【解決手段】Cu合金芯材と、前記Cu合金芯材の表面に形成されたPd被覆層とを有する半導体装置用ボンディングワイヤにおいて、前記Cu合金芯材がNiを含み、ワイヤ全体に対するNiの濃度が0.1〜1.2wt.%であり、前記Pd被覆層の厚さが0.015〜0.150μmであることを特徴とする。
前記Cu合金芯材がさらにB,In,Ca,P,Tiから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み、ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が3〜100wt.ppmであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
前記Cu合金芯材がさらにPtまたはPdを含み、前記Cu合金芯材に含まれるPt又はPdの濃度が0.05〜1.20wt.%であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載の半導体装置用ボンディングワイヤ。
【背景技術】
【0002】
現在、半導体素子上の電極と外部リードとの間を接合する半導体装置用ボンディングワイヤ(以下、「ボンディングワイヤ」という)として、線径15〜50μm程度の細線が主として使用されている。ボンディングワイヤの接合方法は超音波併用熱圧着方式が一般的であり、汎用ボンディング装置や、ボンディングワイヤをその内部に通して接続に用いるキャピラリ冶具等が用いられる。ボンディングワイヤの接合プロセスは、ワイヤ先端をアーク入熱で加熱溶融し、表面張力によりボールを形成した後に、150〜300℃の範囲内で加熱した半導体素子の電極上にこのボール部を圧着接合(以下、「ボール接合」という)し、次にループを形成した後、外部リード側の電極にワイヤ部を圧着接合(以下、「ウェッジ接合」という)することで完了する。ボンディングワイヤの接合相手である半導体素子上の電極にはSi基板上にAlを主体とする合金を成膜した電極構造、外部リード側の電極にはAgめっきやPdめっきを施した電極構造等が用いられる。
【0003】
これまでボンディングワイヤの材料はAuが主流であったが、LSI用途を中心にCuへの代替が進んでいる。一方、近年の電気自動車やハイブリッド自動車の普及を背景に、車載用デバイス用途においてもAuからCuへの代替に対するニーズが高まっている。
【0004】
車載用デバイスは、一般的な電子機器に比べて、過酷な高温高湿環境下で動作する必要があることから、ボール接合部において優れた接合寿命(以下、「接合信頼性」という)を有すること、安定した接合強度を得るために、真球性に優れたボールを安定して形成すること(以下、「ボール形成性」という)が要求される。
【0005】
また、車載用デバイスには高機能化、小型化に伴う、実装の高密度化への対応も要求される。実装が高密度化すると、ボンディングワイヤの線径が細くなり、ウェッジ接合を行う際に接合に寄与する面積が減少して接合強度を得ることが困難となる。このためウェッジ接合部において高い接合強度を得ること、すなわちウェッジ接合性を改善することが必要となる。また、半導体素子上の電極同士の間隔が狭くなり、隣接する電極へボールが接触して短絡することが懸念されるため、ボール接合を行う際にボールを真円状に変形させる技術が求められる。さらに、樹脂封止して使用する場合、樹脂流れによってボンディングワイヤが変形して、隣接するワイヤ同士が接触するのを防ぐためにループの直進性や高さばらつきの抑制も求められる。
【0006】
Cuボンディングワイヤについては、高純度Cu(純度:99.99wt.%以上)を使用したものが提案されている(例えば、特許文献1)。CuはAuに比べて酸化され易い欠点があり、接合信頼性、ボール形成性、ウェッジ接合性等が劣る課題があった。Cuボンディングワイヤの表面酸化を防ぐ方法として、Cu芯材の表面をAu,Ag,Pt,Pd,Ni,Co,Cr,Tiなどの金属で被覆した構造が提案されている(特許文献2)。また、Cu芯材の表面にPdを被覆し、その表面をAu,Ag、Cu又はこれらの合金で被覆した構造が提案されている(特許文献3)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らによって、車載用デバイスに要求される特性を踏まえて、評価を実施したところ、従来のPd被覆層を有するCuボンディングワイヤでは、後述するような実用上の課題が残されていることが判明した。
【0009】
車載用デバイスは一般的な電子機器に比べて、過酷な高温高湿環境下での接合信頼性が求められる。接合信頼性を評価する方法はいくつかの方法が提案されており、代表的な評価法の一つとして高温高湿試験が用いられる。一般的な電子機器の場合、高温高湿試験は温度が130℃、相対湿度が85%の条件で評価することが多い。一方、車載用デバイスでは、より高温での使用性能が必要となるため、温度が150℃、相対湿度が85%の条件で1500時間以上の接合信頼性が要求される。
【0010】
従来のPd被覆層を有するCuボンディングワイヤを用いて純Al電極と接合を行い、エポキシ樹脂で封止した後、温度が150℃、相対湿度が85%で高温高湿試験を実施した結果、1500時間以下で、接合界面にクラックが発生して接合強度が低下し、車載用デバイスで要求される接合信頼性が得られないことがわかった。接合界面の詳細な観察を行ったところ、AlとCuを主体とする複数の金属間化合物が形成されており、これらの化合物のうちCu
9Al
4が優先的に腐食されたことが接合強度低下の原因と推定された。
【0011】
ボール形成性を評価した結果、従来のPd被覆層を有するCuボンディングワイヤでは車載用デバイスで要求されるボール形成性を満足できないことが判明した。特に、表面に気泡のあるボール、真球性が劣るボールが多く見られた。気泡の発生原因については、アーク放電によってPdが溶融した際に吸収したH
2、N
2が、Pdが凝固する際に放出されたためと考えられる。真球性が低下した原因については、熱伝導率の影響が考えられる。ボールはワイヤ方向に熱が排出されることで凝固する。このため、Pdの熱伝導率がCuに比べて低いことから、CuがPdよりも先に凝固することで、表面のPdがCuの凝固収縮に追随して変形できずに表面に凹凸が発生すると考えられる。このような現象は、Pd被覆層の厚さが厚くなるほど顕著になる。Pd被覆層の上にAu,Ag,Cuを被覆した場合にも、ボール形成性を改善することはできなかった。
【0012】
上記の検討結果により、従来のPd被覆層を有するCuボンディングワイヤを用いた場合、車載用デバイスに求められる接合信頼性、ボール形成性の基準を満たすことができないことが判明した。また、従来検討されてきたPd被覆層の膜厚および構造に着目した改善手法を用いても、車載用デバイスに要求される接合信頼性とボール形成性を両立できないことがわかった。
【0013】
そこで本発明は、ボール接合部の接合信頼性、ボール形成性を改善し、車載用デバイスに好適なボンディングワイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明に係るボンディングワイヤは、Cu合金芯材と、前記Cu合金芯材の表面に形成されたPd被覆層とを有する半導体装置用ボンディングワイヤにおいて、前記Cu合金芯材がNiを含み、ワイヤ全体に対するNiの濃度が0.1〜1.2wt.%であり、前記Pd被覆層の厚さが0.015〜0.150μmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、Pd被覆層を有し、Cu合金芯材がNiを含むことにより、ボール接合部において電極との接合界面にPd又はNiが濃化し、高温高湿試験中の接合界面におけるCu、Alの拡散を抑制し、易腐食性化合物の成長速度を低下させるので、接合信頼性を改善することができる。また、ワイヤ全体に対するNiの濃度が0.1wt.%以上であることで、ボールの表面の凹凸の発生も低減できるので、ボール形成性を改善することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
1.実施形態
(全体構成)
本発明の実施形態に係るボンディングワイヤは、Cu合金芯材と、前記Cu合金芯材の表面に形成されたPd被覆層とを有し、前記Cu合金芯材はNiを含み、ワイヤ全体に対するNiの濃度が0.1〜1.2wt.%であり、Pd被覆層の厚さが0.015〜0.150μmである。これによりボンディングワイヤは、車載用デバイスで要求される接合信頼性とボール形成性を改善することができる。
【0018】
上記ボンディングワイヤのCu合金芯材、Pd被覆層の定義を説明する。Cu合金芯材とPd被覆層の境界は、Pd濃度を基準に判定した。Pd濃度が50at.% の位置を境界とし、Pd濃度が50at.%以上の領域をPd被覆層、50at.%未満の領域をCu合金芯材と判定した。この根拠は、Pd被覆層においてPd濃度が50at.%以上であればPd被覆層の構造から特性の改善効果が得られるためである。Pd被覆層は、Pd単層の領域、PdとCuがワイヤの深さ方向に濃度勾配を有する領域を含んでいても良い。Pd被覆層において、該濃度勾配を有する領域が形成される理由は、製造工程での熱処理等によってPdとCuの原子が拡散する場合があるためである。さらに、Pd被覆層は不可避不純物を含んでいても良い。また、Cu合金芯材に含まれるNiが、熱処理等によってPd被覆層に拡散し、Pd被覆層中に存在していても良い。
【0019】
このボンディングワイヤを用いて、アーク放電によってボールを形成すると、ボンディングワイヤが溶融して凝固する過程で、ボールの表面にボールの内部よりもPd、Niの濃度が高い合金層が形成される。このボールを用いてAl電極と接合を行い、高温高湿試験を実施すると、接合界面にPd又はNiが濃化した状態となる。このPd又はNiが濃化して形成された濃化層は、高温高湿試験中の接合界面におけるCu、Alの拡散を抑制し、易腐食性化合物の成長速度を低下させることができる。これによりボンディングワイヤは、接合信頼性を向上することができる。一方、Niの濃度が0.1wt.%未満、又はPd被覆層の厚さが0.015μm未満の場合、上記濃化層が十分に形成されず、接合信頼性を向上することができない。
【0020】
ボールの表面に形成されたPd、Niの濃度が高い合金層は、耐酸化性に優れるため、ボール形成の際にボンディングワイヤの中心に対してボールの形成位置がずれる等の不良を低減することができる。
【0021】
さらに、芯材のCu合金がNiを含み、ワイヤ全体に対するNiの濃度が0.1wt.%以上であることで、ボールの表面の凹凸の発生も低減できる。この理由は、芯材のCu合金にNiを添加し、Cu芯材合金の熱伝導率を低下させて、Pd被覆層の熱伝導率に近づけることで、ボール表面と内部の溶融状態から凝固完了までに要する時間差を縮小できるためと考えられる。
【0022】
一方で、ワイヤ全体に対するNiの濃度が1.2wt.%より大きくなると、ボールが硬質化し、ボール接合時にSiチップへの損傷が問題となるため実用に適さない。また、Pd被覆層の厚さが0.150μmより厚くなると、ボール形成時に表面に気泡が発生して良好なボール形成性が得られない。
【0023】
因みに、Pd被覆層の最表面にCuが存在する場合がある。
【0024】
ボンディングワイヤは、Pd被覆層の表面にさらにAu表皮層を0.0005〜0.050μm形成することとしてもよい。これによりボンディングワイヤは、接合信頼性をより向上できると共にウェッジ接合性を改善することができる。
【0025】
上記ボンディングワイヤのAu表皮層の定義を説明する。Au表皮層とPd被覆層の境界は、Au濃度を基準に判定した。Au濃度が10at.%の位置を境界とし、Au濃度が10at.%以上の領域をAu表皮層、10at.%未満の領域をPd被覆層と判定した。また、Pd濃度が50at.%以上の領域であっても、Auが10at.%以上存在すればAu表皮層と判定した。これらの根拠は、Au濃度が上記の濃度範囲であれば、Au表皮層の構造から特性の改善効果が期待できるためである。Au表皮層は、Au-Pd合金であって、AuとPdがワイヤの深さ方向に濃度勾配を有する領域を含む領域とする。Au表皮層において、該濃度勾配を有する領域が形成される理由は、製造工程での熱処理等によってAuとPdの原子が拡散するためである。さらに、Au表皮層は不可避不純物を含んでいても良い。
【0026】
Auは高温高湿試験において、ボール接合部の接合界面にNi、Pdと共にAu、Ni、Pdからなる3元系合金で濃化層を形成し、易腐食性化合物の成長速度を著しく低下させることができる。これによりボンディングワイヤは、接合信頼性をより向上することができる。また、Au表皮層は、Pd被覆層あるいはCu合金芯材に含まれるNiと反応して、Au表皮層、Pd被覆層、Cu合金芯材間の密着強度を高め、ウェッジ接合時のPd被覆層やAu表皮層の剥離を抑制することができる。これによりボンディングワイヤは、ウェッジ接合性を改善することができる。Au表皮層の厚さが0.0005μm未満では上記の効果が得られず、0.050μmより厚くなるとウェッジ接合時の超音波の伝播が悪くなり、良好な接合強度が得られなくなるため実用に適さない。なおAu表皮層は、Pd被覆層と同様の方法により形成することができる。因みに、Au表皮層の最表面にCuが存在する場合がある。
【0027】
ボンディングワイヤは、Cu合金芯材が、さらにB,In,Ca,P,Tiから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み、ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が3〜100wt.ppmであることにより、高密度実装に要求されるボール接合部のつぶれ形状を改善、すなわちボール接合部形状の真円性を改善することができる。これは、前記元素を添加することにより、ボールの結晶粒径を微細化でき、ボールの変形が抑制できるためである。ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が3wt.ppm未満では上記の効果が得られず、100wt.ppmより大きくなるとボールが硬質化し、ボール接合時のチップダメージが問題となるため実用に適さない。
【0028】
ボンディングワイヤは、Cu合金芯材が、さらにPt又はPdを含み、Cu合金芯材に含まれるPt又はPdの濃度が0.05〜1.20wt.%であることにより、ループ形成性を向上、すなわち高密度実装で要求されるループの直進性を向上すると共に、ループの高さのばらつきを低減することができる。これは、Cu合金芯材がPd又はPtを含むことにより、ボンディングワイヤの降伏強度が向上し、ボンディングワイヤの変形を抑制することができるためである。ループの直進性の向上や高さのばらつきを低減するには、Cu合金芯材の強度が高いほど効果的であり、Pd被覆層の厚さを厚くする等の被覆構造の改良では十分な効果は得られない。Cu合金芯材に含まれるPt又はPdの濃度が0.05wt.%未満では上記の効果が得られず、1.20wt.%より大きくなるとボンディングワイヤが硬質化して、ワイヤ接合部の変形が不十分となり、ウェッジ接合性の低下が問題となる。
【0029】
Pd被覆層、Au表皮層を決定するためのワイヤ表面の濃度分析には、ボンディングワイヤの表面から深さ方向に向かってスパッタ等で削りながら分析を行う方法、あるいはワイヤ断面を露出させて線分析、点分析等を行う方法が有効である。ワイヤ断面を露出させる方法としては、機械研磨、イオンエッチング法等を利用することができる。濃度分析に用いる解析装置は、走査型電子顕微鏡または透過型電子顕微鏡に備え付けたオージェ電子分光分析装置、エネルギー分散型X線分析装置、電子線マイクロアナライザ等を利用することができる。これらの濃度分析方法のなかでも、スパッタ装置とオージェ電子分光分析装置を同時に備えた走査型電子顕微鏡を用いる分析方法は、比較的短時間で複数の元素に対して、深さ方向の濃度プロファイルを取得できるので好ましい。ボンディングワイヤ全体に含まれる元素の濃度分析には、ICP発光分光分析装置を利用することができる。
【0030】
(製造方法)
次に本発明の実施形態に係るボンディングワイヤの製造方法を説明する。ボンディングワイヤは、芯材に用いるCu合金を製造した後、ワイヤ状に細く加工し、Pd被覆層、Au表皮層を形成して、熱処理することで得られる。Pd被覆層、Au表皮層を形成後、再度伸線と熱処理を行う場合もある。Cu合金芯材の製造方法、Pd被覆層、Au表皮層の形成方法、熱処理方法について詳しく説明する。
【0031】
芯材に用いるCu合金は、原料となるCuと添加する元素を共に溶解し、凝固させることによって得られる。溶解には、アーク加熱炉、高周波加熱炉、抵抗加熱炉等を利用することができる。大気中からのO
2、N
2、H
2等のガスの混入を防ぐために、真空雰囲気あるいはArやN
2等の不活性雰囲気中で溶解を行うことが好ましい。
【0032】
Pd被覆層、Au表皮層をCu合金芯材の表面に形成する方法は、めっき法、蒸着法、溶融法等がある。めっき法は、電解めっき法、無電解めっき法のどちらも適用可能である。ストライクめっき、フラッシュめっきと呼ばれる電解めっきでは、めっき速度が速く、下地との密着性も良好である。無電解めっきに使用する溶液は、置換型と還元型に分類され、厚さが薄い場合には置換型めっきのみでも十分であるが、厚さが厚い場合には置換型めっきの後に還元型めっきを段階的に施すことが有効である。
【0033】
蒸着法では、スパッタ法、イオンプレーティング法、真空蒸着等の物理吸着と、プラズマCVD等の化学吸着を利用することができる。いずれも乾式であり、Pd被覆層、Au表皮層形成後の洗浄が不要であり、洗浄時の表面汚染等の心配がない。
【0034】
Pd被覆層、Au表皮層の形成に対しては、最終線径まで伸線後に形成する手法と、太径のCu合金芯材に形成してから狙いの線径まで複数回伸線する手法のどちらも有効である。前者の最終径でPd被覆層、Au表皮層を形成する場合には、製造、品質管理等が簡便である。後者のPd被覆層、Au表皮層と伸線を組み合わせる場合には、Cu合金芯材との密着性が向上する点で有利である。それぞれの形成法の具体例として、最終線径のCu合金芯材に、電解めっき溶液の中にワイヤを連続的に掃引しながらPd被覆層、Au表皮層を形成する手法、あるいは、電解又は無電解のめっき浴中に太いCu合金芯材を浸漬してPd被覆層、Au表皮層を形成した後に、ワイヤを伸線して最終線径に到達する手法等が挙げられる。
【0035】
Pd被覆層、Au表皮層を形成した後は、熱処理を行う場合がある。熱処理を行うことでAu表皮層、Pd被覆層、Cu合金芯材の間で原子が拡散して密着強度が向上するため、加工中のAu表皮層やPd被覆層の剥離を抑制でき、生産性が向上する点で有効である。大気中からのO
2の混入を防ぐために、真空雰囲気あるいはArやN
2等の不活性雰囲気中で溶解を行うことが好ましい。
【0036】
(変形例)
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0037】
2.実施例
以下では、実施例を示しながら、本発明の実施形態に係るボンディングワイヤについて、具体的に説明する。
【0038】
(サンプル)
まずサンプルの作製方法について説明する。芯材の原材料となるCu、Niは純度が99.99wt.%以上で残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。B,In,Ca,P,Ti,Pt,Pdは純度が99wt.%以上で残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。
【0039】
芯材のCu合金は、直径がφ3〜6mmの円柱型に加工したカーボンるつぼに原料を装填し、高周波炉を用いて、真空中もしくはN
2やArガス等の不活性雰囲気で1090〜1300℃まで加熱して溶解させた後、炉冷を行うことで製造した。得られたφ3mmの合金に対して、引抜加工を行ってφ0.9〜1.2mmまで加工した後、ダイスを用いて連続的に伸線加工等を行うことによって、φ300〜600μmのワイヤを作製した。伸線には市販の潤滑液を用い、伸線速度は20〜150m/分とした。ワイヤ表面の酸化膜を除去するために、塩酸による酸洗処理を行った後、芯材のCu合金の表面全体を覆うようにPd被覆層を1〜15μm形成した。さらに、一部のワイヤはPd被覆層の上にAu表皮層を0.05〜1.5μm形成した。Pd被覆層、Au表皮層の形成には電解めっき法を用いた。めっき液は市販の半導体用めっき液を用いた。その後、200〜500℃の熱処理と伸線加工を繰返し行うことによって直径20μmまで加工した。加工後は最終的に破断伸びが約9〜15%になるよう真空中もしくはArガスを流しながら熱処理をした。熱処理方法はワイヤを連続的に掃引しながら行い、Arガスを流しながら行った。ワイヤの送り速度は20〜200m/分、熱処理温度は200〜600℃で熱処理時間は0.2〜1.0秒とした。
【0040】
上記の手順で作製した各サンプルの構成を表1−1、表1−2、表1−3及び表2に示す。表中に記載のPd被覆層とAu表皮層の厚さは、Arイオンスパッタによりワイヤ表面を削りながら、オージェ電子分光分析を行うことによって得たPd、Au、Cuの深さ方向の濃度プロファイルをもとに算出した値を示した。
【0045】
(評価方法)
接合信頼性は、接合信頼性評価用のサンプルを作製し、高温高湿環境に暴露したときのボール接合部の接合寿命によって判定した。
【0046】
接合信頼性評価用のサンプルは、一般的な金属フレーム上のSi基板に厚さ1.0μmのAl-0.5%Cuの合金を成膜して形成した電極に、市販のワイヤーボンダーを用いてボール接合を行い、市販のエポキシ樹脂によって封止して作製した。ボールはN
2+5%H
2ガスを流量0.4〜0.6L/minで流しながら形成させ、その大きさはφ34〜36μmの範囲とした。
【0047】
作製した接合信頼性評価用のサンプルを、不飽和型プレッシャークッカー試験機を使用し、温度150℃、相対湿度85%の高温高湿環境に暴露した。ボール接合部の接合寿命は100時間毎にボール接合部のシェア試験を実施し、シェア強度の値が初期に得られたシェア強度の1/2となる時間とした。高温高湿試験後のシェア試験は、酸処理によって樹脂を除去して、ボール接合部を露出させてから行った。
【0048】
シェア試験機はDAGE社製の試験機を用いた。シェア強度の値は無作為に選択したボール接合部の10か所の測定値の平均値を用いた。上記の評価において、接合寿命が1500時間未満であれば実用上問題があると判断し△印、1500〜2000時間であれば実用上問題ないと判断し○印、2000時間以上であれば特に優れていると判断し◎印とし、表3−1、表3−2及び表4の「高温高湿試験」の欄に表記した。
【0049】
ボール形成性の評価は、接合を行う前のボールを採取して観察し、ボール表面の気泡の有無、本来真球であるボールの変形の有無を判定した。上記のいずれかが発生した場合は不良と判断した。ボールの形成は溶融工程での酸化を抑制するために、N
2+5%H
2ガスを流量0.4〜0.6L/minで吹き付けながら行った。ボールの大きさは26μm、32μm、38μmとした。1条件に対して30個のボールを観察した。観察にはSEMを用いた。ボール形成性の評価において、不良が3個以上発生した場合には問題があると判断し△印、不良が1〜2個の場合は問題ないと判断し○印、不良が発生しなかった場合には優れていると判断し◎印とし、表3−1、表3−2及び表4の「ボール形成性」の欄に表記した。
【0050】
ワイヤ接合部におけるウェッジ接合性の評価は、リードフレームのリード部分に1000本のボンディングを行い、接合部の剥離の発生頻度によって判定した。リードフレームは1〜3μmのAgめっきを施したFe−42at.%Ni合金リードフレームを用いた。本評価では、通常よりも厳しい接合条件を想定して、ステージ温度を一般的な設定温度域よりも低い150℃に設定した。上記の評価において、不良が6個以上発生した場合には問題があると判断し△印、不良が1〜5個の場合は問題ないと判断し○印、不良が発生しなかった場合には優れていると判断し◎印とし、表3−1、表3−2及び表4の「ウェッジ接合性」の欄に表記した。
【0051】
ボール接合部のつぶれ形状の評価は、ボンディングを行ったボール接合部を直上から観察して、その真円性によって判定した。接合相手はSi基板上に厚さ1.0μmのAl−0.5%Cuの合金を成膜した電極を用いた。観察は光学顕微鏡を用い、1条件に対して200箇所を観察した。真円からのずれが大きい楕円状であるもの、変形に異方性を有するものはボール接合部のつぶれ形状が不良であると判断した。上記の評価において、不良が6個以上発生した場合には問題があると判断し△印、1〜5個の場合は問題ないと判断し○印、全て良好な真円性が得られた場合は、特に優れていると判断し◎印とし、表3−1、表3−2及び表4の「つぶれ形状」の欄に表記した。
【0052】
ループ形成性の評価は、直進性と高さのばらつきによって判定した。ループの形成条件はループ長さを2mm、最大高さを80μmとした。ループの最大高さはボール接合部の電極の表面からワイヤの最高地点までの距離とした。直進性の評価は、1条件に対して50本のボンディングワイヤを走査型電子顕微鏡で観察し、ボール接合部とワイヤ接合部を直線で結んだ軸とボンディングワイヤの間の最大のずれが45μm未満の場合は良好、45μm以上の場合は不良として判断した。高さのばらつきの評価は、1条件に対して50本のボンディングワイヤを走査型電子顕微鏡で観察して平均の高さを算出し、平均値からのずれが15μm未満の場合は良好、15μm以上の場合は不良と判断した。上記の評価において、直進性及び高さバラつきのいずれかの不良が6個以上発生した場合には問題があると判断し△印、不良が1〜5個の場合は問題ないと判断し○印、不良が発生しなかった場合には優れていると判断し◎印とし、表3−1、表3−2及び表4の「ループ形成性」の欄に表記した。
【0056】
(評価結果)
実施例1〜94に係るボンディングワイヤは、Cu合金芯材と、前記Cu合金芯材の表面に形成されたPd被覆層とを有し、前記Cu合金芯材はNiを含み、ワイヤ全体に対するNiの濃度が0.1〜1.2wt.%であり、Pd被覆層の厚さが0.015〜0.150μmである。これにより実施例1〜94に係るボンディングワイヤは、良好な接合信頼性、及び優れたボール形成性が得られることを確認した。一方、比較例1〜4はNi濃度が上記範囲外であること、比較例5はPd被覆層の厚さが上記範囲外であることから、接合信頼性やボール形成性において十分な効果が得られない。
【0057】
実施例10〜21、28〜39、42、43、46、47、50、51、56〜65、68〜72、75、76、85、86、89、90、93、94は、Pd被覆層上にさらにAu表皮層を有することにより、優れた接合信頼性が得られることを確認した。また、実施例10〜21、28〜39、42、43、46、47、50、51、56〜65、68〜71、85、89は、Au表皮層の層厚が0.0005〜0.050μmであることにより、さらに優れたウェッジ接合性が得られることを確認した。
【0058】
実施例22〜51、64、65、70、71、74、76、78、80、82、92、94は、Cu合金芯材がさらにB,In,Ca,P,Tiから選ばれる少なくとも1種以上の元素を含み、ワイヤ全体に対する前記元素の濃度が3wt.ppm以上であることにより、真円性に優れたボール接合部のつぶれ形状が得られることを確認した。
【0059】
実施例52〜71は、Cu合金芯材がさらにPt又はPdを含み、Cu合金芯材に含まれるPt又はPdの濃度が0.05〜1.20wt.%であることにより、良好なループ形成性が得られることを確認した。因みに、実施例83、85、87、89は、Pt又はPdの濃度が上記範囲の下限未満のため、優れたループ形成性は得られなかった。また実施例84、86、88、90は、Pt又はPdの濃度が上記範囲の上限を超えていたため、優れたループ形成性が得られたものの、ウェッジ接合性が低下した。