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特開2017-156265零点設定方法、評価装置およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-156265(P2017-156265A)
(43)【公開日】2017年9月7日
(54)【発明の名称】零点設定方法、評価装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01L 3/10 20060101AFI20170810BHJP
【FI】
   G01L3/10 301M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-41071(P2016-41071)
(22)【出願日】2016年3月3日
(71)【出願人】
【識別番号】000002059
【氏名又は名称】シンフォニアテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142022
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一晃
(72)【発明者】
【氏名】宗行 正
(57)【要約】
【課題】トルク計によって検出されるトルク値の零点設定を適切に行うことができる構成を得る。
【解決手段】評価装置10は、トルク検出部32、回転制御部34、零点設定部36、平均値処理部38および角度計算部40を備える。トルク検出部32は、トルク計20から送信されてきた検出信号に基づいて、トルク伝達軸20aに作用するトルク値を検出する。回転制御部34は、予備停止処理、予備回転処理、第1基準停止処理、第1基準回転処理、第2基準停止処理、第2基準回転処理および本停止処理を行うことによって、トルク伝達軸20aを停止および回転させる。零点設定部36は、予備零点処理、第1基準零点処理、第2基準零点処理および本零点処理を行うことによって、トルク検出部32によって検出されるトルク値を零に設定する。零点設定部36が本零点処理を行うことによって、トルク検出部32の零点設定が完了する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トルク伝達軸を有するトルク計の検出信号に基づいてトルク検出部によって検出されるトルク値の零点設定を行う零点設定方法であって、
(i)前記トルク伝達軸の回転位置が下記式(1)によって定まるn個(nは3以上の自然数)の予備零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定するn回の予備零点処理と、
(ii)前記予備零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を予備平均値として求める予備平均処理と、
(iii)前記予備平均値に基づいて、2つの第1基準零点角度を決定する第1基準零点角度決定処理と、
(iv)前記トルク伝達軸の回転位置が前記2つの第1基準零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する2回の第1基準零点処理と、
(v)前記第1基準零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を第1基準平均値として求める第1基準平均処理と、
(vi)前記第1基準平均値に基づいて、2つの第2基準零点角度を決定する第2基準零点角度決定処理と、
(vii)前記トルク伝達軸の回転位置が前記2つの第2基準零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する2回の第2基準零点処置と、
(viii)前記第2基準零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を第2基準平均値として求める第2基準平均処理と、
(ix)前記第2基準平均値に基づいて、本零点角度を決定する本零点角度決定処理と、
(x)前記トルク伝達軸の回転位置が前記本零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する本零点処理と、
を備え、
前記(iii)の第1基準零点角度決定処理は、順に実行される下記の(a)〜(c)の処理を含み、
前記(vi)の第2基準零点角度決定処理は、順に実行される下記の(d)および(e)の処理を含み、
前記(ix)の本零点角度決定処理は、順に実行される下記の(f)および(g)の処理を含む、零点設定方法。
θx−1=θ+(x−1)×(360/n)° ・・・(1)
上記式(1)において、θx−1は予備零点角度であり、θは、前記トルク伝達軸の任意の回転角度であり、xは係数(x=1、2、・・・、n)である。
(a)前記予備零点処理ごとに求められた前記予備平均値のうちから下記式(2)および(3)を満たす予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)、または下記式(4)および(5)を満たす予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)を選択する処理。
Tr(θ)<Tr ・・・(2)
Tr(θK+1)≧Tr ・・・(3)
Tr(θ)>Tr ・・・(4)
Tr(θK+1)≦Tr ・・・(5)
上記式(2)〜(5)において、Trは、所定の基準トルク値である。θおよびθK+1はそれぞれ前記予備零点角度を意味し、θK+1はθよりも(360/n)°大きい回転角度を意味する。Tr(θ)は、予備零点角度θで前記予備零点処理したときに求められる前記予備平均値であり、Tr(θK+1)は、予備零点角度θK+1で前記予備零点処理したときに求められる前記予備平均値である。
(b)前記予備零点角度θおよびθK+1、前記基準トルク値Tr、前記(a)の処理で選択された前記予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)、ならびに下記式(6)に基づいて、暫定角度θを求める処理。
θ={θK+1・(Tr−Tr(θ))+θ・(Tr(θK+1)−Tr)}/{Tr(θK+1)−Tr(θ)} ・・・(6)
(c)前記(b)の処理で求められた前記暫定角度θ、ならびに下記式(7)および(8)に基づいて、第1基準零点角度θB1およびθB2を求める処理。
θB1=θ−α ・・・(7)
θB2=θ+α ・・・(8)
上記式(7)および(8)において、αは、予め設定された回転角度である。
(d)前記第1基準零点角度θB1およびθB2、前記基準トルク値Tr、ならびに下記式(9)に基づいて、予測角度θを求める処理。
θ={θB2・(Tr−Tr(θB1))+θB1・(Tr(θB2)−Tr)}/{Tr(θB2)−Tr(θB1)} ・・・(9)
上記式(9)において、Tr(θB1)は、前記第1基準零点角度θB1で前記第1基準零点処理したときに求められる前記第1基準平均値であり、Tr(θB2)は、前記第1基準零点角度θB2で前記第1基準零点処理したときに求められる前記第1基準平均値である。
(e)前記予測角度θ、ならびに下記式(10)および(11)に基づいて、第2基準零点角度θB3およびθB4を求める処理。
θB3=θ−β ・・・(10)
θB4=θ+β ・・・(11)
上記式(10)および(11)において、βは、予め設定された回転角度である。
(f)下記式(12)を満たしているか否かを判別する処理。
|Tr(θB3)+Tr(θB4)−2Tr|≦Th ・・・(12)
上記式(12)において、Tr(θB3)は、前記第2基準零点角度θB3で前記第2基準零点処理したときに求められる前記第2基準平均値であり、Tr(θB4)は、前記第2基準零点角度θB4で前記第2基準零点処理したときに求められる前記第2基準平均値である。Thは、予め設定された閾値である。
(g)前記第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および前記基準トルク値Trが上記式(12)を満たしている場合には、前記予測角度θを前記本零点角度に設定する。一方、前記第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および前記基準トルク値Trが上記式(12)を満たしていない場合には、前記第2基準零点角度θB3およびθB4を、前記第1基準零点角度θB1およびθB2として設定し、前記第2基準平均値Tr(θB3)およびTr(θB4)を前記第1基準平均値Tr(θB1)およびTr(θB2)として設定し、上記式(12)が満たされるまで前記(vi)から前記(ix)の処理を再度実行する処理。
【請求項2】
前記(v)の処理において、
下記式(13)を満たしている場合には、前記暫定角度θを前記本零点角度に設定して前記(x)の処理を行い、
下記式(13)を満たしていない場合に、前記(vi)から前記(x)の処理を行う、請求項1に記載の零点設定方法。
|Tr(θB1)+Tr(θB2)−2Tr|≦Th ・・・(13)
【請求項3】
前記基準トルク値Trは、前記予備零点処理ごとに求められた前記予備平均値の平均値である、請求項1または2に記載の零点設定方法。
【請求項4】
前記基準トルク値Trは、零である、請求項1または2に記載の零点設定方法。
【請求項5】
前記(i)〜(x)の処理は、供試体としてのモータが前記トルク伝達軸に接続された状態で実行され、
前記(1)式のθは、前記モータのコギングトルクが最小となるときの前記トルク伝達軸の回転角度であり、
前記(1)式のnは、下記式(A)に基づいて決定される、請求項1から4のいずれかに記載の零点設定方法。
n=LCM/m ・・・(A)
上記式(A)において、mは予め設定される自然数であり、LCMは前記モータのポール数およびスロット数の最小公倍数である。
【請求項6】
トルク伝達軸を有するトルク計の検出信号に基づいてトルク検出部によってトルク値を検出し、かつ請求項1から5のいずれかに記載の零点設定方法によって前記トルク検出部によって検出されるトルク値の零点設定を行う評価装置であって、
前記(i)、(iv)、(vii)、および(x)の処理を行う零点設定部と、
前記(ii)、(v)、および(viii)の処理を行う平均値処理部と、
前記(iii)、(vi)、および(ix)の処理を行う角度計算部と、
を備える、評価装置。
【請求項7】
トルク伝達軸を有するトルク計の検出信号に基づいてトルク検出部によってトルク値を検出する評価装置において、前記トルク検出部によって検出されるトルク値の零点設定を行うためのプログラムであって、
コンピュータに、
(i)前記トルク伝達軸の回転位置が下記式(1)によって定まるn個(nは3以上の自然数)の予備零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定するn回の予備零点処理と、
(ii)前記予備零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を予備平均値として求める予備平均処理と、
(iii)前記予備平均値に基づいて、2つの第1基準零点角度を決定する第1基準零点角度決定処理と、
(iv)前記トルク伝達軸の回転位置が前記2つの第1基準零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する2回の第1基準零点処理と、
(v)前記第1基準零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を第1基準平均値として求める第1基準平均処理と、
(vi)前記第1基準平均値に基づいて、2つの第2基準零点角度を決定する第2基準零点角度決定処理と、
(vii)前記トルク伝達軸の回転位置が前記2つの第2基準零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する2回の第2基準零点処置と、
(viii)前記第2基準零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を第2基準平均値として求める第2基準平均処理と、
(ix)前記第2基準平均値に基づいて、本零点角度を決定する本零点角度決定処理と、
(x)前記トルク伝達軸の回転位置が前記本零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する本零点処理と、
を実行させ、
前記(iii)の第1基準零点角度決定処理は、順に実行される下記の(a)〜(c)の処理を含み、
前記(vi)の第2基準零点角度決定処理は、順に実行される下記の(d)および(e)の処理を含み、
前記(ix)の本零点角度決定処理は、順に実行される下記の(f)および(g)の処理を含む、プログラム。
θx−1=θ+(x−1)×(360/n)° ・・・(1)
上記式(1)において、θx−1は予備零点角度であり、θは、前記トルク伝達軸の任意の回転角度であり、xは係数(x=1、2、・・・、n)である。
(a)前記予備零点処理ごとに求められた前記予備平均値のうちから下記式(2)および(3)を満たす予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)、または下記式(4)および(5)を満たす予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)を選択する処理。
Tr(θ)<Tr ・・・(2)
Tr(θK+1)≧Tr ・・・(3)
Tr(θ)>Tr ・・・(4)
Tr(θK+1)≦Tr ・・・(5)
上記式(2)〜(5)において、Trは、所定の基準トルク値である。θおよびθK+1はそれぞれ前記予備零点角度を意味し、θK+1はθよりも(360/n)°大きい回転角度を意味する。Tr(θ)は、予備零点角度θで前記予備零点処理したときに求められる前記予備平均値であり、Tr(θK+1)は、予備零点角度θK+1で前記予備零点処理したときに求められる前記予備平均値である。
(b)前記予備零点角度θおよびθK+1、前記基準トルク値Tr、前記(a)の処理で選択された前記予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)、ならびに下記式(6)に基づいて、暫定角度θを求める処理。
θ={θK+1・(Tr−Tr(θ))+θ・(Tr(θK+1)−Tr)}/{Tr(θK+1)−Tr(θ)} ・・・(6)
(c)前記(b)の処理で求められた前記暫定角度θ、ならびに下記式(7)および(8)に基づいて、第1基準零点角度θB1およびθB2を求める処理。
θB1=θ−α ・・・(7)
θB2=θ+α ・・・(8)
上記式(7)および(8)において、αは、予め設定された回転角度である。
(d)前記第1基準零点角度θB1およびθB2、前記基準トルク値Tr、ならびに下記式(9)に基づいて、予測角度θを求める処理。
θ={θB2・(Tr−Tr(θB1))+θB1・(Tr(θB2)−Tr)}/{Tr(θB2)−Tr(θB1)} ・・・(9)
上記式(9)において、Tr(θB1)は、前記第1基準零点角度θB1で前記第1基準零点処理したときに求められる前記第1基準平均値であり、Tr(θB2)は、前記第1基準零点角度θB2で前記第1基準零点処理したときに求められる前記第1基準平均値である。
(e)前記予測角度θ、ならびに下記式(10)および(11)に基づいて、第2基準零点角度θB3およびθB4を求める処理。
θB3=θ−β ・・・(10)
θB4=θ+β ・・・(11)
上記式(10)および(11)において、βは、予め設定された回転角度である。
(f)下記式(12)を満たしているか否かを判別する処理。
|Tr(θB3)+Tr(θB4)−2Tr|≦Th ・・・(12)
上記式(12)において、Tr(θB3)は、前記第2基準零点角度θB3で前記第2基準零点処理したときに求められる前記第2基準平均値であり、Tr(θB4)は、前記第2基準零点角度θB4で前記第2基準零点処理したときに求められる前記第2基準平均値である。Thは、予め設定された閾値である。
(g)前記第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および前記基準トルク値Trが上記式(12)を満たしている場合には、前記予測角度θを前記本零点角度に設定する。一方、前記第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および前記基準トルク値Trが上記式(12)を満たしていない場合には、前記第2基準零点角度θB3およびθB4を、前記第1基準零点角度θB1およびθB2として設定し、前記第2基準平均値Tr(θB3)およびTr(θB4)を前記第1基準平均値Tr(θB1)およびTr(θB2)として設定し、上記式(12)が満たされるまで前記(vi)から前記(ix)の処理を再度実行する処理。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、零点設定方法、評価装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トルク計を有する試験装置が知られている。例えば、特許文献1には、供試体に試験負荷を与えるダイナモと、供試体の回転軸に接続されたトルク計とを備えた試験装置が開示されている。
【0003】
特許文献1の試験装置では、供試体の回転軸およびダイナモの回転軸のうちの何れか一方の回転軸が回転すると、該一方の回転軸のトルクは、トルク計のトルク伝達軸を介して他方の回転軸に伝達される。したがって、特許文献1の試験装置では、トルク計のトルク伝達軸に作用するトルクを検出(計測)することによって、一方の回転軸から他方の回転軸へ伝達されるトルクを測定することができる。これにより、供試体の種々の特性を測定することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−210202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような試験装置においては、一般に、温度等の環境の影響を排除するために、トルク計の零点設定が行われる。具体的には、トルク計のトルク伝達軸に負荷がかかっていない状態(以下、無負荷時という。)において、トルク計によって検出されるトルクの値が零に設定される。
【0006】
ところで、特許文献1の試験装置にトルク計を設置する場合には、寸法精度および組立精度等の種々の要因により、トルク計のトルク伝達軸(トルク検出部)に曲げ応力および軸方向の応力等が作用する。このような曲げ応力等の影響により、トルク伝達軸に作用するトルクは、該トルク伝達軸が1回転する際に変化する。これにより、以下に説明するように、零点設定時のトルク伝達軸の回転角度(回転位置)が、零点設定後のトルク計測値に影響する。特に高精度のトルク計測を行う場合、その影響によって供試体に負荷されるトルクを適切に評価できない場合がある。
【0007】
図10は、無負荷の状態においてトルク伝達軸が1回転する際に、該トルク伝達軸に作用するトルクの変化の特性の一例を示す図である。また、図11は、トルク伝達軸に作用するトルクが図10に示すように変化することを前提として、横軸に示すトルク伝達軸の回転角度で零点を設定した場合の、該回転角度とトルク計によって検出される平均トルクとの関係を示す図である。平均トルクとは、トルク伝達軸を回転させたときにトルク計によって所定時間の間に検出されるトルクの平均値を意味する。なお、図10においては、説明を分かりやすくするために、無負荷時にトルク伝達軸に作用するトルクの変化を正弦波で示しているが、実際には、完全な正弦波にはならない。また、図10および図11において破線は、トルク伝達軸の回転角度が360°変化する間に、トルク伝達軸に作用するトルクの平均値を示している。前述のように、トルク伝達軸に作用するトルクは回転角度によって変化するが、通常の試験運転において、トルク伝達軸は回転しているため、トルク計によって計測されるトルクはその平均値として得られる。
【0008】
図10を参照して、例えば、トルク伝達軸の回転角度がθ°の時に零点設定を行うと、上記平均値よりも高いトルク値Tr(θ)が零点に設定される。この場合、図11を参照して、トルク計によって検出される平均トルクは、上記平均値よりも低いトルク値Tr(θ)となる。このため、供試体の試験を行う際に、トルク伝達軸に作用するトルクを平均トルクとして求める場合、該平均トルクは、トルク伝達軸に実際に作用するトルクよりも低い値として検出されることになる。
【0009】
また、図10を参照して、トルク伝達軸の回転角度がθ°の時に零点設定を行うと、上記平均値よりも低いトルク値Tr(θ)が零点に設定される。この場合、図11を参照して、トルク計によって検出される平均トルクは、上記平均値よりも高いトルク値Tr(θ)となる。このため、供試体の試験を行う際に、トルク伝達軸に作用するトルクを平均トルクとして求める場合、該平均トルクは、トルク伝達軸に実際に作用するトルクよりも高い値として検出されることになる。
【0010】
このように、無負荷時にトルク伝達軸に作用するトルクが上記のように変化する場合、零点設定を行う時のトルク伝達軸の回転角度によって、供試体の試験を行う際のトルク計の検出値に誤差が生じる場合がある。すなわち、供試体に負荷されるトルクを適切に評価することができない場合がある。
【0011】
本発明は、トルク計によって検出されるトルク値の零点設定を適切に行うことができる構成を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
トルク伝達軸に作用するトルクが上記平均値と等しい値または上記平均値に近い値(以下、これらの値を基準トルク値という。)になる時に零点設定を行うことができれば、基準トルク値が零点に設定されるので、上記のような誤差の発生を抑制できる。
【0013】
図10の例では、トルク回転軸の回転角度がθ°、θ°、または(θ+360)°の時に零点設定を行うことによって、基準トルク値を零点に設定することができる。図11を参照して、例えば、トルク回転軸の回転角度がθ°の時に零点設定を行うと、平均トルクは、基準トルク値に等しいトルク値Tr(θ)となる。したがって、供試体の試験を行う際に、トルク伝達軸に実際に作用するトルクを、平均トルクとして求めることができる。これにより、供試体に負荷されるトルクを適切に評価することができる。
【0014】
本発明者は、上記のような観点に基づいて、以下のような構成を見出した。
【0015】
本発明の一実施形態に係る零点設定方法は、トルク伝達軸を有するトルク計の検出信号に基づいてトルク検出部によって検出されるトルク値の零点設定を行う零点設定方法であって、
(i)前記トルク伝達軸の回転位置が下記式(1)によって定まるn個(nは3以上の自然数)の予備零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定するn回の予備零点処理と、
(ii)前記予備零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を予備平均値として求める予備平均処理と、
(iii)前記予備平均値に基づいて、2つの第1基準零点角度を決定する第1基準零点角度決定処理と、
(iv)前記トルク伝達軸の回転位置が前記2つの第1基準零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する2回の第1基準零点処理と、
(v)前記第1基準零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を第1基準平均値として求める第1基準平均処理と、
(vi)前記第1基準平均値に基づいて、2つの第2基準零点角度を決定する第2基準零点角度決定処理と、
(vii)前記トルク伝達軸の回転位置が前記2つの第2基準零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する2回の第2基準零点処置と、
(viii)前記第2基準零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を第2基準平均値として求める第2基準平均処理と、
(ix)前記第2基準平均値に基づいて、本零点角度を決定する本零点角度決定処理と、
(x)前記トルク伝達軸の回転位置が前記本零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する本零点処理と、
を備え、
前記(iii)の第1基準零点角度決定処理は、順に実行される下記の(a)〜(c)の処理を含み、
前記(vi)の第2基準零点角度決定処理は、順に実行される下記の(d)および(e)の処理を含み、
前記(ix)の本零点角度決定処理は、順に実行される下記の(f)および(g)の処理を含む。
θx−1=θ+(x−1)×(360/n)° ・・・(1)
上記式(1)において、θx−1は予備零点角度であり、θは、前記トルク伝達軸の任意の回転角度であり、xは係数(x=1、2、・・・、n)である。
(a)前記予備零点処理ごとに求められた前記予備平均値のうちから下記式(2)および(3)を満たす予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)、または下記式(4)および(5)を満たす予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)を選択する処理。
Tr(θ)<Tr ・・・(2)
Tr(θK+1)≧Tr ・・・(3)
Tr(θ)>Tr ・・・(4)
Tr(θK+1)≦Tr ・・・(5)
上記式(2)〜(5)において、Trは、所定の基準トルク値である。θおよびθK+1はそれぞれ前記予備零点角度を意味し、θK+1はθよりも(360/n)°大きい回転角度を意味する。Tr(θ)は、予備零点角度θで前記予備零点処理したときに求められる前記予備平均値であり、Tr(θK+1)は、予備零点角度θK+1で前記予備零点処理したときに求められる前記予備平均値である。
(b)前記予備零点角度θおよびθK+1、前記基準トルク値Tr、前記(a)の処理で選択された前記予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)、ならびに下記式(6)に基づいて、暫定角度θを求める処理。
θ={θK+1・(Tr−Tr(θ))+θ・(Tr(θK+1)−Tr)}/{Tr(θK+1)−Tr(θ)} ・・・(6)
(c)前記(b)の処理で求められた前記暫定角度θ、ならびに下記式(7)および(8)に基づいて、第1基準零点角度θB1およびθB2を求める処理。
θB1=θ−α ・・・(7)
θB2=θ+α ・・・(8)
上記式(7)および(8)において、αは、予め設定された回転角度である。
(d)前記第1基準零点角度θB1およびθB2、前記基準トルク値Tr、ならびに下記式(9)に基づいて、予測角度θを求める処理。
θ={θB2・(Tr−Tr(θB1))+θB1・(Tr(θB2)−Tr)}/{Tr(θB2)−Tr(θB1)} ・・・(9)
上記式(9)において、Tr(θB1)は、前記第1基準零点角度θB1で前記第1基準零点処理したときに求められる前記第1基準平均値であり、Tr(θB2)は、前記第1基準零点角度θB2で前記第1基準零点処理したときに求められる前記第1基準平均値である。
(e)前記予測角度θ、ならびに下記式(10)および(11)に基づいて、第2基準零点角度θB3およびθB4を求める処理。
θB3=θ−β ・・・(10)
θB4=θ+β ・・・(11)
上記式(10)および(11)において、βは、予め設定された回転角度である。
(f)下記式(12)を満たしているか否かを判別する処理。
|Tr(θB3)+Tr(θB4)−2Tr|≦Th ・・・(12)
上記式(12)において、Tr(θB3)は、前記第2基準零点角度θB3で前記第2基準零点処理したときに求められる前記第2基準平均値であり、Tr(θB4)は、前記第2基準零点角度θB4で前記第2基準零点処理したときに求められる前記第2基準平均値である。Thは、予め設定された閾値である。
(g)前記第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および前記基準トルク値Trが上記式(12)を満たしている場合には、前記予測角度θを前記本零点角度に設定する。一方、前記第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および前記基準トルク値Trが上記式(12)を満たしていない場合には、前記第2基準零点角度θB3およびθB4を、前記第1基準零点角度θB1およびθB2として設定し、前記第2基準平均値Tr(θB3)およびTr(θB4)を前記第1基準平均値Tr(θB1)およびTr(θB2)として設定し、上記式(12)が満たされるまで前記(vi)から前記(ix)の処理を再度実行する処理。
【0016】
本実施形態においては、トルク検出部によって検出されるトルク値の零点設定および平均トルクの算出を繰り返すことによって、本零点角度が決定される。具体的には、トルク伝達軸に作用するトルクが基準トルク値Trに十分に近いときに本零点処理を行うことができるように、本零点角度が決定される。このように決定された本零点角度に基づいて零点設定を行うことによって、トルク伝達軸に作用するトルクを、基準トルク値Trに基づいて評価することができる。これにより、例えば、無負荷時にトルク伝達軸に作用するトルクが回転角度によって変化する場合でも、その変化の影響を十分に低減した零点設定が可能となり、トルク伝達軸に作用するトルクを精度よく検出することができる。
【0017】
また、上述したように、通常の試験運転においては、トルク伝達軸に作用するトルクは、平均トルクとして計測される。本実施形態においては、本零点角度を決定する過程において、通常の試験運転と同様に、回転中のトルク伝達軸に作用するトルクが、平均トルク(予備平均値、第1基準平均値、および第2基準平均値)として計測される。そして、計測された平均トルクに基づいて本零点角度が決定される。すなわち、本実施形態では、通常の試験運転時の条件(実条件)と同じ条件または近い条件の下で、本零点角度を決定することができる。これにより、実条件に対応した適切な本零点角度を決定することができる。また、通常の試験運転と同様にトルク伝達軸を回転させながら、該トルク伝達軸に作用するトルクを検出すればよいので、零点設定を行う際の作業効率の低下を防止できる。
【0018】
以上のように、本実施形態によれば、零点設定を適切に行うことができ、供試体に負荷されるトルクを適切に評価することができる。
【0019】
本発明のその他の実施形態に係る評価装置は、トルク伝達軸を有するトルク計の検出信号に基づいてトルク検出部によってトルク値を検出し、かつ上記の零点設定方法によって前記トルク検出部によって検出されるトルク値の零点設定を行う評価装置であって、
前記(i)、(iv)、(vii)、および(x)の処理を行う零点設定部と、
前記(ii)、(v)、および(viii)の処理を行う平均値処理部と、
前記(iii)、(vi)、および(ix)の処理を行う角度計算部と、
を備える。
【0020】
本発明のさらに他の実施形態に係るプログラムは、トルク伝達軸を有するトルク計の検出信号に基づいてトルク検出部によってトルク値を検出する評価装置において、前記トルク検出部によって検出されるトルク値の零点設定を行うためのプログラムであって、コンピュータに、
(i)前記トルク伝達軸の回転位置が下記式(1)によって定まるn個(nは3以上の自然数)の予備零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定するn回の予備零点処理と、
(ii)前記予備零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を予備平均値として求める予備平均処理と、
(iii)前記予備平均値に基づいて、2つの第1基準零点角度を決定する第1基準零点角度決定処理と、
(iv)前記トルク伝達軸の回転位置が前記2つの第1基準零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する2回の第1基準零点処理と、
(v)前記第1基準零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を第1基準平均値として求める第1基準平均処理と、
(vi)前記第1基準平均値に基づいて、2つの第2基準零点角度を決定する第2基準零点角度決定処理と、
(vii)前記トルク伝達軸の回転位置が前記2つの第2基準零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する2回の第2基準零点処置と、
(viii)前記第2基準零点処理ごとに、前記トルク伝達軸の回転中の所定時間の間に前記トルク検出部によって検出されるトルク値の平均値を第2基準平均値として求める第2基準平均処理と、
(ix)前記第2基準平均値に基づいて、本零点角度を決定する本零点角度決定処理と、
(x)前記トルク伝達軸の回転位置が前記本零点角度のときに、前記トルク検出部によって検出されるトルク値を零に設定する本零点処理と、
を実行させ、
前記(iii)の第1基準零点角度決定処理は、順に実行される下記の(a)〜(c)の処理を含み、
前記(vi)の第2基準零点角度決定処理は、順に実行される下記の(d)および(e)の処理を含み、
前記(ix)の本零点角度決定処理は、順に実行される下記の(f)および(g)の処理を含む。
θx−1=θ+(x−1)×(360/n)° ・・・(1)
上記式(1)において、θx−1は予備零点角度であり、θは、前記トルク伝達軸の任意の回転角度であり、xは係数(x=1、2、・・・、n)である。
(a)前記予備零点処理ごとに求められた前記予備平均値のうちから下記式(2)および(3)を満たす予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)、または下記式(4)および(5)を満たす予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)を選択する処理。
Tr(θ)<Tr ・・・(2)
Tr(θK+1)≧Tr ・・・(3)
Tr(θ)>Tr ・・・(4)
Tr(θK+1)≦Tr ・・・(5)
上記式(2)〜(5)において、Trは、所定の基準トルク値である。θおよびθK+1はそれぞれ前記予備零点角度を意味し、θK+1はθよりも(360/n)°大きい回転角度を意味する。Tr(θ)は、予備零点角度θで前記予備零点処理したときに求められる前記予備平均値であり、Tr(θK+1)は、予備零点角度θK+1で前記予備零点処理したときに求められる前記予備平均値である。
(b)前記予備零点角度θおよびθK+1、前記基準トルク値Tr、前記(a)の処理で選択された前記予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)、ならびに下記式(6)に基づいて、暫定角度θを求める処理。
θ={θK+1・(Tr−Tr(θ))+θ・(Tr(θK+1)−Tr)}/{Tr(θK+1)−Tr(θ)} ・・・(6)
(c)前記(b)の処理で求められた前記暫定角度θ、ならびに下記式(7)および(8)に基づいて、第1基準零点角度θB1およびθB2を求める処理。
θB1=θ−α ・・・(7)
θB2=θ+α ・・・(8)
上記式(7)および(8)において、αは、予め設定された回転角度である。
(d)前記第1基準零点角度θB1およびθB2、前記基準トルク値Tr、ならびに下記式(9)に基づいて、予測角度θを求める処理。
θ={θB2・(Tr−Tr(θB1))+θB1・(Tr(θB2)−Tr)}/{Tr(θB2)−Tr(θB1)} ・・・(9)
上記式(9)において、Tr(θB1)は、前記第1基準零点角度θB1で前記第1基準零点処理したときに求められる前記第1基準平均値であり、Tr(θB2)は、前記第1基準零点角度θB2で前記第1基準零点処理したときに求められる前記第1基準平均値である。
(e)前記予測角度θ、ならびに下記式(10)および(11)に基づいて、第2基準零点角度θB3およびθB4を求める処理。
θB3=θ−β ・・・(10)
θB4=θ+β ・・・(11)
上記式(10)および(11)において、βは、予め設定された回転角度である。
(f)下記式(12)を満たしているか否かを判別する処理。
|Tr(θB3)+Tr(θB4)−2Tr|≦Th ・・・(12)
上記式(12)において、Tr(θB3)は、前記第2基準零点角度θB3で前記第2基準零点処理したときに求められる前記第2基準平均値であり、Tr(θB4)は、前記第2基準零点角度θB4で前記第2基準零点処理したときに求められる前記第2基準平均値である。Thは、予め設定された閾値である。
(g)前記第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および前記基準トルク値Trが上記式(12)を満たしている場合には、前記予測角度θを前記本零点角度に設定する。一方、前記第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および前記基準トルク値Trが上記式(12)を満たしていない場合には、前記第2基準零点角度θB3およびθB4を、前記第1基準零点角度θB1およびθB2として設定し、前記第2基準平均値Tr(θB3)およびTr(θB4)を前記第1基準平均値Tr(θB1)およびTr(θB2)として設定し、上記式(12)が満たされるまで前記(vi)から前記(ix)の処理を再度実行する処理。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、トルク計によって検出されるトルク値の零点設定を適切に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る評価装置を備えた供試体試験装置を示す概略図である。
図2図2は、零点設定時のトルク伝達軸の回転角度とトルク検出部によって検出される平均トルクとの関係の一例を示す図である。
図3図3は、零点設定時のトルク伝達軸の回転角度とトルク検出部によって検出される平均トルクとの関係の一例を示す図である。
図4図4は、零点設定時のトルク伝達軸の回転角度とトルク検出部によって検出される平均トルクとの関係の一例を示す図である。
図5図5は、零点設定時のトルク伝達軸の回転角度とトルク検出部によって検出される平均トルクとの関係の他の例を示す図である。
図6図6は、評価装置の制御動作を示すフローチャートである。
図7図7は、評価装置の制御動作を示すフローチャートである。
図8図8は、評価装置の制御動作を示すフローチャートである。
図9図9は、零点設定時のトルク伝達軸の回転角度とトルク検出部によって検出される平均トルクとの一例を示す図である。
図10図10は、無負荷の状態においてトルク伝達軸が1回転する際に、該トルク伝達軸に作用するトルクの変化の特性の一例を示す図である。
図11図11は、トルク伝達軸に作用するトルクが図10に示すように変化することを前提とした場合において、零点設定時のトルク伝達軸の回転角度とトルク計によって検出される平均トルクとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態を詳しく説明する。
【0024】
(供試体試験装置の構成)
図1は、本発明の一実施形態に係る評価装置10を備えた供試体試験装置100を示す概略図である。図1を参照して、供試体試験装置100は、評価装置10および試験装置本体12を有する。評価装置10の詳細については後述し、まず、試験装置本体12について簡単に説明する。なお、試験装置本体12としては、公知の種々の試験装置本体を用いることができるので、試験装置本体12の詳細な説明は省略する。
【0025】
(試験装置本体の構成)
図1を参照して、試験装置本体12は、ベース14、ダイナモ16、ダイヤフラムカップリング18、トルク計20、中間軸22、中間軸受ユニット24、ダイヤフラムカップリング26、および供試体ブラケット28を備える。供試体ブラケット28には、供試体30が取り付けられる。供試体30としては、例えば、電動機(例えば、モータ)または発電機を挙げることができる。
【0026】
ダイナモ16、中間軸受ユニット24、および供試体ブラケット28は、ベース14上に固定されている。
【0027】
ダイナモ16は、回転軸16a、フランジ部16b、および回転角度検出器(図示せず)を有する。フランジ部16bは、回転軸16aの先端に設けられ、かつ回転軸16aと一体に回転する。回転角度検出器は、回転軸16aの回転角度を検出し、検出信号を評価装置10へ送る。ダイナモ16は、評価装置10に制御されることによって、供試体30に試験負荷を与える。詳細な説明は省略するが、供試体30が電動機の場合には、ダイナモ16は「疑似負荷」として機能する。一方、供試体30が発電機の場合には、ダイナモ16は「疑似電動機」として機能する。
【0028】
ダイヤフラムカップリング18は、回転軸18aおよび一対のフランジ部18b,18cを有する。フランジ部18b,18cは、回転軸18aの両端に設けられ、かつ回転軸18aと一体に回転する。本実施形態では、ダイナモ16のフランジ部16bとダイヤフラムカップリング18のフランジ部18bとが固定されている。これにより、ダイナモ16の回転軸16aとダイヤフラムカップリング18の回転軸18aとが一体に回転する。
【0029】
トルク計20は、トルク伝達軸20a(回転軸)および一対のフランジ部20b,20cを有する。フランジ部20b,20cは、トルク伝達軸20aの両端に設けられ、かつトルク伝達軸20aと一体に回転する。本実施形態では、ダイヤフラムカップリング18のフランジ部18cとトルク計20のフランジ部20bとが固定されている。これにより、ダイヤフラムカップリング18の回転軸18aとトルク計20のトルク伝達軸20aとが一体に回転する。
【0030】
本実施形態では、トルク伝達軸20aには、例えば、該トルク伝達軸20aが回転する際のねじれによって歪みが発生する起歪部が形成されている。また、該起歪部には、例えば、歪ゲージが張り付けられている。トルク計20は、該歪ゲージの歪みを検出し、検出信号を評価装置10へ送信する。
【0031】
中間軸22は、回転軸22aおよび一対のフランジ部22b,22cを有する。フランジ部22b,22cは、回転軸22aの両端に設けられ、かつ回転軸22aと一体に回転する。本実施形態では、トルク計20のフランジ部20cと中間軸22のフランジ部22bとが固定されている。これにより、トルク計20のトルク伝達軸20aと中間軸22の回転軸22aとが一体に回転する。本実施形態では、回転軸22aは、中間軸受ユニット24に回転可能に支持される。
【0032】
ダイヤフラムカップリング26は、回転軸26aおよび一対のフランジ部26b,26cを有する。フランジ部26b,26cは、回転軸26aの両端に設けられ、かつ回転軸26aと一体に回転する。本実施形態では、中間軸22のフランジ部22cとダイヤフラムカップリング26のフランジ部26bとが固定されている。これにより、中間軸22の回転軸22aとダイヤフラムカップリング26の回転軸26aとが一体に回転する。フランジ部26cには、供試体30の回転軸(図示せず)が固定される。このような構成によって、ダイナモ16と供試体30との間で、トルクを伝達することができる。また、ダイナモ16によって供試体30に負荷されるトルクを、トルク計20によって検出することができる。
【0033】
(評価装置の基本構成)
次に、評価装置10の構成について説明する。図1を参照して、本実施形態に係る評価装置10は、トルク検出部32、回転制御部34、零点設定部36、平均値処理部38および角度計算部40を備える。
【0034】
トルク検出部32は、トルク計20から送信されてきた検出信号に基づいて、トルク伝達軸20aに作用するトルク値を検出する。
【0035】
回転制御部34は、ダイナモ16を駆動制御することによって、トルク伝達軸20aの回転を制御する。本実施形態では、回転制御部34は、後述するように、予備停止処理、予備回転処理、第1基準停止処理、第1基準回転処理、第2基準停止処理、第2基準回転処理および本停止処理を行うことによって、トルク伝達軸20aを停止および回転させる。
【0036】
零点設定部36は、トルク検出部32によって検出されるトルク値を零に設定する。本実施形態では、零点設定部36は、後述するように、予備零点処理、第1基準零点処理、第2基準零点処理および本零点処理を行う。本実施形態では、零点設定部36が本零点処理を行うことによって、トルク検出部32の零点設定が完了する。
【0037】
平均値処理部38は、トルク検出部32によって所定時間の間に検出されるトルク値の平均値を算出する。本実施形態では、平均値処理部38は、後述するように、予備平均処理、第1基準平均処理、および第2基準平均処理を行う。
【0038】
角度計算部40は、回転制御部34が上述の第1基準停止処理、第2基準停止処理および本停止処理においてトルク伝達軸20aを停止させるための該トルク伝達軸20aの回転角度(回転位置)を求める。本実施形態では、角度計算部40は、後述するように、第1基準零点角度決定処理、第2基準零点角度決定処理および本零点角度決定処理を行う。
【0039】
(零点設定方法)
次に、本実施形態におけるトルク検出部32の零点設定方法について図面を参照しつつ説明する。図2図4は、トルク伝達軸に作用するトルクが図10に示すように変化することを前提とした場合において、零点設定時のトルク伝達軸の回転角度とトルク検出部32によって検出される平均トルクとの関係を示す図である。なお、本実施形態において平均トルクとは、トルク伝達軸20aが回転している際に、トルク検出部32によって所定時間の間に検出されるトルクの平均値を意味する。
【0040】
本実施形態では、評価装置10は、下記の(A)〜(Q)の処理を行う。以下、具体的に説明する。なお、以下に説明する処理は、例えば、ダイナモ16と供試体30との間でトルクの伝達が行われていない状態、すなわち、トルク伝達軸20aにトルクが負荷されていない状態(無負荷状態)で実行される。具体的には、例えば、供試体30の回転軸(図示せず)がダイヤフラムカップリング26に接続されていない状態で、以下に説明する処理が行われる。
【0041】
(A)予備停止処理
図1および図2を参照して、本実施形態では、回転制御部34は、ダイナモ16を駆動制御して、回転軸22aを下記式(1)によって定まる予備零点角度で停止させる。予備零点角度は、例えば、作業者によって予め設定される。本実施形態では、n個(nは3以上の自然数)の予備零点角度が設定され、n回の予備停止処理が行われる。図2の例では、4つの予備零点角度θが90°ごとに設定されている。すなわち、4回の予備停止処理が行われている。
θx−1=θ+(x−1)×(360/n)° ・・・(1)
上記式(1)において、θx−1は予備零点角度であり、θは、トルク伝達軸20aの任意の回転角度(°)であり、xは係数(x=1、2、・・・、n)である。
【0042】
なお、本実施形態においては、上述したように、nは3以上の自然数である。また、nは、作業者によって予め設定される。したがって、本実施形態では、n個の予備零点角度が、120°以下の角度間隔で予め設定される。
【0043】
なお、詳細な説明は省略するが、本実施形態においては、回転制御部34は、例えば、ダイナモ16の回転角度検出器によって検出される回転角度に基づいて、トルク伝達軸20aを所定の回転角度(回転位置)で停止させることができる。
【0044】
(B)予備零点処理
零点設定部36は、トルク伝達軸20aが予備零点角度で停止するごとに、トルク検出部32によって検出されるトルク値を零に設定する。本実施形態では、予備停止処理と同様に、n回の予備零点処理が行われる。
【0045】
(C)予備回転処理
各予備零点処理の終了後、回転制御部34は、ダイナモ16を駆動制御して、トルク伝達軸20aを所定の速度(例えば、60〜数百min−1)で回転させる。本実施形態では、n回の予備回転処理が行われる。
【0046】
(D)予備平均処理
平均値処理部38は、各予備回転処理中の所定時間の間にトルク検出部32によって検出されるトルク値の平均値を、予備平均値として求める。本実施形態では、n回の予備平均処理が行われ、n個の予備平均値が求められる。図2の例では、4つの予備零点角度θに対応する4つの予備平均値Tr(θ),Tr(θ),Tr(θ),Tr(θ)が求められている。
【0047】
なお、本実施形態では、例えば、予備回転処理におけるトルク伝達軸20aの回転速度は一定の速度に設定される。したがって、予備平均処理における上記所定時間は、トルク伝達軸20aの回転数として規定することもできる。
【0048】
(E)第1基準零点角度決定処理
図3を参照して、角度計算部40は、上記予備平均値に基づいて、第1基準零点角度θB1およびθB2を決定する。具体的には、角度計算部40は、下記の(a)〜(c)の処理を順に行う。
【0049】
(a)平均値選択処理
平均値選択処理では、n回の予備回転処理ごとに求められたn個の予備平均値のうちから下記式(2)および(3)を満たす予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)、または下記式(4)および(5)を満たす予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)が選択される。
Tr(θ)<Tr ・・・(2)
Tr(θK+1)≧Tr ・・・(3)
Tr(θ)>Tr ・・・(4)
Tr(θK+1)≦Tr ・・・(5)
上記式(2)〜(5)において、Trは、所定の基準トルク値である。本実施形態では、上記n個の予備平均値の平均値が、基準トルク値Trに設定される。図2の例では、基準トルク値Trは、4つの予備平均値Tr(θ),Tr(θ),Tr(θ),Tr(θ)の平均値である。θおよびθK+1はそれぞれ予備零点角度を意味し、θK+1はθよりも(360/n)°大きい回転角度を意味する。Tr(θ)は、予備零点角度θで予備零点処理したときに求められる予備平均値であり、Tr(θK+1)は、予備零点角度θK+1で予備零点処理したときに求められる予備平均値である。
【0050】
図2の例では、予備平均値Tr(θ)と予備平均値Tr(θ)とが、上記式(2)および(3)を満たしている。したがって、図2の例では、予備平均値Tr(θ)として予備平均値Tr(θ)が選択され、予備平均値Tr(θK+1)として予備平均値Tr(θ)が選択される。なお、零点設定時のトルク伝達軸の回転角度とトルク検出部32によって検出される平均トルクとが図5のような関係を示す場合には、予備平均値Tr(θ)と予備平均値Tr(θ)とが、上記式(4)および(5)を満たす。したがって、この場合も、予備平均値Tr(θ)として予備平均値Tr(θ)が選択され、予備平均値Tr(θK+1)として予備平均値Tr(θ)が選択される。
【0051】
(b)暫定角度算出処理
暫定角度算出処理では、予備零点角度θおよびθK+1、基準トルク値Tr、上記(a)の処理で選択された予備平均値Tr(θ)およびTr(θK+1)、ならびに下記式(6)に基づいて、暫定角度θが求められる。図2の例では、予備零点角度θおよびθ、基準トルク値Tr、ならびに予備平均値Tr(θ)およびTr(θ)を用いて、暫定角度θが求められる。なお、図2に示すように、暫定角度θは、予備零点角度θおよび予備平均値Tr(θ),Tr(θ)によって定まる仮想直線(図2において二点鎖線で示す直線)が、基準トルク値Trと交差するときの回転角度である。
θ={θK+1・(Tr−Tr(θ))+θ・(Tr(θK+1)−Tr)}/{Tr(θK+1)−Tr(θ)} ・・・(6)
【0052】
(c)第1基準零点角度算出処理
図3を参照して、第1基準零点角度算出処理では、上記(b)の処理で求められた暫定角度θ、ならびに下記式(7)および(8)に基づいて、第1基準零点角度θB1およびθB2が求められる。
θB1=θ−α ・・・(7)
θB2=θ+α ・・・(8)
上記式(7)および(8)において、αは、予め設定される回転角度である。回転角度αは、例えば、45°以下に設定される。本実施形態では、回転角度αは、例えば、45°に設定される。
【0053】
(F)第1基準停止処理
上記のようにして第1基準零点角度が決定されると、回転制御部34は、ダイナモ16を駆動制御して、トルク伝達軸20aを該第1基準零点角度で停止させる。本実施形態では、2回の第1基準停止処理が行われ、トルク伝達軸20aが第1基準零点角度θB1およびθB2で停止される。
【0054】
(G)第1基準零点処理
零点設定部36は、トルク伝達軸20aが第1基準零点角度で停止するごとに、トルク検出部32によって検出されるトルク値を零に設定する。したがって、本実施形態では、第1基準停止処理と同様に、2回の第1基準零点処理が行われる。
【0055】
(H)第1基準回転処理
各第1基準零点処理の終了後、回転制御部34は、ダイナモ16を駆動制御して、トルク伝達軸20aを所定の速度(例えば、60〜数百min−1)で回転させる。本実施形態では、2回の第1基準回転処理が行われる。
【0056】
(I)第1基準平均処理
平均値処理部38は、各第1基準回転処理中の所定時間の間にトルク検出部32によって検出されるトルク値の平均値を、第1基準平均値として求める。本実施形態では、2回の第1基準平均処理が行われ、2つの第1基準平均値が求められる。図3の例では、第1基準零点角度θB1B2に対応する第1基準平均値Tr(θB1),Tr(θB2)が求められている。
【0057】
なお、本実施形態では、例えば、第1基準回転処理におけるトルク伝達軸20aの回転速度は一定の速度に設定される。したがって、第1基準平均処理における上記所定時間は、トルク伝達軸20aの回転数として規定することもできる。
【0058】
(J)第2基準零点角度決定処理
角度計算部40は、上記第1基準平均値に基づいて、第2基準零点角度を決定する。具体的には、角度計算部40は、下記の(d)および(e)の処理を順に行う。
【0059】
(d)予測角度算出処理
図3を参照して、予測角度算出処理では、第1基準零点角度θB1B2、第1基準平均値Tr(θB1),Tr(θB2)、基準トルク値Tr、および下記式(9)に基づいて、予測角度θが求められる。なお、図3に示すように、予測角度θは、第1基準零点角度θB1B2および第1基準平均値Tr(θB1),Tr(θB2)によって定まる仮想直線(図3において二点鎖線で示す直線)が、基準トルク値Trと交差するときの回転角度である。
θ={θB2・(Tr−Tr(θB1))+θB1・(Tr(θB2)−Tr)}/{Tr(θB2)−Tr(θB1)} ・・・(9)
【0060】
(e)第2基準零点角度算出処理
図4を参照して、第2基準零点角度算出処理では、予測角度θ、ならびに下記式(10)および(11)に基づいて、第2基準零点角度θB3およびθB4が求められる。
θB3=θ−β ・・・(10)
θB4=θ+β ・・・(11)
上記式(10)および(11)において、βは、予め設定される回転角度である。回転角度βは、例えば、45°以下に設定される。本実施形態では、回転角度βは、例えば、回転角度α(図3参照)と同じ値に設定される。
【0061】
(K)第2基準停止処理
上記のようにして第2基準零点角度が決定されると、回転制御部34は、ダイナモ16を駆動制御して、トルク伝達軸20aを該第2基準零点角度で停止させる。本実施形態では、2回の第2基準停止処理が行われ、トルク伝達軸20aが第2基準零点角度θB3およびθB4で停止される。
【0062】
(L)第2基準零点処理
零点設定部36は、トルク伝達軸20aが第2基準零点角度で停止するごとに、トルク検出部32によって検出されるトルク値を零に設定する。したがって、本実施形態では、第2基準停止処理と同様に、2回の第2基準零点処理が行われる。
【0063】
(M)第2基準回転処理
各第2基準零点処理の終了後、回転制御部34は、ダイナモ16を駆動制御して、トルク伝達軸20aを所定の速度(例えば、60〜数百min−1)で回転させる。本実施形態では、2回の第2基準回転処理が行われる。
【0064】
(N)第2基準平均処理
平均値処理部38は、各第2基準回転処理中の所定時間の間にトルク検出部32によって検出されるトルク値の平均値を、第2基準平均値として求める。本実施形態では、2回の第2基準平均処理が行われ、2つの第2基準平均値が求められる。図4の例では、第2基準零点角度θB3B4に対応する第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)が求められている。
【0065】
なお、本実施形態では、例えば、第2基準回転処理におけるトルク伝達軸20aの回転速度は一定の速度に設定される。したがって、第2基準平均処理における上記所定時間は、トルク伝達軸20aの回転数として規定することもできる。
【0066】
(O)本零点角度決定処理
角度計算部40は、上記第2基準平均値に基づいて、本零点角度を決定する。具体的には、角度計算部40は、下記の(f)および(g)の処理を順に行う。
【0067】
(f)判別処理
判別処理では、第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および基準トルク値Trが下記式(12)を満たしているか否かが判別される。
|Tr(θB3)+Tr(θB4)−2Tr|≦Th ・・・(12)
上記式(12)において、Thは、予め設定される閾値である。Thは、例えば、5°に設定される。
【0068】
(g)角度設定処理
第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および基準トルク値Trが上記式(12)を満たしている場合には、予測角度θを本零点角度に設定する。一方、第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)および基準トルク値Trが上記式(12)を満たしていない場合には、第2基準零点角度θB3B4を新たに第1基準零点角度θB1B2として設定し、第2基準平均値Tr(θB3),Tr(θB4)を新たに第1基準平均値Tr(θB1),Tr(θB2)として設定し、上記(12)式が満たされるまで前記(J)から前記(O)の処理を再度実行する。
【0069】
(P)本停止処理
上記のようにして本零点角度が決定されると、回転制御部34は、ダイナモ16を駆動制御して、トルク伝達軸20aを該本零点角度で停止させる。図4の例では、例えば、トルク伝達軸20aが本零点角度θで停止される。
【0070】
(Q)本零点処理
零点設定部36は、トルク伝達軸20aが本零点角度で停止している状態において、トルク検出部32によって検出されるトルク値を零に設定する。これにより、零点設定が完了する。
【0071】
(制御フロー)
以下、上述した零点設定方法を実施する際の評価装置10の制御フローを簡単に説明する。図6図8は、評価装置10の制御動作を示すフローチャートである。
【0072】
図6を参照して、まず、回転制御部34による予備停止処理(ステップS1)、零点設定部36による予備零点処理(ステップS2)、回転制御部34による予備回転処理(ステップS3)、および平均値処理部38による予備平均処理(ステップS4)が順に行われる。
【0073】
次に、評価装置10は、ステップS4の処理がn回実行されたか否かを判別する(ステップS5)。上述の図2の例では、ステップS4の処理が4回実行されたか否かが判別される。ステップS4の処理がn回実行されていない場合、評価装置10は、ステップS1の処理に戻る。すなわち、本実施の形態では、ステップS1〜ステップS4の処理がn回繰り返される。上述の図2の例では、ステップS1〜ステップS4の処理が4回繰り返されている。
【0074】
ステップS5においてステップS4の処理がn回実行されている場合、角度計算部40は、第1基準零点角度決定処理を行う(ステップS6)。これにより、第1基準零点角度θB1B2図3参照)が決定される。
【0075】
次に、図7を参照して、回転制御部34による第1基準停止処理(ステップS7)、零点設定部36による第1基準零点処理(ステップS8)、回転制御部34による第1基準回転処理(ステップS9)、および平均値処理部38による第1基準平均処理(ステップS10)が順に行われる。
【0076】
次に、評価装置10は、ステップS10の処理が2回実行されたか否かを判別する(ステップS11)。ステップS10の処理が2回実行されていない場合、評価装置10は、ステップS7の処理に戻る。すなわち、本実施の形態では、ステップS7〜ステップS10の処理が2回繰り返される。
【0077】
ステップS11においてステップS10の処理が2回実行されている場合、角度計算部40は、第2基準零点角度決定処理を行う(ステップS12)。これにより、第2基準零点角度θB3B4図4参照)が決定される。
【0078】
次に、図8を参照して、回転制御部34による第2基準停止処理(ステップS13)、零点設定部36による第2基準零点処理(ステップS14)、回転制御部34による第2基準回転処理(ステップS15)、および平均値処理部38による第2基準平均処理(ステップS16)が順に行われる。
【0079】
次に、回転制御部34は、ステップS16の処理が2回実行されたか否かを判別する(ステップS17)。ステップS16の処理が2回実行されていない場合、評価装置10は、ステップS13の処理に戻る。すなわち、本実施の形態では、ステップS13〜ステップS16の処理が2回繰り返される。
【0080】
ステップS17においてステップS16の処理が2回実行されている場合、角度計算部40による本零点角度決定処理(ステップS18)、回転制御部34による本停止処理(ステップS19)、および零点設定部36による本零点処理(ステップS20)が行われる。これにより、零点設定が終了する。
【0081】
(プログラム)
本発明の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、上述のステップS1〜S20を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施形態に係る評価装置10および零点設定方を実現することができる。この場合、評価装置10となるコンピュータのCPU(Central Processing Unit)は、トルク検出部32、回転制御部34、零点設定部36、平均値処理部38および角度計算部40として機能し、処理を行なう。
【0082】
(本実施形態の効果)
本実施形態においては、トルク検出部32によって検出されるトルク値の零点設定および平均トルク値の算出を繰り返すことによって、本零点角度が決定される。具体的には、トルク伝達軸20aに作用するトルク値が基準トルク値Trに十分に近いときに本零点処理を行うことができるように、本零点角度が決定される。このように決定された本零点角度に基づいて零点設定を行うことによって、トルク伝達軸20aに作用するトルクを、基準トルク値Trに基づいて評価することができる。これにより、例えば、無負荷時にトルク伝達軸20aに作用するトルクが回転角度によって変化する場合でも、その変化の影響を十分に低減した零点設定が可能となり、トルク伝達軸20aに作用するトルクを精度よく検出することができる。
【0083】
また、本実施形態においては、本零点角度を決定する過程において、通常の試験運転と同様に、回転中のトルク伝達軸20aに作用するトルクが、平均トルク(予備平均値、第1基準平均値、および第2基準平均値)として計測される。そして、計測された平均トルクに基づいて本零点角度が決定される。すなわち、本実施形態では、通常の試験運転時の条件(実条件)と同じ条件または近い条件の下で、本零点角度を決定することができる。これにより、実条件に対応した適切な本零点角度を決定することができる。また、通常の試験運転と同様にトルク伝達軸20aを回転させながら、該トルク伝達軸20aに作用するトルクを検出すればよいので、零点設定を行う際の作業効率の低下を防止できる。
【0084】
以上のように、本実施形態によれば、零点設定を適切に行うことができ、供試体に負荷されるトルクを適切に評価することができる。
【0085】
また、本実施形態では、予備平均値Tr(θ),Tr(θ),Tr(θ),Tr(θ)の平均値が、基準トルク値Trに設定される。この場合、試験装置本体12の構成機械要素に起因するトルク計測値への影響(トルク伝達軸20aへの曲げ応力および軸方向の応力)の他、軸芯ずれによる各軸受の摩擦力変化(例えば、中間軸22と中間軸受ユニット24との間の摩擦力変化)等に基づくトルクがトルク伝達軸20aに作用していたとしても、上記摩擦力変化等に基づくトルクを考慮した基準トルク値Trを設定することができる。したがって、トルク伝達軸20aに作用するトルク値が基準トルク値Trに十分に近いときに零点設定を行うことによって、摩擦力変化等の影響による上記検出精度の低下を抑制することができる。
【0086】
(他の実施形態)
上述の実施形態では、供試体30がトルク伝達軸20aに接続されていない状態で零点設定を行う場合について説明したが、供試体30がトルク伝達軸20aに接続されていてもよい。具体的には、例えば、供試体30としてのモータの回転軸を、ダイヤフラムカップリング26に接続した状態で零点設定を行ってもよい。この場合、上述の式(1)のθは、トルク伝達軸20aの回転角度がθのときにモータ(供試体30)のコギングトルクが最小となるように設定される。なお、モータ(供試体30)のコギングトルクは、該モータが無負荷かつ無通電の状態において該モータの回転軸が停止したときに最小となる。
【0087】
また、本実施形態では、上述の式(1)のnの値は、モータ(供試体30)のポール数およびスロット数に基づいて決定される。具体的には、例えば、下記式(A)に基づいてnの値が決定される。
n=LCM/m ・・・(A)
上記式(A)において、mは予め設定される自然数であり、LCMはモータ(供試体30)のポール数およびスロット数の最小公倍数である。
【0088】
なお、上述したように、nは、3以上の自然数である。したがって、本実施形態では、nが3以上の自然数となるように、上記式(A)のmの値が予め設定される。
【0089】
本実施形態では、トルク伝達軸20aの回転角度がθのときに、モータ(供試体30)のコギングトルクが最小となる。また、予備零点角度を求める際に用いられるnの値は、モータ(供試体30)のポール数およびスロット数の最小公倍数を考慮した上記式(A)を用いて決定される。これにより、トルク伝達軸20aの回転角度が各予備零点角度のときに、モータ(供試体30)のコギングトルクを最小の値にすることができる。したがって、本実施形態では、n回の予備零点処理をそれぞれ、モータ(供試体30)のコギングトルクが最小のときに実行することができる。これにより、予備平均処理において、コギングトルクの影響を低減して、トルク伝達軸20aに実際に作用しているトルクを平均トルク(予備平均値)として求めることができる。すなわち、トルク伝達軸20aにモータ(供試体30)が接続された状態でも、トルク伝達軸20aに実際に作用しているトルクを精度よく検出することができる。その結果、トルク伝達軸20aにモータ(供試体30)が接続された状態でも、適切な零点設定が可能になる。
【0090】
(変形例)
上述の(I)の第1基準平均処理において下記式(13)を満たしている場合には、暫定角度θ図2参照)を本零点角度に設定して、上記(J)から(O)の処理を省略して上記(P),(Q)の処理を行い、下記式(13)を満たしていない場合に、上記(J)から(O)の処理を行った後に上記(P),(Q)の処理を行ってもよい。この場合、第1基準平均値Tr(θB1),Tr(θB2)によっては、本零点角度をより短時間で決定することが可能になる。
|Tr(θB1)+Tr(θB2)−2Tr|≦Th ・・・(13)
【0091】
上述の実施形態では、4つの予備零点角度θが90°ごとに設定される場合について説明したが、図9に示すように、3つの予備零点角度θが120°ごとに設定されてもよい。この場合も、上述の実施形態で説明した方法によって、本零点角度を決定することができる。説明は省略するが、5つ以上の予備零点角度が設定されてもよい。
【0092】
上述の実施形態では、予備平均値Tr(θ),Tr(θ),Tr(θ),Tr(θ)の平均値が、基準トルク値Trに設定される場合について説明したが、他の値が基準トルク値Trに設定されてもよい。具体的には、トルク伝達軸20aに摩擦力変化の影響等がほとんど無いと考えられる場合(例えば、供試体試験装置100において中間軸22および中間軸受ユニット24が設けられていない場合)には、基準トルク値Trが零に設定されてもよい。
【0093】
上述の実施形態では、回転制御部34がダイナモ16を駆動制御することによってトルク伝達軸20aの回転動作を制御しているが、回転制御部34が供試体30を制御することによってトルク伝達軸20aの回転動作を制御してもよい。この場合、例えば、供試体30の回転軸をダイヤフラムカップリング26に接続した状態で、上述の零点設定方法が実行される。
【0094】
上述の実施形態では、ダイナモ16と供試体30との間のトルクの伝達経路において、ダイナモ16と中間軸22との間にトルク計20が設けられる場合について説明したが、トルク計20の位置は上述の例に限定されない。例えば、トルクの伝達経路において、トルク計20が、中間軸22と供試体30との間に設けられてもよい。この場合、トルクの伝達経路において、トルク計20と供試体30との間で中間軸22による機械損失(中間軸22と中間軸受ユニット24との間で生じる摩擦等に基づくエネルギー損失)が生じることがない。これにより、供試体30に作用するトルクをトルク計20によってより高精度に検出することができる。また、上述のように、供試体試験装置100において、中間軸22および中間軸受ユニット24が設けられていなくてもよい。この場合、中間軸22および中間軸受ユニット24による機械損失が生じないので、供試体30に作用するトルクをトルク計20によってより高精度に検出することができる。
【0095】
上述の実施形態では、評価装置10がトルク検出部32を備えているが、トルク計20がトルク検出部32を備えていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明は、トルク計によって供試体に負荷されるトルクを検出する種々の装置に利用できる。例えば、モータ等の供試体に試験負荷を与えるダイナモを備えた試験装置において好適に利用できる。
利用可能である。
【符号の説明】
【0097】
10 評価装置
12 試験装置本体
14 ベース
16 ダイナモ
18 ダイヤフラムカップリング
20 トルク計
22 中間軸
24 中間軸受ユニット
26 ダイヤフラムカップリング
28 供試体ブラケット
30 供試体
32 トルク検出部
34 回転制御部
36 零点設定部
38 平均値処理部
40 角度計算部
100 供試体試験装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11