(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-158462(P2017-158462A)
(43)【公開日】2017年9月14日
(54)【発明の名称】農業用マルチシート
(51)【国際特許分類】
A01G 13/00 20060101AFI20170818BHJP
A01M 29/08 20110101ALI20170818BHJP
【FI】
A01G13/00 302Z
A01M29/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-44366(P2016-44366)
(22)【出願日】2016年3月8日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】100089152
【弁理士】
【氏名又は名称】奥村 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】西尾 宏
【テーマコード(参考)】
2B024
2B121
【Fターム(参考)】
2B024DA01
2B024DA03
2B024DB01
2B024DB03
2B024DB05
2B024DB07
2B024DB10
2B121AA11
2B121DA27
2B121EA26
2B121FA13
(57)【要約】
【課題】 夏場において土壌の地温が過度に上昇するのを防止すること及び作物に害虫が付くのを防止することができる農業用マルチシートを提供する。
【解決手段】 この農業用マルチシートは、アルミニウム箔1に合成樹脂製フィルム2が積層接着されてなる。アルミニウム箔1と合成樹脂製フィルム2の間には塗工層3が設けられている。塗工層3中には白色顔料が均一に分散されている。白色顔料は白色顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されてなる。白色顔料本体はルチル型二酸化チタンである。白色顔料本体の多くは、その一次粒子径が20〜50nmのものである。また、塗工層3を設けることなく、合成樹脂製フィルム2中に白色顔料が均一に分散されていてもよい。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム箔と、該アルミニウム箔の表面に積層接着されてなる合成樹脂製フィルムとからなる農業用マルチシートであって、該アルミニウム箔と該合成樹脂製フィルムの間には塗工層が設けられており、該塗工層中には白色顔料が均一に分散されており、該白色顔料は白色顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されており、該白色顔料本体はルチル型二酸化チタンであって、その一次粒子径の大きさは20〜50nmのものが主体であることを特徴とする農業用マルチシート。
【請求項2】
アルミニウム箔と、該アルミニウム箔の表面に積層接着されてなる合成樹脂製フィルムとからなる農業用マルチシートであって、該合成樹脂製フィルム中には白色顔料が均一に分散されており、該白色顔料は白色顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されており、該白色顔料本体はルチル型二酸化チタンであって、その一次粒子径の大きさは20〜50nmのものが主体であることを特徴とする農業用マルチシート。
【請求項3】
積層接着が接着剤を介してなされている請求項1又は2記載の農業用マルチシート。
【請求項4】
アルミニウム箔の裏面にシート材がさらに積層接着されてなる請求項1又は2記載の農業用マルチシート。
【請求項5】
請求項1又は2記載の農業用マルチシートの合成樹脂製フィルム面が大気側となり、アルミニウム箔面が土壌側となるように、該農業用マルチシートを土壌に敷設することを特徴とする農業用マルチシートの敷設方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作物を植えた土壌に敷設するための農業用マルチシートに関し、特に夏場において土壌の地温が過度に上昇するのを防止しうると共に、害虫が作物に付くのを防止しうる農業用マルチシートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
農業用マルチシートは、野菜や果実等の作物を植生する土壌に敷設するものである。農業用マルチシートを敷設する主たる目的は、土壌に雑草を生えるのを防止すること及び土壌の地温が低くなるのを防止することにある。従来より、農業用マルチシートとして、合成樹脂製フィルムや不織布等が用いられている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、合成樹脂製フィルムと長繊維不織布を積層接着されてなる農業用マルチシートが記載されている。かかる農業用マルチシートは、上記した主たる目的を達成しうるものであるが、夏場においては土壌の地温が過度に上昇し、作物に悪影響を与えることがあった。また、かかる農業用マルチシートは、害虫から作物を守るための工夫は何らなされていないものである。
【0004】
【特許文献1】特開2006−334997号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、夏場において土壌の地温が過度に上昇するのを防止することができると共に、作物に害虫が付くのを防止することができる農業用マルチシートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、赤外線を良好に反射しうるアルミニウム箔を農業用マルチシートの素材にすると共に、合成樹脂製フィルム自体又は合成樹脂製フィルム面に特定の顔料を含ませたものである。すなわち、本発明は、アルミニウム箔と、該アルミニウム箔の表面に積層接着されてなる合成樹脂製フィルムとからなる農業用マルチシートであって、該アルミニウム箔と該合成樹脂製フィルムの間には塗工層が設けられており、該塗工層中には白色顔料が均一に分散されており、該白色顔料は白色顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されており、該白色顔料本体はルチル型二酸化チタンであって、その一次粒子径の大きさは20〜50nmのものが主体であることを特徴とする農業用マルチシートに関するものである。また、アルミニウム箔と、該アルミニウム箔の表面に積層接着されてなる合成樹脂製フィルムとからなる農業用マルチシートであって、該合成樹脂製フィルム中には白色顔料が均一に分散されており、該白色顔料は白色顔料本体表面が合成樹脂膜によって被覆されており、該白色顔料本体はルチル型二酸化チタンであって、その一次粒子径の大きさは20〜50nmのものが主体であることを特徴とする農業用マルチシートに関するものである。
【0007】
本発明に用いるアルミニウム箔としては、従来公知の軟質アルミニウム箔や硬質アルミニウム箔等が用いられるが、本発明においては土壌に敷設しやすいように軟質アルミニウム箔を用いるのが好ましい。アルミニウム箔の厚さは任意であるが、5〜50μm程度のものが用いられる。
【0008】
アルミニウム箔の表面に積層接着されてなる合成樹脂製フィルムとしては、従来から用いられているポリ塩化ビニル製フィルム、ポリエステル製フィルム又はポリオレフィン製フィルム等が用いられる。また、合成樹脂製フィルムの厚みは、10〜100μm程度のものが用いられる。
【0009】
アルミニウム箔と合成樹脂製フィルムの間には、塗工層が設けられている。塗工層は、白色顔料が分散されてなる樹脂で構成されている。すなわち、白色顔料が分散されてなる塗料を塗工して設けられたものである。塗料中の樹脂としては、従来公知の任意の樹脂を用いうるが、特に酢酸ビニル、塩化ビニル又は酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体などを用いるのが好ましい。また、塗料中の溶剤としても、従来公知の各種有機溶剤を用いうるが、特にケトン類などを用いるのが好ましい。塗料を構成する白色顔料と樹脂との重量比は、任意ではあるが、概ね等量であるか又は白色顔料が若干多い方が好ましい。また、塗料中の溶剤は、所望の粘度となるよう適宜配合される。
【0010】
本発明で用いる白色顔料は、白色顔料本体と、この本体表面に被覆された合成樹脂膜とよりなる。白色顔料本体としては、ルチル型二酸化チタンが用いられる。ルチル型以外の二酸化チタン、たとえばアナターゼ型の二酸化チタンを用いると、赤外線透過性が低下し、赤外線を吸収する傾向が生じ、塗工層の温度ひいては農業用マルチシートの温度が上昇するので好ましくない。また、このルチル型二酸化チタンは、紫外線を良好に散乱させるもので、紫外線を透過させにくいものである。
【0011】
本発明で用いる白色顔料本体の多くは、20〜50nmの一次粒子径を持つものが採用される。白色顔料本体の多くが、50nmを超える一次粒子径を持つものであると、赤外線透過性が低下し、赤外線を吸収する傾向が生じ、塗工層の温度ひいては農業用マルチシートの温度が上昇するので好ましくない。なお、20nm未満の一次粒子径を持つ白色顔料本体は、合理的に製造しにくく実用的ではない。ここで、白色顔料本体の一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(株式会社日立製作所製「S−2100B」)を用いて測定されるものである。
【0012】
白色顔料本体表面には合成樹脂膜が被覆されている。合成樹脂膜で被覆することにより、白色顔料が凝集しにくくなり、分散性が良好となるので、赤外線も透過しやすくなると考えられる。合成樹脂膜を形成している合成樹脂としては、任意の合成樹脂を用いることができるが、具体的には、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体樹脂などを使用するのが好ましい。
【0013】
白色顔料本体表面を合成樹脂膜で被覆するには、加熱溶融させた酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体などの合成樹脂に、白色顔料本体を分散させ、その後、合成樹脂を冷却固化すればよい。また、グリコールなどの溶剤に合成樹脂を溶解させ、ここに白色顔料本体を分散させ、その後、溶剤を乾燥除去すればよい。白色顔料本体と合成樹脂膜との重量比は任意ではあるが、概ね、白色顔料本体:合成樹脂膜=80〜60:20〜40であるのが好ましい。
【0014】
本発明に係る農業用マルチシートは、アルミニウム箔と合成樹脂製フィルムの間に塗工層を設けたものであるが、塗工層を設けずに、合成樹脂製フィルム中に前記した白色顔料を分散させておいてもよい。すなわち、合成樹脂フィルムを作成する前の合成樹脂ペレット中に、前記した白色顔料を添加し均一に混合した後、押出加工等の方法で合成樹脂製フィルムを製造すれば、合成樹脂製フィルム中に白色顔料が均一に分散されてなる合成樹脂製フィルムを得ることができる。
【0015】
本発明に係る農業用マルチシートの具体的態様としては、
図1乃至
図3に示した態様のものが挙げられる。
図1は、アルミニウム箔1と合成樹脂製フィルム2の間に塗工層3を設けたもので、一番単純なものである。塗工層3を設けるには、アルミニウム箔1に塗料を塗工した後、合成樹脂製フィルム2を積層接着させてもよいし、また合成樹脂製フィルム2に塗料を塗工した後、アルミニウム箔1を積層接着させてもよい。
図2は、合成樹脂製フィルム2の片面に塗料を塗工して塗工層3を設けたものを、接着剤4を介して、アルミニウム箔1に積層接着させてなるものである。接着剤4としては、従来公知の感熱性接着剤や感圧性接着剤等を用いることができる。
図3は、
図2のアルミニウム箔1の他面(裏面)に、接着剤4を介してシート材5を積層接着したものである。シート材5としては、表面に用いた合成樹脂製フィルム1と同一のものでもよいし、不織布等の他の素材であってもよい。本発明に係る農業用マルチシートは、前記した具体的態様に限られず、様々の変形態様が可能である。たとえば、塗工層3をアルミニウム1の片側のみではなく、両側に配したものであってもよい。
【0016】
本発明に係る農業用マルチシートは、作物を生育させる土壌に敷設するのであるが、合成樹脂製フィルム面が大気側となり、アルミニウム箔面が土壌側となるようにして敷設する。赤外線が塗工層を透過するようにし、透過した赤外線をアルミニウム箔によって外部に反射させるためである。また、紫外線を塗工層で散乱させるためである。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る農業用マルチシートは、赤外線を吸収せずにアルミニウム箔によって外部に反射させるので、農業用マルチシートの温度が上昇せず、特に夏場において土壌の地温が過度に上昇するのを防止することができる。また、本発明に係る農業用マルチシートは、紫外線を塗工層によって散乱させるので、紫外線を好む害虫が農業用マルチシートに付いたり、作物に付いたりするのを防止しうるという特有の効果を奏する。
【実施例】
【0018】
実施例
[白色顔料の準備]
酢酸ビニル−塩化ビニル共重合体45重量部をロール分散機上で加熱溶融させ、そこに、その多くが一次粒子径20〜50nmであるルチル型二酸化チタン55重量部を添加して分散させて、平均粒径200nm程度の白色顔料を得た。
【0019】
[塗料の準備]
前記白色顔料45gを、塩化ビニル系樹脂40gをシクロヘキサノン200gに溶解させた樹脂溶液に添加して、1時間、塗料分散機で混合分散させて、塗料を得た。
【0020】
[塗工層を設けた合成樹脂製フィルムの製造]
厚さ12μmの透明ポリエステルフィルムの表面に、前記塗料をバーコーター♯6で塗布して、ポリエステルフィルム表面に塗工層が設けられた合成樹脂製フィルムを得た。
【0021】
[農業用マルチシートの製造]
合成樹脂製フィルムの塗工層面に、アクリル系の感圧性接着剤により厚さ15μmの軟質アルミニウム箔を積層し、農業用マルチシートを得た。
【0022】
比較例
厚さ12μmの透明ポリエステルフィルムに塗工層を設けることなく、そのままアクリル系の感圧性接着剤により厚さ15μmの軟質アルミニウム箔を積層し、農業用マルチシートを得た。
【0023】
実施例及び比較例で得られた合成樹脂製フィルムの光線透過率を、日本分光株式会社製の分光光度計「V−570」を用いて測定した。各波長における透過率は、以下の表1のとおりであった。
【0024】
[表1]
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
波長(nm) 透 過 率 (%) ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
実施例 比較例
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
2400 80.45 76.45
2200 91.55 85.51
2000 84.87 81.80
1800 85.86 93.31
1600 79.12 80.51
1400 85.60 84.62
1200 87.99 87.46
1000 86.53 86.79
800 84.45 89.58
700 79.38 85.18
650 76.33 83.69
600 72.79 83.02
550 69.22 82.41
500 62.39 81.57
450 52.77 80.31
400 35.08 78.60
390 29.19 77.87
380 22.16 76.87
370 15.48 76.15
360 8.79 75.38
350 4.59 74.13
340 1.53 72.71
330 0.36 71.01
320 0.07 63.59
310 0.00 8.86
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【0025】
表1の結果から明らかなとおり、実施例で用いた塗工層を設けた合成樹脂製フィルムは、赤外線領域では比較例で用いた合成樹脂製フィルムと同等又はそれ以上の透過率であり、アルミニウム箔によって良好に赤外線が反射されることが分かる。さらに、紫外線領域においては、実施例で用いた塗工層を設けた合成樹脂製フィルムは、比較例で用いた合成樹脂製フィルムに比べて、紫外線をほとんど透過させずに散乱させているので、害虫が農業用マルチシートに付くのを防止しうるものと認められる。よって、実施例に係る農業用マルチシートを用いれば、夏場における土壌の地温が過度に上昇するのを防止しうると共に、害虫が作物に付くのを防止しうるものと認められる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の一例に係る農業用マルチシートの模式的断面図である。
【
図2】本発明の他の例に係る農業用マルチシートの模式的断面図である。
【
図3】本発明の他の例に係る農業用マルチシートの模式的断面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 アルミニウム箔
2 合成樹脂製フィルム
3 塗工層
4 接着剤
5 シート材