(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-166831(P2017-166831A)
(43)【公開日】2017年9月21日
(54)【発明の名称】歯周病検査キット、及び検査方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20170825BHJP
G01N 33/50 20060101ALI20170825BHJP
【FI】
G01N33/53 D
G01N33/50 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-49214(P2016-49214)
(22)【出願日】2016年3月14日
(71)【出願人】
【識別番号】515080179
【氏名又は名称】株式会社アイシーエレクトロニクス
(71)【出願人】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100179431
【弁理士】
【氏名又は名称】白形 由美子
(72)【発明者】
【氏名】大島 光宏
(72)【発明者】
【氏名】山口 洋子
(72)【発明者】
【氏名】岩本 久美
(72)【発明者】
【氏名】神谷 正己
【テーマコード(参考)】
2G045
【Fターム(参考)】
2G045AA25
2G045BA01
2G045BB05
2G045CB07
2G045DA36
2G045FB03
(57)【要約】 (修正有)
【課題】イムノクロマト法により唾液中の肝細胞増殖因子(HGF)を検出することにより、歯科クリニック、あるいは家庭でも簡便に、また感度良く歯周病の検査を行うことができるキット、及び検査方法を提供することを課題とする。
【解決手段】キレート剤と陽イオンを含む前処理液で一定時間処理することによって、HGFを感度良く検出することが可能となった。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
唾液を含む検体を処理するためのキレート剤と陽イオンを含む前処理液と、
HGFを検出する試験片からなることを特徴とする歯周病を検査するための検査キット。
【請求項2】
前記キレート剤がEDTAであり、
前記陽イオンがZn2+、Cu2+、Fe2+、Ca2+の少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項1記載の検査キット。
【請求項3】
前記EDTA濃度、及び前記陽イオン濃度が、各1〜100mMであることを特徴とする請求項2記載の検査キット。
【請求項4】
前記試験片がイムノクロマト法を測定原理とする試験片であることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項記載の検査キット。
【請求項5】
前記前処理液で処理された唾液を含む検体を濾過するためのフィルターを含むことを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項記載のキット。
【請求項6】
唾液を含む検体と、キレート剤と陽イオンを含む前処理液を混和し、
混和された検体と前処理液をフィルターによって濾過した後に
HGF試験片を用いて検査することを特徴とする歯周病検査方法。
【請求項7】
前記キレート剤がEDTAであり、
前記陽イオンがZn2+、Cu2+、Fe2+、Ca2+の少なくともいずれか1つであることを特徴とする請求項6記載の歯周病検査方法。
【請求項8】
前記EDTA濃度、及び前記陽イオン濃度が、各1〜100mMであることを特徴とする請求項7記載の歯周病検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は歯周病検査を行うためのHGF試験片を含む検査キット、及びこれを用いた検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯周病はう蝕とともに、歯の二大疾患である。歯周病は歯肉炎と歯周炎とに分けられるが、最終的な歯の喪失に至るのは、いわゆる歯槽膿漏といわれる歯周炎である。歯周病は世界で最も多い疾患であるともいわれ、我が国でも成人の約8割が罹患しているとされる。歯喪失の42%は歯周炎によると報告されており、歯喪失の重要な原因でもある。
【0003】
保持歯数は全身の健康状態とも密接に関連することが指摘されており、歯周炎の治療と予防は歯科分野だけではなく、医療全般の問題ともなる。初期の段階で歯周病患者をスクリーニングし、治療することは歯科だけの問題ではなく、全身の健康を考えるうえで非常に重要な問題である。
【0004】
現在のところ歯周病の診断は歯科医師により、プラークの付着の程度や、歯周病菌の検出、歯周ポケットの深さやアタッチメントレベルの測定、エックス線による歯槽骨吸収度の測定、歯の動揺度の測定などによって総合的に判断されている。しかしながら、これらの診断は歯周病が進行し、自覚症状がある患者の診断方法であり、早期の検査項目であるとはいえない。
【0005】
上述のように、歯周病は全身の健康状態をも損ねるものであることから、早期に発見し、治療することが重要である。そのため様々な歯周病検査方法が提案されている。特許文献1及び2には、歯周病は歯周病菌が原因であるとの説に基づき、歯周病菌に特異的な核酸を検出することにより検査する方法が開示されている。また、特許文献3には、歯周病の原因菌が産生する硫化水素等の硫化物を、特許文献4は被験者の唾液中の抗酸化力(還元力)を指標とする検査方法が記載されている。
【0006】
また、免疫測定法を利用した検査方法として、抗ヘモグロビン抗体、β-デフェンシン抗体、抗HGF(肝細胞増殖因子)抗体を用いて、歯周病を検査する方法が開示されている(特許文献5〜8)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−222136号公報
【特許文献2】特開2007−244349号公報
【特許文献3】特開2004−309383号公報
【特許文献4】特開2008−151636号公報
【特許文献5】特開2002−181815号公報
【特許文献6】特開2005−201768号公報
【特許文献7】特開2009−145220号公報
【特許文献8】特開2003−066039号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように歯周病の早期治療を行うために、歯周病の患者を早期にスクリーニングする検査方法の開発が望まれていた。歯周病の患者のスクリーニング方法としては、歯周病を感度良く発見できることはもちろん、歯科検診、あるいは歯科クリニックや家庭でも行うことができるような簡便で、結果が早くわかる検査であることが重要である。さらに、受診者に苦痛を与えることのない非侵襲的な手段であること、費用が安価であることも求められる。
【0009】
特許文献1及び2に記載の方法は、リアルタイムPCR法、又はインベーダー・アッセイ法により検出するものであり、感度は高いものの時間と手間がかかり、歯科検診や歯科クリニックで簡単に行える検査方法ではなかった。また、特許文献3、4に記載の方法は、硫化物を産生する菌が歯周病菌だけではないことや、抗酸化力と歯周病との相関がさほど高くないことから、特異度の点で問題があった。
【0010】
特許文献5〜8に記載の発明は、いずれも抗体を用いた免疫学的方法であるが、特許文献6〜8に開示されている方法はELISA、凝集法などを用いた方法であり感度良く測定できるものの測定装置を必要とする。そのため簡便に歯科クリニックや、家庭で検査することができなかった。また、特許文献5に記載の方法は、簡便ではあるもののヘモグロビンを検出するものであり、歯周病との相関がさほど高いものではなかった。
【0011】
本発明は、先に歯周病の病態と相関が高いことが明らかとなった肝細胞増殖因子(特許文献8参照)をイムノクロマト法を用いて検出するキット、及び検出方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、従来の歯周病の検査方法の問題を解決するための検査キット、検査方法であり、唾液を検体とするイムノクロマト法を用いることにより、歯科クリニック、あるいは家庭でも簡便に感度良く実施することができるキット、及び方法を提供する。
【0013】
(1)唾液を含む検体を処理するためのキレート剤と陽イオンを含む前処理液と、HGFを検出する試験片からなることを特徴とする歯周病を検査するための検査キット。
(2)前記キレート剤がEDTAであり、前記陽イオンがZn
2+、Cu
2+、Fe
2+、Ca
2+の少なくともいずれか1つであることを特徴とする(1)記載の検査キット。
(3)前記EDTA濃度、及び前記陽イオン濃度が、各1〜100mMであることを特徴とする(2)記載の検査キット。
(4)前記試験片がイムノクロマト法を測定原理とする試験片であることを特徴とする(1)〜(3)いずれか1つ記載の検査キット。
(5)前記前処理液で処理された唾液を含む検体を濾過するためのフィルターを含むことを特徴とする(1)〜(4)のいずれか1つ記載のキット。
(6)唾液を含む検体と、キレート剤と陽イオンを含む前処理液を混和し、混和された検体と前処理液をフィルターによって濾過した後にHGF試験片を用いて検査することを特徴とする歯周病検査方法。
(7)前記キレート剤がEDTAであり、前記陽イオンがZn
2+、Cu
2+、Fe
2+、Ca
2+の少なくともいずれか1つであることを特徴とする(6)記載の歯周病検査方法。
(8)前記EDTA濃度、及び前記陽イオン濃度が、各1〜100mMであることを特徴とする(7)記載の歯周病検査方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明の歯周病検出キットは、早期の歯周病患者も検出することができる鋭敏な感度を有することから、歯科検診での歯周病のスクリーニングに有用である。また、歯科クリニックで行うことができるような簡便で非侵襲的な方法であることから、歯科検診や歯科クリニックでの早期診断だけではなく、家庭でも簡単に検査を行うことができる。したがって、歯周病のセルフチェックを行う検査としても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】前処理なしで検体中のHGFの検出を行った結果を示す。
【
図2】EDTA、又はEDTAに陽イオンを添加した前処理液で処理した検体を測定した結果を示す。
【
図3】HGF濃度が異なる検体を前処理液で処理した後、イムノクロマト法の試験片で測定し、そのテストラインの着色の強さをイムノクロマトリーダー測定した結果のグラフ。
【
図4】前処理液として、キレート剤にCu
2+あるいはZn
2+を添加した効果を示す。
【
図5】本発明の検査キットの外観、及び使用状態の例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、検体中の肝細胞増殖因子(Hepatocyte Growth Factor、以下HGFと略記する。)を検出することにより、歯周病を検査するものである。ここで、検体とは、唾液、又は水を口に含み軽くすすいで得られる洗口吐出液をいう。検体中のHGF濃度と歯周炎の進行度との間には高い相関がある(特許文献8)。本発明は、イムノクロマト法を測定原理とする試験片を用いても検体中に含まれる低濃度のHGFを測定できるように、鋭意工夫を加えたものである。
【0017】
本発明でいうキレート剤とは、金属イオンに配位してキレート錯体を形成できる化合物をいう。金属イオンに配位してキレート錯体を形成できる化合物としては、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、グリコールエーテルジアミン四酢酸(GEDTA)、ニトリロ三酢酸(NTA)、ジエチレントリアミン五酢酸(DTPA)、グルコン酸など公知のキレート剤を使用することができる。特に、EDTAを好ましく用いることができる。
【0018】
キレート剤の濃度を鋭意検討した結果、1〜100mMの濃度範囲であれば、感度良くHGFを検出できることが明らかとなった。キレート剤の濃度としては、1〜50mMが好ましく、5〜30mMがより好ましく、5〜20mMが特に好ましい。
【0019】
また、キレート剤と同時に添加する陽イオンは金属イオンであればよく、Zn
2+、Cu
2+、Fe
2+、Ca
2+などが含まれる。特に、Zn
2+、Cu
2+を好ましく用いることができる。添加する陽イオン濃度は、1〜100mMの濃度範囲であれば、感度良く検体中のHGFを検出できることが明らかとなった。陽イオンの濃度としては、1〜50mMが好ましく、5〜30mMがより好ましく、5〜20mMが特に好ましい。
【0020】
本発明の検査キットは、唾液を含む検体を前処理するための前処理液、イムノクロマト法を測定原理とする試験片からなる。この試験片は、HGFを検出することができれば、どのような試験片であってもよい。実施例では、標識された抗HGF抗体を含有するコンジュゲートパッド、HGFを捕捉するための抗HGF抗体等が塗布されたメンブレン、展開液を吸い取る吸収パッド、検体を滴下するサンプルパッドから構成されたものを用いているが、これに限定されるものではない。さらに、検体と前処理液を混和した後に濾過するためのフィルター、洗口吐出液採取容器、試験片を保持する反応用容器を含むことができる。
【0021】
標識抗体は、金コロイドあるいは着色ラテックス等で標識された抗体を用いればよい。標識あるいはメンブレンの塗布に使用する抗HGF抗体は、特異性と検出感度のよいものであれば、モノクローナル抗体でも、ポリクローナル抗体でもよい。
【0022】
以下実施例を示しながら本発明を説明する。
ここでは、以下のイムノクロマト法を測定原理とする試験片を用いているが、HGFを抗原抗体反応を利用して検出することができるものであれば、フロースルー法も含めどのような検出系を用いてもよい。
【0023】
試験片には、テストラインのキャプチャー抗体として抗HGFマウスモノクローナル抗体(特殊免疫研究所製、又はR&Dシステムズ社製)、コントロールラインのキャプチャー抗体として抗マウスIgG抗体(CAPPEL社製)を塗布したメンブレンを用いている。メンブレン上部に展開液を吸収するための吸収パッド、下部に金コロイド、又は着色ラテックスで標識された抗HGFマウスモノクローナル抗体を含有するコンジュゲートパッド、さらにその下部に検体を滴下するサンプルパッドを配置している。
なお、陰性検体はコントロールラインのみ着色するが、陽性検体はコントロールラインとテストラインが着色する。どちらのラインも目視で確認でき、試験開始から30分以内に判定できることから、歯科クリニック、あるいは家庭でも簡便に検査することができる。
【0024】
≪前処理なしの検体を用いた場合の測定感度≫
はじめに、前処理を行わずに検体を測定した結果を示す。検体は以下の手順で得て測定を行っている。なお、正確に感度を測定する必要があるため、健常者から以下の手順で口腔内をすすいだ洗口吐出液を得て、健常者の洗口吐出液にヒト組換えHGF(Pepro Tech社製)を添加したものを用いて感度測定を行っている。検査は以下のようにして行った。
【0025】
(1)水3mLを口に含み、口腔内全体に行きわたるように軽く10秒すすぎ、洗口吐出液を得る。
(2)1mLの洗口吐出液をフィルターにより濾過する。
(3)展開液(0.3M PIPES、0.6%BSA(ウシ血清アルブミン)、0.6% Tween20)50μLとフィルター処理後の洗口吐出液150μLを混合する。
(4)イムノクロマトを展開させ、コントロールラインが明瞭に目視で認められることを確認後に判定を行う。
【0026】
なお、展開液はここでは0.3M PIPESを用いているが、0.1〜0.6M濃度で用いることができ、また、中性付近(pH6.0〜8.0付近)で緩衝力が強いものであれば、Tris、HEPES、リン酸緩衝液など、どのような緩衝液を用いてもよい。また、以下で用いる前処理液の緩衝液についても同様である。
【0027】
結果を
図1に示す。3名の健常者から洗口吐出液を得て測定を行った。感度測定は健常者の一人から得た洗口吐出液に、最終濃度が0、又は1000ng/mLとなるようにHGFを添加して測定を行った。なお、1000ng/mL濃度未満での測定も行ったが、テストラインを観察することができなかった。
【0028】
3名の健常者から得た検体はいずれも陰性であり、特異性の高い検査方法であることが示された。一方、1000ng/mLより低い濃度のHGFでは検出することができなかった。この方法では、早期の歯周病患者を検出するためには、感度は十分であるとは言えないことから、前処理方法の検討を行った。
【0029】
≪キレート剤、金属イオン添加の効果≫
十分な測定感度が得られない原因は不明であるが、唾液に含まれる粘性の高い物質や唾液成分中の抗原抗体反応を阻害する物質がフィルターによる濾過だけでは除去しきれないためだと思われた。そこで、種々の前処理方法について鋭意検討を行った。その結果、キレート剤及び金属イオンを添加することによって、感度が大幅に増強することが明らかとなった。
【0030】
上述の前処理なしの検体測定同様、健常者から洗口吐出液を得て、組換えHGFを加えたものを感度測定用の検体とした。HGFを0〜250ng/mLまでの濃度で添加して感度の測定を行った。得られたHGFを含む洗口吐出液1mLを100μLの前処理液と混合し、1〜5分静置した後、フィルターで濾過しながらその一定量を試験片のサンプルパッドに滴下して反応させた。滴下した検体がメンブレン内を展開しコントロールラインを確認した後に判定を行った。前処理液として最終濃度が20mMとなるようにEDTAを加えた展開液、同じく最終濃度20mM EDTA、20mM 塩化亜鉛を加えた展開液を用いて比較した。
【0031】
図2に示すように、キレート剤であるEDTAのみを含む前処理液を用い洗口吐出液を処理することで250ng/mL、50ng/mL、10ng/mL濃度のHGFを目視によって確認することができた。キレート剤を含まない前処理液で処理した場合と比較して、キレート剤単独でも明らかに感度の増加が確認された。
【0032】
さらに、キレート剤に金属イオンを加えた前処理液で前処理することによって、0.5ng/mL濃度のHGFも目視で確認することができた。キレート剤に金属イオンを添加した液で前処理を行うことにより、さらに感度よくHGFを検出することができることが明らかとなった。
【0033】
図2で示したEDTAと塩化亜鉛を加えた前処理液を用いて測定し、出現したテストラインをイムノクロマトリーダーによって着色の強さを計測した結果を
図3に示す。
図3のグラフは、Immuno Reader C10066(浜松ホトニクス社製)を用いて、
図2の左パネルに示したテストラインの着色を計測し数値化したものである。HGF濃度0.5ng/mLから、感度よくHGF濃度を測定できていることが明らかである。
【0034】
次に、亜鉛以外の金属イオンでも同様に感度を増加する作用があることを示す。上記と同様に健常者の洗口吐出液に最終濃度が0、100、1000ng/mLになるようにHGFを添加して解析を行った。
【0035】
前処理液は、最終濃度30mM EDTAに、同じく最終濃度30mM 塩化銅、あるいは塩化亜鉛を添加したものを用い比較検討した。
図4に示すように、金属イオンとして銅イオンを加えた場合も亜鉛イオンを加えたものと同等の感度を示した。なお1000ng/mL濃度でHGFを添加した場合に、いずれの前処理液を用いた場合もコントロールラインが薄くなっているが、これは検体中に含まれるHGF濃度が高いため、着色ラテックス標識した抗HGF抗体の多くがテストラインに結合したためであると考えられる。100ng/mL濃度のHGFで検討した結果から、銅、亜鉛などの金属陽イオンが含まれている方が、EDTA単独より高い感度が得られることが分かった。また、ここでは示さないが、塩化マグネシウム、塩化カルシウムを添加して解析を行ったところ、銅イオン、亜鉛イオン添加と遜色ない感度が得られた。
【0036】
以上の結果から、歯周病を検査するためのHGF検査キットとして、EDTAのようなキレート剤とともに、銅、亜鉛等の2価イオンを含む前処理液で所定の時間処理を行うことによって、感度良く検体に含まれるHGFを検出することが可能となった。
以下に、最終的な本発明のキットの使用方法を示す。
【0037】
(1)水3mLを口に含み、口腔内全体に行きわたるように軽く10秒すすぐ。
(2)口をすすいだ水(洗口吐出液)を洗口吐出液採取容器に吐き出す。
(3)1mLの洗口吐出液を100μLのキレート剤と陽イオンを含む前処理と混合する。
(4)1〜5分静置する。
(5)フィルターにより濾過する。
(6)濾過した検体150μLをサンプルパッドに滴下する。
(7)15〜30分後にコントロールラインが明瞭に目視で認められることを確認後に判定を行う。
【0038】
図5は、健常者の洗口吐出液にHGFを加えないもの(左)、及び最終濃度が10ng/mLとなるように添加したもの(右)を、反応容器に入れた試験片を用いて上記の方法で検査した結果を示したものである。10ng/mLという非常に低い濃度であっても、はっきりとテストラインを確認することができ、陽性と判断することができる。
【0039】
≪臨床評価結果≫
上記検査キットを用いて、インフォームドコンセントを得て歯周病の患者の検査を行った。スクリーニングに使用することが目的であるから、目視で判断してラインがあると疑われるものに関してもすべて陽性(+)として数えた。結果を表1に示す。
【0041】
表中の数字は、健常者、歯肉炎、進行度の異なる歯周炎患者の唾液を含む検体を用いて、本発明の検査キットにより判定を行ったものである。調べた検体数(患者数)を右側に、陽性と判断した検体数を左側に示している。
【0042】
表1に示すように軽度の歯周炎の患者から、感度良く陽性との判断を得ることができた。健常者で2人ほど偽陽性の結果が得られているが、いずれも陰性/陽性の判断に迷う程度のものであった。さらに症例数を増やして解析する必要があるが、歯周病のスクリーニングを行うという目的の感度は十分に達成できている。
【産業上の利用可能性】
【0043】
歯科検診での歯周病のスクリーニングに有用な検査キット及び検査方法を提供することができる。また、歯科クリニックだけではなく、家庭でも簡便に行うことのできる検査なのでセルフチェックにより歯周病の検査を行うことができる。