【解決手段】浄水場などの水処理で使用した劣化炭9を保存溶液15に接触させ、浸漬又は湿潤状態で、硝化活性が維持可能な保存温度で保存する。保存後の劣化炭改良品9aには、硝化細菌が付着しているため、短時間で硝化反応が開始する。従って、劣化炭改良品9aは、浄水場や魚介類の飼育など、アンモニア性窒素の除去が必要な場において、硝化細菌の種菌又はアンモニア性窒素除去剤として広く使用することができる。
水処理で使用した後の劣化炭を、無機塩を含有する保存溶液に接触させ、該劣化炭に付着されている硝化細菌の硝化活性が維持される保存温度で保存することを特徴とする劣化炭改良品の製造方法。
水処理で使用した後の劣化炭を、無機塩を含有する保存溶液に接触させ、該劣化炭に付着されている硝化細菌の硝化活性が維持されるような浸透圧ストレスを、当該硝化細菌に与えることを特徴とする劣化炭改良品の製造方法。
請求項1〜5のいずれか1項の製造方法で製造した劣化炭改良品を、高度浄水処理工程で使用する活性炭の少なくとも一部として使用することを特徴とする劣化炭改良品の使用方法。
請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法で製造した劣化炭改良品を、アンモニア性窒素除去剤として魚介類の飼育に用いることを特徴とする劣化炭改良品の使用方法。
【背景技術】
【0002】
近年、製造事業所、水族館、養殖場などの用水処理、上水道用の水処理には活性炭が広く使用されており、特に、微生物が付着した活性炭(生物活性炭)はアンモニアや有機物の分解に利用されている。
【0003】
生物活性炭による処理、オゾン処理などのいずれか1以上を、凝集沈殿やろ過等を使用する通常の浄水処理に組み合わせた浄水処理は高度浄水処理と呼ばれ、都市圏の浄水場などで近年利用されている。
【0004】
図4(a)は生物活性炭を組み込んだ高度浄水処理の一例であり、
図4(a)に示すように、トリハロメタン前駆物質やカビ臭原因物質を酸化分解する目的でオゾン処理(オゾン分解)を組み込んでもいいが、オゾン処理は必ずしも必須ではない。
【0005】
オゾン処理を導入する場合導入しない場合、いずれ場合でも、活性炭処理前段での塩素処理を避けることで、活性炭に意図的に微生物を付着させることが可能であり、このように微生物を付着させた活性炭が生物活性炭となる。
【0006】
図4(b)、
図4(c)は生物活性炭による処理を具体的に示すフローである。
図4(b)では、活性炭で形成された充填層が生物膜として水処理に使用され、
図4(c)では流動状態の活性炭で原水の水処理を行い、水処理後の原水(以下、処理水とも称する)と活性炭とを膜で分離する。
【0007】
原水には硝化細菌などの微生物が存在しており、原水を活性炭90に接触させて微生物を付着させる(
図5(a))。例えば、生物膜ろ過槽に活性炭90を充填させ、この充填層に原水を通水して活性炭90に接触させ、微生物を付着させる(
図5(b))。又は、生物処理槽に活性炭90を投入し、この活性炭90を流動状態で原水と接触させて微生物を付着させ、処理水は膜モジュールで活性炭から分離して、生物処理槽の外部に排出する(
図5(c))。
【0008】
いずれの場合も、数カ月の時間をかけて硝化細菌などの微生物が活性炭に自然に付着して生物活性炭となり、硝化細菌により原水中のアンモニア性窒素が生物的に除去される。しかも、生物活性炭は、アンモニア性窒素の除去以外にも、溶解性マンガンの不溶化など他の効果も生じる。
【0009】
上記では微生物を自然付着させる場合について説明したが、従来におけるこの種の技術では、自然付着に頼らずとも意図する微生物を活性炭に付着させる方法、或いは、硝化細菌の培養に適した培地組成、培養方法についても知られている。
【0010】
例えば、特許文献1には、粘着物質を生成する能力を有する微生物およびその粘着物質と、必要によりその他の微生物とを活性炭に付着させ、菌体を固定化した活性炭が開示されている。
【0011】
一方で、硝化細菌のアンモニア性窒素除去能は高度浄水処理以外にも利用されており、その一つに魚介類飼育分野がある。水槽などの閉鎖的な飼育環境において、魚介類の排出物や餌に由来するアンモニア性窒素は強い毒性を示すため、迅速な除去が望まれる。
【0012】
特許文献2には、硝化細菌養生装置によりアンモニア性窒素を除去する手法が開示されている。また非特許文献1には、ガラス廃材に硝化細菌を自然付着させてアンモニア性窒素を除去する水産養殖用ろ過材が示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、上記従来における活性炭の使用や利用では、以下の課題があった。
【0016】
I)劣化炭の硝化活性維持
上記水処理工程において、使用開始から数年以上が経過しカビ臭原因物質やトリハロメタンなどの吸着性能が低下した活性炭は劣化炭と呼ばれる。一部は園芸用土などに利用されるものの、その多くは産業廃棄物として排出される。特に、浄水場の高度浄水処理工程などでは年間数千トンが排出され、十分な有効利用が成されていない。
【0017】
しかし、劣化炭は吸着性能が低下しているものの、アンモニア性窒素の分解を担っている硝化細菌は多数付着した状態であると推測される。
【0018】
一般的に、硝化細菌は温度や乾燥などの環境変化に対する耐性が著しく弱いことが知られており、劣化炭の有する硝化活性を利用しようと試みても、大気中に晒すだけで硝化細菌が急速に死滅し、硝化活性が速やかに消失してしまう課題があった。
【0019】
このように、従来技術では、劣化炭の硝化活性を維持する技術は存在せず、そもそも、硝化活性を維持したまま劣化炭を保存(貯蔵)し、劣化炭改良品を製造するという発想は存在していない。
【0020】
II)生物活性炭槽の立ち上げ短縮
一般的に、浄水場に流れ込む原水(河川水など)は絶えずアンモニア性窒素などの窒素源、リン源の濃度変動が起こっており、硝化細菌の生育にとって必ずしも望ましい環境やpHとはいえない。
【0021】
また、生物活性炭槽では季節ごとの温度変化も生じるため、硝化細菌が安定的に活性炭付着できる環境にはない。しかも、浄水場の原水(河川水)に含まれる硝化細菌は微量であり、その分裂速度は他の微生物種と比較して著しく遅い(例:分裂周期24時間以上)。そのため、浄水場では、活性炭投入後、活性炭吸着池に硝化細菌が自然付着するまで数カ月もの期間を要するのが常で、その結果、活性炭吸着池で十分なアンモニア性窒素除去性能を得るのに長期間を必要とする課題があった。
【0022】
さらに、アンモニア性窒素除去の立ち上がりが遅いことに起因し、時として硝化細菌以外に大腸菌群やシュードモナス属などの有害微生物が付着する恐れも懸念される。
【0023】
前述した特許文献1の菌体を固定化した活性炭では、粘着物質を生成する微生物はシュードモナス属など一部の属に限られており、硝化細菌など多くの属は該当しない。
【0024】
従って、粘着物質を生成する微生物を利用して硝化細菌を付着させようとする場合、活性炭の周囲が粘着物質および粘着物質生成菌によって覆われてしまうため、硝化活性のみを得ようとする場合には菌の付着が効率的でない問題がある。
【0025】
III)魚類飼育環境でのアンモニア除去
魚介類を飼育する環境では、餌や排出物に由来するアンモニア性窒素が水槽内に蓄積すると、魚介類にアンモニア中毒が起こることが知られている。
【0026】
一般的に、硝酸イオンであれば1,000mg/L程度まで魚介類に影響がないが、アンモニアや亜硝酸イオンは1mg/L程度であっても魚介類に影響を及ぼすとされている。
【0027】
硝化細菌が水槽内に定着した環境であれば、硝化細菌の硝化作用で、アンモニアが順次酸化され(アンモニア→亜硝酸イオン→硝酸イオン)、毒性が低下するが、硝化細菌が水槽内に自然付着するまで数カ月もの長期間を要するため、飼育初期段階ではアンモニア性窒素濃度の早期低減が課題の一つとなっている。
【0028】
例えば、特許文献2は、魚介類飼育用の硝化細菌含有水について開示しているものの、硝化細菌を増殖させる養生(培養)工程を必要とし、養生のための培養装置ならびに基質(培地成分)がコスト高となる。さらに養生日数が必要とされるため、導入後、迅速に使用できる装置とは言えない。
【0029】
非特許文献1では、ガラス廃材を硝化細菌付着用の担体として利用しているが、ガラス廃材自体に硝化細菌が付着していないために硝化の立ち上がりが遅く、アンモニア性窒素が除去され始める迄に10日以上の日数を要している。
【0030】
本発明は、上記課題を鑑み成されたものであり、その目的は、産業廃棄物として大量に排出される劣化炭を有効利用して劣化炭改良品を製造し、更には、高度浄水処理や魚介類飼育などの多様な用途で、劣化炭改良品を利用することにある。
【課題を解決するための手段】
【0031】
上記課題を解決するために、本発明者等が鋭意検討を行った結果、劣化炭を保存溶液に接触させるという従来技術には存在しない発想で、劣化炭の硝化活性が維持され、劣化炭改良品として再利用可能なことを見出された。
【0032】
係る知見に基づく本発明は、以下の構成とすることができる。
(1)水処理で使用した劣化炭(使用済活性炭)を、無機塩を含有する保存溶液に接触させ、劣化炭に付着した硝化細菌が死活せず、硝化活性が維持可能な保存温度で保存し、保存後の劣化炭を劣化炭改良品とする。
(2)保存溶液としては、その無機塩濃度が0.017mol/L〜1.8mol/Lのものを用い、劣化炭に接触させる。
(3)また、本発明は上記(1)に限定されず、水処理で使用した劣化炭を、無機塩を含有する保存溶液に接触させて、劣化炭に付着した硝化細菌に、その硝化活性が維持可能な浸透圧ストレスを与えて保存し、保存後の劣化炭を劣化炭改良品とする方法も含む。
(4)上記浸透圧ストレスを与える方法において、保存溶液の無機塩濃度は0.017mol/L〜1.8mol/Lが好ましい。
(5)無機塩の種類は特に限定されないが、例えば、塩化ナトリウムと、塩化カリウムのいずれか一方又は両方を使用する。
【0033】
本発明により製造した劣化炭改良品の使用方法には、下記方法がある。
(6)上記いずれかの製造方法で製造した劣化炭改良品は、高度浄水処理工程で使用する活性炭の一部又は全部として使用することができる。
(7)また、上記いずれかの製造方法で製造した劣化炭改良品を魚介類飼育時のアンモニア性窒素除去剤として使用することもできる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、硝化活性を維持したままの劣化炭の長期間保存が可能である。保存後の劣化炭改良品はアンモニアの分解除去に利用可能である。劣化炭改良品は、産業廃棄物の1種である劣化炭の再利用品である上、培養工程なども不要なため、製造コストが安く、環境負荷への低減が大きく期待される。しかも、劣化炭の長期保存が可能なため、劣化炭改良品の製品としての流通が可能になる。
【0035】
劣化炭改良品の硝化活性は高いため、種菌として利用すれば、高度浄水処理工程などでの生物活性炭槽の立ち上げ期間を大幅に短縮することが可能になる。また、劣化炭改良品は、家庭用、養殖産業、水族館などでの魚介類飼育用のアンモニア性窒素除去剤としても利用可能である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は特定の具体例に限定されるものではない。
【0038】
図1(a)〜(c)は本発明を説明するフロー図であり、活性炭は水処理工程で使用された後に劣化炭(使用済活性炭)として排出され(
図1(a))、本発明は、その劣化炭を保存溶液で保存して劣化炭改良品とし(
図1(b))、更に、その劣化炭改良品を使用する(
図1(c))。
【0039】
先ず、活性炭と、活性炭を使用した水処理工程について説明する。
【0040】
[活性炭]
活性炭は、硝化細菌を保持する担体として機能するばかりでなく、その吸着能を利用し、カビ臭原因物質やトリハロメタンなどを除去する。
【0041】
活性炭は粒状でも、破砕状でもハニカム状活性炭などの成形品、紛体状であってもよいが、粒状活性炭が最も好ましい。なお、「粒状」とは、粒度表示が150μm以上のものを意味し(JIS K1474参照)、「紛体状」とは粒度表示が150μm未満のものを意味する。
【0042】
活性炭の粒形状は特に限定されず、球状(水ing社製、エバダイヤLG−40Sなど)、破砕片状(水ing社製、エバダイヤLG−20Sなど)、円柱状など多様な形状とすることができるが、通水抵抗が小さいという点で球状又は円柱状が好ましく、均一充填が可能という点で特に球状が好ましい。なお、球状とは真球のみならず、楕円体(扁球体)、葉巻型を含む概念であり、表面に凹凸が形成されたものも含む。
【0043】
粒状活性炭の大きさは特に限定されないが、好ましくは、有効径(10%通過径)が0.3mm〜1.3mm、均等係数が1.2〜2.0である。
【0044】
活性炭の原料は特に限定されず、
‐ヤシ殻、木炭、オガ屑、松、竹、硬質木材チップ、草炭、セルロース等の植物系
‐亜炭、褐炭、瀝青炭、無煙炭などの石炭系、または、
‐オイルカーボン、フェノール樹脂、レーヨン、石炭ピッチ、石油ピッチ等の石油系、
などがあり、これら多様な原料を1種類または2種類以上組み合わせて使用することができる。
【0045】
活性炭は、加工していない原料(未加工原料)、または、未加工原料の破砕品をそのまま使用してもよいし、原料を成形加工した成形品であってもよい。成形加工方法は特に限定されないが、通常、活性炭原料を粉砕し、必要であれば結着剤(有機バインダー、無機結着剤)、水、その他添加剤等と混練し、造粒又はプレス成型後に焼成(炭化、賦活)して成形する。
【0046】
なお、活性炭は、市販品や製造直後の未使用品(新品)でもよいが、後述する水処理工程で使用した後の劣化炭を賦活処理し、再生した再生炭でもよい。これら活性炭は、下記水処理工程で使用される。
【0047】
[水処理工程]
水処理工程は、原水(被処理水)を浄化する工程であって、原水も特に限定されず、河川水、湖沼水、地下水、雨水、排水、養殖場用水、水族館用水など多様なものを処理対象とすることができる。
【0048】
水処理工程の用途は特に限定されず、上水道用の浄水処理、工場用、水族館用、養殖場用などの用水処理、家庭排水、工場排水などの排水処理などである。本発明では、水処理は上記具体例に限定されず、生物活性炭を使用する処理を広く「水処理」と称する。
【0049】
これらの中でも、定期的に大量の排出量が期待できる点で、浄水処理場からの劣化炭を使用することが好ましい。
【0050】
水処理工程の具体例は特に限定されず、凝集沈殿、砂ろ過、塩素消毒のいずれか1以上の処理を有する通常の水処理に、少なくとも活性炭処理を組み合わせた高度浄水処理工程が好ましく、活性炭処理に加えてオゾン処理等の他の処理工程を組み合わせることもできる(
図4(a))。
【0051】
活性炭処理は、通常、生物活性炭槽内などの活性炭90に原水を接触させる工程であって(
図5(a))、具体的方法は特に限定されず、活性炭90の充填層に原水を通水してもよいし(
図5(b))、活性炭90を流動状態で原水と接触させてもよい(
図5c))。
【0052】
この活性炭処理に塩素消毒を組み合わせる場合は、活性炭処理の後段で行うことが好ましい。活性炭処理前段での塩素消毒を避け、好ましくは好気的条件で活性炭処理することで、原水中の除去対象物質(臭気物質、トリハロメタン及びその前駆体、その他汚濁物質等)が活性炭で吸着除去されるだけではなく、原水中の硝化細菌などの微生物を活性炭に意図的に付着させることができる。
【0053】
[硝化細菌]
本発明で硝化細菌とは、アンモニア性窒素の分解、除去に有用な細菌類であって、特に、アンモニア性窒素の酸化並びに亜硝酸の酸化に寄与する細菌類、即ち、亜硝酸菌(アンモニア酸化細菌)と硝酸菌(亜硝酸酸化細菌)の少なくとも一方、好ましくは両方を使用可能であり、本願明細書ではこのような細菌類を硝化細菌と称する。例えば、アンモニアを亜硝酸イオンに酸化する亜硝酸菌としては、Nitrosomonas europaea、Nitrosomonas communis、Nitrosomonas nitrosa等があり、硝酸菌としてはNitrobacter winogradskyi等が公知であるが、これらに限定されない。更に、上記硝化細菌の他にも、アナモックス細菌などの独立栄養細菌、バチルス属・シュードモナス属などの従属栄養細菌、カンジダ属(トルラ酵母)などの酵母、メタン菌などの古細菌、および糸状菌や放線菌などの微生物類(酵母、真菌、細菌類)が活性炭に付着してもよい。
【0054】
上記のような硝化細菌は原水中に存在するため、水処理工程中に硝化細菌を活性炭90に自然に付着させてもよいし、或いは、培養した硝化細菌を原水又は活性炭に故意に付着させてもよい。更には、市販の納豆菌や水槽浄化用の硝酸菌・亜硝酸菌、NBRC(NITE Biological Resource Center、日本の政府外郭団体)やATCC(American Type Culture Collection、アメリカの政府外郭団体)(生物資源バンク)などの微生物保存機関から分譲される菌株を付着させることも可能である。
【0055】
いずれの場合も、硝化細菌が付着した活性炭90に原水が接触すると、原水中のアンモニアは酸化(硝化)され、脱窒工程等を経て最終的に処理水から除去される。
【0056】
[劣化炭の排出]
一般に、硝化細菌の増殖速度は遅いため、水処理での活性炭使用開始から少なくとも1週間、通常は1ヶ月以上経過後にアンモニア性窒素の除去が確認される。一般に、活性炭を長く使用するほど硝化細菌の付着量も多くなるが、長時間(一ヶ月〜10年、通常は数カ月〜5年)使用した活性炭は、カビ臭原因物質やトリハロメタンなどの吸着性能が低下する。
【0057】
吸着性能低下の判断基準は特に限定されないが、例えば、予め設定した期間が終了した時、予め設定した水量の処理が終了した時、処理水の水質検査結果(トリハロメタン量、吸光度、2−メチルイソボルネオール量等)が設定値に到達した時、活性炭の品質検査結果(ヨウ素吸着量、その他物性試験)が設定値に到達した時などであり、これらの1以上の設定条件に達した時に活性炭が劣化したと判断し、劣化炭の一部又は全部を水処理工程(浄水場、水処理装置等)から取出し、新炭と交換する。
【0058】
劣化炭は、必要に応じて、スクリーン又は篩で夾雑物を除去する工程、原水から水切りする工程、蒸留水や脱塩素水などの洗浄液で洗浄する工程など、1以上の前処理工程を行った後に、下記保存工程に用いる。
【0059】
[保存工程]
図2(a)、(b)は保存工程を具体的に説明する模式的断面図である。
【0060】
劣化炭9は容器11などに収容し、保存溶液15に浸漬し、又は、保存溶液を散布(噴霧)して劣化炭9を保存溶液15に接触させる。
【0061】
保存溶液15と接触した劣化炭9は、接触に用いた容器11又は別の保存容器21で保存する。これらの容器11、21は、劣化炭9を湿潤状態で保存可能であれば材質や構造は特に限定されず、槽、瓶、コンテナ、袋体、チューブなどの多様なものを使用可能であり、劣化炭9を収容した空間を蓋等の封止部材22で密閉してもよい。これら容器11、21には遮光性の高いものを使用するか、容器11、21ごと暗所で保管することが好ましい。
【0062】
また、保存工程では、劣化炭9を静置してもよいし、劣化炭9は保存溶液15と共に振とう又は撹拌してよい。好ましくは、好気条件で保存する。
【0063】
浄水場などから排出される大量の劣化炭9を保存する場合、劣化炭9を保存溶液15から分離(水切り)して保存することもできる。活性炭には細孔が形成されているため、保存溶液15は劣化炭9の表面のみならず内部に浸入し、湿潤状態が維持される。
【0064】
しかしながら、保存溶液15の乾燥を防ぐためには、水切りした劣化炭9は密栓コンテナ等の保存容器21に収容し、外気から遮断して保存することが好ましい。更に、保存工程中に連続的又は段階的に保存溶液15を1回以上劣化炭9に噴霧又は散布して劣化炭9の乾燥を防止してもよい。
【0065】
いずれの条件で保存する場合も、硝化細菌の硝化活性が維持される温度、即ち、劣化炭に付着された硝化細菌が生存可能であって、保存後の劣化炭が硝化能力(アンモニア性窒素除去)を維持する温度を保存温度とすることが好ましい。具体的には、保存温度の好適範囲は40℃未満であり、好ましくは0〜35℃、より好ましくは0〜30℃、特に好ましくは0〜10℃(冷蔵)とする。なお、保存温度とは、劣化炭9の温度のみならず、その周囲(保存溶液15、容器11、21又は大気)の温度を意味し、劣化炭9の周囲の温度が適温であれば、劣化炭9も適温にされたと推定する。
【0066】
上記保存温度は保存工程の間に変動させてもよく、更には、上記好適範囲外の温度にまで変動させることも可能であるが、好ましくは保存工程の開始から終了まで、保存溶液15及び劣化炭9の温度を上述した好適範囲内(例:0〜35℃)に維持する。
【0067】
次に、保存溶液15について具体的に説明する。
【0068】
[保存溶液]
本発明に用いる保存溶液15は特に限定されないが、例えば、脱塩素道水、蒸留水などの水を主成分とし、好ましくは無機塩を更に含有する。
【0069】
無機塩は特に限定されず、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、亜硝酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、亜硝酸カリウム、酢酸カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸二水素カリウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウム、酢酸アンモニウム、硫酸マグネシウム、塩化カルシウムからなる群より選択されるいずれか1種以上の無機塩を使用することができる。これらの中でも、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硫酸マグネシウムが好ましく、より好ましくは塩化ナトリウム又は塩化カリウム、特に好ましくは塩化ナトリウムである。
【0070】
本発明では、保存温度が上記好適範囲の範囲内又は範囲外にある場合に、上記のような無機塩を保存溶液15に含有させ、劣化炭に付着した微生物(硝化細菌)に適度な浸透圧ストレスを付与する場合も含む。浸透圧は、例えば、無機塩濃度により調整可能である。
【0071】
保存溶液の無機塩濃度は特に限定されないが、例えば、0.017〜3.5mol/L(塩化ナトリウム換算で約1〜200g/L)、好ましくは0.017〜1.8mol/L(塩化ナトリウム換算で約1〜100g/L)、より好ましくは、0.085〜1.75mol/L(塩化ナトリウム換算で約5〜100g/L)である。
【0072】
なお、27℃における0.085〜1.75mol/L(塩化ナトリウム換算で5〜100g/L)を浸透圧に換算すると、4.2×10
5〜8.6×10
6Paとなり(pV=nRT、R=8.31×10
3、T=273+27℃=300Kと規定)。この数値範囲が、劣化炭の保存に好適な浸透圧範囲の一例である。
【0073】
なお、浸透圧の調整により劣化炭を保存する場合も、劣化炭に付着した硝化細菌が生存可能であって、保存後の劣化炭が硝化能力(アンモニア性窒素除去)を維持する圧力を「硝化活性が維持されるような浸透圧ストレス」とする。このように、保存溶液15と接触した微生物(硝化細菌)に適度な浸透圧ストレスを与え、長期の活性維持を可能にする。
【0074】
保存溶液15の浸透圧又は無機塩濃度が上記好適な範囲内であれば、劣化炭9の保存温度は特に限定されない。保存溶液15の凝固点は無機塩濃度に左右されるので、例えば、無機塩濃度に応じた保存溶液15の凝固点温度を保存温度の下限とすることもできる。
【0075】
なお、多くの硝化細菌は好気性細菌であるため、無機塩の他にも、保存溶液15にある程度の酸素を含有させることが好ましい。保存溶液15の溶存酸素量が少ない場合は、劣化炭9を保存溶液15に接触させる前(保存工程の開始前)と、劣化炭9を保存溶液15に接触させている間(保存工程中)の一方又は両方で、保存溶液15に酸素を供給する。
【0076】
酸素の供給は特に限定されないが、空気、圧縮空気、酸素ガス又はそれらの混合ガスを含む酸素含有ガスを用いることが好ましい。酸素含有ガスの供給方法も特に限定されないが、酸素含有ガスを保存溶液15中に噴出する方法(散気)、酸素含有ガス雰囲気下で保存溶液15を循環又は撹拌する方法、或いは高圧の酸素含有ガスに保存溶液15を曝す方法など、多様な曝気方法を広く使用することができる。
【0077】
保存溶液15の溶存酸素量(濃度)は特に限定されないが、溶存酸素量は、例えば、保存温度での飽和溶存酸素量の1/4、好ましくは1/2を下限とし、より具体的には2.0mg/L以上、好ましくは4.0mg/L以上とする。その上限は特に限定されず、例えば、飽和溶存酸素濃度である。飽和溶存酸素量は温度により変化するため、例えば25℃での好ましい溶存酸素量は8.1mg/L以下(25℃での飽和値)になる。溶存酸素量は、隔膜電極法により測定することができる(JIS K0102 01)。
【0078】
保存工程の間、溶存酸素量の好適範囲を保存工程の全行程で維持してもよいし、一部のみを好適範囲としてもよい。
【0079】
保存溶液15の溶存酸素量は、保存工程中に変動することもあるが、溶存酸素量の実測値又は予想値が、上記下限値(例:2.0mg/L)を下回る場合は、保存工程中の保存溶液15に対し、酸素含有ガスを連続して又は断続的に1回以上追加供給することもできる。更には、水と反応して酸素を発生する酸素発生剤(過酸化カルシウム等を含む)を添加し、反応の進行と共に徐々に酸素を追加供給することも可能である。
【0080】
保存溶液15には、無機塩以外にも、窒素源、炭素源(炭酸塩、グルコース等)、微量元素(Co、Cu、Zn、Ni等)、緩衝剤などの添加剤を1種以上添加することも可能である。ただし、有機物由来の炭素源が多すぎると、大腸菌、一般細菌類等が増殖するおそれがある。例えば、劣化炭と接触前の保存溶液15は、好ましくは全有機炭素量(TOC、燃焼触媒酸化方式)が10mg/L以下、より好ましくは3mg/L以下である。また、劣化炭と接触前の保存溶液15は、生物化学的酸素要求量(C−BOD)が10mg/L以下が好ましく、より好ましくは2mg/L以下、特に1mg/L以下が好ましい。なお、C−BODは、N−アリルチオ尿素(ATU)の添加で硝化作用を抑制した時のBOD(ATU−BOD)であり、有機物質分解にともなう酸素消費量を意味する。
【0081】
保存溶液15には、更に、無機栄養源(P、S、K、Ca、Mg、Fe、Na等)を添加することも可能である。無機栄養源としてはリンが好ましく、より好ましくは、リンとしての濃度が1−10mg/Lになるようリン酸を添加する。
【0082】
保存溶液に緩衝剤やpH調整剤(酸、アルカリ)などを1種以上添加し、pH調整することも可能である。例えば、緩衝剤は、硝化細菌の代謝産物による保存溶液pHの変動防止のために使用され、HEPES(2‐[4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジニル]エタンスルホン酸)、Tris(トリスヒドロキシメチルアミノメタン)等を使用することができる。保存溶液のpHは特に限定されないが、例えば、pH4〜10、好ましくは約4〜9に調整して使用する。
【0083】
また、劣化炭の硝化活性が低く、硝化細菌濃度が低いと推測される場合には、市販の硝化細菌を保存溶液に添加することもできる。
【0084】
保存溶液15に添加する添加剤は上記のものに限定されず、硝化細菌以外の生物(稚魚、貝、原生生物、藻類、酵母、真菌、放線菌、古細菌、細菌類など)の異常繁殖を防止する目的で、防カビ剤や抗菌剤などの添加も可能である。
【0085】
上記のような保存溶液15の使用により、例えば1〜720日、好ましくは1〜360日もの長期間の保存が可能になる。なお、本発明では、劣化炭9と保存溶液15を接触開始(混合)したときから後述する使用方法での使用開始までを保存期間とし、60日以上を長期間と定義し、60日以上の保存を長期保存とする。
【0086】
保存溶液15で保存した劣化炭9は硝化細菌の活性が維持されているため、劣化炭改良品として、
図3(a)、(b)のような方法で使用することができる。
【0087】
[第一の使用方法]
図3(a)は使用方法の一例を示す概略図であって、劣化炭改良品9aを水処理に用いる方法を示している。この水処理工程は特に限定されず、例えば、劣化炭9の排出で説明した上記水処理工程のいずれかであってもよく、好ましくは、劣化炭9を排出した水処理工程と同じ水処理工程に使用する。
【0088】
水処理工程での使用の一例を説明すると、劣化炭改良品9aを活性炭の一部又は全部として生物活性炭槽に収容する。保存溶液15の成分(無機塩等)が問題にならないのであれば、保存溶液15と共に劣化炭改良品9aを収容してもよいが、好ましくは劣化炭改良品9aを保存溶液15から分離(水切り)し、必要に応じて洗浄してから使用する。
【0089】
劣化炭改良品9aを含む活性炭の充填層に原水を通水する(
図5(b))、または、劣化炭改良品9aを含む活性炭を流動状態で原水に接触させる(
図5(c))などの多様な方法で、原水を劣化炭改良品9a及び活性炭90に接触させる。
【0090】
劣化炭改良品9aにはすでに硝化細菌が付着しており、硝化活性が高いので、新炭のみで活性炭処理を行ったときと比較して、非常に短時間で原水のアンモニア除去が開始される。しかも、劣化炭改良品9aは、劣化炭9を排出した工程と同様の水処理工程で使用されるので、硝化細菌の生育条件が近似しており、硝化細菌の環境適応が高い。
【0091】
水処理工程で劣化炭改良品9aを使用する場合、活性炭の全てを劣化炭改良品9aとすることもできるが、劣化炭改良品9aは保存状態によっては活性炭本来の吸着能が劣る場合もあるので、好ましくは活性炭90(新炭)と劣化炭改良品9aとを混合して使用する。劣化炭改良品9aの使用割合は特に限定されないが、劣化炭改良品9aと活性炭90との合計を100体積%としたとき、劣化炭改良品9aの量は20体積%未満が好ましく、好ましくは1体積%以上20体積%未満、より好ましくは1体積%以上10体積%未満である。
【0092】
[第二の使用方法]
図3(b)は使用方法の他の例を示す概略図であって、劣化炭改良品9aをアンモニア性窒素除去剤として魚介類の飼育に用いる方法を示している。
【0093】
魚介類は、淡水魚、海水魚、貝類、節足動物(甲殻類)、刺胞動物(クラゲ類)等特に限定されないが、いずれの場合も魚介類の飼育場(水槽など)に劣化炭改良品9aを添加する。
【0094】
劣化炭改良品9aは、保存溶液15から分離(水切り、洗浄)してから添加してもよいが、海水生物などの耐塩性生物の飼育に使用する場合、保存溶液15と共に(水切りせずに)劣化炭改良品9aを添加してもよい。
【0095】
添加量は特に限定されないが、水槽の容量、又は、水槽に収容した飼育用水(淡水、海水)の容積に対し、0.01〜10%(重量/体積)の劣化炭改良品9aを添加する。添加方法は特に限定されず、飼育用水に直接添加(散布)してもよいし、ネット(網)のような通水性の袋に収容してから飼育用水内に吊るして配置してもよい。更には、劣化炭改良品9aをカラム充填し、ポンプ等を利用して飼育用水をカラムに通水し、飼育用水をカラムと水槽の間で循環させてもよい。
【0096】
いずれの場合も、劣化炭改良品9aを魚介類飼育の初期段階から添加することが好ましい。魚介類の餌、死骸、排出物は分解され、アンモニアの発生源となるが、劣化炭改良品9aには硝化細菌が付着しているため、飼育初期段階からアンモニアを分解除去可能であり、魚介類のアンモニア中毒を防止し、安定した飼育を可能にする。
【0097】
また、飼育の初期段階を経過した後でも、劣化炭改良品9aの添加は可能であり、劣化炭改良品9aを一回のみならず、複数回断続的に添加してもよい。劣化炭改良品9aの継続使用により、餌の過剰投入や排出物の増加などによるアンモニア性窒素の一時的な濃度上昇の防止が可能になり、アンモニア中毒の長期防止が可能になる。
【0098】
アンモニア性窒素除去剤としての劣化炭改良品9aは、家庭用から産業用(養殖場)まで多様な条件で使用することができる。また、水槽等の閉鎖空間のみならず、海上養殖などの開放空間での使用も可能である。
【0099】
なお、劣化炭改良品9aの使用方法は上記のものに限定されず、アンモニア性窒素の分解又は除去が必要であれば、例えば、し尿処理場などの硝化槽、園芸用、土壌改良、水耕栽培等にも使用可能である。さらに、超音波処理などにより劣化炭改良品から硝化細菌を剥離させ、菌体懸濁液や菌体粉体品などとしたものもアンモニア性窒素の分解又は除去に使用可能である。
【0100】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明する。
【実施例1】
【0101】
蒸留水に塩化ナトリウムを添加し、塩化ナトリウム濃度が0、1、5、10、50、100、200g/Lの7種類の保存溶液を、別々のメジューム瓶でそれぞれ100mlずつ作製した。各メジューム瓶の保存溶液の溶存酸素量を6.0mg/Lにし、次いで、浄水場から採取した劣化炭10g(湿重)を各保存溶液にそれぞれ浸漬し、4℃で30日間冷蔵保存し、劣化炭改良品を製造した。
【0102】
蒸留水に塩化アンモニウム1.95mg/L(アンモニア性窒素0.5mg/L相当)、炭酸水素ナトリウム5.86mg/L、リン酸水素二ナトリウム・12水和物0.58mg/Lを添加して模擬原水(pH無調整)を作製した。
【0103】
上述した各劣化炭改良品と、対比実験用の劣化炭(保存溶液の浸漬なし)を、それぞれ2.5gずつ模擬原水50mlに投入し、120rpm、30℃で1時間振盪し、アンモニア性窒素の分解試験を行った。
【0104】
振盪後の模擬原水の上澄を25ml採取し、1‐ナフトールを用いた吸光光度法にてアンモニア性窒素濃度を測定した。その測定結果を
図6に示す。
【0105】
図6に示すように、無機塩を含む保存溶液に浸漬しなかった試験区では、アンモニア性窒素の分解能(硝化活性)は確認されなかったのに対し、無機塩を含む保存溶液に浸漬した試験区においては、硝化活性が確認された。
【0106】
無機塩濃度については、塩化ナトリウム塩濃度1〜100g/L(無機塩濃度0.017mol/L〜1.712mol/L)の範囲で高い硝化活性が確認された。一方で、塩化ナトリウムを過剰添加し、その濃度が200g/L(3.423mol/L)を超えると硝化活性が低下した。
【0107】
以上の結果から、保存溶液の無機塩濃度は3.5mol/L以下が好ましく、より好ましくは0.017mol/L〜1.8mol/Lであることが確認された。
【実施例2】
【0108】
上記実施例1と同じ条件で塩化ナトリウム濃度が10g/Lの保存溶液を作製した。この保存溶液100mlを5本のメジューム瓶にそれぞれ収容した。これらの保存溶液を脱気、曝気し、溶存酸素量を、0、2.0、4.0、6.0、8.1mg/Lにそれぞれ調整した。なお、曝気は室温21℃で行い、8.1mg/Lは21℃、塩化ナトリウム濃度10g/L時の飽和溶存酸素量であるから、8.1mg/Lの保存溶液は飽和するまで曝気を行ったことになる。
【0109】
溶存酸素量を調整した各保存溶液に、実施例1と同じ劣化炭10g(湿重)を浸漬し、蓋をして冷蔵(4℃)で30日間保存した。その後、実施例1と同様の手法でアンモニア性窒素分解能を調査した。その結果を
図7に示す。
【0110】
図7に示す通り、溶存酸素量4.0mg/L以上で高い硝化活性が確認された。このことから、保存溶液中の溶存酸素量は4.0mg/L以上が好ましいと考えられる。
【実施例3】
【0111】
上記実施例2と同じ条件で塩化ナトリウム濃度10g/L、溶存酸素量6.0mg/Lの保存溶液100mlを複数本のメジューム瓶でそれぞれ作製した。メジューム瓶を異なる温度で保存し、ゼロ日、180日、360日、540日、720日それぞれ保存した劣化炭(劣化炭改良品)について、実施例1と同様の手法でアンモニア性窒素の分解能を調査した。分解されたアンモニア性窒素を濃度として表したものを
図8(a)に、アンモニア性窒素除去率として計算したものを
図8(b)に示す。
【0112】
図8に示すように、0〜30℃の保存温度では硝化活性が長期間(1〜360日)維持されたが、保存温度が40℃〜50℃では硝化活性の消失が極端に早く、保存180日目で除去率が40%以下まで低下した。
【0113】
以上のことから、保存温度が40℃未満、好ましくは0℃〜35℃、より好ましくは0〜30℃であれば、約1年もの長期保存後でも硝化活性が維持されることが確認された。
【0114】
なお、無機塩を含む保存溶液(塩化ナトリウム水溶液)を使用せず、劣化炭を保存した場合は、0〜50℃のいずれの温度帯でも10日以内に硝化活性が完全に消失し、短期間しか保存できないことがわかった。
【実施例4】
【0115】
‐第一の使用方法
劣化炭改良品を硝化細菌の種菌として浄水場の生物活性炭槽に導入することを想定した試験を行った。
【0116】
試験に供する劣化炭改良品は、実施例3と同じ保存溶液に劣化炭を4℃、長期間(180日間)保存したものを用いた。保存後の劣化炭改良品は、純水で軽く洗浄して塩化ナトリウムを除去したのち、カラム(直径20mm)に新炭(硝化細菌が付着していない乾燥粒状活性炭)63ml、劣化炭改良品7ml(10%相当)を充填した。
【0117】
実施例1と同じ条件で模擬原水(pH無調整)を作製し、この模擬原水を、室温、空間速度SV=5h
-1の通水量で、劣化炭改良品を添加した上記カラムと、新炭のみを充填したカラム(100%新炭、対照区)に通水して通水試験を行った。
【0118】
模擬原水および各試験区の処理水について、1−ナフトール法にてアンモニア性窒素の測定を行った。その結果を
図9に示す。
【0119】
長期保存後の劣化炭改良品による試験区では、通水15日目では0.5mg/L相当のアンモニア性窒素が0.1mg/L程度まで減少していることが確認され、それ以降も0.1mg/Lを上回ることはなかった。
【0120】
他方、対照区では、硝化細菌の自然付着により通水120日目でようやく0.2mg/Lを下回った。このことから、本発明により保存された劣化炭を使用することで、対照区(従来の浄水場に相当)で必要な試運転期間を100日以上短縮できることが実証された。
【実施例5】
【0121】
‐第二の使用方法
長期保存後の劣化炭改良品を、アンモニア性窒素除去として魚類飼育に使用する試験を行った。
【0122】
魚類飼育用の水槽(水量12L)に、塩化アンモニアを添加して飼育用水(水槽水)のアンモニア性窒素濃度を意図的に100mg/Lにした。
【0123】
実施例4と同じ条件で劣化炭改良品を製造し、この劣化炭改良品200g(湿重)を水槽に添加し、水槽底部に堆積させた。この水槽に、モデル生物としてヒメダカ(Oryzias latipes)を10匹投入した後、曝気をしながら室温で5日間飼育した。飼育の間、オートフィーダーにより1日2回(12時間毎)ヒメダカに給餌した。
【0124】
また、劣化炭改良品の代わりに、硝化細菌が付着していない活性炭(乾燥粒状活性炭の新炭)を使用した試験区を対照区として設け、同様の飼育試験を行った。
【0125】
水槽水のアンモニア性窒素濃度(1−ナフトール法)及び硝酸濃度(イオンクロマトグラフィー法)を経時的に測定するとともに、ヒメダカの生存数をカウントした。対照区の試験結果を
図10(a)に、劣化炭改良品を用いた試験結果を
図10(b)にそれぞれ示す。
【0126】
図10(a)に示す通り、対照区では飼育日数の経過と共にアンモニア性窒素が上昇し、それに伴いヒメダカ生存数が減少した。他方、
図10(b)に示すように、劣化炭改良品を使用した試験区では、飼育二日目からアンモニア性窒素の減少が始まると同時に硝酸量が増加し、また、ヒメダカの生存数の減少も起こらなかった。このことから、硝化細菌の硝化作用によりアンモニア性窒素が亜硝酸を経て毒性の低い硝酸へと変化し、ヒメダカの生育に適した環境が維持できることが確認された。
【0127】
以上の結果から、アンモニア性窒素が槽内に蓄積し易い飼育初期段階において、劣化炭を有効利用することで魚介類の死滅を防ぐことが可能となった。また、実施例1で保存溶液の好ましい塩化ナトリウム濃度が1〜100g/Lであったこと、海水の塩濃度が35g/L程度であることから、淡水魚のみならず海水魚などの海水生物も飼育対象と成り得ることが確認された。