特開2017-165780(P2017-165780A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-165780治療薬を徐放するための長時間循環性ナノ粒子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-165780(P2017-165780A)
(43)【公開日】2017年9月21日
(54)【発明の名称】治療薬を徐放するための長時間循環性ナノ粒子
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20170825BHJP
   A61K 9/16 20060101ALI20170825BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20170825BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20170825BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20170825BHJP
   A61K 47/46 20060101ALI20170825BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20170825BHJP
   A61K 31/436 20060101ALI20170825BHJP
   A61K 31/475 20060101ALI20170825BHJP
   A61K 31/519 20060101ALI20170825BHJP
   A61K 38/02 20060101ALI20170825BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20170825BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20170825BHJP
【FI】
   A61K45/00
   A61K9/16
   A61K47/10
   A61K47/26
   A61K47/34
   A61K47/46
   A61K31/337
   A61K31/436
   A61K31/475
   A61K31/519
   A61K38/02
   A61K38/16
   A61P35/00
【審査請求】有
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2017-125985(P2017-125985)
(22)【出願日】2017年6月28日
(62)【分割の表示】特願2015-88181(P2015-88181)の分割
【原出願日】2009年12月15日
(31)【優先権主張番号】61/260,200
(32)【優先日】2009年11月11日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/249,022
(32)【優先日】2009年10月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】61/122,479
(32)【優先日】2008年12月15日
(33)【優先権主張国】US
(71)【出願人】
【識別番号】593141953
【氏名又は名称】ファイザー・インク
(74)【代理人】
【識別番号】100133927
【弁理士】
【氏名又は名称】四本 能尚
(72)【発明者】
【氏名】ゼイル,スティーブン,イー.
(72)【発明者】
【氏名】トロイアーノ,グレッグ
(72)【発明者】
【氏名】アリ,ミル,ムッカラム
(72)【発明者】
【氏名】フルカッチ,ジェフ
(72)【発明者】
【氏名】ライト,ジェームズ
(72)【発明者】
【氏名】ロウ,スーザン
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA32
4C076AA65
4C076CC27
4C076DD67A
4C076EE23A
4C076EE24A
4C076FF68
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA19
4C084MA05
4C084MA38
4C084NA13
4C084ZB261
4C086AA01
4C086AA02
4C086BA02
4C086CB09
4C086CB21
4C086CB22
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA38
4C086NA13
4C086ZB26
(57)【要約】
【課題】作用薬、例えば抗腫瘍薬の長時間の送達を可能にする生体適合性組成物であって
、特に作用薬を単独で投与する場合と比べて、患者における血漿薬物濃度を引き延
ばし、かつ/又は高める組成物を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の開示内容は一部分、それぞれがα−ヒドロキシポリエステル−co
−ポリエーテルと治療薬とを含む、複数の長時間循環性非コロイドナノ粒子を含む生体適
合性ナノ粒子組成物に関し、開示されるかかる組成物は、治療効果を少なくとも12時間
提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが80〜90重量%のα−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテルと治
療薬とを含む、複数のナノ粒子を含む生体適合性ナノ粒子組成物であって、
α−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテルは、数平均分子量15〜20kDa
を有するポリ乳酸及び数平均分子量2〜10kDaを有するポリエチレングリコールを含
み、
前記組成物を患者に投与すると、少なくとも12時間、治療薬の高血漿中濃度を提供し
、患者に投与した場合の分布容積が、5×血漿容積以下である生体適合性ナノ粒子組成物
【請求項2】
前記治療薬の高血漿中濃度を少なくとも24時間提供する請求項1に記載の生体適合性
ナノ粒子組成物。
【請求項3】
前記ナノ粒子がそれぞれ、ターゲティング部位に結合した生体適合性ポリマーをさらに
含む請求項1又は2に記載の生体適合性ナノ粒子組成物。
【請求項4】
前記ターゲティング部位が、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体断片、サッカリド、炭
水化物、小分子、グリカン、サイトカイン、ケモカイン、ヌクレオチド、レクチン、脂質
、受容体、ステロイド、神経伝達物質、及び細胞表面マーカーからなる群から選択される
請求項3に記載の生体適合性ナノ粒子組成物。
【請求項5】
前記ターゲティング部位が、前立腺特異的膜抗原(PMSA)に結合する請求項4に記
載の生体適合性ナノ粒子組成物。
【請求項6】
前記生体適合性ポリマーがPLA−PEGである請求項3から5のいずれか一項に記載
の生体適合性ナノ粒子。
【請求項7】
前記ターゲティング部位に結合した前記生体適合性ポリマーが、PLA−PEG−((
S,S−2−{3−[1−カルボキシ−5−アミノ−ペンチル]−ウレイド}−ペンタン
二酸である請求項3から6のいずれか一項に記載の生体適合性ナノ粒子。
【請求項8】
前記長時間循環性ナノ粒子が、前記ターゲティング部位に結合した前記生体適合性ポリ
マーを1〜4重量%含む請求項3から7のいずれか一項に記載の生体適合性ナノ粒子組成
物。
【請求項9】
前記α−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテルが、ポリ乳酸−co−ポリエチ
レングリコールである請求項1から8のいずれか一項に記載の生体適合性ナノ粒子組成物
【請求項10】
前記α−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテルが、ポリ乳酸約16kDa及び
ポリエチレングリコール約5kDaを含む請求項1から9のいずれか一項に記載の生体適
合性ナノ粒子組成物。
【請求項11】
前記長時間循環性ナノ粒子がさらに、生分解性ポリマーを含む請求項1から10に記載
の生体適合性ナノ粒子組成物。
【請求項12】
前記生分解性ポリマーがポリ乳酸である請求項11に記載の生体適合性ナノ粒子組成物
【請求項13】
前記治療薬が、化学療法薬、診断剤、予防薬、栄養補助剤、核酸、タンパク質、ペプチ
ド、脂質、炭水化物、ホルモン、小分子、金属、セラミック、薬物、ワクチン、免疫剤及
びその組み合わせからなる群から選択される請求項1から12のいずれか一項に記載の生
体適合性ナノ粒子組成物。
【請求項14】
前記治療薬が抗腫瘍薬である請求項1から13のいずれか一項に記載の生体適合性ナノ
粒子組成物。
【請求項15】
前記治療薬が、ドセタキセル、ビンクリスチン、メトトレキセート、パクリタキセル又
はシロリムスから選択される請求項1から14のいずれか一項に記載の生体適合性ナノ粒
子組成物。
【請求項16】
サッカリドの水溶液をさらに含む請求項1から15のいずれか一項に記載の生体適合性
ナノ粒子組成物。
【請求項17】
それぞれが生体適合性ポリマーと治療薬とを含む、複数のナノ粒子を含む生体適合性ナ
ノ粒子組成物であって、
前記組成物を患者に投与すると、少なくとも12時間、治療薬の高血漿中濃度を提供し
、患者に投与した場合の分布容積が、5×血漿容積以下である生体適合性ナノ粒子組成物
【請求項18】
前記患者が哺乳動物である請求項1から17のいずれか一項に記載の生体適合性ナノ粒
子組成物。
【請求項19】
前記患者が霊長類である請求項1から17のいずれか一項に記載の生体適合性ナノ粒子
組成物。
【請求項20】
請求項1から19のいずれか一項に記載のナノ粒子組成物を含有する固形腫瘍癌治療剤
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本出願は、それぞれの全体が参照により本明細書に組み込まれる、2008年12月1
5日出願の米国特許仮出願第61/122,479号、2009年11月11日出願の米
国特許仮出願第61/260,200号及び2009年10月6日出願の米国特許仮出願
第61/249,022号への優先権を主張する。
【0002】
治療薬を送達するためのナノ粒子は、指示される治療法に対する患者のコンプライアン
スの欠如、有害作用及び標的化送達の欠如による低い臨床的有効性など、従来の送達アプ
ローチに関連する多くの問題を回避する潜在能力を有する。薬物送達に関するナノ粒子の
重要な技術的利点としては、水不溶性及び不安定性薬物を送達する能力、疎水性治療薬と
親水性治療薬両方の組み込み、様々な投与経路を利用する能力が挙げられる。ナノ粒子送
達システは、標的化薬物送達及び放出制御投与を促進し、作用部位での薬物バイオアベイ
ラビリティを高め、投与回数を少なくし、副作用を最小限に抑えることもできる。
【0003】
可能性のあるこれらの利点のため、ポリマーミセル、ポリマー、リポソーム、低密度リ
ポタンパク質、デンドリマー、親水性薬物−ポリマー複合体及びセラミックナノ粒子など
のナノ粒子システムが、薬物送達賦形剤として使用するために考察されている。ポリマー
粒状薬物送達システムに用いられる一般的なポリマー材料としては、ポリ乳酸(PLA)
、ポリ(D,L−グリコリド)(PLG)及びポリ(ラクチド−co−グリコリド)(P
LGA)が挙げられる。PLA及びPLGAは、連邦食品医薬品化粧品法(Federal Food
,Drug, and Cosmetic Act)のセクション201及び409の下で一般に安全と認められ
る(GRAS)と記載されており、Decapeptyl(登録商標)、Parlode
l LA(登録商標)及びEnantone Depot(登録商標)などの市販のミク
ロ粒子システム、ならびにZoladex(登録商標)などのインプラントデバイスでの
使用が認可されている。
【0004】
しかし、リポソームなどの特定のナノ粒子システムは、特定の治療薬と使用するのに適
していない。現在まで開発されているポリマーナノ粒子は、有効性が限られている。とい
うのは一部には、投与されると、かかるナノ粒子は急速に体内から排出され、かつ/又は
治療の必要がない健康な組織に蓄積し得るからである。ナノシステムを用いた、作用薬の
送達の制御には、まだ課題が残っている。
【0005】
したがって、作用薬、例えば抗腫瘍薬の長時間の送達を可能にする生体適合性組成物で
あって、特に作用薬を単独で投与する場合と比べて、患者における血漿薬物濃度を引き延
ばし、かつ/又は高める組成物が必要とされている。
【発明の開示】
【0006】
本発明の一態様において、生分解性及び/又は生体適合性ポリマーと治療薬を含むナノ
粒子組成物が提供され、その生分解性及び/又は生体適合性ポリマーマトリックスは、少
なくとも約12時間にわたる又は一部の実施形態では、例えば少なくとも約24時間にわ
たる治療薬の放出制御を可能にする速度で治療薬を放出し、複数の長時間循環性ナノ粒子
を含む生体適合性ナノ粒子組成物であって、それぞれが生体適合性ポリマーと治療薬とを
含む組成物が本明細書において提供され、前記組成物は、患者に投与した場合に少なくと
も12時間、治療薬の血漿中濃度を上昇させ、治療薬が単独で患者に投与された場合に得
られるAUCと比較して、少なくとも100%増加した薬物血漿中濃度時間曲線下面積(
AUC)を提供する。
【0007】
実施形態において、それぞれがα−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテルと治
療薬とを含む、複数の長時間循環性ナノ粒子を含む生体適合性ナノ粒子組成物が本明細書
において開示され、前記組成物は、組成物が患者に投与された場合に、少なくとも6時間
、少なくとも12時間又は少なくとも24時間以上の間、治療薬の高血漿中濃度を提供し
、治療薬が単独で患者に投与された場合に得られるAUCと比較して、少なくとも100
%又は少なくとも150%増加した薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)を提供する
【0008】
一部の実施形態において、開示されるナノ粒子は、単独で投与された場合の前記治療薬
のCmaxと比較して、少なくとも10%高い又は少なくとも100%高い実測ピーク血漿
中濃度(Cmax)を提供し得る。開示されるナノ粒子は例えば、患者に投与した場合に、
約5×血漿容積以下である分布容積を提供し得る。例えば、開示されるナノ粒子及び/又
は組成物は、治療薬が単独で投与された場合の患者のVzと比較して、分布容積(V2)を
少なくとも50%減少させる。
【0009】
開示される生体適合性ナノ粒子組成物は、ターゲティング部位、例えば、タンパク質、
ペプチド、抗体、抗体断片、サッカリド、炭水化物、小分子、グリカン、サイトカイン、
ケモカイン、ヌクレオチド、レクチン、脂質、受容体、ステロイド、神経伝達物質、細胞
表面マーカー、癌抗原又は糖タンパク質抗原からなる群から選択されるターゲティング部
位に結合する生体適合性ポリマーをさらに含む長時間循環性ナノ粒子を含み得る。例示的
なターゲティング部位は、前立腺特異的膜抗原(PMSA)に結合する。例えば、開示さ
れるナノ粒子は、ターゲティング部位に結合する生体適合性ポリマーを含み、例えば、ナ
ノ粒子は、PLA−PEG−((S,S−2−{3−[1−カルボキシ−5−アミノ−ペ
ンチル]−ウレイド}−ペンタン二酸を含み得る。開示される長時間循環性ナノ粒子は、
ターゲティング部位に結合する生体適合性ポリマーを1〜約4重量%又は2〜約4重量%
含有し得る。
【0010】
一部の実施形態において、生体適合性ナノ粒子は、PLA−PEGなどの生体適合性ポ
リマーを含み得る。例えば、α−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテルは、ポリ
乳酸−co−ポリエチレングリコールであり、かつ/又はα−ヒドロキシポリエステル−
co−ポリエーテルは、ポリ乳酸約16kDa及びポリエチレングリコール約5kDaを
含む。
【0011】
開示される長時間循環性ナノ粒子は、α−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテ
ル約80〜約90重量%であり得る。
【0012】
一部の実施形態において、開示される長時間循環性ナノ粒子はさらに、ポリ乳酸などの
生分解性ポリマーを含み得る。例えば、長時間循環性ナノ粒子は、ポリ乳酸約40〜約5
0重量及びα−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテル約40〜約50重量%を有
し得る。かかる生体適合性ナノ粒子と治療薬とを含む組成物は、単独で投与した場合の治
療薬のCmaxよりも少なくとも100%高い、治療薬のピーク血漿中濃度(Cmax)を提供
し、かつ/又は薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)が、単独で患者に投与した場合
の治療薬のAUCと比較して少なくとも200%増加する。
【0013】
開示されるナノ粒子組成物は、化学療法薬、診断剤、予防薬、栄養補助剤、核酸、タン
パク質、ペプチド、脂質、炭水化物、ホルモン、小分子、金属、セラミック、薬物、ワク
チン、免疫剤(immunological agent)及びその組み合わせからなる群から選択される治
療薬などを含み、例えば、ナノ粒子は、ドセタキセル、ビンクリスチン、メトトレキセー
ト、パクリタキセル又はシロリムスなどの抗腫瘍薬を含み得る。開示されるナノ粒子組成
物はさらに、サッカリドの水溶液を含み得る。
【0014】
固形腫瘍を治療する方法であって、その必要がある患者(例えば、哺乳動物又は霊長類
)に開示されるナノ粒子組成物を投与することを含む方法も、本明細書において提供され
る。かかる方法は、投与して少なくとも24時間、固形腫瘍が、有意な濃度の治療薬を有
することを提供する。その必要がある哺乳動物において固形腫瘍を治療する方法であって
、それぞれがα−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテルと治療薬を含む、複数の
ナノ粒子を含むナノ粒子組成物を投与することを含む方法が本明細書において企図され、
その組成物は、前記腫瘍の成長を抑制するのに有効な量の治療薬を有し、例えば、前記組
成物の単回投与によって、患者における前記治療薬の長時間の高血漿中濃度が少なくとも
1日の間、提供される(例えば、哺乳動物に組成物を投与した後の治療薬のピーク血漿中
濃度(Cmax)は、非ナノ粒子配合物で投与した場合の前記治療薬のCmaxよりも少なくと
も10%高い)。
【0015】
それぞれがα−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテルと治療薬を含む、複数の
ナノ粒子を含むナノ粒子組成物を投与することを含む、患者における作用薬の望ましくな
い副作用又は毒性を最小限に抑える方法であって、前記組成物が、治療薬を単独で投与し
た場合と比較して、患者により高い血漿中濃度の治療薬を送達することができ、かつナノ
粒子組成物を投与すると、患者における作用薬の分布容積が、治療薬が単独で投与された
場合の分布容積と比較して低減される方法も、本明細書において提供される。患者、例え
ば霊長類(例えば、ヒト)における治療薬の血漿中濃度を調節する方法であって、治療薬
を含むポリマーナノ粒子を提供し、そのポリマーナノ粒子を患者に投与し、それによって
、ヒトの患者の血漿中濃度が調節されることを含む方法も提供される。
【0016】
本発明は、添付の図面と関連する本発明の様々な実施形態の以下の詳細な説明を考慮し
て、より完全に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一態様によるナノ粒子の略図である。
図2】本発明の一態様におけるナノ粒子の製造で用いられるエマルジョンプロセスのブロック図である。
図3】ナノ粒子からのドセタキセルと従来のドセタキセルの生体外(in vitro)放出を表す。
図4】ナノ粒子に封入されたドセタキセルと従来のドセタキセルのラットにおける薬物動態を表す。
図514C−ターゲティングポリマー(△)を含有するナノ粒子、14C−ドセタキセル(□)を含有するナノ粒子及び従来の14C−ドセタキセル(◇)を静脈内投与した後のラットの選択組織において決定された放射能の分布を表す。
図6】ナノ粒子に封入されたドセタキセル又は従来のドセタキセルをLNCaP腫瘍を有するSCIDマウスに投与した後の、腫瘍組織におけるドセタキセルの濃度を表す。
図7】ナノ粒子に封入されたドセタキセル又は従来のドセタキセルで治療した場合の、PSMA発現LNCaP異種移植片を有するマウスにおける腫瘍容積の減少を表す。
図8】開示されるナノ粒子に封入されたビンクリスチンと従来のビンクリスチンのラットにおける薬物動態を表す。
図9】開示されるナノ粒子に封入されたメトトレキセートと従来のメトトレキセートのラットにおける薬物動態を表す。
図10】開示されるナノ粒子に封入されたパクリタキセルと従来のパクリタキセルのラットにおける薬物動態を表す。
図11】開示されるナノ粒子に封入されたラパマイシン(シロリムス)と従来のラパマイシンのラットにおける薬物動態を表す。
図12】MX−1マウス乳房腫瘍モデルにおける開示されるナノ粒子中のドセタキセルの腫瘍蓄積を表す。
図13】開示される様々なナノ粒子を用いての、NHPモデルにおけるドセタキセルの薬物動態を表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
これらは変化し得ることから、記載の特定のプロセス、組成物又は方法論に、本発明が
限定されないことを理解されたい。明細書で使用される用語は、単に特定のバージョン又
は実施形態を説明する目的のものであり、本発明の範囲を制限することを意図するもので
はないことも理解されたい。本明細書に記載の出版物及び参考文献すべてが、参照により
本明細書に組み込まれる。先の発明によって、かかる開示に先行する権利が本発明に与え
られないことを承認するものとして解釈すべきことは、本明細書において全くない。
【0019】
本明細書で使用される、「1つ(a)」、「1種類の(an)」及び「その(the)」とい
う単数形は、内容に特に明示されていない限り、複数形を含む。さらに特に定義されてい
ない限り、本明細書で使用されるすべての技術的及び科学的用語は、当業者によって一般
に理解されるのと同じ意味を有する。
【0020】
本明細書で使用される、「約」という用語は、それが使用される数値の±10%を意味
する。したがって、約50%は、40%〜60%の範囲を意味する。
本明細書で使用される、組成物の「有効量」又は「治療有効量」は、目的の効果を達成
するように計算された所定の量である。
本明細書で使用される、「長時間循環性」という用語は、生物活性にかかわらず、患者
の循環系における向上した安定性を意味する。
本明細書で使用される、「ナノ」という接頭辞及び「ナノ相」及び「ナノサイズ」とい
う用語は、粒子が約1000nm(1000×10-9m)未満の平均寸法を有することを
意味する細区分の特別な状態を意味する。
【0021】
本明細書で使用される「ポリ(エチレングリコール)」又は「PEG」及び「ポリ(エ
チレンオキシド)」又は「PEO」は、反復単位−CH2−CH2−O−を含むポリエーテ
ルを表す。PEG及び/又はPEOは、末端基及び分子量に応じて異なるポリマーである
。本明細書で使用される、ポリ(エチレングリコール)及びPEGは、どちらか一方の種
類のポリマーを表す。
【0022】
「α−ヒドロキシポリエステル」とは、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸−co
−グリコール酸、ポリカプロラクトンなどの、1種又は複数種のα−ヒドロキシ酸をベー
スとするモノマーを有するポリマーを意味する。
【0023】
本明細書で使用される「標的」という用語は、治療薬の増強された送達が望まれる、細
胞型又は組織を意味する。例えば、患部組織は治療の標的であり得る。
本明細書で使用される「治療薬」という用語は、患者の好ましくない状態又は疾患をイ
メージし、影響を与え、治療し、それに取り組み、回復させ、予防し又は改善するために
用いられる化合物を意味する。
【0024】
一実施形態において、開示される長時間循環性ナノ粒子は、治療薬と、任意にターゲテ
ィング部位で機能付与される生分解性及び/又は生体適合性ポリマー粒子とを含む。ナノ
粒子は、患者の血管区画で長時間循環し、分布し、標的で蓄積し、かつ封入治療薬を制御
様式で放出するように設計されている。これらの特長によって、標的における治療薬のレ
ベルは増加し、標的から外れた曝露が低減される可能性がある。例えば、開示されるナノ
粒子は、循環においてより長く留まっている。というのは、開示されるナノ粒子は、患者
(例えば、哺乳動物、霊長類(例えば、ヒト))に投与すると、患者の血管区画に実質的
に限局し、非常にゆっくりと排出されるように設計されているからである。
【0025】
多くの治療薬の活性は、その薬物動態的挙動に依存する。この薬物動態的挙動は、薬物
濃度及び細胞がその薬物に曝露される時間を定義する。大部分の治療法、例えば抗癌治療
では、これによって癌細胞の死滅が増加するため、曝露時間が長くなることが好ましい。
一般に、いくつかのパラメーターを用いて、薬物動態が説明される。ピーク血漿中濃度又
は最高血漿中濃度(Cmax)及び曲線下面積(AUC)が例である。AUCは、時間の経
過に伴う血漿中薬物レベルの尺度であり、総薬物曝露の指標を与える。一般に、治療薬の
血漿中濃度及び血漿中AUCは、治療有効性の向上と相関する。
【0026】
長い循環時間、血管区画への粒子の限局及び薬物の放出制御を組み合わせることによっ
て、薬物単独よりも又は例えば、PLA−PEGを含有しない、もしくは例えばPLAを
単独で含有しないPLAポリマーナノ粒子中の薬物よりも、長い時間、高い循環薬物濃度
が得られる(より高いAUC及びより低いVdによって証明される)。
【0027】
例えば、一実施形態において、それぞれがα−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエ
ーテルと治療薬とを含む、複数の時間循環性ナノ粒子を含む生体適合性ナノ粒子組成物が
本明細書において提供される。かかる組成物は、患者に投与した場合に、治療効果を少な
くとも12時間、少なくとも24時間又は少なくとも36時間又は48時間又はそれ以上
提供する。一部の実施形態において、組成物を患者に投与した場合に、かかるナノ粒子の
治療薬のピーク血漿中濃度(Cmax)は、単独で投与した場合の同じ治療薬のCmaxよりも
少なくとも10%高い、20%高い又は約10〜約100%高い又はそれ以上であり得る
。実測ピーク血漿中濃度の送達された治療薬は、ナノ粒子から(例えば、投与後)放出さ
れる作用薬と、例えば所定の時点で血漿中に留まるナノ粒子に残っている治療薬のどちら
も含む。
【0028】
他の実施形態において、開示されるナノ粒子は、患者に投与すると、患者に単独で投与
した場合の治療薬のAUCと比較して、少なくとも100%、少なくとも200%又は約
100〜約500%又はそれ以上増加された薬物血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)を
提供する。他の実施形態において、開示されるナノ粒子を含む提供される組成物は投与す
ると、治療薬を単独で投与した場合の患者のVzと比較して、分布作用薬の分布容積(Vz
)を少なくとも10%又は少なくとも20%又は約10〜約100%減少させる。例えば
、提供されるナノ粒子組成物は、血漿容積と同じ桁である患者におけるVz、かつ/又は
約10×血漿容積未満の分布容積を提供し得る。例えば、開示されるナノ粒子組成物は、
約2×血漿容積以下又は約8×血漿容積以下であるVzを提供し得る。一実施形態におい
て、開示されるナノ粒子組成物は、血漿容積とおよそ同じ大きさである患者におけるVz
を提供し(例えば、例示的な70kgの患者では約5L)、例えば、およそのVzは、投
与されたナノ粒子が実質的に患者の血漿中にあり他の組織には実質的にはないことを意味
する。
【0029】
一部の実施形態において、開示されるナノ粒子は、制御された多孔性を有するポリマー
マトリックス及び/又は溶解すると標的化領域のすぐ近くに治療薬を放出する可溶性シェ
ル又はマトリックスへの治療薬のカプセル封入に基づく薬物送達賦形剤として使用するこ
とができる。ポリマーシェル又はマトリックスにより提供される治療薬の保護によって、
水不溶性又は不安定性の治療薬を送達することが可能となる。さらに、ポリマーの溶解キ
ネティクスは、標的に治療薬の徐放を長時間提供するように設計することができる。
【0030】
開示されるナノ粒子は、制限されないが、薬物送達、遺伝子治療、医学的診断などの様
々な用途及び癌、病原菌感染疾患、ホルモン関連疾患、臓器移植に伴う反応副産物及び他
の異常細胞又は組織増殖の医学的治療に使用することができる。
【0031】
一実施形態において、例えば、開示されるナノ粒子を用いて、癌、例えば固形腫瘍癌、
前立腺癌、乳癌又は肺癌を患う患者、例えば哺乳動物を治療する方法が本明細書において
提供される。しかしながら、開示されるナノ粒子を用いて治療されることが意図される疾
患は、広範囲の疾患を含み、例えば、その治療薬、その疾患に対するマーカー及び/又は
ターゲティングリガンドの利用可能性によってのみ制限が見出される。
【0032】
他の実施形態において、コロイド不安定性、凝集、ナノ粒径の多分散性及び形状、膨潤
及びカプセル封入された物質の漏出を軽減するナノ粒子送達システムが提供される。
【0033】
さらに他の実施形態において、カプセル化効率を示す、治療薬を送達するためのナノ粒
子が提供される。カプセル化効率は、例えば、担体マトリックスとして用いられるポリマ
ーの材料特性、カプセル化される治療薬の化学的及び物理的性質及びナノ粒子製造プロセ
スで使用される溶媒の種類などの因子によって影響を受ける。
【0034】
さらに他の態様において、粒子の不均一性を示す、治療薬を送達するためのポリマーナ
ノ粒子が提供される。従来のポリマーナノ粒子製造技術は一般に、ポリマーと薬物分子の
両方をナノ沈殿させる間に自己凝集の結果として、多峰性粒径分布を提供する。
【0035】
一実施形態において、バースト放出作用を低減又は除去し得る、治療薬を送達するため
のポリマーナノ粒子が提供される。従来のポリマーナノ粒子担体は、二峰性薬物放出パタ
ーンを示すことが多く、カプセル化薬物の約40〜80%まで又はそれ以上が、最初の数
時間に放出される。24〜48時間後、ポリマーマトリックス内の深部に位置する薬物分
子の拡散バリアが増加するため、薬物放出は著しく減少する。かかる従来のナノ粒子担体
システムでは、カプセル化が不完全な薬物分子は、溶液中に急速に拡散し、それによって
生体内で(in vivo)著しい毒性が引き起こされる。さらに、排出されたナノ粒子が標的
化部位(例えば、腫瘍組織)に到着し、蓄積する頃までに、ナノ粒子には一般に、治療有
効性はほとんど又は全く残っていない。
【0036】
一実施形態において、細網内皮系(RES)による急速な捕捉を回避し、それによって
、循環時間が長時間となり、血液中のナノ粒子の濃度が高くなる、治療薬を送達するため
のポリマーナノ粒子が提供される。急速な捕捉及び排出は通常、血液血清中に存在するオ
プソニンタンパク質が従来のナノ粒子に急速に結合し、設計された治療的機能を果たす前
に、マクロファージがこれらの粒子を容易に認識し、除去することが可能となる、オプソ
ニン作用のプロセスによって引き起こされる。ナノ粒子表面でのオプソニン吸着の程度及
び性質及びその同時血液クリアランスは、サイズ、表面荷電及び表面疎水性などの粒子の
物理化学的性質に応じて異なる。さらに他の実施形態において、生分解性及び/又は生体
適合性ポリマーマトリックスと、生分解性及び/又は生体適合性ポリマーマトリックスに
結合した治療薬と、を含むナノ粒子組成物が提供され、生分解性及び/又は生体適合性ポ
リマーマトリックスに結合した前記治療薬のクリアランス速度は、単独で投与された前記
治療薬のクリアランス速度よりも低い。
【0037】
特定の実施形態において、RESによる取り込みを回避するために、ナノ粒子をマスク
又はカムフラージュする方法が提供される。かかる一方法は、ポリ(エチレングリコール
)(PEG)又はPEG含有界面活性剤などのポリエーテルが、ナノ粒子表面に配置され
る、粒子のエンジニアリングである。例えば、ナノ粒子表面のPEG及び/又はPEG含
有コポリマーの存在によって、ナノ粒子の血液循環半減期が数桁増加する。この方法は、
立体反発力によってオプソニンタンパク質の吸収を跳ね返すことができ、その結果、オプ
ソニン作用プロセスにおける最初の段階をブロックし、遅らせる、ナノ粒子周囲の親水性
保護層を作る。
【0038】
図1は、本発明の一態様によるナノ粒子を概略的に図示する。図1に示されるように、
ドセタキセル100、ホルモン抵抗性前立腺癌(HRPC)の治療に認可されている抗腫
瘍薬は、生分解性及び/又は生体適合性ポリマーPLA及びポリ(ラクチド−b−エチレ
ングリコール)(PLA−PEG)から誘導されるマトリックス110にカプセル化され
る。ポリマーマトリックス110は、リジン−尿素−グルタミン酸ヘテロ二量体(S,S
−2−{3−[1−カルボキシ−5−アミノ−ペンチル]−ウレイド}−ペンタン二酸(
lys(尿素)glu)130で末端官能化(5アミノ部位によって)されているターゲ
ティングポリマー(PLA−PEG−lys(尿素)glu)120、PSMAに選択的
に結合する小分子リガンド、臨床的に関連する前立腺癌細胞表面マーカーを含有する。
【0039】
例えば、本明細書で提供されるナノ粒子が投与されると、ナノ粒子ポリマー(1種又は
複数種)の少なくとも一部が、例えば酵素活性又は細胞機構によって、モノマー及び/又
は細胞が使用又は排出する他の部位へと生物学的に分解される。本発明の特定の態様にお
いて、ナノ粒子の溶解又は分解速度は、ポリマーシェル又はマトリックスの組成によって
影響を受ける。例えば、一部の実施形態において、ポリマーの半減期(そのポリマーの5
0%がモノマー及び/又は他の非ポリマー部位へと分解される時間)は、ポリマーに応じ
て、日数、週数、月数又は年数のオーダーである。
【0040】
本発明の一部の態様に従って、水の取り込み、治療薬の放出制御及びポリマー分解キネ
ティクスなどのナノ粒子送達特性が、ポリマーシェル又はマトリックス組成物の選択によ
って最適化される。
【0041】
開示されるナノ粒子のいくつかを形成し得る適切なポリマーとしては、限定されないが
、生分解性α−ヒドロキシポリエステル及び生体適合性ポリエーテルが挙げられる。一部
の態様において、例示的なポリエステルとしては、例えば、PLA、PLGA、PEG、
PEO、ペグ化ポリマー及びラクチドとグリコリドのコポリマー(例えば、ペグ化PLA
、ペグ化PGA、ペグ化PLGA)及びその誘導体が挙げられる。他の態様において、適
切なポリマーとしては、例えば、ポリ無水物、ポリ(オルトエステル)、ペグ化ポリ(オ
ルトエステル)、ポリ(カプロラクトン)、ペグ化ポリ(カプロラクトン)、ポリリジン
、ペグ化ポリリジン、ポリ(エチレンイミン)、ペグ化ポリ(エチレンイミン)、ポリ(
L−ラクチド−co−L−リジン)、ポリ(セリンエステル)、ポリ(4−ヒドロキシ−
L−プロリンエステル)、ポリ[a−(4−アミノブチル)−L−グリコール酸]、なら
びにその組み合わせ及び誘導体が挙げられる。
【0042】
他の態様において、ポリマーマトリックスは、1つ又は複数のアクリルポリマーを含み
得る。例示的なアクリルポリマーとしては、例えば、アクリル酸及びメタクリル酸コポリ
マー、メチルメタクリレートコポリマー、エトキシエチルメタクリレート、シアノエチル
メタクリレート、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ポリ(アクリル酸)、ポリ
(メタクリル酸)、メタクリル酸アルキルアミドコポリマー、ポリ(メチルメタクリレー
ト)、ポリ(メタクリル酸ポリアクリルアミド)コポリマー、アミノアルキルメタクリレ
ートコポリマー、グリシジルメタクリレートコポリマー、ポリシアノアクリレート及びそ
の組み合わせが挙げられる。マトリックスとしては、デキストラン、アシル化デキストラ
ン、キトサン(例えば、様々なレベルにアセチル化された)、ポリ(ビニル)アルコール
(例えば、様々な程度に加水分解された)及び/又はアルジネート、例えば、アルギン酸
カルシウム錯体など、二価カチオンと錯化されたアルジネートが挙げられる。
【0043】
本明細書で開示されるナノ粒子としては、1種類、2種類、3種類以上の生体適合性及
び/又は生分解性ポリマーが挙げられる。例えば、意図されるナノ粒子は、生分解性ポリ
マー及びポリエチレングリコールを含む1種又は複数種のブロックコポリマーを約10〜
約99重量%、生分解性ホモポリマーを約0〜約50重量%含有し得る。例示的な治療的
ナノ粒子は、ポリ乳酸−ポリ(エチレン)グリコールコポリマー約40〜約90重量%又
はポリ乳酸−ポリ(エチレン)グリコールコポリマー約40〜約80重量%を含み得る。
かかるポリ乳酸−ブロック−ポリ(エチレン)グリコールコポリマーは、数平均分子量約
15〜20kDa(又は、例えば約15〜約100kDa、例えば約15〜約80kDa
)を有するポリ(乳酸)及び数平均分子量約2〜約10kDa、例えば約4〜約6kDa
を有するポリ(エチレン)グリコーを含み得る。例えば、開示される治療的ナノ粒子は、
PLA−PEG約70〜約90重量%、作用薬(例えば、ドセタキセル)約5〜約25重
量%又はPLA−PEG約30〜約50重量%、PLA又はPLGA約30〜約50重量
%及び作用薬約5〜約25重量%(例えば、doxetaxel)を含み得る。かかるPLA((
ポリ)乳酸)は、数平均分子量約5〜約10kDaを有し得る。かかるPLGA(ポリ酪
酸−co−グリコール酸)は、数平均分子量約8〜約12kDaを有し得る。開示される
PLA−PEGコポリマーは、PLAブロックとPEGブロック間の化学的リンカー、オ
リゴマー又はポリマー鎖を含み得て、例えば、PLA−リンカー−PEGを含み得ること
を理解されたい。
【0044】
例えば、開示されるナノ粒子は、作用薬約10〜15重量%(例えば、ドセタキセル約
10重量%)、PLA−PEG(例えば、PLA約16kDa及びPEG約5kDa)約
86〜約90重量%(例えば、PLA−PEG(16kDa/5kDa)約87.5%)
、任意に例えば、PLA−PEG−lys(尿素)−glu(例えば、2.5重量%にて
)を含有し得る。
【0045】
その代わりとして、緩効性を有し得る開示されるナノ粒子は、PLA−PEG(例えば
、PLA約16kDa及びPEG約5kDa)約42〜約45重量%、(例えば、PLA
−PEG43.25%)、PLA約42〜45重量%(例えば、約75kDa)(例えば
、PLA(75kDa)43.25%)及び作用薬約10〜15重量%(例えば、ドセタ
キセル)を含み得る。例えば、開示されるナノ粒子は任意に、ポリ乳酸又はポリ乳酸−c
o−ポリ(グリコール)酸(PEG、例えばPLAのホモポリマーを含まない)約1〜約
50重量%を含むか又は任意に、ポリ乳酸又はポリ乳酸−co−ポリ(グリコール)酸約
1〜約50重量%又は約10〜約50重量%又は約30〜約50重量%を含む。一実施形
態において、開示されるナノ粒子は、2種類のポリマー、例えばPLA−PEG及びPL
Aを重量比約30:60〜約60:30、例えば約40:60、約60:40又は約50
:50で含み得る。
【0046】
かかる実質的にホモポリマーのポリ乳酸又はポリ乳酸−co−ポリグリコール酸は、重
量平均分子量約10〜約130kDa、例えば、約20〜約30kDa又は約100〜約
130kDaを有し得る。かかるホモポリマーのPLAは、数平均分子量約5〜約90k
Da又は約5〜約12kDa、約15〜約30kDa又は約60〜約90kDaを有し得
る。例示的なホモポリマーのPLAは、数平均分子量約80kDa又は重量平均分子量約
124kDaを有し得る。当技術分野で知られるように、ポリマーの分子量は、インヘレ
ント粘度に関連する。一部の実施形態において、ホモポリマーPLAは、インヘレント粘
度約0.2〜約0.4、例えば約0.3を有し;他の実施形態において、PLAは、イン
ヘレント粘度約0.6〜約0.8を有し得る。例示的なPLGAは、数平均分子量約8〜
約12kDaを有し得る。
【0047】
他の実施形態において、修飾表面の化学的性質及び/又は開示されるナノ粒子の小粒子
サイズは、治療薬の送達におけるナノ粒子の有効性に寄与する。例えば、開示される一態
様において、ナノ粒子表面電荷を修飾して、ゆっくりとした生分解を達成し、ナノ粒子の
クリアランスを低減することができる。他の態様において、ポリマーシェル又はマトリッ
クスの多孔率を最適化し、治療薬の長時間かつ制御された放出が達成される。例えば、本
発明の一実施形態において、ナノ粒子は、範囲約10〜約90%の多孔率及び/又は範囲
約0.001〜約0.01ミクロンの細孔直径を有し得る。さらに、理論によって束縛さ
れることなく、そのサイズが小さく、循環に残留することから、本発明の一部の実施形態
によるナノ粒子は、向上した透過及び保持(EPR)作用によって、腫瘍の変化した、し
ばしば損なわれた脈管構造に浸透することができ、その結果、腫瘍間質にナノ粒子が優先
的に蓄積する。
【0048】
開示されるナノ粒子の一部を形成する治療薬の例としては、限定されないが、化学療法
薬(例えば、抗癌剤)、診断剤(例えば、造影剤、放射性核種及び蛍光、発光及び磁性部
位)、予防薬(例えば、ワクチン)、栄養補助剤(例えば、ビタミン及びミネラル)、核
酸(例えば、siRNA、RNAi及びミクロRNA剤)、タンパク質(例えば、抗体)
、ペプチド、脂質、炭水化物、ホルモン、小分子、金属、セラミック、薬物、ワクチン、
免疫剤及び/又はその組み合わせが挙げられる。例えば、作用薬又は薬物は、抗腫瘍薬な
どの治療薬、例えばmTor阻害剤(例えば、シロリムス(ラパマイシン)、テムシロリ
ムス又はエベロリムス)、ビンクリスチンなどのビンカアルカロイド、ジテルペン誘導体
、パクリタキセル(又は、DHA−パクリタキセルもしくはPG−パシリタキセルなどの
その誘導体)、ドセタキセル又はメタトレキセート(methatrexate)などのタキサンであ
ることができる。
【0049】
本発明の一部の態様において、送達される治療薬は、癌(例えば、固形腫瘍癌、例えば、前立腺又は乳癌)の治療において有用な作用薬(agent)である。かかる治療薬としては、例えば、ドキソルビシン(アドリアマイシン)、ゲムシタビン(ジェムザール)、ダウノルビシン、プロカルバジン、マイトマイシン、シタラビン、エトポシド、メトトレキセート、5−フルオロウラシル(5−FU)、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ブレオマイシン、パクリタキセル(タキソール)、ドセタキセル(タキソテール)、ミトキサントロン、ミトキサントロン塩酸塩、アルデスロイキン、アスパラギナーゼ、ブスルファン、カルボプラチン、クラドリビン、カンプトテシン、CPT−II、10−ヒドロキシ−7−エチルカンプトテシン(SN38)、ダカルバジン、S−Iカペシタビン、ftorafur、5’デオキシフルロウリジン、UFT、エニルウラシル、デオキシシチジン、5−アザシトシン、5−アザデオキシシトシン、アロプリノール、2−クロロアデノシン、トリメトレキサート、アミノプテリン、メチレン−10−デアザアミノプテリン(MDAM)、オキサプラチン、ピコプラチン、テトラプラチン、サトラプラチン、白金−DACH、オルマプラチン、CI−973、JM−216及びその類似体、エピルビシン、リン酸エトポシド、9−アミノカンプトテシン、10,11−メチレンジオキシカンプトテシン、カレニテシン、9−ニトロカンプトテシン、TAS 103、ビンデシン、L−フェニルアラニンマスタード、イフォスファミドメフォスファミド(ifosphamidemefosphamide)、ペルフォスアミド、トロフォスファミド(trophosphamide)、カルムスチン、セムスチン、エポシロンA−E、トムデックス(tomudex)、6−メルカプトプリン、6−チオグアニン、アムサクリン、リン酸エトポシド、カレニテシン、アシクロビル、バラシクロビル、ガンシクロビル、アマンタジン、リマンタジン、ラミブジン、ジドブジン、ベバシズマブ、トラスツズマブ、リツキシマブ及びその組み合わせが挙げられる。
【0050】
一部の実施形態において、意図されるナノ粒子は、1種類を超える治療薬を含み得る。
例えば、ターゲティング部位は、被検者の特定の標的に薬物を含有するナノ粒子を方向づ
けることから、かかるナノ粒子は、かかる部位をモニターすることが望ましい態様におい
て有用である。
【0051】
開示されるナノ粒子は、例えば図2でブロック図として表されるエマルジョンプロセス
を用いて形成される。図2に示されるように、酢酸エチルとベンジルアルコールの共溶媒
混合物に溶解されたドセタキセル、PLA、PLA−PEG及びPLA−PEG−lys
(尿素)gluを含有する有機ポリマー/薬物溶液は、コール酸ナトリウム、酢酸エチル
及びベンジルアルコールの水溶液に分散されて、粗いエマルジョンが形成される。一部の
態様において、エマルジョンプロセスが行われる条件は、粒子表面に対するPEG及び/
又はPEG−lys(尿素)gluポリマー鎖の配向に有利である。他の態様において、
配向は、ナノ粒子ポリマーシェル又はマトリックス内でPEGが折り畳まれる場合に達成
される。
【0052】
図2に示されるように、粗いエマルジョンを高圧ホモジナイザーに通して、液体粒子サ
イズを低減し、微細なエマルジョンが形成される。ポリソルベート80を含有する冷水の
過剰量のクエンチ溶液にその微細なエマルジョンを希釈する。ポリソルベート80の存在
は、ナノ粒子に封入されていない余分な治療薬を除去するのに役立つ。本発明の一部の態
様において、ポリソルベート80は、ナノ粒子表面に付着されるか又はナノ粒子表面に結
合される。理論によって束縛されないが、ナノ粒子表面に結合したポリソルベート80は
、治療薬の放出制御及びポリマー分解キネティクスなどの特性に影響を及ぼす。クエンチ
は、少なくとも部分的に、温度約5℃以下で行われる。例えば、クエンチで使用される水
は、室温未満(例えば、約0〜約10℃又は約0〜約5℃)の温度である。
【0053】
一部の実施形態において、この段階ですべての治療薬(例えば、ドセタキセル)が粒子
に封入されるわけではなく、薬物可溶化剤をクエンチ相に添加し、可溶化相が形成される
。薬物可溶化剤は、例えば、Tween80、Tween20、ポリビニルピロリドン、
シクロデキストラン、ドデシル硫酸ナトリウム、コール酸ナトリウムである。例えば、T
ween80は、クエンチされたナノ粒子懸濁液に添加され、遊離薬物を可溶化し、薬物
結晶の形成を防ぐ。一部の実施形態において、薬物可溶化剤と治療薬(例えば、ドセタキ
セル)の比は、約100:1〜約10:1である。
【0054】
酢酸エチル及びベンジルアルコールは有機相液滴から抽出され、その結果、硬化したナ
ノ粒子懸濁液が形成される。例えば、ドセタキセル又は他の作用薬は、例えば、ナノ粒子
1個当たり10,000個を超える薬物分子に相当する、10重量%のローディングレベ
ルでカプセル化される。
【0055】
ナノ粒子懸濁液は、冷水で接線フロー限外濾過/ダイアフィルトレーション(UF/D
F)を用いて処理され、加工助剤が除去され、ナノ粒子は目的の値に濃縮される。洗浄さ
れていないナノ粒子懸濁液中に存在する残留前駆物質及び余分な有機物質は、生物医学的
適用への有害な影響ならびに生理学的システムへの望ましくない毒性作用を有し得る。次
いで、洗浄されたナノ粒子懸濁液をプレフィルター及び少なくとも2つの滅菌グレードフ
ィルターに通す。
【0056】
ナノ粒子が製造された後、それを許容可能な担体と合わせて、本発明の他の態様に従っ
て医薬製剤が製造される。当業者には理解されるように、担体は、限定されないが、投与
経路、標的化患部組織の位置、送達される治療薬及び/又は治療薬送達の時間経過などの
因子に基づいて選択される。例えば、図2に示されるように、濃縮ショ糖溶液を無菌的に
、無菌ナノ粒子懸濁液に添加し、医薬製剤が製造される。ショ糖は、凍結保護物質及び張
性剤(tonicity agent)としての役割を果たす。この実施形態において、得られる医薬製
剤は、生体適合性及び生分解性ポリマーで構成されるナノ粒子に封入されたドセタキセル
の無菌、水性、注射可能な懸濁液である。懸濁液は、ドセタキセル含有率についてアッセ
イされ、所望の濃度に無菌で希釈される。一部の実施形態において、粒子懸濁液は、ガラ
スバイアルに無菌で充填され、密閉される。他の実施形態において、バルク製剤懸濁液は
、バイアルに充填される前に−20±5℃で凍結保存される。
【0057】
本発明のナノ粒子の製造方法は、所望の薬物送達の特徴を達成するために、一部の実施
形態において変更される。例えば、表面の機能性、表面電荷、粒径、ゼータ(ζ)電位、
疎水性、放出制御能力及び免疫原性を制御する能力等のナノ粒子の特性は、様々な治療薬
の有効な送達のために最適化することができる。さらに、図2に示すエマルジョンプロセ
スに従って製造される長時間循環性ナノ粒子は十分に分散され、凝集せず、それによって
、ターゲティング部位とナノ粒子表面との結合又はターゲティング部位でのナノ粒子表面
の機能化が容易になる。
【0058】
開示されるナノ粒子は、任意のターゲティング部位を含み、その部位は、ナノ粒子が確
実に、選択されるマーカー又は標的に選択的に付着又は結合するように選択される。例え
ば、一部の実施形態において、開示されるナノ粒子は、被検者における前立腺癌の治療に
有効な量のターゲティング部位(例えば、低分子量PSMAリガンド)で機能化される。
ナノ粒子表面のかかるターゲティング部位での機能化によって、ナノ粒子は、標的化部位
でのみ有効であり、それによって有害な副作用が最小限に抑えられ、有効性が向上する。
標的化送達によって、低用量の治療薬の投与も可能となり、従来の疾患治療に一般に付随
する望ましくない副作用を減らすことができる。
【0059】
特定の態様において、例えば有効量のターゲティング部位が、治療薬を送達するための
ナノ粒子と結合するように、ナノ粒子表面にて特定の密度のターゲティング部位で開示さ
れるナノ粒子を最適化することができる。例えば、ターゲティング部位で機能化された生
分解性及び/又は生体適合性ポリマーマトリックスの分率は、全体の80%未満である。
他の実施形態に従って、ターゲティング部位で機能化された生分解性及び/又は生体適合
性ポリマーマトリックスの分率は、全体の約50%未満である。一部の実施形態では、タ
ーゲティング部位の密度が増加すると、標的結合(細胞結合/標的取り込み)が増加する
【0060】
例示的なターゲティング部位としては、例えば、タンパク質、ペプチド、抗体、抗体断
片、サッカリド、炭水化物、グリカン、サイトカイン、ケモカイン、ヌクレオチド、レク
チン、脂質、受容体、ステロイド、神経伝達物質及びその組み合わせが挙げられる。マー
カーの選択は、選択される標的に応じて異なるが、本発明の実施形態において有用であり
得るマーカーとしては、限定されないが、細胞表面マーカー、癌抗原(CA)、糖タンパ
ク質抗原、黒色腫関連抗原(MAA)、タンパク質分解酵素、血管形成マーカー、前立腺
特異的膜抗原(PMSA)、小細胞肺癌抗原(SCLCA)、ホルモン受容体、腫瘍抑制
遺伝子抗原、細胞周期制御因子抗原、増殖マーカー及びヒト癌抗原が挙げられる。例示的
なターゲティング部位としては、PEGにコンジュゲートされる、
−lys−(尿素)gluが挙げられ、例えば、開示されるナノ粒子は、PLA−PEG
−ターゲティング部位、例えば、S,S−2−{3−[1−カルボキシ−5−アミノ−ペ
ンチル]−ウレイド}−ペンタン二酸が挙げられる。例えば、開示されるナノ粒子は、作
用薬(例えば、ドセタキセル)約10〜15重量%、PLA−PEG(例えば、PLA約
16kDa及びPEG約5kDaを)約86〜約90重量%及びPLA−PEG−lys
(尿素)glu(PLA−PEG16kDa/5kDa)約2〜約3重量を含み得る。そ
の代わりとして、開示されるナノ粒子は、PLA−PEG(例えば、PLA約16kDa
及びPEG約5kDa)約42〜約45重量%、PLA(例えば、約75kDa)約42
〜45重量%、作用薬(例えば、ドセタキセル)約10〜15重量%及びPLA−PEG
−lys(尿素)glu(PLA−PEG
16/5)約2〜約3重量%を含み得る。
【0061】
本発明の他の態様において、ターゲティング部位は、患者の免疫システムの疾患又は病
原菌感染症状に関連する抗原に対して標的化される。さらに他の態様において、ターゲテ
ィング部位は、正常な健康状態に存在する細胞に標的化される。かかるターゲティング部
位は、分子又は他の標的に直接標的化されるか又は状態に関係する生体分子経路に関連す
る分子又は他の標的に間接的に標的化される。
【0062】
患者に投与されるナノ粒子の量は、患者のサイズ、年齢及び健康状態、送達される治療
薬、治療される疾患及び患部組織の位置に応じて、変動し、異なる。さらに、投薬量は、
投与形式に応じて異なる。
【0063】
種々の投与経路が本明細書において意図される。特定の態様において、ナノ粒子は、被
検者に全身投与される。さらに、一部の態様において、投与法としては、限定されないが
、血管内注射、静脈内注射、腹腔内注射、皮下注射及び筋肉内注射が挙げられる。本発明
の他の態様に従って、ナノ粒子には、疾患の有効な治療を提供するために1回のみの又は
ほんの数回の治療セッションが必要であり、最終的には患者のコンプライアンスの助けと
なる。例えば、一部の態様において、ナノ粒子の投与は、3週間毎に1回、静脈内注入で
行われる。
【0064】
固形腫瘍、例えば前立腺癌、肺癌、乳癌又は他の癌を治療する方法であって、開示され
るナノ粒子組成物を患者、例えばその必要がある哺乳動物に投与することを含む方法も、
本明細書で意図される。例えば、かかる投与後に、例えば、投与して少なくとも12時間
、24時間、36時間又は48時間以上の後、固形腫瘍は、有意な濃度の治療薬を有し、
(例えば、同じ投薬量の)治療薬(例えば、開示されるナノ粒子組成物中にない)を単独
で投与した後の腫瘍中に存在する量と比較して、作用薬(例えば、ドセタキセル)の少な
くとも約20%又は少なくとも約30%以上の腫瘍中の薬物濃度の増加を有し得る。
【0065】
それぞれがα−ヒドロキシポリエステル−co−ポリエーテルと治療薬とを含む、複数
のナノ粒子を含むナノ粒子組成物を投与することを含む、哺乳動物における固形腫瘍を治
療する方法であって、その組成物は、前記腫瘍の成長を抑制するのに有効な量の治療薬を
有し、例えば、前記組成物の単回投与によって、少なくとも1日の間、前記治療薬が徐放
される方法が本明細書において開示される。かかる方法は、非ナノ粒子製剤で投与した場
合の前記治療薬のCmaxよりも少なくとも10%高い又は少なくとも20%高い又は10
0%以上高い、哺乳動物に組成物を投与した後の治療薬の実測ピーク血漿中濃度(Cmax
)を提供する。開示される方法は、ナノ粒子を投与すると、治療薬が単独で患者に投与さ
れた場合に得られるAUCと比較して、少なくとも100%増加する、患者における薬物
血漿中濃度時間曲線下面積(AUC)を提供する。一部の実施形態において、開示される
方法は、さらに、単独で又は上記の血漿パラメーターに加えて、治療薬が単独で投与され
た場合の患者のVzと比較して、投与すると治療薬の分布容積(Vz)を少なくとも50%
低減する。
【0066】
患者における作用薬又は治療薬の有害な副作用又は毒性を最小限にする方法もまた、本
明細書において提供される。例えば、開示されるナノ粒子は投与すると、等しい投薬量の
治療薬を単独で投与した場合と比較して、治療薬の高い血漿中濃度を提供する。しかしな
がら、一部の実施形態において、投与すると、開示されるナノ粒子は、実質的には血管区
画で循環し、したがって毒性又は有害な副作用を生じる他の領域に著しく寄与しない。
【0067】
本明細書で開示される本発明がより効率的に理解されるように、実施例を以下に提供す
る。これらの実施例は、説明的な目的でのみ記載されており、決して本発明を限定するも
のとして解釈されるべきではないことを理解されたい。
【実施例】
【0068】
実施例1 ナノ粒子からのドセタキセルの生体外(In
Vitro)放出
PLA−PEG87.5重量%、ドセタキセル10重量%及びドセタキセル2.5重量
%(配合物A)(これらの実施例で使用されるすべてのドセタキセルナノ粒子配合物は、
ナノ粒子5%、水65%、ショ糖30%の組成である)を使用して、図2及び実施例12
で示されるエマルジョンプロセスに従って製造されたナノ粒子に封入されたドセタキセル
の懸濁液を透析カセットに入れ、37℃で攪拌しながらリン酸緩衝食塩水(PBS)のレ
ザバー内でインキュベートした。透析液の試料を収集し、逆相高性能液体クロマトグラフ
ィー(HPLC)を使用して、ドセタキセルについて分析した。比較のために、従来のド
セタキセルを同一手順で分析した。
【0069】
図3は、従来のドセタキセルと比較した、ナノ粒子に封入されたドセタキセルの生体外
放出プロファイルを表す。ポリマーマトリックスからのカプセル化ドセタキセルの放出は
、最初の24時間にわたって本質的に直線的であり、残りは徐々に、約96時間にわたっ
て放出された。
【0070】
実施例2 ナノ粒子に封入されたドセタキセルと従来のドセタキセルのSDラットにおけ
る単回投与の薬物動態的研究
尾静脈を介してナノ粒子に封入されたドセタキセル又は従来のドセタキセルを単回ボー
ラス投与量(ドセタキセル5mg/kg)で6〜8週齢の雄のSDラットに投与した。投
与群は、それぞれ6匹のラットからなる。血液は、投与して0.083、0.5、1、2
、3、4、6及び24時間後に採取し、血漿へと処理した。メチルt−ブチルエーテル(
MTBE)で抽出した後、血漿中の総ドセタキセル濃度を、液体クロマトグラフィー質量
分析(LC−MS)法によって測定した。MTBE抽出は、ナノ粒子に封入されたドセタ
キセルをナノ粒子から血漿中に放出されたドセタキセルと区別せず、したがって、LC−
MSデータでは、その2つは区別されない。
【0071】
図4及び実施例の表2.1は、ナノ粒子に封入されたドセタキセルと従来のドセタキセ
ルそれぞれの、観察された薬物動態的プロファイル及び薬物動態的パラメーターを表す。
実施例の表2.1はさらに、比較参照のためのTAXOTERE(登録商標)の前臨床開
発からのデータを含む(Bissery et al. 1995)。従来のドセタキセルの結果は、文献(B
issery et al. 1995)に報告される結果と一致し、ドセタキセルが血液から迅速に排出さ
れ、組織に分布されたことを示している。ピーク血漿中濃度(Cmax)は、すべての治療
に関して最初のサンプリング時点で観察された。
【0072】
ナノ粒子に封入されたドセタキセルのCmax及びAUCは、従来のドセタキセルよりも
約100倍高かった。Cmaxの差は、従来のドセタキセルの最初の急速な組織分布を免れ
たことに起因し得る。このデータから、ナノ粒子に封入されたドセタキセルは注入される
と、大部分が循環に残り、24時間にわたってゆっくりと排出されることが示されている
。このデータはさらに、ドセタキセルがナノ粒子から24時間の間、制御様式で放出され
ることを示している(例えば、急速なバースト放出は認められない)。ナノ粒子が循環か
ら非常に急速に排出される場合には、AUCの大きな増加は認められない。同様に、ナノ
粒子からのドセタキセルの急速なバースト放出があった場合、薬物動態的プロファイルは
、従来のドセタキセルのプロファイルと、よりよく似ていると推測される。
【0073】
【表1】
aそれぞれの処置に関して、tmaxは、最初のサンプリング時間に等しい。
b研究時間は6時間であった。
c半減期は、2〜12時間から決定された。
【0074】
実施例3 SDラットにおけるナノ粒子に封入されたドセタキセル及び従来のドセタキセ
ルの組織分布研究
6〜8週齢の雄のSDラットに、以下の:(1)PLA−PEG−lys(尿素)gl
uターゲティングポリマーのリガンドが14C標識されている、ナノ粒子に封入されたドセ
タキセル、(2)カプセル化ドセタキセルが14C標識されている、ナノ粒子に封入された
ドセタキセル、(3)14C標識された従来のドセタキセル、のうちの1つを単回ボーラス
静脈内投与した。
【0075】
投与して1、3、6、12及び24時間後に血液を採取し、血漿へと処理した。血液を
採取した直後に、ラットをCO2窒息によって安楽死させ、組織をすぐに採取し、ブロッ
トし、計量し、ドライアイスで凍結した。液体シンチレーション(LS)計数法によって
放射能に関して分析するまで、組織試料を凍結保存(約−70℃)した。
【0076】
図5に示すように、ナノ粒子に封入されたドセタキセルは徐々に、血漿から排出され、
研究された24時間の期間にわたって血漿中濃度の約2倍の減少を示した。これらの結果
は、粒子配合物でしばしば観察されるクリアランスに比べて、単核食細胞系(MPS)を
介したナノ粒子クリアランスが制限されている又は遅れていることを表している。理論に
束縛されることなく、血漿クリアランス時間のこの差は、粒径及び表面特性(例えば、表
面電荷及び多孔率)などの特定のナノ粒子特性に起因し得る。
【0077】
ナノ粒子に封入されたドセタキセル及び従来のドセタキセルの血漿プロファイルの違い
から、ナノ粒子中にドセタキセルを封入することによって、血漿区画からドセタキセルが
急速に分布するのを防ぎ、その結果、従来のドセタキセルと比べてCmax及びAUC値が
有意に高くなることが示されている。
【0078】
PLA−PEG−lys(尿素)gluターゲティングポリマーのリガンドが14C標識
された、ナノ粒子に封入されたドセタキセルと、カプセル化ドセタキセルが14C標識され
た、ナノ粒子に封入されたドセタキセルとのプロファイルの差は、ナノ粒子のポリマーマ
トリックスからのドセタキセルの放出制御を表す。ドセタキセルがナノ粒子から非常に急
速に放出された場合、血漿から急速に分布され、従来のドセタキセルと同様なプロファイ
ルが得られると推測される。逆に、ドセタキセルがこの時間枠にわたってナノ粒子中に保
持された場合、PLA−PEG−lys(尿素)gluターゲティングポリマーのリガン
ドが14C標識された、ナノ粒子に封入されたドセタキセルと、カプセル化ドセタキセルが
14C標識された、ナノ粒子に封入されたドセタキセルのプロファイルは、重ね合わせるこ
とができる。
【0079】
実施例の表3.1、3.2及び3.3は、(1)PLA−PEG−lys(尿素)gl
uターゲティングポリマーのリガンドが再標識された、ナノ粒子に封入されたドセタキセ
ル、(2)カプセル化ドセタキセルが14C標識された、ナノ粒子に封入されたドセタキセ
ル、(3)14C標識された従来のドセタキセルのそれぞれを静脈内(IV)投与した後に
、ラットにおいて決定された放射能の組織分布を表す。実施例の図5は、血漿、肝臓、脾
臓及び骨髄で決定された被験物質の放射能濃度曲線を含む。
【0080】
脾臓を除いて、血漿に対してすべての組織において、低レベルのナノ粒子(つまり、14
C標識されたターゲティングポリマーからの放射能)が検出され、ナノ粒子濃度は、12
時間及び24時間の時点で血漿よりも高かった。組織から全血を採取していないため、組
織中の放射能がどの程度、組織自体に対して組織内に含有される血液中の含有量を反映し
ているか決定することができない。
【0081】
投与後すぐの時点では、ナノ粒子に封入されたドセタキセルの濃度は、従来のドセタキ
セルよりも大部分の組織において高かった。24時間後、ナノ粒子から誘導されるドセタ
キセルの濃度は、脾臓を除いて、評価された組織すべてにおいて従来のドセタキセルの濃
度よりも低い又はほぼ同じであった。
【0082】
ナノ粒子に封入されたドセタキセルの濃度は、脾臓において初期の時点で、かつ24時
間全体を通して従来のドセタキセルよりも高かったが、ドセタキセルが添加されたナノ粒
子は、ドセタキセル投与量約10mg/kgで十分に許容された。さらに、SDラットに
おける体重の変化及び臨床的観察から、ナノ粒子に封入されたドセタキセルは、ある範囲
の急性用量(ドセタキセル5〜30mg/kg)を通して、従来のドセタキセルと同程度
に十分に許容されたことが示されている。
【0083】
【表2】
【0084】
【表3】
【0085】
【表4】
*試料はおそらく、採取/分析時に汚染された。
【0086】
実施例4 ヒト腫瘍異種移植モデル(LNCaP)における単回投与後のナノ粒子に封入
されたドセタキセル及び従来のドセタキセルの腫瘍ターゲティング
雄の重症複合免疫不全症(SCID)マウスに、ヒトLNCaP前立腺癌細胞を皮下に
接種した。接種して3〜4週間後、各群の平均腫瘍容積が300mm3であるように、マ
ウスを異なる処置群に割り付けた。この時点で、ナノ粒子に封入されたドセタキセル又は
従来のドセタキセルとして、ドセタキセル50mg/kgを静脈内(IV)に単回投与し
た。被検者を投与して2〜12時間後に屠殺した。各群からの腫瘍を切除し、液体クロマ
トグラフィー質量分析(LC−MS)を用いてドセタキセルについてアッセイした。
【0087】
ナノ粒子に封入されたドセタキセル又は従来のドセタキセルを投与された被検者から切
除された腫瘍におけるドセタキセル測定濃度を実施例4.1及び図6に示す。投与後12
時間の時点で、ナノ粒子に封入されたドセタキセルを投与された被検者における腫瘍のド
セタキセル濃度は、従来のドセタキセルを投与された被検者よりも約7倍高かった。これ
らの結果は、薬物動態的及び組織分布データだけではなく、ドセタキセルを添加したナノ
粒子が、長時間の粒子循環時間及びナノ粒子からのドセタキセルの放出制御を提供するよ
うに設計され、その結果、粒子がマーカー又は標的に標的化され、マーカー又は標的と結
合して、腫瘍に送達されるドセタキセルの量が増加される、提唱される作用メカニズムと
も一致する。
【0088】
【表5】
【0089】
実施例5 ヒト腫瘍異種移植モデル(LNCaP)における反復投与後のナノ粒子に封入
されたドセタキセル及び従来のドセタキセルの抗腫瘍活性
雄の重症複合免疫不全症(SCID)マウスに、ヒトLNCaP前立腺癌細胞を皮下に
接種した。接種して3〜4週間後、各群の平均腫瘍容積が300mm3であるように、マ
ウスを異なる処置群に割り付けた。続いて、マウスを1日おき(Q2D)に4回の投与で
処置し、8日の休みをとり、続いてさらに4回の投与をQ2Dスケジュールで行った。
【0090】
各処置群の平均腫瘍容積を実施例の図7に示す。従来のドセタキセル又はナノ粒子に封
入されたドセタキセルのいずれかで処置することによって、腫瘍容積がかなり減少した。
腫瘍容積の減少は、従来のドセタキセルに比べてナノ粒子に封入されたドセタキセルを投
与された被検者において大きかった。これらの結果から、従来のドセタキセルと比較して
、ドセタキセルを添加したナノ粒子を投与された被検者における腫瘍のドセタキセル濃度
の増加によって、より顕著な細胞障害効果が得られることが示唆されている。
【0091】
実施例6 SDラットにおけるナノ粒子に封入されたドセタキセルの急性用量範囲設定試

SDラット(30匹/性別)60匹を10の用量群に割当て(ラット3匹/性別/群)
、ナノ粒子に封入されたドセタキセル(5.7、7.5、10、15又は30mg/kg
体重)又は従来のドセタキセル(5.7、7.5、10、15又は30mg/kg体重)
を単回投与した。1日目に30分間にわたって静脈内(IV)注入することによって、治
療組成物を投与し、その後、肉眼的剖検を受ける前に、被検者を7日間観察した。
【0092】
すべての被検者は、その予定されていた剖検まで生存した。投与に潜在的に関連すると
考えられる臨床的観察には、7日間の観察期間の終わり付近に現れた立毛及び鼻及び目か
らの分泌物が含まれた。立毛は、ナノ粒子に封入されたドセタキセル15mg/kgを投
与された雄のラット1匹及び従来のドセタキセル10mg/kg以上を投与された5/9
の雄のラット及び1/9のメスのラットで認められた。臨床的徴候の出現の性質及び時間
は、ドセタキセルのような細胞毒性薬物から予想される毒性と一致した。鼻及び目の分泌
物は、用量レベル、被験物質、動物の性別又は投与後の時間に関連のないパターンで現れ
、この臨床的徴候は、ドセタキセル及び/又は投与処置からのストレスに関係する可能性
があると考えられた。実施例の表6.1に示されるように、従来のドセタキセル又はナノ
粒子に封入されたドセタキセルのいずれかを投与された雄及び雌のラットは一般に、体重
増加の軽微な不利点又はドセタキセル毒性によるものと考えられる実際の体重減少を示し
た。この試験におけるドセタキセルを添加したナノ粒子の非有害作用レベル(NOAEL
)は、7.5mg/kgであるとみなされた。
【0093】
【表6】
【0094】
実施例7 ラットにおけるビンクリスチン受動的標的化ナノ粒子の薬物動態
実施例2の手順と同様に、ビンクリスチン及びPLA−PEGを有し、かつ特異的ター
ゲティング部位を持たない、図2及び実施例14に記載のように製造されたナノ粒子(受
動的標的化ナノ粒子(PTNP));又はビンクリスチンのみを0.5mg/kgでラッ
トに静脈内投与した。放出プロファイルを図8に示す。
【0095】
LC/MSを用いて血漿試料を分析し、WinNonlinソフトウェアを用いてPK
解析を行った。ナノ粒子と単独でのビンクリスチンとの薬物動態の比較は以下のとおりで
ある:
【0096】
【表7】
【0097】
実施例8 ラットにおけるメトトレキセート受動的標的化ナノ粒子の薬物動態
実施例2の手順と同様に、メトトレキセート及びPLA−PEGを有し、かつ特異的タ
ーゲティング部位を持たない、図2及び実施例15に記載のように製造されたナノ粒子(
受動的標的化ナノ粒子(PTNP));又はメトトレキセートのみを0.5mg/kgで
ラットに静脈内投与した。放出プロファイルを図9に示す。
【0098】
LC/MSを用いて血漿試料を分析し、WinNonlinソフトウェアを用いてPK
解析を行った。ナノ粒子と単独でのメトトレキセートとの薬物動態の比較は以下のとおり
である:
【表8】
【0099】
実施例9 ラットにおけるパクリタキセル受動的標的化ナノ粒子の薬物動態
実施例2の手順と同様に、パクリタキセル及びPLA−PEG(配合物C)を有し、か
つ特異的ターゲティング部位を持たない、図2に記載のように製造されたナノ粒子(受動
的標的化ナノ粒子(PTNP));又はパクリタキセルのみを1.0mg/kgでラット
に静脈内投与した。放出プロファイルを図10に示す。
【0100】
LC/MSを用いて血漿試料を分析し、WinNonlinソフトウェアを用いてPK
解析を行った。ナノ粒子と単独でのパクリタキセルとの薬物動態の比較は以下のとおりで
ある:
【0101】
【表9】
【0102】
実施例10 ラットにおけるラパマイシン(シロリムス)受動的標的化ナノ粒子の薬物動

実施例2の手順と同様に、ラパマイシン及びPLA−PEGを有し、かつ特異的ターゲ
ティング部位を持たない、図2及び実施例16に記載のように製造されたナノ粒子(受動
的標的化ナノ粒子(PTNP));又はラパマイシンのみを2.0mg/kgでラットに
静脈内投与した。放出プロファイルを図11に示す。
【0103】
LC/MSを用いて血漿試料を分析し、WinNonlinソフトウェアを用いてPK
解析を行った。ナノ粒子と単独でのラパマイシンとの薬物動態の比較は以下のとおりであ
る。
【0104】
【表10】
【0105】
実施例11 マウスのMX−I乳房腫瘍におけるドセタキセルナノ粒子の腫瘍蓄積
ドセタキセル(マウス3匹)、受動的標的化ナノ粒子(ターゲティング部位を含まない
配合物A,PTNP)又は配合物Aが投与された、MX−1乳房腫瘍を有するマウスを3
つの群に無作為化した。平均腫瘍量は1.7g(RSD34%)であった。次いで、マウ
スに10mg/kgを注入し、次いで24時間後に安楽死させ、腫瘍を切除し、LC/M
S/MSを用いて、ドセタキセル含有率を分析した。その結果を図12に表す。腫瘍にお
ける注入量のパーセントは、3%(単独でのドセタキセル)、PTNP30%、配合物A
30%であった。
【0106】
実施例12 霊長類におけるドセタキセルナノ粒子の薬物動態
未処置の非ヒト霊長類(雄3匹及び雌3匹)に、以下の適切な倫理的ガイドラインを常
に用いて、ドセタキセル、ドセタキセルナノ粒子(配合物A)又はドセタキセルナノ粒子
(実施例14に記載のように製造された配合物B:PLA−PEG(16/5)43.2
5%、PLA(75kDa)43.25%、ドセタキセル10%、PLA−PEG−ly
s(尿素)glu2.5%)を投与した。投与群1つにつき、雄1匹及び雌1匹を使用し
た。投与日は1日目であり、配合物を30分間静脈内注入することによって、ドセタキセ
ル25mg/m2又はドセタキセル50mg/m2で投与した(動物を無作為化し、次いで
29日目に50mg/m2を投与し、21日目の血液及び臨床化学成分を測定した)。検
査の最後に、21日間にわたって採取されたPK、血液及び臨床化学成分をアッセイした
図12は、雄(M)及び雌(F)のPNPの結果を表す。配合物A(用量25mg/m
2)のナノ粒子と単独でのドセタキセルとの薬物動態の比較は以下のとおりである。
【0107】
【表11】
【0108】
各NHP群の薬物動態は以下のとおりである:
【表12】
【0109】
【表13】
【0110】
【表14】
【0111】
実施例13 ドセタキセルナノ粒子の作製
ドセタキセル(DTXL)とポリマー(ホモポリマー、コポリマー及びリガンドを有す
るコポリマー)の混合物で構成される、有機相が形成される。有機相は、約1:5(油相
:水相)の比で混合され、水相は界面活性剤で構成され、一部は溶媒を溶解する。高い薬
物ローディングを達成するために、有機相に固形分約30%が使用される。
【0112】
単に混合するか又はローターステーター・ホモジナイザーを使用することにより、2つ
の相を合わせることによって、粗い一次エマルジョンが形成される。ローター/ステータ
ーによって、均一な乳状溶液が形成され、撹拌子によって、目に見えて大きな粗いエマル
ジョンが形成された。撹拌子法によって、供給容器の側面にかなりの油相液滴が付着した
ことが確認され、粗いエマルジョンサイズは、品質にとって重要なプロセスパラメータで
はないが、収量の減少又は相分離を防ぐために、適切に微細な粒子にすべきであることが
示唆されている。したがって、高速ミクサーは大規模では適しているが、ローターステー
ターは、粗いエマルジョンを形成するための標準法として使用される。
【0113】
次いで、高圧ホモジナイザーを使用することによって、一次エマルジョンが微細なエマ
ルジョンへと形成される。
【0114】
2〜3工程後、粒径は著しくは低減されず、それどころか連続的工程によって、粒径が
増加した。有機相は、標準水相でO:W5:1に乳化され、複数の別々の工程が行われ、
各工程後にエマルジョンの小部分がクエンチされた。示されるスケールは、配合物の全固
形分を表す。
【0115】
粒径へのスケールの影響は、意外なスケール依存性を示した。バッチサイズ範囲2〜1
0gにおいて、バッチが大きいと、粒子が小さく形成されることが傾向から示されている
。このスケール依存性は、10gを超えるスケールのバッチを考慮した場合には無くなる
ことが実証されている。油相で使用される固形分の量は約30%であった。図8及び9は
、15〜175シリーズを除いて、粒径及び薬物ローディングに対する固形分濃度の影響
を表し、すべてのバッチがプラシーボである。プラシーボバッチに関して、固形物(%)
の値は、固形物(%)が、標準20%(w/w)で存在する薬物であったことを表す。
【0116】
表Aには、乳化プロセスのパラメーターを示す。
【表15】
次いで、所定の温度にて脱イオン水に混合しながら添加することによって、微細エマル
ジョンがクエンチされる。そのクエンチ単位操作において、攪拌下にて冷たいクエンチ水
溶液に、エマルジョンが添加される。これは、油相溶媒のかなりの部分を抽出する役割を
果たし、下流で濾過するためにナノ粒子が有効に硬化される。クエンチを冷却することに
よって、薬物のカプセル化が著しく改善された。クエンチ:エマルジョン比は約5:1で
ある。
【0117】
Tween80の溶液(35%(重量%))をクエンチに添加し、全体でTween8
0約2%が達成される。エマルジョンがクエンチされた後、薬物可溶化剤として作用する
、Tween−80の溶液を添加し、濾過中にカプセル化されていない薬物を有効に除去
することが可能となる。表Bは、クエンチプロセスのパラメーターのそれぞれを示す。
【0118】
【表16】
粒子のTG未満に維持するために、十分に薄い懸濁液(十分に低濃度の溶媒)で温度を
十分に冷たく維持しなければならない、Q:Eが十分に高くない場合には、溶媒の濃度が
高くなると、粒子が可塑化され、薬物の漏出が可能となる。逆に、低いQ:E比(約3:
1まで)では、温度が低くなると、薬物のカプセル化が高くなり、プロセスをより効率的
に実行することが可能となる。
【0119】
次いで、ナノ粒子を接線フロー濾過プロセスによって単離し、ナノ粒子懸濁液を濃縮し
、クエンチ溶液から溶媒、遊離薬物及び薬物可溶化剤を水中にバッファー交換する。分子
量カットオフ(MWCO)300の再生セルロース膜が使用される。
【0120】
定容積ダイアフィルトレーション(DF)を行い、クエンチ溶媒、遊離薬物及びTwe
en−80を除去する。定容積DFを実施するために、濾液が除去されるのと同じ速度で
、バッファーを濃縮水(retentate)容器に添加する。TFF操作のプロセスパラメータ
ーを表Cに示す。クロスフロー速度は、供給路を通り、かつ膜を横切る溶液フローの速度
を意味する。このフローは、膜を詰まらせ、かつ濾液フローを制限し得る分子を洗い流す
力を与える。膜貫通圧力は、透過性分子が膜を通過するように働く力である。
【0121】
【表17】
次いで、ワークアップ中、濾過されたナノ粒子スラリーを高温の熱サイクルにかける。
最初に250℃に曝露した後急速に、カプセル化薬物のうち少量(一般に5〜10%)が
ナノ粒子から放出される。ワークアップ中に高温にナノ粒子スラリーを曝露することによ
って、「ゆるく封入された」薬物を除去することができ、薬物ローディングにおいて小滴
を犠牲にして、製品安定性を向上することができる。
【0122】
濾過プロセス後、ナノ粒子懸濁液(濃度50mg/ml)を滅菌グレードフィルター(
0.2μm(絶対))に通す。プレフィルターを使用して、プロセスの妥当な濾過面積/
時間を得るために、滅菌グレードフィルターを保護する。濾過流量は約1.3L/分/m
2である。
【0123】
濾過装置は、Ertel Alsop Micromedia XLデプスフィルターM953P膜(0.2μm(公称));Seitz EKSPデプス濾過材(0.1−0.3μm(公称))を有するPall SUPRAcap;Pall Life Sciences Supor EKV 0.65/0.2ミクロン滅菌グレードPESフィルターである。デプスフィルターに関してはナノ粒子1kgにつき濾過表面積0.2m2及び滅菌グレードフィルターに関してはナノ粒子1kgにつき濾過表面積1.3m2が用いられる。
【0124】
実施例14 長時間放出特性を有するナノ粒子の製造
実施例12に記載のナノ粒子製造プロトコルを修正して、緩効性ナノ粒子を製造した。
【0125】
100 DL7E PLA(表1参照)と16/5
PLA−PEGコポリマーが50:
50の比で組み込まれたナノ粒子のバッチを製造した。高分子量PLAの添加は、結晶化
度を増加し、ガラス転移温度を上昇させ又はポリマーにおける薬物の溶解性を下げること
によって、薬物拡散を減少させると考えられる。
【0126】
【表18】
他のすべての配合物の変数を一定に維持した場合に、高分子量PLAの添加によって、
粒径が大きくなった。高分子量PLAを使用せず製造されたナノ粒子と同等なサイズの緩
効性ナノ粒子を得るために、油相における固形分の濃度を低減し、水相におけるコール酸
ナトリウムの濃度を増加した。表2には、緩効性ナノ粒子配合物を示す。
【0127】
【表19】
【0128】
実施例14 ビンクリスチンを有するナノ粒子
ポリマー−PEG80%(w/w)又はそれぞれ40%(w/w)のホモポリマーPL
Aとポリマー−PEGを用いて、全固形分5%、15%及び30%のバッチで、実施例1
2の基本手順を用いて、ナノ粒子バッチを製造した。使用した溶媒は:ベンジルアルコー
ル21%及び酢酸エチル79%(w/w)であった。それぞれ2グラムのバッチサイズに
対して、薬物400mgを使用し、16−5
ポリマー−PEG1.6g又は16−5ポ
リマー−PEG0.8g+10kDa
PLA(ホモポリマー)0.8gを使用した。ジ
ブロックポリマー16−5 PLA−PEG又はPLGA−PEG(L:G50:50)
を使用し、使用される場合には、ホモポリマー:PLAは、Mn=6.5kDa、Mw=
10kDa及びMw/Mn=1.55を有した。
【0129】
有機相(薬物及びポリマー)を2gバッチで調製する:20mLシンチレーションバイ
アルに薬物及びポリマー(1種又は複数種)を添加する。固形分濃度(%)にて必要とさ
れる溶媒の量は:固形分5%:ベンジルアルコール7.98g+酢酸エチル30.02g
;固形分30%:ベンジルアルコール0.98g+酢酸エチル3.69gである。
【0130】
水溶液は、水中のコール酸ナトリウム0.5%、ベンジルアルコール2%及び酢酸エチ
ル4%で調製される。ボトルに、コール酸ナトリウム7.5g、脱イオン水1402.5
g、ベンジルアルコール30g及び酢酸エチル60gを添加し、溶解するまで攪拌プレー
ト上で混合する。
【0131】
エマルジョンを形成するために、水相と油相の比は5:1である。有機相を水溶液に注
ぎ、IKAを用いて室温で10秒間均質化して、粗いエマルジョンを形成する。2つの別
々の操作で9Kpsi(45psiゲージ)にてホモジナイザー(110S)を通してそ
の溶液を供給し、ナノエマルジョンを形成する。
【0132】
攪拌プレート上で攪拌しながら、エマルジョンを<5℃のクエンチ(脱イオン水)に注
ぐ。クエンチとエマルジョンの比は8:1である。Tween80
35%(w/w)を
Tween80と薬物の比25:1で水に添加してクエンチする。ナノ粒子をTFFによ
って濃縮し、500kDa Pallカセット(2膜)を有するTFF上でクエンチを約
100mLに濃縮する。冷たい脱イオン水約20ダイア容積(diavolume)(2リットル
)を使用して、ダイアフィルトレーションし、容積を最少容積にし、次いで最終スラリー
約100mLを回収する。濾過されていない最終スラリーの固形分濃度は、風袋引きされ
た20mLシンチレーションバイアルを使用し、最終スラリー4mlを添加し、凍結乾燥
器/オーブン内で真空下で乾燥させることによって決定され、乾燥されたスラリー4mL
中のナノ粒子の重量が決定される。濃縮ショ糖(0.666g/g)を最終スラリー試料
に添加し、10%ショ糖が達成される。
【0133】
ショ糖を添加する前に、0.45μmシリンジフィルターを通して最終スラリー試料約
5mLを濾過し、風袋引きされた20mLシンチレーションバイアルに濾過された試料4
mLを添加し、凍結乾燥器/オーブン内で真空下にて乾燥させることによって、0.45
μm濾過最終スラリーの固形分濃度が決定された。
【0134】
ショ糖を有する、濾過されていない最終スラリーの残りの試料を凍結した。
【表20】
【0135】
【表21】
【0136】
実施例15 メトトレキセートを有するナノ粒子
薬物を溶解するために使用される1−アルギニン又はNaOHと共に水からなる内部水
相に薬物を溶解した。ジクロロメタン(DCM)などの油相有機溶媒システムに、固形分
濃度20%でポリマー(16−5
PLA−PEG)を溶解した。別段の指定がない限り
、外部水相は、界面活性剤としてのコール酸ナトリウム(SC)1%と共に主に水からな
る。ローターステーターによる均質化又は音波処理(Branson
Digital S
onifierを使用した)下にて、内部水相を油相にw/o比1:10で添加すること
によって、w/oエマルジョンを調製した。。ローターステーターによる均質化又は音波
処理下にて、w/oエマルジョンを外部水相にo/w比1:10で添加することによって
、粗いw/o/wエマルジョンも調製した。次いで、100μmZ相互作用チャンバ(Z-
interaction chamber)を備えたマイクロフルイディクス高圧ホモジナイザー(M110
S空気圧駆動式)を使用して、粗いエマルジョンを処理することによって、微細なw/o
/wエマルジョンを調製した。次いで、クエンチ:エマルジョン比10:1で、微細エマ
ルジョンを冷たい脱イオン水中にクエンチした。別段の指定がない限り、すべてのw/o
/w実験に関して、これらのw/o、o/w及びエマルジョン:クエンチ比を1:10に
維持した。次いで、プロセス可溶化剤としてポリソルベート80(Tween80)を添
加し、未封入の薬物を可溶化した。薬物:Tween80の比1:200にて、薬物の沈
殿は確認されなかった。次いで、限外濾過に続いて、ダイアフィルトレーションによって
バッチを処理し、溶媒、未封入薬物及び可溶化剤を除去した。Brookhaven

LS及び/又はHoribaレーザー回折によって、粒径の測定を行った。薬物ローディ
ングを決定するために、HPLC及び固体濃度分析によって、スラリー試料を分析した。
次いで、凍結する前に、スラリーをショ糖で10%に希釈した。別段の指定がない限り、
示されるすべての比はw/wに基づく。
【0137】
酢酸エチルに溶解された16/5
PLA−PEGを使用して、脱イオン水中の1%S
Cからなる外部水相において固形分濃度≦6%にて77〜85nmのサイズの粒子が得ら
れた。振幅30%での音波処理下にてエマルジョンが形成された。固形分濃度≧6%を有
する初期のw/oエマルジョンにおいてゲルが形成された。L−アルギニンを用いて、内
部水相MTX濃度を225mg/mlに増加した。DCMに溶解された28/5
PLG
A−PEGからなる油相において固形分20%を有するバッチを調製した。ここで、ロー
ターステーターによる均質化に続いて、高圧ホモジナイザーを用いた45kpsiでの2
操作によって、内部w/o及び外部w/o/wエマルジョンを形成した。冷たい脱イオン
水中でナノ粒子懸濁液をクエンチし、続いて限外濾過/ダイアフィルトレーションのワー
クアップを行った。HPLC及びPSD分析を用いて、131nm粒子に関して薬物ロー
ディングが0.38%で留まることが確認された。
【0138】
3つの異なるバッチが、以下の変更を伴う基本手順に従って製造される;内部水相MTX濃度は、0.66N NaOH溶液中225mg/mlであり、つまりL−アルギニン:MTXのモル比は1.45:1であり;Span80/Tween80界面活性剤ミックス(HLB=6.2)が油相界面活性剤として使用され;28/5 PLGA−PEGの代わりに、バッチ55−101C:16/5 PLA−PEGを使用した。3つのすべてのバッチのエマルジョンプロセスは同様なままであった。16/5 PLA−PEGバッチで最高薬物ローディング2.23%が得られ、他のバッチについては薬物ローディングは0.2%及び0.04%であった。
【0139】
実施例16 シロリムスナノ粒子の作製
シロリムスとポリマー(ホモポリマー、コポリマー及びリガンドを有するコポリマー)
との混合物で構成される有機相が形成される。有機相は、約1:5(油相:水相)の比で
水相と混合され、その水層は、界面活性剤と一部溶解した溶媒とで構成される。高い薬物
ローディングを達成するために、有機相に固形分約30%が使用される。単純に混合する
か又はローターステーター・ホモジナイザーを使用することにより、2つの相を合わせる
ことによって、粗い一次エマルジョンが形成される。
【0140】
次いで、高圧ホモジナイザーを使用することによって、粗い一次エマルジョンは微細エ
マルジョンへと形成される。このプロセスは、実施例12と同様に進められる。
【0141】
【表22】
本発明は、その特定の好ましい態様を参照しながら、かなり詳細に説明されているが、
他のバージョンも可能である。したがって、添付の特許請求の範囲の精神及び領域はその
記述に限定されるものではなく、好ましいバージョンは、本明細書内に包含される。
【0142】
参照による組込み
特許、特許出願、特許公開、雑誌、本、新聞、ウェブコンテンツなどの他の資料が、こ
の開示内容全体を通して参照及び引用されている。かかるすべての資料は、すべての目的
のために、その全文が参照により本明細書に組み込まれる。
等価物
本明細書に示され、かつ説明されるものに加えて、本発明の様々な修正形態及びその多
くの更なる実施形態は、本明細書に記載の科学文献及び特許文献の参考資料を含む、この
文書の完全な内容から当業者には明らかとなるだろう。本明細書における主題は、その様
々な実施形態における本発明の実施に適応される、重要な情報、例証及び指導及びその等
価物を含む。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13