本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、かかる問題点を解決し、液体展開用シートの液体受容層へのオフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、凸版印刷、フレキソ印刷に代表される印刷に際し、インキの転写性の良い、すなわち液体の展開性が良くかつホットメルト接着剤としての接着性を満足する液体受容層を設けた液体展開用シートを提供せんとするものである。
前記液体受容層がポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリアミド樹脂およびクロロプレン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1種の樹脂から構成されるホットメルト接着剤とポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤とを含有する液体展開用シート。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、前記課題、つまり液体展開用シートにオフセット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、凸版印刷、フレキソ印刷等に代表される印刷を行う際に、インキの転写性すなわち、印刷かすれ、印刷にじみ、転写しきれなかったインキによる加工工程の汚染について鋭意検討し、液体展開用シートを構成する特定のホットメルト接着剤に特定の構造を有する界面活性剤を配してみたところ、かかる課題を解決することを究明したものである。
【0011】
本発明の液体展開用シートは、基材の少なくとも片面に液体受容層を設けてなる液体展開用シートであり、例えば2つのシートの面同士を熱接着するために用いられる。本発明に用いられる液体受容層には、その成分としてホットメルト接着剤が用いられ、十分な接着強度を発現することが好ましい。例えば、液体展開用シート上に、東レ(株)製ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム“ルミラー”(登録商標)(タイプ100E20)を重ね合わせ、ヒートシーラーを用いて、シール温度120℃、シール時間1.0秒、シール圧力0.2MPaの条件で接着させる。この接着体をJIS Z0237:2009に従い、はく離速度50mm/分、90°はく離による接着強度を3回評価し、その平均値を結果とした場合、5N/cm以上の接着強度を示すことが好ましく、10N/cm以上の接着強度を示すことがより好ましい。接着強度が5N/cm未満であると安定した接合をすることができない場合があり、接着体の取り扱いによって端部から液体展開用シートの剥離が発生する場合がある。
【0012】
本発明で用いられる液体受容層は、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリアミド樹脂およびクロロプレン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂から構成されるホットメルト接着剤を含有し、さらにポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤を含有してなるものである。(以下、ポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤を単に界面活性剤ということもある)。
【0013】
まず、液体展開用シートを構成するホットメルト接着剤としては、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリアミド樹脂およびクロロプレン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂から構成されるものであるが、これらの中でもポリエステル樹脂または(メタ)アクリル樹脂をホットメルト接着剤として使用することが好ましく、基材との接着力や、耐熱性などの点から良好である。さらに融点が40℃以上150℃以下のポリエステル樹脂または(メタ)アクリル樹脂をホットメルト接着剤として使用することが特に好ましい。融点が40℃未満であると、熱接着時にホットメルト接着剤が流動してしまうことで接着させたくない部分にまで接着剤が流れ、接着させてしまったりする場合があり、150℃よりも大きいと、熱接着の際に高い温度をかけないと、接着させることができなくなることがあって、作業効率が低下したり、被接着体であるシートが熱で損傷してしまう場合がある。また、ホットメルト接着剤には、ポリエステル樹脂、(メタ)アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂、ポリアミド樹脂およびクロロプレン樹脂からなる群より選ばれる少なくとも1つの樹脂から構成されることが好ましく、さらにこれらの樹脂は芳香族骨格を有することが好ましい。芳香族骨格を有することでホットメルト接着剤を構成する樹脂の凝集力が向上し、液体受容層の接着強度が向上するため好ましい。
【0014】
また、ホットメルト接着剤として上述した樹脂を1種類のみ用いてもよいし、複数の樹脂を用いてもよい。
【0015】
さらに、本発明における液体受容層は上述したホットメルト接着剤とともにポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤を含有するものである。本発明に用いるポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤は、親水性置換基としてポリアルキレングリコール骨格を有するとともに、疎水性置換基として後述する骨格を併せて有する。ここで、ポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリル−硫酸エステルナトリウム塩等のポリオキシエチレン−アルキル硫酸エステル−ナトリウム塩、ポリオキシエチレン−ラウリルエーテル、ポリオキシエチレン−セチルエーテル、ポリオキシエチレン−オレイルエーテル、ポリオキシエチレン−ステアリルエーテル、ポリオキシエチレン−2−エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレン−イソデシルエーテル等のポリオキシエチレン−アルキルエーテル、
ポリオキシエチレン−モノラウレート、ポリオキシエチレン−モノステアレート、ポリオキシエチレン−モノオレート等のポリオキシエチレン−アルキルエステル、
ポリオキシエチレンソルビタン−モノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタン−モノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタン−モノオレート、ポリオキシエチレンソルビタン−モノオレート等のソルビタンエステル・エチレンオキシド付加型、
ポリオキシエチレン−ヤシ脂肪酸グリセリル等のモノグリセライド・エチレンオキシド付加型、
ポリオキシエチレン−硬化ヒマシ油等のトリグリセライド・エチレンオキシド付加型、
ポリオキシエチレン−ラウリルアミン、ポリオキシエチレン−アルキル(ヤシ)アミン、ポリオキシエチレン−ステアリルアミン、ポリオキシエチレン−オレイルアミン、ポリオキシエチレン−牛脂アルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキル−プロピレンジ゛アミン等のアルキルポリエーテルアミン型
ポリオキシエチレン−モノメチルエーテル、ポリオキシエチレン−ジメチルエーテル、ポリオキシエチレン−グリセリルエーテル、ポリオキシエチレン・α,ω−ビス−3−アミノプロピル−エーテル、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコール−ポリエチレングリコール(ブロックコポリマー)などの界面活性剤が挙げられるが、本発明に用いることができるポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤はこの限りでない。
【0016】
ポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤のうちより好ましくは疎水性置換基としてアルキル置換基を有する化合物である。市販されている具体例として、
パイオニンD−1004、パイオニンD−1007、パイオニンD−1706−N、パイオニンD−1715−N、パイオニンD−1105、パイオニンD−1110、パイオニンD−1103−D、パイオニンD−1105−D、パイオニンD−1103−S、パイオニンD−1105−S、パイオニンD−1107−S、パイオニンD−1109−S、パイオニンD−1004、パイオニンD−1004、パイオニンD−1004、
ニューカルゲンD−1203、ニューカルゲンD−1205、ニューカルゲンD−1208、パイオニンD−1305−Z、パイオニンD−1323−Z、パイオニンD−1803、パイオニンD−1402、パイオニンD−1420、パイオニンD−1504、パイオニンD−1508、パイオニンD−1518、パイオニンD−1106DIR、パイオニンD−1110DIR、パイオニンD−1107SP3、パイオニンD−1301−P、パイオニンD−1305−P(以上、竹本油脂株式会社製)、
エマルゲン102KG、エマルゲン103、エマルゲン104P、エマルゲン105、エマルゲン106、エマルゲン108、エマルゲン109P、エマルゲン120、エマルゲン123P、エマルゲン130K、エマルゲン147、エマルゲン150、エマルゲン210P、エマルゲン220、エマルゲン306P、エマルゲン320P、エマルゲン350、エマルゲン404、エマルゲン408、エマルゲン409PV、エマルゲン420、エマルゲン430、エマルゲン705、エマルゲン707、エマルゲン709、エマルゲン1108、エマルゲン1118S−70、エマルゲン1135S−70、エマルゲン1150S−60、エマルゲン2020G−HA、エマルゲン2025G(以上、花王株式会社製)、等が挙げられる。疎水性置換基がアルキル基であるとアルキル基の炭素数が異なる界面活性剤の製造・入手が容易であるため、後述するHLB値を任意に変更できるという利点がある。
【0017】
上記ポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤で示される化合物のうち、疎水性置換基として芳香族を含むアリルフェニル基を有するアリルフェニルエーテル型化合物で市販されている具体例として、パイオニンD−6112、ニューカルゲンC−150、ニューカルゲンC−173、ニューカルゲンC−200、ニューカルゲンC−314、ニューカルゲンCP−50、ニューカルゲンCP−80、ニューカルゲンCP−120、ニューカルゲンCP−15−200、パイオニンD−6512、パイオニンD−6414、パイオニンDTD−51、パイオニンD−6315、ニューカルゲンE−200、パイオニンD−7240(以上、竹本油脂株式会社製)、等が挙げられる。疎水性置換基がアリルフェニル基であると、例えば芳香族を有するホットメルト接着剤を併用した場合に、ホットメルト接着剤と界面活性剤の芳香環のスタッキングによる凝集力向上効果によって、液体受容層の接着強度が向上するため好ましい。また、疎水性置換基がアリルフェニル基であると、アリルフェニル基の繰り返し数を任意に調整した界面活性剤の製造・入手が容易であるため、後述するHLB値を任意に変更できるという利点がある。
【0018】
上記ポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤で示される化合物のうち、ソルビタン脂肪酸誘導体で市販されている具体例として、レオドールTW−L120、レオドールTW−L106、レオドールTW−P120、レオドールTW−S120V、レオドールTW−S106V、レオドールTW−S−320V、レオドールTW−O120V、レオドールTW−O106V、レオドールTW−O320V、レオドールTW−IS399C、レオドールスーパーTW−L120(以上、花王株式会社製)、パイオニンD−941、パイオニンD−945、パイオニンD−945T(以上、竹本油脂株式会社製)等が挙げられる。
【0019】
前記液体展開用シートを構成する前記ポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤の数平均分子量(Mn)は、好ましくは500〜20,000、より好ましくは2,000〜20,000、特に好ましくは5,000〜18,000である。すなわち、かかる数平均分子量が500以上だと該液体展開用シートのロール加工に際しその搬送工程や印刷加工工程、またスリット加工工程をなどにおいて、搬送ロールやスリット刃表面や断面に界面活性剤成分が付着することを良好に防止することができ、その結果、各工程の清掃頻度が格段に減少するので好ましい。かかる数平均分子量が20,000以下であると、界面活性剤を液体受容層に均一に分散させやすくなるので好ましい。
【0020】
また、かかる界面活性剤の融点は、特に制限するものではないが、25℃以上であるものが好ましい。より好ましくは、30℃以上であり、更に好ましくは、40℃以上である。融点が25℃未満であると、液体受容層から前記界面活性剤がブリードアウトしやすくなり、ホットメルト接着剤の接着強度がばらつくことで接着強度の低下を招く場合がある。また、融点が25℃未満であると、ホットメルト接着剤と界面活性剤を混合した塗布液を作成する際に溶解作業が容易となるため好ましい。
【0021】
本発明における液体受容層は、ホットメルト接着剤100質量部に対し、ポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤の量が好ましくは0.1〜20質量部含まれるものであり、より好ましくは、0.1〜12質量部であり、さらに好ましくは、5〜12質量部である。界面活性剤の量が0.1質量部未満であると、液体受容層の親水性が十分に得られず、インキの転写性すなわち液体の展開性が十分に発揮されない場合がある。また、液体展開用シート搬送工程やスリット工程などでホットメルト接着剤成分が付着することを防止する効果が十分に発揮されない場合がある。界面活性剤の量が20質量部より大きいとホットメルト接着剤との十分な相溶性を得にくく、液体受容層表面にブリードアウトする界面活性剤が多くなりホットメルト接着剤の接着性が損なわれ、所望の接着強度を得られなくなる場合がある。また、界面活性剤の量が20質量部より大きいと界面活性剤のブリードアウトにより液体展開用シート搬送工程やスリット工程などで界面活性剤成分が付着し、加工工程の汚染も発生する場合がある。また、界面活性剤の量が20質量部より大きいとホットメルト接着剤の配合比が低下するため液体受容層の強度が低下し、安定した製膜が難しくなるばかりでなく、ホットメルト接着剤と界面活性剤を混合した塗料の貯蔵安定性の低下を招く場合がある。0.1〜20質量部であると、上記の欠点を解決した液体受容層を得ることができるため好ましい。
【0022】
本発明の液体展開用シートは、基材の少なくとも片面に液体受容層を有するが、液体受容層は1層でも複数層でもよい。本発明においては、少なくとも1つの液体受容層がポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤を含有する液体受容層であればよい。
【0023】
ホットメルト接着剤としては、例えば、アロンメルトPES−120L、PES−140H、PES−111EE、PES310S30、PES375S40、PPET1008、PPET1025、PPET2102、PPET1303S(以上、東亞合成株式会社製)、Y−167、H−930−S、H−180S(以上、田中ケミカル株式会社製)、ニチゴーポリエスター(R)SP−154、SP−165、SP−170、SP−176(以上、日本合成化学株式会社製)、バイロン(R)200、240、300、550、BX1001(以上、東洋紡株式会社製)、ポリゾール(R)SE−1720、SE−4210E、SE−6210、SE−6210L(以上、昭和電工株式会社製)などが挙げられる。
【0024】
本発明における液体受容層の表面の水に対する接触角は30度以下であることが好ましい。水に対する接触角が30度以下であることによりインキの転写性すなわち液体の展開性を十分に得ることができるため好ましい。
【0025】
本発明に用いる界面活性剤は、HLB値が8〜15の界面活性剤であることが好ましい。HLB値が8〜15の界面活性剤を用いることでホットメルト接着剤との相溶性を保ちつつ、液体受容層に親水性を与えることができるため好ましい。
【0026】
HLB(Hydrophile−Lipophile Balance)値とは、親水親油バランスのことであり、下記式(1)から求められるグリフィン法(全訂版 新・界面活性剤入門、p128)により算出した値である。
界面活性剤のHLB値=(親水基部分の数平均分子量/界面活性剤の数平均分子量)×20 式(1)。
【0027】
界面活性剤のHLB値が15より大きい場合、界面活性剤とホットメルト接着剤との十分な相溶性を得にくく、液体受容層表面にブリードアウトする界面活性剤が多くなりホットメルト接着剤の接着性が損なわれ、所望の接着強度を得られなくなる場合がある。一方で、界面活性剤のHLB値が8より小さい場合、液体受容層の親水性が十分に得られにくく、インキの転写性すなわち液体の展開性が十分に発揮されない場合がある。界面活性剤のHLB値が8〜15であると、ホットメルト接着剤との相溶性および液体受容層の親水性の両立が可能であるため好ましい。
【0028】
本発明の液体展開用シートには、ロール状に巻かれた状態にする場合、少なくとも1つの液体受容層表面に離型フィルムを積層することが好ましい。離型フィルムは、基材フィルムに両面または片面にシリコーン樹脂等をコーティングした公知のものを使用することができ、該離型フィルムを少なくとも1つの液体受容層表面に積層した積層液体展開用シートとすることでブロッキングしにくく、ロール状に巻かれた状態にすることができる。
【0029】
具体的には、
(1)基材の片面に液体受容層が設けられている場合、片面にシリコーン樹脂のコーティングで離型処理した離型フィルム用いて、該離型処理面と液体受容層が接するように積層する、
(2)基材の両面に液体受容層が設けられている場合、少なくとも片面にシリコーン樹脂のコーティングで離型処理した離型フィルム用いて、該離型処理面と一方の液体受容層が接するように積層し、次いで、もう一方の液体受容層も同様に該離型フィルムの離型処理面ともう一方の液体受容層が接するように積層する、
(3)基材の両面に液体受容層が設けられている場合、両面にシリコーン樹脂のコーティング等で離型処理した離型フィルムをいずれか一方の液体受容層と積層する、
ことによりロール状に巻かれた状態にすることができる。
【0030】
本発明で用いられる基材としては、特に制限はないが、例えばプラスチックフィルム、合成紙、紙または表面処理が施された複合シートが好ましく、中でも寸法安定性や耐久性等の点からプラスチックフィルムが好ましい。
【0031】
プラスチックフィルムの材質としては、ポリエステル、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステルアミド、ポリエーテル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリ−ρ−フェニレンスルフィド、ポリエーテルエステル、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸エステルが挙げられる。また、これらの共重合体やブレンド物やさらに架橋した化合物を用いることもできる。
【0032】
さらに、上記プラスチックフィルムの中でも、ポリエステル、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン2,6−ナフタレート、ポリエチレンα,β−ビス(2−クロルフェノキシ)エタン4,4’−ジカルボキシレート、ポリブチレンテレフタレートなどからなるフィルムが好ましく、これらの中で機械的特性、作業性などの品質、経済性などを総合的に勘案すると、ポリエチレンテレフタレートからなるフィルムが特に好ましく用いられる。
【0033】
本発明に用いる基材の厚みは特に限定はないが、フレキシブル性を確保する観点から500μm以下が好ましく、引張りや衝撃に対する強度を確保する観点から10μm以上が好ましい。さらに、基材としてプラスチックフィルムを用いる場合、フィルムの加工やハンドリングの容易性から20μm〜300μm、より好ましくは30μm〜250μmである。
【0034】
また、液体受容層の付着量は、片面1〜50g/m
2であることが好ましく、より好ましくは2〜30g/m
2である。付着量が1g/m
2より少ないと加工時の擦り傷等により付着層の脱落や、ピンホールが発生したり、所望の接着強度を得られなくなったりする場合がある。その結果、接着強度のバラツキが発生する場合がある。また、付着量が50g/m
2より多くなると、液体展開用シート搬送工程やスリット工程などでホットメルト接着剤成分が付着することを防止する効果が小さくなる場合がある。
【0035】
本発明に用いる液体受容層のタック性は、後述するJIS Z0237:2009で規定されている傾斜式ボールタック試験法により求められるボールナンバーが8以下であることが好ましく、4以下であることがより好ましい。ボールナンバーが8以下であると本発明の液体展開用シートのロール加工に際しその搬送工程や印刷加工工程、またスリット加工工程をなどにおいて、搬送ロールやスリット刃表面や断面に液体受容層が付着することを良好に防止することができ、その結果、各工程の清掃頻度が格段に減少するので好ましい。かかる傾斜式ボールタック試験法により求められるボールナンバーが8より大きいと、各工程の清掃頻度が高いため加工性が低下する場合がある。
【0036】
次に本発明の液体展開用シートを製造する手段について、以下説明する。液体受容層は、例えば該液体受容層を構成する成分を含む塗布液を基材に塗布し塗膜とすることで形成することができる。かかる塗布液は、例えば、ホットメルト接着剤と界面活性剤を混合したもの、あるいはそれを熱溶融して得ることができる。
【0037】
該塗布液の塗布方法は特に限定されないが、グラビアコート法、リバースコート法、キスコート法、ダイコート法、およびバーコート法などの方法を用いることができる。この際、基材上には塗布液を塗布する前に、必要に応じて空気中あるいはそのほかの雰囲気中でのコロナ放電処理や、プライマー処理などの表面処理を施すことによって、塗布性が良化するのみならず、液体受容層をより強固に基材上に形成することができる。なお、塗布液濃度、塗膜乾燥条件または、塗膜の冷却条件は特に限定されるものではないが、塗膜乾燥条件は基材の諸特性に悪影響を及ぼさない範囲で行なうことが望ましい。
【0038】
また、本発明の液体受容層は、例えば上記塗布液で予め膜状物を作り、それを基材に貼着することで形成することもできる。貼着する場合は、シリコーン系樹脂フィルム等の離型フィルムに塗布液を塗工し、基材に転写する方法が採用される。
【実施例】
【0039】
以下に本発明を実施例により具体的に説明を行なうが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。なお、実施例において、試験片の特性の評価方法は、以下のとおりである。
【0040】
〔液体受容層の水に対する接触角〕
液体受容層の水に対する接触角は、DM−500(協和界面科学株式会社製)を用い、純水(2.0μl)を液体受容層の表面に滴下した際にできる液滴に対し、滴下5秒後における液体受容層の表面の水接触角について5回測定を行いその平均値を結果とした。
【0041】
〔液体受容層の外観〕
液体展開用シートの外観について、液体受容層表面に該層のハジキおよび界面活性剤のブリードアウトの発生有無を確認した。何れかが発生している場合には×、何れも発生していない場合には○と評価した。
【0042】
〔液体受容層へのインキ転写性〕
液体展開用シートの液体受容層表面に、サインペン(製品名:Vプチ、型番:SV−15EF、太さ:0.4mm、黒色、水性染料インク、株式会社パイロットコーポレーション製)を用いて10cmの直線を引いた。10秒後に直線を観察し、インキがはじいて液滴が形成されている場合には×、ややインキのはじきが見られる場合には△、インキのはじきの発生なく直線が描かれている場合には○と評価した。
【0043】
〔液体受容層の接着強度〕
前記方法にて作成した液体展開用シートの液体受容層上に、東レ(株)製ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム“ルミラー”(登録商標)(タイプ100E20)を重ね合わせ、ヒートシーラーを用いて、シール温度120℃、シール時間1.0秒、シール圧力0.2MPaの条件で接着させた。この接着体をJIS Z0237:2009に従い、はく離速度50mm/分、90°はく離による接着強度を3回評価し平均値を結果とした。
【0044】
〔液体受容層のタック性〕
前記方法にて作成した液体展開用シートの液体受容層のタック性を、JIS Z0237:2009で規定されている傾斜式ボールタック試験法に準じて測定した。具体的には、23℃、65%RHの環境下、傾斜板の角度が30°に設定された傾斜式ボールタック装置(球転装置)の所定の位置に、液体受容層をセットした後、助走路用のポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μmのJIS C2318:2007に規定されたポリエチレンテレフタレートフィルム)を、液体受容層面の所定の位置に貼り付ける。そして、ボールの大きさに合わせて、助走路の長さが100mmになるボールスタート位置にボールの中心が位置するように、ボールを置いて、ボールを転がし、測定部内である粘着面上に停止するボールのうち最大の大きさのボールナンバーを確認し、4以下である場合にはタック性が小さいため○、4より大きく8以下の場合には△、8より大きい場合には×と評価した。
【0045】
〔液体受容層に含まれる界面活性剤の定性・定量〕
液体受容層に含まれる界面活性剤の定性・定量は、LC/MS/MSを用い以下の手順で分析を行うことにより可能である。LC/MS/MSとはLC/MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)では分析困難である界面活性剤のような不揮発性の化合物にも適用可能な質量分析手法である。
【0046】
<液体受容層に含まれる界面活性剤の溶液調製>
(1)液体展開用シートから液体受容層をそぎとり、そのうち0.04gを25mLメスフラスコに秤量する。
(2)メスフラスコにHFIP(1,1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロパノール)/クロロホルム(1/1)を1mL加えて液体受容層を溶解させる。
(3)クロロホルムを2mL 加えた後に、アセトニトリルを徐々に加えてホットメルト接着剤成分を不溶化させる。
(4)アセトニトリルを加え25mLに定容後、調製した溶液をアセトニトリルで100倍希釈する。
(5)調製した100倍希釈液をPTFEディスクフィルター(0.45μm)でろ過して得られたろ液を測定溶液とする。
【0047】
<液体受容層に含まれる界面活性剤の定性>
(6)手順(5)で得られた溶液をLC/MS/MSに供し、クロマトグラムから界面活性剤由来のピークが検出されるリテンションタイムおよびピーク面積を確認する。
(7)界面活性剤由来のピークについてMS分析を行うことで、界面活性剤由来の正イオンの式量を確認する。
【0048】
<標準溶液調製および検量線の作成>
(8)定性済みの界面活性剤の標品(0.01g)を10mLメスフラスコに秤量後、メタノールで溶解して10mLに定容することで標準溶液とする。
(9)標準溶液を分取し、メタノールでそれぞれ希釈することで計4種類の任意の濃度の標準溶液を得る。
(10)手順(9)で得た標準溶液をそれぞれLC/MS/MSに供することで、各濃度に対するクロマトグラムのピーク面積を確認する。
(11)溶液濃度とピーク面積の関係について直線近似することで検量線を得る。
【0049】
<液体受容層に含まれる界面活性剤の定量>
(12)手順(6)にて把握したピーク面積を手順(11)で得た検量線の式に代入し、液体受容層に含まれる界面活性剤の濃度を算出することで界面活性剤の含有量を求める。
【0050】
なお、手順(1)〜(7)および(11)、(12)については、n=2で実施し、その平均値を結果とする。
【0051】
本分析は、LCシステム:LC−20A(株式会社島津製作所製)、MSシステム:API4000(株式会社AB SCIEX製)、カラム:Inertsil ODS−3(2.1×150mm、5μm)(ジーエルサイエンス株式会社製)を用い、カラム温度:50℃、流量:0.25mL/min、注入量:1μL、イオン化法:APCI(大気圧化学イオン化法)、検出:正イオン検出、測定モード:SRM(Selected reaction monitoring)の条件にて実施する。
【0052】
(実施例1)
東レ(株)製ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム“ルミラー”(登録商標)(タイプ100S10)を基材とした。ホットメルト接着剤を構成する樹脂として融点65℃、数平均分子量19,000のポリエステル系接着剤樹脂をトルエン/MEK(メチルエチルケトン)=4/1(質量比)に溶解した42質量%溶液を用意し、さらにポリアルキレングリコール骨格を有する非イオン性の界面活性剤であるアルキルエーテル型のノニオン界面活性剤〔竹本油脂(株)製 パイオニンD−1508(HLB値:11.4)〕を用意し、固形分換算比が100質量部/3質量部の割合になるように塗布液を調合した。この塗布液をコンマコーターにて基材の片面に45g/m
2塗布し、120℃で30秒乾燥して片面に液体受容層を設けることで液体展開用シートを作成した。液体受容層の塗布厚さは20μmであった。
【0053】
(実施例2)
実施例1においてホットメルト接着剤を構成する樹脂と界面活性剤の固形分換算比が100質量部/9質量部の割合になるように塗布液を調合以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0054】
(実施例3)
実施例1において界面活性剤をアルキルエーテル型のノニオン界面活性剤である竹本油脂(株)製 パイオニンD−1107−S(HLB値:12.1)とし、ホットメルト接着剤を構成する樹脂と界面活性剤の固形分換算比が100質量部/9質量部の割合になるように塗布液を調合する以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0055】
(実施例4)
実施例1において界面活性剤をアルキルエーテル型のノニオン界面活性剤である竹本油脂(株)製 パイオニンD−1103−S(HLB値:8.0)とし、ホットメルト接着剤を構成する樹脂と界面活性剤の固形分換算比が100質量部/6質量部の割合になるように塗布液を調合する以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0056】
(実施例5)
実施例1において界面活性剤をソルビタン脂肪酸誘導体のノニオン界面活性剤である花王(株)製 レオドールTW−L106(HLB値:13.3)とし、ホットメルト接着剤を構成する樹脂と界面活性剤の固形分換算比が100質量部/4質量部の割合になるように塗布液を調合する以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0057】
(実施例6)
実施例1において界面活性剤をアリルフェニルエーテル型のノニオン界面活性剤である竹本油脂(株)製 パイオニンDTD−51(HLB値:13.7)とし、ホットメルト接着剤を構成する樹脂と界面活性剤の固形分換算比が100質量部/9質量部の割合になるように塗布液を調合する以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0058】
(実施例7)
実施例1においてホットメルト接着剤を構成する樹脂を粘度14,000、固形分50%、水が分散媒であるアクリル樹脂エマルジョンとし、ホットメルト接着剤を構成する樹脂と界面活性剤の固形分換算比が100質量部/9質量部の割合になるように塗布液を調合する以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0059】
(実施例8)
実施例1において界面活性剤をアルキルエーテル型のノニオン界面活性剤である(株)製 パイオニンD−1402(HLB値:4.9)とし、ホットメルト接着剤を構成する樹脂と界面活性剤の固形分換算比が100質量部/9質量部の割合になるように塗布液を調合する以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0060】
(比較例1)
実施例1において調合液に界面活性剤を用いないこと以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0061】
(比較例2)
実施例6において調合液に界面活性剤を用いないこと以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0062】
(比較例3)
実施例1において界面活性剤をコハク酸塩型のアニオン界面活性剤である竹本油脂(株)製 ニューカルゲンEP−60Pとする以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0063】
(比較例4)
実施例1において界面活性剤を4級アンモニウム塩型のカチオン界面活性剤である東邦化学工業(株)製 アンステックッスC−200Xとする以外は同様にして、本発明の液体展開用シートを得た。
【0064】
【表1】
【0065】
表1から明らかなように実施例1〜7で示すホットメルト接着剤と界面活性剤から成る液体受容層を設けたところ、接着強度および液体受容層へのインキ転写性は良好であった。実施例8はHLB値が好ましい範囲を外れるため、ややインキ接着性が劣るものの外観は良好であった。一方で、比較例1および2においては接着強度は十分であったがインキ転写性が十分でなかった。また、比較例3および4においてはインキ転写性は良好であったが接着強度が不十分であった。