ここで、下部ブラケットは、鉛直方向に延びる中央の凹部22を挟んだ両側に橋軸方向に張り出される一対の溝壁部21,21を有するとともに、上部ブラケットは、凹部に配置される垂下部31と、垂下部の下端両側から橋軸直交方向Xに張り出されて溝壁部の下方に配置される突出部32,32とを有している。
前記下部ブラケットはアンカーボルトによって前記下部工に固定されているとともに、前記上部ブラケットもアンカーボルトによって前記上部工に固定されていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の落橋防止構造。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながらケーブルやベルトを使用した構造では、機能が発揮されるまでの変形量が大きくなるため、落橋や流出は防げたとしても、橋梁の機能が保全された状態を保つのは難しい。すなわち、震災後のライフラインの確保及び早期復旧のためには、津波などを受けても最低限の機能が保全される橋梁が求められる。
【0006】
そこで、本発明は、作用する力に対して感度の高い構造であるうえに、震災による橋梁の機能低下を最小限に抑えることが可能な落橋防止構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明の落橋防止構造は、橋梁の下部工と上部工とを接続させる落橋防止構造であって、前記下部工の橋軸方向の鉛直面に固定される下部ブラケットと、前記上部工の橋軸方向の鉛直面に固定される上部ブラケットとを備え、前記下部ブラケットは、鉛直方向に延びる中央の凹部を挟んだ両側に橋軸方向に張り出される一対の受け部を有するとともに、前記上部ブラケットは、前記凹部に配置される垂下部と、前記垂下部の下端両側から橋軸直交方向に張り出されて前記受け部の下方に配置される突出部とを有していることを特徴とする。
【0008】
ここで、前記受け部は、前記凹部の側面となる壁状に形成される構成とすることができる。また、前記下部ブラケットは、上縁に橋軸方向に棚状に張り出される棚部を有する構成とすることができる。さらに、前記突出部は、前記垂下部に一体に形成されている構成とすることができる。
【0009】
また、前記下部ブラケットはアンカーボルトによって前記下部工に固定されているとともに、前記上部ブラケットもアンカーボルトによって前記上部工に固定されている構成とすることができる。そして、前記上部ブラケットと前記上部工との隙間には、セメント系硬化材が充填されている構成とすることができる。
【発明の効果】
【0010】
このように構成された本発明の落橋防止構造では、下部工と上部工の橋軸方向の鉛直面に上部ブラケットと下部ブラケットを固定し、上部ブラケットの垂下部を下部ブラケットの凹部に配置させる。さらに、凹部には橋軸方向に張り出される一対の受け部が設けられるとともに、垂下部の下端には受け部の下方に配置される突出部が設けられる。
【0011】
すなわち、垂下部と受け部との接触によって、橋軸直交方向の水平力やモーメントに直接的に抵抗させることができる。また、受け部と突出部との接触によって、津波などによる上揚力にも抵抗させることができる。
このため、作用する力に対して感度の高い構造となり、落橋や橋桁の流出を防ぐことができるうえに、震災による橋梁の機能低下を最小限に抑えることが可能となる。
【0012】
また、受け部が凹部の側面となる壁状に形成されていれば、下部ブラケットを軽量化することができ、下部工の負担増加を最小限に抑えることができる。
さらに、下部ブラケットの上縁に橋軸方向に棚状に張り出される棚部が設けられていれば、橋軸方向の桁座が拡幅されたことになって、上部工が移動しても棚部に載ることで落橋を防ぐことができる。
そして、突出部が垂下部に一体に形成されていれば、上揚力に対して垂下部と一体になって抵抗させることができるので、靭性を高めることができる。
【0013】
また、下部ブラケット及び上部ブラケットをアンカーボルトによって固定させる構成であれば、下部工及び上部工に与える影響を最小限に抑えることができるうえに、強固な固定とすることができる。さらに、上部ブラケットと上部工との隙間にセメント系硬化材が充填されていれば、両者を一体に挙動させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1,2は、本実施の形態で説明する橋梁1の概略構成を、橋軸直交方向Xで切断した横断面図と、橋軸方向Yで切断した縦断面図とで示している。
【0016】
橋梁1は、橋脚11や橋台などの下部工と、橋桁12などの上部工とによって主に構成される。通常、上部工は、下部工の上に支承部を介して設置される。本実施の形態では、橋脚11の上面11bに設置されたゴム支承13,13の上に、橋桁12の橋軸方向Yの端部が載せられた構成を例にして説明する。
【0017】
図1,2に例示した橋脚11は、平面視略長方形又は平面視略長円形の四角柱状に鉄筋コンクリートによって構築されている。ここで、橋軸方向Yの側面となる鉛直面を橋軸面11aとする。
【0018】
一方、
図1,2に例示した橋桁12は、橋軸方向Yに延伸される長尺の鉄筋コンクリート構造物又はプレストレストコンクリート構造物である。この橋桁12は、橋軸直交方向Xに間隔を置いて平行に設けられる一対の主桁部121,121と、橋軸方向Yの端部となる橋脚11上に設けられる横桁部122と、橋桁12の上面を形成するスラブ123とによって、主に構成される。
【0019】
横桁部122は、主桁部121,121の延伸方向(橋軸方向Y)に略直交する向き(橋軸直交方向X)で、主桁部121,121間の間隙を塞ぐように設けられる。そして、主桁部121,121間に露出される、横桁部122の橋軸方向Yの側面となる鉛直面を、橋軸内面12aとする。
【0020】
図5は、本実施の形態の落橋防止構造を模式的に説明する図である。この落橋防止構造は、橋脚11の橋軸面11aに固定される下部ブラケット2と、橋桁12の橋軸内面12aに固定される上部ブラケット3とによって主に構成される。
【0021】
下部ブラケット2は、橋軸直交方向Xが長手方向となる正面視略長方形に形成され、橋軸直交方向Xの略中央に鉛直方向に延びる凹部22が設けられる。そして、その凹部22の両側には、橋軸方向Yに張り出される一対の受け部としての溝壁部21,21が設けられる。さらに、下部ブラケット2の上縁には、橋軸方向Yに棚状に張り出される棚部23,23が設けられる。
【0022】
一方、上部ブラケット3は、鉛直方向が長手方向となる正面視略長方形の帯状に形成され、下端の両側から橋軸直交方向Xに張り出される突出部32,32がそれぞれ設けられる。
【0023】
上部ブラケット3の橋桁12より下方に垂下される垂下部31は、下部ブラケット2の凹部22に配置される。また、垂下部31の下端の突出部32,32は、溝壁部21,21の下方にそれぞれ配置される。
【0024】
続いて、下部ブラケット2と上部ブラケット3の詳細な構成について、
図3,4を参照しながら説明する。まず、
図3の4面図を参照しながら、下部ブラケット2について説明する。
【0025】
図3は、中央に下部ブラケット2の正面図を示し、その上下に下部ブラケット2の平面図と底面図を示し、右側に下部ブラケット2の側面図を示している。下部ブラケット2は、例えば鋼板などの鋼材を溶接などで接合させることによって製作される。
【0026】
下部ブラケット2は、長方形のベース板24上に組み立てられる。ベース板24の長手方向の略中央は、凹部22の底面となる。この凹部22は、垂下部31の幅よりも僅かに広い幅でベース板24の短手方向に縦断される。
【0027】
凹部22の両側面は、一対の溝壁部21,21によって形成される。溝壁部21は、ベース板24に対して直交させる長方形の側板部211と、側板部211の両端の凹部22側に固定ボルト213によって接合されるスペーサ212,212とによって主に構成される。
【0028】
スペーサ212は、凹部22の幅を調整したり、溝壁部21の端部を補強したりするために設けられる。また、側板部211の上端において、スペーサ212の反対側には棚部23が設けられる。
【0029】
長方形の棚部23は、側板部211の上端からベース板24の長手方向(橋軸直交方向X)に張り出されて、ベース板24に接合される。そして、この棚部23によって、橋軸方向Yに棚状に張り出される拡幅された桁座が形成される。
【0030】
一方、側板部211の下端においては、スペーサ212の反対側に底板部231が設けられる。底板部231は、棚部23と同じ形状で、棚部23と略平行となるようにベース板24に接合される。
【0031】
また、棚部23と底板部231との間は、側板部211と略平行となる複数の縦板25,・・・によって接続される。縦板25,・・・は、橋軸直交方向Xにほぼ等間隔でベース板24に接合され、側板部211と縦板25との間及び縦板25,25間のベース板24には、複数のボルト穴241,・・・が穿孔される。このボルト穴241は、
図1,2に示すように、下部ブラケット2を橋脚11にアンカーボルト26で固定する際に使用される。
【0032】
図4は、中央に上部ブラケット3の正面図を示し、その上下に上部ブラケット3の平面図と底面図を示し、右側に上部ブラケット3の側面図を示している。上部ブラケット3は、例えば鋼板などの鋼材を溶接などで接合させることによって製作される。
【0033】
上部ブラケット3の橋桁12に固定させる上半部は、長方形の固定板33上に組み立てられる。固定板33の上端からは棚状に上蓋333が張り出される。上蓋333の下方には、上蓋333と略平行となる複数の上補強部332,・・・が固定板33などに接合される。
【0034】
上蓋333と上補強部332との間及び上補強部332,332間の固定板33には、複数のボルト穴331,・・・が穿孔される。このボルト穴331は、
図1,2に示すように、上部ブラケット3を橋桁12にアンカーボルト35で固定する際に使用される。
【0035】
最下段の上補強部332の下方には、中段板311が固定板33から橋軸方向Yに向けて棚状に張り出される。この中段板311の下面の略中央に、長方形状の垂下部31の上端面が接合される。
【0036】
上部ブラケット3の橋桁12より下方に垂下させる下半部は、垂下部31によって主に構成される。垂下部31の下端両側には、水平方向(橋軸直交方向X)に突出された突出部32,32がそれぞれ形成される。すなわち、垂下部31と突出部32,32とによって、略逆T字形が形成される。
【0037】
垂下部31の橋軸直交方向Xの両側縁には、帯状の側端板34,34が接合される。側端板34は、上半部が固定板33に直交した状態で接合されるとともに、下半部の略中央に垂下部31の側縁が接合される。
さらに垂下部31と側端板34,34との間は、中段板311と略平行となる複数の横リブ312,312と底リブ313とによって補強される。
【0038】
次に、本実施の形態の落橋防止構造の構築方法、及び落橋防止構造の作用について説明する。
この落橋防止構造は、新設の橋梁にも既設の橋梁1にも設けることができる。本実施の形態では、既設の橋梁1に対して、補強のために落橋防止構造を設ける場合について説明する。
【0039】
まず、橋脚11の上端付近(上面11bより少し下方)の橋軸面11a側から、下部ブラケット2を取り付けるためのアンカー孔の削孔を行う。このアンカー孔の径は、アンカーボルト26の径に合わせた大きさとする。
【0040】
アンカー孔の削孔は、下部ブラケット2のボルト穴241,・・・の位置に合わせて行われるが、橋脚11の主鉄筋の位置は避けて行う。削孔後、下部ブラケット2のベース板24を橋軸面11aに接触させ、アンカー孔にアンカーボルト26を挿入して定着させる。
【0041】
アンカーボルト26の定着は、アンカー孔に充填された接着材を介して行われ、アンカーボルト26の頭部はナットなどを介してベース板24に固定される。この結果、橋脚11の橋軸面11aに、
図3の正面図の状態で強固に下部ブラケット2が固定されることになる。
【0042】
一方、橋桁12の横桁部122の橋軸内面12a側からは、上部ブラケット3を取り付けるためのアンカー孔の削孔を行う。このアンカー孔の径は、アンカーボルト35の径に合わせた大きさとする。
【0043】
アンカー孔の削孔は、上部ブラケット3のボルト穴331,・・・の位置に合わせて行われるが、横桁部122の主鉄筋の位置は避けて行う。削孔後、上部ブラケット3の固定板33を橋軸内面12aに接触させ、アンカー孔にアンカーボルト35を挿入して定着させる。
【0044】
橋桁12に固定された上部ブラケット3の垂下部31は、下部ブラケット2の凹部22に収容された状態となる。また、垂下部31の下端両側から張り出された突出部32,32は、下部ブラケット2より下方に飛び出し、溝壁部21,21の真下にそれぞれ配置される。
【0045】
主桁部121,121間に上部ブラケット3が取り付けられた段階では、主桁部121の内側面及びスラブ123の下面と上部ブラケット3との間には隙間が存在する。
【0046】
この隙間には、セメント系硬化材としての間詰めコンクリート4又はモルタルなどを充填する。すなわち、主桁部121の内側面と側端板34との間、及びスラブ123の下面と上蓋333との間を、間詰めコンクリート4を介して連続させる。
【0047】
このようにして落橋防止構造が構築された橋梁1がある地盤に地震が起きると、
図5に示すような様々な力が作用することになる。既設の橋梁1であれば、地震力に対抗させるための耐震構造が別途、設けられているが、橋軸直交方向Xの水平力Hに対しては、上部ブラケット3のせん断抵抗を加えることができる。すなわち、既存の水平力に対する耐力構造と上部ブラケット3とが協働して、水平力Hを分担することができる。
【0048】
さらに、既存の橋梁1の設計では考慮されていない、津波や洪水などによって橋梁1が受ける力に対しても、本実施の形態の落橋防止構造を設けることで対抗させることができる。
【0049】
津波などが橋梁1に襲来すると、橋軸直交方向Xからは、衝撃力や水圧が水平力Hとして作用する。また、この水平力Hによって、ゴム支承13周辺には、橋桁12が転倒する方向のモーメントMが作用する。さらに、橋桁12の下方からは、水没等によって上揚力Vが作用することになる。
【0050】
これらの力に対して、水平力Hについては、上部ブラケット3の垂下部31の橋軸直交方向Xの移動が溝壁部21との接触で制限されることによって、せん断抵抗が発生する。
【0051】
また、モーメントMについては、橋桁12が傾こうとすると、垂下部31の下端の一方の突出部32が溝壁部21の下端に接触することによって、傾きが制限される。
【0052】
さらに、上揚力Vについては、橋桁12が浮き上がろうとすると、垂下部31の下端の両方の突出部32,32が溝壁部21,21の下端と接触して、ゴム支承13における上下の分離を防ぐことができる。
【0053】
このように構成された本実施の形態の落橋防止構造では、橋脚11と橋桁12の橋軸方向Yの鉛直面(11a,12a)に上部ブラケット3と下部ブラケット2を固定し、上部ブラケット3の垂下部31を下部ブラケット2の凹部22に配置させる。
【0054】
さらに、凹部22には橋軸方向Yに張り出される一対の溝壁部21,21が設けられるとともに、垂下部31の下端には溝壁部21,21の下方に配置される突出部32,32が設けられる。
【0055】
すなわち、垂下部31と溝壁部21との接触によって、橋軸直交方向Xの水平力HやモーメントMに直接的に抵抗させることができる。また、溝壁部21と突出部32との接触によって、モーメントMだけでなく津波などによる上揚力Vにも抵抗させることができる。
【0056】
このため、作用する力(H,M,V)に対して感度の高い構造となり、落橋や橋桁12の流出を防ぐことができるうえに、震災による橋梁1の機能低下を最小限に抑えることが可能となる。
【0057】
また、受け部が凹部22の側面となる壁状に形成された溝壁部21となっているので、下部ブラケット2を軽量化することができ、橋脚11の自重の増加などの負担増加を最小限に抑えることができる。
【0058】
さらに、下部ブラケット2や上部ブラケット3を構成する鋼板などの部材は、地震力や津波などを受けた際に変形しても簡単に取り換えることができる。例えば、上述した力(H,M,V)が作用した場合は、側端板34、側板部211、垂下部31、突出部32などが変形したり、破損したりする可能性があるが、それらの損傷した部材を部分的に取り換えるだけで、機能を回復させることができる。特に、側端板34を交換しやすい取付構造として、側端板34に損傷が集中するようにすることで、部分的な交換で容易に修繕を行うことができるようになる。
【0059】
また、下部ブラケット2の上縁に橋軸方向Yに棚状に張り出される棚部23が設けられていれば、橋桁12が橋軸方向Yに移動して橋脚11から落ちそうになっても、棚部23に載ることで落橋を防ぐことができる。すなわち、棚部23によって桁座が拡幅されたことになり、想定外の大規模地震時の落橋防止機能となる桁かかり長を延長させることができる。
【0060】
さらに、突出部32,32が垂下部31に一体に形成されていれば、上揚力VやモーメントMによって突出部32に大きな力が作用した場合に、垂下部31が変形しながら一体になって抵抗させることができるので、靭性を高めることができる。
【0061】
そして、下部ブラケット2及び上部ブラケット3をアンカーボルト26,35によって固定させる構成であれば、橋脚11及び橋桁12に与える影響がアンカー孔の削孔のみと最小限に抑えることができるうえに、強固な固定とすることができる。
【0062】
さらに、上部ブラケット3と橋桁12との隙間に間詰めコンクリート4が充填されていれば、橋桁12に作用した力を効率的に上部ブラケット3に伝達させて、両者を一体に挙動させることができる。
【0063】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0064】
例えば前記実施の形態では、壁状の溝壁部21を受け部として説明したが、これに限定されるものではなく、例えば直方体状の受け部を設けることもできる。また、前記実施の形態では、一対の溝壁部21,21が一つの下部ブラケット2に設けられる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、凹部を挟んで別体の受け部が設けられる構成とすることもできる。
【0065】
さらに、前記実施の形態で説明した橋脚11、橋桁12及びゴム支承13は例示であり、これに限定されるものではなく、別の形態の下部工、上部工及び支承部にも本発明を適用することができる。また、前記実施の形態では、既設の橋梁1を補強する場合について説明したが、これに限定されるものではなく、新設の橋梁の建設時に本発明の落橋防止構造を同時に設けることもできる。