(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-163325(P2017-163325A)
(43)【公開日】2017年9月14日
(54)【発明の名称】位相雑音最適化装置及び位相雑音最適化方法
(51)【国際特許分類】
H03L 7/093 20060101AFI20170818BHJP
H03L 7/08 20060101ALI20170818BHJP
G01R 29/02 20060101ALI20170818BHJP
G01R 29/26 20060101ALI20170818BHJP
【FI】
H03L7/093
H03L7/08 220
G01R29/02 L
G01R29/26
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-45779(P2016-45779)
(22)【出願日】2016年3月9日
(71)【出願人】
【識別番号】000000572
【氏名又は名称】アンリツ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100072604
【弁理士】
【氏名又は名称】有我 軍一郎
(72)【発明者】
【氏名】大谷 暢
【テーマコード(参考)】
5J106
【Fターム(参考)】
5J106AA04
5J106BB05
5J106CC01
5J106CC21
5J106CC42
5J106CC55
5J106DD06
5J106DD08
5J106DD36
5J106GG07
5J106KK25
(57)【要約】
【課題】オフセット周波数に応じた最適な位相雑音を自動的に測定することができる位相雑音最適化装置及び位相雑音最適化方法を提供する。
【解決手段】複数の測定周波数範囲のうち、あらかじめ定められた少なくとも1つの測定周波数範囲において、フィルタ選択部16により選択された少なくとも2つのLPF15a,15bに対応した、少なくとも2種類の位相雑音データを生成する位相雑音データ生成部28と、少なくとも2種類の位相雑音データを比較する比較部29と、比較部29による比較結果に基づいた最適化位相雑音データを生成する位相雑音最適化部30と、を含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準信号を発生させる基準信号発生部(11)と、
入力された信号の電圧に応じて出力信号の周波数を制御する電圧制御発振部(12)と、
前記電圧制御発振部からの出力信号と前記基準信号との周波数差及び位相差に応じた誤差信号を出力する位相比較器(13)と、
カットオフ周波数の異なる複数のローパスフィルタ(15)、及び、前記複数のローパスフィルタから1つのローパスフィルタを選択するフィルタ選択部(16)を有し、前記フィルタ選択部により選択されたローパスフィルタによって前記誤差信号の低周波成分を通過させて前記電圧制御発振部に入力するループフィルタ(14)と、を有するPLL回路(10)を備えた位相雑音最適化装置(1)であって、
被試験対象(100)からの被測定信号を、前記電圧制御発振部からの前記出力信号と混合することにより周波数変換する周波数変換部(21)と、
前記周波数変換部により周波数変換された被測定信号をディジタルデータとしての時間領域データに変換するA/D変換器(22)と、
あらかじめ定められた複数の測定周波数範囲ごとに、前記時間領域データから位相雑音を算出して、周波数領域の複数の位相雑音データを生成する位相雑音算出部(24)と、を備え、
前記位相雑音算出部は、
前記複数の測定周波数範囲のうち、あらかじめ定められた少なくとも1つの測定周波数範囲において、前記フィルタ選択部により選択された少なくとも2つのローパスフィルタをそれぞれ通過した誤差信号に基づいた、少なくとも2種類の前記位相雑音データを生成する位相雑音データ生成部(28)と、
前記位相雑音データ生成部により生成された少なくとも2種類の前記位相雑音データを比較する比較部(29)と、
前記比較部による比較結果に基づいた最適化位相雑音データを生成する位相雑音最適化部(30)と、を含むことを特徴とする位相雑音最適化装置。
【請求項2】
前記比較部は、前記位相雑音データ生成部により生成された少なくとも2種類の前記位相雑音データの大小関係を周波数ごとに比較し、
前記位相雑音最適化部は、前記少なくとも2種類の位相雑音データについて、周波数ごとの最も小さい位相雑音の値が所定周波数範囲以上にわたって連続して1種類の前記位相雑音データの値であった場合に、当該所定周波数範囲以上にわたって連続した1種類の前記位相雑音データの値を有する最適化位相雑音データを生成することを特徴とする請求項1に記載の位相雑音最適化装置。
【請求項3】
前記ループフィルタが有する前記複数のローパスフィルタの個数が2個であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の位相雑音最適化装置。
【請求項4】
基準信号を発生させる基準信号発生部(11)と、
入力された信号の電圧に応じて出力信号の周波数を制御する電圧制御発振部(12)と、
前記電圧制御発振部からの出力信号と前記基準信号との周波数差及び位相差に応じた誤差信号を出力する位相比較器(13)と、
カットオフ周波数の異なる複数のローパスフィルタ(15)、及び、前記複数のローパスフィルタから1つのローパスフィルタを選択するフィルタ選択部(16)を有し、前記フィルタ選択部により選択されたローパスフィルタによって前記誤差信号の低周波成分を通過させて前記電圧制御発振部に入力するループフィルタ(14)と、を有するPLL回路(10)の位相雑音を最適化する位相雑音最適化方法であって、
被試験対象(100)からの被測定信号を、前記電圧制御発振部からの前記出力信号と混合することにより周波数変換する周波数変換ステップ(S2,S3,S5,S6)と、
前記周波数変換ステップで周波数変換された被測定信号をディジタルデータとしての時間領域データに変換するA/D変換ステップ(S2,S3,S5,S6)と、
あらかじめ定められた複数の測定周波数範囲ごとに、前記時間領域データから位相雑音を算出して、周波数領域の複数の位相雑音データを生成する位相雑音算出ステップ(S2,S3,S5,S6)と、を含み、
前記位相雑音算出ステップは、
前記複数の測定周波数範囲のうち、あらかじめ定められた少なくとも1つの測定周波数範囲において、前記フィルタ選択部により選択された少なくとも2つのローパスフィルタにそれぞれ通過した誤差信号に基づいた、少なくとも2種類の前記位相雑音データを生成する位相雑音データ生成ステップ(S3,S5)と、
前記位相雑音データ生成ステップで生成された少なくとも2種類の前記位相雑音データを比較する比較ステップ(S7)と、
前記比較ステップでの比較結果に基づいた最適化位相雑音データを生成する位相雑音最適化ステップ(S8)と、を含むことを特徴とする位相雑音最適化方法。
【請求項5】
前記比較ステップは、前記位相雑音データ生成ステップで生成された少なくとも2種類の前記位相雑音データの大小関係を周波数ごとに比較し、
前記位相雑音最適化ステップは、前記少なくとも2種類の位相雑音データについて、周波数ごとの最も小さい位相雑音の値が所定周波数範囲以上にわたって連続して1種類の前記位相雑音データの値であった場合に、当該所定周波数範囲以上にわたって連続した1種類の前記位相雑音データの値を有する最適化位相雑音データを生成することを特徴とする請求項4に記載の位相雑音最適化方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相雑音最適化装置及び位相雑音最適化方法に関し、特に、スペクトラムアナライザに搭載されるPLL回路の位相雑音を最適化する位相雑音最適化装置及び位相雑音最適化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高性能な位相雑音性能を持つPLL(Phase Locked Loop)回路は、スペクトラムアナライザや信号発生器等の発振回路として好適に用いられる(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図4に従来のPLL回路の基本構成を示す。従来のPLL回路40は、基準信号を発生させる基準信号発生部41と、入力された信号の電圧に応じて出力信号の周波数を制御するVCO(Voltage Controlled Oscillator)42と、VCO42からの出力信号と基準信号との位相差に応じた位相差信号を出力する位相比較器43と、位相差信号の低周波成分を通過させてVCO42に入力するループフィルタ44と、を有する。
【0004】
PLL回路40は、オフセット周波数ごとに位相雑音を最適にするためのループフィルタ44として、位相雑音を低減できる周波数範囲が互いに異なる複数のローパスフィルタ(LPF)を持っている。ここでのオフセット周波数とは、PLL回路40のVCO42からの出力信号の中心周波数を基準(ゼロ)として表した周波数である。これらの複数のLPFは、スイッチ45により1つのLPFのみが選択されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−8408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のPLL回路では、位相雑音を最適化するためには、使用するLPFをオフセット周波数ごとに切り替える設定をユーザ自身が行う必要があった。しかしながら、熟練者ではないユーザにとっては、オフセット周波数に応じて位相雑音が最小となるLPFを判断することは容易ではない。また、LPFを切り替えて測定を行うことにより、複数の測定データが生成されることになるが、これらのデータからオフセット周波数ごとに位相雑音が最小となるデータを、ユーザ自身が市販の表計算ソフトなどを用いて抽出する作業は手間が掛かるものであった。
【0007】
本発明は、このような従来の課題を解決するためになされたものであって、ユーザ自身がループフィルタを構成する複数のLPFを切り替える設定を行うことなく、オフセット周波数に応じた最適な位相雑音を自動的に測定することができる位相雑音最適化装置及び位相雑音最適化方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の請求項1の位相雑音最適化装置は、基準信号を発生させる基準信号発生部と、入力された信号の電圧に応じて出力信号の周波数を制御する電圧制御発振部と、前記電圧制御発振部からの出力信号と前記基準信号との周波数差及び位相差に応じた誤差信号を出力する位相比較器と、カットオフ周波数の異なる複数のローパスフィルタ、及び、前記複数のローパスフィルタから1つのローパスフィルタを選択するフィルタ選択部を有し、前記フィルタ選択部により選択されたローパスフィルタによって前記誤差信号の低周波成分を通過させて前記電圧制御発振部に入力するループフィルタと、を有するPLL回路を備えた位相雑音最適化装置であって、被試験対象からの被測定信号を、前記電圧制御発振部からの前記出力信号と混合することにより周波数変換する周波数変換部と、前記周波数変換部により周波数変換された被測定信号をディジタルデータとしての時間領域データに変換するA/D変換器と、あらかじめ定められた複数の測定周波数範囲ごとに、前記時間領域データから位相雑音を算出して、周波数領域の複数の位相雑音データを生成する位相雑音算出部と、を備え、前記位相雑音算出部は、前記複数の測定周波数範囲のうち、あらかじめ定められた少なくとも1つの測定周波数範囲において、前記フィルタ選択部により選択された少なくとも2つのローパスフィルタをそれぞれ通過した誤差信号に基づいた、少なくとも2種類の前記位相雑音データを生成する位相雑音データ生成部と、前記位相雑音データ生成部により生成された少なくとも2種類の前記位相雑音データを比較する比較部と、前記比較部による比較結果に基づいた最適化位相雑音データを生成する位相雑音最適化部と、を含む構成である。
【0009】
この構成により、ユーザ自身がループフィルタを構成する複数のLPFを切り替える設定を行うことなく、オフセット周波数に応じた最適な位相雑音を自動的に測定することができる。
【0010】
また、本発明の請求項2の位相雑音最適化装置においては、前記比較部は、前記位相雑音データ生成部により生成された少なくとも2種類の前記位相雑音データの大小関係を周波数ごとに比較し、前記位相雑音最適化部は、前記少なくとも2種類の位相雑音データについて、周波数ごとの最も小さい位相雑音の値が所定周波数範囲以上にわたって連続して1種類の前記位相雑音データの値であった場合に、当該所定周波数範囲以上にわたって連続した1種類の前記位相雑音データの値を有する最適化位相雑音データを生成する構成である。
【0011】
この構成により、周波数ごとの最も小さい位相雑音の値が所定周波数範囲以上にわたって連続して1種類の位相雑音データの値であることを条件として、当該1種類の位相雑音データの値を有する最適化位相雑音データを生成することにより、スプリアスの影響を避けて最適な位相雑音カーブを得ることができる。
【0012】
また、本発明の請求項3の位相雑音最適化装置においては、前記ループフィルタが有する前記複数のローパスフィルタの個数が2個であってもよい。
【0013】
また、本発明の請求項4の位相雑音最適化方法は、基準信号を発生させる基準信号発生部と、入力された信号の電圧に応じて出力信号の周波数を制御する電圧制御発振部と、前記電圧制御発振部からの出力信号と前記基準信号との周波数差及び位相差に応じた誤差信号を出力する位相比較器と、カットオフ周波数の異なる複数のローパスフィルタ、及び、前記複数のローパスフィルタから1つのローパスフィルタを選択するフィルタ選択部を有し、前記フィルタ選択部により選択されたローパスフィルタによって前記誤差信号の低周波成分を通過させて前記電圧制御発振部に入力するループフィルタと、を有するPLL回路の位相雑音を最適化する位相雑音最適化方法であって、被試験対象からの被測定信号を、前記電圧制御発振部からの前記出力信号と混合することにより周波数変換する周波数変換ステップと、前記周波数変換ステップで周波数変換された被測定信号をディジタルデータとしての時間領域データに変換するA/D変換ステップと、あらかじめ定められた複数の測定周波数範囲ごとに、前記時間領域データから位相雑音を算出して、周波数領域の複数の位相雑音データを生成する位相雑音算出ステップと、を含み、前記位相雑音算出ステップは、前記複数の測定周波数範囲のうち、あらかじめ定められた少なくとも1つの測定周波数範囲において、前記フィルタ選択部により選択された少なくとも2つのローパスフィルタにそれぞれ通過した誤差信号に基づいた、少なくとも2種類の前記位相雑音データを生成する位相雑音データ生成ステップと、前記位相雑音データ生成ステップで生成された少なくとも2種類の前記位相雑音データを比較する比較ステップと、前記比較ステップでの比較結果に基づいた最適化位相雑音データを生成する位相雑音最適化ステップと、を含む構成である。
【0014】
この構成により、ユーザ自身がループフィルタを構成する複数のLPFを切り替える設定を行うことなく、オフセット周波数に応じた最適な位相雑音を自動的に測定することができる。
【0015】
また、本発明の請求項5の位相雑音最適化方法においては、前記比較ステップは、前記位相雑音データ生成ステップで生成された少なくとも2種類の前記位相雑音データの大小関係を周波数ごとに比較し、前記位相雑音最適化ステップは、前記少なくとも2種類の位相雑音データについて、周波数ごとの最も小さい位相雑音の値が所定周波数範囲以上にわたって連続して1種類の前記位相雑音データの値であった場合に、当該所定周波数範囲以上にわたって連続した1種類の前記位相雑音データの値を有する最適化位相雑音データを生成する構成である。
【0016】
この構成により、周波数ごとの最も小さい位相雑音の値が所定周波数範囲以上にわたって連続して1種類の位相雑音データの値であることを条件として、当該1種類の位相雑音データの値を有する最適化位相雑音データを生成することにより、スプリアスの影響を避けて最適な位相雑音カーブを得ることができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明は、ユーザ自身がループフィルタを構成する複数のLPFを切り替える設定を行うことなく、オフセット周波数に応じた最適な位相雑音を自動的に測定することができる位相雑音最適化装置及び位相雑音最適化方法を提供するものである。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明の一実施形態に係る位相雑音最適化装置の構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係る位相雑音最適化装置を用いた位相雑音最適化方法の処理を示すフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態に係る位相雑音最適化装置により得られる位相雑音データを示すグラフである。
【
図4】従来のPLL回路の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る位相雑音最適化装置及び位相雑音最適化方法の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本実施形態における「位相雑音」とは、被試験対象(Device Under Test:DUT)100から出力される被測定信号のキャリア周波数(中心周波数)からのオフセット周波数における、1Hz帯域幅当たりの雑音電力とキャリア信号電力との比であるSSB位相雑音[dBc/Hz]を指すものとする。
【0020】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る位相雑音最適化装置1は、PLL回路10と、周波数変換部としてのミキサ21と、A/D変換器22と、フィルタ選択制御部23と、位相雑音算出部24と、表示部25と、操作部26と、制御部27と、を備え、例えばスペクトラムアナライザに搭載されるようになっている。
【0021】
PLL回路10は、基準信号発生部11と、電圧制御発振部としてのVCO12と、位相比較器13と、ループフィルタ14と、を有する。
【0022】
基準信号発生部11は、安定な固定周波数の信号をプログラマブル分周器で分周する構成や、指定された周波数の信号を直接発生させるDDS(Direct Digital Synthesizer)等によって構成され、基準周波数の基準信号を発生させるようになっている。
【0023】
VCO12は、入力された信号の電圧に応じて出力信号の周波数を制御するものであり、具体的には入力された信号の電圧に比例した発振周波数の信号を出力信号として出力するようになっている。
【0024】
位相比較器13は、基準信号発生部11からの基準信号とVCO12からの出力信号との周波数差及び位相差に応じた誤差信号を出力するようになっている。誤差信号は、例えば、上記周波数差及び位相差に比例したパルス幅の電圧信号である。
【0025】
なお、PLL回路10は、VCO12の出力信号の周波数を変換して位相比較器13に出力する周波数変換部を有するものであってもよい。この場合には、位相比較器13は、基準信号発生部11からの基準信号と周波数変換部からの出力信号との周波数差及び位相差に応じた誤差信号を出力する。
【0026】
ループフィルタ14は、カットオフ周波数の異なる複数のLPF(ローパスフィルタ)15、及び、複数のLPF15から1つのLPFを選択するフィルタ選択部としてのスイッチ16を有し、スイッチ16により選択されたLPFによって誤差信号の低周波成分を通過させてVCO12に入力するようになっている。つまり、位相比較器13の出力は、ループフィルタ14により平滑化され、VCO12の制御電圧となる。ここで、カットオフ周波数とは、LPFの周波数成分の通過特性において、周波数成分の通過率が50%(すなわちゲインが0.5)となる周波数である。
【0027】
なお、
図1には、ループフィルタ14が2個のLPF15a,15bからなる構成を図示しているが、本発明はこれに限定されず、ループフィルタ14を構成するLPFの個数は3個以上であってもよい。
【0028】
ミキサ21は、PLL回路10のVCO12からの出力信号と、DUT100からの被測定信号とを混合(乗算)して、被測定信号を周波数変換するようになっている。A/D変換器22は、ミキサ21により周波数変換された被測定信号を所定のサンプリングレートでサンプリングして、ディジタルデータとしての時間領域データに変換するようになっている。
【0029】
フィルタ選択制御部23は、あらかじめ定められた複数の測定周波数範囲ごとに使用されるLPF15の情報を記憶しており、各測定周波数範囲に応じてスイッチ16により選択されるLPF15を切り替えるようになっている。なお、上記の「測定周波数範囲」とは、位相雑音の測定を行う際のオフセット周波数の測定範囲を意味している。
【0030】
位相雑音算出部24は、位相雑音データ生成部28と、比較部29と、位相雑音最適化部30と、位相雑音データ結合部31と、を含み、あらかじめ定められた複数の測定周波数範囲ごとに、A/D変換器22から出力された時間領域データから位相雑音を算出して、周波数領域の複数の位相雑音データを生成するようになっている。
【0031】
位相雑音データの周波数ポイントの間隔は、低周波数側よりも高周波数側の方が広くなっており、100kHzから1MHzまでの測定周波数範囲では例えば10kHzとなっている。
【0032】
位相雑音データ生成部28は、あらかじめ定められた複数の測定周波数範囲において、スイッチ16により選択されたLPF15を通過した誤差信号に基づいた複数の位相雑音データを生成するようになっている。
【0033】
特に、位相雑音データ生成部28は、複数の測定周波数範囲のうち、あらかじめ定められた少なくとも1つの測定周波数範囲(以下、「最適化周波数範囲」ともいう)において、スイッチ16により選択された少なくとも2つのLPF15a,15bをそれぞれ通過した誤差信号に基づいた、少なくとも2種類の位相雑音データを生成するようになっている。
【0034】
比較部29は、位相雑音データ生成部28により生成された最適化周波数範囲における少なくとも2種類の位相雑音データを比較するようになっている。例えば、比較部29は、上記の少なくとも2種類の位相雑音データの大小関係を周波数ポイントごとに比較し、その比較結果を位相雑音最適化部30に通知するようになっている。
【0035】
位相雑音最適化部30は、比較部29による比較結果に基づいた最適化位相雑音データを生成するようになっている。例えば、位相雑音最適化部30は、最適化周波数範囲における少なくとも2種類の位相雑音データについて、周波数ポイントごとの最も小さい位相雑音の値が所定周波数範囲以上にわたって連続して(すなわち、所定の周波数ポイント連続して)1種類の位相雑音データの値であった場合に、当該所定周波数範囲以上にわたって連続した1種類の位相雑音データの値を有する最適化位相雑音データを生成するようになっている。
【0036】
位相雑音データ結合部31は、位相雑音データ生成部28で生成された最適化周波数範囲以外の測定周波数範囲における位相雑音データと、位相雑音最適化部30で生成された最適化周波数範囲における最適化位相雑音データとを結合して、表示部25に表示させるようになっている。
【0037】
表示部25は、例えばLCDやCRTなどの表示機器で構成され、制御部27からの制御信号に応じて各種表示内容を表示するようになっている。この表示内容には、位相雑音データ結合部31により結合された位相雑音の測定結果などが含まれる。さらに、表示部25は、測定条件などを設定するためのボタン、ソフトキー、プルダウンメニュー、テキストボックスなどの操作対象を表示するものであってもよい。
【0038】
操作部26は、ユーザによる操作入力を行うためのものであり、キーボード、タッチパネル、又はマウスのような入力デバイスを含んで構成される。あるいは前述のように、操作部26は、ボタン、ソフトキー、プルダウンメニュー、テキストボックスなどの操作対象が表示部25に表示される構成であってもよい。例えば、ユーザは、操作部26を用いて、測定したいオフセット周波数の範囲などを設定することができる。また、操作部26により、PLL回路10からの出力信号の周波数を設定することも可能である。
【0039】
制御部27は、例えばCPU、ROM、RAMなどを含むマイクロコンピュータで構成され、位相雑音最適化装置1を構成する上記各部の動作を制御する。さらに、制御部27は、所定のプログラムを実行することにより、フィルタ選択制御部23、位相雑音データ生成部28、比較部29、位相雑音最適化部30、及び位相雑音データ結合部31をソフトウェア的に構成するようになっている。
【0040】
なお、位相雑音最適化装置1は、GPIB、Ethernet(登録商標)、USBなどのリモート制御インタフェースを介して、外部制御装置により遠隔制御される構成であってもよい。
【0041】
以下、本実施形態の位相雑音最適化装置1を用いた、PLL回路10の位相雑音を最適化する位相雑音最適化方法について、
図2のフローチャートを参照しながら説明する。以下では一例として、オフセット周波数が10Hz〜1kHzの測定周波数範囲を第1測定周波数範囲、オフセット周波数が1kHz〜1MHzの測定周波数範囲を第2測定周波数範囲、オフセット周波数が1MHz〜10MHzの測定周波数範囲を第3測定周波数範囲とする。
【0042】
ここでは、A/D変換器22は、第1測定周波数範囲については第1のサンプリングレート、第2測定周波数範囲については第2のサンプリングレート、第3測定周波数範囲については第3のサンプリングレートで、ミキサ21から出力された被測定信号のサンプリングを行う。これらのサンプリングレートのうち、第1のサンプリングレートが最も低く、第3のサンプリングレートが最も高い。
【0043】
また、複数のLPF15は2つのLPF15a,15bからなり、LPF15aのカットオフ周波数が、LPF15bのカットオフ周波数よりも高いものとする。なお、以下では、LPF15aを「近傍最適化フィルタ」、LPF15bを「遠傍最適化フィルタ」ともいう。
【0044】
まず、フィルタ選択制御部23は、スイッチ16により近傍最適化フィルタ15aを選択する(ステップS1)。
【0045】
次に、A/D変換器22は、ミキサ21により周波数変換された被測定信号を、第1のサンプリングレートでディジタルデータとしての時間領域データに変換する。位相雑音データ生成部28は、第1測定周波数範囲において、ステップS1で選択された近傍最適化フィルタ15aに対応した位相雑音データを生成する(ステップS2)。
【0046】
次に、A/D変換器22は、ミキサ21により周波数変換された被測定信号を、第2のサンプリングレートでディジタルデータとしての時間領域データに変換する。位相雑音データ生成部28は、第2測定周波数範囲において、ステップS1で選択された近傍最適化フィルタ15aに対応した位相雑音データを生成する(ステップS3)。
【0047】
次に、フィルタ選択制御部23は、スイッチ16により遠傍最適化フィルタ15bを選択する(ステップS4)。
【0048】
次に、A/D変換器22は、ミキサ21により周波数変換された被測定信号を、第2のサンプリングレートでディジタルデータとしての時間領域データに変換する。位相雑音データ生成部28は、第2測定周波数範囲において、ステップS4で選択された遠傍最適化フィルタ15bに対応した位相雑音データを生成する(ステップS5)。
【0049】
次に、A/D変換器22は、ミキサ21により周波数変換された被測定信号を、第3のサンプリングレートでディジタルデータとしての時間領域データに変換する。位相雑音データ生成部28は、第3測定周波数範囲において、ステップS4で選択された遠傍最適化フィルタ15bに対応した位相雑音データを生成する(ステップS6)。
【0050】
次に、比較部29は、ステップS3,S5で生成された2種類の位相雑音データの大小関係を周波数ごとに比較する(ステップS7)。一般的には、オフセット周波数が大きくなるほど、カットオフ周波数が低いフィルタを介して得られた位相雑音は低くなる。ここでは、例えば、第2測定周波数範囲(1kHz〜1MHz)のうち100kHz〜1MHzの区間において、近傍最適化フィルタ15aと遠傍最適化フィルタ15bを介して得られた位相雑音データを比較する。
【0051】
次に、位相雑音最適化部30は、ステップS7での比較結果に基づいて、近傍最適化フィルタ15aを介して得られた位相雑音データの値が遠傍最適化フィルタ15bを介して得られた位相雑音データの値を周波数ポイントで例えば5ポイント連続して上回った場合に、その先頭の周波数ポイントから遠傍最適化フィルタ15bを介して得られた位相雑音データの値を採用して最適化位相雑音データを生成する(ステップS8)。なお、この最適化位相雑音データにおいては、上記の先頭の周波数ポイントよりも1つ前の周波数ポイントまでは、遠傍最適化フィルタ15bを介して得られた位相雑音データの値が採用される。
【0052】
ステップS8で、「5ポイント連続」を判定基準としたのは、第2測定周波数範囲においてスプリアス等が存在した場合に誤判定を防ぐためである。例えば、周波数ポイントの間隔が10kHzの場合には、スプリアスは2ポイントに分散する可能性がある。このため、例えば「3ポイント連続」を判定基準としてしまうと、スプリアスのレベルの測定誤差と、ノイズのランダム性によって誤判定してしまう可能性がある。逆に、判定基準の周波数ポイント数を大きくし過ぎてしまうと、複数のスプリアスが存在する場合に正しい判定ができなくなる可能性がある。ただし、本発明はこれに限定されるものではなく、位相雑音データの周波数ポイントの間隔などに応じて、任意の連続するポイント数を判定基準としてよい。
【0053】
次に、位相雑音データ結合部31は、ステップS2,S6で生成された最適化周波数範囲以外の測定周波数範囲における位相雑音データと、ステップS8で生成された最適化周波数範囲における最適化位相雑音データとを結合して、表示部25に表示させる(ステップS9)。
【0054】
なお、上記の処理においては、ユーザが操作部26により設定したオフセット周波数の範囲に応じて、適宜ステップS2,S6の処理を省略することが可能である。例えば、ユーザが設定したオフセット周波数の範囲が1kHz〜10MHzであった場合には、第1測定周波数範囲(10Hz〜1kHz)に関するステップS2の処理を省略できる。
【0055】
図3(a)は、DUT100から出力される被測定信号の中心周波数が1kHzの場合に、10Hz〜10MHzの測定周波数範囲で、近傍最適化フィルタ15aと、遠傍最適化フィルタ15bをそれぞれ介して得られた位相雑音データの一例を示すグラフである。ここでは、第1〜第3測定周波数範囲の全ての周波数範囲について近傍最適化フィルタ15a及び遠傍最適化フィルタ15bを用いて測定した結果を示している。
【0056】
図3(b)は、
図3(a)に示された位相雑音データに関して、表示部25に表示される最適化された最終的な位相雑音データを示すグラフである。このグラフに示すように、第1測定周波数範囲では近傍最適化フィルタ15aによる位相雑音データを採用し、第3測定周波数範囲では遠傍最適化フィルタ15bによる位相雑音データを採用することにより、PLL回路10による位相雑音を抑制して、被測定信号の位相雑音を精度良く測定することができる。
【0057】
一方、第2測定周波数範囲では、230kHzまでは近傍最適化フィルタ15aによる位相雑音データを採用し、240kHzからは遠傍最適化フィルタ15bによる位相雑音データを採用することにより、PLL回路10による位相雑音を抑制して、被測定信号の位相雑音を精度良く測定することができる。
【0058】
以上説明したように、本実施形態に係る位相雑音最適化装置1は、所定の測定周波数範囲で2つのLPF15a,15bを切り替えて2種類の位相雑音データを生成するようになっている。また、位相雑音最適化装置1は、2種類の位相雑音データを組み合わせて最適化位相雑音データを生成する。
【0059】
これにより、ユーザ自身がループフィルタ14を構成する複数のLPF15を切り替える操作などを行うことなく、オフセット周波数に応じた最適な位相雑音カーブを自動的に測定することができる。よって、熟練者ではないユーザであっても、特に意識することなく、最適な位相雑音カーブを容易に測定することができる。
【0060】
また、本実施形態に係る位相雑音最適化装置1は、近傍最適化フィルタ15aを介して得られた位相雑音データの値が遠傍最適化フィルタ15bを介して得られた位相雑音データの値を周波数ポイントで例えば5ポイント連続して上回ったことを判定基準として、採用する位相雑音データを切り替えるため、スプリアスの影響を避けて最適な位相雑音カーブを得ることができる。
【符号の説明】
【0061】
1 位相雑音最適化装置
10 PLL回路
11 基準信号発生部
12 VCO(電圧制御発振部)
13 位相比較器
14 ループフィルタ
15,15a LPF(ローパスフィルタ、近傍最適化フィルタ)
15,15b LPF(ローパスフィルタ、遠傍最適化フィルタ)
16 スイッチ(フィルタ選択部)
21 ミキサ(周波数変換部)
22 A/D変換器
23 フィルタ選択制御部
24 位相雑音算出部
25 表示部
26 操作部
27 制御部
28 位相雑音データ生成部
29 比較部
30 位相雑音最適化部
31 位相雑音データ結合部
100 DUT(被試験対象)