【課題】第1軸線を中心軸線とする第1伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な中空の第1出力ボス、および第1軸線から偏心した第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が一体に連結された偏心回転部材と、第1伝動部材に対向配置されて偏心軸部に回転自在に支持される第2伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な中空の第2出力ボスを有して第2伝動部材に対向配置される第3伝動部材と、第1及び第2伝動部材間の第1変速機構と、第2及び第3伝動部材間の第2変速機構とを備えた差動装置において、第1変速機構を効率よく潤滑する。
【解決手段】伝動ケースCの第1ハブHB1と、該ハブに嵌合支持した第1ドライブ軸S1との嵌合面の一方に、ミッションケース1内の潤滑油を引き込み可能な螺旋溝18が設けられ、その溝出口を第1変速機構T1の内周側に連通させる油路P1がデフケースCと偏心回転部材6間に設けられる。
第1軸線(X1)上に並ぶ第1,第2ハブ(HB1,HB2)を両側部に有してミッションケース(1)内に配置され、回転力を受けて第1軸線(X1)回りに回転するデフケース(C)と、
このデフケース(C)と共に第1軸線(X1)回りに回転可能な第1伝動部材(5)と、
第1軸線(X1)回りに回転可能な中空の第1出力ボス(SB1)、および第1軸線(X1)から偏心した第2軸線(X2)を中心軸線とする偏心軸部(6e)が一体に連結された偏心回転部材(6)と、
前記第1伝動部材(5)に対向配置されて前記偏心軸部(6e)に回転自在に支持される第2伝動部材(8)と、
第1軸線(X1)回りに回転可能な中空の第2出力ボス(SB2)を有して前記第2伝動部材(8)に対向配置される第3伝動部材(9)と、
前記第1及び第2伝動部材(5,8)間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構(T1)と、
前記第2及び第3伝動部材(8,9)間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構(T2)とを備え、
前記第1,第2変速機構(T1,T2)が、前記偏心回転部材(6)を固定したときに前記第1伝動部材(5)から前記第3伝動部材(9)を2倍の増速比を以て駆動するように構成されてなる差動装置であって、
前記第1出力ボス(SB1)には、前記第1ハブ(HB1)に回転自在に嵌合支持される第1ドライブ軸(S1)が該第1出力ボス(SB1)の中空部においてスプライン嵌合(16)されると共に、前記第2出力ボス(SB2)には、前記第2ハブ(HB2)に回転自在に嵌合支持される第2ドライブ軸(S2)が該第2出力ボス(SB2)の中空部においてスプライン嵌合(17)され、
前記第1ドライブ軸(S1)と前記第1ハブ(HB1)との嵌合面の一方には、それら第1ハブ(HB1)と第1ドライブ軸(S1)との相対回転により前記ミッションケース(1)内の潤滑油を該第1ハブ(HB1)の外端側から内端側に引き込み可能な螺旋溝(18)が設けられると共に、この螺旋溝(18)の出口を前記第1変速機構(T1)の内周側に連通させる油路(P1)が、前記デフケース(C)と前記偏心回転部材(6)との間に設けられることを特徴とする差動装置。
前記螺旋溝(18)の出口から前記第1ドライブ軸(S1)と前記第1出力ボス(SB1)とのスプライン嵌合部(16)に流入した潤滑油を前記第1変速機構(T1)の内周側に導く油孔(45)が、前記偏心回転部材(6)に設けられることを特徴とする、請求項1に記載の差動装置。
第1軸線(X1)上に並ぶ第1,第2ハブ(HB1,HB2)を両側部に有してミッションケース(1)内に配置され、回転力を受けて第1軸線(X1)回りに回転するデフケース(C)と、
このデフケース(C)と共に第1軸線(X1)回りに回転可能な第1伝動部材(5)と、
第1軸線(X1)回りに回転可能な中空の第1出力ボス(SB1)、および第1軸線(X1)から偏心した第2軸線(X2)を中心軸線とする偏心軸部(6e)が一体に連結された偏心回転部材(6)と、
前記第1伝動部材(5)に対向配置されて前記偏心軸部(6e)に回転自在に支持される第2伝動部材(8)と、
第1軸線(X1)回りに回転可能な中空の第2出力ボス(SB2)を有して前記第2伝動部材(8)に対向配置される第3伝動部材(9)と、
前記第1及び第2伝動部材(5,8)間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構(T1)と、
前記第2及び第3伝動部材(8,9)間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構(T2)とを備え、
前記第1,第2変速機構(T1,T2)が、前記偏心回転部材(6)を固定したときに前記第1伝動部材(5)から前記第3伝動部材(9)を2倍の増速比を以て駆動するように構成されてなる差動装置であって、
前記第1出力ボス(SB1)には、前記第1ハブ(HB1)に回転自在に嵌合支持される第1ドライブ軸(S1)が該第1出力ボス(SB1)の中空部においてスプライン嵌合(16)されると共に、前記第2出力ボス(SB2)には、前記第2ハブ(HB2)に回転自在に嵌合支持される第2ドライブ軸(S2)が該第2出力ボス(SB2)の中空部においてスプライン嵌合(17)され、
前記第1出力ボス(SB1)には、前記第1ハブ(HB1)に回転自在に嵌合支持される第1筒軸(41)が一体的に連設され、
前記第1ハブ(HB1)と前記第1筒軸(41)との嵌合面の一方には、それら第1筒軸(41)と第1ハブ(HB1)との相対回転により前記ミッションケース(1)内の潤滑油を該第1ハブ(HB1)の外端側から内端側に引き込み可能な第1螺旋溝(18)が設けられると共に、この第1螺旋溝(18)の出口を前記第1変速機構(T1)の内周側に連通させる油路(P1)が、前記デフケース(C)と前記偏心回転部材(6)との間に設けられることを特徴とする差動装置。
前記第1変速機構(T1)は、第1伝動部材(5)の、第2伝動部材(8)との対向面に在り且つ第1軸線(X1)を中心とする波形環状の第1伝動溝(21)と、第2伝動部材(8)の、第1伝動部材(5)との対向面に在り且つ第2軸線(X2)を中心とする波形環状で波数が第1伝動溝(21)とは異なる第2伝動溝(22)と、第1及び第2伝動溝(21,22)の複数の交差部に各々介装され、第1及び第2伝動溝(21,22)を転動しながら第1及び第2伝動部材(5,8)間の変速伝動に関与する複数の第1転動体(23)とを有し、
前記第2変速機構(T2)は、第2伝動部材(8)の、第3伝動部材(9)との対向面に在り且つ第2軸線(X2)を中心とする波形環状の第3伝動溝(24)と、第3伝動部材(9)の、第2伝動部材(8)との対向面に在り且つ第1軸線(X1)を中心とする波形環状で波数が第3伝動溝(24)とは異なる第4伝動溝(25)と、第3及び第4伝動溝(24,25)の複数の交差部に介装され、第3及び第4伝動溝(24,25)を転動しながら第2及び第3伝動部材(8,9)間の変速伝動を行う複数の第2転動体(26)とを有し、
前記第1伝動溝(21)の波数をZ1、第2伝動溝(22)の波数をZ2、第3伝動溝(24)の波数をZ3、第4伝動溝(25)の波数をZ4としたとき、次式
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
が成立することを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の差動装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の伝動装置は、差動装置ではあるものの、上述のようにデフケースを軸方向に扁平小型化することが元々難しい構造である。
【0006】
一方、特許文献2の伝動装置は、ケース軸方向に容易に扁平小型化し得る構造ではあるものの、この構造を差動装置として利用可能とするための技術思想(例えば第1,第2変速機構の各変速比を特定比率に設定するような技術思想)はなく、そのため、例えばケースに回転力を入力しても、その回転力を第1,第2軸に分配できない。またこの特許文献2の伝動装置では、扁平小型化されたデフケースの狭隘な内部空間に存する変速機構(例えば第1変速機構)に潤滑油を効率よく供給する技術手段が設けられていない。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであって、特許文献2のような伝動装置の上記利点を生かしつつ、これを差動装置として有効活用できるようにし、更にデフケースの狭隘の内部空間に存する第1変速機構に潤滑油を効率よく供給可能とした差動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、第1軸線上に並ぶ第1,第2ハブを両側部に有してミッションケース内に配置され、回転力を受けて第1軸線回りに回転するデフケースと、このデフケースと共に第1軸線回りに回転可能な第1伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な中空の第1出力ボス、および第1軸線から偏心した第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が一体に連結された偏心回転部材と、前記第1伝動部材に対向配置されて前記偏心軸部に回転自在に支持される第2伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な中空の第2出力ボスを有して前記第2伝動部材に対向配置される第3伝動部材と、前記第1及び第2伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構と、前記第2及び第3伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構とを備え、前記第1,第2変速機構が、前記偏心回転部材を固定したときに前記第1伝動部材から前記第3伝動部材を2倍の増速比を以て駆動するように構成されてなる差動装置であって、前記第1出力ボスには、前記第1ハブに回転自在に嵌合支持される第1ドライブ軸が該第1出力ボスの中空部においてスプライン嵌合されると共に、前記第2出力ボスには、前記第2ハブに回転自在に嵌合支持される第2ドライブ軸が該第2出力ボスの中空部においてスプライン嵌合され、前記第1ドライブ軸と前記第1ハブとの嵌合面の一方には、それら第1ハブと第1ドライブ軸との相対回転により前記ミッションケース内の潤滑油を該第1ハブの外端側から内端側に引き込み可能な螺旋溝が設けられると共に、この螺旋溝の出口を前記第1変速機構の内周側に連通させる油路が、前記デフケースと前記偏心回転部材との間に設けられることを第1の特徴とする。
【0009】
また本発明は、第1の特徴に加えて、前記螺旋溝の出口から前記第1ドライブ軸と前記第1出力ボスとのスプライン嵌合部に流入した潤滑油を前記第1変速機構の内周側に導く油孔が、前記偏心回転部材に設けられることを第2の特徴とする。
【0010】
また本発明は、第1又は第2の特徴に加えて、前記第1出力ボスの中空部の、前記螺旋溝と反対側の開口部が閉塞されていることを第3の特徴とする。
【0011】
また本発明は、第1軸線上に並ぶ第1,第2ハブを両側部に有してミッションケース内に配置され、回転力を受けて第1軸線回りに回転するデフケースと、このデフケースと共に第1軸線回りに回転可能な第1伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な中空の第1出力ボス、および第1軸線から偏心した第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が一体に連結された偏心回転部材と、前記第1伝動部材に対向配置されて前記偏心軸部に回転自在に支持される第2伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な中空の第2出力ボスを有して前記第2伝動部材に対向配置される第3伝動部材と、前記第1及び第2伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構と、前記第2及び第3伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構とを備え、前記第1,第2変速機構が、前記偏心回転部材を固定したときに前記第1伝動部材から前記第3伝動部材を2倍の増速比を以て駆動するように構成されてなる差動装置であって、前記第1出力ボスには、前記第1ハブに回転自在に嵌合支持される第1ドライブ軸が該第1出力ボスの中空部においてスプライン嵌合されると共に、前記第2出力ボスには、前記第2ハブに回転自在に嵌合支持される第2ドライブ軸が該第2出力ボスの中空部においてスプライン嵌合され、前記第1出力ボスには、前記第1ハブに回転自在に嵌合支持される第1筒軸が一体的に連設され、前記第1ハブと前記第1筒軸との嵌合面の一方には、それら第1筒軸と第1ハブとの相対回転により前記ミッションケース内の潤滑油を該第1ハブの外端側から内端側に引き込み可能な第1螺旋溝が設けられると共に、この第1螺旋溝の出口を前記第1変速機構の内周側に連通させる油路が、前記デフケースと前記偏心回転部材との間に設けられることを第4の特徴とする。
【0012】
また本発明は、第4の特徴に加えて、前記第2出力ボスには、前記第2ハブに回転自在に嵌合支持される第2筒軸が一体的に連設され、前記第1出力ボスの中空部の、前記第1ドライブ軸と反対側の開口部と、前記第2出力ボスの中空部の、前記第2ドライブ軸と反対側の開口部とがそれぞれ閉塞され、前記第1,第2ハブから外方にそれぞれ延出する、前記第1,第2筒軸の各外端部と、前記ミッションケースとの各間にシール部材がそれぞれ介装されることを第5の特徴とする。
【0013】
また本発明は、第1〜第5の何れかの特徴に加えて、前記第1変速機構は、第1伝動部材の、第2伝動部材との対向面に在り且つ第1軸線を中心とする波形環状の第1伝動溝と、第2伝動部材の、第1伝動部材との対向面に在り且つ第2軸線を中心とする波形環状で波数が第1伝動溝とは異なる第2伝動溝と、第1及び第2伝動溝の複数の交差部に各々介装され、第1及び第2伝動溝を転動しながら第1及び第2伝動部材間の変速伝動に関与する複数の第1転動体とを有し、前記第2変速機構は、第2伝動部材の、第3伝動部材との対向面に在り且つ第2軸線を中心とする波形環状の第3伝動溝と、第3伝動部材の、第2伝動部材との対向面に在り且つ第1軸線を中心とする波形環状で波数が第3伝動溝とは異なる第4伝動溝と、第3及び第4伝動溝の複数の交差部に介装され、第3及び第4伝動溝を転動しながら第2及び第3伝動部材間の変速伝動を行う複数の第2転動体とを有し、前記第1伝動溝の波数をZ1、第2伝動溝の波数をZ2、第3伝動溝の波数をZ3、第4伝動溝の波数をZ4としたとき、次式 (Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
が成立することを第6の特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明の第1の特徴によれば、ミッションケース内に配置されて回転力を受けるデフケースと共に第1軸線回りに回転可能な第1伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な中空の第1出力ボス、および第1軸線から偏心した第2軸線を中心軸線とする偏心軸部が一体に連結された偏心回転部材と、第1伝動部材に対向配置されて偏心軸部に回転自在に支持される第2伝動部材と、第1軸線回りに回転可能な中空の第2出力ボスを有して第2伝動部材に対向配置される第3伝動部材と、第1及び第2伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構と、第2及び第3伝動部材間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構とを備え、第1,第2変速機構が、偏心回転部材を固定したときに第1伝動部材から第3伝動部材を2倍の増速比を以て駆動するように構成されるので、軸方向に容易に扁平小型化し得る差動装置を提供することができる。その上、第1ドライブ軸と第1ハブとの嵌合面の一方には、その相互の相対回転によりミッションケース内の潤滑油を第1ハブの外端側から内端側に引き込み可能な螺旋溝が設けられると共に、この螺旋溝の出口を第1変速機構の内周側に連通させる油路が、デフケースと偏心回転部材との間に設けられるので、螺旋溝を通してミッションケース側からデフケース側へ潤滑油を引き込み、次いでその潤滑油を遠心力の作用によりデフケースと偏心回転部材間で径方向外方に飛散させて第1変速機構側へ効率よく供給することができる。
【0015】
また特に第2の特徴によれば、螺旋溝の出口から第1ドライブ軸と第1出力ボスとのスプライン嵌合部に流入した潤滑油を第1変速機構の内周側に導く油孔が、偏心回転部材に設けられるので、スプライン嵌合部(即ち第1出力ボスの中空部)への流入潤滑油を上記油孔を通して第1変速機構の内周側に供給可能となり、第1変速機構をより効率よく潤滑することができる。
【0016】
また特に第3の特徴によれば、第1出力ボスの中空部の、螺旋溝と反対側の開口部が閉塞されているので、螺旋溝出口が第1出力ボスの中空部と連通していても、螺旋溝出口を出た潤滑油が第1出力ボスの中空部を素通りすることなく第1変速機構側に効率よく供給可能である。
【0017】
また第4の特徴によれば、第1ハブに回転自在に嵌合支持される第1筒軸が第1出力ボスに一体的に連設されても、第1ハブと第1筒軸との嵌合面の一方には、その相互の相対回転によりミッションケース内の潤滑油を第1ハブの外端側から内端側に引き込み可能な第1螺旋溝が設けられると共に、この第1螺旋溝の出口を第1変速機構の内周側に連通させる油路が、デフケースと偏心回転部材との間に設けられるので、第1の特徴による前記効果と同等の効果を達成可能である。
【0018】
また特に第5の特徴によれば、第1出力ボスの中空部の、第1ドライブ軸と反対側の開口部と、第2出力ボスの中空部の、第2ドライブ軸と反対側の開口部とがそれぞれ閉塞され、第1,第2ハブから外方にそれぞれ延出する、第1,第2筒軸の各外端部と、ミッションケースとの各間にシール部材がそれぞれ介装されるので、第1,第2ドライブ軸を第1,第2筒軸から引き抜いた場合でも、ミッションケース及びデフケース内の潤滑油の外部漏出を防止でき、メンテナンス作業性が良好となる。
【0019】
また第6の特徴によれば、各々複数ある第1,第2転動体が全て同時に伝動に関与可能となるので、伝達トルクが転動体両側の各伝動部材の周方向に分散することになり、軽量且つ耐久性の高い差動装置を提供可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて以下に説明する。
【0022】
先ず、
図1〜
図6に示す本発明の第1実施形態を説明する。
図1において、自動車のミッションケース1内には、伝動装置としての差動装置Dが変速装置と共に収容される。
【0023】
この差動装置Dは、前記変速装置の出力側に連動回転するリングギヤCgの回転を、差動装置Dの中心軸線即ち第1軸線X1上に相対回転可能に並ぶ左右の駆動車軸S1,S2(即ち第1,第2ドライブ軸)に対して、両駆動車軸S1,S2相互の差動回転を許容しつつ分配する。尚、各々の駆動車軸S1,S2とミッションケース1との間は、シール部材4,4′でシールされる。
【0024】
ミッションケース1の底部は、潤滑油を所定量貯溜し得るオイルパン(図示せず)に構成される。そのオイルパン内の貯溜潤滑油は、ミッションケース1内の回転部分、例えば後述するデフケースCが回転することで勢いよく掻き回されてケース1内空間に広範囲に飛散し、この飛散潤滑油によりケース1内の各部、即ち被潤滑部を潤滑可能である。尚、上記した潤滑構造に加えて(或いは代えて)、オイルポンプ等のポンプ手段で圧送された潤滑油をミッションケース1内の各部に強制的に圧送供給するようにしてもよい。
【0025】
差動装置Dは、ミッションケース1に第1軸線X1回りに回転可能に支持される伝動ケースとしてのデフケースCと、そのデフケースC内に収容される後述の差動機構3とで構成される。デフケースCは、短円筒状のギヤ本体の外周に斜歯Cgaを設けたヘリカルギヤよりなるリングギヤCgと、そのリングギヤCgの軸方向両端部に外周端部がそれぞれ接合される左右一対の第1,第2側壁板部Ca,Cbとを備える。その少なくとも一方の側壁板部Ca,Cbには、その外周端近傍において、デフケースC内の余剰の潤滑油を遠心力等で適度に排出可能なドレン孔(図示せず)が設けられる。
【0026】
また第1,第2側壁板部Ca,Cbは、各々の内周端部において第1軸線X1上に並ぶ円筒状の第1,第2ハブHB1,HB2をそれぞれ一体に有しており、それらハブHB1,HB2の外周部は、ミッションケース1に軸受2,2′を介して回転自在に支持される。また第1,第2ハブHB1,HB2の内周部には第1,第2駆動車軸S1,S2が第1軸線X1回りにそれぞれ回転自在に嵌合、支持される。その嵌合面の少なくとも一方(図示例ではハブHB1,HB2の内周面)には、自動車の少なくとも前進時(即ち駆動車軸S1,S2の正転時)にハブHB1,HB2と各駆動車軸S1,S2との相対回転に伴いミッションケース1内の飛散潤滑油をデフケースC内に引き込むための第1,第2螺旋溝18,19が形成される。その各螺旋溝18,19の外端はミッションケース1内に、またその内端はデフケースC内にそれぞれ開口する。またハブHB1,HB2の外端面には、ミッションケース1内から各螺旋溝18,19の外端開口(即ち入口)への潤滑油の流入を効率よく誘導案内し得るガイド部HB1a,HB2aが突設される。
【0027】
尚、本実施形態では、ミッションケース1内の潤滑油をデフケースC内に供給するための潤滑油供給手段として上記螺旋溝18,19が例示されたが、このような螺旋溝18,19に加えて(又は代えて)、別の潤滑油供給手段として、例えばオイルポンプ等のポンプ手段で圧送された潤滑油を、駆動車軸S1,S2及び/又はデフケースCに設けた油路(図示せず)を介してデフケースC内に供給するようにしてもよい。或いはまた、さらに別の潤滑油供給手段として、デフケースCの少なくとも一方の側壁板部Ca,Cbに、その内外を直接連通させる貫通孔を形成してもよい。尚また、螺旋溝18,19は、駆動車軸S1,S2の外周面に形成してもよい。
【0028】
次にデフケースC内の差動機構3の構造を説明する。差動機構3は、第1側壁板部Caに一体的に設けられて第1軸線X1回りに回転可能な第1伝動部材5と、第1駆動車軸S1にスプライン嵌合16されて第1軸線X1回りに回転可能な円筒状の第1スプラインボスSB1(即ち第1出力ボス)を一体に含む中空の主軸部6j、および第1軸線X1から所定の偏心量eだけ偏心した第2軸線X2を中心軸線とする偏心軸部6eが結合一体化された偏心回転部材6と、第1伝動部材5に一側部が対向配置され且つ偏心軸部6eにボール軸受よりなる軸受7を介して回転自在に支持される円環状の第2伝動部材8と、第2伝動部材8の他側部に対向配置されると共に第2駆動車軸S2にスプライン嵌合17されて第1軸線X1回りに回転可能な円環状の第3伝動部材9と、第1及び第2伝動部材5,8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1と、第2及び第3伝動部材8,9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2とを備える。
【0029】
而して、第1軸線X1回りに回転する偏心回転部材6の偏心軸部6eに第2伝動部材8が第2軸線X2回りに回転自在に嵌合支持されることで、第2伝動部材8は、偏心回転部材6の第1軸線X1回りの回転に伴い、それの偏心軸部6eに対し第2軸線X2回りに自転しつつ、主軸部6jに対し第1軸線X1回りに公転可能である。
【0030】
また第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6eに軸受7を介して回転自在に支持される円環状の第1半体8aと、その第1半体8aに間隔をおいて対向する円環状の第2半体8bと、その両半体8a,8b間を一体的に連結する基本的に円筒状の連結部材8cとを備える。そして、第1半体8aと第1伝動部材5との間に前記第1変速機構T1が、また第2半体8bと第3伝動部材9との間に前記第2変速機構T2がそれぞれ設けられる。第1,第2半体8a,8b及び連結部材8cの相互間には第2伝動部材8の中空部SPが画成される。
【0031】
連結部材8cには、デフケースCの内部空間ICと第2伝動部材8の中空部SPとの間を連通させる複数の第1油流通孔11が周方向に等間隔おきに設けられ、デフケースCの内部空間ICに飛散する潤滑油を第1油流通孔11を通して上記中空部SPに導入可能となっている。また第2半体8bには、上記中空部SPを第2変速機構T2の内周側に連通させる第2油流通孔12が、第2軸線X2を中心とする円形状に形成される。
【0032】
また、第3伝動部材9は、この第3伝動部材9の中空部において第2駆動車軸S2にスプライン嵌合17されて第1軸線X1回りに回転可能な円筒状の第2スプラインボスSB2(即ち第2出力ボス)を一体に含む主軸部9jと、その主軸部9jの内端部に同軸状に連設される円板部9cとが結合一体化されて構成される。
【0033】
また、連結部材8cの一端部及び他端部の内周面には、第1半体8a及び第2半体8bをそれぞれインロー嵌合され、その嵌合部が溶接、カシメ等の適当な固着手段により固着される。
【0034】
デフケースCの第1側壁板部Caの内側面と偏心回転部材6との相対向面間には、その相互間の相対回転を許容する第1スラストワッシャTH1が介装されると共に、第1螺旋溝18の内端開口(即ち出口)を第1スラストワッシャTH1の背面を経由して第1変速機構T1の内周側に連通させる第1油路P1が形成される。この第1油路P1は、第1螺旋溝18の出口が臨む環状の内周側油路部分P1iと、第1側壁板部Caの内側面に設けた複数の凹溝40と第1スラストワッシャTH1の背面との間に画成される中間油路部分P1mと、第1変速機構T1の内周側に直接連通する環状の外周側油路部分P1oとで構成される。その外周側油路部分P1oには第1変速機構T1の内周側のみならず前記軸受7も臨んでおり、第1油路P1を流れる潤滑油は、外周側油路部分P1oから第1変速機構T1及び軸受7の両方に供給可能である。而して、第1油路P1は、螺旋溝としての第1螺旋溝18の出口を第1変速機構T1の内周側に連通させる本発明の油路を構成する。
【0035】
またデフケースCの第2側壁板部Cbの内側面と第3伝動部材9との相対向面間には、その相互間の相対回転を許容する第2スラストワッシャTH2が介装される。
【0036】
更に差動機構3は、第1軸線X1を挟んで偏心回転部材6の偏心軸部6e及び第2伝動部材8の総合重心Gとは逆位相であり且つその総合重心Gの回転半径よりも大なる回転半径を有していて偏心回転部材6の主軸部6jに取付けられるバランスウェイトWを備えている。このバランスウェイトWは、円板状の取付基部Wmと、その取付基部Wmの周方向特定領域に固設される重錘部Wwとから構成される。
【0037】
第2伝動部材8(連結部材8c)の中空部SPは、バランスウェイトWを収容する収容空間として利用される。即ち、偏心回転部材6の主軸部6j、特に第1スプラインボスSB1は、それの内端部6jaが前記中空部SPに延出しており、その延出端部(前記内端部6ja)の開放端にバランスウェイトWの上記取付基部Wmが嵌合固定され、その取付基部Wmにより、中空の主軸部6j(第1スプラインボスSB1)の内端側の開口部が閉塞される。
【0038】
また偏心回転部材6(主軸部6j)には、第1螺旋溝18の出口から第1ドライブ軸S1と主軸部6j(即ち第1スプラインボスSB1)とのスプライン嵌合部16に流入した潤滑油を第1変速機構T1の内周側に導く少なくとも1つの油孔45が、主軸部6jを径方向に貫通するよう形成される。この油孔45の内端開口は、
図3に明示したように第1駆動車軸S1外周側のスプライン欠歯部43に直接連通しており、そのスプライン欠歯部43を流れる潤滑油を効率よく油孔45に供給し、そこから第1変速機構T1の内周側にスムーズに導けるようになっている。
【0039】
図1〜
図3に示すように、第1伝動部材5の、第2伝動部材8の一側部(第1半体8a)に対向する内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第1伝動溝21が形成され、この第1伝動溝21は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第2伝動部材8の、第1伝動部材5に対向する一側部(第1半体8a)には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第2伝動溝22が形成される。この第2伝動溝22は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、上記第1伝動溝21の波数よりも少ない波数を有して第1伝動溝21と複数箇所で交差する。これら第1伝動溝21及び第2伝動溝22の交差部(即ち重なり部)には、第1転動体としての複数の第1転動ボール23が介装されており、各々の第1転動ボール23は、それら第1及び第2伝動溝21,22の内側面を転動自在である。
【0040】
第1伝動部材5及び第2伝動部材8(第1半体8a)の相対向面間には、円環状の扁平な第1保持部材H1が介装される。この第1保持部材H1は、複数の第1転動ボール23の、第1、第2伝動溝21,22相互の交差部での両伝動溝21,22への係合状態を維持し得るように、複数の第1転動ボール23をそれらの相互間隔を一定に規制しつつ回転自在に保持する複数の円形の第1保持孔31を周方向で等間隔置きに有している。
【0041】
また、
図1,2,4に示すように、第2伝動部材8の他側部(第2半体8b)には、第2軸線X2を中心とした波形環状の第3伝動溝24が形成され、この第3伝動溝24は、図示例では第2軸線X2を中心とする仮想円を基礎円としたハイポトロコイド曲線に沿って周方向に延びている。一方、第3伝動部材9の、第2伝動部材8との対向面すなわち円板部9cの内側面には、第1軸線X1を中心とした波形環状の第4伝動溝25が形成される。この第4伝動溝25は、図示例では第1軸線X1を中心とする仮想円を基礎円としたエピトロコイド曲線に沿って周方向に延びており、上記第3伝動溝24の波数よりも少ない波数を有して第3伝動溝24と複数箇所で交差する。これら第3伝動溝24及び第4伝動溝25の交差部(重なり部)には、第2転動体としての複数の第2転動ボール26が介装されており、各々の第2転動ボール26は、それら第3及び第4伝動溝24,25の内側面を転動自在である。また本実施形態では、第1及び第2伝動溝21,22のトロコイド係数と、第3及び第4伝動溝24,25のトロコイド係数とは互いに異なる値に設定される。
【0042】
第3伝動部材9及び第2伝動部材8(第2半体8b)の相対向面間には、円環状の扁平な第2保持部材H2が介装される。この第2保持部材H2は、複数の第2転動ボール26の、第3、第4伝動溝24,25相互の交差部での両伝動溝24,25への係合状態を維持し得るように、複数の第2転動ボール26をそれらの相互間隔を一定に規制しつつ回転自在に保持する複数の円形の第2保持孔32を周方向で等間隔置きに有している。
【0043】
また本実施形態では、第1保持部材H1の内周側又は外周側に第1及び第2伝動溝21,22の各一部が常に開口していてその開口部IN1,IN2を通して第1及び第2伝動溝21,22内への潤滑油流動が許容されるように、第1保持部材H1並びに第1及び第2伝動溝21,22の各形状が設定される。
【0044】
以上説明した本実施形態において、第1伝動溝21の波数をZ1、第2伝動溝22の波数をZ2、第3伝動溝24の波数をZ3、第4伝動溝25の波数をZ4としたとき、下記式が成立するように、第1〜第4伝動溝21,22,24,25は形成される。
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=2
望ましくは、図示例のように、Z1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とするとよい。
【0045】
尚、図示例では、8波の第1伝動溝21と6波の第2伝動溝22とが7箇所で交差し、この7箇所の交差部(重なり部)に7個の第1転動ボール23が介装され、また6波の第3伝動溝24と4波の第4伝動溝25とが5箇所で交差し、この5箇所の交差部(重なり部)に5個の第2転動ボール26が介装される。
【0046】
而して、第1伝動溝21、第2伝動溝22及び第1転動ボール23は互いに協働して、第1伝動部材5及び第2伝動部材8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1を構成し、また第3伝動溝24、第4伝動溝25及び第2転動ボール26は互いに協働して、第2伝動部材8及び第3伝動部材9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2を構成する。
【0047】
次に、前記第1実施形態の作用について説明する。
【0048】
いま、例えば右方の第1駆動車軸S1を固定することで偏心回転部材6(従って偏心軸部6e)を固定した状態において、エンジンからの動力でリングギヤCgが駆動され、デフケースC、従って第1伝動部材5を第1軸線X1回りに回転させると、第1伝動部材5の8波の第1伝動溝21が第2伝動部材8の6波の第2伝動溝22を第1転動ボール23を介して駆動するので、第1伝動部材5が8/6の増速比を以て第2伝動部材8を駆動することになる。そして、この第2伝動部材8の回転によれば、第2伝動部材8の6波の第3伝動溝24が第3伝動部材9の円板部9cの4波の第4伝動溝25を第2転動ボール26を介して駆動するので、第2伝動部材8が6/4の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0049】
結局、第1伝動部材5は、
(Z1/Z2)×(Z3/Z4)=(8/6)×(6/4)=2
の増速比を以て第3伝動部材9を駆動することになる。
【0050】
一方、左方の第2駆動車軸S2を固定することで第3伝動部材9を固定した状態において、デフケース(従って第1伝動部材5)を回転させると、第1伝動部材5の回転駆動力と、第2伝動部材8の、不動の第3伝動部材9に対する駆動反力とにより、第2伝動部材8は、偏心回転部材6の偏心軸部6e(第2軸線X2)に対し自転しながら第1軸線X1回りに公転して、偏心軸部6eを第1軸線X1回りに駆動する。その結果、第1伝動部材5は、2倍の増速比を以て偏心回転部材6を駆動することになる。
【0051】
而して、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の負荷が相互にバランスしたり、相互に変化したりすると、第2伝動部材8の自転量及び公転量が無段階に変化し、偏心回転部材6及び第3伝動部材9の回転数の平均値が第1伝動部材5の回転数と等しくなる。こうして、第1伝動部材5の回転は、偏心回転部材6及び第3伝動部材9に分配され、したがってリングギヤCgからデフケースCに伝達された回転力を左右の駆動車軸S1,S2に分配することができる。
【0052】
その際、Z1=8、Z2=6、Z3=6、Z4=4とするか、又はZ1=6、Z2=4、Z3=8、Z4=6とすることにより、差動機能を確保しつゝ構造の簡素化を図ることができる。
【0053】
ところで、この差動装置Dにおいて、第1伝動部材5の回転トルクは、第1伝動溝21、複数の第1転動ボール23及び第2伝動溝22を介して第2伝動部材8に、また第2伝動部材8の回転トルクは、第3伝動溝24、複数の第2転動ボール26及び第4伝動溝25を介して第3伝動部材9にそれぞれ伝達されるので、第1伝動部材5と第2伝動部材8、第2伝動部材8と第3伝動部材9の各間では、トルク伝達が第1及び第2転動ボール23,26が存在する複数箇所に分散して行われることになり、第1〜第3伝動部材5,8,9及び第1、第2転動ボール23,26等の各伝動要素の強度増及び軽量化を図ることができる。
【0054】
差動装置Dの上記したトルク伝達過程においては、前述のようにミッションケース1底部の貯溜潤滑油がデフケースC等に掻き回されてミッションケース1内に広範囲に飛散する。そして、その飛散潤滑油の一部は、
図6に示すようにデフケースCのハブHB1,HB2と駆動車軸S1,S2との相対回転に伴う螺旋溝18,19の引き込み作用により、デフケースC内に積極的に供給される。
【0055】
このとき、特に第1螺旋溝18の出口に達した潤滑油は、その一部が遠心力の作用で第1油路P1(即ち内周側油路部分P1i→中間油路部分P1m→外周側油路部分P1o)を経由して第1変速機構T1の内周側及び偏心軸部6e上の軸受7に流動し、第1スラストワッシャTH1や第1変速機構T1及び軸受7を潤滑する。また第1螺旋溝18の出口に達した潤滑油の残部は、スプライン嵌合部16(特に前記したスプライン欠歯部43)から油孔45を経由して第1油路P1の外周側油路部分P1oに合流し、第1変速機構T1及び軸受7を潤滑する。この場合、本実施形態では偏心回転部材6の中空の主軸部6jの内端側の開口部がバランスウェイトWで閉塞されるため、主軸部6j内での潤滑油の素通りが規制される。尚、第1変速機構T1を通過した油は、デフケースCの内部空間ICに流入する。
【0056】
また第2伝動部材8(連結部材8c)に設けた複数の第1油流通孔11は、これらがデフケースCの内部空間ICに広く開口するため、第1油流通孔11を通してデフケースCの内部空間ICと第2伝動部材8の中空部SPとの間で潤滑油がスムーズに出入り可能である。従って、デフケースCの内部空間ICに流入飛散する潤滑油の一部は、第1油流通孔11からも第2伝動部材8の中空部SPに戻される。
【0057】
かくして、差動装置Dのトルク伝達過程では、デフケースCの内部において、第1,第2変速機構T1,T2、軸受7、各スラストワッシャTH1,TH2等の摺動部が効果的に潤滑される。
【0058】
特に本実施形態によれば、第1軸線X1回りに回転可能な扁平な第1伝動部材5と、第1軸線X1回りに回転可能な中空の主軸部6j(即ち第1出力ボスとしての第1スプラインボスSB1)、および第1軸線X1から偏心した第2軸線X2を中心軸線とする偏心軸部6eを一体に有する偏心回転部材6と、第1伝動部材5に対向配置されて偏心軸部6eに回転自在に支持される第2伝動部材8と、第1軸線X1回りに回転可能な第2出力ボスとしての第2スプラインボスSB2を有して第2伝動部材8に対向配置される扁平な第3伝動部材9と、第1及び第2伝動部材5,8間で変速しつつトルク伝達可能な第1変速機構T1と、第2及び第3伝動部材8,9間で変速しつつトルク伝達可能な第2変速機構T2とを備え、両変速機構T1,T2が、偏心回転部材6を固定したときに第1伝動部材5から第3伝動部材9を2倍の増速比を以て駆動するように構成されるため、軸方向に容易に扁平小型化し得る差動装置Dが得られる。
【0059】
その上、第1駆動車軸S1とデフケースCの第1ハブHB1との嵌合面の一方に、その相互の相対回転によりミッションケース1内の潤滑油を第1ハブHB1の外端側から内端側に引き込み可能な螺旋溝18が設けられると共に、この螺旋溝18の出口を第1変速機構T1の内周側に連通させる第1油路P1が、デフケースCと偏心回転部材6との間に設けられるので、螺旋溝18を通してミッションケース1側からデフケースC側へ潤滑油を引き込み、次いでその潤滑油を遠心力の作用によりデフケースCと偏心回転部材6間(第1油路P1)で放射状に飛散させて第1変速機構T1側へ効率よく供給可能である。この場合、螺旋溝18の出口は、主軸部6jの中空部とも連通しているが、その主軸部6jの内端部6jaの開放端面が閉塞部材としてのバランスウェイトWで閉塞されるため、螺旋溝18の出口を出た潤滑油が主軸部6jの中空部を素通りすることなく第1変速機構T1側に効率よく供給可能となる。
【0060】
その上、螺旋溝18の出口から第1駆動車軸S1と主軸部6jとのスプライン嵌合部16に流入した潤滑油を第1変速機構T1の内周側に導く油孔45を偏心回転部材6が有するので、スプライン嵌合部16(即ち主軸部6jの中空部)への流入潤滑油を油孔45を通して第1変速機構T1の内周側に供給可能となり、第1変速機構T1をより効率よく潤滑できる。
【0061】
次に
図7を参照して本発明の第2実施形態について説明する。この第2実施形態の偏心回転部材6の主軸部6j(第1スプラインボスSB1)には、デフケースCの第1ハブHB1に回転自在に嵌合支持される第1筒軸41が同軸且つ一体的に連設され、また第3伝動部材9の主軸部9j(第2スプラインボスSB2)には、デフケースCの第2ハブHB2に回転自在に嵌合支持される第2筒軸42が同軸且つ一体的に連設される。
【0062】
第1ハブHB1と第1筒軸41との嵌合面の一方(図示例では第1ハブHB1)には、それら第1筒軸41と第1ハブHB1との相対回転によりミッションケース1内の潤滑油を第1ハブHB1の外端側から内端側に引き込み可能な第1螺旋溝18が設けられると共に、この第1螺旋溝18の出口を第1スラストワッシャTH1の背面を経由して第1変速機構T1の内周側に連通させる第1油路P1が、デフケースCと偏心回転部材6との間に設けられる。
【0063】
また第2ハブHB2と第2筒軸42との嵌合面の一方(図示例では第2ハブHB2)には、それら第2筒軸42と第2ハブHB2との相対回転によりミッションケース1内の潤滑油を第2ハブHB2の外端側から内端側に引き込み可能な第2螺旋溝19が設けられる。尚、第1,第2螺旋溝18,19及び第1油路P1の構成は、第1実施形態と同様である。尚また、第1,第2筒軸41,42の肉厚が十分有る場合には、第1,第2筒軸41,42側に第1,第2螺旋溝18,19を形成するようにしてもよい。
【0064】
そして、第1,第2筒軸41,42の、第1,第2ハブHB1,HB2から外方に延出する外端部41a,42aの外周部と、ミッションケース1との間には、その間をシールする環状のシール部材4,4′がそれぞれ介装される。更に第3伝動部材9の中空の主軸部9j(即ち第2スプラインボスSB2)には、これの内端側(第2駆動車軸S2とは反対側)の開口部を閉塞する閉塞壁44が一体に形成される。尚、この閉塞壁44を主軸部9jとは別体に形成して、主軸部9jに後付けで固着してもよい。
【0065】
また第2実施形態の偏心回転部材6には、第1実施形態の油孔45に相当する孔は形成されない。
【0066】
その他の構成は、第1実施形態と同様であるので、各構成要素に第1実施形態と同様の参照符号を付すに止め、説明を省略する。
【0067】
而して、本第2実施形態によれば、第1実施形態の前記した効果と同等の効果を達成可能である。
【0068】
その上、本第2実施形態では、偏心回転部材6の中空の主軸部6j(第1スプラインボスSB1)の内端側の開口部がバランスウェイトWで閉塞されるのみならず、第3伝動部材9の中空の主軸部9j(第2スプラインボスSB2)の内端側の開口部が閉塞壁44で閉塞され、更に第1実施形態の油孔45を偏心回転部材6が有しないため、第1駆動車軸S1を偏心回転部材6の主軸部6j(第1筒軸41)から引き抜いた場合でも、また第2駆動車軸S2を第3伝動部材9の主軸部9j(第2筒軸42)から引き抜いた場合でも、ミッションケース1及びデフケースC内の潤滑油の外部漏出を防止でき、メンテナンス作業性が良好となる。
【0069】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0070】
例えば、前記実施形態では、差動装置Dを自動車のミッションケース1内に収容しているが、差動装置Dは自動車用の差動装置に限定されるものではなく、種々の機械装置用の差動装置として実施可能である。
【0071】
また、前記実施形態では、差動装置Dを、左・右輪伝動系に適用して、左右の駆動車軸S1,S2に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するものを示したが、本発明では、差動装置を、前・後輪駆動車両における前・後輪伝動系に適用して、前後の駆動車輪に対し差動回転を許容しつつ動力を分配するようにしてもよい。
【0072】
また前記実施形態の第2伝動部材8は、第1,第2半体8a,8b及び連結部材8cから構成されていたが、第2伝動部材8は、1枚の部材の一方の面に第2伝動溝22が、また他方の面に第3伝動溝24がそれぞれ設けられたものであってもよい。
【0073】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2として何れも転動ボール式の変速機構を用いたものを示したが、前記実施形態の構造に限定されない。即ち、偏心回転部材と、それの回転に連動して第2軸線回りの自転及び第1軸線X1回りの公転が可能な第2伝動部材とを少なくとも含む種々の変速機構、例えば内接式遊星歯車機構や、種々の構造のサイクロイド減速機(増速機)或いはトロコイド減速機(増速機)を第1又は第2変速機構の一方又は両方に適用するようにしてもよい。
【0074】
また、前記実施形態では、バランスウェイトWを、第1出力ボスとしての第1スプラインボスSB1の中空部の内端側(即ち第1駆動車軸S1とは反対側)の開口部を閉塞する閉塞部材に兼用して構造簡素化を図るようにしたものを示したが、本発明では、上記開口部を栓体等の専用の閉塞部材を以て閉塞するようにしてもよい。この場合、閉塞部材は、主軸部6j(第1スプラインボスSB1)と一体に形成してもよいし、或いは別体に形成して後付けで主軸部6jに固着してもよい。
【0075】
また、前記実施形態では、バランスウェイトWを第2伝動部材8の中空部SPに収容したものを示したが、バランスウェイトWの配設部位は実施形態に限定されず、例えば、第2伝動部材8の外側等に配設してもよい。
【0076】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の各伝動溝21,22;24,25をトロコイド曲線に沿った波形環状の波溝としているが、これら伝動溝は、実施形態に限定されるものでなく、例えばサイクロイド曲線に沿った波形環状の波溝としてもよい。
【0077】
また、前記実施形態では、第1,第2変速機構T1,T2の第1及び第2伝動溝21,22間、並びに第3及び第4伝動溝24,25間にボール状の第1及び第2転動体23,26を介装したものを示したが、その転動体をローラ状又はピン状としてもよく、この場合に、第1及び第2伝動溝21,22、並びに第3及び第4伝動溝24,25は、ローラ状又はピン状の転動体が転動し得るような内側面形状に形成される。
【0078】
また前記実施形態では、偏心回転部材6及び第3伝動部材9を、デフケースCに支持される駆動車軸S1,S2に接続(スプライン嵌合16,17)して、これら駆動車軸S1,S2を介してデフケースCに支持させるようにしたものを示したが、本発明では、偏心回転部材6及び第3伝動部材9をデフケースCに直接支持させるようにしてもよい。
【0079】
また前記実施形態では、第1,第2保持部材H1,H2を、内・外周面が各々真円の円環状リングより構成したものを示したが、本発明の第1,第2保持部材の形状は、前記実施形態に限定されず、少なくとも複数の第1,第2転動ボール23,26を各々一定間隔で保持し得る環状体であればよく、例えば楕円状の環状体、或いは波形に湾曲した環状体であってもよい。
【0080】
また前記実施形態では、各々複数の第1,第2伝動ボール23,26を所定間隔で回転可能に保持する第1,第2保持部材H1,H2を第1,第2変速機構T1,T2がそれぞれ備えるものを示したが、第1,第2保持部材H1,H2無しでも第1,第2伝動ボール23,26が各伝動溝21,22,24,25を円滑に転動可能である場合には、第1,第2保持部材H1,H2を省略してもよい。