【解決手段】土を入れた複数の栽培筒1と、栄養液を供給する供給管2とからなる栽培装置を用いる。栽培筒1は、内側へと膨出して上下方向に延びる畝状部11Aが周方向に配列された本体部11と、2対の流通用の穴12Aを備える円筒形の上端部12とを含む。土15は、本端部11の上端まで入れられ、上端部12内は、上端空隙部14として残される。各対の流通用の穴12Aに、それぞれ、穴12Aより充分に径の小さい供給管2が挿し通され、供給管2の供給孔21から栄養液が、各栽培筒1内に滴下される。各畝状部11Aは、栽培筒1における本体部11の上端から下端部近傍まで、すなわち土15が入れられる領域の全長にわたって、断続部なしに延びる。
土を入れて上下方向に立てた複数の栽培筒と、これら栽培筒中へと栄養液を供給する供給管とを用いて、カンゾウ(甘草)、ツルドクダミ(何首烏)、コイケマ(白何首烏)、ツルニンジン(党参)、トウキ(当帰)、キバナオウギ(黄耆)、キキョウ(桔梗)またはその他の直根を利用する薬用植物、または、ゴボウ、もしくは、直径に対する長さの比が20以上である直根を利用する植物を栽培する方法であって、
栽培筒は、筒状に組み立てる前の状態にて、細長い長方形の樹脂シートからなり、
この長方形の樹脂シートは、
互いに重ね合わせて押さえることにより接続可能であって、互いに引き離すように引っ張ることにより取り外し可能な接続部が、上下方向に延びるか、または列をなすようにして備えられる左右の長辺部と、
複数の流通用の穴が開けられた上端部と、
樹脂シートを局部的に変形させることにより形成可能な畝状部が、前記上端部との境界から前記長方形の樹脂シートの下端の近傍にまで連続して上下方向に延びるとともに、畝状部の幅より狭い間隙部を挟むようにして左右方向に配列されており、実質上穴を有しない本体部とを含み、
左右の長辺部を、重ね合わせて互いに接続することで筒状に組み立てることができ、
栽培筒には、筒状に組み立てた状態にて、畝状部が、内側へと膨出するとともに栽培筒の周方向に配列されており、また、筒状に組み立てて土を入れた状態にて、樹脂シートの上端部により囲まれる箇所が残されて上端空隙部をなし、
流通用の穴は、組み立てた状態の各栽培筒にて、上端空隙部を挟んで互いに向き合う対をなし、少なくとも一対の流通用の穴は、栽培筒の中心軸を外れた箇所を通って、栽培筒の左右方向に直線状に結ばれるように配置され、
複数の栽培筒が、圃場または栽培棚に、上下方向に立てられて、少なくとも一列の左右方向の列をなすように互いに近接して配列され、
各供給管は、栄養液を栽培筒内に供給するための供給孔を供えており、一列に並べられた複数の栽培筒における流通用の穴の対を挿し通されて、左右方向に直線状に延びるように配置され、この際、供給孔が栽培筒内の上端空隙部中に配置され、
供給管が挿し通される流通用の各穴の断面積は、この供給管の断面積の少なくとも1.5倍であり、これにより、供給管と流通用の穴の縁との間を通って左右方向に一方の側から他方の側へと空気が流通可能となっており、
複数の栽培筒を配列して供給管を挿し通す前または後に、筒状に組み立てて土を入れた状態の栽培筒におけるその中心軸近傍に、1〜8個の種または苗を設置し、生育中に供給管からの栄養液の供給を行ない、生育期間終了後に、供給管を取り外し、左右の長辺部を互いに引き離して栽培筒を開いてから、植物の根を取り出すことを特徴とする栽培方法。
畝状部は、横断面図においてアーチ状をなし、その曲率半径が、栽培筒の上端部の半径の35〜65%であり、畝状部が内側へと突き出す寸法は、栽培筒の上端部の半径の10〜30%であり、畝状部の数は4〜8であり、間隔部の幅は、畝状部の幅の10〜40%である請求項1〜3のいずれかに記載の栽培方法。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明の栽培方法及び栽培装置により栽培する薬用植物としては、特に、カンゾウ(甘草)、ツルドクダミ(赤何首烏Polygonum multiflorum Thunberg)、コイケマ(白何首烏Cynanchum Wilfordi Hemsley)、ツルニンジン(党参)、トウキ(当帰)、キバナオウギ(黄耆)及びキキョウ(桔梗)をあげることができる。また、栽培する根菜植物などとしては、特に、ゴボウを挙げることができる。ここに名前を挙げた各植物は、生物種の同じ属に属して同様に用いられるものを含むものとする。例えば、カンゾウ(甘草)という場合に、カンゾウ(甘草)などとして使用可能なカンゾウ(甘草)属の種々の植物を含むものとする。本発明の栽培方法及び栽培装置は、これら以外でも、上述のものと同様に直根の部分を利用する薬用植物または根菜植物などの栽培であるならば、場合により用いることができる。直根は、地上の幹に連なって上下方向に延びる根である。好ましい実施形態により得られる直根は、漢方薬原料や根菜などとして商品となる部分だけを切り出し、枝やひげというべきものを取り除いた状態にて、直径に対する長さの比が、少なくとも10以上、好ましくは15以上、より好ましくは20以上である。特に、ゴボウなどの根菜植物については、好ましくは20以上、より好ましくは30以上である。ゴボウ以外の根菜植物としてはナガイモ(長芋)を挙げることができる。
【0013】
用いる栽培筒は、細長い長方形の樹脂シートを丸く閉じて組み立てたものである。この樹脂シートは、(1)互いに重ね合わせて押さえることにより接続可能であって、互いに引き離すように引っ張ることにより取り外し可能な接続部が、上下方向に延びるか、または列をなすようにして備えられる左右の長辺部と、(2)複数の流通用の穴が開けられた上端部と、(3)樹脂シートをプレス加工などによって局部的に変形させることより形成可能な畝状部が、前記上端部との境界から前記長方形の樹脂シートの下端の近傍にまで連続して上下方向に延びるとともに、畝状部の幅より狭い間隙部を挟むようにして左右方向に配列されており、実質上穴を有しない本体部とを含む。ここで、樹脂シートを局部的に変形するとは、雄型と雌型との間に挟んでプレス加工するなどの方法にて、平坦な樹脂シートから変形させることをいうこととする。
【0014】
左右の長辺部に備えられる接続部は、好ましい実施形態において、面ファスナーを用いて形成されたものである。面ファスナーとしては、十分な強度の接続を実現できるのである限り、各種のものを使用可能である。例えば、組み合わされる一方の側が、キノコ状または頭付ピン状の突起が密生されたもので、他方の側が、同様のもの、またはループ状の突起または起毛が密生されたものであっても良い。また、一方の側が、かぎ状の突起または起毛、または鮫(さめ)葉状の突起が密生されたものであっても良い。面ファスナーは、テープの形態のものを、樹脂シートの長辺部に融着または接着することができ、また、場合によっては、樹脂シートと一体に、微細な成形などにより設けること(「インターモールドフック」)も可能である。また、栽培筒をなす樹脂シートの各長辺部に、長手方向に延びる一対の断面L字状の突起を設けておき、面ファスナーを設けたシートを、長さ方向に差し込んで固定することもできる。面ファスナーのテープ基材として、例えば、ポリオレフィン材料などの材料を用い、同種のポリオレフィン材料などからなる栽培筒の樹脂シートに、高周波ウェルダーにより融着することができる。また、PET樹脂シートなどの高融点シートの裏側に、樹脂シートと同種の材料(例えばポリオレフィン材料)を融着層として積層したシートを用い、高周波ウェルダー、熱プレスまたはアイロン掛けにより、樹脂シートに融着することもできる。また、場合によっては、市販の比較的強力な面ファスナーのテープを、強力な粘着剤、または両面粘着テープにより貼り付けることもできる。一方、樹脂シート自体の一部を面ファスナーとするには、例えば、射出成形または連続射出成形によりキノコ状の突起を一体に設けることも可能である。
【0015】
使用可能な市販の面ファスナーとしては、例えば、クラレファスニング株式会社の「マジックテープ(登録商標) S-P/テープ,S-E/テープ」(高周波ウェルダー用の織製面ファスナー)、「マジロック ハイボリュームタイプ」(土木用のプラスチックフック)、「マジロック」(インターモールドフック)など、及び、YKK株式会社の「クイッロンHMPP」(ポリプロピレンやポリエチレン樹脂への強力粘着剤付き)などを挙げることができる。市販の面ファスナーは、高周波ウェルダーなどによる融着や、粘着剤や粘着テープによる粘着により、左右の長辺部に取り付けることができ、場合によっては、ステープルなどにより取り付けることもできる。なお、好ましい一実施形態において、面ファスナーは、左右の長辺部に、本体部の全長にわたって連続して延びる一つの帯状に設けられる。しかし、長さ方向に断続して破線状に延びるのでもよい。また、左右の長辺部の面ファスナーは、互いに押さえつける前に、ある程度充分な接続が実現できるものであっても良い。
【0016】
接続部は、嵌め合わせ用の凸部と、嵌め合わせ用の受け部との組み合わせにより設けることもできる。この場合、左右の一方の長辺部に嵌め合わせ用の凸部を配列し、他方の長辺部に嵌め合わせ用の受け部を配列することができる。嵌め合わせ用の受け部は、嵌め合わせ用の凸部にぴったりと嵌まり合う凹部または穴とすることができる。好ましい実施形態において、嵌め合わせ用の凸部及び受け部は、樹脂シートの平面図で見て、正方形、円形、またはこれらに近い形状とすることができる。また、嵌め合わせ用の凸部及び受け部は、好ましくは上下方向に等間隔に配列される。この際の、凸部同士の間隔及び受け部同士の間隔は、栽培筒の外径の10〜200%、特には20〜100%とすることができる。
【0017】
畝状部、並びに、上記の嵌め合わせ用の凸部や嵌め合わせ用の凹部は、プレス加工などの一回の加工操作により同時に設けることができる。なお、畝状部並びに、上記の凸部や凹部は、樹脂シートの局部的な変形により形成可能なものであるため、いずれも、樹脂シートの一方の面では突き出し、他方の面では陥没する形となっている。また、流通用の穴、並びに嵌め合わせ用の穴は、打ち抜き操作により同時に設けることができる。なお、樹脂シートは、例えば、適度のフレキシブル性及び剛性を有し、耐久性に優れた低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)またはその他のポリオレフィン樹脂などを用いることができる。変形のない上端部における樹脂シートの厚み(畝状部形成前のシート厚み)は、0.1〜5mmとすることができ、特には0.2〜3mm、例えば0.3〜2mmとすることができる。
【0018】
上記の長方形の樹脂シートは、左右の長辺部を、互いに重ね合わせて押さえることにより互いに接続することで、筒状に組み立てることができる。好ましくは、幅の狭い左右の長辺部のみ、すなわち、接続部が上下方向に延びるかまたは配列された箇所のみを重ね合わせることで、筒状に組み立てることができる。このようであると、一部の畝状部も重ね合わせる場合に比べて、長方形の樹脂シートの幅を狭くでき、材料費及び栽培筒の重量を低減できる。
【0019】
栽培筒の本体部に設けられる畝状部は、横断面において、折れ曲がりのない滑らかな曲線に沿って膨出する形状であり、筒状に組み立てられた状態において、好ましくはアーチ状、特には円弧状または楕円弧状をなす。畝状部は、土が充填される本体部の長さ寸法のほぼ全体にわたって、断続部なしに設けられ、かつ、横断面において膨出形状であるため、植物の根が伸びて来た際に、植物の根が、引っ掛かったり「衝突」するということがなく、根の枝分かれを防ぐことができると考えられる。本件発明者らは、野生状態にて、薬用植物などの直根が下方へと伸びる際、石や岩にぶつかるごとに、根の枝分かれが生じているのであろうと考えている。そうだとすると、引っ掛かりや衝突の可能性を最小限にすることで、枝分かれの生成を抑制し、商品価値の高い、まっすぐで太い根を得ることができるのであろう。一方、植物の直根が下方へと伸びるのを促進するために、畝状部は必要である。畝状部を全周にわたって設けることにより、特には、実質上同一の形状及び寸法の畝状部が、接続用長辺部の箇所を除き、全周にわたって均等に分布するように設けることにより、畝状部の頂点を結ぶ円の内側に直根が位置するように誘導されるとともに、畝状部の間の空間及び接続用長辺部の箇所から充分な栄養供給が行なわれるようにすることができると考えられる。
【0020】
上記のような観点から、畝状部をアーチ状に設ける場合の曲率半径を、好ましくは、栽培筒の上端部の半径の35〜65%、特に好ましくは40〜60%とすることができ、畝状部の突き出し寸法を、好ましくは、栽培筒の上端部の半径の10〜30%、特に好ましくは15〜25%とすることができる。一方、接続用長辺部の箇所を除き均等に分布する畝状部の間の間隙部の幅は、好ましくは、畝状部の幅の10〜40%、特に好ましくは10〜25%とすることができる。植物の根が伸びる際に引っ掛からないようにするという観点から、間隙部の幅が小さすぎず、また、横断面図で見た場合における、間隙部の底部近傍での、畝状部の斜面の傾斜が大きすぎないのが良いと考えられる。このようなことに関連して、畝状部の数は、好ましくは4〜8、特に好ましくは5〜7である。他方、接続用の長辺部のみが重なり合うようにするには、接続用の長辺部の幅は、畝状部間の間隙部の幅と同一か、または、少し小さいのが好ましい。
【0021】
栽培筒は、好ましい実施形態において、上端開口の径が3〜25cm、好ましくは5〜25cmであり、長さが30〜120cmである。また、好ましい実施形態において、流通用の穴の径は1〜5cmであり、前記上端部及び上端空隙部の上下方向寸法は4〜12cmである。栽培筒は、一実施形態において、直径に対する長さの比が3〜20、好ましくは4〜10であり、前記上端部及び上端空隙部の上下方向寸法が、栽培筒の上端開口の径の20〜150%、好ましくは30〜120%、より好ましくは40〜100%である。但し、栽培する植物の根の特性に応じて、適宜変更することができ、例えば、ツルニンジン(党参)を栽培するには、20〜40cmの長さの栽培筒を用いることができ、ゴボウを栽培するには、60〜120cmの長さの栽培筒を用いることができる。
【0022】
栽培筒に土を入れる際には、本体部と上端部との境界の付近にまで入れることにより、上端部に囲まれる空間が、上端空隙部をなすようにする。栽培筒の上端部には、複数対の流通用の穴、好ましくは1〜3対の流通用の穴が設けられる。流通用の穴は、好ましくは円形、または円形に近い楕円形である。流通用の穴を通じて、栽培時、特には植物の葉が生い茂って栽培筒の開口を覆ってしまった際に、外部の空気と上端空隙部の空気とが、互いにスムーズに流通できるようにする。流通用の穴は、空気が水平方向に一方から他方へと、栽培筒の上端部及び上端空隙部を突き抜けていくことができるようにすべく、2つずつ、互いに対応する箇所に設けられて、それぞれ対をなす。すなわち、栽培筒の上端部に、一方から他方へと水平方向に貫通するように穴を開けたような形に、対をなす流通用の穴が設けられる。特には、栽培筒が一列に並べられる方向を左右方向として、栽培筒の中心軸から少し外(はず)れた箇所を通って左右方向に貫通するように、対をなす流通用の穴が設けられる。上端空隙部における中心軸に沿った箇所には、植物の幹があるので、中心軸の位置を外す方が、空気が流通しやすいと思われる。
【0023】
土を入れた複数の栽培筒は、少なくとも一列に、互いに接するか、または近接するようにして、左右方向に配列される。このように栽培筒を並べた状態で、栽培中に植物に栄養液を供給するための供給管が、流通用の穴に挿し通されて、好ましくは左右方向に一直線をなして延びるように配置される。供給管は、各栽培筒に一本のみが貫通するようにしても良いが、好ましい実施形態において、2本が貫通するようにすることができる。すなわち、植物の幹の前後両側にて、栄養液の供給が行なわれるようにすることができる。このように供給管を挿し通す2対の流通用の穴の位置は、円形の穴の下端に供給管が位置した場合に、供給管が、栽培筒の中心軸から、上端部の径の10〜30%、特には15〜25%ずれる位置に配置することができる。なお、栽培筒を複数列に配列する場合、すなわちマトリクス状に配列する場合、同一の列の左右の栽培筒との間で、流通用の穴を通じて空気の流通が行なわれるだけでなく、前後の列の間でも、流通用の穴を通じて空気の流通が行なわれるようにすることができる。例えば、一の列の栽培筒が、次の列の栽培筒と互い違いになるように、すなわち、前列の一の栽培筒が、左右方向にて、この次の列である後列の2つの栽培筒の間に来るように配置されることで、前列の位置の栽培筒の後方側の2つの流通用の穴が、それぞれ、後列の栽培筒の前方側の流通用の穴と、部分的に連通されるようにすることができる。また、前後方向に突き抜ける少なくとも一対の流通用の穴をさらに設けることもできる。すなわち、前後方向に、接するか、または近接して配置される栽培筒の上端空隙部間にて空気の流通が行なわれるようにすることもできる。
【0024】
供給管から各栽培筒内への栄養液の供給は、好ましい実施形態において、供給管に設けた小さな複数の穴から栄養液が滴下されるようにすることができる。栄養液の供給は、例えば、毎日、または一日に2〜3回、例えば制御装置及び低圧ポンプを用いて行うことができる。また、穴の数や大きさを適当なものとすることにより、いずれの栽培筒にも同一の量の栄養液が供給されるようにすることができる。すなわち、栄養液の供給量に、栽培筒ごと、または供給時ごとのばらつきが生じず、いずれの栽培筒にも、いずれの供給時にも均等に供給が行なわれるようにすることができる。また、供給された栄養液は、全て、栽培筒内に入り、土の中に染み込んでいくと考えられる。これに対し、従前一般的であった上方から噴霧する方式であると、植物の葉が生い茂った後には、葉によって、はじかれるため、栽培容器中に入らず無駄になる部分が、一例では95%以上となっていた。
【0025】
供給管は、好ましい一実施形態において、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、エチレン・プロピレン共重合体樹脂またはその他のポリオレフィン樹脂などの樹脂を材料とするフレキシブルなチューブである。
【0026】
供給管が挿し通される流通用の各穴の断面積は、この供給管の断面積(外径基準)の少なくとも1.5倍、好ましくは2倍以上、より好ましくは3倍〜20倍、例えば3倍〜5倍である。これにより、供給管と流通用の穴の縁との間を通って左右方向に一方の側から他方の側へと空気が流通可能となっている。
【0027】
好ましい一実施形態において、供給管が挿し通される流通用の各穴の断面積は、栽培筒の上端開口の面積の1〜20%、好ましくは2〜10%とすることができる。なお、流通用の穴には、格子状の部分などが設けられていても良い。すなわち、供給管を挿し通すことができるならば、一つの開口によるものでなく、複数の開口に分割されていてもよく、メッシュ状であっても良い。但し、丸い一つの開口とする方が製造は容易であり、また、この穴に手の指をかけて、運搬や、圃場の畝などからの引き抜きを行なうことができる。
【0028】
好ましい一実施形態において、栽培筒内に入れられる土、または、供給管から供給する栄養液には、乳酸菌または酵母菌を含む微生物、または、この微生物を用いて得られる発酵生成物が含まれる。好ましい実施形態において、栽培筒内に入れられる土、または、供給管から供給する栄養液には、農薬、またはその他の、安全性を損なうおそれのある合成物質は含まれない。なお、栽培筒内に入れられる土としては、例えば、火山灰、砂、及び、腐植土または堆肥などを、栽培する植物の種類に応じて、適当な比率で混合したものを用いることができる。
【0029】
好ましい一実施形態において、栽培筒の下部には、火山の山麓などに分布する黒い火山灰土を入れることができ、栽培筒の上部には、堆肥を入れることができる。ここで、黒い火山灰土は、火山灰を主体とする土壌における、腐植の多い表層の黒色または黒褐色の土である。例えば、上端間隙部を除く栽培筒の長さ寸法のうち、下部の40〜80%に黒い火山灰土を入れ、残りの上部に堆肥を入れることができる。なお、下部に入れる土には、黒い火山灰土に、火山灰、細かい砂及び堆肥の少なくともいずれかを、10〜50重量%(混合後の土を基準)加えたものを用いることができる。また、上部に入れる土には、堆肥に、黒い火山灰土及び細かい砂の少なくとも一方を、10〜50重量%(混合後の土を基準)加えたものを用いることができる。一方、ここで用いる堆肥を得るためには、無農薬の餌を与えて育てたブタ、ウシ及びニワトリの糞尿を、上述のように乳酸菌または酵母菌を含む微生物で発酵することで液肥を得た後、刈り取った野草に、この液肥を噴霧して積み重ねた状態で発酵させることができる。
【0030】
好ましい実施形態において、上記のように栽培筒に土を入れた後、中心軸の近傍に、種または苗を、1〜8個、好ましくは2〜5個、より好ましくは2〜4個、埋め込んで、栽培を行なうことができる。また、このように種または苗を設置した後に、圃場の畝に、栽培筒の長さ寸法の10〜50%、特には20〜40%が地中に埋もれるように、差し込むことができる。
【0031】
次に、図面により示された実施形態について具体的に説明する。
【0032】
図1〜7を用いて、本実施形態の栽培装置10について説明する。
図1〜3に示すように、栽培筒1は、全体が円筒状であり、畝状部11Aが配列された穴のない本体部11と、凹凸を有さず流通用の2対の穴12Aを備える上端部12と、接続用長辺部13,14と、軸方向寸法が小さい円筒状の下端部19とからなる。各畝状部11Aは、本体部11の全長にわたって連続して延びており、断続部を有しない。接続用長辺部13,14は、
図3のように広げられた状態にて、長方形の左右の長辺に沿った部分であり、
図2のように丸めて行き、互いに重ね合わされて押さえつけることにより接続可能であり、このようにして円筒状に組み立てることができる。本実施形態において、左右の接続用長辺部13,14には、それぞれ、面ファスナーによる接続部13A,14Aが備えられる。図示の例において、接続部13A,14Aは、ほぼ本体部1の全長にわたって連続して延び、栽培筒1をなす樹脂シートの左右の縁、及び、畝状部11Aから、一定の間隔だけ離間されて設けられている。また、図示の例において、左方の長辺部13には、円筒状の外側に来る面に接続部13Aが設けられ、右方の長辺部14には、円筒状の内側に来る面に接続部14Aが設けられる。
【0033】
図1中に示されているように、前後2本の供給管2が、それぞれ、上端部12における前後2対の流通用の穴12Aに、刺し通されている。また、
図6に示すように、前後の供給管2は、栽培筒1の中心軸から、栽培筒1の径の約1/4だけ外れた位置にて左右方向に延びている。
図4A及び
図4Bに示すように、各供給管2の下端部には、栽培筒1内の土16の表面へと、なるべく均等に滴下が行なわれるように、多数の供給孔21が備えられる。
【0034】
なお、
図8には、
図6に対応する、上端部12での断面図により、栽培筒同士を密に配列し供給管2を挿し通した様子を示す。また、
図8は、前後方向にも一対の流通用の穴12Bを設けた変形形態を示している。この変形形態であると、3つの栽培筒に囲まれる間隙と流通用の穴12A及び12Bを通じて、左右方向での栽培筒1間の空気の流通とともに、前後の列の栽培筒間でも空気の流通が行なわれる。
【0035】
一具体例において、栽培筒1の長さ1Aは60cm、栽培筒1をなす長方形の樹脂シートの幅1Bは約34cm、上端部12の中心軸方向寸法は6cm、左右の長辺部13,14の幅は3.5cmである。そのため、栽培筒1の上端開口の径は、約10cmである。一方、平面状に開いた樹脂シートの状態にて、畝状部11Aの幅は3.5cm、間隙部11Bの幅は0.5cmであり、畝状部11Aが突き出す寸法17は1.0cmである。また、下端部19の幅(中心軸方向寸法)は0.5cmである。他方、この具体例において、供給管2の外径は1.0cmであり、供給孔21は、供給管2の長さ方向に均等に分布するように、下端に一列に、約1.0cmのインターバルで設けられる。なお、栽培筒1をなす樹脂シートの厚み、すなわち、栽培筒1の壁の厚みは、約0.2cmである。
【0036】
上記具体例において、流通用の各穴12Aの断面積は、各供給管2の断面積の4倍であり、栽培筒1の上端開口の面積の約4%である。また、各畝状部11Aは、
図5の横断面図において、円弧状であって、その曲率半径が上端部12の半径の約50%であり、畝状部11Aの突き出し寸法17が、上端部12の半径の約20%であり、畝状部11Aの数が7である。また、間隙部11Bの幅は、畝状部11Aの幅の約15%である。一方、栽培筒1は、直径に対する長さの比が約6であり、上端部12の上下方向寸法が、栽培筒1の上端開口の径の約80%である。そして、各栽培筒1には、筒状に組み立てた状態で、本体部11の上端にまで、すなわち上端部12と上下方向寸法の等しい上端空隙部15を残すようにして、土16が入れられる。この際、まず、黒い火山灰土16Bを、上端部以外の長さ寸法の2/3だけ入れ、残りの1/3には堆肥16Aを入れた。
【0037】
ここでの黒い火山灰土は、本件出願人の所在地の近傍(ダランシオルムの山麓)に本件出願人が所有する草地から採取したものである。また、堆肥は、同じ草地から採取した野草に、本件出願人が生産する「BARU微生物発酵液」を掛けて発酵させることで得られたものである。この「BARU微生物発酵液」は、自生薬草を用いて得られた、乳酸菌9種と酵母菌3種を含む複合微生物液を得た後、本件出願人が無農薬の草及び飼料のみを与えて育てているブタ、ウシ及びニワトリの糞尿に加えて発酵させて得られた液肥である。
【0038】
図7に示すように、圃場の畝34に土を入れた栽培筒1が差し込まれて、8列に、縦横に互いにほぼ接するように密に配列した。そして、この後、各供給管2を
図1の状態になるように左右方向、すなわち、圃場の畝34に沿った方向に一直線に延びるように配置した。
【0039】
上述の栽培装置を用いて、カンゾウを栽培した。まず、春に栽培筒1の中心部に播種し、毎日2回、上記の「BARU微生物発酵液」を液肥として、供給管2を通じて供給した。播種後、約2〜3箇月で、幹32や枝から延びる葉33が、栽培筒1の開口部分をほぼ完全に覆ってしまう。葉が生い茂った際の圃場の外観は、栄養液供給用のスプレーを除けば、下記の比較例についての
図11Aの写真と全く同一であるので、実施例についての同様の写真は省略する。しかし、上述の栽培装置を用いた栽培の結果、約1年半で、
図9に模式的に示すように植物3が成長し、主根31が、収穫すべき大きさになった。得られた主根31は、重量のばらつきが少なく、約90%が、
図9に示すような大きさ(約500g±20%)となった。また、約90%が、
図10に示すように、枝分かれが少なく、商品価値の高いものとなった。典型的なものを選んで、グリチルリチンの含量を測定したところ、典型的な市販品(中国からの輸入品のうち最も一般的なもの)に比べ、含量が15%以上高かった。
【0040】
一方、比較例として、特許文献1に記載のとおりの栽培筒を用い、供給管による栄養液供給の代わりに、従来と同様の散布による栄養液供給を行なった他は、上記実施例と同様にして栽培を行なった。
図11Aの写真に、葉が生い茂った際の圃場の外観、特には液肥の散布の様子を示す。この比較例では、平均重量が同程度となるのに2年近くを要した。また、得られた主根のばらつきが大きく、300g以下のものが約30%であった。さらには、
図11Bの写真に示すように枝分かれの多いものが多く、上記の
図10に示すような商品価値の高いものは約40%に過ぎなかった。なお、グリチルリチンの含量も、典型的な市販品より5〜10%程度高いのみであった。
【0041】
なお、散布による栄養液供給の際、液肥の使用量は、供給管の場合の2倍とした。散布した栄養液は、そのまま栽培筒内に入るか、または、葉や茎を伝って近隣の栽培筒の中に入るものが半分程度であると考えたためである。散布による場合、平均の栄養液供給量が同程度であっても、栽培筒ごとのばらつきや、散布時ごとのばらつきが大きかったと考えられる。
【0042】
一方、栽培筒を用いない従来の方法により栽培した場合、生育に約2年半〜3年を要するとともに、
図12に示すように、非常に枝分かれの多いものが大部分であった。また、重量のばらつきは、上記の比較例よりも一層大きかった。また、写真は示さないが、畝状部のない完全な円筒形の栽培筒を用いて上記比較例と同様に栽培した場合には、比較例の場合と、栽培筒を用いなかった場合とのほぼ中間となった。すなわち、生育に要する期間、重量のばらつき、及び枝分かれの程度において、ほぼ中間となった。
【0043】
図13及び
図14には、ツルニンジン(党参)を栽培した場合の、上記
図10及び12に対応する写真を示す。すなわち、ツルニンジン(党参)を上記の実施例と同様の栽培装置にて6カ月栽培した場合に得られた典型的な収穫物と、栽培筒を用いない従来の一般的な栽培方法により1年間栽培して得られた典型的な収穫物を示す。なお、
図13のツルニンジン(党参)は、栽培筒1の長さ1Aを30cmとし生育期間を6カ月とした他は、カンゾウ(甘草)を栽培した上記実施形態の場合と全く同様の栽培装置及び栽培方法により得られたものである。写真に示すように、本願実施形態の装置及び方法によると、収穫物の品質、及び生育速度において顕著に優れるものとなった。
【0044】
図15の写真には、キキョウ(桔梗)を、上記のツルニンジン(党参)についての本願実施形態と全く同様に栽培して得られた典型的な収穫物を示す。すなわち、栽培筒1の長さ1Aを30cmとし生育期間を6カ月とした他は、カンゾウ(甘草)を栽培した上記実施形態の場合と全く同様の栽培装置及び栽培方法により得られたものを示す。写真には示さないが、キキョウ(桔梗)についても、特許文献1に記載のとおりの栽培筒を用い、供給管による栄養液供給の代わりに、従来と同様の散布による栄養液供給を行なった場合、本願実施例の装置及び方法に比べて、収穫物の品質、及び生育速度において顕著に劣るものであった。
【0045】
図16の写真には、コイケマ(白何首烏)を、特許文献1による上記比較例の装置及び方法により6カ月栽培して得られた収穫物を示す。コイケマ(白何首烏)については、本願実施形態の装置及び方法による栽培が完了していないが、栽培途中のものを観察した結果、比較例のものより、棒状に長く延びやすく、生育速度が顕著に大きいと考えられた。
【0046】
図17には、変形実施形態の栽培筒1'を示す。ここでは、面ファスナーによる接続部13A,14Aに代えて、左右の接続用長辺部13,14に、それぞれ、嵌め合わせ凹部13B及び嵌め合わせ凸部14Bを設けており、
図2と同様の半開きの状態にて示している。嵌め合わせ凹部13B及び嵌め合わせ凸部14Bは、いずれも、ドット状に、樹脂シートを局部的に変形させて栽培筒の内側に来る面から、外側に来る面へと突出させたものである。左方の長辺部13には、嵌め合わせ凹部13Bが本体部11の全長にわたって配列され、右方の長辺接続部14には、嵌め合わせ凹部13Bに対応して嵌め合わせ凹部14Bが配列されている。
図15の実施形態の栽培筒1'では、嵌め合わせ凹部13Bと嵌め合わせ凸部14Bとが密着して嵌め合わされることで、取り外し可能な接続が行なわれる。
図15の栽培筒を用いる変形実施形態は、接続部を除き、
図1〜7の実施形態と全く同様である。特許文献1と同様の、嵌め合わせ凹部13B及び嵌め合わせ凸部14Bを用いているため、筒状に組み立てるためには、樹脂ハンマーなどで叩いて嵌め合わせる作業が必要となる。そのため、面ファスナーを用いる上述の実施形態に比べて、組み立ての際の作業性は劣る。