【解決手段】電極用触媒10Aは、導電性を有する担体2と担体上に担持される触媒粒子3aを有する。触媒粒子3aは前記担体上に形成されるコア部4と、コア部の表面の一部を覆うように形成されるシェル部6aとを有する。また、コア部にはPdが含まれており、シェル部にはTi酸化物が含まれている。更に、この電極用触媒は、X線光電子分光分析法(XPS)により測定される表面近傍の分析領域における、Ptの割合R1
【背景技術】
【0002】
固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell:以下、必要に応じて「PEFC」という)は、燃料電池自動車、家庭用コジェネレーションシステムの電源としての研究開発が行われている。
【0003】
PEFCのガス拡散電極に使用される触媒には、白金(Pt)等の白金族元素の貴金属粒子からなる貴金属触媒が用いられている。
例えば、典型的な従来の触媒としては、導電性カーボン粉末上にPt微粒子を担持させた「Pt担持カーボン触媒」(以下、必要に応じ「Pt/C触媒」という)が知られている(例えば、N.E.CHEMCAT社製のPt担持率50wt%のPt/C触媒、商品名:「NE−F50」など)。
PEFCの普及に向け、貴金属触媒の更なる活性向上が課題になっており、この課題を解決するために、様々な研究開発が進められている。
【0004】
これらの研究開発の中で、従来、非白金元素からなるコア部とPtからなるシェル部から形成されるコアシェル構造を有する触媒粒子(以下、必要に応じ「コアシェル触媒粒子」という)が検討されており、触媒活性の向上と、白金の使用量の低減の観点から、多数の報告がなされている。
例えば、特許文献1には、パラジウム(Pd)又はPd合金(コア部に相当)がPt原子の原子的薄層(シェル部に相当)によって被覆された構成を有する粒子複合材(コアシェル触媒粒子)が開示されている。更に、この特許文献1には、実施例としてコア部がPd粒子で、シェル部がPtからなる層であるコアシェル触媒粒子が記載されている。
【0005】
更に、Pt族以外の金属元素を構成元素として含む構成も検討されている。
例えば、Ti酸化物をコア部の構成材料として含む構成が提案されている(例えば、特許文献2〜5)。
【0006】
特許文献2においては、炭素担体上に、コア部がTiO
2、シェル部がTiO
2の還元生成物(TiO
2−y、0<y≦2)とPtとの合金である粒子を担持させた構成の触媒の合成例が開示されている(例えば、特許文献2、実施例10)。
特許文献3には、Ti酸化物をコア部、Ptなどをシェル部とする白金-金属酸化物複合粒子が開示されている(例えば、特許文献3、段落番号0010)。
【0007】
特許文献4には、Pd(0価の金属状態のPd)、Pdと他の一群の貴金属から選ばれる貴金属との合金、それらの混合物、並びに、チタニア(TiO
2)などのセラミック材料を含む内部コア(コア部)と、PtやPt合金などを外部シェル部(シェル部)とする構成の触媒粒子が開示されている(例えば、特許文献4、段落番号0026及び0027)。
特許文献5には、Ti酸化物をからなる内部粒子(コア部)とし、内部粒子の表面の少なくとも一部を被覆するPtを含む最外層(シェル部)を有する構成の燃料電池用触媒が提案されている(例えば、特許文献5、
図1、段落番号0031〜0039)。また、特許文献5には、参考例3として結晶性のTiO
2の表面に白金が存在していることを、高角度散乱暗視野法(High−Angle Annular Dark−Field:以下、必要に応じて「HAADF」と称する)による測定、及び、エネルギー分散型X線分光法(Energy Dispersive X−ray Spectroscopy:以下、必要に応じて「EDS」と称する)による測定により確認できたと記載されている(例えば、特許文献5、段落番号0116、
図4、
図5)。
また、上述した文献の他に、Ti酸化物を構成材料として含む構成の触媒が提案されている(例えば、特許文献6〜7)。
特許文献6には、Pt及びTi酸化物を含む複合体を導電性担体に担持してなる触媒が開示されている。より詳しくは、この触媒は、製造過程においてフッ酸を用いた洗浄処理を施すことにより、触媒表面上のチタン酸化物を除去し、触媒表面が白金で被覆された状態となっている。この状態がTEM−EELS(電子エネルギー損失分光法)分析により確認されている(例えば、特許文献6、段落番号0040、
図6、
図7)。
特許文献7には、燃料電池用白金・チタン酸化物・チタンカーバイド複合触媒が提案されている。この触媒は、チタンカーバイドの表面に、白金微粒子、及び、チタン酸化物を含み且つ当該白金微粒子の周囲を取り巻くチタン酸化物層が備えられている。更にこの触媒では、この白金微粒子中の白金原子とチタンカーバイド表面とが電気的に接触しており、チタン酸化物層が、チタンカーバイドの表面と触媒の表面との間に白金微粒子を介した導電チャンネルを少なくとも1つ備えている。更にこの触媒では、上記導電チャンネル内で、白金微粒子中の白金原子と、チタン酸化物とが結合を有し、チタンカーバイドが数珠状構造を有している(例えば、特許文献7、段落番号0007、
図1)。
【0008】
なお、本件特許出願人は、上記文献公知発明が記載された刊行物として、以下の刊行物を提示する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、導電性の担体上と当該担体上に担持されたコアシェル構造を有する触媒粒子を含む燃料電池用電極触媒に関し、Pt(0価の金属状態のPt)を主成分として含むコア部(特にPt(0価の金属状態のPt)からなるコア部)を有し、当該コア部の表面を部分的に被覆するTi酸化物(特にTiO
2)を主成分として含むシェル部を有する電極用触媒に着目して上述の従来技術をみた場合、Pt/C触媒と比較し、これと同等以上の触媒活性を得るための構成の検討、並びに、実施例によるその実証が十分になされておらず、未だ改善の余地があることを本発明者らは見出した。
【0011】
本発明は、かかる技術的事情に鑑みてなされたものであって、Pt/C触媒と比較し、これと同等以上の触媒活性を有する電極用触媒を提供することを目的とする。
また、本発明は、上記電極用触媒を含む、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(MEA)、及び、燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本件発明者等は、Pt(0価の金属状態のPt)を主成分として含むコア部(特にPt(0価の金属状態のPt)からなるコア部)を有し、当該コア部の表面を部分的に被覆するTi酸化物(特にTiO
2)を主成分として含むシェル部を有する構成を採用する場合について、触媒活性についてPt/C触媒と比較し、これと同等以上の結果を得ることのできる構成について鋭意検討を行った。
その結果、本発明者らは、Pt(Pt単体、即ち0価の金属状態のPd)を主成分として含むコア部(特にPt(0価の金属状態のPd)からなるコア部)を有し、当該コア部の表面を部分的に被覆するTi酸化物(特にTiO
2)を主成分として含むシェル部を有する構成のうち、表面構造が所定の条件(式(1)の条件など)を満たす構成が有効であることを見出し、本発明を完成するに至った。
より具体的には、本発明は、以下の技術的事項から構成される。
【0013】
すなわち、本発明は、
(N1)導電性を有する担体と、
前記担体上に担持される触媒粒子と、
を含んでおり、
前記触媒粒子が、前記担体上に形成されるコア部と、前記コア部の表面の一部を覆うように形成されるシェル部と、を有しており、
前記コア部はPt(0価の金属状態のPt)が含まれており、
前記シェル部にはTi酸化物が含まれており、
X線光電子分光分析法(XPS)により測定される表面近傍の分析領域における、前記Ptの割合R1
Pt(atom%)と、前記Ti酸化物に由来するTiの割合R1
Ti(atom%)とが、下記式(1)の条件を満たしている、
電極用触媒を提供する。
0.15≦(R1
Ti/R1
Pt)≦3.50・・・(1)
【0014】
詳細なメカニズムは十分に解明されていないが、本発明者らは、XPSで分析可能な電極用触媒の触媒粒子の表面近傍の分析領域の化学組成を上記(1)式の条件を満たす構成(Ti酸化物の割合が比較的高い構成)とすることにより、Pt/C触媒と比較し、これと同等以上の触媒活性を得ることができることを見出した。
本発明者らは、触媒粒子の表面又は表面近傍に上記(1)式を満たすTi酸化物が存在することにより、触媒粒子のコア部のPt上での酸素の還元反応が促進されていると推察している。例えば、シェル部のTi酸化物がコア部の表面のうち外部に露出した領域にあるPtの近傍に存在することにより、コア部4の表面のうち外部に露出した領域にあるPt上での酸素の還元反応により生成する生成水が当該Pt上から速やかにTi酸化物の側に移動できるようになり酸素の還元反応が促進されていると推察している。
(R1
Ti/R1
Pt)の値が0.15未満となると上述のTi酸化物の添加による触媒性能の向上効果を得ることが極めて困難になる。また(R1
Ti/R1
Pt)の値が3.50を超えると、電極用触媒の表面において触媒活性の高いPt(0価の金属状態のPt)からなる部分の割合が減り上述のTi酸化物の添加による触媒性能の向上効果を得ることが極めて困難になる。
【0015】
また、本発明において、Pt/Cに比較して、触媒活性(特に、後述の初期のPt質量活性)をより確実に向上させる観点からは、(R1
Ti/R1
Pt)の値は、0.15〜2.50であることが好ましい。
【0016】
ここで、(1)式においては、XPSでPtの割合R1
Pt(atom%)と、Ti酸化物の割合R1
Ti(atom%)を算出する際には、これら2つの成分を合わせた合計が100%となる条件で算出される数値とする。すなわち、電極用触媒の表面近傍の分析領域において、Pt及びTi酸化物の他に検出される炭素の割合(atom%)は計算から外した数値となる。
【0017】
なお、本発明において、XPSは、以下の(A1)〜(A6)条件で測定される。
(A1)X線源:単色化AlKα
(A2)光電子取出確度:θ=75℃(後述する
図2を参照)
(A3)帯電補正:C1sピークエネルギーを284.8eVとして補正
(A4)分析領域:200μm
(A5)分析時のチャンバ圧力:約1×10
−6Pa
【0018】
ここで、本発明において、本発明の効果をより確実に得る観点から「Ti酸化物」は、化学的に安定性の高いTiO
2であることが好ましい。
【0019】
なお、本明細書において、電極用触媒の構成を説明する際に、必要に応じて、「担体上に担持される触媒粒子の構成(主成分となる構成材料)/導電性を有する担体の構成(主成分となる構成材料)」と表記する。
より詳しくは、「シェル部の構成/コア部の構成/担体の構成」と表記する。更に、触媒粒子が、コア部とシェル部との間に中間シェル部を更に有する構成の場合には、「シェル部の構成/中間シェル部の構成/コア部の構成/担体の構成」と表記する。
例えば、電極用触媒の構成が、「Ti酸化物を主成分とするシェル部、Ptを主成分とするコア部、導電性カーボンからなる担体」を有する構成の場合、「TiOx/Pt/C」と表記する。ここで、「TiOx」の「x」は、Ti原子に対するO原子の化学量論係数を示す。
【0020】
ここで、「Ti酸化物を主成分とするシェル部の状態」とは、シェル部に含まれる構成成分のうちTi酸化物成分割合(質量%)が最も多い状態を示す。また、「Ti酸化物を主成分とするコア部の状態」において、シェル部に含まれる構成成分のうちTi酸化物成分の割合が50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。 また、「Ptを主成分とするコア部の状態」とは、コア部に含まれる構成成分のうちPt成分(0価の金属状態のPt)の割合(質量%)が最も多い状態を示す。また、「Ptを主成分とするコア部の状態」において、コア部に含まれる構成成分のうちPt成分の割合が50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
【0021】
また、本発明の(N1)に記載の電極用触媒は、
(N2)前記式(1)における前記R1
Ptが25atom%以上であることが好ましい。
これにより、(N1)に記載の電極用触媒について、当該電極用触媒の表面において触媒活性の高いPt(0価の金属状態のPt)からなる部分の割合を十分に確保でき、本発明の効果をより確実に得ることができる。
【0022】
更に、当該電極用触媒の表面において触媒活性の高いPt(0価の金属状態のPt)からなる部分の割合を十分に確保でき、本発明の効果をより確実に得る観点から、本発明の(N1)又は(N2)に記載の電極用触媒においては、
(N3)前記式(1)における前記Tiの割合R1
Tiが75atom%以下であることが好ましい。
【0023】
また、本発明の(N1)〜(N3)のうちのいずれか1に記載の電極用触媒は、
(N4)粉末X線回折(XRD)により測定される前記触媒粒子の結晶子サイズの平均値が1.5〜14.0nmであることが好ましい。
結晶子サイズの平均値が1.5nm以上であると、担体上にコア部となる粒子を形成することがより容易になる傾向が大きくなるので好ましい。更に、結晶子サイズの平均値が14.0nm以下であると、担体上にコア部となる粒子を高分散状態で形成することがより容易になるので好ましい。
なお、本発明においては、XRDによって観察されるPt(220)面のピークから算出した平均値を触媒粒子の結晶子サイズの平均値としている。
【0024】
さらに、本発明は、
(N5)上述の(N1)〜(N4)のうちのいずれか1に記載の電極用触媒が含有されている、ガス拡散電極形成用組成物を提供する。
本発明のガス拡散電極形成用組成物は、本発明の電極用触媒を含んでいるため、Pt/C触媒を含むガス拡散電極形成用組成物と比較し、これと同等以上の触媒活性(分極特性)を有するガス拡散電極を容易に製造することができる。
【0025】
また、本発明は、
(N6)上述の(N1)〜(N4)いずれか1に記載の電極用触媒が含有されている、ガス拡散電極を提供する。
本発明のガス拡散電極は、本発明の電極用触媒を含んで構成されている。そのため、Pt/C触媒を含むガス拡散電極と比較し、これと同等以上の触媒活性(分極特性)を有する構成とすることが容易となる。
【0026】
さらに、本発明は、
(N7)上述の(N6)記載のガス拡散電極が含まれている、膜・電極接合体(MEA)を提供する。
本発明の膜・電極接合体(MEA)は、本発明のガス拡散電極を含んでいるため、Pt/C触媒をガス拡散電極に含むMEAと比較し、これと同等以上の電池特性を有する構成とすることが容易となる。
【0027】
また、本発明は、
(N8)上述の(N7)記載の膜・電極接合体(MEA)が含まれていることを特徴とする燃料電池スタックを提供する。
本発明の燃料電池スタックは、本発明の膜・電極接合体(MEA)を含んでいるため、Pt/C触媒をガス拡散電極に含むMEAを少なくとも1つ含む燃料電池スタックと比較し、これと同等以上の電池特性を有する構成とすることが容易となる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、Pt/C触媒と比較し、これと同等以上の触媒活性を有する電極用触媒が提供される。
また、本発明によれば、かかる電極用触媒を含む、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極、膜・電極接合体(MEA)、燃料電池スタックが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、適宜図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
<電極用触媒>
図1は、本発明の電極用触媒(コアシェル触媒)の好適な第1実施形態を示す模式断面図である。
【0031】
以下、
図1を参照しながら本発明の電極用触媒(コアシェル触媒)の第1実施形態主な構成について説明する。
図1に示されるように、第1実施形態の電極用触媒10Aは、担体2と、担体2上に形成されるいわゆる「コアシェル構造」を有する触媒粒子3aを含んでいる。
更に、触媒粒子3aは、担体2上に形成されるコア部4と、コア部4の表面の一部を覆うように形成されるシェル部6aとを含む、いわゆる「コアシェル構造」を有する。
また、コア部の構成元素(化学組成)と、シェル部6aとの構成元素(化学組成)は異なる構成となっている。
図1に示す電極用触媒10Aの場合、シェル部6aによってコア部4の表面の一部が被覆された構成となっている。より詳しくは、
図1に示すように、コア部4の表面が部分的に露出した状態(例えば、
図2に示すコア部4の表面の一部4sが露出した状態)となっている。
コア部4にはPt(0価の金属状態のPt)が含まれており、シェル部6aにはTi酸化物が含まれている。この構成(TiOx/Pt/C)とすることにより、シェル部6aに含まれるTi酸化物がコア部4の表面のうち外部に露出した領域(コア部露出面4s)にあるPtの近傍に存在するため、電極用触媒10は、Pt/C触媒と比較し、これと同等以上の触媒活性(酸素還元活性)を有することとなる。
【0032】
ここで、コア部4は良好な触媒活性(水素酸化活性又は酸素還元活性)を容易に得る観点から、Pt(0価の金属状態のPt)のみからなることが好ましい。
また、本発明の効果をより確実に得る観点から、シェル部6aに含まれる「Ti酸化物」は、化学的に安定性の高いTiO
2であることが好ましい。
更に、電極用触媒10Aは、以下の式(1)の条件を満たしている。
即ち、電極用触媒10Aは、X線光電子分光分析法(XPS)で表面近傍を分析した場合、表面近傍の分析領域における、Pt(0価の金属状態のPt)の割合R1
Pt(atom%)と、Ti酸化物に由来するTiの割合R1
Ti(atom%)とが、下記式(1)の条件を満たしている。
0.15≦(R1
Ti/R1
Pt)≦3.50・・・(1)
本発明者らは、電極用触媒10Aの触媒粒子3aの表面近傍の分析領域の化学組成を上記(1)式の条件を満たす構成(Ti酸化物の割合が比較的高い構成)とすることにより、本発明の効果がより確実に得られるようになることを見出した。
【0033】
詳細なメカニズムは十分に解明されていないが、本発明者らは、触媒粒子3aの表面又は表面近傍に上記(1)式を満たすTi酸化物が存在することにより、触媒粒子3aのコア部4のPt上での酸素の還元反応が促進されていると推察している。
例えば、シェル部6aのTi酸化物がコア部4の表面のうち外部に露出した領域(
図1のコア部露出面4s)にあるPtの近傍に存在することにより、コア部4の表面のうち外部に露出した領域にあるPt上での酸素の還元反応により生成する生成水が当該Pt上から速やかにTi酸化物の側に移動できるようになり酸素の還元反応が促進されていると推察している。
(R1
Ti/R1
Pt)の値が0.15未満となると上述のTi酸化物の添加による触媒性能の向上効果を得ることが極めて困難になる。また(R1
Ti/R1
Pt)の値が3.50を超えると、電極用触媒10Aの表面において触媒活性の高いPtからなる部分の割合が減り上述のTi酸化物の添加による触媒性能の向上効果を得ることが極めて困難になる。
【0034】
ここで、本発明において、Pt/Cに比較して、触媒活性(特に、後述の初期のPt質量活性)をより確実に向上させる観点からは、(R1
Ti/R1
Pt)の値は、0.15〜2.50であることが好ましい。
【0035】
また、X線光電子分光分析法(XPS)は、以下の分析条件(A1)〜(A5)で実施しされるものとする。
(A1)X線源:単色化AlKα
(A2)光電子取出確度:θ=75℃
(A3)帯電補正:C1sピークエネルギーを284.8eVとして補正
(A4)分析領域:200μm
(A5)分析時チャンバ圧力:約1×10
−6Pa
ここで、(A2)の光電子取出確度θは、
図2に示すように、エックス線源32から放射されたX線が、試料ステージ34上にセットされた試料へ照射され、当該試料から放射される光電子を分光器36で受光するときの角度θである。すなわち、光電子取出確度θは、分光器36の受光軸と試料ステージ34の試料の層の面との角度に該当する。
【0036】
更に、先に述べたように、電極用触媒10Aは、本発明の効果をより確実に得る観点から以下の条件を満たしていることが好ましい。
また、電極用触媒10Aは、式(1)におけるR1
Ptが25atom%以上であることが好ましい。これにより、電極用触媒10Aの表面において触媒活性の高いPtからなる部分の割合を十分に確保でき、本発明の効果をより確実に得ることができる。
更に、電極用触媒10Aの表面において触媒活性の高いPtからなる部分の割合を十分に確保でき、本発明の効果をより確実に得る観点から、電極用触媒10Aは、式(1)におけるTiの割合R1
Tiが75atom%以下であることが好ましい。
また、本発明の効果をより確実に得る観点から、電極用触媒10Aは、ICP発光分析により測定されるTi酸化物に由来するTiの担持率L
Ti(wt%)が4.0〜8.0wt%であることが好ましい。
【0037】
また、電極用触媒10Aは、粉末X線回折(XRD)により測定される触媒粒子3aの結晶子サイズの平均値が1.5〜14.0nmであることが好ましい。
結晶子サイズの平均値が1.5nm以上であると、担体2上にコア部4となる粒子を形成することがより容易になる傾向が大きくなるので好ましい。更に、結晶子サイズの平均値が14.0nm以下であると、担体2上にコア部4となる粒子を高分散状態で形成することがより容易になるので好ましい。
コア部4は、Pt(0価の金属状態のPt)が含まれている。良好な触媒活性を比較的容易に得る観点から、コア部4は、Pt(0価の金属状態のPt)を主成分として構成されていることが好ましく、Pt(0価の金属状態のPt)から構成されていることがより好ましい。
ここで「Ptを主成分とするコア部4の状態」とは、コア部に含まれる構成成分のうちPt成分(0価の金属状態のPt)の割合(質量%)が最も多い状態を示す。また、「Ptを主成分とするコア部4の状態」において、コア部4に含まれる構成成分のうちPt成分の割合が50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上であることが更に好ましい。
なお、本発明において「平均粒子径」とは、電子顕微鏡写真観察による、任意の数粒子群からなる粒子の直径の平均値のことをいう。
【0038】
担体2は、コア部4とシェル部6aとからなる複合体を担持することができ、かつ表面積の大きいものであれば特に制限されない。
さらに、担体2は、電極用触媒10Aを含んだガス拡散電極形成用組成物中で良好な分散性を有し、優れた導電性を有するものであることが好ましい。
担体2は、グラッシーカーボン(GC)、ファインカーボン、カーボンブラック、黒鉛、炭素繊維、活性炭、活性炭の粉砕物、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素系材料や酸化物等のガラス系あるいはセラミックス系材料などから適宜採択することができる。
これらの中で、コア部4との吸着性及び担体2が有するBET比表面積の観点から、炭素系材料が好ましい。
更に、炭素系材料としては、導電性カーボンが好ましく、特に、導電性カーボンとしては、導電性カーボンブラックが好ましい。
導電性カーボンブラックとしては、商品名「ケッチェンブラックEC300J」、「ケッチェンブラックEC600」、「カーボンEPC」等(ライオン化学株式会社製)を例示することができる。
10A
【0039】
<電極用触媒10Aの製造方法>
電極用触媒10Aの製造方法は、特に限定されず公知の手法を採用できる。
例えば、公知の方法で調製したPt/C触媒と水とを含む分散液中にTi化合物を添加し、還元処理することにより、Pt/C触媒のPt表面にTi酸化物からなるシェル部6aを形成し、TiO
x/Pt/C触媒を得てもよい。
また、例えば、担体2となる導電性カーボンブラック粉体と水とを含む液中にTi化合物を添加し還元処理することにより、担体2上にTi酸化物が担持されたTiO
x/C粒子を調製してもよい。TiO
x/C粒子と水とを含む分散液中に、Pt化合物を添加し還元処理することにより、TiO
x/Pt/C触媒を得てもよい。
なお、電極用触媒10Aを、式(1)など先に述べた好適条件を満たすように構成する方法としては、例えば、生成物(触媒)の化学組成や構造を各種の公知の分析手法を用いて分析し、得られる分析結果を製造プロセスにフィードバックし、選択する原料、その原料の配合比、選択する合成反応、その合成反応の反応条件などを調製・変更する方法などがあげられる。
【0040】
<燃料電池セルの構造>
図3は本発明の電極用触媒を含むガス拡散電極形成用組成物、このガス拡散電極形成用組成物を用いて製造されたガス拡散電極、このガス拡散電極を備えた膜・電極接合体(Membrane Electrode Assembly:以下、必要に応じて「MEA」と略する)、及びこのMEAを備えた燃料電池スタックの好適な一実施形態を示す模式図である。
図3に示された燃料電池スタック40は、MEA42を一単位セルとし、この一単位セルを複数積み重ねた構成を有している。
【0041】
更に、燃料電池スタック40は、ガス拡散電極であるアノード43と、ガス拡散電極であるカソード44と、これらの電極の間に配置される電解質膜45と、を備えたMEA42を有している。
また、燃料電池スタック40は、このMEA42がセパレータ46及びセパレータ48により挟持された構成を有している。
【0042】
以下、本発明の電極用触媒を含む燃料電池スタック40の部材である、ガス拡散電極形成用組成物、ガス拡散電極であるアノード43及びカソード44、並びにMEA42について説明する。
【0043】
<ガス拡散電極形成用組成物>
本発明の電極用触媒をいわゆる触媒インク成分として用い、本発明のガス拡散電極形成用組成物とすることができる。
本発明のガス拡散電極形成用組成物は、本発明の電極用触媒が含有されていることを特徴とする。
ガス拡散電極形成用組成物は上記電極用触媒とイオノマー溶液を主要成分とする。イオノマー溶液の組成は特に限定されない。例えば、イオノマー溶液には、水素イオン伝導性を有する高分子電解質と水とアルコールとが含有されていてもよい。
【0044】
イオノマー溶液に含有される高分子電解質は、特に制限されるものではない。例えば、高分子電解質は、公知のスルホン酸基、カルボン酸基を有するパーフルオロカーボン樹脂を例示することができる。容易に入手可能な水素イオン伝導性を有する高分子電解質としては、ナフィオン(登録商標、デュポン社製)、アシプレックス(登録商標、旭化成株式会社製)、フレミオン(登録商標、旭硝子株式会社製)を例示することができる。
【0045】
ガス拡散電極形成用組成物は、電極用触媒、イオノマー溶液を混合し、粉砕、撹拌することにより作製することができる。
ガス拡散電極形成用組成物の作製は、ボールミル、超音波分散機等の粉砕混合機を使用して調製することができる。粉砕混合機を操作する際の粉砕条件及び撹拌条件は、ガス拡散電極形成用組成物の態様に応じて適宜設定することができる。
ガス拡散電極形成用組成物に含まれる電極用触媒、水、アルコール、水素イオン伝導性を有する高分子電解質の各組成は、電極用触媒の分散状態が良好であり、かつ電極用触媒をガス拡散電極の触媒層全体に広く行き渡らせることができ、燃料電池が備える発電性能を向上させることができるように適宜設定される。
【0046】
<ガス拡散電極>
ガス拡散電極であるアノード43は、ガス拡散層43aと、ガス拡散層43aの電解質膜45側の面に形成された触媒層43bとを備えた構成を有している。
カソード44もアノード43と同様にガス拡散層(図示せず)と、ガス拡散層の電解質膜45側の面に形成された触媒層(図示せず)とを備えた構成を有している。
本発明の電極用触媒は、アノード43及びカソード44のうちの少なくとも一方の触媒層に含有されていればよい。更に、アノード43及びカソード44の両方の触媒層に含有されていることが好ましい。
なお、本発明のガス拡散電極は、アノードとして用いることができ、カソードとしても用いることができる。
本発明に係るガス拡散電極(アノード43及び/又はカソード44)は、本発明の電極用触媒を含んで構成されているため、Pt/Pd/C触媒を含むガス拡散電極と比較し、これと同等以上の触媒活性(分極特性)、耐久性を有し、かつ、低コスト化に寄与できる構成とすることが容易となる。
【0047】
(電極用触媒層)
触媒層43bは、アノード43において、ガス拡散層43aから送られた水素ガスが触媒層43bに含まれている電極用触媒10の作用により水素イオンに解離する化学反応が行われる層である。また、触媒層43bは、カソード44において、ガス拡散層43aから送られた空気(酸素ガス)とアノード43から電解質膜中を移動してきた水素イオンが触媒層43bに含まれている電極用触媒10の作用により結合する化学反応が行われる層である。
【0048】
触媒層43bは、上記ガス拡散電極形成用組成物を用いて形成されている。触媒層43bは、電極用触媒10とガス拡散層43aから送られた水素ガス又は空気(酸素ガス)との反応を十分に行わせることができるように大きい表面積を有していることが好ましい。また、触媒層43bは、全体に亘って均一な厚みを有するように形成されていることが好ましい。触媒層43bの厚みは、適宜調整すればよく、制限されるものではないが、2〜200μmであることが好ましい。
【0049】
(ガス拡散層)
ガス拡散電極であるアノード43、ガス拡散電極であるカソード44が備えているガス拡散層は、燃料電池スタック40の外部より、セパレータ46とアノード43との間に形成されているガス流路に導入される水素ガス、セパレータ48とカソード44との間に形成されているガス流路に導入される空気(酸素ガス)をそれぞれの触媒層に拡散するために設けられている層である。
また、ガス拡散層は、触媒層を支持して、ガス拡散電極の表面に固定化する役割を有している。
【0050】
ガス拡散層は、水素ガス又は空気(酸素ガス)を良好に通過させて触媒層に到達させる機能・構造を有している。このため、ガス拡散層は撥水性を有していることが好ましい。例えば、ガス拡散層は、ポリエチレンテレフタレート(PTFE)等の撥水成分を有している。
【0051】
ガス拡散層に用いることができる部材は、特に制限されるものではなく、燃料電池用電極のガス拡散層に用いられている公知の部材を用いることができる。例えば、カーボンペーパー、カーボンペーパーを主原料とし、その任意成分としてカーボン粉末、イオン交換水、バインダーとしてポリエチレンテレフタレートディスパージョンからなる副原料をカーボンペーパーに塗布したものが挙げられる。
ガス拡散電極であるアノード43、ガス拡散電極であるカソード44は、ガス拡散層、触媒層との間に中間層(図示せず)を備えていてもよい。
【0052】
(ガス拡散電極の製造方法)
ガス拡散電極の製造方法について説明する。本発明のガス拡散電極は本発明の電極用触媒を触媒層の構成成分となるように製造されていればよく、製造方法は特に限定されず公知の製造方法を採用することができる。
例えば、ガス拡散電極は、電極用触媒と水素イオン伝導性を有する高分子電解質と、イオノマーとを含有するガス拡散電極形成用組成物をガス拡散層に塗布する工程と、このガス拡散電極形成用組成物が塗布されたガス拡散層を乾燥させ、触媒層を形成させる工程とを経て製造してもよい。
【0053】
<膜・電極接合体(MEA)>
図3に示す本発明のMEAの好適な一実施形態であるMEA42は、アノード43と、カソード44と、電解質膜45とを備えた構成を有している。MEA42は、アノード43及びカソード44のうちの少なくとも一方に本発明の電極用触媒が含有されたガス拡散電極を備えた構成を有している。
MEA42は、本発明に係るガス拡散電極を含んでいるため、Pt/Pd/C触媒をガス拡散電極に含むMEAと比較し、これと同等以上の電池特性、耐久性を有し、かつ、低コスト化に寄与できる構成とすることが容易となる。
MEA42は、アノード43、電解質300及びカソード44をこの順序により積層した後、圧着することにより製造することができる。
【0054】
<燃料電池スタック>
図3に示す本発明の燃料電池スタックの好適な一実施形態である燃料電池スタック40は、MEA42のアノード43の外側にセパレータ46が配置され、カソード44の外側にセパレータ48が配置された構成を一単位セル(単電池)とし、この一単位セル(単電池)を1個のみとする構成、又は、2個以上集積させた構成(図示せず)を有している。
この燃料電池スタック40は、本発明に係るMEA42を含んでいるため、Pt/Pd/C触媒をガス拡散電極に含むMEAを少なくとも1つ含む燃料電池スタックと比較し、これと同等以上の電池特性、耐久性を有し、かつ、低コスト化に寄与できる構成とすることが容易となる。
なお、燃料電池スタック40に周辺機器を取り付け、組み立てることにより、燃料電池システムが完成する。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0056】
(I)実施例及び比較例の電極用触媒の準備
(実施例1)
<電極用触媒の製造>
【0057】
[Pt/CのPt表面の一部にTiO
2からなるシェル部を形成した「TiO
2/Pt/C」粉末]
下記の「Pt/C」粉末の粒子の表面の一部にTiO
2からなるシェル部が形成された「TiO
2/Pt/C」粉末{商品名「NE−HT140−CB」、N.E.CHEMCAT社製)}を実施例1の電極触媒として製造した。
このTiO
2/Pt/C粉末は、下記のPt/C粉末と水とを含む分散液中にTi化合物を添加し、還元処理することにより、Pt/C触媒のPt表面にTi酸化物からなるシェル部6aを形成させたものである。
また、XRD、XPSを使用した分析結果より、実施例1の電極用触媒について、シェル部を構成するTi酸化物がTiO
2であることが確認された。
【0058】
[コア粒子担持カーボン「Pt/C」粉末]
コア粒子担持カーボン(Pt/C)として、N.E.CHEMCAT社製のPt担持率50wt%のPt/C触媒(商品名:「NE−F50」)の粉末を用意した。
【0059】
<X線光電子分光分析(XPS:X−ray photoelectron spectroscopy)による電極用触媒の表面分析>
実施例1の電極用触媒についてXPSによる表面分析を実施し、Pt(0価の金属状態のPt)の割合R1
Pt(atom%)と、TiO
2に由来するTiの割合R1
Ti(atom%)を測定した。
具体的には、XPS装置として「Quantera SXM」(アルバック・ファイ社製)を使用し、以下の分析条件で実施した。
(A1)X線源:単色化AlKα
(A2)光電子取出確度:θ=75℃(
図3参照)
(A3)帯電補正:C1sピークエネルギーを284.8eVとして補正
(A4)分析領域:200μm
(A5)分析時のチャンバ圧力:約1×10
−6Pa
(A6)測定深さ(脱出深さ):約5nm以下
分析結果を表1に示す。なお、表1に示すPtの割合R1
Pt(atom%)、および、TiO
2に由来するTiの割合R1
Ti(atom%)、については、これらの2成分で100%となるように算出した。すなわち、電極用触媒の表面近傍の分析領域において、Pt及びTiO
2の他に検出される炭素の割合(atom%)は計算から外した数値となる。
【0060】
<担持率の測定(ICP分析)>
実施例1の電極用触媒について、Pt担持率L
Pt(wt%)と、Tiの担持率L
Ti(wt%)とを以下の方法で測定した。
実施例1の電極用触媒を王水に浸し、金属を溶解させた。次に、王水から不溶成分のカーボンを除去した。次に、カーボンを除いた王水をICP分析した。
ICP分析の結果を表1に示す。
【0061】
<電極用触媒の表面観察・構造観察>
実施例1の電極用触媒について、STEM−HAADF像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、Ptからなるコア部の粒子の表面の一部に、TiO
2からなるシェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成を有していることが確認できた。
【0062】
(実施例2〜実施例5)
表1に示した電極用触媒の表面のXPS分析結果(R1
Pt、R1
Ti)、触媒粒子全体のICP分析結果(L
Pt、L
Ti)、触媒粒子の表面のXPS分析結果(R1
Ti/R1
Pt)、を有するように原料の仕込み量、反応条件等を微調整したこと以外は同様の調製条件、同一の原料を使用して、実施例2〜実施例5の電極用触媒を製造した。
また、XRD、XPSを使用した分析結果より、実施例2〜5の電極用触媒についても、シェル部を構成するTi酸化物がTiO
2であることが確認された。
また、XPS分析、ICP分析も実施例1と同一の条件で実施した。
更に、実施例2〜5の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、Ptからなるコア部の粒子の表面の一部に、TiO
2からなるシェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成を有していることが確認できた。
【0063】
(比較例1)
Pt/C触媒として、N.E.CHEMCAT社製のPt担持率50wt%のPt/C触媒(商品名:「NE−F50」)を用意した。この触媒は、実施例1の電極用触媒と同一の担体を原料とするものである。
この比較例1の電極用触媒についても実施例1の電極触媒と同一の条件でXPS分析、ICP分析を実施した。その結果を表1に示す。
【0064】
(比較例2)
<電極用触媒の製造>
[Pt/CのPt表面の一部にTiO
2からなるシェル部を形成した「TiO
2/Pt/C」粉末]
表1に示したR1
Ti、R1
Pt、(R1
Ti/R1
Pt)を有するように構成材料の添加量などを調節したこと以外は、実施例1の電極用触媒と同様の手法・手順で、TiO
2/Pt/C」粉末{商品名「NE−HT130−CB」、N.E.CHEMCAT社製)}を比較例2の電極触媒として用意した。
この比較例2の電極用触媒についても実施例1の電極触媒と同一の条件でXPS分析、ICP分析を実施した。その結果を表1に示す。
また、比較例2の電極用触媒についても、STEM−HAADF 像、EDS elemental mapping 像を確認した結果、Ptからなるコア部の粒子の表面の一部に、TiO
2からなるシェル部の層が形成されたコアシェル構造を有する触媒粒子が導電性カーボン担体に担持されている構成を有していることが確認できた。
【0065】
(II)ガス拡散電極形成用組成物の製造
実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例2の電極用触媒の粉末を約8.0mg秤取り、超純水2.5mLとともにサンプル瓶に入れて超音波を照射しながら混合して電極用触媒のスラリー(懸濁液)を作製した。
次に、別の容器に超純水10.0mLと10wt%ナフィオン(登録商標)分散水溶液((株)ワコーケミカル製、商品名「DE1020CS」)20μLを混合して、ナフィオン−超純水溶液を作製した。
このナフィオン−超純水溶液2.5mLを電極用触媒のスラリー(懸濁液)が入ったサンプル瓶に投入し、室温にて15分間、超音波を照射し、十分に撹拌して、ガス拡散電極形成用組成物とした。
【0066】
(III)評価試験用の電極への触媒層の形成
後述する回転ディスク電極法(RDE法)による電極触媒の評価試験の準備として、回転ディスク電極WE(
図4参照)の電極面上に、実施例1〜実施例5の電極用触媒の粉末を含む触媒層CL(
図4参照)、比較例1〜比較例2の電極用触媒の粉末を含む触媒層CL(
図4参照)を以下の手順で形成した。
すなわち、ガス拡散電極形成用組成物を10μL分取して、回転ディスク電極WEの清浄な表面に滴下した。その後、回転ディスク電極WEの電極面全体に当該組成物を塗布し、塗布膜を形成した。このガス拡散電極形成用組成物からなる塗布膜を温度23℃、湿度50%RHにて、2.5時間乾燥処理し、回転ディスク電極WEの表面に触媒層CLを形成した。
【0067】
(IV)電極用触媒の触媒活性の評価試験
次に、実施例1〜実施例7の電極触媒を含む触媒層CLが形成された回転ディスク電極WEと、比較例1の電極触媒を含む触媒層CLが形成された回転ディスク電極WEとを使用し、触媒活性の評価試験、耐久性の評価試験を以下の手順で実施した。
また、回転ディスク電極法(RDE法)により、以下の手順で+0.9V(vsRHE)での白金質量活性(Mass Act、mA/g-Pt)を測定した。
【0068】
[回転ディスク電極測定装置の構成]
図4は、回転ディスク電極法(RDE法)に用いる回転ディスク電極測定装置50の概略構成を示す模式図である。
図4に示すように、回転ディスク電極測定装置50は、主として、測定セル51と、参照電極REと、対極CEと、回転ディスク電極WEとから構成されている。更に、触媒の評価を実施する場合には、測定セル51中に電解液ESが入れられる。
測定セル51は上面に開口部を有する略円柱状の形状を有しており、開口部には、ガスシール可能な蓋を兼ねた回転ディスク電極WEの固定部材52が配置されている。固定部材52の中央部には回転ディスク電極WEの電極本体部分を測定セル51内に挿入しつつ固定するためのガスシール可能な開口部が設けられている。
測定セル51の隣には、略L字状のルギン管53が配置されている。更にルギン管53の一方の先端部分はルギン毛細管の構造を有し、測定セル51の内部に挿入されており、測定セル51の電解液ESがルギン管53内部にも入るように構成されている。ルギン管53の他方に先端には開口部があり、当該開口部から参照電極REがルギン管53内に挿入される構成となっている。
なお、回転ディスク電極測定装置50としては、北斗電工株式会社製「モデルHSV110」を使用した。また、参照電極REとしてはAg/AgCl飽和電極、対極CEとしてはPt黒付Ptメッシュ、回転ディスク電極WEとしてはグラッシーカーボン社製、径5.0mmφ、面積19.6mm
2の電極をそれぞれ使用した。更に、電解液ESとして0.1MのHCl0
4を用いた。
【0069】
[回転ディスク電極WEのクリーニング]
図4に示すように、上記回転ディスク電極測定装置50内において、HClO
4電解液ES中に回転ディスク電極WEを浸した後、測定セル51の側面に連結されたガス導入管54からアルゴンガスを測定セル51中に導入することにより、アルゴンガスで電解液ES中の酸素を30分以上パージした。
その後、参照電極REに対する回転ディスク電極WEの電位(vsRHE)を、+85mV〜+1085mV、走査速度50mv/secとする、いわゆる「三角波の電位掃引モード」で20サイクル、掃引した。
【0070】
[初期の電気化学表面積(ECSA)の評価]
次に、参照電極REに対する回転ディスク電極WEの電位(vsRHE)を、
図5に示すいわゆる「矩形波の電位掃引モード」で掃引した。
より詳しくは、以下(A)〜(D)で示す操作を1サイクルとした電位掃引を6サイクル行った。
(A)掃引開始時の電位:+600mV、(B)+600mVから+1000mVへの掃引、(C)+1000mVでの電位保持3秒、(D)+1000mVから+600mVへの掃引、(E)+600mVでの電位保持3秒。
次に、回転ディスク電極WEの電位(vsRHE)を、測定開始の電位+119mV、+50mV〜1200mV、走査速度20mV/secとする「三角波の電位掃引モード」にて3サイクル、CV測定を行った。なお、回転ディスク電極WEの回転速度は1600rpmとした。
【0071】
次に、酸素ガスで測定セル51の電解液ESを15分以上バブリングした後、走査電位を135〜1085mV vsRHE、走査速度10mV/secの「三角波の電位掃引モード」にて10サイクル、回転ディスク電極WEの回転速度を1600rpmの条件でCV測定を行った。
回転ディスク電極WEの電位+900mV vsRHEにおける電流値を記録した。
さらに、回転ディスク電極WEの回転速度をそれぞれ400rpm、625rpm、900rpm、1225rpm、2025rpm、2500rpm、3025rpmに設定して、1サイクルごとに酸素還元(ORR)電流測定を行った。
CV測定から得られた結果を利用して、Pt質量活性(Mass Act)(mA/ μg−Pt@0.9V)を算出した。
実施例1〜実施例5、比較例1〜比較例2について得られた結果を表1に示す。
なお、表1においては、比較例1(Pt/Pd/C触媒)のPt質量活性(Mass Act)を1.00とした場合における、実施例1〜実施例5、比較例2のPt質量活性(Mass Act)の相対値を示した。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示したPt質量活性(Mass Act)の結果から、実施例1〜実施例5の電極用触媒[(R1
Ti/R1
Pt)の値が0.15〜3.50]は、比較例1〜比較例2の電極触媒と比較し、同等以上のPt質量活性を有していることが明らかとなった。
【0074】
以上の結果から、本実施例の電極用触媒は、Pt/C触媒と比較し、同等以上の触媒活性を有していることが明らかとなった。