱したオーブン内に密閉瓶60を入れて16時間加熱することにより、ヘキサデカノールを供試板の表面に付着させた(操作a)。次に、密閉瓶60から取り出した供試板1を、温度25℃、流速5L/時間の流水中に8時間浸漬させた後、十分に乾燥させた(操作b)。また、参照試験として、80℃のオーブンで各供試板を16時間加熱した(操作c)。操作a、操作b、操作cの後の各供試板について、親水性皮膜の表面における水接触角をそれぞれ測定した。水接触角の測定方法は、上述の表面張力の測定時における水の接触角と同様である。
【0052】
次に、下記の式(II)、(III)で表されるCassieの式よりヘキサデカノールの付着面積の占有率を算出した。なお、式(II)においては、操作a後の水接触角がθ汚染、操作c後の水接触角がθ加熱、ヘキサデカノールの固体表面接触角がθHD(θHD=65°)であり、x汚染が操作a後、すなわち、ヘキサデカノールによる汚染後の親水性皮膜表面におけるヘキサデカノールの占有比である。また、式(III)においては、操作b後の水接触角がθ水洗、操作c後の水接触角がθ加熱、ヘキサデカノールの固体表面接触角がθHD(θHD=65°)であり、x水洗が操作b後、すなわち、水洗後の親水性皮膜表面におけるヘキサデカノールの占有比である。その結果を表2に示す。なお、表2においては、占有比を百分率に換算した値、すなわち占有率(単位:%)を示してある。
cosθ汚染=xcosθHD+(1−x汚染)cosθ加熱 ・・・(II)
cosθ水洗=xcosθHD+(1−x水洗)cosθ加熱 ・・・(III)
【0053】
<親水性>
協和界面科学(株)製の自動接触角計DM−701を用いて、θ/2法により水接触角を測定した。具体的には、各フィン材を50mm×100mmに切断して供試板を作製した。次いで、各供試板の親水性皮膜上に純水2μlを滴下し、滴下後30秒後の水の接触角を測定した。これを初期の水接触角とする(表2参照)。また、耐汚染性の評価試験における操作b後の供試板の親水性皮膜の表面の水接触角を測定した。これを汚染試験後の水接触角とする(表2参照)。
【0054】
【表2】
【0055】
表1及び表2より知られるように、親水性皮膜の固体表面張力極性成分γSpmN/m及び固体表面張力水素結合成分γShmN/mが、35≦γSp≦100、かつγSp+γSh≧60の関係を満足する試料E1〜試料E18のフィン材は、親水性に優れ、かつ高級アルコール系汚染物質の吸着抑制効果に優れている。
【0056】
例えば試料E1〜E4と試料R1、試料R2との比較より、γSpを100mN/m以下にすることにより、親水性皮膜に高級アルコール系汚染物質が吸着し難くなり、耐汚染性に優れることが確認される。また、例えば試料E12〜E14と、試料R3、試料R4との比較より、γSpを35mN/m以上にし、γSpとγShとの和を60mN/m以上にすることにより、親水性皮膜の水濡れ性が良くなり、親水性に優れることが確認される。試料E3と、試料R5、R6との比較より、シリコーン系化合物を用いると、γSpが100を超えて高くなり、耐汚染性が不十分になる。
【0057】
以上のように、表面張力極性成分γSp(mN/m)及び固体表面張力水素結合成分γSh(mN/m)が、35≦γSp≦100、γSpSh≧60の関係を満たす親水性皮膜を有するフィン材(試料E1〜E18)は、親水性に優れ、ヘキサデカノール等の高級アルコール系汚染物質の吸着を抑制できることがわかる。
【0058】
(実施例2)
本例は、実施例1のフィン材からなるフィンを備えた熱交換器の例である。図4に示すごとく、熱交換器7は、クロスフィンチューブ型であり、フィン材1からなる多数の板状のフィン8と、これらを貫通する伝熱用の金属管9とを有する。各フィン8は、所定の間隔を明けて平行に配置されている。フィン8の幅は例えば25.4mm、高さは例えば290mm、フィン8の積層ピッチは例えば1.4mm、熱交換器1の全体の幅は例えば300mmである。フィン8の高さ方向が基板の圧延平行方向である。フィン8の幅における金属管7を2列とし、フィン8の高さにおける金属管9の段数を14段とした。なお、図5においては、図面作成の便宜のため、金属管9の数を省略している。また、金属管9は、内面にらせん溝を有する銅管である。金属管の寸法は、外径:7.0mm、底肉厚:0.45mm、フィン高さ:0.20mm、フィン頂角:15.0°、らせん角:10.0°である。
【0059】
熱交換器7は、次のようにし作製した。まず、フィン材1からなるフィン8に、金属管8を挿通して固定するための高さ1〜4mmのフィンカラー部を有する組み付け孔(図示略)をプレス加工により形成した。フィン8を積層した後に、組み付け孔の内部に、別途作製した金属管7を挿通させた。金属管9としては、転造加工等によって内面に溝加工を施すと共に、定尺切断・ヘアピン曲げ加工を施した銅管を用いた。次に、金属管9の一端から拡管プラグを挿入し、金属管9の外径を広げることにより、金属管9をフィン8に固着させた。拡管プラグを抜いた後、Uベント管を金属管9にろう付け接合することにより、熱交換器7を得た。
【0060】
フィン材1として、実施例1における試料E1〜E18を用いることにより、熱交換器7は、フィン8が親水性に優れ、さらに高級アルコール系汚染物質の吸着を抑制できる。よって、熱交換器8は、水飛び現象を防止することができる。また、熱交換器8においては、フィン8間に結露した水滴がブリッジすることを防止できるため、通風抵抗の増加を防止することができる。
【符号の説明】
【0061】
1 フィン材
2 基板
3 塗膜
31 親水性皮膜
7 熱交換器
8 フィン
図1
図2
図3
図4