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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-163988(P2017-163988A)
(43)【公開日】2017年9月21日
(54)【発明の名称】多能性幹細胞の分化
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/071 20100101AFI20170825BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20170825BHJP
   C12N 1/00 20060101ALI20170825BHJP
【FI】
   C12N5/071
   C12N5/074
   C12N1/00 A
【審査請求】有
【請求項の数】24
【出願形態】OL
【外国語出願】
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-83570(P2017-83570)
(22)【出願日】2017年4月20日
(62)【分割の表示】特願2013-527100(P2013-527100)の分割
【原出願日】2011年8月17日
(31)【優先権主張番号】61/378,480
(32)【優先日】2010年8月31日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】509087759
【氏名又は名称】ヤンセン バイオテツク,インコーポレーテツド
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093676
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 純子
(74)【代理人】
【識別番号】100147131
【弁理士】
【氏名又は名称】今里 崇之
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】レザニア,アリレザ
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA93X
4B065BB13
4B065BB20
4B065BB40
4B065BC01
4B065CA44
(57)【要約】      (修正有)
【課題】多能性幹細胞から膵臓ホルモン発現細胞を誘導する方法であって、多能性幹細胞からのインスリン産生細胞への分化を促進する方法の提供。
【解決手段】多能性幹細胞を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化させる工程と、前記胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を原始腸管細胞集団へと分化させる工程と、前記原始腸管細胞集団を後部前腸の細胞集団へと分化させる工程と、前記後部前腸の細胞集団をCYP26A阻害剤を補充した培地で培養し膵内分泌前駆細胞集団へ分化させる工程と、前記膵内分泌前駆細胞集団をBMP受容体阻害剤及びALK5阻害剤を補充した培地で培養し未成熟な膵臓ホルモン発現細胞へ分化させる工程と、前記未成熟な膵臓ホルモン発現細胞をBMP受容体阻害剤、ALK5阻害剤及びビタミンAを補充した培地で培養し膵臓ホルモン発現細胞へ分化させる工程と、を含む、方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞から膵内分泌前駆細胞集団を誘導する方法であって、
a.多能性幹細胞集団を培養する工程と、
b.前記多能性幹細胞を、胚体内胚葉系(definitive endoderm lineage)に特徴的な
マーカーを発現する細胞集団へと分化させる工程と、
c.前記胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、原始腸管細胞集団へと分
化させる工程と、
d.前記原始腸管細胞集団を、後部前腸の細胞集団へと分化させる工程と、
e.前記後部前腸の細胞集団を、レチノイン酸を分解する剤を添加した培地で処理する
工程と、を含む、方法。
【請求項2】
前記レチノイン酸を分解する剤がCYP26A阻害剤である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記CYP26A阻害剤が約1nM〜約1000nMの濃度で使用される、請求項2に
記載の方法。
【請求項4】
前記CYP26A阻害剤が約10nM〜約100nMの濃度で使用される、請求項2に
記載の方法。
【請求項5】
前記CYP26A阻害剤がN−{4−[2−エチル−1−(1H−1,2,4−トリア
ゾール−1−イル)ブチル]フェニル}−1,3−ベンゾチアゾール−2−アミンである
、請求項2に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
本出願は、2010年8月31日に出願された、米国特許仮出願第61/378,480号の利益を主張するものであり、当該出願を、本明細書にその全容において、かつあらゆる目的について援用するものである。
【0002】
(発明の分野)
本発明は、多能性幹細胞からのインスリン産生細胞への分化を促進する方法を提供する。特に、本発明は、レチノイン酸を分解して内分泌前駆細胞集団を生成する剤を用いる方法を提供する。
【背景技術】
【0003】
I型糖尿病の細胞補充療法の進歩及び移植可能なランゲルハンス島の不足により、生着に適したインスリン産生細胞すなわちβ細胞の供給源の開発に注目が集まっている。1つの手法として、例えば、胚性幹細胞などの多能性幹細胞から機能性のβ細胞を生成するものがある。
【0004】
脊椎動物の胚発生において、多能性細胞は、原腸形成として公知のプロセスにて、3つの胚葉(外胚葉、中胚葉、及び内胚葉)を含む細胞のグループを生じる。例えば、甲状腺、胸腺、膵臓、腸、及び肝臓等の組織は、内胚葉から中間段階を経て発達する。このプロセスにおける中間段階は、胚体内胚葉の形成である。胚体内胚葉細胞はHNF3 β、GATA4、MIXL1、CXCR4及びSOX17などの多数のマーカーを発現する。
【0005】
膵臓の形成は、胚体内胚葉の膵臓内胚葉への分化により生じる。膵臓内胚葉の細胞は膵臓−十二指腸ホメオボックス遺伝子、PDX1を発現する。PDX1が存在しない場合、膵臓の発達は、腹側芽及び背側芽の形成より先に進行しない。したがって、PDX1の発現は、膵臓器官形成において重要な工程を運命づける。成熟した膵臓は、他の細胞型の中でも、外分泌組織及び内分泌組織を含む。外分泌組織及び内分泌組織は、膵臓内胚葉の分化によって生じる。
【0006】
生体内での膵臓の発達は、臓器前駆体の領域を運命決定するシグナルの適切な制御に少なくとも一部依存するものである。Kinkelら(PNAS May 12,2009 vol.106 no.19 7864〜7869)は、「膵臓細胞の予定運命は、レチノイン酸(RA)により決定され、膵臓領域の適切な大きさ及び位置は、RAシグナル伝達の厳密な制御に依存する。我々は本報告に、通常の、膵臓の前側領域の予定運命の決定の際に、RA分解Cyp26酵素が重要な役割を果たすことを示す。」と記述している。
【0007】
膵島細胞の特徴を保持する細胞がマウスの胚細胞から誘導されたことが報告されている。例えば、Lumelskyら(Science 292:1389、2001年)は、マウスの胚幹細胞の、膵島と同様のインスリン分泌構造への分化を報告している。Soriaら(Diabetes 49:157、2000年)は、ストレプトゾトシン糖尿病のマウスにおいて、マウスの胚幹細胞から誘導されたインスリン分泌細胞が糖血症を正常化することを報告している。
【0008】
一例において、Horiら(PNAS 99:16105,2002)は、ホスホイノシチド3−キナーゼ(LY294002)の阻害剤でマウス胚性幹細胞を処理することにより、β細胞に類似した細胞が生成されたことを開示している。
【0009】
他の例では、Blyszczukら(PNAS 100:998、2003年)が、Pax4を構成的に発現するマウス胚幹細胞からのインスリン産生細胞の生成を報告している。
【0010】
Micallefらは、レチノイン酸は、胚幹細胞のPDX1陽性膵臓内胚葉形成に関する予定運命を制御できることを報告している。レチノイン酸は、胚における原腸形成の終了時に相当する期間中に、胚性幹細胞分化の4日目に培養液に添加すると、Pdx1発現の誘導に最も効果的である(Diabetes 54:301、2005年)。
【0011】
Miyazakiらは、Pdx1を過剰発現するマウス胚幹細胞株を報告している。この結果は、外因性のPdx1発現が、得られた分化細胞内でインスリン、ソマトスタチン、グルコキナーゼ、ニューロゲニン3、p48、Pax6、及びHnf6遺伝子の発現を明らかに増加させたことを示している(Diabetes 53:1030,2004)。
【0012】
Skoudyらは、マウス胚性幹細胞内で、アクチビンA(TGF−βスーパーファミリーのメンバー)が、膵臓外分泌遺伝子(p48及びアミラーゼ)、並びに内分泌遺伝子(Pdx1、インスリン及びグルカゴン)の発現を上方制御することを報告している。最大の効果はアクチビンAを1nM用いた場合に観察された。Skoudyらはまた、インスリン及びPdx1のmRNA発現レベルはレチノイン酸による影響を受けなかった一方で、Pdx1の転写レベルは3nMのFGF7による処理により増加したことも観察している(Biochem.J.379:749,2004)。
【0013】
Shirakiらは、胚幹細胞のPDX1陽性細胞への分化を特異的に高める増殖因子の効果を研究した。Shirakiらは、TGF−β2によってPDX1陽性細胞がより高い比率で再現性よく得られたことを観察している(Genes Cells.2005 Jun;10(6):503〜16)。
【0014】
Gordonらは、血清の非存在下、かつアクチビンとWntシグナル伝達阻害剤の存在下での、マウス胚性幹細胞からの短尾奇形[陽性]/HNF3 β[陽性]内胚葉細胞への誘導を示した(米国特許第2006/0003446(A1)号)。
【0015】
Gordonら(PNAS、103巻、16806頁、2006年)は、「Wnt及びTGF−β/nodal/アクチビンシグナル伝達は、前側の原始線条の生成の際に同時に必要である」と述べている。
【0016】
しかしながら、胚幹細胞発達のマウスモデルは、例えば、ヒト等のより高等な哺乳動物内の発達プログラムを正確に模倣しない恐れがある。
【0017】
Thomsonらは、ヒト胚盤胞から胚幹細胞を単離した(Science 282:114、1998年)。これと同時に、Gearhart及び共同研究者は、胎児生殖腺組織から、ヒト胚生生殖(hEG)細胞株を誘導した(Shamblottら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95:13726,1998)。単に白血病抑制因子(LIF)と共に培養すれば分化が阻止され得るマウス胚幹細胞とは異なり、ヒト胚幹細胞は、非常に特殊な条件下で維持する必要がある(米国特許第6,200,806号、国際公開第99/20741号;国際公開第01/51616号)。
【0018】
ダムールら(D’Amour)は、高濃度のアクチビン及び低濃度の血清の存在下で、ヒト胚性幹細胞由来の胚体内胚葉の濃縮化された培養物が調製されたことを述べている(Nature Biotechnology 2005)。これらの細胞を、マウスの腎臓皮膜下で移植することにより、いくつかの内胚葉性器官の特徴を有する、より成熟した細胞への分化が見られた。ヒト胚幹細胞由来の胚体内胚葉細胞は、FGF−10の添加後、PDX1陽性細胞に更に分化し得る(米国特許出願公開第2005/0266554A1号)。
【0019】
D’Amourら(Nature Biotechnology−24,1392〜1401(2006))は、「我々はヒト胚性幹(hES)細胞を、膵臓ホルモンインスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、膵臓ポリペプチド及びグレリンを合成できる内分泌細胞へと変換させる分化プロセスを開発した。このプロセスは、胚体内胚葉、腸管内胚葉、膵臓内胚葉及び内分泌前駆体が、内分泌ホルモンを発現する細胞へと向かう段階に類似した段階を通して細胞を指向させることにより、インビボでの膵臓器官形成を模倣する。」と述べている。
【0020】
別の例において、Fiskらは、ヒト胚幹細胞から膵島細胞を産生するシステムを報告している(米国特許出願公開第2006/0040387(A1)号)。この場合、分化経路は3つの段階に分割された。まず始めに酪酸ナトリウムとアクチビンAを組み合わせて用いることで、ヒト胚性幹細胞は内胚葉へと分化した。次いで、ノギンなどのTGF−βアンタゴニストとEGF又はベータセルリンを組み合わせて用い、細胞を培養し、PDX1陽性細胞を生成した。最終分化は、ニコチンアミドにより誘導した。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
よりβ細胞に類似している、機能性のインスリン発現細胞を生成するためのin vitro法の開発が未だに強く求められている。本発明は、レチノイン酸を分解する剤を用い膵前駆細胞集団を生成することにより、多能性幹細胞のインスリン発現細胞への分化効率を改善するという、代替的なアプローチを取る。
【課題を解決するための手段】
【0022】
一実施形態では、本発明は、レチノイン酸を分解して内分泌前駆細胞集団を生成する剤を用いる方法を提供する。
【0023】
一実施形態では、膵内分泌前駆細胞集団の生成は、段階的な分化プロトコルにより実施され、このプロトコルでは、まず始めに、多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系(definitive endoderm lineage)に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化させる。次に、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団を、原始腸管細胞集団へと分化させる。次に、原始腸管細胞集団を後部前腸(Posterior foregut)の細胞集団へと分化させる。次に、レチノイン酸を分解する剤を添加した培地により、後部前腸の細胞を処理することで、後部前腸の細胞集団を内分泌前駆細胞の集団へと分化させる。
【0024】
一実施形態では、更に、内分泌前駆細胞集団を、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化させる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1に概述するプロトコルの第III〜IVステージの細胞から得られた試料により得られたリアルタイムPCRデータを示す。a)はPAX4、b)はNGN3、c)はPDX1、d)はNEUROD、e)はNKX6.1、f)はCDX2、及びg)はアルブミンである。y軸は、未分化のH1細胞に対する発現倍率である。パネルHは、第IVステージの対照及びCYP26A処理培養物の、NGN3に対する免疫染色を示す。
図2】実施例2に概述するプロトコルの第III〜IVステージの細胞から得られた試料により得られたリアルタイムPCRデータを示す。a)はNGN3、b)はNEUROD、c)はCDX2、d)はNKX6.1、及びe)はPDX1である。y軸は、未分化のH1細胞に対する発現倍率。
図3】実施例3に概述するプロトコルの第I〜VIステージの細胞の相画像を示す。
図4】実施例3に概述するプロトコルの第IV〜VIIステージの細胞のNKX6.1発現に関するFACSプロットを示す。
図5】実施例3に概述するプロトコルの第V及びVIIステージの細胞のPDX1、NKX6.1及びCDX2の免疫染色画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
開示を分かりやすくするため、限定を目的とすることなく、「発明を実施するための形態」を、本発明の特定の特徴、実施形態、又は用途を説明又は例示する下記の小項目に分
割する。
【0027】
定義
幹細胞は、単独の細胞レベルで自己複製し、分化して後代細胞を生成するという、これらの両方の能力で定義される未分化細胞であり、後代細胞には、自己複製前駆細胞、非再生前駆細胞、及び最終分化細胞が含まれる。幹細胞はまた、インビトロで複数の胚葉層(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)から様々な細胞系の機能的細胞へと分化する能力によって、また移植後に複数の胚葉層の組織を生じ、胚盤胞への注入後、すべてではないとしても殆どの組織を提供する能力によっても、特徴付けられる。
【0028】
幹細胞は、発生能によって、(1)全胚及び胚体外細胞型を生じる能力を意味する全能性、(2)全胚細胞型を生じる能力を意味する多能性、(3)細胞系の小集合を生じるが、すべて特定の組織、器官、又は生理学的システム内で生じる能力を意味する複能性(例えば、造血幹細胞(HSC)は、HSC(自己再生)、血液細胞に限定された寡能性前駆細胞、並びに血液の通常の構成要素である全細胞型及び要素(例えば、血小板)を含む後代を産生できる)、(4)複能性幹細胞と比較して、より限定された細胞系統の小集合を生じる能力を意味する寡能性、並びに(5)1つの細胞系(例えば、精子形成幹細胞)を生じる能力を意味する単能性に分類される。
【0029】
分化は、専門化されていない(「中立の」)又は比較的専門化されていない細胞が、例えば、神経細胞又は筋細胞などの専門化された細胞の特徴を獲得するプロセスである。分化細胞又は分化誘導した細胞は、細胞系内でより専門化された(「分化決定された」)状況を示す細胞である。分化プロセスに適用した際の用語「傾倒した」は、通常の環境下で特定の細胞型又は細胞型の小集合に分化し続ける分化経路の地点に進行しており、通常の環境下で異なる細胞型に分化し、又はより分化されていない細胞型に戻ることができない細胞を指す。脱分化は、細胞が細胞系統内で比較的特殊化されて(又は傾倒して)いない状況に戻るプロセスを指す。本明細書で使用される場合、細胞系統は、細胞の遺伝、即ちその細胞がどの細胞に由来するか、またどの細胞を生じ得るかを規定する。細胞系とは、発生及び分化の遺伝スキーム内にその細胞を位置付けるものである。系統特異的マーカーとは、対象とする系統の細胞の表現型と特異的に関連した特徴を指し、分化決定されていない細胞の、対象とする系統への分化を評価するために使用することができる。
【0030】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞」又は「ステージ1細胞」又は「ステージ1」とは、以下のマーカー、すなわち、SOX17、GATA4、HNF3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix−様ホメオボックスタンパク質、FGF4、CD48、eomesodermin(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99、又はOTX2のうちの少なくとも1つを発現する細胞を指す。胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞としては、原始線条前駆体細胞、原始線条細胞、中内胚葉細胞及び胚体内胚葉細胞が挙げられる。
【0031】
本明細書で使用するとき、「膵内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞」とは、以下のマーカー、すなわち、PDX1、NKX6.1、HNF1 β、PTF1 α、HNF6、HNF4 α、SOX9、HB9、又はPROX1のうちの少なくとも1つを発現する細胞を指す。膵内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞としては、膵臓内胚葉細胞、原腸管細胞、後部前腸細胞が挙げられる。
【0032】
本明細書で使用するとき、「胚体内胚葉」は、原腸形成中、胚盤葉上層から生じ、胃腸管及びその誘導体を形成する細胞の特徴を保持する細胞を指す。胚体内胚葉細胞は、以下のマーカー、すなわち、HNF3 β、GATA4、SOX17、Cerberus、OTX2、goosecoid、C−Kit、CD99、及びMIXL1を発現する。
【0033】
本明細書で使用するとき「マーカー」とは、対象とする細胞で差異的に発現される核酸又はポリペプチド分子である。この文脈において、差異的な発現は、陽性マーカーのレベルの増大及び陰性マーカーのレベルの減少を意味する。マーカー核酸又はポリペプチドの検出限界は、他の細胞と比較して対象とする細胞において充分に高いか又は低いことから、当該技術分野において知られる各種方法のいずれを用いても対象とする細胞を他の細胞から識別及び区別することが可能である。
【0034】
本明細書で使用するとき、「膵内分泌前駆体細胞」は、次のマーカー:NGN3、NEUROD、又はNKX2.2のうちの少なくとも1つを発現する細胞を指す。
【0035】
本明細書で使用するとき、「後部前腸細胞(Posterior foregut cell)」は、次のマーカー:PDX1又はHNF6のうちの少なくとも1つを発現する細胞を指す。
【0036】
本明細書で使用するとき、「未成熟な膵臓ホルモン発現細胞」は、次のマーカー:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、MAFB、PDX1、ARX、NKX6.1、NKX2.2、又はNEURODのうちの少なくとも1つを発現する細胞を指す。
【0037】
本明細書で使用するとき、「原始腸管細胞」は、次のマーカー:HNF1 β又はHNF4 αのうちの少なくとも1つを発現する細胞を指す。
【0038】
本明細書で使用するとき、「膵内分泌細胞」又は「膵臓ホルモン発現細胞」又は「膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞」とは、以下のホルモン、すなわち、インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドのうちの少なくとも1つを発現することが可能な細胞を指す。
【0039】
多能性幹細胞の単離、増殖及び培養
多能性幹細胞の特徴付け
多能性幹細胞は、ステージ特異的胚抗原(SSEA)3及び4、並びにTra−1−60及びTra−1−81と呼ばれる抗体によって検出可能なマーカーのうちの1つ以上を発現する(Thomsonら、Science 282:1145,1998)。インビトロで多能性幹細胞を分化させると、SSEA−4、Tra−1−60、及びTra−1−81の発現が減少し(存在する場合)、SSEA−1の発現が上昇する。未分化の多能性幹細胞は、典型的には、細胞を4%パラホルムアルデヒドで固定した後、製造業者(Vector Laboratories(Burlingame Calif.))によって記載されるようにVectorRedを基質として現像することによって検出することができる、アルカリホスファターゼ活性を有しする。未分化の多能性幹細胞はまた、RT−PCRにより検出されるように、一般にOCT4及びTERTも発現する。
【0040】
増殖させた多能性幹細胞の別の望ましい表現型は、3つの胚葉のすべて、すなわち、内胚葉、中胚葉、及び外胚葉組織の細胞に分化する能力である。多能性幹細胞の多能性は、例えば細胞を重症複合型免疫不全症(SCID)マウスに注入し、4%パラホルムアルデヒドを使用して、形成された奇形腫を固定した後、それらを3つの胚葉由来の細胞型の痕跡に関して組織学的に検査することにより確認することができる。代替的に、多能性は、胚様体を形成し、この胚様体を3つの胚葉に関連したマーカーの存在に関して評価することにより決定することができる。
【0041】
増殖させた多能性幹細胞株は、標準的なGバンド法を使用し、対応する霊長類種の発表されている核型と比較することで、核型を決定することができる。細胞は「正常な核型」を有することが望ましく、「正常な核型」とは、細胞が正倍数体であり、ヒト染色体がすべて揃っておりかつ目立った変化のないことを意味する。
【0042】
多能性幹細胞の供給源
使用が可能な多能性幹細胞の種類としては、妊娠期間中の任意の時期(必ずしもではないが、通常は妊娠約10〜12週よりも前)に採取した前胚性組織(例えば胚盤胞など)、胚性組織又は胎児組織などの、妊娠後に形成される組織に由来する多能性細胞の樹立株が含まれる。非限定的な例としては、例えばヒト胚性幹細胞株H1、H7及びH9(WiCell)などのヒト胚性幹細胞又はヒト胚生殖細胞の樹立株が挙げられる。更に、こうした細胞の初期の株化又は安定化の際に本開示の組成物を使用することも考えられるが、その場合は、供給源となる細胞は供給源の組織から直接採取される1次多能性細胞である。フィーダー細胞の不在下で既に培養された多能性幹細胞集団から採取した細胞も好適である。例えば、BG01v(BresaGen,Athens,GA)などの変異型ヒト胚幹細胞株も好適である。
【0043】
一実施形態では、ヒト胚性幹細胞は、Thomsonらに開示される方法の通りに調製される(米国特許第5,843,780号;Science 282:1145,1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133ff.,1998;Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.92:7844,1995)。
【0044】
多能性幹細胞の培養
一実施形態において、多能性幹細胞は、フィーダー細胞の層上で培養され、このフィーダー細胞は、多能性幹細胞を様々な方法で支持する。代替的に、多能性幹細胞は、基本的にフィーダー細胞が存在しないにも関わらず、ほぼ分化を受けないで多能性幹細胞の増殖を支持する培養液システム中で培養される。多能性幹細胞を分化させずに無フィーダー培養液中で増殖させる際には、以前に他の細胞種を予め培養しておいて馴化させた培地を使用することでこの操作が支持される。代替的に、多能性幹細胞を無フィーダー培養液中で分化させずに増殖させる際は、合成培地を使用することでこの操作が支持される。
【0045】
一実施形態において、多能性幹細胞は、Reubinoffら(Nature Bio
technology 18:399〜404(2000))に開示されている方法に従
って、マウス胚性線維芽細胞フィーダー細胞層上で培養されてもよい。あるいは、多能性
幹細胞は、Thompsonらに開示されている方法に従ってマウス胚性線維芽細胞フィ
ーダー細胞層上で培養されてもよい(Science 6 November 1998
:Vol.282.no.5391,pp.1145〜1147)。あるいは、多能性幹
細胞は、Richardsら(Stem Cells 21:546〜556,2003
)に開示されているフィーダー細胞層の任意の1つの上で培養されてもよい。
【0046】
一実施形態では、多能性幹細胞は、Wangら(Stem Cells 23:122
1〜1227,2005)に開示されている方法に従って、ヒトフィーダー細胞層の上で
培養されてもよい。代替実施形態では、多能性幹細胞は、Stojkovicら(Ste
m Cells 2005 23:306〜314,2005)に開示されているヒトフ
ィーダー細胞層の上で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Miyamoto
ら(Stem Cells 22:433〜440,2004)に開示されているヒトフ
ィーダー細胞層の上で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Amitら(Bi
ol.Reprod 68:2150〜2156,2003)に開示されるヒトフィーダ
ー細胞層上で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Inzunzaら(Ste
m Cells 23:544〜549,2005)に開示されているヒトフィーダー細
胞層の上で培養されてもよい。
【0047】
一実施形態では、多能性幹細胞は、米国特許出願公開第2002/0072117号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許第6642048号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、国際公開第2005014799に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Xuら(Stem Cells 22:972〜980,2004)に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許出願公開2007/0010011号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許出願公開2005/0233446号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許第6800480号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、国際公開第2005065354号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されて
もよい。
【0048】
一実施形態では、多能性幹細胞は、Cheonら(BioReprod DOI:10.1095/biolreprod.105.046870,October 19,2005)に開示される方法に従って培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、Levensteinら(Stem Cells 24:568〜574,2006)に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許出願公開2005/0148070号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、米国特許出願公開2005/0244962号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。あるいは、多能性幹細胞は、国際公開第2005086845号に開示されている方法に従って誘導された培地の中で培養されてもよい。
【0049】
多能性幹細胞は、好適な培養基質上に播くことができる。一実施形態において、好適な培養基質は、例えば基底膜から誘導されたもの、又は接着分子受容体−リガンド結合の一部を形成し得るもの等の細胞外マトリクス成分である。一実施形態において、好適な培養基材はMATRIGEL(登録商標)(Becton Dickenson)である。MATRIGEL(登録商標)は、Engelbreth−Holm Swarm腫瘍細胞由来の可溶性製剤であり、室温でゲル化して再構成基底膜を形成する。
【0050】
他の細胞外マトリクス成分及び成分混合物は代替物として好適である。増殖させる細胞型に応じて、これは、ラミニン、フィブロネクチン、プロテオグリカン、エンタクチン、ヘパラン硫塩、及び同様物を、単独で又は様々な組み合わせで含み得る。
【0051】
多能性幹細胞は、細胞の生存、増殖、及び所望の特徴の維持を促進する培地の存在下、基質上に好適な希釈率にて播かれてもよい。これらの特徴のすべては、播種分布に細心の注意を払うことで利益を得られるものであり、当業者は容易に決定することができる。
【0052】
好適な培地は、以下の成分、すなわち例えば、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、Gibco # 11965−092;ノックアウトダルベッコ改変イーグル培地(KO DMEM)、Gibco #10829−018;ハムF12/50% DMEM基本培地;200mM L−グルタミン、Gibco # 15039−027;非必須アミノ酸溶液、Gibco # 11140−050;β−メルカプトエタノール、Sigma # M7522;ヒト組み換え塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、Gibco # 13256−029等から調製することもできる。
【0053】
多能性幹細胞からの膵内分泌前駆細胞の生成
本発明は、多能性幹細胞集団からの、膵前駆細胞集団の生成方法を提供する。一実施形態では、本発明は、膵内分泌前駆細胞を、膵内分泌系マーカーを発現する細胞へと更に分化させる方法を提供する。
【0054】
一実施形態では、本発明は膵前駆細胞の生成方法を提供し、この方法は、次工程:a、b、c、d及びeを含む。
a.多能性幹細胞集団を培養する工程、
b.多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化させる工程、
c.胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団を、原始腸管細胞集団へと分化させる工程、
d.原始腸管細胞集団を、後部前腸の細胞集団へと分化させる工程、及び
e.後部前腸の細胞集団をレチノイン酸を分解する剤を添加した培地で処理することにより、後部前腸の細胞集団を、膵内分泌前駆細胞集団へと分化させる工程。
【0055】
この膵内分泌前駆細胞集団を更に処理して、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団を生成することもできる。
【0056】
分化の効率は、処理した細胞集団を、所望の細胞型に特徴的なマーカーを発現する細胞によって発現されるタンパク質マーカーを特異的に認識する作用剤(例えば、抗体など)に暴露することにより測定することができる。
【0057】
培養又は単離された細胞中のタンパク質及び核酸マーカーの発現を評価する方法は、当技術分野にて標準的である。この方法としては、定量的逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)、ノーザンブロット、インサイツハイブリダイゼーション(例えば、Current Protocols in Molecular Biology(Ausubelら、eds.2001 supplement)を参照されたい)、並びにイムノアッセイ、例えば、免疫組織化学的分析、ウェスタンブロッティング、及びインタクトな細胞で利用できるマーカーについてのフローサイトメトリー分析(FACS)(例えば、Harlow及びLane,Using Antibodies:A Laboratory Manual,New York:Cold Spring Harbor Laboratory Press(1998)参照)が挙げられる。
【0058】
多能性幹細胞の特徴は当業者に周知であり、多能性幹細胞の更なる特徴は、継続して同定されている。多能性幹細胞のマーカーとして、例えば、以下のもの、すなわち、ABCG2、cripto、FOXD3、CONNEXIN43、CONNEXIN45、OCT4、SOX2、NANOG、hTERT、UTF1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra 1−60、Tra 1−81の1つ以上の発現が挙げられる。
【0059】
多能性幹細胞を本発明の方法で処理した後、処理した細胞集団を、胚体内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞により発現される、例えばCXCR4等のタンパク質マーカーを特異的に認識する薬剤(例えば、抗体等)に暴露することにより、分化した細胞を精製することができる。
【0060】
本発明で用いるのに好適な多能性幹細胞としては、例えば、ヒト胚性幹細胞株H9(NIHコード:WA09)、ヒト胚性幹細胞株H1(NIHコード:WA01)、ヒト胚性幹細胞株H7(NIHコード:WA07)、及びヒト胚性幹細胞株SA002(Cellartis,Sweden)が挙げられる。多能性細胞に特徴的な以下のマーカー、すなわち、ABCG2、cripto、CD9、FOXD3、CONNEXIN43、CONNEXIN45、OCT4、SOX2、NANOG、hTERT、UTF1、ZFP42、SSEA−3、SSEA−4、Tra 1−60、及びTra 1−81のうちの少なくとも1つを発現する細胞も本発明で用いるのに好適である。
【0061】
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーは、SOX17、GATA4、HNF3 β、GSC、CER1、Nodal、FGF8、短尾奇形、Mix様ホメオボックスタンパク質、FGF4、CD48、エオメソダーミン(EOMES)、DKK4、FGF17、GATA6、CXCR4、C−Kit、CD99、及びOTX2からなる群から選択される。胚体内胚葉系に特徴的なマーカーのうちの少なくとも1つを発現する細胞は本発明での使用に好適である。本発明の一態様では、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、原始線条前駆細胞である。別の態様では、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、中内胚葉細胞である。別の態様では、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、胚体内胚葉細胞である。
【0062】
膵内胚葉系(原始腸管細胞及び後部前腸の細胞を包含する)に特徴的なマーカーは、PDX1、NKX6.1、HNF1 β、PTF1 α、HNF6、HNF4 α、SOX9、HB9及びPROX1からなる群から選択される。膵内胚葉系に特徴的なこれらのマーカーのうちの少なくとも1つを発現する細胞が本発明における使用に適している。本発明の一態様では、膵内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵臓内胚葉細胞である。
【0063】
膵内分泌系に特徴的なマーカーは、NGN3、NEUROD、ISL1、PDX1、NKX6.1、PAX4、NGN3、及びPTF−1 αからなる群から選択される。一実施形態では、膵内分泌細胞は、以下のホルモン:インスリン、グルカゴン、ソマトスタチン、及び膵臓ポリペプチドのうちの少なくとも1つを発現することができる。本発明で使用するに好適なものは、膵内分泌系の特徴を示すマーカーを少なくとも1つ発現する細胞である。本発明の一態様において、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、膵内分泌細胞である。膵内分泌細胞は、膵臓ホルモン発現細胞であってよい。また、膵内分泌細胞は膵臓ホルモン分泌細胞であってもよい。
【0064】
本発明の一態様では、膵内分泌細胞は、β細胞系に特徴的なマーカーを発現する細胞である。β細胞系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、PDX1と、以下の転写因子、すなわち、NGN3、NKX2.2、NKX6.1、NEUROD、ISL1、HNF3 β、MAFA、PAX4、及びPAX6のうちの少なくとも1つを発現する。本発明の一態様では、β細胞系に特徴的なマーカーを発現する細胞は、β細胞である。
【0065】
多能性幹細胞からの胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞の生成
胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、当該技術分野で公知の任意の方法により、多能性幹細胞集団から生成することができる。
【0066】
例えば、D’Amourら,Nature Biotechnology 23,1534〜1541(2005)に開示の方法に従って、多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0067】
例えば、Shinozakiら,Development 131,1651〜1662(2004)に開示の方法に従って、多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0068】
例えば、McLeanら,Stem Cells 25,29〜38(2007)に開示の方法に従って、多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0069】
例えば、D’Amourら,Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示の方法に従って、多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0070】
例えば、米国特許出願公開第11/736,908号に開示の方法に従って、多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0071】
例えば、米国特許出願公開第11/779,311号に開示の方法に従って、多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0072】
例えば、米国特許出願公開第12/493,741号に開示の方法に従って、多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0073】
例えば、米国特許出願公開第12/494,789号に開示の方法に従って、多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞へと分化させることができる。
【0074】
膵内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞の生成
膵内胚葉系統に特徴的なマーカーを発現する細胞としては、膵臓内胚葉細胞、原腸管細胞、後部前腸細胞が挙げられる。一実施形態では、本発明の方法により生成された胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、当該技術分野の任意の方法により、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化する。
【0075】
例えば、本発明の方法に従って得られた胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、D’Amourら、Nature Biotechnology 24,1392〜1401(2006)に開示される方法に従って処理することで、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0076】
例えば、本発明の方法に従って得られた胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、米国特許出願公開第11/736,908号に開示される方・BR>@に従って処理することで、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0077】
膵内分泌前駆細胞集団の生成
一実施形態では、本発明は膵前駆細胞の生成方法を提供し、この方法は、次工程:a、
b、c、d及びeを含む。
a.多能性幹細胞集団を培養する工程、
b.多能性幹細胞集団を、胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化させる工程、
c.胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団を、原始腸管細胞集団へと分化させる工程、
d.原始腸管細胞集団を、後部前腸の細胞集団へと分化させる工程、及び
e.後部前腸の細胞集団をレチノイン酸を分解する剤を添加した培地で処理することにより、後部前腸の細胞集団を、膵内分泌前駆細胞集団へと分化させる工程。
【0078】
一実施形態では、レチノイン酸を分解する剤はCYP26A阻害剤である。CYP26A阻害剤は、約1nM〜約1000nMの濃度で使用することができる。あるいは、CYP26A阻害剤は、約10nM〜約100nMの濃度で使用することができる。
【0079】
任意のCYP26A阻害剤が本発明に使用するのに好適である。例えば、CYP26A阻害剤は、米国特許第7,468,391号に開示の化合物から選択することができる。あるいは、CYP26A阻害剤は、米国特許出願公開第2005/0187298(A1)号に開示の化合物から選択することができる。あるいは、CYP26A阻害剤は、米国特許出願公開第2004/0106216(A1)号に開示の化合物から選択することができる。あるいは、CYP26A阻害剤は、国際公開第2005058301(A1)号に開示の化合物から選択することができる。あるいは、CYP26A阻害剤は、PNAS May 12,2009 vol.106 no.19 7864〜7869に開示の化合物から選択することができる。一実施形態では、CYP26A阻害剤はN−{4−[2−エチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブチル]フェニル}−1,3−ベンゾチアゾール−2−アミンである。式1を参照されたい。
【0080】
【化1】
【0081】
一実施形態では、レチノイン酸を分解する剤を添加した培地には、更に、BMP阻害能をもつ因子、TGFβ受容体シグナル伝達阻害剤、ビタミンA及びPKC活性化剤からなる群から選択される少なくとも1つの因子が添加される。
【0082】
一実施形態では、BMP阻害能をもつ因子はノギンである。ノギンは、約50ng/mL〜約500μg/mLの濃度で使用することができる。一実施形態では、ノギンは、100ng/mLの濃度で使用することができる。
【0083】
一実施形態では、TGFβ受容体シグナル伝達阻害剤はALK5の阻害剤である。一実施形態では、ALK5の阻害剤はALK5阻害剤IIである。ALK5阻害剤IIは、約0.1μM〜約10μMの濃度で使用することができる。一実施形態では、ALK5阻害剤IIは1μMの濃度で使用することができる。
【0084】
一実施形態では、PKC活性化剤は、(2S,5S)−(E,E)−8−(5−(4−(トリフルオロメチル)フェニル)−2,4−ペンタジエモイルアミノ)ベンゾラクタム、インドラクタムV(ILV)、ホルボール−12−ミリステート−13−アセテート(PMA)、及びホルボール−12,13−ジブチレート(PDBu)からなる群から選択される。一実施形態では、プロテインキナーゼC活性化剤は、(2S,5S)−(E,E)−8−(5−(4−(トリフルオロメチル)フェニル)−2,4−ペンタジエモイルアミノ)ベンゾラクタムである。(2S,5S)−(E,E)−8−(5−(4−(トリフルオロメチル)フェニル)−2,4−ペンタジエモイルアミノ)ベンゾラクタムは、約20nM〜約500nMの濃度で使用することができる。本明細書では、(2S,5S)−(E,E)−8−(5−(4−(トリフルオロメチル)フェニル)−2,4−ペンタジエモイルアミノ)ベンゾラクタムは「TPB」と呼ぶ。
【0085】
膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞の生成
一実施形態では、本発明の方法により生成された膵内分泌前駆細胞集団を、当該技術分野で公知の任意の方法により、更に、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化させる。
【0086】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0087】
例えば、膵臓内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、D’Amourら、Nature Biotechnology,2006に開示されている方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0088】
例えば、膵内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、米国特許出願公開第11/736,908号に開示される方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0089】
例えば、膵内胚葉系に特徴的なマーカーを発現している細胞は、米国特許出願公開第11/779,311号に開示の方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現している細胞集団へと更に分化させることもできる。
【0090】
例えば、膵内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、米国特許出願公開第60/953,178号に開示される方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0091】
例えば、膵内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団は、米国特許出願公開第60/990,529号に開示される方法に従って処理することで、膵内分泌系に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと更に分化させることができる。
【0092】
本発明を以下の実施例によって更に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0093】
(実施例1)
FBS不含でかつCYP26A阻害剤を含有している細胞培養培地でのヒト胚性幹細胞株H1の細胞の膵内分泌前駆細胞への分化
MEF−CM(マウス胚性線維芽細胞馴化培地)を用い、MATRIGEL(登録商標)コーティングディッシュ(1:30希釈)(BD Biosciences;カタログ番号356231)で、ヒト胚性幹細胞株H1の細胞(p40〜p50)をコロニーとして培養し、次の通りに膵内分泌前駆細胞へと分化させた。
a.ステージI(胚体内胚葉):ヒト胚性幹細胞を、2%脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700(Proliant、IA))と100ng/mLアクチビンA(R&D Systems、MN)に加え、20ng/mLのWNT−3a(カタログ番号1324−WN−002(R&D Systems、MN))と8ng/mLのbFGF(カタログ番号100−18B(PeproTech、NJ))を添加したRPMI培地で1日培養し、続いて、2% BSAと100ng/mLアクチビンAに加え8ng/mLのbFGFを添加したRPMI培地で更に2日処理し、次に
b.ステージII(原始腸管):細胞を2%の脂肪酸不含BSA及び50ng/mLのFGF7を加えたRPMIで2日処理し、次に
c.ステージIII(後部前腸):細胞を、1:200希釈したITS−X(Invitrogen、CA)と0.1% BSA(Lipid Rich)(Invitrogen、カタログ番号11021−045)と50ng/mL FGF7と0.25μMのSANT−1と2μMレチノイン酸(RA)(Sigma、MO)と100ng/mLノギン(R&D Systems、MN)と2.5μM 4−[4−(4−フルオロフェニル)−1−(3−フェニルプロピル)−5−ピリジン−4−イル−1H−イミダゾール−2−イル]ブタ−3−イン−1−オール(米国特許第6,521,655号に開示のP38阻害剤)と20ng/mLアクチビンAと、を添加したDMEM/高グルコースで5日処理し、次に
d.ステージIV(膵内分泌前駆体):細胞を、1:200希釈したITS−X(Invitrogen、CA)と0.1% BSA(Invitrogen、Ca)と100ng/mLノギンと1μM ALK5阻害剤(SD−208、Molecular Pharmacology 2007 72:152〜161に開示)と500nMのTPB(α−アミロイド前駆体タンパク質修飾物質)(カタログ番号565740、EMD、CA)と10〜100nMのCYP26A阻害剤N−{4−[2−エチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブチル]フェニル}−1,3−ベンゾチアゾール−2−アミンと10〜100nMのビタミンA(カタログ番号R7632(Sigma,MO))を添加したDMEM/高グルコースで4日処理し、あるいは
【0094】
一部の培養物では、ステージIVは6日間に延長した。ステージIII及びIVで、膵臓関連遺伝子についてリアルタイムPCRで解析するために、mRNAを単離した。図1に示す通り、ステージIVでCYP26A阻害剤を添加することで、投与量に応じた様式で、内分泌腺前駆体マーカー(NGN3、Pax4、NeuroD)と膵内胚葉マーカーNKX6.1の発現が著しく増加した。ビタミンAとCYP26A阻害剤を添加しても、膵内胚葉又は内分泌腺前駆体マーカーの発現量に有意な変更は見られなかった。更に、ステージIVでCYP26A阻害剤を添加した場合、CDX2(腸マーカー)及びアルブミン(肝臓マーカー)の発現が減少した。ステージIVで、NGN3(カタログ番号AF3444,R&D Systems、MN)に対して免疫染色したところ、100nMのCYP26A阻害剤で処理した培養物で、NGN3発現量の有意な増加が明瞭に示された。
【0095】
(実施例2)
FBS不含でかつCYP26A阻害剤を含有している細胞培養培地でのヒト胚性幹細胞株H1の細胞の膵内分泌前駆細胞への分化の代替法
MATRIGEL(登録商標)(1:30希釈)コーティングしたディッシュ(BD Biosciences;カタログ番号356231)で、ヒト胚性幹細胞株H1の細胞(p40〜p52)を、16ng/mLのFGF2(カタログ番号100−18B(PeproTech、NJ))及び10μMのY−27632(Rock阻害剤、カタログ番号Y0503(Sigma、MO))を添加したMEF−CM(マウス胚性線維芽細胞馴化培地)に、個別の細胞として密度100000個/cm2で播種した。播種の72時間後、培養物を次の通りに胚体内胚葉(DE)へと分化させた:
a.ステージI(胚体内胚葉):ヒト胚性幹細胞を、2%脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700(Proliant、IA))と0.0025g/mL重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187(Sigma、MO))と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079(Invitrogen、Ca))と100ng/mLアクチビンA(R&D Systems、MN)に加え20ng/mL WNT−3a(カタログ番号1324−WN−002(R&D Systems、MN))を添加したMCDB−131(カタログ番号10372−019(Invitrogen、CA))培地により1日処理し、続いて、2% BSAと重炭酸ナトリウムとGlutamaxと100ng/mLアクチビンAを添加したMCDB−131培地により更に3日処理し、次に
b.ステージII(原始腸管):細胞を、2%脂肪酸不含BSAと50ng/mL FGF7を添加したMCDB−131で3日処理し、次に
c.ステージIII(後部前腸):細胞を、1:200希釈したITS−X(Invitrogen、CA)と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079(Invitrogen、Ca))と0.0025g/mL重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187(Sigma、MO))と0.1% BSA(Lipid Rich)(Invitrogen、カタログ番号11021−045)と50ng/mL FGF7と0.25μMのSANT−1と、2μMレチノイン酸(RA)(Sigma,MO)と2.5μMの4−[4−(4−フルオロフェニル)−1−(3−フェニルプロピル)−5−ピリジン−4−イル−1H−イミダゾール−2−イル]ブタ−3−イン−1−オール(米国特許第6,521,655号に開示のp38阻害剤)と100nMのLDN−193189(BMP受容体阻害剤、カタログ番号04−0019(Stemgent、CA))と500nMのCYP26A阻害剤N−{4−[2−エチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブチル]フェニル}−1,3−ベンゾチアゾール−2−アミンと20ng/mLアクチビンAを添加したMCDB−131/高グルコース(25mMグルコース)で4日処理し、次に
d.ステージIV(膵内分泌前駆体):細胞を、1:200希釈したITS−X(Invitrogen、CA)と0.1% BSA(Invitrogen、Ca)と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079(Invitrogen、Ca))と0.0025g/mL重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187(Sigma、MO))と1μMのALK5阻害剤(SD−208、Molecular Pharmacology 2007 72:152〜161に開示)と500nMのPDBu(PKC活性化剤)(カタログ番号P1269(Sigma、MO))と100nMのLDN−193189(BMP受容体阻害剤、カタログ番号04−0019(Stemgent、CA))と0.25μMのSANT−1(#S4572(Sigma、MO))と500nMのCYP26A阻害剤N−{4−[2−エチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブチル]フェニル}−1,3−ベンゾチアゾール−2−アミンを添加したMCDB−131/高グルコース(25mMグルコース)で7日処理し、
e.ステージIV(膵内分泌前駆体):細胞を、1:200希釈したITS−X(Invitrogen、CA)と0.1% BSA(Invitrogen、Ca)と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079(Invitrogen、Ca))と0.0025g/mL重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187(Sigma、MO))と1μMのALK5阻害剤(SD−208、Molecular Pharmacology 2007 72:152〜161に開示)と500nMのPDBu(PKC活性化剤)(カタログ番号P1269(Sigma、MO))と100nMのLDN−193189(BMP受容体阻害剤、カタログ番号04−0019(Stemgent、CA))と0.25μM SANT−1(#S4572(Sigma、MO))を添加したMCDB−131/高グルコース(25mMグルコース)で7日処理した。
【0096】
ステージIII及びIVで、膵臓関連遺伝子についてリアルタイムPCRで解析するために、mRNAを単離した。上記実施例1と同様、ステージIVでCYP26A阻害剤を加えた場合に、NGN3及びNeuroDなどの膵内分泌前駆体マーカーの発現が上昇したという結果が観察された。(図2を参照されたい)。ステージIII及びIVの両方で阻害剤を添加すると、NGN3及びNeuroDの発現は更に上昇した。驚くべきことに、CYP26A阻害剤をステージIII(レチノイン酸の存在下で)に添加した場合、PDX−1及びNKX6.1の発現は有意に減少したのに対してCDX2の発現は増加した。これらの結果は、CYP26A阻害剤を添加するのに適切なステージはステージIVであることを示す。
【0097】
(実施例3)
FBS不含でかつCYP26A阻害剤を含有している細胞培養培地でのヒト胚性幹細胞株H1の細胞の膵内分泌細胞への分化の代替法 MATRIGEL(登録商標)(1:30希釈)コーティングしたディッシュ(BD Biosciences;カタログ番号356231)で、ヒト胚性幹細胞株H1の細胞(p40〜p52)を、16ng/mLのFGF2(カタログ番号100−18B(PeproTech、NJ))及び10μMのY−27632(Rock阻害剤、カタログ番号Y0503(Sigma、MO))を添加したMEF−CM(マウス胚性線維芽細胞馴化培地)に、個別の細胞として密度100000個/cm2で播種した。播種の72時間後、培養物を次の通りに胚体内胚葉(DE)へと分化させた:
a.ステージI(胚体内胚葉):MATRIGEL(登録商標)コーティングしたディッシュで、ヒト胚性幹細胞を、2%脂肪酸不含BSA(カタログ番号68700(Proliant、IA))と0.0025g/mL重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187(Sigma、MO))と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079(Invitrogen、Ca))と100ng/mLのGDF−8(R&D Systems、MN)に加え2.5μMのGSK3B阻害剤14−プロパ−2−エン−1−イル−3,5,7,14,17,23,27−ヘプタアザテトラシクロ[19.3.1.1〜2,6〜.1〜8,12〜]ヘプタコサ−1(25),2(27),3,5,8(26),9,11,21,23−ノナエン−16−オンを添加したMCDB−131(カタログ番号10372−019(Invitrogen、CA))培地で個別の細胞として1日培養し、続いて、2% BSAと重炭酸ナトリウムとGlutamaxと100ng/mLのGDF−8を添加したMCDB−131培地で更に3日処理し、次に
b.ステージII(原始腸管):細胞を、2%脂肪酸不含BSA及び50ng/mLのFGF7を添加したMCDB−131培地で2日処理し、次に c.ステージIII(後部前腸):細胞を、1:200希釈したITS−X(Invitrogen、CA)と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079(Invitrogen、Ca))と0.0025g/mL重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187(Sigma、MO))と0.1% BSA(高脂質)(Invitrogen、カタログ番号11021−045)と50ng/mLのFGF7と0.25μMのSANT−1と2μMのレチノイン酸(RA)(Sigma、MO)と2.5μMの4−[4−(4−フルオロフェニル)−1−(3−フェニルプロピル)−5−ピリジン−4−イル−1H−イミダゾール−2−イル]ブタ−3−イン−1−オールと100nMのLDN−193189(BMP受容体阻害剤、カタログ番号04−0019(Stemgent、CA))と20ng/mLのアクチビンAを添加したMCDB131/高グルコース(25mMのグルコース)で4日処理し、次に
d.ステージIV(膵前駆体):細胞を、1:200希釈したITS−X(Invitrogen、Ca)と0.1% BSA(Invitrogen、Ca)と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079(Invitrogen、Ca))と0.0025g/mL重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187(Sigma、MO))と100nM LDN−193189(BMP受容体阻害剤、カタログ番号04−0019(Stemgent、CA))と50nMのPDBu(PKC活性化剤)(カタログ番号P1269(Sigma、MO))と0.25μMのSANT−1(#S4572(Sigma、MO))と100nMのCYP26A阻害剤N−{4−[2−エチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブチル]フェニル}−1,3−ベンゾチアゾール−2−アミンを添加したMCDB131/高グルコース(25mMグルコース)で3日処理し、次に
e.ステージV(膵内分泌前駆体):細胞を、1:200希釈したITS−X(Invitrogen、CA)と0.1% BSA(Invitrogen、Ca)と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079(Invitrogen、Ca))と0.0025g/mL重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187(Sigma、MO))と100nMのLDN−193189(BMP受容体阻害剤、カタログ番号04−0019(Stemgent、CA))と0.25μMのSANT−1(#S4572(Sigma、MO))と2μMのALK5阻害剤(SD−208、Molecular Pharmacology 2007 72:152〜161に開示)と100nMのCYP26A阻害剤N−{4−[2−エチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブチル]フェニル}−1,3−ベンゾチアゾール−2−アミンを添加したMCDB131/高グルコース(25mMグルコース)で3日処理し、次に
f.ステージVI(未成熟な膵ホルモン発現細胞):細胞を、1:200希釈したITS−X(Invitrogen、CA)と0.1% BSA(Invitrogen、Ca)と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079(Invitrogen、Ca))と0.0025g/mL重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187(Sigma、MO))と100nMのLDN−193189(BMP受容体阻害剤、カタログ番号04−0019(Stemgent、CA))と2μMのALK5阻害剤(SD−208、Molecular Pharmacology 2007 72:152〜161に開示)を添加したMCDB131/高グルコース(25mMグルコース)で3日処理し、次に
g.ステージVII(膵ホルモン発現細胞):細胞を、1:200希釈したITS−X(Invitrogen、CA)と0.1% BSA(Invitrogen、Ca)と使用濃度のGlutaMax(商標)(カタログ番号35050−079(Invitrogen、Ca))と0.0025g/mL重炭酸ナトリウム(カタログ番号S3187(Sigma、MO))と100nMのLDN−193189(BMP受容体阻害剤、カタログ番号04−0019(Stemgent、CA))と2μMのALK5阻害剤(SD−208、Molecular Pharmacology 2007 72:152〜161に開示)と100nMビタミンA(カタログ番号R7632(Sigma、MO))を添加したMCDB131/高グルコース(25mMのグルコース)で3日処理し。
【0098】
一部の培養物では、ステージVIIを18日に延長した。リアルタイムPCR解析、免疫蛍光染色(IF)、及びFACS解析のため、ステージV及びVIで試料を回収した。FACS及び免疫蛍光染色(IF)の両方に際し、NKX6.1抗体をアイオワ大学のハイブリドーマバンク(カタログ番号F55A12)から得、CDX2抗体をAbcam(カタログ番号ab76541(Cambridge、MA))から得、PDX−1抗体をAbcam(カタログ番号ab47267)から購入した。図3は、各種分化ステージでの培養物の形態を強調して示す。ステージII以降、培養物はステージIII〜VIを通して均質の形態を示した。図4は、各種分化ステージに関し、FACSにより測定されたものとしてNKX6.1の発現を示す。この図は、実施例3に開示のプロトコルにより、分化の後期のステージを通してNKX6.1の発現が高く維持され得ることを強調している。図5は、プロトコルのステージV及びステージVIIに関しPDX1、NKX6.1、及びCDX2発現のIF染色を示す。NKX6.1陽性細胞の90%超がPDX1も陽性であったのに対し、CDX2に陽性の染色細胞は10%未満であった。
【0099】
本明細書の全体を通じて引用した刊行物は、その全体を参照により本明細書に組み込むものとする。以上、本発明の様々な態様を実施例及び好ましい実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲は、上記の説明文によってではなく、特許法の原則の下で適宜解釈される以下の「特許請求の範囲」によって定義されるものである点は認識されるであろう。
図1-1】
図1-2】
図1-3】
図1-4】
図2-1】
図2-2】
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2017年5月22日
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多能性幹細胞から膵臓ホルモン発現細胞を誘導する方法であって、
a.多能性幹細胞を、胚体内胚葉系(definitive endoderm lineage)に特徴的なマーカーを発現する細胞集団へと分化させる工程と、
b.前記胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、原始腸管細胞集団へと分化させる工程と、
c.前記原始腸管細胞集団を、後部前腸の細胞集団へと分化させる工程と、
d.前記後部前腸の細胞集団をCYP26A阻害剤を補充した培地で培養することにより、前記後部前腸の細胞集団を膵内分泌前駆細胞集団へ分化させる工程と、
e.前記膵内分泌前駆細胞集団をBMP受容体阻害剤およびALK5阻害剤を補充した培地で培養することにより、前記膵内分泌前駆細胞集団を未成熟な膵臓ホルモン発現細胞へ分化させる工程と、
f.前記未成熟な膵臓ホルモン発現細胞をBMP受容体阻害剤、ALK5阻害剤およびビタミンAを補充した培地で培養することにより、前記未成熟な膵臓ホルモン発現細胞を膵臓ホルモン発現細胞へ分化させる工程と、
を含む、方法。
【請求項2】
工程eおよびfにおける前記BMP受容体阻害剤がLDN−193189である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記LDN−193189が100nMの濃度で使用される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程eおよびfにおける前記ALK5阻害剤がSD−208である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記SD−208が2μMの濃度で使用される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程eが膵内分泌前駆細胞集団を3日間培養することを含む、、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記工程fが未成熟な膵臓ホルモン発現細胞を3日間培養することを含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記工程eおよびfにおける培地が、さらにBSA、炭酸水素ナトリウム及びITS−Xで補充されている、、請求項1〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記工程eおよびfにおける培地が0.1%BSA、0.0025g/ml炭酸水素ナトリウム及びITS−Xで補充されている、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記工程eおよびfにおける培地が、MCDB−131/高グルコースである、、請求項1〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記工程eは、前記膵内分泌前駆細胞集団をBSA、炭酸水素ナトリウム、LDN−193189及びSD−208で補充したMCDB−131/高グルコース培地で培養することにより、前記膵内分泌前駆細胞集団を未成熟な膵臓ホルモン発現細胞へ分化させることを含み、
前記工程fは、前記未成熟な膵臓ホルモン発現細胞をBSA、炭酸水素ナトリウム、LDN−193189、SD−208およびビタミンAで補充したMCDB−131/高グルコース培地で培養することにより、前記未成熟な膵臓ホルモン発現細胞を膵臓ホルモン発現細胞へ分化させることを含む、
請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記多能性幹細胞がヒト多能性幹細胞である、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
後部前腸の細胞から膵臓ホルモン発現細胞を誘導する方法であって、
a.後部前腸の細胞集団をCYP26A阻害剤を補充した培地で培養することにより、前記後部前腸の細胞集団を膵内分泌前駆細胞集団へ分化させる工程と、
b.前記膵内分泌前駆細胞集団をBMP受容体阻害剤およびALK5阻害剤を補充した培地で培養することにより、前記膵内分泌前駆細胞集団を未成熟な膵臓ホルモン発現細胞へ分化させる工程と、
c.前記未成熟な膵臓ホルモン発現細胞をBMP受容体阻害剤、ALK5阻害剤およびビタミンAを補充した培地で培養することにより、前記未成熟な膵臓ホルモン発現細胞を膵臓ホルモン発現細胞へ分化させる工程と、
を含む、方法。
【請求項14】
工程bおよびcにおける前記BMP受容体阻害剤がLDN−193189である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記LDN−193189が100nMの濃度で使用される、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記工程bおよびcにおける前記ALK5阻害剤がSD−208である、請求項13〜15のいずれか一項に記載の方法。
【請求項17】
前記SD−208が2μMの濃度で使用される、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記工程bが膵内分泌前駆細胞集団を3日間培養することを含む、請求項13〜17のいずれか一項に記載の方法。
【請求項19】
前記工程cが未成熟な膵臓ホルモン発現細胞を3日間培養することを含む、請求項13〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項20】
前記工程bおよびcにおける培地が、さらにBSA、炭酸水素ナトリウム及びITS−Xで補充されている、請求項13〜19のいずれか一項に記載の方法。
【請求項21】
前記工程bおよびcにおける培地が0.1%BSA、0.0025g/ml炭酸水素ナトリウム及びITS−Xで補充されている、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
前記工程bおよびcにおける培地が、MCDB−131/高グルコースである、請求項13〜21のいずれか一項に記載の方法。
【請求項23】
前記後部前腸の細胞はヒト多能性幹細胞から誘導されたものである、請求項13〜22のいずれか一項に記載の方法。
【請求項24】
前記工程bは、前記膵内分泌前駆細胞集団をBSA、炭酸水素ナトリウム、LDN−193189及びSD−208で補充したMCDB−131/高グルコース培地で培養することにより、前記膵内分泌前駆細胞集団を未成熟な膵臓ホルモン発現細胞へ分化させることを含み、
前記工程cは、前記未成熟な膵臓ホルモン発現細胞をBSA、炭酸水素ナトリウム、LDN−193189、SD−208およびビタミンAで補充したMCDB−131/高グルコース培地で培養することにより、前記未成熟な膵臓ホルモン発現細胞を膵臓ホルモン発現細胞へ分化させることを含む、
請求項13に記載の方法。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0099
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0099】
本明細書の全体を通じて引用した刊行物は、その全体を参照により本明細書に組み込むものとする。以上、本発明の様々な態様を実施例及び好ましい実施形態を参照して説明したが、本発明の範囲は、上記の説明文によってではなく、特許法の原則の下で適宜解釈される以下の「特許請求の範囲」によって定義されるものである点は認識されるであろう。 本発明は以下を提供する。

[1]
多能性幹細胞から膵内分泌前駆細胞集団を誘導する方法であって、
a.多能性幹細胞集団を培養する工程と、
b.前記多能性幹細胞を、胚体内胚葉系(definitive endoderm lineage)に特徴的な
マーカーを発現する細胞集団へと分化させる工程と、
c.前記胚体内胚葉系に特徴的なマーカーを発現する細胞を、原始腸管細胞集団へと分
化させる工程と、
d.前記原始腸管細胞集団を、後部前腸の細胞集団へと分化させる工程と、
e.前記後部前腸の細胞集団を、レチノイン酸を分解する剤を添加した培地で処理する
工程と、を含む、方法。
[2]
前記レチノイン酸を分解する剤がCYP26A阻害剤である、請求項1に記載の方法。
[3]
前記CYP26A阻害剤が約1nM〜約1000nMの濃度で使用される、請求項2に記載の方法。
[4]
前記CYP26A阻害剤が約10nM〜約100nMの濃度で使用される、請求項2に記載の方法。
[5]
前記CYP26A阻害剤がN−{4−[2−エチル−1−(1H−1,2,4−トリアゾール−1−イル)ブチル]フェニル}−1,3−ベンゾチアゾール−2−アミンである、請求項2に記載の方法。
【外国語明細書】
2017163988000001.pdf