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特開2017-164756攪拌用ロータ及びそれを用いたアルミニウム合金ビレットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-164756(P2017-164756A)
(43)【公開日】2017年9月21日
(54)【発明の名称】攪拌用ロータ及びそれを用いたアルミニウム合金ビレットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22D 11/114 20060101AFI20170825BHJP
   B22D 11/00 20060101ALI20170825BHJP
   B22D 27/20 20060101ALI20170825BHJP
【FI】
   B22D11/114
   B22D11/00 E
   B22D27/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-49694(P2016-49694)
(22)【出願日】2016年3月14日
(71)【出願人】
【識別番号】000107538
【氏名又は名称】株式会社UACJ
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】常川 雅功
(72)【発明者】
【氏名】江崎 宏樹
【テーマコード(参考)】
4E004
【Fターム(参考)】
4E004MB20
4E004NC08
(57)【要約】
【課題】微細結晶粒組織からなるアルミニウム合金ビレットを容易に得るための攪拌用ロータ及びそれを用いたアルミニウム合金ビレットの製造方法を提供すること。
【解決手段】アルミニウム合金ビレット1の連続鋳造に用いられる鋳型3内において、アルミニウム合金からなる溶湯10中に浸漬し、溶湯10を攪拌するための攪拌用ロータ5は、回転軸部51と、回転軸部51に設けられたスクリュー部50と、を備えている。スクリュー部50は、回転軸部51から径方向外側に突出して螺旋状に形成された複数の本体羽根部52と、各本体羽根部52の下端523から下方に突出して形成された複数の下端羽根部53と、を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム合金ビレットの連続鋳造に用いられる鋳型内において、アルミニウム合金からなる溶湯中に浸漬し、該溶湯を攪拌するための攪拌用ロータであって、
回転軸部と、
該回転軸部に設けられたスクリュー部と、を備え、
該スクリュー部は、前記回転軸部から径方向外側に突出して螺旋状に形成された複数の本体羽根部と、該各本体羽根部の下端から下方に突出して形成された複数の下端羽根部と、を有する、攪拌用ロータ。
【請求項2】
前記各下端羽根部は、前記各本体羽根部の前記下端全体から下方に突出して形成されている、請求項1に記載の攪拌用ロータ。
【請求項3】
前記各下端羽根部は、前記各本体羽根部の前記下端から前記回転軸部の中心軸に対して平行な方向に突出して形成され、前記各下端羽根部の厚さは、前記各本体羽根部の下端の厚さと同じであり、前記各下端羽根部の高さは、10〜30mmである、請求項1又は2に記載の攪拌用ロータ。
【請求項4】
前記回転軸部の中心軸に直交する平面に対する前記各本体羽根部の下面の傾斜角θは、45°以上60°未満であり、前記各本体羽根部の高さは、前記スクリュー部の半径D/2とtanθとの積である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の攪拌用ロータ。
【請求項5】
前記スクリュー部は、黒鉛又はセラミックからなる耐火材により構成されている、請求項1〜4のいずれか1項に記載の攪拌用ロータ。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の攪拌用ロータを用いたアルミニウム合金ビレットの製造方法であって、
前記鋳型内の前記溶湯中に前記攪拌用ロータを浸漬し、前記鋳型内の中心部に配置した前記攪拌用ロータを回転させて前記溶湯を攪拌しながら、前記アルミニウム合金ビレットを鋳造する、アルミニウム合金ビレットの製造方法。
【請求項7】
前記スクリュー部の外径は、前記鋳型の内径の1/2以上、かつ、前記鋳型の上側に配置されたヘッダーの内径未満であり、前記各下端羽根部の外端部の下端位置は、上下方向における前記鋳型の上端位置と該鋳型内の凝固界面との中間位置又はそれよりも上側である、請求項6に記載のアルミニウム合金ビレットの製造方法。
【請求項8】
前記攪拌用ロータを170〜400rpmの回転数で回転させて前記溶湯を攪拌する、請求項6又は7に記載のアルミニウム合金ビレットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、攪拌用ロータ及びそれを用いたアルミニウム合金ビレットの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、アルミニウム合金の押出製品、鍛造製品等に用いられるビレットは、板製品等に用いられるスラブと同様に、縦型の半連続鋳造法によって製造されている。アルミニウム合金のビレットに発生する割れの抑制、熱間加工性の向上、最終製品の高強度化等のためには、鋳造組織の結晶粒微細化が望ましい。
【0003】
従来、アルミニウム合金鋳塊の結晶粒微細化方法としては、溶湯中にAl−Ti−B系、Al−Ti−C系等の微細化剤を添加する方法(以下、従来法という)が一般的に行われている。従来法の場合、微細化剤に含まれるTiB、AlTi、TiC等の金属間化合物粒子が結晶粒の核となり、この結晶粒の核が多いほど微細粒組織となることが知られている。
【0004】
ところが、従来法の場合、微細化剤が一定量以上添加されると、結晶粒はそれ以上微細化せずに一定となるだけではなく、金属間化合物粒子同士が凝集化して介在物となり、アルミニウム合金鋳塊及び最終製品の品質低下を招いてしまう等の問題がある。
【0005】
そこで、アルミニウム合金鋳塊の結晶粒微細化方法として、従来法(微細化剤添加)以外の方法がいくつか提案されている。例えば、特許文献1、2では溶湯に超音波を印加する方法が、特許文献3では溶湯に電磁振動を付与する方法が、特許文献4では溶湯に連続反転振動を付与する方法が提案されている。また、特許文献5では攪拌装置を用いて溶湯を攪拌することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−247314号公報
【特許文献2】特開2004−209487号公報
【特許文献3】特開2004−306116号公報
【特許文献4】特開2002−361400号公報
【特許文献5】特開2012−167868公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1、2の超音波印加、上記特許文献3の電磁振動付与によるアルミニウム合金鋳塊の結晶粒微細化方法は、直径100mm程度の比較的小さな鋳塊に対しては効果が認められるが、サイズが大きな鋳塊になるほど、表層から中心部まで均一な微細粒組織にすることが困難となる。つまり、鋳塊中心部の組織の微細化は困難となる。
【0008】
そのため、実際に生産されている工業製品に使用される鋳塊サイズでは、冷却速度が遅い中心部に粗大な結晶粒組織が形成されて割れが発生しやすくなり、適用が困難である。また、このような粗大な結晶粒組織が形成された鋳塊の場合、期待される熱間加工性、機械的性質等が十分に得られない。
【0009】
また、上記特許文献4の連続反転振動付与によるアルミニウム合金鋳塊の結晶粒微細化方法は、鋳造中において鋳型内に溶湯を連続供給できないため、連続鋳造に適さない等の問題がある。
【0010】
このように、上記特許文献1〜4の超音波印加、電磁振動付与、連続反転振動付与といった方法では、量産を目的としたアルミニウム合金鋳塊において、その鋳塊組織の結晶粒微細化をなし得ることが困難である。
【0011】
また、上記特許文献5の攪拌装置は、溶湯の攪拌ムラを抑制するための装置であり、溶湯に添加する添加剤を均一に分散することを目的としている。また、攪拌による溶湯の均一化は、必ずしもアルミニウム合金鋳塊の結晶粒微細化に寄与するものではない。
【0012】
本発明は、かかる背景に鑑みてなされたものであり、微細かつ均一な結晶粒組織からなるアルミニウム合金ビレットを容易に得るための攪拌用ロータ及びそれを用いたアルミニウム合金ビレットの製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の一の態様である攪拌用ロータは、アルミニウム合金ビレットの連続鋳造に用いられる鋳型内において、アルミニウム合金からなる溶湯中に浸漬し、溶湯を攪拌するための攪拌用ロータであって、回転軸部と、回転軸部に設けられたスクリュー部と、を備え、スクリュー部は、回転軸部から径方向外側に突出して螺旋状に形成された複数の本体羽根部と、各本体羽根部の下端から下方に突出して形成された複数の下端羽根部と、を有する。
【0014】
上記攪拌用ロータは、回転軸部と、複数の本体羽根部及び複数の下端羽根部を有するスクリュー部とを備えている。そのため、上記攪拌用ロータを回転させ、鋳型内の溶湯を強制的に攪拌することによって、鋳型内に大きな湯流れ(溶湯の流れ)を発生させることができる。特に、スクリュー部に、複数の本体羽根部に加えて複数の下端羽根部を設けたことにより、鋳型内において鋳造方向、つまり下方への湯流れを発生させることができる。
【0015】
これにより、凝固界面全体、特に凝固殻の中心部付近の凝固界面(凝固界面のうち最も鋳造方向側、つまり下方側に位置する部分)に向かって湯流れが発生し、凝固界面全体に溶湯が衝突する。凝固界面に生成している結晶は、凝固界面に発生する湯流れによって凝固殻から遊離して溶湯内を回流し、再び凝固殻に捕捉されて凝固するが、この間の時間が短いことから粒成長せず、微細なセル状組織が維持された状態で凝固する。よって、従来よりも微細かつ均一な結晶粒組織からなるアルミニウム合金ビレットを鋳造することができる。
【0016】
本発明の他の態様であるアルミニウム合金ビレットの製造方法は、上記攪拌用ロータを用いたアルミニウム合金ビレットの製造方法であって、鋳型内の溶湯中に攪拌用ロータを浸漬し、鋳型内の中心部に配置した攪拌用ロータを回転させて溶湯を攪拌しながら、アルミニウム合金ビレットを鋳造する。
【0017】
上記アルミニウム合金ビレットの製造方法は、上記攪拌用ロータを用いて、鋳型内の溶湯を強制的に攪拌するため、鋳型内に大きな湯流れを発生させることができる。特に、上記攪拌用ロータのスクリュー部に、複数の本体羽根部に加えて複数の下端羽根部を設けたことにより、鋳型内において鋳造方向、つまり下方への湯流れを発生させることができる。これにより、凝固界面全体、特に凝固殻の中心部付近の凝固界面(凝固界面のうち最も鋳造方向側、つまり下方側に位置する部分)に向かって湯流れを発生させることができる。その結果、上述したとおり、従来よりも微細かつ均一な結晶粒組織からなるアルミニウム合金ビレットを鋳造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態における、攪拌用ロータ及びそれを用いたアルミニウム合金ビレットの製造方法を示す一部断面説明図である。
図2】実施形態における、攪拌用ロータを示す斜視図である。
図3】実施形態における、攪拌用ロータを示す側面図である。
図4】実施形態における、攪拌用ロータを示す底面図である。
図5】実施形態における、攪拌用ロータを示す底面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の態様で実施しうることはいうまでもない。
【0020】
上記攪拌用ロータは、例えば、ホットトップ鋳造法等を用いたアルミニウム合金ビレットの連続鋳造に適用することができ、具体的には、鋳型内に供給されたアルミニウム合金からなる溶湯中に浸漬し、回転させることによって溶湯を攪拌する際に用いることができる。
【0021】
また、本体羽根部及び下端羽根部の数は、溶湯を攪拌することができ、スクリュー部から凝固界面に向かって湯流れ(特に下方への湯流れ)を発生させることができれば、何ら限定されるものではない。
【0022】
また、各下端羽根部は、各本体羽根部の下端全体から下方に突出して形成されていてもよい。この場合には、スクリュー部から凝固界面に向かって良好な湯流れを発生させることができる。
【0023】
また、各下端羽根部は、さらに、回転軸部の下端まで径方向内側に延設されていてもよい。例えば、回転軸部の直下には、攪拌用の羽根が設けられていないことがある。この場合、回転軸部の直下には、溶湯流動が形成されない無流動領域(いわゆるデッドゾーン)が形成される。そこで、各下端羽根部を上記の位置に形成することにより、回転軸部の直下においても、スクリュー部から凝固界面(特に凝固殻の中心部付近の凝固界面)に向かって良好な下方への湯流れを発生させることができる。
【0024】
また、各下端羽根部は、各本体羽根部の下端から回転軸部の中心軸に対して平行な方向に突出して形成され、各下端羽根部の厚さは、各本体羽根部の下端の厚さと同じであり、各下端羽根部の高さは、10〜30mmであってもよい。この場合には、スクリュー部から凝固界面に向かって良好な下方への湯流れを発生させることができる。
【0025】
各下端羽根部が各本体羽根部の下端から回転軸部の中心軸に対して平行な方向に突出して形成されていない場合には、スクリュー部から凝固界面に向かって下方への湯流れを十分に発生させることができず、例えば、アルミニウム合金ビレットの中心部の結晶粒組織の微細化・均一化がされにくくなり、中心部以外の結晶粒組織と比べて大きめの結晶粒組織となるおそれがある。
【0026】
下端羽根部の高さが10mm未満の場合には、スクリュー部から凝固界面に向かって下方への湯流れを十分に発生させることができないおそれがある。一方、下端羽根部の高さが30mmを超える場合には、攪拌用ロータの回転トルクが増加して安定した回転が行われず、湯流れが悪くなり、結果としてアルミニウム合金ビレットの結晶粒組織、特に中心部の結晶粒組織が微細化・均一化されないおそれがある。
【0027】
各下端羽根部の高さは、スクリュー部から凝固界面に向かう下方への湯流れの流速向上に大きく作用する。このような作用効果を十分に得るための各下端羽根部の最適な高さは、アルミニウム合金ビレットの径(ビレット径)に依存する。例えば、各下端羽根部の高さは、ビレット径がφ350mmの場合に10mm、ビレット径がφ500mmの場合に20mmとすればよい。これにより、スクリュー部から凝固界面に向かう最適な下方への湯流れを発生させることができる。
【0028】
なお、各下端羽根部の厚さは、各本体羽根部の下端の厚さと同じであれば、スクリュー部の作製が容易となるが、溶湯の攪拌に耐え得る厚さであれば、各本体羽根部の下端の厚さと同じ厚さでなくてもよい。また、各下端羽根部の厚さは、湯流れ性、つまりスクリュー部から凝固界面に向かう下方への湯流れに対して影響は少ない。
【0029】
また、回転軸部の中心軸に直交する平面に対する各本体羽根部の下面の傾斜角θは、45°以上60°未満であり、各本体羽根部の高さは、tanθであってもよい。この場合には、スクリュー部から凝固界面に向かって良好な湯流れを発生させることができる。
【0030】
なお、上記傾斜角θは、回転軸部の中心軸に直交する平面と各本体羽根部の下面とが成す角度であり、本体羽根部の下面が凝固殻側(下側)からその反対側(上側)に向かって立ち上がる傾斜角度である。本体羽根部の下面とは、本体羽根部における凝固殻側の面のことである。上記傾斜角θを上記特定の範囲とすることにより、スクリュー部から凝固界面に向かって良好な湯流れを発生させることができる。
【0031】
上記傾斜角θが45°未満の場合には、本体羽根部で捕らえられる溶湯量が少なく、凝固界面付近の湯流れが小さくなるため、凝固殻からの結晶の遊離が促進されず、結晶粒の微細化・均一化が不十分となるおそれがある。一方、上記傾斜角θが60°を超える場合には、鋳型の内壁面に向かう湯流れの割合が多くなり、凝固界面付近の湯流れが小さくなるため、凝固界面からの結晶の遊離が促進されず、結晶粒の微細化・均一化が不十分となるおそれがある。
【0032】
また、スクリュー部は、黒鉛又はセラミックからなる耐火材により構成されていてもよい。この場合には、高温の溶湯中で使用しても、耐熱性、耐久性を十分に確保することができる。セラミックからなる耐火材としては、例えば、窒化珪素系材料等を用いることができる。なお、スクリュー部を構成する材料は、上記耐火材以外であっても、溶湯中で使用することができ、スクリュー部を所望の形状に成形することができれば、何ら限定されるものではない。
【0033】
上記アルミニウム合金ビレットの製造方法は、例えば、ホットトップ鋳造法等に適用することができ、鋳型内に供給されたアルミニウム合金からなる溶湯を、鋳型内の中心部に配置した攪拌用ロータ(具体的にはスクリュー部)の回転によって攪拌しながら冷却凝固させ、アルミニウム合金ビレットを連続的に鋳造する。ここで、鋳型内の中心部とは、鋳込み方向、つまり上下方向に直交する方向(水平方向)において、鋳型内側の中心(中央)部分をいう。
【0034】
また、スクリュー部の外径は、鋳型の内径の1/2以上、かつ、鋳型の上側に配置されたヘッダーの内径未満であり、各下端羽根部の外端部の下端位置は、上下方向における鋳型の上端位置と鋳型内の凝固界面との中間位置又はそれよりも上側であってもよい。この場合には、攪拌用ロータ(具体的にはスクリュー部)の回転によって、スクリュー部から凝固界面に向かって良好な湯流れを発生させ、凝固殻からの結晶の遊離をより促進させることができる。これにより、結晶粒の微細化・均一化効果をさらに高めることができる。
【0035】
ここで、ヘッダーとは、鋳型の上側に配置され、溶湯を溜めておくと共に溶湯を鋳型内に供給するための部材である。例えば、ヘッダー内には、溶湯を溜めておく空間(湯溜部)が形成され、ヘッダー内と鋳型内とが連通するように構成する。また、各下端羽根部の外端部とは、各下端羽根部の径方向外側の端部のことをいう。各下端羽根部の外端部の下端位置とは、各下端羽根部の外端部の最下端の位置をいう。鋳型内の凝固界面とは、鋳型内の溶湯(液体)と凝固殻(固体)との境界面をいう。
【0036】
スクリュー部の外径が鋳型の内径の1/2未満の場合には、鋳型の内径に対してスクリュー部の外径が小さくなるため、鋳型内全体に均一な湯流れを発生させることが困難となる。また、スクリュー部の外径がヘッダーの内径以上の場合には、鋳造中の鋳型内に攪拌用ロータ(具体的にはスクリュー部)を出し入れすることが困難となる。
【0037】
各下端羽根部の外端部の下端位置が上下方向における鋳型の上端位置と鋳型内の凝固界面との中間位置よりも下側(凝固殻側)にある場合には、スクリュー部が凝固殻に固着し、攪拌用ロータ(具体的にはスクリュー部)の回転が抑制される可能性がある。
【0038】
また、スクリュー部は、その全体が鋳型内に配置されていることが好ましい。この場合には、攪拌用ロータ(具体的にはスクリュー部)の回転によって、上述した結晶粒の微細化・均一化効果を十分に得ることができる。
【0039】
また、攪拌用ロータを170〜400rpmの回転数で回転させて溶湯を攪拌してもよい。この場合には、攪拌用ロータ(具体的にはスクリュー部)の回転によって、スクリュー部から凝固界面に向かって良好な湯流れを発生させ、凝固殻からの結晶の遊離をより促進させることができる。これにより、結晶粒の微細化・均一化効果をさらに高めることができる。
【0040】
攪拌用ロータの回転数が170rpm未満の場合には、鋳型内の湯流れが小さくなるため、凝固殻からの結晶の遊離が促進されず、結晶粒の微細化・均一化が不十分となるおそれがある。一方、攪拌用ロータの回転数が400rpmを超える場合には、湯面(溶湯の表面)がすり鉢状の渦状態となり、溶湯と大気との接触面積が増加することで溶湯温度が低下すると共に、酸化物が発生しやすい状態になり、この酸化物がアルミニウム合金ビレット内に巻き込まれるおそれがある。
【0041】
また、攪拌用ロータの回転方向は、攪拌用ロータを回転させて溶湯を攪拌することにより、スクリュー部から凝固界面に向かって湯流れ(特に下方への湯流れ)を発生させることができれば、何ら限定されるものではない。
【0042】
上記アルミニウム合金ビレットの製造方法は、例えば、JIS規格の1000、2000、3000、5000、6000、7000系等のアルミニウム合金からなるビレット(アルミニウム合金ビレット)の鋳造に適用することができる。特に、固液共存相の温度域が広い7000系アルミニウム合金については、結晶粒の微細化・均一化効果が大きい。
【0043】
次に、本発明の実施形態について、図面を用いて説明する。
具体的には、図1図4に示すように、攪拌用ロータ5及びそれを用いたアルミニウム合金ビレット1の製造方法について、以下詳細に説明する。
【0044】
本実施形態では、図1に示す鋳造装置2を用いて、ホットトップ鋳造法により、アルミニウム合金ビレット1を鋳造する。本実施形態において、図1に示す鋳造方向Zとは、上下方向における鋳造方向を示す。なお、図1に付された方向を示す矢印は、各図相互の関係を理解しやすくするために記載したものである。本発明は、図1に付された方向に限定されるものではない。
【0045】
鋳造装置2は、所定の形状のアルミニウム合金ビレットを鋳造するための鋳型3と、その鋳型3の直上に配置されたヘッダー4と、アルミニウム合金からなる溶湯10を攪拌するための攪拌用ロータ5を備えている。
【0046】
鋳型3は、筒状(環状)に形成されている。鋳型3は、軸方向(上下方向)に直交する断面において、鋳型3内側が円形状である。鋳型3の内壁面31の下端部には、内径が徐々に大きくなる拡径面311が形成されている。鋳型3の内径Aは、拡径面311が形成されている部分よりも上側部分(鋳型3内側が溶湯10で満たされている部分)の内径である。鋳型3の内径Aは、軸方向(上下方向)において一定である。
【0047】
ヘッダー4は、筒状に形成されている。ヘッダー4は、珪酸カルシウム系耐火材により構成されている。ヘッダー4は、軸方向(上下方向)に直交する断面において、ヘッダー4内側が円形状である。ヘッダー4内には、溶湯10を溜めておく湯溜部40が形成されている。ヘッダー4の内径Bは、湯溜部40が形成されている部分の内径である。ヘッダー4の内径Bは、軸方向(上下方向)において一定である。ヘッダー4の内径Bは、鋳型3の内径Aよりも小さい。
【0048】
ヘッダー4には、溶湯10を湯溜部40に供給するための溶湯供給部49が連結されている。溶湯10は、溶湯供給部49からヘッダー4内の湯溜部40に供給される。ヘッダー4の下端開口部42と鋳型3の上端開口部32とは、上下方向に連通している。溶湯10は、ヘッダー4内の湯溜部40からヘッダー4の下端開口部42及び鋳型3の上端開口部32を介して鋳型3内に供給される。
【0049】
図2図4に示すように、攪拌用ロータ5は、棒状の回転軸部51と、回転軸部51に設けられ、溶湯10を攪拌するためのスクリュー部50とを備えている。スクリュー部50は、4つの本体羽根部52と4つの下端羽根部53とを有する。スクリュー部50の外径D(図4)は、鋳型3の内径A(図1)の1/2以上であり、かつ、ヘッダー4の内径B(図1)未満である。回転軸部51及びスクリュー部50(本体羽根部52、下端羽根部53)は、黒鉛により構成されている。
【0050】
各本体羽根部52は、板状に形成されている。各本体羽根部52は、回転軸部51から径方向外側に突出して螺旋状に形成されている。4枚の本体羽根部52は、周方向において等間隔に配置されている。各本体羽根部52の上面521及び下面522は、回転軸部51の中心軸510に直交する平面(直交平面511)に対して傾斜している。なお、本体羽根部52の両主面のうち、上側(ヘッダー4側)を向いている面が上面521、下側(凝固殻11側)を向いている面が下面522である。直交平面511に対する各本体羽根部52の下面522の傾斜角θは、45°以上60°未満である。各本体羽根部52の上下方向の高さC(図3)は、スクリュー部50の半径D/2とtanθとの積である。
【0051】
各下端羽根部53は、各本体羽根部52の下端523全体から下方に突出して形成されている。各下端羽根部53は、各本体羽根部52の下端523から回転軸部51の中心軸510に対して平行な方向に突出して形成されている。各下端羽根部53は、回転軸部51から各本体羽根部52の下端523の外端位置まで径方向外側に連続して形成されている。各下端羽根部53の厚さF(図4)は、各本体羽根部52の下端523の厚さと同じである。ここで、各本体羽根部52の下端523の厚さとは、各本体羽根部52の下端523における上下方向に直交する方向の厚さをいう。各下端羽根部53の上下方向の高さは、10〜30mmである。
【0052】
図1に示すように、鋳型3内の中心部には、攪拌用ロータ5のスクリュー部50が配置されている。なお、鋳型3内の中心部とは、上下方向に直交する方向(水平方向)において、鋳型3内側の中心(中央)部分をいう。攪拌用ロータ5のスクリュー部50は、ヘッダー4内を介して鋳型3の上端開口部32から鋳型3内に挿入して配置されている。スクリュー部50は、その全体が鋳型3内に配置されている。
【0053】
各下端羽根部53の外端部の下端位置Eは、上下方向における鋳型3の上端位置E1と鋳型3内の凝固界面110(図1のE2)との中間位置又はそれよりも上側(ヘッダー4側)である。すなわち、上下方向における鋳型3内の上端位置E1から各下端羽根部53の外端部の下端位置Eまでの距離は、上下方向における鋳型3の上端位置E1から鋳型3内の凝固界面110(図1のE2)までの距離の1/2以下である。なお、凝固界面110とは、鋳型3内の溶湯10(液体)と凝固殻11(固体)との境界面のことである。凝固界面110は、凝固殻11の外周部から中心部に向かうほど下方に位置している(深くなっている)。
【0054】
上記構成の鋳造装置2を用いて、ホットトップ鋳造法により、アルミニウム合金ビレット1を製造(鋳造)するに当たっては、図1に示すように、攪拌用ロータ5を回転させ、鋳型3内の中心部に配置したスクリュー部50によって鋳型3内の溶湯10を強制的に攪拌しながら、円柱状のアルミニウム合金ビレット1を鋳造する。攪拌用ロータ5は、170〜400rpmの範囲内の一定の回転数で連続回転させる。
【0055】
鋳型3内の溶湯10を攪拌用ロータ5(具体的にはスクリュー部50)の回転によって強制的に攪拌することにより、鋳型3内に大きな湯流れ(溶湯10の流れ)を発生させる。この攪拌による湯流れによって、凝固界面110に生成する結晶は、凝固殻11から遊離して溶湯10内を回流し、粒成長する前に微細なセル状組織が維持された状態で周辺の凝固殻11に捕捉され、凝固する。これにより、微細結晶粒組織からなるアルミニウム合金ビレット1が鋳造される。
【0056】
また、図2図4に示す形状のスクリュー部50を有する攪拌用ロータ5を用い、スクリュー部50の本体羽根部52の下面522の傾斜角θを上記特定の範囲としているため、攪拌用ロータ5を上方から見た場合において、攪拌用ロータ5を時計回り(正方向)に回転させる。
【0057】
これにより、鋳型3内の溶湯10が鋳型3内の中心部から(スクリュー部50から)凝固界面110に向かって流れ、凝固界面110に衝突した後、鋳型3の内壁面31に沿って上昇し、再び鋳型3内の中心部から凝固界面110に向かって流れる。そして、溶湯10が凝固界面110に衝突する際に、凝固界面110に生成している結晶の凝固殻11からの遊離を促進させ、結晶粒微細化効果が生み出される。特に、スクリュー部50に下端羽根部53を設け、この湯流れを凝固界面110、特に凝固殻11の中心部付近の凝固界面110へと導くことにより、微細、かつ均一な組織のアルミニウム合金ビレットを得ることができる。
【0058】
次に、本実施形態の攪拌用ロータ5及びそれを用いたアルミニウム合金ビレット1の製造方法における作用効果について説明する。
本実施形態の攪拌用ロータ5は、回転軸部51と、複数の本体羽根部52及び複数の下端羽根部53を有するスクリュー部50とを備えている。そのため、攪拌用ロータ5を回転させ、鋳型3内の溶湯10を強制的に攪拌することによって、鋳型3内に大きな湯流れ(溶湯10の流れ)を発生させることができる。特に、スクリュー部50に、複数の本体羽根部52に加えて複数の下端羽根部53を設けたことにより、鋳型内において鋳造方向Z、つまり下方への湯流れを発生させることができる。
【0059】
これにより、凝固界面110全体、特に凝固殻11の中心部付近の凝固界面110(凝固界面110のうち最も鋳造方向Z側、つまり下方側に位置する部分(凝固界面110の最深位置G付近))に向かって湯流れが発生し、凝固界面110全体に溶湯10が衝突する。凝固界面110に生成している結晶は、凝固界面110に発生する湯流れによって凝固殻11から遊離して溶湯10内を回流し、再び凝固殻11に捕捉されて凝固するが、この間の時間が短いことから粒成長せず、微細なセル状組織が維持された状態で凝固する。よって、従来よりも微細かつ均一な結晶粒組織からなるアルミニウム合金ビレット1を鋳造することができる。
【0060】
また、各下端羽根部53は、各本体羽根部52の下端523全体から下方に突出して形成されている。そのため、スクリュー部50から凝固界面110に向かって良好な湯流れを発生させることができる。
【0061】
また、各下端羽根部53は、各本体羽根部52の下端523から回転軸部51の中心軸510に対して平行な方向に突出して形成され、各下端羽根部53の厚さは、各本体羽根部52の下端523の厚さと同じであり、各下端羽根部53の高さは、10〜30mmである。そのため、スクリュー部50から凝固界面110に向かって良好な下方への湯流れを発生させることができる。
【0062】
また、回転軸部51の中心軸510に直交する平面(直交平面511)に対する各本体羽根部52の下面522の傾斜角θは、45°以上60°未満であり、各本体羽根部52の高さは、tanθである。そのため、スクリュー部50から凝固界面110に向かって良好な湯流れを発生させることができる。
【0063】
また、スクリュー部50は、黒鉛からなる耐火材により構成されている。そのため、高温の溶湯10中で使用しても、耐熱性、耐久性を十分に確保することができる。なお、スクリュー部50は、セラミック(例えば、窒化珪素系材料等)からなる耐火材により構成されていてもよい。この場合も上記と同様の効果が得られる。
【0064】
本実施形態のアルミニウム合金ビレット1の製造方法は、攪拌用ロータ5を用いて、鋳型3内の溶湯10を強制的に攪拌するため、鋳型3内に大きな湯流れを発生させることができる。特に、攪拌用ロータ5のスクリュー部50に、複数の本体羽根部に加えて複数の下端羽根部53を設けたことにより、鋳型内において鋳造方向Z、つまり下方への湯流れを発生させることができる。これにより、凝固界面110全体、特に凝固殻11の中心部付近の凝固界面110(凝固界面110のうち最も鋳造方向Z側、つまり下方側に位置する部分(凝固界面110の最深位置G付近))に向かって湯流れを発生させることができる。その結果、上述したとおり、従来よりも微細かつ均一な結晶粒組織からなるアルミニウム合金ビレット1を鋳造することができる。
【0065】
また、スクリュー部50の外径Dは、鋳型3の内径Aの1/2以上、かつ、鋳型3の上側に配置されたヘッダー4の内径B未満である。また、各下端羽根部53の外端部の下端位置Eは、上下方向における鋳型3の上端位置E1と鋳型3内の凝固界面110(図1のE2)との中間位置よりも上側である。そのため、攪拌用ロータ5(具体的にはスクリュー部50)の回転によって、スクリュー部50から凝固界面110に向かって良好な湯流れを発生させ、凝固殻11からの結晶の遊離をより促進させることができる。これにより、結晶粒の微細化・均一化効果をさらに高めることができる。
【0066】
また、攪拌用ロータ5を170〜400rpmの回転数で回転させて溶湯10を攪拌する。そのため、攪拌用ロータ5(具体的にはスクリュー部50)の回転によって、スクリュー部50から凝固界面110に向かって良好な湯流れを発生させ、凝固殻11からの結晶の遊離をより促進させることができる。これにより、結晶粒の微細化・均一化効果をさらに高めることができる。
【0067】
なお、本実施形態では、図4に示すように、スクリュー部50の各下端羽根部53が回転軸部51から径方向外側に向かって突出するように形成されているが、例えば、図5に示すように、各下端羽根部53が回転軸部51の下端まで径方向内側に延設されていてもよい。すなわち、各下端羽根部53が回転軸部51の直下にも設けられている構成としてもよい。図5の例では、4つの下端羽根部53が回転軸部51の直下で合流するように構成されている。
【0068】
このような構成とすることにより、回転軸部51の直下において、溶湯流動が生じない無流動領域(いわゆるデッドゾーン)が形成されることを抑制できる。よって、回転軸部51の直下においても、スクリュー部50から凝固界面110(特に凝固殻11の中心部付近の凝固界面110)に向かって良好な下方への湯流れを発生させることができる。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の実施例を比較例と対比しながら説明し、本発明の効果を実証する。これらの実施例は、本発明の一実施態様を示すものであり、本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0070】
まず、上述した鋳造装置(図1参照)を用いて、ホットトップ鋳造法により、下記の表1に示す複数のアルミニウム合金ビレット(試料1〜20)を製造した。具体的には、所定の合金組成を有するアルミニウム合金を溶解した溶湯を、鋳造装置のヘッダーから鋳型内に流下させ、アルミニウム合金ビレットを鋳造した。
【0071】
このとき、ヘッダーの上方から鋳型内に攪拌用ロータ(図2図5参照)を挿入し、そのロータを所定の回転数で回転させて溶湯を攪拌しながら、アルミニウム合金ビレットを鋳造した。鋳造速度、冷却水量等については、従来実施されている条件の範囲に設定した。なお、試料17については、攪拌用ロータを用いた機械攪拌を行わなかった。
【0072】
ここで、表1の「合金No.」は、アルミニウム合金の種類である。「サイズ」は、鋳造するアルミニウム合金ビレットの外径をインチ単位で表記する。「微細化剤添加」は、溶湯中へのAl−Ti−B系、Al−Ti−C系等の微細化剤の連続添加のことである。
【0073】
また、表1の攪拌ロータの「材質」は、攪拌ロータの材質のことである。「位置」は、上下方向における鋳型の上端位置から鋳型内の凝固殻界面までの距離に対する、上下方向における鋳型内の上端位置から下端羽根部の外端部の下端位置までの距離の比である。「外径比」は、鋳型の内径に対する攪拌ロータの外径の比である。「傾斜角」は、攪拌ロータの中心軸に直交する平面(直交平面)に対する本体羽根部の下面の傾斜角θ(図1図3参照)である。「回転数」は、攪拌ロータの回転数である。「回転方向」は、攪拌ロータを上方から見た場合の回転方向である。
【0074】
また、表1の攪拌ロータの下端羽根部の「高さ」は、下端羽根部の上下方向の高さのことである。下端羽根部の「長さ比」は、本体羽根部の下端の径方向長さに対する、下端羽根部の径方向長さの比である。なお、下端羽根部の径方向長さの基点は、下端羽根部の径方向外端である。
【0075】
なお、表1に示す各試料において使用したヘッダーの内径は、外径9インチのアルミニウム合金ビレットで223mm、外径14インチのアルミニウム合金ビレットで349mm、外径20インチのアルミニウム合金ビレットで501mmである。
【0076】
次に、製造したアルミニウム合金ビレットについて、結晶粒組織を観察し、平均結晶粒径を測定した。具体的には、アルミニウム合金ビレットの中心部と、中心部と表層との中間部(以下、「D/4部」という)とについて結晶粒組織を観察し、平均結晶粒径を測定した。D/4部を観察するのは、アルミニウム合金ビレットの場合、平均的な特性を示す位置として一般的に知られており、本発明の効果を評価するためである。
【0077】
また、平均結晶粒径は、対象となるアルミニウム合金ビレットに対して、鋳造方向に平行な断面を機械研磨し、偏光エッチングを施し、光学顕微鏡により50倍で3視野観察した。そして、これらの写真に対して面積計量法を用いて、平均結晶粒径を測定した。なお、観察視野には、100個以上の結晶粒が含まれていた。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に、製造した各アルミニウム合金ビレットの平均結晶粒径の測定結果を示す。
試料1〜9は、攪拌用ロータによる機械攪拌を行わなかった試料17に比べて、アルミニウム合金ビレットの平均結晶粒径が小さく、中心部とD/4部との平均結晶粒径の差も小さく、微細結晶粒組織となっていることがわかった。また、試料10のように、下端羽根部を有しない攪拌用ロータを使用した場合には、アルミニウム合金ビレットの中心部の平均結晶粒径が粗大となり、十分な微細化効果が得られなかった。
【0080】
試料1〜9は、攪拌用ロータの下端羽根部の「高さ」及び「長さ比」が良好な範囲内にあるため、機械攪拌により平均結晶粒径が小さく、中心部とD/4部との平均結晶粒径の差も小さく、微細結晶粒組織となっていた。一方、試料11のように下端羽根部の「長さ比」が小さい(下端羽根部の径方向長さが短い)場合、試料12のように下端羽根部の「高さ」が低い場合、試料13のように下端羽根部の「高さ」が高い場合には、平均結晶粒径が粗大となり、微細結晶粒組織が得られないことがわかった。
【0081】
試料1〜9は、攪拌用ロータの本体羽根部の「傾斜角」が良好な範囲内にあるため、機械攪拌により平均結晶粒径が小さく、中心部とD/4部との平均結晶粒径の差も小さく、微細結晶粒組織となっていた。一方、試料14、15のように本体羽根部の「傾斜角」が好適範囲外の場合には、平均結晶粒径が粗大となり、微細結晶粒組織が得られないことがわかった。
【0082】
試料1〜9は、攪拌用ロータの「材質」として黒鉛を用いているため、攪拌用ロータによる溶湯の攪拌が連続的に安定して行え、微細結晶粒組織を有するアルミニウム合金ビレットが得られた。一方、試料16のように、攪拌用ロータの「材質」として鋳鉄を用いた場合には、攪拌用ロータの本体羽根部や下端羽根部が溶湯熱により溶損して、十分な機械攪拌を行えなかった。
【0083】
試料18のように攪拌用ロータの「外径比」が小さい場合や、試料19のように攪拌用ロータの「回転数」が低い場合には、平均結晶粒径が粗大となり、微細結晶粒組織が得られないことがわかった。また、試料20のように、攪拌用ロータの「回転数」が高い場合には、溶湯が湯面で飛散することや、鋳型下部の凝固殻が破損して溶湯が漏えいするトラブルが発生して、安定した鋳造が行えなかった。
【符号の説明】
【0084】
1…アルミニウム合金ビレット、3…鋳型、5…攪拌用ロータ、10…溶湯、50…スクリュー部、51…回転軸部、52…本体羽根部、53…下端羽根部、523…下端(本体羽根部の下端)
図1
図2
図3
図4
図5