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特開2017-166291補強土構造体と上載盛土を有する複合盛土構造物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-166291(P2017-166291A)
(43)【公開日】2017年9月21日
(54)【発明の名称】補強土構造体と上載盛土を有する複合盛土構造物
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/18 20060101AFI20170825BHJP
   E02D 29/02 20060101ALI20170825BHJP
【FI】
   E02D17/18 A
   E02D29/02 302
   E02D29/02 303
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-55329(P2016-55329)
(22)【出願日】2016年3月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000201490
【氏名又は名称】前田工繊株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100082418
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 朔生
(72)【発明者】
【氏名】横田 善弘
(72)【発明者】
【氏名】小林 洋文
(72)【発明者】
【氏名】伊東 史晃
【テーマコード(参考)】
2D044
2D048
【Fターム(参考)】
2D044CA03
2D044CA05
2D044CA06
2D048AA13
2D048AA22
(57)【要約】
【課題】補強土構造体の工事費を低減でき、かつ、安全性が高く、経済的でかつ実効性のある上載盛土のすべりを抑制できる、複合盛土構造物を提供すること。
【解決手段】補強土構造体10と上載盛土20とを具備した複合盛土構造物であって、上載盛土20の天端部分に天端補強層30を形成した。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
盛土中に補強材を埋設した補強土構造体と、前記補強土構造体の上部に上載盛土が位置する複合盛土構造物であって、
前記上載盛土の天端部分に、盛土材を面状補強材で包持して拘束した所定の層厚の天端補強層を有し、該上載盛土の天端を起点とした円弧すべり線をなくしたことを特徴とする、
複合盛土構造物。
【請求項2】
前記天端補強層の面状補強材の伸び率が補強土構造体の補強材の伸び率より小さいか、または等しい関係にあることを特徴とする、請求項1に記載の複合盛土構造物。
【請求項3】
前記天端補強層が均一厚であることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合盛土構造物。
【請求項4】
前記天端補強層が不均一厚であることを特徴とする、請求項1または2に記載の複合盛土構造物。
【請求項5】
前記天端補強層が盛土材を面状補強材で包持して形成した単数または複数を積層した拘束土マットで構成されていることを特徴とする、請求項3または4に記載の複合盛土構造物。
【請求項6】
前記上載盛土の法尻に位置する補強土構造体が、補強盛土または補強土壁であることを特徴とする、請求項1乃至5の何れか一項に記載の複合盛土構造物。
【請求項7】
前記上載盛土が高盛土であり、小段位置に小段用補強材を埋設したことを特徴とする、請求項1乃至6の何れか一項に記載の複合盛土構造物。
【請求項8】
前記上載盛土が道路盛土であり、路面の直下の路盤または路床を含めて面状補強材で包持された天端補強層を有することを特徴とする、請求項1乃至7の何れか一項に記載の複合盛土構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は道路、鉄道、堤防等に適用可能な複合盛土構造物に関し、殊に上載盛土が高盛土である場合に好適な補強土構造体と上載盛土を有する複合盛土構造物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
補強土構造体は、のり面勾配(壁面勾配)が1:0.6より急なものを「補強土壁」、1:0.6かそれより緩いものを「補強盛土」と大別されている。
補強土構造体の施工法としては、例えばジオテキスタイルを用いた補強盛土工法、帯状鋼材を用いた補強土壁工法、または支圧板付き棒鋼を用いたアンカー式補強盛土壁工法等の多くの工法が提案されており(特許文献1〜5)、現場周辺環境、設計強度、施工コスト、工期等を考慮して適宜工法が選択される。
これらの工法は、補強材による補強形式が異なるものの、盛土内部に敷設した補強材との間の摩擦抵抗または支圧抵抗により盛土の安定性を補い、法面勾配を標準勾配より急勾配に保つ点で共通する。
一般的には、簡易設計法に基づき、以下の複数の評価項目を照査して補強土構造体が設計されている。
その評価項目とは、補強材が通過する箇所のすべりを設定して、補強材の密度、強さ、全長を選定して補強領域自体の安定性を照査する「内的安定」と、補強領域を一体化した仮想擁壁と捉え、これを取り巻く仮想擁壁全体の安定性(転倒、滑動、支持力)について照査する「外的安定」と、補強領域自体が周辺地盤に対して所定の安全率(補強土構造体の外側及び補強領域を横切るすべり破壊、基礎地盤の沈下、地震時の液状化)を確保できているか否かを照査する「全体安定」の三つの評価項目である。
【0003】
また図6に示すように、補強土構造体aの上部に高盛土の上載盛土(嵩上げ盛土)bが存在する場合には、中規模盛土と比べて崩壊時の影響が大きくなるために、上記した複数の評価項目について、より慎重かつ詳細な検討が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−140424号公報(図1,2)
【特許文献2】特開平9−279580号公報(図1
【特許文献3】特開平6−322769号公報(図1
【特許文献4】特開平6−220855号公報(図1
【特許文献5】特開2001−182065号公報(図1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
補強土構造体aの上部に高盛土の上載盛土が位置する場合、補強土構造体aの設計にあたってつぎのような解決すべき課題がある。
<1>高盛土の場合における補強土構造体aの設計手法が明確に確立されていない。
そのため、従来の設計手法である簡易設計法に基づき補強土構造体aを設計しているものの、その設計に多くの時間と手間を要している。
<2>補強土構造体aを設計する場合、上載盛土b内に生じる円弧すべり線(面)を仮定して照査する必要がある。
上載盛土bの天端に路面cのみが存在する場合、補強土構造体aの高さHと奥行Lを求めるためには、上載盛土bの小段位置や法肩位置に円弧すべり線s,sを仮定するだけでなく、天端に達する円弧すべり線s,sについても仮定しなければならない。
<3>天端に達する円弧すべり線s,sが仮定される場合、これらの円弧すべり線s,sに対処するためには、補強土構造体aの奥行L(補強材の全長)が長くなる。
<4>高盛土が中盛土と比べて盛土崩落の影響が大きくなることと、土構造物の安全率をより高める観点から、補強土構造体aの奥行Lは正規より余分に長い寸法で見積もられているのが実情である。
分かり易く説明すると、補強土構造体aの奥行Lの正規の設計長が、例えば補強土構造体aの高さHの1.5倍の長さであっても、最終的には補強土構造体aの高さHの2〜3倍の長さに過分に見積もられている。
<5>上記したように、従来は補強土構造体aの奥行Lが必要以上に長く見積もられるために、非常に不経済な設計となっている。
すなわち、補強領域の奥行Lの寸法は、補強土構造体aの歩掛に大きな影響を及ぼし、補強領域の奥行Lが僅かでも長くなると、補強土構造体aの施工コストが嵩むだけでなく工期も長期化して歩掛が悪化する。
支持地盤の支持力が不足する現場では、支持地盤を補強する追加工事が必要となって、歩掛がさらに悪化する。
<6>現在、補強土壁工法だけでも壁面材や補強材の違いにより30種以上の工法が提案されていて、工法毎に性能(安全性、耐久性)や施工単価等が異なる。
公共構造物の観点にたてば、現地に適した性能優先の工法を選定することが最も重要なことではあるが、重要な工法選定基準である工事費が障害となって、性能優先の工法選定が阻害されている。
そのため、既存の工法であっても補強土構造体aの工事費を低減できれば、現地に適した性能優先の工法選定の実現性が高くなることから、工事費低減の改善技術の提案が望まれている。
<7>近年の巨大地震時により道路盛土や鉄道盛土等の土構造物がすべり崩壊等の被害を受けて主幹交通網が随所で寸断され、緊急輸送路の確保が大きな課題として残った。
殊に、既設の土構造物を補強して耐振性能を引き上げることは可能であるが、長距離におよぶ土構造物の全断面を補強することは、経済的な負担が極めて大きいことから、実現性に乏しい。
<8>従来の土構造物では、想定を超える地震動を繰り返し受けると、一次すべり線に沿って上載盛土bが崩壊し、さらに奥側の二次、三次すべり線に沿って上載盛土bの崩壊が進行する。
震災時の道路ネットワークを確保するためには、二次、三次すべりといったすべりの連鎖を断ち切り、路面cに緊急車両等が通行可能な幅員を残留し得るような、安全性が高く、経済的でかつ実効性のある上載盛土のすべり抑制技術の提案が切望されている。
【0006】
本発明は既述した点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、現地に適した性能の工法選定を実現するために、既存の工法であっても補強土構造体の工事費を低減でき、かつ、安全性が高く、経済的でかつ実効性のある上載盛土のすべりを抑制できる、補強土構造体と上載盛土を有する複合盛土構造物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、盛土中に補強材を埋設した補強土構造体と、前記補強土構造体の上部に上載盛土が位置する複合盛土構造物であって、前記上載盛土の天端部分に、盛土材を面状補強材で包持して拘束した所定の層厚の天端補強層を有し、該上載盛土の天端を起点とした円弧すべり線をなくしたことを特徴とする。
本発明の他の形態において、前記天端補強層の面状補強材の伸び率が補強土構造体の補強材の伸び率より小さいか、または等しい関係にある。
本発明の他の形態において、前記天端補強層は均一厚、または不均一厚であってもよい。
本発明の他の形態において、前記天端補強層が盛土材を面状補強材で包持して形成した単数または複数を積層した拘束土マットで構成されている。
本発明の他の形態において、前記上載盛土の法尻に位置する補強土構造体が、補強盛土または補強土壁の何れかである。
本発明の他の形態において、前記上載盛土が高盛土である場合は、小段位置に小段用補強材を埋設してもよい。
本発明の他の形態において、前記上載盛土が道路盛土であり、路面の直下の路盤または路床を含めて面状補強材で包持された天端補強層を有するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明は、既存の工法であっても補強土構造体の工事費を低減でき、かつ、安全性が高く、経済的でかつ実効性のある上載盛土のすべりを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る複合盛土構造物のモデル図
図2】補強盛土のモデル図
図3A】多数アンカー式補強土壁のモデル図
図3B】テールアルメ式補強土壁のモデル図
図3C】ジオテキスタイル式補強土壁のモデル図
図3D】二重壁式補強土壁のモデル図
図4】均一厚の天端補強層を形成した上載盛土の天端部の拡大モデル図
図5】不均一厚の天端補強層を形成した上載盛土の天端部の拡大モデル図
図6】高盛土における補強土構造体の設計方法を説明するための従来の土構造物のモデル図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明について説明する。
【0011】
<1>複合盛土構造物の概要
図1を参照して説明すると、本発明に係る複合盛土構造物は、法尻に位置する補強土構造体10と、補強土構造体10の上部に位置する上載盛土20と、上載盛土20の天端部分の盛土材を所定の層厚で補強した天端補強層30とにより構成する。
天端補強層30の上面に路面40が形成されており、路面40を通じて自動車または列車等が走行可能である。
【0012】
本発明に係る複合盛土構造物は補強土構造体10に天端補強層30を組み合せることで、上載盛土20の天端を起点とした円弧すべり線(面)をなくすとともに、円弧すべり線の発生位置を天端補強層30の外方位置(上載盛土20の法面範囲)に限定し、最終的に補強土構造体10の補強領域である奥行Lを従来と比べて大幅に短縮し得るようにしたものである。
これにより、現地に適した性能の工法選定を実現するために補強土構造体10の経済的な設計を可能にするとともに、震災時においては上載盛土のすべりを抑制すことで路面40の致命的な被害を回避して、緊急輸送路の確保を可能にする。
【0013】
<2>補強土構造体
補強土構造体10は盛土中に補強材を埋設した土構造物である。
以下に補強土構造体10について例示するが、補強土構造体10はこれらの例示に限定されず、公知の各種の土構造物を含むものである。
【0014】
<2.1>補強盛土
図2は補強土構造体10が補強盛土10Aである場合のモデル図を示す。
補強盛土10Aは補強材12として、鋼製網、高分子材料製の格子状または面状のジオテキスタイル等を使用し、複数の盛土層11中に埋設した複数の補強材12と盛土材とを双方の摩擦力により一体化して土留効果を発揮させるようにした土構造物である。
【0015】
<2.2>補強土壁(図3A〜3E)
補強土構造体10(10A〜10D)は法面を保護する壁面材15と、壁面材15の背面側に接続した補強材12と、補強材12を埋設した盛土層11とを具備した補強土壁であってもよい。
壁面材15は、例えばコンクリートパネル、コンクリートブロック、鋼製枠(溶接金網、エキスパンドメタル)、場所打ちコンクリート等の中から適宜選択する。
補強材12としては、例えばアンカープレート付棒鋼、帯状鋼材、鋼製網や高分子材料製の格子状または面状のジオテキスタイル、ジオグリッド等を含む。
以下に代表的な補強土壁を例示する。
【0016】
<2.2.1>多数アンカー式補強土壁(図3A
多数アンカー式補強土壁10Bは、壁面材15にコンクリートパネルまたはコンクリートブロックを使用し、補強材12としてアンカープレート16付きの棒鋼を使用するもので、壁面材15の背面に連結した複数の補強材12のアンカープレート16による引抜抵抗力を利用して土留効果を発揮させるようにした土構造物である。
盛土の補強機構としては、壁面材15とアンカープレート16に挟まれた盛土材を拘束補強することで土構造物の強度を高めている。
【0017】
<2.2.2>テールアルメ式補強土壁(図3B
テールアルメ式補強土壁10Cは、壁面材15にコンクリートパネルまたはコンクリートブロックを使用し、補強材12に帯状鋼材を使用するもので、盛土層11内に埋設した帯状の補強材12と盛土材との摩擦力による引抜抵抗力で土留効果を発揮させるようにした土構造物である。
盛土の補強機構としては、盛土内に埋設した複数の帯鋼の補強材12による擬似粘着力により土構造物の強度を高めている。
【0018】
<2.2.3>ジオテキスタイル式補強土壁(図3C
ジオテキスタイル補強土壁10Dは、補強材12に鋼製網や格子状または面状のジオテキスタイルを使用するもので、盛土層11内に埋設した面状の補強材12と盛土材との間の摩擦力による引抜抵抗力、及びインターロッキング効果により土留効果を発揮させるようにした土構造物である。
壁面材15は勾配を持たせた鋼製枠(溶接金網、エキスパンドメタル)、または直壁用のコンクリートブロックを法面勾配に応じて使い分けする。
また図示を省略するが、必要に応じて排水機能を備えた不織布製の補強材を併用する。
【0019】
<2.2.4>二重壁式補強土壁(図3D
アデムウォールに代表される二重壁式補強土壁10Eは、壁面材15にコンクリートパネルまたはコンクリートブロックを使用し、補強材12に鋼製網や格子状または面状のジオテキスタイルを使用するもので、盛土層11内に面状の補強材12を埋設して補強した盛土体と、壁面材15との間に変形吸収用の空間16を形成した二重壁構造の土構造物であり、壁面材13と盛土体の間がベルト状の連結材で連結してある。
細骨材または粗骨材を充填した空間16が盛土体前面の変形吸収作用を発揮するので、盛土の転圧荷重を壁面材15に影響させずに、壁面材15近傍の締め固めを十分に行うことができて、高品質の盛土体を構築できる。
【0020】
<3>上載盛土
上載盛土20は標準勾配(35°以下)の道路盛土、鉄道盛土、堤体等である。
本例では上載盛土20がその法面途中に単数または複数の小段21を形成した高盛土である場合について示すが、上載盛土20の高さは原則的に制限がない。
ここでいう「高盛土」とは、補強土構造体10の高さHと上載盛土bの高さHの比が1:1以上であって、盛土高H(補強土構造体aの高さHと上載盛土bの高さHの和)が15〜20m以上の土構造体を指す。
【0021】
<4>天端補強層(図4,5)
天端補強層30は路面40の直下の路盤、路床を含む天端部の盛土材22を面状補強材31で包持して拘束した所定の層厚を有するせん断強度の高い補強層である。
換言すれば天端補強層30は、地震時に最も大きな加速度が作用する上載盛土20の天端部分を効率的に面状補強材31で補強した補強層であり、上載盛土20の天端部に敷設する面状補強材31で盛土のり面を巻き込む構造であり、面状補強材31による拘束効果により盛土天端部の一体化効果が発揮される。
面状補強材31には、例えば高分子材料製の格子状または面状のジオテキスタイルまたはジオグリッド等を使用できる。
【0022】
<4.1>天端部を補強した理由
上載盛土20の天端部に天端補強層30を形成したのは、地震時における上載盛土20の法肩の崩壊抑止効果を高めるためだけではなく、上載盛土20の天端を起点とした円弧すべり線をなくして法尻の補強土構造体10の奥行を短く設計するためである。
以下に幾つかの天端補強層30について例示するが、天端補強層30は例示した形態に限定されず、公知の補強構造を適用できる。
【0023】
<4.2>均一厚に形成した天端補強層
図4(A)に地震時に最も大きな加速度が作用する上載盛土20の天端部分を均一厚の天端補強層30で構成した形態を示す。
天端補強層30は盛土材22を面状補強材31で包持して形成した複数の拘束土マット35の積層構造物であり、上載盛土20の天端を横断し得る横幅を有する。
複数の拘束土マット35を積層して設置する場合、隣接する各拘束土マット35の上下間を公知の連結具34で連結すると、各拘束土マット35の一体性が増して、水平移動に対する抑止効果や全体の曲げ剛性を高めることができる。
【0024】
<4.2.1>拘束マット
図4(B)(C)に拘束土マット35の一例を示す。
図4(B)に示した拘束土マット35は、水平に敷設した面状補強材31の上面に盛土材22を層状に撒き出して締め固め、盛土材22の法面を含む全周を面状補強材31で巻き込んでマット状に形成したものである。
面状補強材31が盛土材22を拘束することで、拘束土マット35が強固な構造となり、地震時における盛土材22の崩落変位を効果的に阻止できる。
必要に応じて拘束土マット35の上下面間を棒材やベルト材等の連結材で接続すると、拘束土マット35の曲げ強度(剛性)がさらに高くなる。
【0025】
<4.2.2>二重構造の拘束マット
図4(C)に示した拘束土マット35は、土のう袋32内に盛土材22を袋詰めした複数の土のう33と、面状補強材31を組み合せたものであり、面状補強材31の上面に複数の土のう33を敷き並べ、複数の土のう33の周囲を面状補強材31で包み込むように巻き掛けたて拘束土マット35を形成する。
盛土材22を複数の土のう袋32で区画して拘束すると共に、土のう袋32と面状補強材31による二重の拘束構造となるので、盛土材22に低品質の材料を用いても拘束土マット35に高い曲げ強度を付与することができる。
【0026】
<4.2.3>拘束マットの敷設数
本例では複数の拘束土マット35を積層して均一厚の天端補強層30を構成する場合について示すが、天端補強層30は単層の拘束土マット35で構成してもよい。
【0027】
<4.3>不均一厚に形成した天端補強層
図5に上載盛土20の天端部分を不均一厚の天端補強層30で構成した他の形態を示す。
この天端補強層30は、路面40の直下に位置する中央部36と、中央部36の端部に一体に連設した法面部37とからなり、中央部36の層厚tが法面部37の層厚tと比べて相対的に薄厚の関係となるように不均一の層厚となっている。
天端補強層30の下面中央には下向きの拘束凹部38が形成されており、この拘束凹部38と上載盛土20の中央峰部23とが密着嵌合した一体構造となる。
上載盛土20の中央峰部23は剛性の高い拘束凹部38の三面で拘束して包持されるため、天端補強層30を法面部37の層厚tの均一厚で形成した場合と同等の耐震効果が得られる。
本例の天端補強層30は、例えば長さ(横幅)の異なる前記した複数の拘束土マット35を上下に積層して構築することができる。
【0028】
[複合盛土構造物の特性]
つぎに複合盛土構造物の主な特性について説明する。
【0029】
<1>天端を起点とした円弧すべり線が生じない理由
本発明では、図1に示すように上載盛土20の天端部分を適宜の層厚で補強して土砂のせん断力(強度)の高い盛土製の天端補強層30を形成することで、天端補強層30を起点とした円弧すべり線の発生がなくなる。
天端補強層30を起点とした円弧すべり線が生じないのは、天端補強層30の補強材である面状補強材31の伸び率を、補強土構造体10の補強材12の伸び率より小さいか、または等しい関係にしてあるからである。
すなわち、天端補強層30の面状補強材31の伸び率が補強土構造体10の補強材12の伸び率より大きいと、法尻側に対して天端側の土砂のせん断力(強度)が小さくなるために、地震時において上載盛土20の天端側の土砂が移動し易くなって、天端を起点とした円弧すべり線が生じ易くなる。
本発明では面状補強材31と補強材12の伸び率の関係に着目し、天端補強層30を起点とした円弧すべり線を生じさせないために、面状補強材31と補強材12を上記した伸び率の関係としたものである。
【0030】
<2>上載盛土の円弧すべり線の本数について
天端補強層30が存在しない場合には、図6で示したように上載盛土bの天端を通る多数本の円弧すべり線s,s・・・を想定して法尻の補強土構造体aを設計しなければならなかった。
これに対して、上載盛土20の天端部分に天端補強層30を形成することで、天端補強層30を起点とした円弧すべり線を考慮せずに済むため、結果的に考慮すべき円弧すべり線の本数を大幅に削減できる。
<3>補強土構造体の奥行について
既述したように、図1に示した上載盛土20の天端部分に盛土製の天端補強層30を形成することで、天端補強層30を起点とした円弧すべり線がなくなり、円弧すべり線の発生位置を天端補強層30の外方位置(上載盛土20の法面範囲の円弧すべり線S,S)に限定することが可能となる。
したがって、補強土構造体10の設計にあたっては、天端補強層30を起点とした円弧すべり線を考慮する必要がなくなるため、補強土構造体10の補強領域(補強材の敷設長)である奥行Lを従来の奥行Lと比べて大幅に短縮でき、補強領域の短縮分に見合うだけ補強土構造体10の工事費を削減できる。
【0031】
<4>工法選定の自由度について
上記したように、上載盛土20の天端部分に天端補強層30を形成することで、法尻の補強領域の短縮分だけ補強土構造体10の工事費を削減できる。
これは低廉な施工法に変更することに拠るものではなく、同一の施工法で以て工事費を削減することを意味する。
したがって、従来まで工法選定の障害となっていた工事費を最重要視せずに、現地に最も適した性能(安全性、耐久性等)に配慮した工法を選定できる。
換言すれば、従来まで工事費がネックとなっていた工法が採用される可能性が高くなり、公共構造物の観点にたてば工法選定の自由度が高まり、多数の既存工法のなかから性能優先で最適な工法を選択することができる。
【0032】
<5>補強土構造体の設計手法について
従来は補強土構造体の上部に高盛土が存在する場合には、補強土構造体の設計に多くの時間と手間を要していた。
これに対して本発明の複合盛土構造物では、上載盛土20の天端を起点とした円弧すべり線を仮定せずに済むので、従来の簡易設計法を用いた補強土構造体の設計を短時間のうちに簡単かつ正確に行える。
【0033】
<6>複合盛土構造物の耐震性について
補強土構造体10は上載盛土20の法尻部および法面部の安定に大きく貢献する。
上載盛土20が高盛土で、単数または複数の小段21がある場合には、小段21の形成位置に小段用補強材24を水平に埋設しておくと、円弧すべり線Sの起点を小段21の奥側から表面位置に変更できる。
既述したように、上載盛土20の天端部分に天端補強層30を形成することで、円弧すべり線S,Sの発生位置を天端補強層30の外方位置に限定できる。
したがって、中小規模の地震が生じても上載盛土20の崩壊を抑止できる。
巨大地震が生じた場合には、上載盛土20の崩壊が予想されるが、上載盛土20の天端部分に天端補強層30が位置することで、上載盛土20の天端を起点としたすべりが生じ難く、さらに二次、三次のすべりが生じ難い。
仮に、天端補強層30の下面と接する上載盛土20の天端の法肩部の一部が崩落しても、天端補強層30の曲げ強度により路面40を支え続けることが可能となる。
上載盛土20と天端補強層30は協働して路面40を支持できるので、緊急車両等の通行が可能となり、震災時の道路ネットワークの確保に貢献できる。
【符号の説明】
【0034】
10・・・補強土構造体
11・・・補強土構造体の盛土層
12・・・補強土構造体の補強材
20・・・上載盛土(嵩上げ盛土)
21・・・上載盛土の小段
22・・・盛土材
23・・・上載盛土の中央峰部
24・・・小段用補強材
30・・・天端補強層
31・・・面状補強材
32・・・袋体
33・・・土のう
35・・・拘束土マット
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4
図5
図6