特開2017-166849(P2017-166849A)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特開2017-166849セシウム吸着プルシアンブルーの処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-166849(P2017-166849A)
(43)【公開日】2017年9月21日
(54)【発明の名称】セシウム吸着プルシアンブルーの処理方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/32 20060101AFI20170825BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20170825BHJP
   G21F 9/08 20060101ALI20170825BHJP
   G21F 9/30 20060101ALI20170825BHJP
   C02F 11/06 20060101ALI20170825BHJP
   C02F 11/12 20060101ALI20170825BHJP
【FI】
   G21F9/32 B
   G21F9/28 521A
   G21F9/08 511F
   G21F9/30 531M
   G21F9/32 Z
   C02F11/06 AZAB
   C02F11/12 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-49703(P2016-49703)
(22)【出願日】2016年3月14日
(71)【出願人】
【識別番号】316003760
【氏名又は名称】宗澤 潤一
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】宗澤 潤一
【テーマコード(参考)】
4D059
【Fターム(参考)】
4D059AA30
4D059BC00
4D059BD01
4D059BK06
4D059DA47
4D059EA03
4D059EA10
4D059EA20
(57)【要約】
【課題】放射性セシウムの吸着後のスラリーを酸化処理した後、セシウム化合物を溶出分離し、セシウム化合物を分離した燃焼残渣の残存セシウム化合物量を著しく少なくすることができるセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法を提供する。
【解決手段】セシウムイオンを吸着したプルシアンブルーのスラリーを乾燥及び加熱酸化分解処理して分解生成物を生成させる加熱酸化分解工程と、この分解生成物からセシウム化合物を溶出させる工程と、セシウム化合物を分離した燃焼残渣の残存セシウム化合物量を著しく少なくするために燃焼残渣の昇華燃焼を行う行程とを有するセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
セシウムイオンを吸着したプルシアンブルーの造粒体を収容した金属製のポットを誘導加熱するとともに該ポット内に空気又は低酸素ガスを導入してスラリーを乾燥させ、その後さらに加熱温度を上昇させてプルシアンブルーを酸化分解処理するセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法であって、
ポット内の温度が150〜400℃となるように空気又は低酸素ガス導入量と誘導加熱との少なくとも一方を制御してプルシアンブルーの加熱酸化分解を行うことを特徴とするセシウム吸着スラリーの処理方法。
【請求項2】
請求項1において、ポット内の酸素濃度を低減調整し、抑制結晶構造の形態をなす酸化物を含有する燃焼残渣を得るように加熱酸化分解を行うことを特徴とするセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2において、プルシアンブルー造粒体がカルシウム富化膜で被包されていることを特徴とするセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記プルシアンブルーの乾燥及び酸化分解工程において、ポット内をエゼクタで吸引すること、及び該エゼクタに作動流体として水を供給することを特徴とするセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項において、プルシアンブルーの酸化分解処理後、酸化分解生成物に水を加え、セシウム化合物を溶出させ、溶出したセシウム化合物の水溶液から水を蒸発させてセシウム化合物の析出物とすることを特徴とするセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法。
【請求項6】
請求項5において、セシウム化合物を溶出分離するに際し、前記分解生成物を100μm以下に粉砕し、温度50〜90℃の水にて溶出させた後、硝酸水溶液にて更に溶出させることを特徴とするセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法。
【請求項7】
請求項6において、硝酸水溶液にて更に溶出させた後、溶出残渣を1000℃以上に加熱し、残存セシウム化合物を昇華させることを特徴とするセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セシウムを吸着したプルシアンブルーを処理する方法に関する。本発明の一態様は、このスラリーを酸化処理した後、セシウム化合物を高溶出分離し、セシウム化合物を分離した残渣の残存セシウムを低減する処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
水中に溶解した放射性セシウムを回収する方法として、吸着材で回収する手法が挙げられる。現在、ゼオライトをはじめとする、さまざまな材料が吸着材として検討され、一部は実際の除染現場で使用されている。吸着材は、除染後の廃棄物量が少ないものとなるように、セシウムを大量に吸着することができる高い吸着能を有することが望ましい。また、環境中には、放射性セシウムより他の金属イオンが遥かに多量に存在するため、吸着材には、セシウムだけを吸着する選択性の高い吸着能を有することが求められる。
【0003】
特許文献1,2,3には、プルシアンブルーを用いた放射性セシウムの分離方法が記載されている。プルシアンブルーがセシウム選択吸着特性を有する理由は、セシウムイオンの水和半径がプルシアンブルーの内部空孔のサイズに合致するためである。すなわち、プルシアンブルーは立方格子状であり、格子定数は約0.5nmである。水和したセシウムイオンは、この格子にほぼすっぽりと入り込む大きさであるため、プルシアンブルーはセシウムを選択的に吸着する。
【0004】
特許文献4には、放射性セシウムの除染後のスラリーの処理として、セシウム吸着プルシアンブルーのスラリーを酸化分解処理することにより、効率的に減容して処分する方法、分解物からセシウムを溶出させて分離し、このセシウム水溶液から更に水分を蒸発させてセシウム化合物として析出させる方法が提案されているが、セシウムの回収率、分解物の残存セシウムについては記載されていない。
【0005】
非特許文献1には、燃焼残渣の水、0.5N硝酸水でのセシウム溶出率を水で80%以上、水+0.5N硝酸水で95%以上の回収が可能。溶出処理後燃焼残渣(酸化鉄)には約5%のCsが残留していると記載されているが、この燃焼残渣(酸化鉄)残存Cs回収については具体的な方法は提案されていない。
【0006】
プルシアンブルーナノ粒子の分散液をアルギン酸ナトリウムと混合してスラリーとし、このスラリーを塩化カルシウム水溶液中に滴下することにより、カルシウムが富化したゲル状の表層が形成された造粒体(カプセル状構造体)を製造する方法が特許文献5に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−200856号公報
【特許文献2】特開2014−109461号公報
【特許文献3】特開2014−20806号公報
【特許文献4】特開2015−141082号公報
【特許文献5】特開2014−77720号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】第四回環境放射能除染学会研究発表会S5−3要旨 2015年7月8日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、放射性セシウムの吸着後のプルシアンブルーを酸化処理した後、セシウム化合物を高溶出分離し、セシウム化合物の容積を著しく低減することを第1の目的とする。
【0010】
本発明は、放射性セシウムの回収方法においてプルシアンブルーの分散液及び造粒体を組み合わせて、合理的なセシウムの回収方法を提案することを第2の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法は、セシウムイオンを吸着したプルシアンブルーの造粒体を収容した金属製のポットを誘導加熱するとともに該ポット内に空気又は低酸素ガスを導入してスラリーを乾燥させ、その後さらに加熱温度を上昇させてプルシアンブルーを酸化分解処理するセシウム吸着プルシアンブルーの処理方法であって、ポット内の温度が150〜400℃となるように空気又は低酸素ガス導入量と誘導加熱との少なくとも一方を制御してプルシアンブルーの加熱酸化分解を行うことを特徴とするものである。
【0012】
本発明の一態様では、ポット内の温度が150〜400℃となるように空気又は低酸素ガス導入量と誘導加熱との少なくとも一方を制御してプルシアンブルーの加熱酸化分解を行う。
【0013】
本発明の一態様では、ポット内への導入空気の酸素含有量を1〜10%に制限し、加熱酸化分解物の形態が図4(XRD分析)のような抑制結晶酸化物、Feを生成する燃焼方法とする。
【0014】
本発明の一態様では、プルシアンブルー造粒体をアルギン酸・カルシウム膜包含体とする。
【0015】
本発明の一態様では、プルシアンブルーを充填したポットはセシウム吸着後、加熱酸化分解装置にポットのまま装着させ加熱する、兼用容器方式とする。
【発明の効果】
【0016】
セシウムイオンを含有する被処理液にプルシアンブルーを添加すると、セシウムイオンが速やかにプルシアンブルーに吸着される。このセシウムイオンを吸着したプルシアンブルーを含む液を固液分離して生じたスラリー(脱水ケーキを包含する。)をポット内で加熱し、空気又は低酸素雰囲気下でスラリーを乾燥し、更に空気又は低酸素雰囲気下で加熱してプルシアンブルーを酸化分解する。
【0017】
本発明では、プルシアンブルーを造粒体とすることで固液分離が簡素になり、ポットをそのまま加熱処理することにより、セシウム回収システムが簡素化される。プルシアンブルー造粒体のセシウム吸着蓄積性能はプルシアンブルーナノ粒子と比べ遜色ないが、除染係数はかなり劣るため、造粒体は被処理水の循環系セシウム回収に用い、処理水排出系ではナノ粒子体を用いるのが好ましい。
【0018】
本発明では、好ましくは、プルシアンブルーの乾燥工程から空気又は低酸素ガスを導入し、徐々に酸化させ、ポット内温度を400℃以下に保って酸化処理する。酸化分解物からセシウム化合物を水にて溶出分離させ、この溶出液を濃縮し、セシウム化合物として回収する。しかし、溶出分離残渣には酸溶出後でも数%のセシウム化合物が残存する。酸化分解物は高濃度の放射性セシウムを含有しており、残存量数%でも高濃度放射性廃棄物となる。本発明では、低酸素雰囲気で酸化処理することにより、酸化分解物の酸化形態を変え、水溶出率、酸溶出率の大幅な改善を行うことができる。また、更に溶出分離残渣からセシウムを昇華除去することにより、低濃度放射性廃棄物とすることができる。
【0019】
プルシアンブルー造粒体の作成には一般にプルシアンブルーを他の無機物、有機物担体に含有させる方法が用いられているが、酸化分解物に次工程であるガラス固化に影響のある残存物の混入を回避する必要がある。本発明の一態様では、プルシアンブルー造粒体として、アルギン酸カルシウムゲルで被包した造粒体を用いる。この造粒体の酸化分解過程でアルギン酸は燃焼し、カルシウム分のみ残存物となる。このカルシウム分の酸化生成物は水に不溶である為、得られるセシウム化合物がガラス固化に影響しないものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】灰洗浄工程から発生する被処理水のセシウムを吸着ポット(造粒体充填)にて回収するセシウム吸着プロセスを説明するフロー図である。
図2】セシウム回収システムを説明するフロー図である。
図3】セシウム回収システムを説明するフロー図である。
図4】酸化生成物のX線回折チャートである。
図5】酸化生成物のX線回折チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下の説明において、プルシアンブルーのナノ粒子を単にナノ粒子ということがある。
【0022】
本発明方法で処理対象とするプルシアンブルーは、セシウム特に放射性セシウムを吸着したものである。このセシウム吸着プルシアンブルーとしては、放射性物質で汚染された原子力発電所設備水、汚染地域の湖沼水、河川水、地下水、プール等の槽状体の貯留水のほか、除染排水、放射性物質汚染土壌の酸抽出水、廃棄物焼却灰の洗浄排水などを吸着したセシウム吸着プルシアンブルーが例示される。これらの被処理液は、セシウムのほかに各種の金属イオンや固形分を含んでいる。被処理液のセシウム濃度については特に制限はなく、100Bq/L程度の低濃度汚染水から10万Bq/L程度の高濃度汚染水まで処理可能である。
【0023】
本発明は、特に放射性セシウム付着物を焼却した焼却灰を水で洗浄した放射性セシウム含有水をプルシアンブルーと接触させて放射性セシウムをプルシアンブルーに吸着させ、このプルシアンブルーを酸化処理して著しく減容させる工程に好適に適用される。
【0024】
プルシアンブルーによるセシウム吸着処理に先立って、被処理液から濾過処理、遠心分離処理等によって固形物を除去しておくことが望ましい。放射性セシウムはイオン化して溶解しており、除去された固形物の付着放射性セシウム量は極く微量である。
【0025】
[プルシアンブルーによるセシウム吸着処理]
このように必要に応じ固形物除去処理した被処理液を、プルシアンブルー造粒体を充填したポットに流通させてセシウムを吸着させるのが好ましい。
【0026】
プルシアンブルーの化学式は、Fe(III)[Fe(II)(CN)で表わされる。本発明で用いるプルシアンブルーは、結晶水を含んでいてもよいし、鉄イオンの少なくとも一部が他の金属、例えばバナジウム、クロム、マンガン、ルテニウム、コバルト、ロジウム、ニッケル、パラジウム、白金、銅、銀、亜鉛、ランタン、ユーロピウム、ガドリニウム、ルテチウム、バリウム、ストロンチウム、及びカルシウムからなる群より選ばれる一種または二種以上の金属で置換されてもよい。このようなプルシアンブルー型金属錯体は例えば次式で表わされる。
【0027】
[M(CN)・zH
Aは陽イオンに由来する原子である。xは0〜2、yは1〜0.3、zは0〜20である。MはFe(III)、MはFe(II)である。
【0028】
プルシアンブルーとしては一次粒子径(平均粒径)が50nm以下であって、二次粒子径(凝集径)(平均粒径)が5nm〜1mm程度のナノ粒子がセシウム吸着性能、付着堆積物層形成能から好ましいが、一次粒径が大きく二次粒径が10〜100μm程度の、顔料、所謂「紺青」等も使用可能である。(測定法(一次粒径):X線回折装置で測定、回ピークから結晶格子径を算出して求めた値。測定法(二次粒径):レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置により測定した値。)
【0029】
ガスを用いたBET法で測定したナノ粒子の比表面積は150〜2500m/g程度が吸着能力、取り扱い上望ましい。
【0030】
プルシアンブルーナノ粒子は、セシウムの吸着速度が大きい。また、プルシアンブルーナノ粒子の格子間隙に入り込んだセシウムイオンが粒子の芯部にまで拡散移動する距離が短いので、プルシアンブルーナノ粒子のほぼ全体がセシウムの吸着に利用され、速やかにほぼ飽和吸着状態となるまでセシウムを吸着させることができる。
【0031】
造粒体はナノ粒子体と比べ除染係数が低いため、プルシアンブルー造粒体を充填したポットを直列に数本(例えば4〜8本)接続し、被処理水を直列に通水することが好ましい。造粒体のセシウム吸着蓄積性能はナノ粒子体とほとんど変わらないため、6本程度直列に装着し、被処理液が始めに流通され、セシウム吸着濃度が高くなった最上流側のポットから順次に交換し、流通順序を順次に繰り上げ、最下流にセシウム未吸着の造粒体を充填したポットを設置することにより、被処理液中のセシウムを効率よく吸着することができる。
【0032】
灰洗浄にて溶出した放射性セシウム含有被処理液を本発明方法によって処理する場合、直列に装着したポットに通し、セシウム濃度の低下した液を再度灰洗浄液として利用する。
【0033】
灰洗浄循環液は塩濃度の上昇を抑えるため一定量抜出、脱塩処理が必要となる。この抜出液は、除染係数の高いナノ粒子体での吸着を行うことにより放射性セシウムが吸着分離された処理水を得、セシウムの含まれない塩を排出する。ナノ粒子体含有液は濾過して、処理液を得る。
【0034】
濾材としては、多孔質の布、シート又はフィルムよりなるものが好適であり、中でも、0.5〜1.2mm特に0.9〜1mm程度の厚さの合成樹脂の繊維の織布が好適である。合成樹脂としては、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレンなどを用いることができるが、これに限定されない。織布の織りとしては、平織、朱子織、綾織などが例示されるが、これに限定されない。織布の通気度は0.1〜5cm/cm・sec特に0.3〜1.3cm/cm・sec程度が好適である。
【0035】
濾過運転の開始当初は、濾材に付着堆積物層は形成されておらず、液中のプルシアンブルーナノ粒子の大部分は濾材を素通り状に通過するが、一部の比較的粒径の大きい二次粒子が濾材に捕捉され、次第にその捕捉量が増大し、これに伴って比較的小粒径の粒子も捕捉されるようになり、遂には付着堆積物層が形成される。付着堆積物層が形成されると、粒径の小さいプルシアンブルーナノ粒子も付着堆積物層に捕捉され、付着堆積物層の厚さが大きくなる。
【0036】
濾材に付着した付着堆積物層の厚さが所定以上になった場合には、濾材への液の供給を停止し、水又は空気等の気体で濾材を逆洗する。水又は空気等を濾材に濾過時と逆方向に供給すると、濾材に付着していた付着堆積物層が剥離し、濾過装置内を落下する。濾過装置底部の排出弁を開とすると、スラリーが流出する。このスラリー中のプルシアンブルーの残存吸着容量が多いときには、このスラリーをセシウム吸着工程に返送する。プルシアンブルーのセシウム吸着量が飽和吸着に近い場合は、ポットに収容する。
【0037】
濾材の逆洗が終了した後、濾材に液を循環通液する。この場合も、通液を開始するとまず粒径の大きい二次粒子が濾材に捕捉されて付着堆積物層が形成され、その後、粒径の小さいプルシアンブルーナノ粒子も捕捉され、付着堆積物層の層厚が大きくなる。なお、本発明では濾過助剤を用いてもよい。この濾過助剤は、燃焼酸化工程において難燃物とならないものが好ましい。
【0038】
[ポットに充填するプルシアンブルー造粒体]
プルシアンブルー造粒体は、プルシアンブルーナノ粒子を70wt%以上含有し、0.5〜1.5mm径のものが好適である。造粒体は、アルギン酸・カルシウムゲルにて包含造粒したものが好適である。造粒方法としてはプルシアンブルーナノ粒子をアルギン酸ナトリウムゾル水溶液に分散させ、口径1〜2mmのノズルにて塩化カルシウム溶液中に滴下させ、アルギン酸・カルシウムゲル膜に被包された造粒体とする方法(特許文献5の方法)が好適である。この造粒体を水洗し、乾燥(室温〜50℃等)または凍結真空乾燥することにより、造粒体を多孔質化させるのが好適である。
【0039】
このプルシアンブルー造粒体としては、関東化学株式会社よりプルシアンブルーMCとして市販されているものを用いることができる。
【0040】
前述の通り、このプルシアンブルー造粒体をポット内に収容し、このポットに被処理液を流通させて放射性セシウムをプルシアンブルーに吸着させるのが好ましい。
【0041】
[セシウム吸着スラリーの乾燥及び酸化分解]
本発明では、上記のようにセシウムを吸着したプルシアンブルーのスラリーを乾燥した後、酸化処理する。この乾燥及び酸化処理を行うには、セシウム吸着プルシアンブルーを収容したポットを誘導加熱し、スラリーを乾燥させ、その後、酸化雰囲気下でさらに昇温させ、乾燥物を酸化するのが好ましい。
【0042】
なお、プルシアンブルーから付着水の略全量が蒸発したかどうかは、ポットの重量を経時的に測定し、この重量が略恒量に達したならば付着水の略全量が蒸発したものと判断することができる。また、ポットからの蒸発量を観察し、水の蒸発がほぼなくなったならば、付着水の略全量が蒸発したものと判断することができる。
【0043】
また、プルシアンブルーから付着水の略全量が蒸発すると、ポットからの排気の温度が100℃よりも高くなるので、ポットからの排気温度が100℃よりも高くなった場合に、例えば100〜105℃に上昇した場合に、プルシアンブルー付着水の略全量が蒸発したものと判断することができる。
【0044】
本発明では、プルシアンブルー付着水の蒸発開始時から空気をポットに導入するのが好ましいが、ポットの誘導加熱を開始してから所定時間が経過した乾燥途中において、ポット内に空気を導入するようにしてもよい。
【0045】
本発明では、特に、プルシアンブルー付着水を蒸発させる工程で、ポット内に空気を導入すると共に、エゼクタでポット内を吸引し、発生した水蒸気を排出することが好ましい。このエゼクタには、作動流体として水を供給することが好ましい。ポットから吸引排出させた水蒸気や、水蒸気に随伴する飛散物は、この水に吸収又は捕集される。
【0046】
空気流入下でのプルシアンブルーの乾燥が終了した後、具体的にはポットからの排気温度が110℃以上、好ましくは110〜150℃例えば120℃に達したならば、さらに加熱してプルシアンブルーを酸化分解する。この酸化分解処理に際しては、ポット内に空気又は低酸素濃度のガス(例えば空気と窒素の混合ガス)を流通させ、セシウム吸着プルシアンブルーを酸化分解処理する。加熱温度は、150℃以上、好ましくは200℃以上、400℃以下、好ましくは370℃以下、例えば150℃〜400℃、特に200℃〜370℃程度が望ましい。このように低温で酸化分解処理することにより、セシウム化合物の溶融温度以下でプルシアンブルーは分解され、酸化鉄、セシウム化合物等が生成する。セシウム化合物の蒸発留出はかなり抑制される。
【0047】
プルシアンブルーは、プルシアンブルー製造時の副生物である塩を少量ながら含有している。この塩はプルシアンブルーの製法により異なり、塩化物、硝酸塩、硫酸塩である。加熱酸化分解工程においてプルシアンブルーのCN基の分解により、硝酸イオンとセシウムイオンが結合反応を起こす。本発明者の研究の結果、この結合反応は、CN基の加熱酸化分解により起こることが見出された。模擬セシウムに塩化セシウム、炭酸セシウムを用い、セシウム吸着したプルシアンブルーを加熱酸化分解処理すると硝酸セシウムが結合生成する。また、プルシアンブルーの生成原料に硝酸鉄でなく、塩化鉄を用いた場合でも、プルシアンブルー副生物は硝酸ナトリウムでなく、塩化ナトリウムであるが、このセシウム吸着したプルシアンブルーを加熱酸化分解処理すると硝酸セシウムが結合生成する。硝酸セシウムの融点は約409℃であるところから、加熱酸化分解処理温度を400℃以下となるように上記酸化分解処理を制御することが重要である。
【0048】
低酸素ガスの酸素濃度は加熱酸化分解物のXRD分析が図4のような抑制結晶酸化物を主体とし、少量のFeを生成する低酸素濃度とするのが好ましい。目安としてはプルシアンブルーが造粒体の場合は酸素濃度10%以下とし、ナノ粒子体の場合は1〜5%とすることが好ましい。造粒体はプルシアンブルーがアルギン酸カルシウム膜に被覆され、酸素供給速度が抑制されている為、結果として極低酸素空気燃焼となっている。ナノ粒子体は酸素供給速度を抑制するものが無いため、供給酸素濃度をそれよりも低くしている。XRD分析抑制結晶酸化物と少量のFeよりなる加熱酸化分解物は、セシウム化合物の水、酸溶液への溶出が著しく迅速である。低酸素ガスの導入量は、ポット内部の温度が400℃以下で、随伴飛散物の発生の抑制となる量が好ましい。この酸化分解処理工程においても、水を作動流体とするエゼクタでポット内を吸引し、発生したガス成分やそれに随伴する飛散物を水に吸収又は捕集させるのが好ましい。
【0049】
図2は、上記のプルシアンブルーの乾燥・酸化処理を行うためのシステムの構成図である。誘導加熱ユニット2は、誘導コイルを備え、ベース15の受座5上に設置されている。ベース15には重量センサ16が設けられている。ポット1はポット本体3に蓋を装着したものである。
【0050】
ポット1の流入口4aの上端には、配管17が接続されている。この配管17には、流量計18及び流量調節バルブ19が設けられている。この配管17を介して、ポット1に空気又は低酸素ガスを供給することができるようになっている。ポット1の流出口4bは、流量調節バルブ20及び温度センサ21を備えた配管22を介してエゼクタ23の吸引部に接続されている。エゼクタ23は、タンク24に設置されている。タンク24内の水は、タンク24の底部から配管25、ポンプ26及び循環水冷却用クーラ(熱交換器)27を介してエゼクタ23の作動流体導入口に供給される。
【0051】
タンク24には液面レベルセンサ28が設けられている。また、タンク24の上部にはガス排出用の配管29が接続されており、この配管29にガスセンサ30が設けられている。
【0052】
この処理システムを用いるプルシアンブルーの乾燥及び酸化処理手順について次に説明する。
【0053】
ポット1内のプルシアンブルーの容積は、ポットの容積の85〜95体積%程度が好ましい。被処理プルシアンブルーの含水率は50〜95重量%程度が好ましい。このポット1を図2の通り誘導加熱ユニット2に装着し、配管17,22を接続する。
【0054】
バルブ19,20を開とし、ポンプ26を作動させてエゼクタ23に通水し、ポット1内から気体を吸引すると共に、誘導コイルに通電し、ポット1に二次電流を誘起させ、抵抗損による発熱でポット1を加熱する。誘導加熱ユニット2に設けた温度センサ13の検出温度Tが100〜150℃好ましくは100〜120℃となるように誘導コイルへの通電を制御する。この温度Tを150℃以下とするのは、プルシアンブルーからのイオン溶出抑制のためである。ポット1内のプルシアンブルーは加熱され、水分が蒸発する。この水の蒸発時における、放射性セシウムを吸着したナノ粒子の飛散を抑制するために、配管22における蒸気線速を100mm/sec以下特に50mm/sec以下とするのが望ましい。この蒸発時における温度センサ21の検出温度Tは96〜100℃程度となる。水の蒸発時はバルブ19を開とし、ポット1にキャリヤーガスとして空気を供給し、ポット1、配管22内の結露を防ぐ。
【0055】
蒸発した蒸気は、凝縮機能と飛沫ナノ粒子の捕集機能を兼ね備えたエゼクタ23で凝縮し、タンク24に溜る。配管25を循環する水はクーラ27にて冷却し、40℃以下とする。脱水量は、誘導加熱装置の重量センサ16の検出重量W及びタンク24の液面上昇量(レベルセンサ28の検出液面レベルL)にて概略的に検知する。ポット1内のスラリーの含有水が少なくなると脱水量が減る。そのため、プルシアンブルーへの付着水の略全量が蒸発すると、重量センサ16の検出重量W又はレベルセンサ28の検出液面レベルLに変化が見られなくなる。
【0056】
重量センサ16の検出重量W又はレベルセンサ28の検出液面レベルLに変化が見られなくなり、脱水ケーキからの付着水分の蒸発が終了し、温度センサ14の検出温度Tが150℃を超えたり、温度センサ13の検出温度Tが150℃を超えたりした後においても、ポット1内には水(HO)が存在する。この水は、プルシアンブルーに含まれる水和物などである。ポット1内の温度を150℃よりも上昇させた際にポット1内に凝縮水が存在すると、プルシアンブルーが部分酸化し、シアン化物の生成が起こりうるため、ポット1内に空気を供給してポット内の雰囲気を露点以上とすることで、乾燥工程におけるプルシアンブルーの部分酸化によるシアン化物の生成を抑制することができる。
【0057】
センサ21の検出温度Tが110℃以上、好ましくは110〜150℃例えば120℃になったならば、乾燥工程を終了し、プルシアンブルーの酸化分解処理工程に移る。この時には、ポット1内に空気又は低酸素ガスが継続して供給される。この工程では、センサ14の検出温度Tが昇温速度0.3〜2℃/min好ましくは0.5〜1℃/minで150〜400℃、好ましくは200〜370℃となるようにコイルに通電する。また、温度センサ13,21の検出温度差T−Tが50℃以下特に20℃以下となるようにバルブ19を調整してポット1への空気又は低酸素ガス導入量を調節する。プルシアンブルーは、この酸化分解処理により酸化鉄、CO、N、シアン化物、及び少量の未燃物に酸化分解する。残留シアン化物は1/1000以下となる。
【0058】
酸化分解処理完了の目安は、重量センサ16の検出重量Wの変化量、又はガスセンサ30により検出されるCO変化量にて判断する。酸化分解処理で有機物が未燃分として残存するとガラス固化処理に影響を及ぼすので、十分に燃焼させる必要がある。酸化分解処理は48時間以内に終了させるのが好ましい。酸化分解処理完了後、ポット1内の雰囲気を空気に置換した後、配管17,22を取り外し、流入口4a及び流出口4bを密閉する。次いで好ましくはポット1を放冷等により冷却する。
【0059】
酸化生成物は、セシウム塩を40重量%以上例えば40〜80重量%含むことが好ましい。また、ナトリウム塩を15重量%以上例えば15〜50重量%含むことが好ましい。
また、アルギン酸・カルシウムゲル膜に被包された造粒体の場合はカルシウム塩を15重量%以上例えば15〜50重量%含むことが好ましい。
【0060】
乾燥工程、酸化分解処理工程では、タンク24内の水にシアン化物が溶け込むので、酸化分解処理工程終了後、タンク24内の水を水酸化ナトリウムや次亜塩素酸ナトリウム等を用いて無害化処理を行った後に、吸着工程へ送ることが好ましい。また、更にタンク24内の水に予め水酸化ナトリウム溶解させておき、酸化分解処理工程で発生するシアン化物をアルカリ固定化させるのがより好ましい。
【0061】
[溶出及び塩類の分離]
酸化分解処理後のポット1内の分解生成物は、酸化鉄と、主に硝酸セシウム、塩化セシウムを主体とするセシウム化合物と、少量のその他の塩類とから構成される。そのため、この分解処理物に水を加えることで、セシウム化合物及びその他の可溶性塩類を溶出させ、これらを含む水溶液を酸化鉄等の難溶性分解生成物固形分から分離することができる。
【0062】
ポット1から酸化生成物を取り出す場合、ポット1内に水を供給し、撹拌し、スラリーとして溶出分離容器に吸引回収するのが好ましい。図示は省略するが、流入口4aの下端には、ポット1内の底部近くまで延在するパイプが接続されている。このパイプからの水がポット1内に流入すると、ポット内の酸化生成物が流水で撹拌され、流出口4bから流出する。
【0063】
酸化分解生成物からのセシウム化合物等の溶出分離において、酸化分解生成物を100μm以下に粉砕し、水温度50〜90℃好ましくは60〜80℃にて生成物中の含有セシウムの95%以上を溶出させるのが好ましい。その後、生成物中の未抽出残留セシウムを0.2〜1N程度の硝酸水溶液にて更に溶出させ、合計溶出率99.5%以上の高溶出率を得ることが好ましい。セシウム化合物等の水溶液と難溶性酸化分解生成固形分との分離は濾過、遠心分離などにより行うことができる。分離したセシウム化合物及び塩類の溶液を濃縮し、乾燥してセシウム塩を主成分とする固形分(析出物)とする。
【0064】
分離された酸化分解生成固形分にはまだセシウム化合物が0.5%程度残留している。この含有セシウム化合物を更に除去して安全に廃棄できる酸化分解生成固形分を得るために1000℃以上、例えば1000〜1100℃での昇華加熱処理を行う。加熱保持時間は約1時間以上、例えば1〜3時間とする。これにより、セシウム化合物が0.05重量%以下まで低下した酸化分解生成固形分が得られる。
【実施例】
【0065】
[実施例1]
<プルシアンブルーナノ粒子造粒体分散液の調製>
関東化学(株)製プルシアンブルーナノ粒子造粒体 MC−B(Fe[Fe(CN)・15HO、造粒粒子径約1mm)10gを2.4L純水に分散させて分散液を調製した。
【0066】
<模擬被処理液の吸着処理>
和光純薬製塩化セシウム0.6gを純水0.1Lに溶解させた水溶液よりなる模擬被処理液を、4回に分けて上記2.4Lプルシアンブルーナノ粒子造粒体(以下、MC−Bと称す。)分散液に投入分散攪拌し、セシウムを吸着させた。
【0067】
上記の吸着処理後の液を少量分取しセシウム吸着MC−Bを濾別して濾液中の鉄、セシウムの定量分析を行ったところ、塩化セシウム投入量0.6gの内、0.475gが吸着処理されていることが認められた。結果からMC−Bへのセシウム吸着量を推定したところ、MC−B1kg当たりではセシウムが35.5g吸着されたことになる。
【0068】
<乾燥及び加熱酸化分解処理>
上記セシウム吸着MC−B4.5gを燃焼ボートに採取し、この燃焼ボートを小型チューブ炉のチューブ内に挿入した。空気(0.5L/min)流通下で220℃、3時間乾燥させ、更に350℃まで昇温(1℃/min)し、350℃を3時間保持し、酸化処理した。これにより、酸化処理生成物が2,44g得られた。チューブ炉からの流出ガスは、水トラップ(200mL×2本)にて捕集した。トラップ水からCN、NHが分析された。
【0069】
<水溶出処理>
上記の酸化処理生成物を乳鉢ですりつぶし、試料1とした。少量の試料を分取し、酸全溶解させ、蒸留水にて希釈した。この溶出液に含まれるセシウムの濃度をICP−MSで定量したところ、試料1の含有セシウム量はCs−73000mg/試料−kgであった。
【0070】
試料1を1g分取し、蒸留水10mLと混合して、ウオーターバス(80℃)中で6時間撹拌し、可溶性塩類を蒸留水に溶出させた。溶出液は遠心分離(3000rpm、20分間)後に分離残渣を純水洗浄、乾燥させて試料2とした。少量の試料2を分取し、酸全溶解させ、蒸留水にて希釈した。この溶出液に含まれるセシウムの濃度をICP−MSで定量したところ、試料2の含有セシウム量はCs−2700mg/試料−kgであった。
【0071】
従って、水抽出による酸化処理残渣からの水溶出セシウム回収率は(73000−2700)/73000=96.3%であった。
【0072】
<0.5N硝酸溶出処理>
上記試料2を1g分取し、0.5N硝酸溶液10mLとで混合して、ウオーターバス(80℃)中で6時間撹拌し、可溶性塩類を蒸留水に溶出させた。溶出液は遠心分離(3000rpm、20分間)後に分離残渣を純水洗浄、乾燥させて試料3とした。少量の試料3を分取し、酸全溶解、蒸留水希釈し、セシウムの濃度をICP−MSで定量したところ、試料3の含有セシウム量はCs−62mg/試料−kgであった。酸化処理生成物を水抽出と0.5N硝酸溶液での抽出とにより、酸化処理残渣からのセシウム回収率は99.91%となった。
【0073】
<昇華除去処理>
上記試料3を0.93g分取し、燃焼ボートに採取し、上記小型チューブ炉のチューブ内に挿入した。150℃で15分保持乾燥、空気0.5L/min通気にて1000℃まで昇温し、1時間保持した。自然冷却後これを試料4とし、同様に試料を分取し、酸全溶解、蒸留水希釈し、セシウムの濃度をICP−MSで定量したところ、試料4の含有セシウム量はCs−24mg/試料−kgであった。酸化処理生成物を水抽出、0.5N硝酸溶液での抽出、更に昇華除去処理することにより、酸化処理残渣からのセシウム除去率は99.97%となった。
【0074】
[比較例1]
<模擬被処理液の調製及吸着>
関東化学(株)製プルシアンブルーL-purified(Fe[Fe(CN)・15HO、粒子径16nm)の分散液に塩化セシウムを投入、吸着させ、脱水し、プルシアンブルー1kg当たりではセシウム47.72g(塩化セシウム換算で60.47g)吸着したサンプルを得た。サンプルの含水率は約73.8重量%であった。
【0075】
<乾燥及び加熱酸化分解を行う処理>
図3に示す乾燥及び酸化分解処理装置によって上記脱水ケーキの乾燥及び酸化分解処理を行った。この装置は、図2に示したものと同一の構成のポット1及び誘導加熱ユニット2を備えている。なお、図3ではバルブの図示を省略している。
【0076】
上記脱水ケーキ(含水率73.8重量%)3.09kgをポット1に投入し、誘導加熱ユニット2に組み込み、流出口4bを蒸気排気管42及び冷却器43を介して受器44に接続した。
【0077】
流入口4aから空気を5L/minにて供給しながら、温度センサ13の検出温度Tが120℃となるように導入コイルに通電した。受器44内の凝縮水量が2.0Lとなった段階で流入口4aからの空気量を10L/minに増量した。420min経過後、排気温度が200〜210℃で安定した。その後昇温し、150min経過した時点で排気温度が220℃となり、受器44内の凝縮水量は2.2Lであった。凝縮水は透明であった。そこで、導入コイルへの通電量を増加させ、温度センサ13の検出温度Tが350℃となるまで2℃/minにて昇温させた。ポット内部の温度を示す温度センサ14の検出温度Tが380℃以下で、ポット出口燃焼ガス温度(温度センサ21の検出温度T)が300℃になるように空気を供給した。温度Tと温度Tとの差は50℃以下であった。受器44にpH13.5となるようにNaOHを投入した。排気ガスは受器44にて捕集後、放出した。捕集排気ガスからシアン化水素は検出されず、排気ガス成分はCO、NH、N、Oであったが、受器44内の水からシアン化物が検出された。
【0078】
300min後、加熱を停止し、放冷後、ポット1の蓋を開け、内容物(以下、酸化処理生成物Aという。)を分析したところ、Fe等の酸化鉄が主であり、セシウムは酸化物(CsO)換算で8.33wt%であった。ポット1内の残留物重量は420gであり、ポットへの投入スラリー重量の1/7以下となった。図5にこの酸化処理生成物AのXRD分析を示す。Fe、CsNOのピークが顕著に読み取れる。
【0079】
<水溶出処理>
上記の酸化処理生成物Aを乳鉢ですりつぶし、試料A1とし、少量を分取し、酸全溶解させ、蒸留水にて希釈した。この溶出液に含まれるセシウムの濃度をICP−MSで定量したところ、試料A1の含有セシウム量はCs−73000mg/試料−kgであった。さらに試料A1を1g分取し、蒸留水10mLと混合して、ウオーターバス(80℃)中で6時間撹拌し、可溶性塩類を蒸留水に溶出させた。溶出液は遠心分離(3000rpm、20分間)後に分離残渣を純水洗浄、乾燥させて試料A2とした。少量の試料A2を分取し、酸全溶解させ、蒸留水にて希釈した。この溶出液に含まれるセシウムの濃度をICP−MSで定量したところ、試料A2の含有セシウム量はCs−13000mg/試料−kgであった。従って、水抽出による酸化処理生成物Aからの水溶出セシウム回収率は82.2%であった。
【0080】
<0.5N硝酸溶出処理>
上記試料A2を1g分取し、0.5N硝酸溶液10mLと混合して、ウオーターバス(80℃)中で6時間撹拌し、可溶性塩類を蒸留水に溶出させた。溶出液は遠心分離(3000rpm、20分間)後に分離残渣を純水洗浄、乾燥させて試料A3とした。少量の試料A3を分取し、酸全溶解、蒸留水希釈、セシウムの濃度をICP−MSで定量したところ、試料A3の含有セシウム量はCs−4400mg/試料−kgであった。酸化処理生成物Aを水抽出し、更に0.5N硝酸溶液で抽出することによるセシウム回収率は93.97%であった。
【0081】
<昇華除去処理>
上記試料A3を5g分取し、燃焼ボートに採取し、上記小型チューブ炉のチューブ内に挿入した。150℃で15分保持乾燥、空気0.5L/min通気にて1000℃まで昇温、1時間保持した。自然冷却後これを試料A4とした。試料A4を分取し、酸全溶解、蒸留水希釈、セシウムの濃度をICP−MSで定量したところ、試料A4の含有セシウム量はCs−480mg/試料−kgであった。酸化処理生成物を水抽出、0.5N硝酸溶液での抽出、更に昇華除去処理することによるセシウム除去率は99.34%であった。
【0082】
[考察]
この実施例1及び比較例1より、セシウム吸着プルシアンブルーの乾燥及び酸化処理工程における最高温度を硝酸セシウム融点以下に制御し、酸化物形態の結晶化を抑制した生成物とすることにより、セシウムの水及び0.5N硝酸溶液への抽出率を飛躍的に高めることが認められた。更に昇華除去処理での酸化処理残渣からのセシウム除去率向上により、規制値以下での残渣廃棄物達成の見通しが得られた。
【符号の説明】
【0083】
1 ポット
2 誘導加熱ユニット
3 ポット本体
12,13,14 温度センサ
23 エゼクタ
24 タンク
27 クーラ
42 蒸気排気管
43 冷却器
44 受器
図1
図2
図3
図4
図5