【解決手段】 本発明の非水系二次電池は、正極と、Si系負極と、ハロゲン含有リチウム塩を有する非水系電解液とを具備する。非水系電解液は、下記の一般式(1)で表される化合物を有するガス発生抑制剤を含む。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の実施形態に係るガス発生抑制剤、非水系電解液及び非水系二次電池について詳細に説明する。
【0021】
(ガス発生抑制剤)
本実施形態のガス発生抑制剤は、下記の一般式(1)で表される化合物を有する。
【0022】
P=O(NR
12)(NR
22)
a(NR
32)
b(OR
4)
c(OR
5)
d・・・・(1)
【0023】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5は、それぞれ独立に、水素基、又は置換基で置換されていてもよい炭化水素基から選択される。(NR
12)、(NR
22)、(NR
32)の中のそれぞれ2つのR
1、R
2、R
3は、互いに同じであっても異なっていてもよい。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5は、互いに結合していても良い。a、b、c、dは、それぞれ独立に0又は1から選択され、a+b+c+d=2を満たす。)
【0024】
本実施形態のガス発生抑制剤は、非水系二次電池の電解液に含めて用いられる。ガス発生抑制剤を電解液に含む非水系二次電池を高温で保存した時に、非水系二次電池からのガス発生を抑えることができる。その理由は以下のように考えられる。一般に、非水系二次電池を作製し高温で保存した場合、電解液中のハロゲン含有リチウム塩(例えば、フッ素含有リチウム塩)などのフッ素含有物質が分解してHF(フッ酸)が発生する。HFは、正極活物質を劣化させて電池特性の低下を引き起こす。同時に、正極活物質から酸素を発生させ、電解液の有機物を酸化してCO
2を発生させる。また、電解液中のハロゲン含有リチウム塩の分解物が電解液と反応し、CO
2を発生させる。高温高電圧保存時にSiを有する負極活物質を用いると、充電時に皮膜が割れて新生面が現れ、そこでフッ素含有環状カーボネート等の電解液が反応して、CO
2などのガス成分を発生させる。
【0025】
本実施形態のガス発生抑制剤は、一般式(1)で表される化合物を有する。一般式(1)で表される化合物は、P−N結合を有する。本実施形態のガス発生抑制剤をハロゲン含有リチウムとともに電解液に含めて非水系二次電池に用いた場合には、発生したHFにより化合物のP−N結合が切れ、切れたP−、N−部分にHFが捕獲され、電解液中のHFが減少する。また、正極活物質表面は、化合物由来の成分を含む安定な皮膜で被覆される。ゆえに、正極活物質の劣化が抑えられ正極活物質からの酸素の放出が抑えられ、CO
2ガスの発生が抑えられる。同時に、ハロゲン含有リチウム塩の分解を抑制し、電解液と反応して生成するCO
2の発生を抑制する。また、Siを有する負極活物質の表面は、化合物由来の成分を含む安定な被膜で被覆されるため、充電時の新生面の生成が抑えられ、電解液等との接触が抑えられ、電解液からのCO
2等のガス発生が抑えられる。
【0026】
一般式(1)において、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5は、それぞれ独立に、水素基、又は置換基で置換されていてもよい炭化水素基から選択される。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5は、それぞれ独立に、置換基で置換されていてもよい炭化水素基であることがよい。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5は、互いに結合していても良い。
【0027】
置換基で置換されていてもよい炭化水素基としては、例えば、置換基で置換されていても良いアルキル基、置換基で置換されていても良いシクロアルキル基、置換基で置換されていても良い不飽和アルキル基、及び置換基で置換されていても良い不飽和シクロアルキル基、置換基で置換されていても良い芳香族基の群から選ばれる1種以上が挙げられる。この中、置換基で置換されていてもよい炭化水素基は、置換基で置換されていても良いアルキル基であることが好ましい。R
1、R
2、R
3、R
4、R
5の炭化水素基としてのアルキル基の炭素数は、1以上10以下がよく、更に、1以上6以下が好ましく、1以上4以下が望ましい。
【0028】
更に、一般式(1)において、(NR
12)、(NR
22)、(NR
32)の中のそれぞれ2つのR
1、R
2、R
3は、互いに同じであっても異なっていてもよい。
【0029】
一般式(1)において、R
4、R
5は、それぞれ独立に、水素の少なくとも一部がハロゲンで置換された炭化水素基であることが好ましい。ハロゲンは、フッ素、塩素、臭素、又はヨウ素であることがよく、中でもフッ素が好ましい。
【0030】
一般式(1)において、a、b、c、dは、それぞれ独立に0又は1から選択され、a+b+c+d=2を満たす。一般式(1)において、a及びbは0であり、且つc及びdは1であることが好ましい。
【0031】
一般式(1)で表される化合物は、具体的には、式(2)で表された化合物であるとよい。
【0033】
(式中、R
6、R
7は、それぞれ独立に、置換基で置換されていてもよいアルキル基である。R
8、R
9は、それぞれ独立に、水素の少なくとも一部がフッ素で置換されたアルキル基である。)
【0034】
式(2)において、NR
6R
7は、式(1)の(NR
12)に相当する。NR
6R
7の中のR
6、R
7は、それぞれ独立に、置換基で置換されていてもよいアルキル基であり、かつ更に1以上10以下の炭素を有するアルキル基であることが好ましい。R
6、R
7は、それぞれ独立に、CH
3、C
2H
5、C
3H
7、C
4H
9であることが好ましい。
【0035】
NR
6R
7は、N(CH
3)(CH
3)、N(CH
3)(C
2H
5)、N(C
2H
5)(C
2H
5)、N(CH
3)(C
3H
7)、N(C
2H
5)(C
3H
7)、又はN(C
3H
7)(C
3H
7)であることが好ましい。
【0036】
式(2)において、Pにそれぞれ結合している(OR
8)、(OR
9)は、水素の少なくとも一部がフッ素で置換されたアルコキシ基であり、式(1)の(OR
4)(OR
5)に相当する。アルコキシ基において、フッ素の結合位置及びフッ素の結合数は問わない。式(2)の(OR
8)(OR
9)は、互いに同じ基であってもよく、異なる基であってもよい。
【0037】
式(2)の具体例として、下記の式(3)で表される化合物(以下、「PN化合物」と称する。)が挙げられる。下記の式(3)で表される化合物は、式(2)のR
6、R
7がCH
3基であり、R
8、R
9はCH
2CF
3基である。
【0039】
(非水系二次電池用電解液)
本実施形態の電解液は、Si系負極を備えた非水系二次電池用の非水系電解液である。電解液は、上記の一般式(1)で表される化合物を有するガス発生抑制剤とハロゲン含有リチウム塩と、これらを溶解させる非水系溶媒とを有する。
【0040】
本実施形態の電解液中の上記化合物の濃度は、0.1〜1体積%であることが好ましく、更に、0.2〜0.8体積%であることがより好ましい。この場合には、非水系二次電池の高温保存時のガス発生を更に抑制することができる。
【0041】
本実施形態の電解液は、フッ素含有環状カーボネートを更に含むことが好ましい。フッ素含有環状カーボネートを含む電解液を備えた非水系二次電池を室温にて充放電させると、フッ素含有環状カーボネートの還元分解により、負極活物質及び正極活物質の表面にSEI膜が形成される。室温においては、安定したSEI膜が形成され、優れたサイクル特性が維持される。一方、フッ素含有環状カーボネートを有する電解液を備えた二次電池を高温で充放電させると、高温安定性に乏しいフッ素含有環状カーボネートからフッ化水素(HF)が発生しやすい。HFは無機酸化物などを劣化させて酸素を発生させ、酸素と電解液の有機成分とからCO
2ガスが生成しやすい。
【0042】
そこで、本実施形態の電解液は、フッ素含有環状カーボネートに加え、更に上記一般式(1)で表される化合物を有している。上記一般式(1)で表される化合物において、生成したHFは該化合物中のP−N結合に捕獲される。これにより、電解液中のHFが減少する。ゆえに、正極活物質の劣化が更に抑制され、正極活物質からの酸素放出が更に抑えられ、電解液と酸素によるCO
2ガス発生が更に抑制される。同時に、ハロゲン含有リチウム塩の分解を抑制し、電解液と反応して生成するCO
2の発生を抑制する。
【0043】
ここで、フッ素含有環状カーボネートは、少なくとも1つのフッ素を含有すればよく他のハロゲンを含有してもよい。フッ素含有環状カーボネートは、下記の式(4)で表されるものが好ましい。
【0045】
(式(4)において、R
13は、それぞれ独立して、水素、フッ素、アルキル基あるいはフッ化アルキル基であり、それらのうちの少なくとも1つはフッ素またはフッ化アルキル基を表す。)
【0046】
式(4)において、R
13がアルキル基またはフッ化アルキル基である場合、それらの炭素数は1または2であるのが好ましい。特に好ましくは、下記の式(4−1)〜(4−3)で表されるような、環状構造を構成する1以上の炭素に少なくとも1つのフッ素が結合した構造を有するフッ素含有環状カーボネートである。
【0048】
なかでも、耐酸化性の観点から、式(4−1)で表される4−フルオロ−1,3−ジオキソラン−2−オン(フルオロエチレンカーボネート:FEC)が好ましい。
【0049】
本実施形態の電解液における非水系溶媒は、フッ素含有環状カーボネートを含む環状カーボネートと、鎖状カーボネートとを併用することが好ましい。環状カーボネートは誘電率が高く、鎖状カーボネートは粘性が低い。このため、電解液が環状カーボネートと鎖状カーボネートとの双方を含むことにより、電解質イオンの移動を妨げず、電池容量を向上させることができる。
【0050】
電解液における非水系溶媒全体を100体積%としたとき、フッ素含有環状カーボネートを含む環状カーボネートは20〜40体積%さらには25〜35体積%であり、かつ鎖状カーボネートは60〜80体積%さらには65〜75体積%であるとよい。環状カーボネートは、電解液の誘電率を高くする一方、粘性が高い。誘電率が上がると電解液の導電性が良くなる。粘性が高いと電解質イオンの移動が妨げられ導電性が悪くなる。鎖状カーボネートは、低い誘電率であるが、粘性は低い。両者を上記の配合比の範囲でバランスよく配合することで、非水系溶媒の誘電率をある程度高く、また粘性も低くして、導電性のよい溶媒を調整でき、電池容量を向上させることができる。
【0051】
フッ素含有環状カーボネートは、電解液の非水系溶媒全体を100体積%としたときに、1〜40体積%さらには2〜20体積%であることが好ましい。この場合には、充放電のサイクル特性を効果的に向上させることができる。また、電解液の粘性も低く抑えて電解質イオンを移動させやすくして電池容量を更に向上させることができる。
【0052】
環状カーボネートは、フッ素含有環状カーボネートのほか、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、ビニレンカーボネート、2−メチル−ガンマブチロラクトン、アセチル−ガンマブチロラクトンおよびガンマバレロラクトンの群から選ばれる1種以上を含んでもよい。
【0053】
鎖状カーボネートは、鎖状である限り特に限定はない。たとえば、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジブチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、プロピオン酸アルキルエステル、マロン酸ジアルキルエステルおよび酢酸アルキルエステルから選ばれる一種以上を用いることができる。
【0054】
電解液に含まれるハロゲン含有リチウム塩は、電解質として機能する。ハロゲン含有リチウム塩は、フッ素含有リチウム塩であることがよい。フッ素含有リチウム塩としては、LiAsF
6、LiPF
6、LiBF
4、LiCF
3SO
3、LiN(CF
3SO
2)
2等を用いることができる。ハロゲン含有リチウム塩としては、フッ素含有リチウム塩のほかに、LiClO
4、LiAlCl
4、などの塩素含有リチウム塩を用いても良い。電解液中のハロゲン含有リチウム塩の濃度は、0.5mol/L〜1.7mol/Lであることがよい。
【0055】
(非水系二次電池)
本実施形態の非水系二次電池は、上記の非水系二次電池用電解液と、正極と、Si系負極とを有する。
【0056】
正極は、集電体と、集電体の表面を被覆している正極活物質層とを有する。
【0057】
集電体は、リチウムイオン二次電池の放電又は充電の間、電極に電流を流し続けるための化学的に不活性な電子高伝導体をいう。集電体としては、銀、銅、金、アルミニウム、タングステン、コバルト、亜鉛、ニッケル、鉄、白金、錫、インジウム、チタン、ルテニウム、タンタル、クロム、モリブデンから選ばれる少なくとも一種、並びにステンレス鋼などの金属材料を例示することができる。集電体は公知の保護層で被覆されていても良い。集電体の表面を公知の方法で処理したものを集電体として用いても良い。
【0058】
集電体は箔、シート、フィルム、線状、棒状、メッシュなどの形態をとることができる。そのため、集電体として、例えば、銅箔、ニッケル箔、アルミニウム箔、ステンレス箔などの金属箔を好適に用いることができる。集電体が箔、シート、フィルム形態の場合は、その厚みが1μm〜100μmの範囲内であることが好ましい。
【0059】
正極活物質層は正極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
【0060】
正極活物質としては、リチウム金属複合酸化物を用いるとよい。リチウム金属複合酸化物は、層状化合物のLi
aNi
bCo
cMn
dD
eO
f(0.2≦a≦2、b+c+d+e=1、0≦e<1、DはLi、Fe、Cr、Cu、Zn、Ca、Mg、S、Si、Na、K、Al、Zr、Ti、P、Ga、Ge、V、Mo、Nb、W、Laから選ばれる少なくとも1の元素、1.7≦f≦3)、Li
2MnO
3を挙げることができる。また、正極活物質のリチウム金属複合酸化物として、LiMn
2O
4等のスピネル、及びスピネルと層状化合物の混合物で構成される固溶体、LiMPO
4、LiMVO
4又はLi
2MSiO
4(式中のMはCo、Ni、Mn、Feのうちの少なくとも一種から選択される)などで表されるポリアニオン系化合物を挙げることができる。さらに、正極活物質のリチウム金属複合酸化物として、LiFePO
4FなどのLiMPO
4F(Mは遷移金属)で表されるタボライト系化合物、LiFeBO
3などのLiMBO
3(Mは遷移金属)で表されるボレート系化合物を挙げることができる。正極活物質として用いられるいずれのリチウム金属複合酸化物も上記の各組成式を基本組成とすればよく、基本組成に含まれる金属元素を他の金属元素で置換したものも正極活物質として使用可能である。また、正極活物質として、充放電に寄与するリチウムイオンを含まない正極活物質材料、たとえば、硫黄単体、硫黄と炭素を複合化した化合物、TiS
2などの金属硫化物、V
2O
5、MnO
2などの酸化物、ポリアニリン及びアントラキノン並びにこれら芳香族を化学構造に含む化合物、共役二酢酸系有機物などの共役系材料、その他公知の材料を用いることもできる。さらに、ニトロキシド、ニトロニルニトロキシド、ガルビノキシル、フェノキシルなどの安定なラジカルを有する化合物を正極活物質として採用してもよい。リチウムを含まない正極活物質材料を用いる場合には、正極および/または負極に、公知の方法により、予めイオンを添加させておく必要がある。ここで、当該イオンを添加するためには、金属または当該イオンを含む化合物を用いればよい。
【0061】
導電助剤は、電極の導電性を高めるために添加される。そのため、導電助剤は、電極の導電性が不足する場合に任意に加えればよく、電極の導電性が十分に優れている場合には加えなくても良い。導電助剤としては化学的に不活性な電子高伝導体であれば良く、炭素質微粒子であるカーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、気相法炭素繊維(Vapor Grown Carbon Fiber:VGCF)、および各種金属粒子などが例示される。これらの導電助剤を単独または二種以上組み合わせて活物質層に添加することができる。
【0062】
活物質層中の導電助剤の配合割合は、質量比で、活物質:導電助剤=1:0.005〜1:0.5であるのが好ましく、1:0.01〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.03〜1:0.1であるのがさらに好ましい。導電助剤が少なすぎると効率のよい導電パスを形成できず、また、導電助剤が多すぎると活物質層の成形性が悪くなるとともに電極のエネルギー密度が低くなるためである。
【0063】
結着剤は、活物質や導電助剤を集電体の表面に繋ぎ止め、電極中の導電ネットワークを維持する役割を果たすものである。結着剤としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、アルコキシシリル基含有樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸等のアクリル系樹脂、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)、カルボキシメチルセルロースを例示することができる。これらの結着剤を単独で又は複数で採用すれば良い。
【0064】
活物質層中の結着剤の配合割合は、質量比で、活物質:結着剤=1:0.001〜1:0.3であるのが好ましく、1:0.005〜1:0.2であるのがより好ましく、1:0.01〜1:0.15であるのがさらに好ましい。結着剤が少なすぎると電極の成形性が低下するおそれがある。また、結着剤が多すぎると電極のエネルギー密度が低くなるおそれがある。
【0065】
Si系負極は、負極活物質としてのSiを有する負極をいう。Siは、高い容量を有するため、非水系二次電池の負極活物質として優れている。一般に、Si系負極を用いた非水系二次電池を高温で保存すると、ガスが発生する。しかし、本実施形態では、電解液が上記一般式(1)で表される化合物を有している。化合物は充放電により分解して、Siを有する負極活物質表面に化合物由来の成分を含む安定な被膜が形成される。このため、負極活物質からのガス発生を抑制することができる。
【0066】
負極は、集電体と、集電体の表面を被覆している負極活物質層を有する。集電体については、正極で説明したものを適宜適切に採用すれば良い。負極活物質層はSiを有する負極活物質、並びに必要に応じて導電助剤及び/又は結着剤を含む。
【0067】
Siは負極活物質として機能する。Siは、リチウムイオンを吸蔵・放出可能であってリチウムと合金化可能な元素である。Siを有する負極活物質は、単体、又はSiと他の元素を有する珪素化合物であっても良い。
【0068】
Siを有する負極活物質としては、シリコン材料を用いることがよく、シリコン材料のみを採用してもよいし、シリコン材料と公知の負極活物質を併用してもよい。
【0069】
シリコン材料は、複数の板状シリコン体が厚さ方向に積層されてなる構造を有することが好ましい。この構造は、走査型電子顕微鏡などによる観察で確認できる。シリコン材料をリチウムイオン二次電池の活物質として使用することを考慮すると、リチウムイオンの効率的な挿入及び脱離反応のためには、板状シリコン体は厚さが10nm〜100nmの範囲内のものが好ましく、20nm〜50nmの範囲内のものがより好ましい。また、板状シリコン体の長軸方向の長さは、0.1μm〜50μmの範囲内のものが好ましい。また、板状シリコン体は、(長軸方向の長さ)/(厚さ)が2〜1000の範囲内であるのが好ましい。
【0070】
シリコン材料は、粉砕や分級を経て、一定の粒度分布の粒子としてもよい。シリコン材料の好ましい粒度としては、一般的なレーザー回折式粒度分布測定装置で測定した場合に、D50が1〜30μmの範囲内を例示できる。シリコン材料を炭素で被覆して用いるのが好ましい。
【0071】
シリコン材料のシリコン結晶子のサイズとしては、ナノサイズのものが好ましい。具体的には、シリコン結晶子サイズは、0.5nm〜300nmの範囲内が好ましく、1nm〜100nmの範囲内がより好ましく、1nm〜50nmの範囲内がさらに好ましく、1nm〜10nmの範囲内が特に好ましい。シリコン結晶子サイズは、シリコン材料に対してX線回折測定(XRD測定)を行い、得られたXRDチャートのSi(111)面の回折ピークの半値幅を用いたシェラーの式から算出される。なお、ここで述べたシリコン結晶子は、XRDチャートにブロードなピークとして観察されるものを意味しており、既述した結晶性シリコンとはピーク形状において区別できる。
【0072】
シリコン材料の製造方法は、精製を経たCaSi
2と酸とを反応させる反応工程、を含む。
【0073】
酸としては、フッ化水素、塩化水素、臭化水素、ヨウ化水素、硫酸、硝酸、リン酸、蟻酸、酢酸、メタンスルホン酸、テトラフルオロホウ酸、ヘキサフルオロリン酸、ヘキサフルオロヒ素酸、フルオロアンチモン酸、ヘキサフルオロケイ酸、ヘキサフルオロゲルマン酸、ヘキサフルオロスズ(IV)酸、トリフルオロ酢酸、ヘキサフルオロチタン酸、ヘキサフルオロジルコニウム酸、トリフルオロメタンスルホン酸、フルオロスルホン酸が例示される。これらの酸を単独又は併用して使用すれば良い。
【0074】
また、酸は水溶液として用いられるのが、作業の簡便性及び安全性の観点、並びに、副生物の除去の観点から好ましい。
【0075】
反応工程に用いる酸は、CaSi
2に対して2当量以上のプロトンを供給できる量で用いればよい。したがって、1価の酸であれば、CaSi
21モルに対して2モル以上で用いればよい。
【0076】
反応工程の反応条件は、真空などの減圧条件又は不活性ガス雰囲気下とすることが好ましく、また、氷浴などの室温以下の温度条件とするのが好ましい。同工程の反応時間は適宜設定すれば良い。
【0077】
さて、反応工程において、酸として塩化水素を用いた場合の反応式で示すと、以下のとおりとなる。
【0078】
3CaSi
2+6HCl→Si
6H
6+3CaCl
2
ポリシランであるSi
6H
6が理想的な層状シリコン化合物に該当する。この反応は、層状のCaSi
2のCaが2Hで置換されつつ、Si−H結合を形成すると考えることもできる。CaSi
2は、Ca層とSi層が積層した構造からなる。そして、層状シリコン化合物は、原料のCaSi
2におけるSi層の基本骨格が維持されているため、層状をなす。
【0079】
反応工程において、酸は水溶液として用いられるのが好ましいことは、前述した。ここで、Si
6H
6は水と反応し得るため、通常は、層状シリコン化合物がSi
6H
6なる化合物のみで得られることはほとんどなく、酸素や酸由来の元素を含有する。
反応工程以降は、層状シリコン化合物を濾取する濾過工程、層状シリコン化合物を洗浄する洗浄工程、層状シリコン化合物を乾燥する乾燥工程、層状シリコン化合物を粉砕若しくは分級する工程を、必要に応じて適宜実施するのが好ましい。 また、Siを有する負極活物質は、SiOx(0.3≦x≦2.3)で表される珪素酸化物であることがよい。SiOxは、Si相と、SiO
2相とを含むことが好ましい。Si相は、珪素単体からなり、電解質イオンを吸蔵・放出し得る相である。Si相は、理論放電容量が大きく、電解質イオンの吸蔵・放出に伴って膨張・収縮する。SiO
2相は、SiO
2からなり、Si相の膨張・収縮を緩和する。Si相がSiO
2相により被覆されることで、Si相とSiO
2相とからなる負極活物質を形成しているとよい。さらには、微細化された複数のSi相がSiO
2相により被覆されて一体となって、1つの粒子、すなわち負極活物質を形成しているとよい。この場合には、負極活物質粒子全体の体積変化を効果的に抑えることができる。
【0080】
負極でのSi相に対するSiO
2相の質量比は、1〜3であることが好ましい。この場合には、充放電時に負極活物質の膨張・収縮が抑制され、負極活物質での充放電容量を高く維持できる。
【0081】
珪素酸化物の原料として、一酸化珪素を含む原料粉末を用いるとよい。この場合、原料粉末中の一酸化珪素を、SiO
2相とSi相との二相に不均化する。一酸化珪素の不均化では、SiとOとの原子比が概ね1:1の均質な固体である一酸化珪素が固体内部の反応により、SiO
2相とSi相との二相に分離する。不均化により得られる酸化珪素粉末は、SiO
2相とSi相とを含む。原料粉末の一酸化珪素の不均化は、原料粉末にエネルギーを与えることにより進行する。不均化の一例として、原料粉末を加熱する、ミリングする、などの方法が挙げられる。
【0082】
原料粉末を加熱する場合、一般に、酸素を絶った状態であれば800℃以上で、ほぼすべての一酸化珪素が不均化して二相に分離すると言われている。具体的には、非結晶性の一酸化珪素粉末を含む原料粉末に対して、真空中または不活性ガス中などの不活性雰囲気中で800〜1200℃、1〜5時間の熱処理を行うことにより、非結晶性のSiO
2相と結晶性のSi相の二相を含む酸化珪素粉末が得られる。
【0083】
原料粉末をミリングする場合には、ミリングの機械的エネルギーの一部が、原料粉末の固相界面における化学的な原子拡散に寄与し、酸化物相と珪素相などを生成する。ミリングでは、原料粉末を、真空中、アルゴンガス中などの不活性ガス雰囲気下で、V型混合機、ボールミル、アトライタ、ジェットミル、振動ミル、高エネルギーボールミル等を使用して混合するとよい。ミリング後にさらに熱処理を施すことで、一酸化珪素の不均化をさらに促進させてもよい。
【0084】
珪素酸化物は、粉末状が好ましく、その平均粒径が1〜10μmであるとよい。珪素酸化物粉末は、2μm以下さらには4μm以下に分級して使用されるとよい。
【0085】
負極に用いる導電助剤及び結着剤については、正極で説明したものを同様の配合割合で適宜適切に採用すれば良い。
【0086】
集電体の表面に活物質層を形成させるには、ロールコート法、ダイコート法、ディップコート法、ドクターブレード法、スプレーコート法、カーテンコート法などの従来から公知の方法を用いて、集電体の表面に活物質を塗布すればよい。具体的には、活物質、溶剤、並びに必要に応じて結着剤及び/又は導電助剤を混合し、スラリーを調製する。上記溶剤としては、N−メチル−2−ピロリドン、メタノール、メチルイソブチルケトン、水を例示できる。該スラリーを集電体の表面に塗布後、乾燥する。電極密度を高めるべく、乾燥後のものを圧縮しても良い。
【0087】
セパレータは、正極と負極とを隔離し、両極の接触による短絡を防止しつつ、リチウムイオンを通過させるものである。セパレータとしては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリアラミド(Aromatic polyamide)、ポリエステル、ポリアクリロニトリル等の合成樹脂、セルロース、アミロース等の多糖類、フィブロイン、ケラチン、リグニン、スベリン等の天然高分子、セラミックスなどの電気絶縁性材料を1種若しくは複数用いた多孔体、不織布、織布などを挙げることができる。また、セパレータは多層構造としてもよい。
【0088】
次に、リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
【0089】
正極および負極に必要に応じてセパレータを挟装させ電極体とする。電極体は、正極、セパレータ及び負極を重ねた積層型、又は、正極、セパレータ及び負極を捲いた捲回型のいずれの型にしても良い。正極の集電体および負極の集電体から、外部に通ずる正極端子および負極端子までの間を、集電用リード等を用いて接続した後に、電極体に電解液を加えてリチウムイオン二次電池とするとよい。
【0090】
本実施形態のリチウムイオン二次電池の形状は特に限定されるものでなく、円筒型、角型、コイン型、ラミネート型等、種々の形状を採用することができる。
【0091】
本実施形態のリチウムイオン二次電池は、車両に搭載してもよい。車両は、その動力源の全部あるいは一部にリチウムイオン二次電池による電気エネルギーを使用している車両であればよく、たとえば、電気車両、ハイブリッド車両などであるとよい。車両にリチウムイオン二次電池を搭載する場合には、リチウムイオン二次電池を複数直列に接続して組電池とするとよい。リチウムイオン二次電池を搭載する機器としては、車両以外にも、パーソナルコンピュータ、携帯通信機器など、電池で駆動される各種の家電製品、オフィス機器、産業機器などが挙げられる。さらに、リチウムイオン二次電池は、風力発電、太陽光発電、水力発電その他電力系統の蓄電装置及び電力平滑化装置、船舶等の動力及び/又は補機類の電力供給源、航空機、宇宙船等の動力及び/又は補機類の電力供給源、電気を動力源に用いない車両の補助用電源、移動式の家庭用ロボットの電源、システムバックアップ用電源、無停電電源装置の電源、電動車両用充電ステーションなどにおいて充電に必要な電力を一時蓄える蓄電装置に用いてもよい。
【0092】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲において、当業者が行い得る変更、改良等を施した種々の形態にて実施することができる。
【実施例】
【0093】
以下に、各種電池を作製し、電池の特性を評価した。
【0094】
(電池E1)
<シリコン材料の作製>
結晶性シリコンを含むCaSi
2として、日本重化学工業株式会社製のカルシウムシリコン(以下、「粗CaSi
2」という場合がある。)を採用した。当該粗CaSi
2は目開き250μmの篩を通過した粉末状のものである。
【0095】
・接触工程
アルカリ水溶液として、pH13.4の水酸化ナトリウム水溶液を準備した。
【0096】
25℃に制御した恒温槽中の反応容器に、粗CaSi
2とpH13.4の水酸化ナトリウム水溶液とを質量比1:28.5で投入し、これらを撹拌速度150rpmで20時間撹拌した。撹拌終了後、反応液を濾過して、残渣を減圧下で乾燥し、実施例1のCaSi
2を得た。
【0097】
・反応工程
アルゴン雰囲気下、10℃とした濃度35重量%のHCl水溶液500gに、50gのCaSi
2を加え、撹拌した。反応液から発泡が無くなったのを確認した後、さらに同条件下、4時間攪拌した。その後、室温まで昇温し、濾過を行った。残渣を300mLの蒸留水で3回洗浄した後、300mLのエタノールで洗浄し、減圧乾燥して39.4gの固形物を得た。当該固形物を層状シリコン化合物とした。
【0098】
・シリコン材料製造工程
層状シリコン化合物を、O
2を1体積%以下の量で含むアルゴン雰囲気下にて900℃で1時間加熱し、シリコン材料を得た。
【0099】
<リチウムイオン二次電池の製造>
負極活物質としてシリコン材料58質量部、負極活物質として天然黒鉛24.5質量部、導電助剤としてアセチレンブラック6.5質量部、結着剤としてポリアミドイミド11質量部、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを混合し、スラリーを調製した。上記スラリーを、集電体としての厚さ約20μmの電解銅箔の表面にドクターブレードを用いて塗布し、乾燥して、銅箔上に負極活物質層を形成した。その後、ロールプレス機により、集電体と負極活物質層を強固に密着接合させた。これを200℃で2時間減圧乾燥し、負極活物質層の厚さが23μmの負極を得た。
【0100】
正極を作製するために、正極活物質としてのLiNi
0.5Co
0.3Mn
0.2O
2及びLiFePO
4、結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)及び導電助剤としてのアセチレンブラック(AB)を、LiNi
0.5Co
0.3Mn
0.2O
2とLiFePO
4とPVDFとABとの含有質量比が67:27:3:3となるように混合し、溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドン(NMP)を添加してペースト状の正極材とした。ペースト状の正極材を、集電体の表面にドクターブレードを用いて塗布して、正極活物質層を形成した。正極活物質層を、80℃で20分間乾燥することで、NMPを揮発により除去した。表面に正極活物質層を形成したアルミニウム箔を、ロ−ルプレス機を用いて圧縮し、アルミニウム箔と正極活物質層とを強固に密着接合させた。接合物を120℃で6時間、真空乾燥機で加熱し、所定の形状に切り取り、正極を得た。
【0101】
セパレータとしては、ポリエチレン多孔質膜を用いた。
【0102】
電解液を作製するために、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)を、体積比で、EC/EMC/DMC=3/3/4の配合比となるように混合して非水系溶媒を調製した。電解質としてのLiPF
6及び下記の化(3)で表されるPN化合物を、非水系溶媒に溶解させて、電解液を調製した。電解液中のLiPF
6の濃度は1mol/Lとし、電解液中のPN化合物の濃度は2体積%とした。
【0103】
【化5】
【0104】
正極と負極との間に、セパレータとしてのポリプロピレン多孔質膜を挟み込んで電極体を作製した。この電極体を電解液とともにアルミニウムフィルムで封止し、ラミネートセルとした。封止の際には、2枚のアルミニウムフィルムをその周囲の一部を除いて熱溶着をすることにより袋状とし、その開口部から電極体、さらに電解液を入れて、真空引きしながら開口部を完全に気密に封止した。このとき、正極側および負極側の集電体の先端を、フィルムの端縁部から突出させ、外部端子に接続可能とした。以上により、ラミネートセルからなる電池E1を得た。
【0105】
<高温保存試験>
電池E1について高温保存試験を行った。高温保存試験では、電池E1について充電状態(SOC)80%、電圧4.24Vとなるまで充電器を用いて充電を行った。その後、充電器から電池E1を取り外して、電池E1を60℃恒温槽で10日、20日、30日保存した。
【0106】
<ガス量測定>
高温保存試験前後に電池E1の体積をアルミメデス法により測定した。具体的には、任意の日数保存した後の電池E1の体積A(高温保存試験後3Vまで放電したもの)から、保存前の電池E1の体積B(高温保存試験前にSOC80%、_電圧4.24Vまで充電した後に3Vまで放電したもの)を差し引いて、その差分(A−B)である電池E1の体積増加量をもとめた。電池E1の体積増加量は、高温保存試験中に電池内で発生したガス量に等しい。上記差分(A−B)をガス量とした。測定したガス量を
図1、
図3、
図5に示した。
【0107】
<容量維持率測定>
電池E1について、高温保存試験前、高温保存試験後に電池特性評価を10日、20日それぞれ実施した。各電池について充電状態(SOC)100%、電圧4.5Vとなるまで充電した。その後各電池について1Cの定電流で電圧2.5Vまで放電させ、放電時の放電容量を測定した。高温保存試験前の電池E1の放電容量をC、高温保存試験を10日又は20日行った電池E1の放電容量をDとして、100×(C−D)/Cの算出式の解を求めた。この解を電池E1の容量維持率とし、これを
図2に示した。
【0108】
(電池C1)
電池C1は、電解液にPN化合物を含んでいない点を除いて、電池E1と同様である。電池C1において、電解液の非水系溶媒の成分比は、体積比で、EC/EMC/DMC=3/3/4とした。電池C1について、電池E1の<高温保存試験>と同様の高温保存試験を行い、<ガス量測定>及び<容量維持率測定>と同様に、高温保存試験前後のガス量及び容量維持率を測定した。測定結果を
図1,
図2に示した。
【0109】
図1に示すように、PN化合物を有する電解液を備えた電池E1は、PN化合物を含んでいない電解液を備えた電池C1に比べて、高温保存試験時に発生したガス量が格段に少なく、また高温保存試験後の容量維持率が高かった。高温保存試験の保存日数が長くなるにしたがって、ガス量及び容量維持率について、PN化合物を有する電解液を備えた電池と、PN化合物を有していない電解液を備えた電池との間の差が大きくなった。
【0110】
(電池E2)
電池E2は、電解液の非水系溶媒がフルオロエチレンカーボネート(FEC)を含む点で、電池E1と相違する。
【0111】
電池E2において、電解液の非水系溶媒は、フルオロエチレンカーボネート(FEC)、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)およびジメチルカーボネート(DMC)を、体積比で、FEC/EC/EMC/DMC=0.4/2.6/3/4の配合比となるように混合して調製した。電解質としてのLiPF
6及びPN化合物を、非水系溶媒に溶解させて、電解液を調製した。電解液中のLiPF
6の濃度は1mol/Lとし、電解液中のPN化合物の濃度は2体積%とした。
【0112】
電池E2のその他の点は、電池E1と同様である。
【0113】
電池E2、C1について、電池E1の<高温保存試験>と同様の高温保存試験を行った。高温保存試験での保存日数は、10日、20日、30日、50日とした。高温保存試験前後の電池E2、C1について、上記<ガス量測定>と同様に、高温保存試験後のガス量を測定した。測定結果を
図3に示した。
【0114】
また、上記の高温保存試験を実施した電池E2、C1について、上記<容量維持率測定>と同様に、容量維持率を測定した。ただし、容量維持率測定にあたって、放電時の電流が1Cだけでなく0.33Cの場合についても行った。1C,0.33Cについてそれぞれn数は2とした。測定結果を
図4に示した。
【0115】
図3に示すように、PN化合物及びFECを有する電解液を備えた電池E2は、当該化合物及びFECを含んでいない電解液を備えた電池C1に比べて、高温保存試験時に発生したガス量が格段に少なく、また高温保存試験後の容量維持率が高かった。
【0116】
(電池C2)
電池C2は、電解液がPN化合物を含んでいない点を除いて、電池E2と同様である。電池C2において、電解液の非水系溶媒の成分比は、体積比で、FEC/EC/EMC/DMC=0.4/2.6/3/4であり、電解液は1mol/LのLiPF
6を含む。
【0117】
(電池E3〜E6)
電池E3〜E6は、電解液がPN化合物を含んでいる点で、電池C2と相違する。電解液中のPN化合物の濃度は、電池E3、E4、E5、E6について、順に、0.2体積%、0.5体積%、1体積%、2体積%とした。電池E3〜E6のその他の点は、電池C2と同様である。
【0118】
電池C2、E3〜E6について、電池E1の<高温保存試験>と同様の高温保存試験を行った。高温保存試験での保存日数は、30日とした。高温保存試験前後の電池C2、E3〜E6について、上記<ガス量測定>及び上記<容量維持率測定>と同様に、高温保存試験後のガス量及び容量維持率を測定した。測定結果を
図5に示した。
【0119】
図5に示すように、ガス量に関しては、PN化合物を含まない場合に比べて、0.2体積%のPN化合物を含む場合の方が若干多くなった。しかし、PN化合物の濃度が0.5体積%、1体積%と増加するにしたがってガス量が減少していった。PN化合物濃度1体積%以上の場合には、ガス量の減少量が少なかった。
【0120】
容量維持率に関しては、PN化合物を含む場合は、PN化合物を含まない場合よりも、高い値を示した。特に、電解液中のPN化合物濃度が0.2体積%以上、更には0.5体積%以上2体積%の場合には、容量維持率が高かった。
【0121】
<正極の表面分析>
電池E2、電池C1について、高温保存試験30日間実施した後に、正極について表面分析を行った。正極の表面分析では、電圧3.0Vの放電状態でX線光電子分光分析(X−ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)を行った。前処理としては以下の処理を行った。先ず、各電池を解体して正極を取出し、この正極を洗浄および乾燥して、分析対象となる正極を得た。洗浄は、DMC(ジメチルカーボネート)を用いて3回行った。また、セルの解体から分析対象としての正極を分析装置に搬送するまでの全ての工程を、Arガス雰囲気下で、正極を大気に触れさせることなく行った。以下の前処理を電池E2、C1について行い、得られた正極検体をXPS分析した。装置としては、アルバックファイ社 PHI5000 VersaProbeIIを用いた。X線源は単色AlKα線(15kV、10mA)を用いた。XPSにより測定された電池E2、電池C1の正極の表面分析結果を
図6,
図7に示す。
図6は、電池E2、電池C1の正極についての、結合エネルギーが278〜298eVの範囲のXPSスペクトルを示し、
図7は、電池E2、電池C1の正極についての、結合エネルギーが390〜410eVの範囲のXPSスペクトルを示している。
【0122】
測定結果より、PN化合物特有のCF
3、C−Nに由来するピ−クが、電池E2の正極では現れたが、電池C1の正極では現れなかった。XPSスペクトルにおいて、CF
3由来のピークの結合エネルギーは、291eVであり、C−N由来のピークの結合エネルギーは、400eVであった。正極活物質表面には、PN化合物由来の成分を含む皮膜が形成されているといえる。
【0123】
(負極の表面分析)
電池E2、C1について、上記<正極の表面分析>と同様に、高温保存試験を行い、且つ、各電池の負極についてX線光電子分光分析を行った。測定結果を
図8、
図9に示す。
図8は、電池E2、C1の負極についての、結合エネルギーが278〜298eVの範囲のXPSスペクトルを示し、
図9は、電池E2、C1の負極についての、結合エネルギーが390〜410eVの範囲のXPSスペクトルを示している。
【0124】
測定結果より、PN化合物特有のCF
3、C−Nに由来するピ−クが、電池E2の負極では現れたが、電池C1の負極では現れなかった。このことから、負極活物質表面には、PN化合物由来の成分を含む皮膜が形成されているといえる。