【解決手段】鋏Sは、一対の刃体1、2の平部1a、2aを上下に小間隔を存して枢着する枢着部を備える。前記枢着部は、上側刃体1を上下に貫通する貫通孔1cに鍔部31aより下側部分が嵌められる鍔付筒体31と、下部が下側刃体2に固定されるとともに、上部が鍔付筒体31に回動可能に挿着される軸体32と、上側刃体1と鍔部31aとの間に上側刃体1の長手方向に自身を起点とした隙間を形成させる支点部31bと、支点部31bを利用して鍔付筒体31の上側刃体1に対する長手方向の傾斜角を調整可能とする調整部36と、を有する。
前記調整部は、前記鍔部を上下に貫通する挿通孔に挿通されるとともに、前記上側刃体に設けられて上下に延びる第2の螺子孔に螺着される調整用螺子を有することを特徴とする請求項1に記載の鋏。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に記載の構造によれば、上述した利点が得られるものの、鋏の使い方(力の入れ方など)には個人差が大きく、鋏をこじって使用すると、弾性安定板が歪んで上下の刃が噛み合い摺接する力を十分に抑制することが出来ない虞がある。この場合には、両刃体に無理な力がかかり、刃が傷んでしまう要因となる。ここで、鋏をこじって使用するとは、刃体同士の噛合力を大きくするように偏った方向に力を加えて鋏の開閉操作を行うことを指している。
【0007】
なお、理髪用鋏の使用時には、手によるこじりの圧力は1〜1.5kgにも達する。この時に交差する要から近い刃元部における上下刃部同士の噛み合い圧力は、枢着部の抵抗により個々の差は生ずるが、単純な梃子の計算からすると7〜10kgにも達すると考えられる。経験上、使用により実際に鋭利に研磨された刃部は、変形を起こしバリとなって反対側に反ることが判っている。そのため、当該作業時の手によるこじりの力をどのように抑制するかは大きな課題となってきた。
【0008】
また、例えば二個のボールベアリングを5mm間隔で枢着部のホルダー部に装填した場合、梃子の単純計算では21kg(=要中心から指環の作用点の距離70mm/5mm×1.5kg)から刃部に伝わっている力を引いた圧力が、ボールベアリングの周辺に加わることになる。この圧力の大きさは小さなボールベアリングの耐圧限界を大きく超えており、ボールベアリングが破損し易くなる。更に理髪用鋏は、耐圧力の向上に加え、使い易さ等の観点から小型化が強く望まれる。それ故に理髪用鋏の分野では、小さな空間内に制限された状況下での構造を左右する耐圧力に配慮した設計は、特に重要となる。
【0009】
本発明は上述した問題点に鑑み、円滑な開閉操作を長期間可能とし得る鋏であって、構造を簡素化することにより耐圧力を向上させ、両刃体同士の噛合圧力を簡単かつ精度良く調整できる鋏を提供することを目的とする。また、本発明は、そのような鋏と、その調整を行うための工具とを備える鋏セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明の鋏は、一対の刃体の平部を上下に小間隔を存して枢着する枢着部を備える鋏であって、前記枢着部は、上側刃体を上下に貫通する貫通孔に鍔部より下側部分が嵌められる鍔付筒体と、下部が下側刃体に固定され、上部が前記鍔付筒体に回動可能に挿着される軸体と、前記上側刃体と前記鍔部との間に、当該上側刃体の長手方向に自身を起点とした隙間を形成させる支点部と、前記支点部を利用して前記鍔付筒体の前記上側刃体に対する長手方向の傾斜角を調整可能とする調整部と、を有することを特徴とする。
【0011】
この構成によると、下側刃体が軸体を介して鍔付筒体と一体となっているために、調整部を用いて上側刃体に対する下側刃体の傾斜角を変更することが可能である。すなわち、この構成の鋏においては、利用者の癖に対応して一対の刃体の噛合圧力の微調整を行うことが可能であり、手のこじりの圧力によって刃部が変形を起すことを抑制できる。また、傾斜角の変更に支点部が利用される構成であるために、噛合圧力の微調整を簡単且つ精度良く行うことが可能であり、鋏を簡素な構造として耐圧力を向上することも可能である。
【0012】
上記構成の鋏において、前記調整部は、前記鍔部を上下に貫通する挿通孔に挿通されるとともに、前記上側刃体に設けられて上下に延びる第2の螺子孔に螺着される調整用螺子を有するのが好ましい。この構成によれば、調整部を螺子で構成しているために鋏を簡素な構造にし易い。
【0013】
上記構成の鋏において、前記上側刃体の短手方向に前記軸体を挟むように、一対の前記支点部が配置された構成としてもよい。また上記構成の鋏において、前記挿通孔及び前記第2の螺子孔は、前記長手方向に前記軸体を挟むように一対設けられ、前記調整部は、前記調整用螺子を一対有するのが好ましい。この構成によると、調整部による噛合圧力の微調整が行い易い。
【0014】
上記構成の鋏において、前記枢着部は、前記鍔付筒体に挿着されるとともに、前記軸体が挿着されるベアリングを有するのが好ましい。この構成によると、上側刃体と下側刃体との間の相対回動をスムーズに行い易い。
【0015】
上記構成の鋏において、前記一対の支点部は、前記鍔部の下面に一体的に設けられてよい。
【0016】
上記構成の鋏において、前記軸体は、前記下側刃体に設けられて上下に延びる第1の螺子孔に下部が螺着され、前記第1の螺子孔は、前記下側刃体を上下に貫通し、前記第1の螺子孔には、前記軸体の下面に当接する薄螺子体が螺着されてよい。この構成では、軸体の上下方向の位置を二重螺子によって調整できるために、一対の刃体の平部間の小間隔の微調整を安定して行うことができる。
【0017】
上記構成の鋏において、前記軸体の下面部には、第1の調整具を挿入する調整孔が形成され、前記薄螺子体には、前記調整孔を露出させる開口部が形成されており、前記調整孔に挿入した前記第1の調整具を用いて、前記軸体の螺進および螺退が可能である構成を採用してもよい。この構成によると、軸体の上下方向の位置を調整するために薄螺子体を外す必要がないので便利である。
【0018】
上記構成の鋏において、前記薄螺子体には、第2の調整具と係合する係合部が形成され、前記係合部に係合した前記第2の調整具を用いて、前記薄螺子体の螺進および螺退が可能である構成を採用してもよい。この構成によると、薄螺子体の回動調整が行い易い。
【0019】
また本発明の鋏セットは、上記構成の鋏と、前記第1および第2の調整具と、を含み、
前記第1の調整具を前記調整孔に挿入した状態において、前記第2の調整具を前記係合部に係合させることが可能であることを特徴とする。本構成によれば、軸体と薄螺子体の螺進および螺退を同時に制御することができ、適切な位置調整が容易となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、円滑な開閉操作を長期間可能とし得る鋏であって、構造を簡素化することにより耐圧力を向上させ、両刃体同士の噛合圧力を簡単かつ精度良く調整できる鋏を提供することができる。また、本発明によると、そのような鋏と、その調整を行うための工具とを備える鋏セットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態に係る鋏及び鋏セットについて、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本明細書では、重ねて配置される一対の刃体の平部の重なり方向を上下方向と定義する。
<1.鋏の概略構成>
【0023】
図1は、本発明の実施形態に係る鋏Sの概略斜視図である。
図1は、鋏Sが閉じた状態を示す。
図2は、本発明の実施形態に係る鋏Sの一部を拡大して示した概略平面図である。
図2は、鋏Sが開いた状態を示す。
図1及び
図2に示すように、鋏Sは、細長く延びる一対の刃体1、2を備える。各刃体1、2は、長手方向の略中央部に平板状に形成される平部1a、2aを有する。各刃体1、2の長手方向一方側の端部には、リング状部1b、2bが設けられる。第1のリング状部1bは、いわゆる指掛輪である。第2のリング状部2bは、いわゆる親指輪である。また、各刃体1、2は、平部1a、2aから長手方向他方側の端部(以下、刃体1、2の先端部と表現する)にかけて鋭利な刃が形成される。
【0024】
鋏Sは、一対の平部1a、1bを上下に小間隔を存して枢着する枢着部3を備える。鋏Sは、枢着部3を中心として一対の刃体1、2が相対回動して開閉する。各刃体1、2は、先端部に向かって互いに接近する方向に撓んだ状態になっている。鋏Sが閉じられた状態では、一対の刃体1、2の先端部が噛合部となる。噛合部の位置は、鋏Sの開閉によって移動する。鋏Sが開かれた状態では、一対の刃体1、2の刃が交差す交差点4(
図2参照)が噛合部になる。噛合部において、頭髪等の切断が行われる。
<2.枢着部の詳細構成>
【0025】
図3は、本発明の実施形態に係る鋏Sが備える枢着部3及びその周辺を拡大して示した概略斜視図である。
図4は、本発明の実施形態に係る鋏Sが備える枢着部3の分解斜視図である。
図5は、
図2のA−A位置で切断した枢着部の概略断面図である。
図6は、
図2のB−B位置で切断した枢着部の概略断面図である。
図3から
図6を参照して、鋏Sが備える枢着部3の構成について詳細に説明する。
【0026】
枢着部3は鍔付短筒体31を有する。鍔付短筒体31は本発明の鍔付筒体の一例である。鍔付短筒体31は、上下方向に延びる環状の筒体の外周に板状の鍔部31aが設けられた構成である。鍔部31aは、詳細には、筒体の上下方向の中央部よりやや下側に設けられる。鍔部31aは、上面視において、上側刃体1の長手方向(
図5の左右方向、
図6において紙面と垂直な方向)が長軸方向となる長円形状である。鍔部31aの形状は、これに限定されず、例えば上面視において矩形状や円形状等であってもよい。
【0027】
鍔部31aの下面には、上側刃体1の短手方向(
図5において紙面と垂直な方向、
図6の左右方向)に間隔をおいて配置される一対の突起部31bが形成される。一対の突起部31bは、後述の軸体32を挟むように配置される。各突起31bは、本実施形態においては、下面視において略円形状である。各突起31bの形状は、これに限定されず、例えば下面視において短手方向に延びる矩形状等であってもよい。各突起31bの先端(下端)は、丸みを帯びているのが好ましい。一対の突起31bは同じ形状であるのが好ましい。なお、一対の突起部31bは、本発明の一対の支点部の一例である。一対の突起部31bは、上側刃体1と鍔部31aとの間に、上側刃体1の長手方向に自身を起点とした隙間を形成させる役割を果たす。これにより一対の突起部31bを支点としたシーソーのような構造が得られ、上側刃体1に対して鍔部31aを傾斜させることが可能である。
【0028】
鍔部31aには、上側刃体1の長手方向に間隔をおいて配置される一対の挿通孔31cが形成される。一対の挿通孔31cは、鍔付短筒体31の筒体部分を挟むように配置される。また、一対の挿通孔31cは、後述の軸体32を挟むように配置される。各挿通孔31cは、上面視において略円形状に設けられる。各挿通孔31cは、詳細には、大径の貫通孔と、小径の貫通孔とが上下に重なった形状を有する。換言すると、各挿通孔31cは、上側が幅広、下側が幅狭となる段差構造を有する。詳しくは後述するが、この構造により、鍔部31a上面における調整用螺子36の突出量を小さくすることが出来る。各挿通孔31cの形状は、これに限定されず、その形状は適宜変更されてよい。
【0029】
上側刃体1の平部1aには、上下方向に貫通する貫通孔1cが形成される。貫通孔1cは、上面視において略円形である。鍔付短筒体31は、鍔部31aより下側の筒体部分が貫通孔1cに嵌められる。鍔付短筒体31が貫通孔1cに嵌められた状態において、一対の突起部31bは上側刃体1の平部1aの上面に当接する。
【0030】
枢着部3は軸体32を有する。軸体32は、上下方向に延びる円柱状の軸部の下端に大口径螺子部32aを有する。略円柱状の大口径螺子部32aの下端中央部には、上方向に延びる第1の六角孔32bが形成される。第1の六角孔32bは、本発明の調整孔の一例である。下側刃体2の平部2aには、上下方向に延びる第1の螺子孔2cが形成される。第1の螺子孔2cは、本実施形態では、下側刃体2の平部2aを貫通する。第1の螺子孔2cは、上面視において略円形である。軸体32は、大口径螺子部32aが第1の螺子孔2cに螺着されることによって下側刃体2に固定される。換言すると、軸体32は、下部が下側刃体2に螺着される。
【0031】
軸体32は、大口径螺子部32aより上側にある軸部(軸体32の上部)が鍔付短筒体31に回動可能に挿着される。枢着部3は、鍔付短筒体31に挿着されるベアリングを有する。ベアリングは、本実施形態では一例としてボールベアリングである。詳細には、鍔付短筒体31の内側の上部側に上側ボールベアリング33が配置される。また、鍔付短筒体32の内側の下部側に下側ボールベアリング34が配置される。軸体32は、2つのボールベアリング33、34に挿着されている。詳細には、軸体32は、2つのボールベアリング33、34の中央部に形成される貫通孔に挿入された状態になっている。これにより、軸体32は、鍔付短筒体31に対して回動可能に取り付けられている。
【0032】
軸体32の軸部上面には、下方向に延びる第3の螺子孔32cが形成される。上側ベアリング33の上部には、上側鍔部33aが設けられる。下側ベアリング34の下部には、下側鍔部34aが設けられる。上側鍔部33aは鍔付短筒体31の上端に当接する。下側鍔部34aは、鍔付短筒体31の下端に当接する。第3の螺子孔32cに螺合して締め付けられた締付螺子35は、その頭部35aによって、上側ボールベアリング33の上端内側を押圧する。そして、下側ボールベアリング34の下端内側が大口径螺子部32aに押圧される。これにより、鍔付短筒体31、軸体32、及び、2つのボールベアリング33、34は一体化されている。
【0033】
なお、本実施形態では、締付螺子35を用いて、4つの部材31〜34(鍔付短筒体31、軸体32、及び、2つのボールベアリング33、34)の一体化が行われているが、これは例示にすぎない。例えば、螺子の代わりにナットを用いて、4つの部材31〜34の一体化が行われてもよい。この場合には、軸体32の軸部に雌螺子を設けるのではなく、軸体32の上部を上側ベアリング33より突出させ、この突出部分の外周に雄螺子を設ければよい。また、2つのボールベアリング33、34を鍔付短筒体31や軸体32に接着固定して、4つの部材31〜34を一体化してもよい。
【0034】
また、軸体32が鍔付短筒体31に回動可能に取り付けられればよいので、場合によっては、2つのボールベアリング33、34は設けられなくてもよい。この場合、軸体32が鍔付短筒体31から脱落しないように構成する必要がある。ボールベアリングを用いた方が、上側刃体1と下側刃体2との間の相対回動をスムーズにし易い。
【0035】
枢着部3は、一対の調整用螺子36を有する。各調整用螺子36の頭部36aの上面には、下方向に延びる第2の六角孔36bが形成される。一対の調整用螺子36は、一対の挿通孔31cに挿通される。また、一対の調整用螺子36の挿通孔31cから突出する部分の一部は、上側刃体1に設けられて上下方向に延びる一対の第2の螺子孔1dに螺着される。本実施形態では、一対の第2の螺子孔1dは、上側刃体1の平部1aを貫通する。一対の第2の螺子孔1dは、長手方向に貫通孔1cを挟む。別の言い方をすると、一対の第2の螺子孔1dは、貫通孔1dに挿通される軸体32を挟むように設けられる。各調整用螺子36は、頭部36aが各挿通孔31cの大径の貫通孔部分に挿入された状態で第2の螺子孔1dに螺着される。このために、各調整用螺子36は、鍔部31a上面からの突出量を小さく抑制できる。なお、鍔部31a上面における調整用螺子36の突出量を小さくする他の工夫として、調整用螺子36の頭部36aを薄く形成しても良い。このようにすれば、挿通孔31cに大径の貫通孔部分が設けられなくても、調整用螺子36の突出量を十分に小さくすることができる。また薄く形成された頭部36aの上側に、例えばプラス型(又はマイナス型)の溝が設けられていれば、汎用のプラスドライバ(又はマイナスドライバ)を用いて調整用螺子36を回転させることが出来るため便利である。また、調整用螺子36として、いわゆる皿ねじ(上面が平らで座面が円錐形の頭部を有する螺子)を使用しても良い。更にこの場合、挿通孔31cに大径の貫通孔部分を設ける代わりに、挿通孔31cの上側に当該円錐形に合わせた形状(すり鉢のような形状)の窪みを設けると良い。これにより、調整用螺子36として皿ねじを利用しながら、鍔部31a上面における調整用螺子36の突出を抑えることが可能である。一対の調整用螺子36は、鍔付短筒体31を上側刃体1に固定する機能を有する。
【0036】
枢着部3は、略円柱状の薄螺子体37を有する。薄螺子体37は、その外側面に、第1の螺子孔2cの内面に形成される雌螺子に螺合する雄螺子が形成される。第1の螺子孔2cに螺着される薄螺子体37は、軸体32の下面に当接する。詳細には、薄螺子体37は、大口径螺子部32aの下面に当接する。薄螺子体37は、大口径螺子部32aとともに二重螺子構造を形成し、軸体32の安定した締結を可能とする。
【0037】
薄螺子体37の中央部には、下面視において第1の六角孔32bを露出させる開口部37aが形成される。開口部37aは、薄螺子体37を上下方向に貫通しており、第1の六角孔32b全体を露出させる。本実施形態では、開口部37aは、下面視において略円形であるが、これは例示であって矩形状等の他の形状であってもよい。薄螺子体37は、開口部37aを挟むように一対の係合孔37bを有する。各係合孔37bは、下面視において略円形であるが、これは例示であって矩形状等の他の形状であってもよい。係合孔37bは、本発明の係合部の一例である。
【0038】
次に、以上のように構成される枢着部3の作用効果について説明する。
図7は、本発明の実施形態に係る鋏Sが備える枢着部3の調整に使用する調整具5、6の一例を示す概略斜視図である。
図8は、
図7に示す調整具5、6を枢着部3の所定の位置に取り付けた状態を示す概略断面図である。
【0039】
第1の調整具5は六角レンチである。第1の調整具5は、軸体32に形成される第1の六角孔32bに挿入して使用される。第2の調整具6は、板状の本体部の一端寄りに設けられる貫通孔6aと、貫通孔6aを挟むように設けられる一対の凸部6bとを有する。貫通孔6a及び各凸部6bは、平面視において略円形である。貫通孔6aの直径は、第1の調整具5を挿通して回転できるサイズとされる。第2の調整具6は、一対の凸部6bを、薄螺子体37に形成される一対の係合孔37bに挿入して使用される。
【0040】
図7及び
図8に示す例では、第1の調整具5は、第2の調整具6の貫通孔6a及び薄螺子体37の開口部37aに挿通された状態で、第1の六角孔32bに挿入される。第1の調整具5及び第2の調整具6を適宜回動させることによって、大口径螺子部32a及び薄螺子体37を螺進又は螺退させて、軸体32を上下させることができる。軸体32の上下によって、上側刃体1の平部1aと下側刃体2の平部2aとの上下方向の間隔を調整できる。大口径螺子部32a及び薄螺子体37を用いた二重螺子構造であるために、2つの平部1a、2a間の間隔の微調整を安定して行うことができ、また、大口径螺子部32aを第1の螺子孔2cへ強固に螺着させ、鋏Sの長期使用等によって大口径螺子部32aが意図せずに回転することを極力抑えることができる。また、本例では、薄螺子体37に開口部37aが形成されているために、軸体32の調整のために薄螺子体37をいちいち外す必要がなく便利である。
【0041】
第1の調整具5及び第2の調整具6を用いて軸体32の位置を調整する手順は、作業者の任意であるが、例えば次のような手順を採用すれば良い。まず第1の調整具5を用いて、軸体32を理想的な位置に調節しておく。その後、第2の調整具6を用いて、薄螺子体37を螺進させ、大口径螺子部32aの下面にしっかりと当接させる。この際、軸体32を固定しておかないと、薄螺子体37との摩擦等によって、位置調節済みの軸体32が動いてしまう虞がある。そこで第1の調整具5を用いて軸体32が動かないように固定しておきながら、第2の調整具6を用いて薄螺子体37を螺進させる。当該手順によれば、軸体32を理想的な位置に留めながらも、薄螺子体37を大口径螺子部32aの下面にしっかりと当接させることが容易となる。
【0042】
枢着部3は、上述のように一対の調整用螺子36を有する。各調整用螺子36は、第2の螺子孔1dに対して螺進又は螺退できる。本実施形態では、例えば六角レンチを用いて各調整用螺子36の螺進又は螺退が行われる。また、鍔部31aの下面には、上側刃体1の平部1aに当接する一対の突起31を有する。一対の調整用螺子36の第2の螺子孔1dに対する締結位置を同じにすれば、鍔部31aの下面を上側刃体1の平部1aに対して水平にできる。各調整用螺子36の第2の螺子孔1dに対する締結位置を異ならせることによって、一対の突起31を支点として平部1aに対する鍔部31aの下面の傾斜角を変更することができる。すなわち、一対の調整用螺子36は、一対の突起37(支点部)を中心とした回動を利用して鍔付短筒体31の上側刃体1に対する長手方向の傾斜角を調整可能とする。一対の調整用螺子36は本発明の調整部の一例である。
【0043】
鍔付短筒体31は軸体32を介して下側刃体2と一体である。このために、調整用螺子36の第2の螺子孔1dに対する締結位置を調整することによって、上側刃体1に対する下側刃体2に対する傾斜量を変更できる。すなわち、各調整用螺子36を螺進又は螺退しながら調整することによって、一対の刃体1、2の噛合部における噛み合いの圧力を微調整することができる。
【0044】
枢着部3は、上側刃体1の平部1aと下側刃体2の平部2aとを上下に小間隔を存して枢着する。このために、鋏Sの利用者(理容師等)は、鋏Sの円滑な開閉操作を長期間にわたって行うことができる。そして、上述のように、2つの平部1a、2b間の小間隔の微調整は、二重螺子構造によって安定して行える。この点からも、鋏Sは、円滑な開閉操作を長期間にわたって確保し易くなっている。
【0045】
また、枢着部3は、上述のように、一対の調整用螺子36を利用して一対の刃体1、2の噛合圧力の微調整を簡単且つ精度良く行える。このために、鋏Sの利用者の癖に対応して枢着部3を適切な状態に調整することができる。すなわち、手のこじりの圧力によって刃部が変形を起すことを避けることができる。また、本実施形態の枢着部3においては、噛合力の調整を行うために、歪みが発生しやすい弾性安定板(従来の構成で採用されるもの)のような部材を利用しない。このために、本実施形態の枢着部3は、構造を簡素化して耐圧力を向上させることができる。
<3.鋏セット>
【0046】
本発明の実施形態に係る鋏セットは、本実施形態の鋏Sと、鋏Sの枢着部3を調整する工具と、を備える。枢着部3を調整する工具として、上述の第1の調整具5及び第2の調整具6が含まれてよい。枢着部3を調整する工具として、その他、締付螺子35の頭部35aに設けられるプラス溝或いはマイナス溝に係合させて使用されるドライバや、調整用螺子36の調整に使用する六角レンチが含まれてもよい。
【0047】
更に、枢着部3を調整する工具として、枢着部3の調整のために鋏Sを載せて固定する固定台が含まれてよい。固定台は、例えば、上側刃体1が下、下側刃体2が上となる姿勢で鋏Sを固定するものであってよい。鋏Sと枢着部3調整用の工具とがセットとされることによって、鋏Sの利用者は、枢着部3の調整のために工具を別途準備する手間を省くことが可能である。
<4.変形例>
<4−1.変形例1>
【0048】
図9は、本発明の実施形態に係る鋏Sが備える枢着部3の変形例の構成を示す分解斜視図である。変形例に係る枢着部は、上述した実施形態の枢着部3と概ね構造が同じである。
図9においては、上述した実施形態の枢着部3と同一の部分には同一の符号が付されている。以下、上述した実施形態の枢着部3と異なる部分に絞って説明を行う。
【0049】
大口径螺子部32aの下端の中央部には、円柱状の凸部32dが設けられる。凸部32dは、その中心部を通る直線状の溝部32eによって二等分される。すなわち、大口径螺子部32aの下端にはマイナス溝が形成されている。略円柱状の薄螺子体37の外周縁部には、開口部37aを挟むように一対の切欠き部37cが形成される。各切欠き部37cは、薄螺子体37の上面から下面まで延びる。切欠き部37cは、下面視において円に近い形状を有するが、これは例示である。切欠き部37cは、下面視において矩形状等であってよい。なお、切欠き部37cは、本発明の係合部の一例である。
【0050】
図10は、本変形例の枢着部の調整に使用する調整具6、7の一例を示す概略斜視図である。
図11は、
図10に示す調整具6、7を変形例の枢着部の所定の位置に取り付けた状態を示す概略断面図である。第2の調整具6の構成は、上述した実施形態の場合と同様である。第1の調整具7は、六角レンチではなくマイナスドライバである。第1の調整具7は、大口径螺子部32aの下端に形成されるマイナス溝に係合される。この2つの調整具6、7を利用して、上述した実施形態の場合と同様の調整を行うことができる。
【0051】
なお、大口径螺子部32aの下端に設けられるマイナス溝に代えて、プラス溝が形成されてもよい。この場合には、第1の調整具7はプラスドライバとなる。また、切欠き部37cは、例えば、上述した実施形態と同様の係合孔に変更されてもよいし、マイナス溝に変更されてもよい。マイナス溝に変更される場合は、第2の調整具6に設けられる凸部6aの形状も変更される。また、この変形例を採用する場合には、上述した鋏セットに含まれる工具も適宜変更される。
<4−2.変形例2>
【0052】
以上に示した実施形態においては、本発明の一対の支点部は、鍔部31aの下面に一体的に設けられる一対の突起31bとして実現された。しかしこれは例示にすぎず、一対の支点部は他の形態により、鍔部31aの下面と上側刃体1の平部1aとの間に形成されればよい。一対の支点部は、上側刃体1の平部1aに一体的に設ける突起等としてもよい。また、場合によっては、一対の支点部は、鍔付短筒体31及び上側刃体1とは別部材とし、両者の間に挟まれる薄板上に設けられる突起等としてもよい。
<4−3.変形例3>
【0053】
以上に示した実施形態においては、第2の螺子孔1dが長手方向に軸体32を挟むように一対設けられ、調整用螺子63も一対とされた。ただし、これは例示であって、第2の螺子孔1d及び調整用螺子63は、長手方向のいずれか一方にのみ設けられてもよい。この場合、鍔部31aに設けられる挿通孔31cも一つとされる。
<4−4.変形例4>
【0054】
以上に示した実施形態では、各調整用螺子36は、頭部36aが各挿通孔31cの大径の貫通孔部分に挿入された状態で、第2の螺子孔1dに螺着されるようになっている。但しこれに代えて
図12(
図5の変形例に相当する)に示すように、各調整用螺子36は、頭部36aが上側刃体1の挿通孔1eに挿入された状態で、鍔部31aに設けた螺子孔31dに螺着されるようにしても良い。
【0055】
この例において各挿通孔1eは、上側の小径の貫通孔(頭部36aより径寸法が小さい)と、下側の大径の貫通孔(頭部36aより径寸法が大きい)とが上下に重なった形状を有する。頭部36aは当該大径の貫通孔に嵌り込んで、下側刃体2とは干渉しない。また各調整用螺子36の上側端部(頭部36aの反対側)には溝36cが設けられ、鍔部31aの上方からドライバ等を用いて各調整用螺子36を回転させることが可能である。
図12に示す形態によれば、鍔部31aの上側における各調整用螺子36の露出を抑え、各調整用螺子36の誤操作等を極力防ぐことが可能である。
<4−5.変形例5>
【0056】
また鍔付短筒体31の傾斜角調整に関わる各部の構成については、
図13(
図4の変形例に相当する)に示す構成が採用されても良い。以下、上側刃体1の長手方向を左右方向(
図13での左を、単に「左」とする)、上側刃体1の短手方向を前後方向、これらに直交する方向を上下方向として、当該構成について説明する。鍔部31aの左側端部近傍には、前後に並ぶ一対の貫通孔31pが設けられ、鍔部31aの右側端部には、上方視で略半円状(左側に弧がある)の切欠部31sが設けられている。
【0057】
前側の貫通孔31pのすぐ前側、および後側の貫通孔31pのすぐ後側には、それぞれ突起31qが設けられている。つまり一対の貫通孔31pを挟むように、前後に並ぶ一対の突起31qが設けられている。各貫通孔31pには上側から固定螺子41が挿通し、各固定螺子41の下側は上側刃体1に設けた螺子孔1xに螺着する。固定螺子41の頭部41aは各貫通孔31pより径寸法が大きく、固定螺子41の螺進により鍔部31aの左側が上側刃体1へ近接して固定される。但し、鍔部31aと上側刃体1の間には、左右方向に各突起部31qを起点とした隙間が形成される。
【0058】
また切欠部31sの壁の上下方向中央部全体には、上記半円を縮径させるように突出した突出部31rが設けられている。また
図13の例で用いられる調整用螺子40は、円柱状の頭部40aを有し、更に頭部40aの上下方向中央部全体には、当該円柱を縮径させるように窪んだ窪み部40bが設けられている。調整用螺子40は、右方から切欠部31sへ向けた移動により、窪み部40bへ突出部31rが嵌るように位置決めされる。この位置決めされた状態で、調整用螺子40の下側は上側刃体1に設けた螺子孔1yに螺着する。
【0059】
この形態によれば、調整用螺子40を螺進或いは螺退させることにより、鍔部31aの右側と上側刃体1との距離が変化する。これにより、各突起31q(本発明の支点部に相当する)を利用して、鍔付短筒体31の上側刃体1に対する左右方向の傾斜角が調整可能である。なお当該調整は、基本的には固定螺子41を動かすことなく、調整用螺子40を動かすだけで可能である。また、各突起31qを設ける代わりに、固定螺子41を嵌めることのできるリング状部材を、本発明の支点部の一形態として利用することも可能である。すなわち、鍔部31aと上側刃体1の間において、各固定螺子41が嵌め込まれるようにリング状部材を配置しておけば、左右方向に当該リング状部材を起点とした隙間が形成される。また
図13の例における支点部は、鍔付短筒体31の筒体部分より左側において前後へ細く伸びた一つの突起(例えば、一対の貫通孔31pを結ぶように伸びた突起)などとしても良い。
<5.その他>
【0060】
以上に説明した通り、枢着部3は、上側刃体1を上下に貫通する貫通孔1cに鍔部31aより下側部分が嵌められる鍔付短筒体31と、下部が下側刃体2に固定され、上部が鍔付短筒体31に回動可能に挿着される軸体32と、上側刃体1と鍔部31aとの間に、上側刃体1の長手方向に自身を起点とした隙間を形成させる突起(31bまたは31q)と、当該突起を利用して鍔付短筒体31の上側刃体1に対する前記長手方向の傾斜角を調整可能とする調整部と、を有する。そのため鋏Sは、円滑な開閉操作を長期間可能とし得るとともに、構造を簡素化することにより耐圧力を向上させ、両刃体同士の噛合圧力を簡単かつ精度良く調整することが可能である。
【0061】
また第1の六角孔32b(調整孔)に挿入した第1の調整具(5または7)を用いて、
軸体32の螺進および螺退が可能であり、係合孔37b(係合部)に係合した第2の調整具6を用いて、薄螺子体37の螺進および螺退が可能である。更に、第1の調整具(5または7)を第1の六角孔32bに挿入した状態において、第2の調整具6を係合孔37bに係合させることが可能である。そのため、軸体32と薄螺子体37の螺進および螺退を同時に制御することができ、適切な位置調整が容易である。
【0062】
なお以上に示した実施形態や変形例は、本発明の例示にすぎない。実施形態や変形例の構成は、本発明の技術的思想を超えない範囲で適宜変更されてもよい。また、実施形態や複数の変形例は、可能な範囲で組み合わせて実施されてよい。