【解決手段】建物基礎2と建物躯体3との間隙に設置された積層ゴム型免震支承1の周囲に複数の筐体4を配置し、その筐体4の各々を積層ゴム型免震支承1の胴体11に装着する。そして、装着した筐体4内に冷却液Lを供給しつつ、その冷却液Lが気化したガスを筐体4外へ排出し、冷却液Lの気化に伴う吸熱効果により積層ゴム型免震支承1を冷却する。
前記積層ゴム型免震支承に向けて開口した前記筐体を用いて、前記積層ゴム型免震支承の胴体に前記冷却液を直接的に接触させる請求項1〜3いずれか1項に記載の積層ゴム型免震支承の冷却方法。
積層ゴム型免震支承の胴体の周囲に装着される複数の筐体と、冷却液が収容された冷却液槽に前記筐体を連通させる冷却液供給路と、前記冷却液供給路における前記冷却液の流量を調整可能に構成された流量調整部とを備え、
前記筐体に、前記冷却液供給路が接続される給液口と、その給液口を介して前記筐体内に供給された前記冷却液が気化したガスを前記筐体外へ排出するための排気口とが形成されている積層ゴム型免震支承の冷却装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、冷却を迅速に行うことにより作業時間を短縮できる積層ゴム型免震支承の冷却方法及び冷却装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的は、下記の如き本発明により達成することができる。即ち、本発明に係る積層ゴム型免震支承の冷却方法は、下部構造物と上部構造物との間隙に設置された積層ゴム型免震支承の周囲に複数の筐体を配置し、その筐体の各々を前記積層ゴム型免震支承の胴体に装着する装着工程と、前記筐体内に冷却液を供給しつつ、その冷却液が気化したガスを前記筐体外へ排出し、前記冷却液の気化に伴う吸熱効果により前記積層ゴム型免震支承を冷却する冷却工程とを備えるものである。この方法によれば、冷却液の気化に伴う吸熱効果によって免震支承が迅速に冷却されるので、所望の収縮状態が比較的速やかに得られ、作業時間を短縮することができる。
【0007】
この冷却方法では、前記筐体内に前記冷却液が溜められた状態を保持するものでもよい。この場合、筐体内に溜められた冷却液によって免震支承を効果的に冷却できる。或いは、前記筐体内で前記冷却液を射出して前記積層ゴム型免震支承の胴体またはそれに面する前記筐体の側壁に噴き当てるものでもよい。この場合、冷却液を噴き当てることによって免震支承をより効果的に冷却できる。
【0008】
前記積層ゴム型免震支承に向けて開口した前記筐体を用いて、前記積層ゴム型免震支承の胴体に前記冷却液を直接的に接触させるものでもよい。これによって、免震支承をより迅速に冷却できる。
【0009】
前記積層ゴム型免震支承に向けて開口した前記筐体を用いて、前記積層ゴム型免震支承の胴体に前記冷却液を直接的に接触させることが好ましい。かかる方法によれば、免震支承の胴体に埋設されている金属板が表面に近付けられ、或いは金属板が表面に露出するので、冷却速度を速めることができる。
【0010】
また、本発明に係る積層ゴム型免震支承の冷却装置は、積層ゴム型免震支承の胴体の周囲に装着される複数の筐体と、冷却液が収容された冷却液槽に前記筐体を連通させる冷却液供給路と、前記冷却液供給路における前記冷却液の流量を調整可能に構成された流量調整部とを備え、前記筐体に、前記冷却液供給路が接続される給液口と、その給液口を介して前記筐体内に供給された前記冷却液が気化したガスを前記筐体外へ排出するための排気口とが形成されているものである。この装置によれば、上述した冷却方法に用いることで、冷却液の気化に伴う吸熱効果によって免震支承が迅速に冷却されるので、所望の収縮状態が比較的速やかに得られ、作業時間を短縮することができる。
【0011】
この冷却装置では、前記筐体内に溜められた前記冷却液の液面の高さを検出する検出部と、前記筐体内に前記冷却液が溜められた状態が保持されるように、前記検出部の検出結果に応じて前記流量調整部を制御する制御部とを備えるものでもよい。この場合、筐体内に溜められた冷却液によって免震支承を効果的に冷却できる。或いは、前記筐体内で前記冷却液を前記積層ゴム型免震支承に向かって射出するノズルが前記給液口に設けられているものでもよい。この場合、冷却液を噴き当てることによって免震支承をより効果的に冷却できる。
【0012】
前記積層ゴム型免震支承に向けて前記筐体が開口しているものでもよい。これによって、免震支承の胴体に冷却液を直接的に接触させ、免震支承をより迅速に冷却できる。
【0013】
複数の前記筐体からなる環状体を収縮させるように付勢する付勢部材を備えるものが好ましい。かかる構成によれば、冷却に伴って熱収縮する免震支承に筐体を追随させ、その免震支承の胴体に筐体が装着された状態を適切に保持して、冷却の実効性を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、下部構造物としての建物基礎2と、上部構造物としての建物躯体3との間隙に設置された積層ゴム型免震支承1を示す。免震支承1は、柱状をなす胴体11と、胴体11の下端に設けられたフランジ12と、胴体11の上端に設けられたフランジ13とを備える。胴体11は、ゴム14と金属板15とを交互に配置した積層体により構成され、全体的にゴム14で覆われている。免震支承1のフランジ12,13は、それぞれ図示しないボルトによって建物基礎2及び建物躯体3に固定されている。
【0017】
免震支承の交換工事では、この間隙に設置された既設の免震支承1を撤去し、代わりに新たな免震支承を設置することになる。免震支承1を取り出す作業は、免震支承1を冷却して軸方向(上下方向)に熱収縮させ、免震支承1の上面と建物躯体3との間に隙間が設けられる状態にしたうえで行われる。以下、免震支承1の冷却方法及び冷却装置の実施形態として、第1実施形態と第2実施形態を例示する。
【0018】
[第1実施形態]
本実施形態では、まず、
図2に示すように、既設の免震支承1の周囲に複数の筐体4を配置し、その筐体4の各々を免震支承1の胴体11に装着する(装着工程)。
図2では、胴体11の表面を破線で表している。次に、
図3に示すように、筐体4内に冷却液Lを供給しつつ、その冷却液Lが気化したガスを筐体4外へ排出し、冷却液Lの気化に伴う吸熱効果により免震支承1を冷却する(冷却工程)。冷却液Lとして液体窒素が好ましく用いられるが、気化熱を利用して免震支承1を冷却し得るものであれば、これに限られない。
【0019】
図2では、平面視円弧状をなす八個の筐体4が、胴体11を取り囲むようにして環状に配列され、その各々が胴体11の周方向の一部に押し当てられている。この筐体4の個数や隣り合う筐体4の間隔を調整し、複数の筐体4からなる環状体の周長を適宜に変化させることで、種々のサイズの免震支承に装着することが可能である。また、この例では、後述する第2実施形態のように冷却液を射出するタイプに比べて、筐体4の奥行き(径方向の寸法)を小さくできるので、コンパクトな構成を実現しやすい。
【0020】
筐体4は、免震支承1に面する側壁を除き全体的に断熱材41で覆われており、免震支承1の胴体11には、その断熱材41で覆われていない側壁を接触させている。胴体11に面する筐体4の側壁は、断熱材41よりも熱伝導率の高い良熱伝導材42により構成され、本実施形態では、冷却液Lに触れる筐体4の内面が全体的に良熱伝導材42で形成されている。例えば、断熱材41は合成樹脂製であり、良熱伝導材42は金属製である。
【0021】
図3に示した冷却装置は、免震支承1の胴体11に装着される筐体4と、冷却液Lが収容された冷却液槽51に筐体4を連通させる冷却液供給路52と、冷却液供給路52における冷却液Lの流量を調整可能に構成された流量調整部53とを備える。この例では、流量調整部53が電磁弁により構成されているが、これに限られない。筐体4には、冷却液供給路52が接続される給液口43と、その給液口43を介して筐体4内に供給された冷却液Lが気化したガスを筐体4外へ排出するための排気口44とが形成されている。
【0022】
給液口43及び排気口44は複数の筐体4の各々に形成され、それぞれに
図3の如く冷却液Lが供給される。排気口44は、専らガスの排出に用いられることが想定されており、本実施形態では大気に開放されている。
図2では排気口44に隠れて給液口43が見えないが、一つの筐体4には給液口43と排気口44が二つずつ設けられている。
【0023】
本実施形態では、
図3のように筐体4内に冷却液Lが溜められた状態を保持する。筐体4内に溜められた冷却液Lは、筐体4の側壁を介して胴体11と隣り合っており、その胴体11から熱を奪って気化する。免震支承1は、冷却液Lの吸熱効果、特に冷却液Lの気化に伴う吸熱効果によって迅速に冷却される。この筐体4では、その天井の近くに排気口44が配置されており、かかる構成は、冷却液Lの液面を高くして冷却効率を高めるうえで都合がよい。
【0024】
図3の冷却装置は、筐体4内に溜められた冷却液Lの液面の高さを検出する検出部54と、筐体4内に冷却液Lが溜められた状態が保持されるように、検出部54の検出結果に応じて流量調整部53を制御する制御部55とを備える。これにより、冷却液Lの液面の高さを一定範囲に保ちつつ、排気口44から冷却液Lが無駄に漏出することを防止できる。検出部54は、例えば液面レベルセンサにより構成されるが、特に限定されず、フロートを利用した構造や胴体11の温度分布を監視する構造などでも構わない。
【0025】
免震支承1の胴体11に筐体4を装着する前に、即ち装着工程の前に、その胴体11の表皮ゴム(ゴム14の表層部分)を除去する工程(皮剥き工程)を備えることが好ましい。これにより、免震支承1の胴体11に埋設されている金属板15が表面に近付けられ、或いは金属板15が表面に露出され、その結果、胴体11内部の金属板15の冷却を促して冷却速度を速めることができる。本実施形態では皮剥き工程を実施しており、
図1の状態に比べて、胴体11の表面から金属板15までの距離が小さくなっている。
【0026】
皮剥き工程の有無に関わらず、胴体11の表面には細かい凹凸が存在しているため、胴体11とそれに押し当てられた筐体4との間には隙間が生じやすく、その隙間に空気が封じ込められた状態になると、冷却液Lによる吸熱効果を低下させてしまう。そこで、本実施形態では、
図3のように胴体11と筐体4との間に生じる隙間に充填材16を充填している。これにより不要な隙間の形成を防止するとともに、胴体11に対する筐体4の接触面積を確保して、冷却の実効性を高めることができる。
【0027】
充填材16には、熱伝導性の材料、好ましくは良熱伝導材42と比べて同等かそれ以上の熱伝導率を有する材料が用いられる。具体的には、銅、アルミニウム、黄銅、ステンレス、焼結金属、伝熱セメント、伝熱グリスなどの材料が充填材として使用できる。また、繊維状やシート状、ペースト状など種々の形態の充填材を採用でき、これらを組み合わせても構わない。一例として、銅ウールに伝熱グリスを組み合わせてなる充填材が挙げられる。
【0028】
図2の冷却装置は、複数の筐体4からなる環状体を収縮するように付勢する付勢部材45を備える。これにより、冷却に伴って熱収縮する免震支承1に筐体4を追随させ、胴体11に筐体4が装着された状態を適切に保持して、冷却の実効性を高めることができる。各付勢部材45は、隣り合う筐体4を互いに接近させるように付勢しており、全体として環状体を収縮するように付勢する。よって、免震支承1が縮径すれば、それに追随して筐体4の環状体も縮径し、胴体11に筐体4が押し当たった状態が保持される。付勢部材45には、例えばタキゲン製造株式会社製のキャッチクリップを使用できる。
【0029】
本実施形態では、隣り合う筐体4の間に、それらとは別個の部材である付勢部材45を取り付けた例を示したが、そのような付勢部材を筐体4自体に設けても構わない。また、そのような付勢部材の使用に代えてまたは加えて、筐体4の環状体にバンド状部材を巻き付けておき、冷却により免震支承1が縮径する際に、そのバンド状部材を締め付けて筐体4の環状体を縮径させるようにしてもよい。
【0030】
本実施形態によれば、冷却液Lの気化に伴う吸熱効果によって免震支承1が迅速に冷却される。冷却により熱収縮した免震支承1の上面と建物躯体3との間に隙間が設けられたら免震支承1を取り出し、これによって既設の免震支承1が撤去される。胴体11がゴム14で覆われているにも関わらず、所望の収縮状態(即ち、所要の大きさの隙間)が比較的速やかに得られるので、作業時間を短縮することができる。筐体4は、撤去した免震支承1から簡単に取り外すことができ、再利用が可能である。
【0031】
冷却工程の前には、少なくともフランジ13を建物躯体3に固定しているボルトを取り外しておく。フランジ12を建物基礎2に固定しているボルトは、免震支承1を熱収縮させた後に取り外しても構わないが、作業性の観点から、フランジ13のボルトと一緒に取り外すことが好ましい。また、建物基礎2と建物躯体3との間隙に予め支持部材を設置しておくことで、熱収縮した免震支承1に代わって建物躯体3の荷重を支持部材で受けることができる。支持部材は、例えばジャッキアップ装置により構成される。
【0032】
既設の免震支承1を撤去した後は、その間隙に新たな免震支承を設置する。新設する免震支承は、予め冷却して熱収縮させておくことで、撤去後の間隙に簡便に設置することができる。そして、新設した免震支承を加熱(または常温で放置)することにより熱収縮を解消し、その免震支承が建物躯体3の荷重を受ける状態にしたうえで、支持部材を撤去して交換作業を完了する。
【0033】
図2では、複数の筐体4の内部空間が別個独立に存在し、それぞれに
図3の如く冷却液Lを供給する例を示したが、これに限定されない。例えば
図4のように、隣り合う筐体4の間に一対の連通管46を介在させ、それらの内部空間を互いに連通させてもよい。一対の連通管46のうち、一方はガスの流路となり、もう一方(
図4では隠れて見えない)は冷却液Lの流路となる。かかる構成では、少なくとも一つの筐体4に給液口43(
図4では隠れて見えない)と排気口44が形成されていれば事足りる。
【0034】
図3の例では、冷却液Lが筐体4の側壁を介して胴体11を冷却しているが、これに限られず、免震支承1に向けて開口した筐体を使用し、その筐体内で溜められた冷却液Lを胴体11に直接的に接触させてもよい。かかる場合には、筐体内の冷却液Lの漏出を防止するために、その筐体の開口縁にパッキンなどのシール部材を設けて密封性能を確保することが好ましい。
【0035】
地震による建物躯体3の歪みなどに起因して免震支承1が変形している場合、その免震支承1の胴体11の表面が鉛直方向に対して傾いた状態になる。かかる状況では、胴体11に対して適切に接触させるために筐体4を傾けることが好ましい。そのような筐体4の姿勢を実現するために、例えばボールジョイントを介して隣り合う筐体4同士を連結することが考えられる。
【0036】
[第2実施形態]
第2実施形態は、以下に説明する構成の他は、第1実施形態と同様の構成であるので、共通点を省略して主に相違点について説明する。なお、第1実施形態で説明した部材と同一の部材には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0037】
本実施形態では、まず、
図5に示すように、既設の免震支承1の周囲に複数の筐体6を配置し、その筐体6の各々を免震支承1の胴体11に装着する(装着工程)。
図5では、胴体11の表面を破線で表している。次に、
図6に示すように、筐体6内に冷却液Lを供給しつつ、その冷却液Lが気化したガスを筐体6外へ排出し、冷却液Lの気化に伴う吸熱効果により免震支承1を冷却する(冷却工程)。冷却液Lとして液体窒素が好ましく用いられるが、気化熱を利用して免震支承1を冷却できるものであれば、これに限られない。
【0038】
図5では、直方体状をなす十五個の筐体6が、胴体11を取り囲むようにして環状に配列され、その各々が胴体11の周方向の一部に押し当てられている。この筐体6の個数や隣り合う筐体6の間隔を適宜に調整することで、種々のサイズの免震支承に装着することが可能である。筐体6は、免震支承1に面する側壁を除き全体的に断熱材61で覆われている。
図5においては、横断面で示した一つの筐体6だけが断熱材61で覆われているが、実際には全ての筐体6が断熱材61で覆われている。
【0039】
筐体6には、冷却液供給路52が接続される給液口63と、その給液口63を介して筐体6内に供給された冷却液Lが気化したガスを筐体6外へ排出するための排気口64とが形成されている。給液口63及び排気口64は複数の筐体6の各々に形成され、それぞれに
図6の如く冷却液Lが供給される。排気口64は、専らガスの排出に用いられることが想定されている。本実施形態では、排気口64が大気に開放されているが、バキューム装置に接続してガスを収集するようにしてもよい。
【0040】
本実施形態では、
図7のように筐体6が免震支承1に向けて開口しており、この筐体6内で冷却液Lを射出して胴体11に噴き当てる。噴き当てられた冷却液Lは、胴体11から熱を奪って気化する。給液口63には、筐体6内で冷却液Lを免震支承1に向かって射出するノズル7が設けられている。筐体6の開口縁は緩やかに湾曲しており(
図5及び
図7参照)、これを胴体11に押し当てることで閉塞されている。
図7では、断熱材61や給液口63、排気口64、ノズル7は図示しておらず、開口縁にはパッキンなどのシール部材(図示せず)が設けられている。
【0041】
筐体6は、内箱65が外箱66の中に収容された入れ子構造を有する。ノズル7は、冷却液Lを放射状に放出するように構成され、その先端部が内箱65の内部空間S1に配置されている。内箱65と外箱66との間には空間S2が設けられており、その空間S2は、内箱65の上方に形成された切欠き67を介して内部空間S1と連通している。
図5のように、排気口64は、切欠き67から離れた外箱66の後方に配置され、空間S2内のガスを排出するように構成されている。
【0042】
免震支承1は、冷却液Lの吸熱効果、特に冷却液Lの気化に伴う吸熱効果によって迅速に冷却される。本実施形態では、冷却液Lを胴体11に直接的に噴き当てるため、より効果的に胴体11から熱を奪うことができる。冷却液Lが気化したガスは、内部空間S1から切欠き67を通って空間S2へ移動し、排気口64から筐体6外へ排出される。内部空間S1を取り囲む空間S2内に低温のガスが充満することで、内箱65に対する断熱効果が高められるとともに、胴体11にガスが接触して冷却に幾分か寄与し得る。
【0043】
かかる実施形態においては、冷却液Lが所定の領域に噴き当てられているか否かを検出する検出部を冷却装置に設けて、筐体6内で冷却液Lが適切に射出されていることを監視してもよい。この検出部には、冷却液Lを噴き当てる領域内に設置された気液判別センサを使用できる。更に、その検出部の検出結果に応じて流量調整部53を制御する制御部を設け、冷却液Lが適切に射出される状態が保持されるように構成してもよい。
【0044】
本実施形態では、免震支承1に向けて開口した筐体6を用いて、その免震支承1の胴体11に冷却液Lを直接的に接触させる例を示したが、第1実施形態のように免震支承1の胴体11に側壁が押し当てられる筐体を使用してもよい。その場合には、筐体内で冷却液Lを射出し、免震支承1の胴体11に面する筐体の側壁に噴き当てることにより、その側壁を介して胴体11を冷却できる。前述した充填材は、筐体の側壁を胴体11に押し当てる場合には有用であるが、そうでない場合には不要である。
【0045】
本実施形態においても、装着工程前に皮剥き工程を備えることが好ましく、それにより胴体11内部の金属板15の冷却を促して冷却速度を速めることができる。
【0046】
本実施形態では、
図5のように、隣り合う筐体6がヒンジ部68を介して連結され、これらの相対角度を変化自在に構成されている。また、複数の筐体6からなる環状体の周方向の一部(本実施形態では二箇所)では、ヒンジ部68を意図的に連結していない。かかる構成に基づき、冷却により免震支承1が縮径した際には、筐体6の環状体に巻き付けたバンド状部材(図示せず)を締め付けることで、それに追随するように筐体6の環状体を縮径させて、冷却の実効性を高めることができる。
【0047】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。
【0048】
前述の実施形態では、冷却液の気化熱による冷却方式を示したが、この冷却装置を用いて、冷却液の顕熱による従来の冷却方式を実施することも可能である。例えば、筐体の一部または全部に冷却液を満たし、従来の冷却方法によって免震支承を冷却してもよい。また、前述した第1及び第2実施形態では、排気口が大気に開放されている例を示したが、これに限られず、例えば、排気口に冷却液回収路を接続し、筐体内のガスまたは余分な冷却液を回収して循環させながら冷却を行うようにしてもよい。
【実施例】
【0049】
実際の積層ゴム型免震支承を用いて冷却実験を行った。免震支承の胴体の直径は1350mm、ゴム総厚は250mmであり、冷却液として液体窒素を使用した。免震支承の交換工事における施工上の観点から、4mm以上の変位量(軸方向の熱収縮量)が望ましいとされているため、これを目標値に定めた。
【0050】
(1)実験例1
免震支承の胴体の周囲に配管をコイル状に設置し(上述した特許文献2の
図4を参照)、その配管内を循環する冷却液によって免震支承を6時間冷却した。
【0051】
(2)実験例2
図2,3のように、皮剥き工程を経た免震支承の胴体に複数の筐体を装着し、その筐体内に冷却液が溜められた状態にして免震支承を6時間冷却した。
【0052】
(3)実験例3
図5,6のように、皮剥き工程を経た免震支承の胴体に複数の筐体を装着し、その筐体内で射出した冷却液を直接的に噴き当てて免震支承を6時間冷却した。
【0053】
冷却実験の結果を表1に示す。「温度低下」は、免震支承の中心部の温度を冷却前と6時間冷却後の時点で測定し、それらの差として算出される。「変位量」は、免震支承の中心部の高さ位置を冷却前と6時間冷却後の時点で測定し、それらの差として算出される。
【0054】
【表1】
【0055】
表1のように、実験例1では、温度低下と変位量が最も小さく、6時間の冷却では目標値に到達しなかった。これに対して、実験例2及び実験例3では、実験例1と比べて温度低下と変位量が大きく、迅速な冷却によって作業時間を短縮できると考えられる。中でも、実験例3は、目標値を大きく上回っており、実験例2よりも改善効果が大きい。