(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-15619(P2017-15619A)
(43)【公開日】2017年1月19日
(54)【発明の名称】ヤング率測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 29/07 20060101AFI20161222BHJP
G01N 3/00 20060101ALI20161222BHJP
【FI】
G01N29/07
G01N3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-134245(P2015-134245)
(22)【出願日】2015年7月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000222842
【氏名又は名称】東洋炭素株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】特許業務法人 宮▲崎▼・目次特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 和也
(72)【発明者】
【氏名】中村 文滋
(72)【発明者】
【氏名】吉本 修
【テーマコード(参考)】
2G047
2G061
【Fターム(参考)】
2G047AA09
2G047BA01
2G047BA04
2G047BC02
2G047BC20
2G047CB01
2G047CB02
2G061BA06
2G061CA05
2G061CA20
2G061EB02
2G061EB08
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】測定対象のポアソン比を固定して扱うことなく、より正確なヤング率を測定することができる方法を提供する。
【解決手段】測定対象のヤング率を測定する方法であって、(A)共振法により測定対象のヤング率と剛性率との関係を求める工程と、(B)測定対象中を超音波が伝播する速度を測定することにより、測定対象のヤング率と剛性率との関係を求める工程と、(C)上記工程(A)で求めたヤング率と剛性率との関係、及び上記工程(B)で求めたヤング率と剛性率との関係から、ヤング率を算出する工程とを備えることを特徴としている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定対象のヤング率を測定する方法であって、
(A)共振法により測定対象のヤング率と剛性率との関係を求める工程と、
(B)測定対象中を超音波が伝播する速度を測定することにより、測定対象のヤング率と剛性率との関係を求める工程と、
(C)前記工程(A)で求めたヤング率と剛性率との関係、及び前記工程(B)で求めたヤング率と剛性率との関係から、ヤング率を算出する工程とを備える、ヤング率測定方法。
【請求項2】
前記工程(B)が、
超音波の縦波音速を測定する工程と、
測定対象のかさ密度を測定する工程とを有し、
測定した縦波音速及びかさ密度の値から、以下の式1及び式2を用いてヤング率と剛性率との関係を求める、請求項1に記載のヤング率測定方法。
【数1】
【数2】
(ここで、V:縦波音速(m/s)、G:剛性率(Pa)、ρ:かさ密度(kg/m
3)、E:ヤング率(Pa)、K:体積弾性率(Pa)である)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測定対象のポアソン比を固定して扱うことなく、ヤング率を測定する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
超音波を用いて、黒鉛等の炭素材料のヤング率を測定する方法として、下記の非特許文献1に記載された方法が知られている。この方法では、ポアソン比を0.2の一定値とし計算して求めている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ASTM C769−09
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の非特許文献1に記載された方法では、ポアソン比を0.2の一定値として求めているので、正確なヤング率を算出することができないという問題があった。
【0005】
本発明の目的は、測定対象のポアソン比を固定して扱うことなく、より正確なヤング率を測定することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、測定対象のヤング率を測定する方法であって、(A)共振法により測定対象のヤング率と剛性率との関係を求める工程と、(B)測定対象中を超音波が伝播する速度を測定することにより、測定対象のヤング率と剛性率との関係を求める工程と、(C)上記工程(A)で求めたヤング率と剛性率との関係、及び上記工程(B)で求めたヤング率と剛性率との関係から、ヤング率を算出する工程とを備えることを特徴としている。
【0007】
本発明では、上記工程(B)が、超音波の縦波音速を測定する工程と、測定対象のかさ密度を測定する工程とを有し、測定した縦波音速及びかさ密度の値から、以下の式1及び式2を用いてヤング率と剛性率との関係を求めることが好ましい。
【0008】
【数1】
【0009】
【数2】
【0010】
(ここで、V:縦波音速(m/s)、G:剛性率(Pa)、ρ:かさ密度(kg/m
3)、E:ヤング率(Pa)、K:体積弾性率(Pa)である)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、測定対象のポアソン比を固定して扱うことなく、より正確なヤング率を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】共振法により得られたヤング率及び剛性率の相関関係を示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態(本手法)及びASTM C769−09に基づく手法により求めたヤング率の比較を示す図である。
【
図3】本発明の他の実施形態において、縦波音速及び横波音速を測定する装置の一例を示す模式的断面図である。
【
図4】
図3に示す装置において、送信と受信の間の経過時間を示す図である。
【
図5】本発明の他の実施形態において、縦波音速及び横波音速を測定する装置の他の例を示す模式的断面図である。
【
図6】
図5に示す装置において、送信と受信の間の経過時間を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、好ましい実施形態について説明する。但し、以下の実施形態は単なる例示であり、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。また、各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照する場合がある。
【0014】
(共振法による測定)
測定に用いる黒鉛材料としては、ピッチを含浸させていないピッチ未含浸品と、ピッチを含浸させたピッチ含浸品とを用意した。ピッチ未含浸品及びピッチ含浸品のいずれも、等方性黒鉛材を用いた。
【0015】
また、測定に用いる黒鉛材料の形状は、10mm×1mm×35mm(表面仕上げは、Ra3.0μm上限及びRz3.0μm上限)とした。
【0016】
ピッチ未含浸品及びピッチ含浸品について、共振法による弾性率測定装置を用い、ヤング率及び剛性率を測定した。測定装置としては、日本テクノプラス社製のJE−RT及びJG−RTが例示される。
【0017】
図1に、ピッチ未含浸品及びピッチ含浸品のヤング率と剛性率の相関関係を示す。
図1に示すように、ヤング率(E)と剛性率(G)は、以下の関係式で表すことができる。
【0018】
剛性率(G)=0.3958×ヤング率(E)+0.287
上記関係式の決定定数R
2は、0.9279である。
【0019】
(かさ密度の測定)
測定に用いる黒鉛材料の形状を、20mm×20mm×(60mm、90mm、または120mm)とする以外は、上記と同様のピッチ未含浸品及びピッチ含浸品を測定試料として用いて、かさ密度を測定した。具体的には、マイクロメーター、ノギス及び天秤を用いて、かさ密度を測定した。
【0020】
(縦波音速の測定)
かさ密度を測定した後の試料を用いて、縦波音速を測定した。具体的には、試料の表面にカップリング剤を塗布し、超音波測定器から探触子(PZT)を通して、バースト波を導入した。得られた反射エコーから縦波音速を求めた。超音波測定器としては、日本テクノプラス社製のEM1112を用いた。
【0021】
(ヤング率の算出)
上記のようにして測定した縦波音速及びかさ密度の値から、上記の式1及び式2を用いてヤング率と剛性率との関係を求めた。このヤング率と剛性率との関係と、上記の剛性率(G)=0.3958×ヤング率(E)+0.287の関係式から、各試料のヤング率を算出した。また、これにして算出したヤング率と剛性率の値から、下記の式3を用いて、各試料のポアソン比を算出した。
【0022】
なお、上記の式1は、「波動 音波・光波」 小野▲日/立▼郎 森北出版株式会社の92ページの7.27式に基づき、上記の式2は、同書の156ページのA.4式及び157ページのA.10式に基づき、下記の式3は、同書の157ページのA.10式に基づいている。
【0023】
比較として、上記各試料について、ASTM C769−09に準拠して、ヤング率を求めた。
【0024】
表1に、ピッチ未含浸品の本手法により求められたヤング率(E)及びポアソン比の各値、並びに比較のASTM法より求められたヤング率(E)の値を示す。また、表2に、ピッチ含浸品の本手法により求められたヤング率(E)及びポアソン比の各値、並びに比較のASTM法より求められたヤング率(E)の値を示す。
【0027】
図2に、ピッチ未含浸品及びピッチ含浸品についての本手法により測定されたヤング率とASTM法より求められたヤング率との関係を示す。
【0028】
表1及び表2から、ピッチ含浸品のポアソン比に比べ、ピッチ未含浸品のポアソン比の方が、ASTM法において一定の値にされているポアソン比=0.2からの乖離が大きくなっている。このため、
図2から明らかなように、ピッチ含浸品のヤング率の測定値に比べ、ピッチ未含浸品のヤング率の測定値の方が、ASTM法によるヤング率の測定値と大きく異なっている。これは、本手法において、測定対象のポアソン比を固定して扱っていないので、より正確なヤング率を測定できているからであると考えられる。
【0029】
本発明の他の実施形態では、上記工程(B)が、超音波の縦波音速及び横波音速を測定する工程であり、測定した縦波音速及び横波音速の値から、以下の式3及び式4を用いてヤング率と剛性率との関係を求める。
【0032】
(ここで、ν:ポアソン比、V
l:縦波音速(m/s)、V
t:横波音速(m/s)、G:剛性率(Pa)、E:ヤング率(Pa)である)
【0033】
図3は、本発明の他の実施形態において、縦波音速及び横波音速を測定する装置の一例を示す模式的断面図である。
図4は、
図3に示す装置において、送信と受信の間の経過時間を示す図である。
【0034】
図3に示すように、長さLを有する試料1の長さ方向の一方面1aの上に、縦波用振動子11及び横波用振動子12を配置する。縦波用振動子11及び横波用振動子12で発信した信号、例えば単発パルス信号あるいは単発パルスのなかに複数の波を含むバースト波の信号は、長さ方向の他方面1bで反射され、そのエコーを縦波用振動子11及び横波用振動子12で受信する。
図4に示すように、送信Aから受信Bまでの時間をtとすると、音速は2L/tとなる。縦波音速と横波音速は、同時に測定してもよいし、順次測定してもよい。
【0035】
図5は、本発明の他の実施形態において、縦波音速及び横波音速を測定する装置の他の例を示す模式的断面図である。
図6は、
図5に示す装置において、送信と受信の間の経過時間を示す図である。
【0036】
図5に示すように、長さLを有する試料1の長さ方向の一方面1aの上に、縦波用振動子21及び横波用振動子22を配置する。また、試料1の長さ方向の他方面1bの上に、縦波用受信子23及び横波用受信子24を配置する。縦波用振動子21及び横波用振動子22で発信した信号、例えば単発パルス信号あるいは単発パルスのなかに複数の波を含むバースト波の信号は、長さ方向の他方面1bに配置された縦波用受信子23及び横波用受信子24でそれぞれ受信される。
図6に示すように、送信Aから受信Bまでの時間をtとすると、音速はL/tとなる。縦波音速と横波音速は、同時に測定してもよいし、順次測定してもよい。
【0037】
以上のようにして測定された縦波音速と横波音速の各値から、上記の式4を用いて、ポアソン比νを算出することができる。なお、上記の式4は、JIS R1602−1995の5.5.4に記載された式に基づくものである。
【0038】
以上のようにして算出されたポアソン比νと、共振法による測定で得られた関係式とを、上記の式3に代入することにより、ヤング率を算出することができる。
【0039】
本実施形態においても、測定対象のポアソン比を固定して扱っていないので、より正確なヤング率を測定できる。
【0040】
本発明の測定対象は、黒鉛などの炭素材料に限定されるものではなく、セラミックス等のその他の材料にも本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1…試料
1a…一方面
1b…他方面
11…縦波用振動子
12…横波用振動子
21…縦波用振動子
22…横波用振動子
23…縦波用受信子
24…横波用受信子
A…発信
B…受信