(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-161013(P2017-161013A)
(43)【公開日】2017年9月14日
(54)【発明の名称】免震装置
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20170818BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20170818BHJP
F16F 7/08 20060101ALI20170818BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20170818BHJP
【FI】
F16F15/02 L
F16F15/023 A
F16F7/08
E04H9/02 331E
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-46911(P2016-46911)
(22)【出願日】2016年3月10日
(71)【出願人】
【識別番号】000103644
【氏名又は名称】オイレス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106563
【弁理士】
【氏名又は名称】中井 潤
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 清春
【テーマコード(参考)】
2E139
3J048
3J066
【Fターム(参考)】
2E139AA01
2E139AA17
2E139AB03
2E139AC19
2E139BA15
2E139BA22
2E139BA45
2E139BC06
2E139BC08
2E139BD34
2E139CA01
2E139CA22
2E139CA24
2E139CB04
2E139CB05
2E139CB15
2E139CC02
2E139CC10
3J048AA04
3J048AC01
3J048AC04
3J048AC05
3J048AD05
3J048BE03
3J048BE12
3J048BG01
3J048BG04
3J048CB05
3J048DA01
3J048EA38
3J066AA26
3J066CA05
(57)【要約】
【課題】下部構造体に対する上部構造体の移動量を小さく抑え、粘性体から安定した抵抗力を得ることが可能な免震装置を提供する。
【解決手段】下部構造体22に固定され、上面に凹球面2aを有し、凹球面に粘性体5を収容した球面板2と、球面板の凹球面の表面を摺動するスペーサー7と、スペーサーの上方に位置し、スペーサーを挟んで球面板の凹球面との間に隙間を有し、粘性体が隙間に充填された状態でスペーサーと共に移動する抵抗板6と、上面で上部構造体21に固定され、下面8dが抵抗板に移動可能に連結された可動体8とを備える免震装置1。抵抗板の上面6cに固定され、上面に凸球面を有する連結部6aを備え、可動体は下面に、連結部の凸球面に接触する凹球面を有し、連結部の凸球面と可動体の凹球面が互いに摺動することにより、可動体の下面が抵抗板に回転可能に摺接する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下部構造体に固定され、上面に凹球面を有し、該凹球面に粘性体を収容した球面板と、
該球面板の前記凹球面の表面を摺動するスペーサーと、
該スペーサーの上方に位置し、該スペーサーを挟んで前記球面板の前記凹球面との間に隙間を有し、少なくとも前記粘性体が前記隙間に充填された状態で前記スペーサーと共に移動する抵抗板と、
上面で上部構造体に固定され、下面が前記抵抗板に移動可能に設置された可動体とを備えていることを特徴とする免震装置。
【請求項2】
前記抵抗板の上面に固定され、上面に凸球面を有する連結部を備え、
前記可動体は下面に、前記連結部の前記凸球面に接触する凹球面を有し、
前記連結部の前記凸球面と前記可動体の前記凹球面とが互いに摺動することにより、該可動体が前記連結部を介して前記抵抗板に回転可能に摺接していることを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項3】
前記抵抗板の上面に固定され、上面に凹球面を有する連結部を備え、
前記可動体は下面に、前記連結部の前記凹球面に接触する凸球面を有し、
前記連結部の前記凹球面と前記可動体の前記凸球面とが互いに摺動することにより、該可動体が前記連結部を介して前記抵抗板に回転可能に摺接していることを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項4】
前記抵抗板の上面と前記可動体の下面との間に弾性体を備え、
該弾性体が弾性変形することにより、前記可動体が前記抵抗板に回転可能に連結されていることを特徴とする請求項1に記載の免震装置。
【請求項5】
前記球面板に固定され、前記可動体が前記抵抗板と共に移動した際に、該可動体が前記球面板の前記凹球面の中心部から所定距離以上離れる方向へ移動することを規制するストッパを備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の免震装置。
【請求項6】
前記球面板に固定され、該球面板の前記凹球面を覆うカバーを備えていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の免震装置。
【請求項7】
前記可動体は、円柱状又は矩形柱状に形成され、
前記ストッパ又は前記カバーは、前記可動体を収容する上面視円形又は矩形の開口を有すると共に、該開口を形成する縁部に上方に突出する突条を有していることを特徴とする請求項5又は6に記載の免震装置。
【請求項8】
前記可動体に固定され、前記球面板の前記凹球面を覆う上面視円形又は矩形の外縁部に下方に突出する突条を有した板状のカバーを備えていることを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の免震装置。
【請求項9】
前記抵抗板と前記可動体とが互いに鉛直方向に離間することを防止する離間防止手段を備えていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の免震装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放送施設(受信点施設から放送の受け渡し点までの施設)や建築物等の上部構造体と、基礎等の下部構造体との間に介装され、地震、交通振動等による下部構造体の振動の上部構造体への伝達を低減する免震装置に関し、特に下部構造体に対する上部構造体の水平方向における移動量を小さく抑えた免震装置に関する。
【背景技術】
【0002】
放送施設に免震装置を設置する場合には、ケーブルの長さによって下部構造体に対する上部構造体の水平方向における移動量が制限される。一般的に免震性能を高めるには、この移動量を大きく設定する必要があるため、免震性能が高く、移動量を抑えた免震装置を構成するのは容易ではない。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、上部構造体に固定される上側鋼板と、下部構造体に固定され、上面が凹球面状に形成される下側鋼板と、上側鋼板に固定され、下側鋼板の凹球面上を摺動する柱部材と、上側鋼板、下側鋼板及び柱部材を囲繞する円筒ゴム部材と、円筒ゴム部材によって形成される密閉空間に充填される粘性体とを備える免震装置が開示される。
【0004】
上記特許文献1の免震装置においては、地震等により下部構造体に水平振動(変位)が生じた際に、柱部材が摺動することによって下部構造体の振動の上部構造体への伝達を低減することができる。また、この免震装置では、免震装置が支持する荷重に拘わらず、振り子の原理から上部構造体の固有周期を長周期化することができ、併せて、柱部材と、下側鋼板との接触面に生じる摩擦抵抗力、柱部材に対する粘性体の抵抗力、及び円筒ゴム部材の復元力により、下部構造体から上部構造体に伝達される振動エネルギを減衰させることができる。これにより、下部構造体に対する上部構造体の水平方向における移動量を小さく抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−294529号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上記特許文献1に記載の免震装置において、上記柱部材は上部構造体毎にその断面形状や断面積が異なるため、粘性体によって得られる抵抗力を安定させることが容易ではなかった。また、粘性体による抵抗力を調整するには、柱部材の断面形状や断面積等を調整することになるが、柱部材の断面形状や断面積を変更する場合には、柱部材を交換しなければならず、この作業に相当の労力を要するという問題もあった。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来の免震装置における問題点に鑑みてなされたものであって、下部構造体に対する上部構造体の移動量を小さく抑えることが可能で、粘性体から安定した抵抗力を得ることが可能な免震装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明の免震装置は、下部構造体に固定され、上面に凹球面を有し、該凹球面に粘性体を収容した球面板と、該球面板の前記凹球面の表面を摺動するスペーサーと、該スペーサーの上方に位置し、該スペーサーを挟んで前記球面板の前記凹球面との間に隙間を有し、少なくとも前記粘性体が前記隙間に充填された状態で前記スペーサーと共に移動する抵抗板と、上面で上部構造体に固定され、下面が前記抵抗板に移動可能に設置された可動体とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明によれば、断面形状や断面積が不確定な柱部材が抵抗力の発生に関与しないため、粘性体によって得られる抵抗力を安定させることができる。また、抵抗板の下面の表面積と、抵抗板と凹球面の表面の間の隙間を変更することで、下部構造体から上部構造体に伝達される振動エネルギを減衰させるせん断抵抗力を変更することができるため、従来のように柱部材を取り替えるような大掛かりな作業を行う必要がなく、抵抗板やスペーサーを取り替えるだけで済む。さらに、可動体の下面が抵抗板に移動可能に設置されるため、下部構造体が地震等により水平変位し、スペーサーが凹球面の表面を摺動した際の上部構造体の傾きを抑えることができる。
【0010】
前記免震装置において、前記抵抗板の上面に固定され、上面に凸球面を有する連結部を設け、前記可動体の下面に、前記連結部の前記凸球面に接触する凹球面を設け、前記連結部の前記凸球面と前記可動体の前記凹球面とが互いに摺動することにより、該可動体が前記抵抗板に回転可能に摺接するように構成することができる。
【0011】
また、前記免震装置において、前記抵抗板の上面に固定され、上面に凹球面を有する連結部を設け、前記可動体は下面に、前記連結部の前記凹球面に接触する凸球面を設け、前記連結部の前記凹球面と前記可動体の前記凸球面とが互いに摺動することにより、該可動体が前記抵抗板に回転可能に摺接するように構成することもできる。
【0012】
さらに、前記免震装置において、前記抵抗板の上面と前記可動体の下面との間に弾性体を設け、該弾性体が弾性変形することにより、前記可動体が前記抵抗板に回転可能に連結されるように構成することもできる。
【0013】
前記免震装置において、前記球面板に固定され、前記可動体が前記抵抗板と共に移動した際に、該可動体が前記球面板の前記凹球面の中心部から所定距離以上離れる方向へ移動することを規制するストッパを設けることができる。これにより、抵抗板の過大な変位を防止することができる。
【0014】
また、前記免震装置に、前記球面板に固定され、該球面板の前記凹球面を覆うカバーを設けることができ、雨水等が球面板の上方の粘性体の収容空間へ浸入することを防止することができる。
【0015】
さらに、前記免震装置において、前記可動体を円柱状又は矩形柱状に形成し、前記ストッパ又は前記カバーを、前記可動体を収容する上面視円形又は矩形の開口を有すると共に、該開口を形成する縁部に上方に突出する突条を有するように構成することができる。ストッパ又はカバーの縁部に形成した突条により、ストッパ等の上面に位置する雨水が球面板の上方の粘性体の収容空間へ浸入することを防止することができる。
【0016】
また、前記免震装置に、前記可動体に固定され、前記球面板の前記凹球面を覆う上面視円形又は矩形の外縁部に下方に突出する突条を有した板状のカバーを設けることができ、このカバーの縁部に形成した突条により、このカバーの上面の雨水が下面に回ることを防止することができる。
【0017】
上記免震装置は、さらに前記抵抗板と前記可動体とが互いに鉛直方向に離間することを防止する離間防止手段を備えるように構成することができる。上部構造体のアスペクト比が高い場合等には、上部構造体が鉛直方向に大きく揺れて浮き上がりが生じ、可動体に引抜力が作用するが、離間防止手段によって抵抗板と可動体の離間を防止しているため、連結部から可動体が脱落したり、抵抗板と可動体との間に介在する弾性体が破損するのを防止することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明によれば、下部構造体に対する上部構造体の移動量を小さく抑えることが可能で、粘性体から安定した抵抗力を得ることが可能な免震装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明に係る免震装置の一実施の形態を示し、(a)は上面図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【
図2】
図1に示す免震装置の球面板に地震等により水平力が加えられた状態を示す断面図である。
【
図3】
図1に示す免震装置の設置例を示し、(a)は透視上面図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【
図4】本発明に係る免震装置の第2の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【
図5】本発明に係る免震装置の第3の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【
図6】本発明に係る免震装置の第4の実施形態を示す部分拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明を実施するための形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
図1は、本発明に係る免震装置の一実施の形態を示し、この免震装置1は、下面2bが下部構造体に固定されて上面に凹球面2aを有する球面板2と、球面板2の凹球面2aを囲繞するように球面板2に立設される円筒状部材3と、凹球面2aに収容される粘性体5と、下面6dが球面板2の凹球面2aと略々同一の曲率を有するように凸球面状に形成され、上面6cに凸球面状の連結部6aを有する抵抗板6と、抵抗板6の下面6dに固定され、球面板2の凹球面2a上を摺動するスペーサー7と、上面8cが上部構造体に固定されて下面(凹球面)8dが抵抗板6の連結部6aの凸球面6bに接触する可動体8等で構成される。
【0022】
球面板2は、炭素鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等の金属材料によって上面視正方形状に形成され、場合によっては表面にすべり材が被覆される。上面視円形の凹球面2aを囲む円筒状部材3の外側には、球面板2を下部構造体に固定するためのボルトを挿入するための貫通孔2cが4つ形成される。
【0023】
円筒状部材3は、炭素鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等によって上面視円形に形成され、粘性体5が凹球面2aから外部に漏れるのを防止すると共に、上部にストッパ10を装着するために設けられる。
【0024】
粘性体5は、一般的に使用されるシリコン油や、高粘度を有したポリイソブチレン、ポリプロピレン、ポリブテン又はジメチルポリシロキサン等の高分子粘性体又はアスファルトから適宜選択することができる。
【0025】
抵抗板6は、炭素鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等によって上面視円形に形成され、上部に凸球面状(凸球面6b)の連結部6aを備える。この連結部6aは、抵抗板6の上面6cに溶接、ボルト等によって固定される。尚、凸球面状の連結部6aと抵抗板6は無垢材から機械加工することで一体に形成してもよい。
【0026】
スペーサー7は、炭素鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等の金属材料等を用いて、上面視円形のリング状に形成され、抵抗板6の下面6dに溶接、ボルト等によって固定される。このスペーサー7は、球面板2の凹球面2a上を摺動することによって摩擦抵抗力を発生させると共に、抵抗板6と球面板2の凹球面2aとの間に隙間を形成する。尚、スペーサー7は、全体が摺動特性の良好な摺動部材から構成されたものでもよいし、上記金属材料の摺動面に摺動特性の良好な摺動部材を被覆したものを用いてもよい。
【0027】
可動体8は、全体的に炭素鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等によって形成され、上面視正方形状の板状部8aと、上面視円形の円柱状部8bとで構成される。可動体8は、下部に抵抗板6の連結部6aの凸球面6bと接触する凹球面8dを有する。上部構造体の荷重により、円柱状部8bの凹球面8dが抵抗板6の連結部6aの凸球面6bに押し付けられているため、円柱状部8bは抵抗板6の連結部6aに対して回転可能で、抵抗板6の移動に追従する。板状部8aには、この免震装置1を上部構造体に固定する際にボルトを螺合させるねじ孔8eが4つ設けられる。
【0028】
円筒状部材3の上部には、中央に上面視円形の開口10aを有し、炭素鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板、ゴム材料又は樹脂からなる上面視円形のストッパ10が溶接、接着剤又はボルトによって固定される。これにより、可動体8や、抵抗板6の水平変位を制限する。また、このストッパ10は、内縁部に環状突条10bを有し、免震装置1を屋外に設置した場合にストッパ10の上面の雨水が球面板2の上方の粘性体5の収容空間へ浸入するのを防止するカバーとしての機能も有する。
【0029】
可動体8の板状部8aの下面8f及び円柱状部8bの上部側面8gには、外縁部11bに環状突条11aを有する円板状のカバー11が、溶接、接着剤又はボルトによって固定される。免震装置1を屋外に設置された放送施設等に装着する場合には、この環状突条11aにより、カバー11の上面の雨水がカバー11の下面に回ることを防止することができるため、球面板2の上方の粘性体5の収容空間への雨水の浸入を防止することができる。
【0030】
次に、上記構成を有する免震装置1の動作について、
図1及び
図2を参照しながら詳細に説明する。
【0031】
図1(b)に示す通常の状態から、地震等により球面板2が例えば右方向に変位すると、
図2に示すように、可動体8、抵抗板6及びスペーサー7が相対的に左方向に変位する。ここで、可動体8は抵抗板6の連結部6aに対して回転可能であるため、上部構造体の傾きを抑えながら抵抗板6と共に移動する。
【0032】
上記動作により、免震装置1が支持する上部構造体の荷重に拘わらず、振り子の原理から上部構造体の固有周期を長周期化することができ、併せて、スペーサー7と球面板2の接触面に生じる摩擦抵抗力、並びにスペーサー7及び抵抗板6に対する粘性体5の抵抗力によって下部構造体に加えられた振動エネルギを減衰させることができる。ここまでは、従来の免震装置と略々同様の作用である。
【0033】
上記に加え、本実施の形態では、振動エネルギの減衰作用としてさらに、抵抗板6の下面6dと球面板2の凹球面2aとの間に位置する粘性体5によりせん断抵抗力を得ることができるが、このせん断抵抗力は、抵抗板6と球面板2の上面視での重なり合った面積及び抵抗板6の下面6dと球面板2の凹球面2aの間の隙間間隔によって決定されるため、球面板2の凹球面2aに充填される粘性体5は、少なくとも抵抗板6の下面6dに接触するまで、抵抗板6と球面板2の凹球面2aとの間の隙間に充填されている必要がある。また、抵抗板6と球面板2の上面視での重なり合った面積は面積が大きいほど抵抗力は大きくなり、抵抗板6の下面6dと球面板2の凹球面2aの間の隙間間隔は間隔が小さいほど抵抗力は大きくなる。このように粘性体による抵抗力を調整するために、従来のように柱部材を取り替えるなどの大掛かりな作業を行う必要がなく、抵抗板6やスペーサー7を取り替えるだけで済む。また、従来のような柱部材を用いず、断面形状や断面積が不確定な柱部材が抵抗力の発生に関与しないため、粘性体によって得られる抵抗力を安定させることができる。
【0034】
一方、
図2の状態では、図示を省略するが、実際には、球面板2の凹球面2a上の粘性体5が抵抗板6の移動に伴って左側に偏る(盛り上がる)。上記ストッパ10は、この左側に偏った粘性体5を球面板2の中央部に戻すための返しとしても機能する。
【0035】
図3は、上記構成を有する免震装置1の設置例を示し、本実施の形態では、免震装置1を上部構造体21の四隅に各々設置した。
【0036】
下部構造体22と球面板2の固定は、球面板2の貫通孔2cにボルト23を挿入し、下部構造体22に形成されたねじ孔に螺合させることで行う。可動体8と上部構造体21の固定は、上下にフランジ部24a、24bを有する溝型鋼24を介して行われ、溝型鋼24の上フランジ部24aを上部構造体21に固定した後、溝型鋼24の下フランジ部24bに穿設された貫通孔にボルト25を挿入し、可動体8のねじ孔8e(
図1(a)参照)と螺合させることで完了する。
【0037】
図4は、本発明に係る免震装置の第2の実施形態を示し、この免震装置31は、
図1に示す免震装置1の可動体8及び抵抗板6に代えて可動体32(
図1に示した可動体8の円柱状部8bに相当する部分のみを示す)及び抵抗板33を有し、さらにこれらを連結するリング状部材34を有する。尚、免震装置1と同一の構成要素については、同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0038】
可動体32は、抵抗板33の連結部33aよりも大径に形成されると共に、下面に連結部33aの上面33bに接触する凹球面32aを有する。また、可動体32及び連結部33aには、水平方向に一周にわたって溝32b、33cが各々形成されている。
【0039】
リング状部材34は、上部に可動体32の溝32bに挿入される第1環状突条34aを有し、下部に連結部33aの溝33cに挿入される第2環状突条34bを有し、可動体32にボルト35によって固定される。尚、リング状部材34は、上面視で複数に分割されて可動体32に固定される。
【0040】
上記構成により、地震等の際には、
図1及び
図2に示す免震装置1と同様に、可動体32、抵抗板33及びスペーサー7が球面板2に対して変位し、可動体32が抵抗板33に対して回転可能な状態を維持し、上部構造体の傾きを抑えながら抵抗板33と共に移動し、上部構造体の固有周期を長周期化し、下部構造体に加えられた振動エネルギを減衰させることができる。
【0041】
これに加え、上部構造体のアスペクト比が高い場合等には、上部構造体が鉛直方向に大きく揺れて浮き上がりが生じ、可動体32に引抜力が作用するが、リング状部材34の第2環状突条34bの上面が抵抗板33の連結部33aの溝33cの天井面に当接するため、可動体32が抵抗板33の連結部33aから脱落することを防止することができる。
【0042】
図5は、本発明に係る免震装置の第3の実施形態を示し、この免震装置41は、
図4に示す免震装置31の可動体32、抵抗板33及びリング状部材34に代えて、可動体42、抵抗板43及びリング状部材44を有する。尚、免震装置1、31と同一の構成要素については、同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0043】
可動体42は、抵抗板43の連結部43aよりも小径に形成されると共に、下面に連結部43aの上面43bに接触する凹球面42aを有する。また、可動体42及び連結部43aには、水平方向に一周にわたって溝42b、43cが各々形成されている。
【0044】
リング状部材44は、上部に可動体42の溝42bに挿入される第1環状突条44aを有し、下部に連結部43aの溝43cに挿入される第2環状突条44bを有し、連結部43aにボルト45によって固定される。尚、リング状部材44は、上面視で複数に分割されて可動体42に固定される。
【0045】
上記構成により、
図4に示す免震装置31と同様に、可動体42、抵抗板43及びスペーサー7が球面板2に対して変位し、その際、可動体42が抵抗板43に対して回転可能な状態を維持すると共に、リング状部材44の第1環状突条44aの下面が可動体42の溝42bの底面に当接するため、可動体42の脱落を防止することができる。
【0046】
尚、上記実施の形態においては、抵抗板6の連結部6aに凸球面6bを、可動体8に凸球面6bに接触する凹球面8dを設け、抵抗板6と可動体8を回転可能に連結したが、これらの凹凸関係を逆転させても両者を同様に回転可能に連結することができる。
【0047】
また、スペーサー7を上面視リング状に形成する場合について説明したが、これに限らず、円柱、四角柱、多角柱、四角筒又は多角筒状に形成することができ、抵抗板6の中央に幅広なスペーサーを1つ設けたり、幅狭なものであれば少なくとも3つ設けることで、いずれの場合でも、上記スペーサー7と同様の機能を発揮することができる。
【0048】
さらに、カバー11を円板状に形成する場合について説明したが、これに限らず、水平方向に伸縮する蛇腹状に形成してもよい。また、カバー11の下面に設けた環状突条11aに代えて、カバー11の側面に暖簾状のゴム部材を設けてもよい。
【0049】
また、可動体8を円柱状に形成し(円柱状部8b)、ストッパ10の開口10aを上面視円形に形成すると共に、カバー11を上面視円形に形成する場合について説明したが、可動体8を矩形柱状に形成し、ストッパ10の開口10aを上面視矩形に形成すると共に、カバー11を上面視矩形に形成することもできる。さらに、ストッパ10の開口10aを上面視長方形とすることで、水平方向に直交する2方向における移動可能量を異ならせることもできる。
【0050】
さらに、ストッパ10がカバーとしても機能すると説明したが、ストッパ10を設けなくても抵抗板6の変位が安定する場合等には、ストッパ10に代えて、ストッパ10よりも強度を抑えた同形状のカバーを設置することもできる。
【0051】
図6は、本発明に係る免震装置の第4の実施形態を示し、この免震装置51は、
図1等に示す免震装置1の可動体8及び抵抗板6に代えて、可動体52、抵抗板53及び弾性体54を有する。尚、免震装置1と同一の構成要素については、同一の参照番号を付して説明を省略する。
【0052】
可動体52は、
図1等に示した可動体8と同様に、全体的に炭素鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等によって形成され、上面視正方形状の板状部52aと、上面視円形の円柱状部52bとで構成され、図示を省略するが、板状部52aには、この免震装置51を上部構造体に固定する際にボルトを螺合させるねじ孔が穿設される。この可動体52が可動体8と異なるのは、可動体8のような凹球面8dを備えず、円柱状部52bの下面52dが、板状部52aの上面52cと平行な平面状に形成されていることである。
【0053】
一方、抵抗板53は、
図1等に示した抵抗板6と同様に、炭素鋼板、ステンレス鋼板、アルミニウム板等によって上面視円形に形成されるが、抵抗板6のように連結部6aを有しておらず、上面53aが全体的に平面状に形成される。
【0054】
可動体52と抵抗板53との間にはゴム等の弾性体54が設けられ、弾性体54の上面54aが可動体52の円柱状部52bの下面52dに加硫接着等によって接着され、弾性体54の下面54bが抵抗板53の上面53aに加硫接着等によって接着される。
【0055】
上記構成を有する免震装置51によれば、可動体52が弾性体54を介して抵抗板53に対して回転可能に連結されるため、可動体52が左右に移動した際に弾性体54が抵抗板53の回転を吸収し、安定した状態でスペーサー7が球面板2の凹球面2a上を摺動する。これによって、摩擦抵抗力を得ると共に、スペーサー7及び抵抗板53に対する粘性体5の抵抗力によって下部構造体に加えられた振動エネルギを減衰させることができる。
【0056】
図示を省略するが、この免震装置51についても、可動体52と抵抗板53との間に、
図4及び
図5に示したリング状部材34、44等の離間防止手段を設け、上部構造体が鉛直方向に大きく揺れて浮き上がりが生じ、可動体52に引抜力が作用した場合でも、可動体52と抵抗板53とが互いに鉛直方向に離間することを防止し、弾性体54が破損するのを防止することができる。
【符号の説明】
【0057】
1 免震装置
2 球面板
2a 凹球面
2b 下面
2c 貫通孔
3 円筒状部材
5 粘性体
6 抵抗板
6a 連結部
6b 凸球面
6c 上面
6d 下面
7 スペーサー
8 可動体
8a 板状部
8b 円柱状部
8c 上面
8d 凹球面(下面)
8e ねじ孔
8f 下面
8g 上部側面
10 ストッパ
10a 開口
10b 環状突条
11 カバー
11a 環状突条
11b 外縁部
21 上部構造体
22 下部構造体
23 ボルト
24 溝型鋼
24a 上フランジ部
24b 下フランジ部
25 ボルト
31 免震装置
32 可動体
32a 凹球面
32b 溝
33 抵抗板
33a 連結部
33b 上面
33c 溝
34 リング状部材
34a 第1環状突条
34b 第2環状突条
35 ボルト
41 免震装置
42 可動体
42a 凹球面
42b 溝
43 抵抗板
43a 連結部
43b 上面
43c 溝
44 リング状部材
44a 第1環状突条
44b 第2環状突条
45 ボルト
51 免震装置
52 可動体
52a 板状部
52b 円柱状部
52c 上面
52d 下面
53 抵抗板
54 弾性体