【解決手段】変形感受性織物は、異なる径のコア1a及び該コア1aの外周に設けられたクラッドを備え、伝送する光の一部を漏洩するヘテロコア部1aを有し、入射端から入射されヘテロコア部1aを通過した光を出射端から出射するヘテロコア光ファイバ1を、糸2と共に織り込む又は編み込むことによって作製された織物3からなる。ヘテロコア部1aと糸2とが接触している。
異なる径のコア及び該コアの外周に設けられたクラッドを備え、伝送する光の一部を漏洩する光透過部を有し、入射端から入射され前記光透過部を通過した光を出射端から出射する光ファイバを、糸と共に織り込む又は編み込むことによって作製された織物又は編物からなり、
前記光透過部と前記糸とが接触していることを特徴とする光ファイバを組み込んだ変形感受性生地。
異なる径のコア及び該コアの外周に設けられたクラッドを備え、伝送する光の一部を漏洩する光透過部を有し、入射端から入射され前記光透過部を通過した光を出射端から出射する光ファイバを糸と撚り合わせた光ファイバ組込み撚糸と、糸のみを撚り合わせた撚糸又は糸と共に織り込む又は編み込むことによって作製された織物又は編物からなり、
前記光透過部を前記撚糸又は前記糸の方向に投影した投影空間内において、前記光ファイバ組込み撚糸と当該撚糸又は当該糸とが接触していることを特徴とする光ファイバを組み込んだ変形感受性生地。
前記光透過部は、検知対象物の変動方向に対して直交する方向を長手方向とするように配置されていることを特徴とする請求項3に記載の光ファイバを組み込んだ変形感受性生地。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態を図面を参照して説明する。
【0026】
本実施形態の光ファイバを組み込んだ変形感受性生地は、
図1に示すように、光ファイバ1を糸2と共に織り込んだ織物3からなる変形感受性織物100として構成されている。
【0027】
光ファイバ1は、本実施形態では、
図2に示すように、その全長のうちの途中部に所定長(例えば数mm)の本発明の光透過部に相当するヘテロコア部1aを有する光ファイバである。ヘテロコア部1aは、その軸心方向の両側に連なる光伝送路を構成する光ファイバ1b,1b(以降、光ファイバ1bを伝送路光ファイバ1bという)のそれぞれのコア1b1よりも、小さい径のコア1a1を有する部分である。
【0028】
なお、ヘテロコア部1aのコア1a1の周囲と、各伝送路光ファイバ1bのコア1b1の周囲とには、通常の光ファイバと同様に、それぞれ一定外径のクラッド1a2、1b2が各々形成されている。また、ヘテロコア部1aを構成する光ファイバ、及び各伝送路光ファイバ1bは、シングルモード光ファイバ及びマルチモード光ファイバの何れであってもよい。
【0029】
上記のように、ヘテロコア部1aを有する光ファイバ1(以降、ヘテロコア光ファイバ1という)は、例えば、ヘテロコア部1aを構成する光ファイバの軸心方向の両端面に、該光ファイバよりもコア径が大きい伝送路光ファイバ1b,1bを融着等により同軸心に接合することで作製することができる。
【0030】
例えば、伝送路光ファイバ1bとしてコア径9μmのシングルモードファイバを用いて、これを切断し、ヘテロコア部1aとしてコア径5μmのシングルモードファイバを2mmを挿入して接続部を融着することにより、ヘテロコア光ファイバ1を作製すればよい。
【0031】
かかるヘテロコア光ファイバ1にあっては、伝送路光ファイバ1bの一方側である入射端から光を入射したとき、当該一方側の伝送路光ファイバ1bからヘテロコア部1aに進入する光の一部が、ヘテロコア部1aのコア1a1を通って他方側の伝送路光ファイバ1bに伝送されずに、ヘテロコア部1aの外部に漏洩する。この場合の光の漏洩量は、ヘテロコア部1aでのヘテロコア光ファイバ1の湾曲度合(平均的な曲率)と高い相関性を有し、湾曲度合が高いほど、光の漏洩量(リーク量)が多くなる。
【0032】
従って、ヘテロコア光ファイバ1における光の伝送損失を計測した場合、伝送損失は、ヘテロコア部1aでのヘテロコア光ファイバ1の湾曲度合が高いほど、大きくなる。
【0033】
補足すると、
図2では、ヘテロコア部1aのコア径が一定である場合を例示しているが、ヘテロコア部1aのコア径が、該ヘテロコア部1aの軸心方向で変化するように、コア1a1が形成されていてもよい。例えば、ヘテロコア部1aのコア径が、ヘテロコア部1aの軸心方向の両端から中央側向かって徐々に縮径するようにコア1a1が形成されていてもよい。
【0034】
糸2は、繊維が長く線状に連続したものである。糸2は、綿糸、毛糸など短い繊維を紡績したものであっても、生糸、合成繊維など長い繊維1本からなるものがあっても、長い繊維を撚り合わせたものであってもよい。また、糸2は複数本の糸を撚り合わせた撚糸であってもよい。
【0035】
糸2は、ウール、麻、絹、羊毛などの天然繊維からあるものであっても、ポリエステルなどの合成繊維からなるものであってもよい。
【0036】
織物3は、
図3に示すように、ヘテロコア光ファイバ1を糸2と共に織り込んだものであり、変形感受性を有する変形感受性織物100として構成されている。織物3は、少なくとも1本のヘテロコア光ファイバ1を縦糸(経糸)又は横糸として、多数本の糸2を縦糸及び横糸として、縦糸と横糸とを交差させることにより作製される。すなわち、織物3は、縦糸又は横糸となる糸2の代わりにヘテロコア光ファイバ1を用いて織り込まれたものである。
【0037】
このように、ヘテロコア光ファイバ1が織物3中に織り込まれているので、織物3は糸2のみからなる通常の織物と同様に、衣服などの生地となり、人体などの検知対象物の表面を過度に拘束することなく覆うことができる。
【0038】
なお、
図3では、横糸となる糸2の代わりにヘテロコア光ファイバ1を用いて織り合せているが、縦糸となる糸2の代わりにヘテロコア光ファイバ1を用いて織り合せてもよい。
【0039】
また、
図3では、縦糸及び横糸同士の間に隙間を有して織り合せた例を示しているが、隙間無く織り合せてもよい、また、
図3では、平織で織り合せた例を示しているが、織り方はこれに限定されず、公知の他の織り方、例えば、綾織・朱子織などの織り方であってもよい。
【0040】
図4Aに織物3の断面図を示すように、ヘテロコア光ファイバ1を横糸として用いた場合、ヘテロコア光ファイバ1のヘテロコア部1aが縦糸である糸2のうちの1本と接触している。このとき、ヘテロコア部1aの軸方向の中心部が糸2と接触していることが好ましい。
【0041】
ヘテロコア光ファイバ1と糸2とを比較した場合、ヘテロコア光ファイバ1の素材のほうが糸2の素材よりも硬質であるので、
図4Aに示すように、織物3に対して張力が付与されていない状態ではヘテロコア部1aに対する曲率は非常に小さい。このように、織物3では、柔軟な繊維からなる糸2を素材に用い、ヘテロコア部1aに対して適度な湾曲度合を付与している。
【0042】
この状態から、織物3が縦糸の延在する方向に引っ張られると、ヘテロコア部1aに接触する縦糸である糸2にも張力が付与され、糸2は直径が減少して硬くなる。その結果、
図4Bに示すように、糸2の硬さの増加に従ってヘテロコア部1aの湾曲度合が増加し、漏洩により伝搬光強度が減少する。
【0043】
また、織物3に圧力、シワ、折り目が付与された場合にも、ヘテロコア部1aの湾曲度合が変化するので、これらの変化を測定することも可能である。
【0044】
なお、ヘテロコア部1aと糸2とが接触する位置により感度が異なる。しかし、一般にヘテロコア部1aの長さは1mmから2mm程度であり、糸2の直径及び糸2同士の間隔に比較して長いので、位置に対する依存性は鋭敏ではない。そして、多少の感度の個別的変化は、使用時に適宜に個々に校正すればよい。
【0045】
なお、織物3は、ヘテロコア光ファイバ1が1本だけでなく複数本織り込まれたものであってもよい。さらに、ヘテロコア光ファイバ1は、縦糸又は横糸として織り込まれるものであっても、縦糸及び横糸として織り込まれるものであってもよい。ただし、この場合、ヘテロコア光ファイバ1のヘテロコア部1a同士が接触することは好ましくない。
【0046】
以上説明したように、変形感受性織物100は、織物3の素材の一部として柔軟な糸2にヘテロコア光ファイバ1を織り込んでいるので、織物3に対して付与される、外的変形、例えば曲げ、伸縮、圧力などの物理量をその柔軟さを損なわずに光強度の変化として実時間で検出することができる。
【0047】
また、ヘテロコア光ファイバ1としてシングルモードファイバを伝送路光ファイバ1bとして使用すれば、伝送路光ファイバ1bは曲げや温度変化などの外乱に強いので、変形感受性織物100は、伝送路光ファイバ1bにおける温度補償を行う必要がないため汎用性が高くなる。
【0048】
また、変形感受性織物100を生地として衣服に作製した場合、腕、足の関節などの身体動作、又は脈拍、心拍などの生体情報による物理的振動を、着衣者が拘束感が無い状態で測定することが可能となる。よって、変形感受性織物100を着衣者の皮膚表面等の任意の測定対象面に密着させることができる。
【0049】
また、変形感受性織物100をシート状に形成した場合、人に拘束感等の違和感をほとんど及ぼさないようにして、被測定者の皮膚表面に変形感受性織物100を貼着などによって固定することも可能である。
【0050】
このようにして、変形感受性織物100は測定対象面の変形に伴い、高い追従性を有し変形するので、高精度で測定することが可能である。
【0051】
次に、変形感受性織物100を用いて、任意の測定対象面の変形を検知する場合の測定手法を
図1を参照して説明する。
【0052】
変形感受性織物100が、測定対象物(図示省略)の表面の変形に伴い変形するように測定対象物に装着される。この場合、変形感受性織物100の測定対象物への装着は、例えば、測定対象物が人体である場合には、変形感受性織物100を衣服などの形状として人体に着衣させることで行うことができる。また、変形感受性織物100をバンド状に形成して、人体の腕、手首、脚、足首などに装着してもよい。その他、変形感受性織物100を生地として用いて様々な形状に縫製すればよい。
【0053】
さらに、変形感受性織物100をシート状として、測定対象物の表面に載置、接着などによって一時的に固定してもよい。
【0054】
そして、例えば、
図5に示すように、検出装置10を用いて測定対象物の表面の変形を検知する測定が行われる。
【0055】
この検出装置10は、変形感受性織物100と、入射端からヘテロコア光ファイバ1に入射する光を出力する光源11と、ヘテロコア光ファイバ1の出射端から出射される光を受光する光検出器12と、光検出器12の出力を図示しないAD変換器を介して取り込むデータ処理装置13とを備える。
【0056】
光源11は、例えば発光ダイオード(LED)、レーザダイオード(LD)等により構成され、ヘテロコア光ファイバ1の伝送路光ファイバ1b,1bのうちの一方側の端部に接続される。
【0057】
光検出器12は、例えばフォトダイオード(PD)等により構成され、ヘテロコア光ファイバ1の伝送路光ファイバ1b,1bのうちの他方側の端部に接続される。
【0058】
データ処理装置13は、例えばパーソナルコンピュータ等のコンピュータ、あるいは、CPU等を含む電子回路ユニットにより構成される。
【0059】
かかる構成の検出装置10の光源11からヘテロコア光ファイバ1に光が入射され、該ヘテロコア光ファイバ1からの出射光が光検出器12により検出される。
【0060】
そして、データ処理装置13により、光検出器12の出力により示される出射光の強度が計測され、該出射光の強度の計測値と、入射光の既定の強度との比率等を指標値として、ヘテロコア光ファイバ1における光の伝送損失(以降、単に光損失という)が計測される。なお、ヘテロコア光ファイバ1の光損失は、入射光の強度に対する出射光の強度の比率が小さいほど、大きなものなる。
【0061】
ここで、測定対象物の表面が変形すると、測定対象物の表面に隆起あるいは沈下、または測定対象物の表面に伸長あるいは短縮が生じ、それらによりヘテロコア部1aの湾曲度合が変化する。例えば、測定対象物の表面が隆起した場合、測定対象物の表面に沿ったヘテロコア部1aが持ち上がり、ヘテロコア部1aの湾曲度合が大きくなる。このヘテロコア部1aの湾曲度合の変化に応じて、ヘテロコア部1aでの光の漏洩量が変化する。このため、ヘテロコア光ファイバ1の光損失の計測値に基づいて、測定対象物の表面の変形を検知することが可能となる。
【0062】
例えば、測定対象物の表面が隆起した場合、ヘテロコア部1aが持ち上がるので、ヘテロコア部1aの湾曲度合が増大して、ヘテロコア光ファイバ1の光損失の計測値が増加する。
【0063】
逆に、測定対象物の表面が沈下した場合、ヘテロコア部1aが下がるので、ヘテロコア部1aの湾曲度合が減少して、ヘテロコア光ファイバ1の光損失の計測値が減少する。
【0064】
また、例えば、測定対象物の表面の変形に伴ってヘテロコア部1aと接触する糸2が長手方向に伸長した場合、該糸2に張力が生じる。このようにして糸2に張力が生じると、該糸2は細くなり、硬くなるので、該糸2と接触するヘテロコア部1aの湾曲度合が大きくなる。このヘテロコア部1aの湾曲度合の変化に応じて、ヘテロコア部1aでの光漏洩量が変化する。このため、ヘテロコア光ファイバ1の光損失の計測値に基づいて、計測対象物の表面の変形を検知することが可能となる。
【0065】
例えば、測定対象物の表面の変形に伴ってヘテロコア部1aと接触する糸2が長手方向に伸長した場合、ヘテロコア部1aと接触する糸2が細くなり、硬くなるので、ヘテロコア部1aの湾曲度合が増大して、ヘテロコア光ファイバ1の光損失の計測値が増加する。
【0066】
逆に、測定対象物の表面の変形に伴ってヘテロコア部1aと接触する糸2が戻って長手方向に短縮した場合、ヘテロコア部1aと接触する糸2が戻って太くなり、柔らかくなるので、ヘテロコア部1aの湾曲度合が減少して、ヘテロコア光ファイバ1の光損失の計測値が減少する。
【0067】
このように、ヘテロコア光ファイバ1の光損失の計測値に基づいて、測定対象物の表面の変形、例えば、表面の隆起又は沈下、及び伸縮を検知することが可能となる。
【0068】
[検証試験]
次に、変形感受性織物100の実施例の動作特性の検証試験について説明する。
【0069】
(実施例)
検証試験に用いた作製した変形感受性織物100の実施例の仕様は次の通りである。
【0070】
すなわち、コア径9μmのシングルモード光ファイバと、コア径5μmのシングルモード光ファイバとを、それぞれ、伝送路光ファイバ1b、ヘテロコア部1aの光ファイバとして用いて、
図3に示した構造のヘテロコア光ファイバ1を作製した。ヘテロコア部1aの長さは2mm、ヘテロコア部1a及び伝送路光ファイバ1bのそれぞれのクラッド1a2,3b2の外径は125μmである。伝送路光ファイバ1bとヘテロコア部1aの光ファイバとは融着により接合した。
【0071】
糸2として、平均直径2mmの毛糸を用いた。この糸2に1本のヘテロコア光ファイバ1を横糸として織り込み、縦糸及び横糸の間に1.5〜2.0mm程度の隙間を設けた平織により、110mm×200mmのサイズの長方形状の織物3を作製した。ヘテロコア光ファイバ1のヘテロコア部1aの軸方向の中心部の真上に1本の縦糸としての糸2が径方向の中心で接触するように構成した。
【0072】
(圧力特性)
変形感受性織物100の圧力特性を検証するための検証試験について説明する。この検証試験では、織物3の実施例に付与した圧力と、ヘテロコア光ファイバ1の光損失との関係を計測した。
【0073】
織物3を、糸2と比較して十分に硬質な平坦な金属台の上に載置した。そして、ヘテロコア部1aを中央として、直径13mmの円形状の荷重付与部を先端に有する荷重負荷装置によって、織物3に圧力を上方から付与した。そして、付与した圧力を0Nから20Nまで1N増加させる毎における、ヘテロコア光ファイバ1の光損失を検出装置10を用いて計測した。
【0074】
図6はかかる検証試験による測定データを示している。なお、
図6の横軸は、織物3に付与した圧力[N]を表し、縦軸は、織物3の当初状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を基準とする相対的な光損失[dB]を表している。
【0075】
図6に示すように、付与する圧力を0Nから約15Nまでの範囲で増加させた場合には、圧力が大きくなるほど、ヘテロコア光ファイバ1の相対光損失が単調に増加することが判る。これは、圧力が大きくなるほど、縦糸が細くなって、ヘテロコア部1aの湾曲度合を大きくしているためであると考えられる。
【0076】
一方、付与する圧力が約15Nを超えた範囲では、圧力が大きくなっても、ヘテロコア光ファイバ1の相対光損失はほぼ一定であり、増加が飽和していることが判る。これは、圧力が所定値を超えると、ヘテロコア部1aと接触する縦糸は形状が平らに変化し、ヘテロコア部1aの湾曲度合がほぼ変化しないためであると考えられる。
【0077】
以上の検証試験の結果から、変形感受性織物100は付与される微小な圧力の変化に対しては、一意的に検出する性能を有することが判った。よって、変形感受性織物100は、人体の身体表面に生じる脈拍、心拍などによる微小圧力変化を捉えるために有用であると考えられる。
【0078】
(曲げ特性)
変形感受性織物100の曲げ特性を検証するための検証試験について説明する。この検証試験では、変形感受性織物100の実施例に付与した曲げと、ヘテロコア光ファイバ1の光損失との関係を計測した。
【0079】
織物3の上下両端部(縦糸の延在する方向の両端部)を実験者が左右の手の指で把持して、織物3を丸みを有するように屈曲させた。このとき、ヘテロコア部1aに対しても屈曲が付与された。この状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を検出装置10を用いて3秒間計測した。
【0080】
図7の線Aはかかる検証試験による測定データを示している。なお、
図7の横軸は、経過時間[秒]を表し、縦軸は、織物3の当初状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を基準とする相対的な光損失[dB]を表している。
【0081】
図7の線Aに示すように、ヘテロコア光ファイバ1の相対的な光損失は約2.0dBであった。これは、ヘテロコア部1aに湾曲が付与されたためであると考えられる。
【0082】
なお、ヘテロコア光ファイバ1の光損失は、時間によって僅かに変動している。これは、実験者の手の僅かな上下方向の震えを検出したものであると考えられる。
【0083】
一方、織物3の左右両端部(横糸の延在する方向の両端部)を実験者が左右の手の指で把持して、織物3を丸みを有するように屈曲させた。このとき、ヘテロコア部1aへは屈曲が付与されない。そして、この状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を検出装置10を用いて3秒間計測した。
【0084】
図7の線Bはかかる検証試験による測定データを示している。
図7の線Bに示すように、ヘテロコア光ファイバ1の相対的な光損失は0dBで一定であった。これは、ヘテロコア部1aの湾曲度合が変化しなかったためであると考えられる。なお、ヘテロコア光ファイバ1の光損失は、時間によって変動していない。これは、ヘテロコア部1aに湾曲が付与されていないために、実験者の手の僅かな上下方向の震えを検出しなかったものであると考えられる。
【0085】
以上の検証試験の結果から、変形感受性織物100は付与される曲げ変形を、曲げの方向に応じて検出する性能を有することが判った。よって、変形感受性織物100は、曲げの方向に応じた曲げ変形の大きさを検出することができ有用であると考えられる。さらに、織物3の横糸に代えてヘテロコア光ファイバ1を織り込むだけでなく、縦糸にもヘテロコア光ファイバ1を織り込むことによって、2次元の方向に曲げ変形の大きさを検出することが可能となると考えられる。
【0086】
(伸縮特性)
変形感受性織物100の伸縮特性を検証するための検証試験について説明する。この検証試験では、変形感受性織物100の実施例に付与した伸縮と、ヘテロコア光ファイバ1の光損失との関係を計測した。
【0087】
糸2と比較して十分に硬質なプラスチックからなる平坦な台の上に織物3を載置した。そして、この織物3の上下両端部(縦糸の延在する方向の両端部)を実験者が左右の手の指で台に押し付けながら上下方向に往復移動させた。この状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を検出装置10を用いて6秒間計測した。
【0088】
図8Aはかかる検証試験による測定データを示している。なお、
図8A及び
図8Bの横軸は、経過時間[秒]を表し、縦軸は、織物3の当初状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を基準とする相対的な光損失[dB]を表している。
【0089】
図8Aに示すように、ヘテロコア光ファイバ1の相対的な光損失は0dBと約0.5dBとの間で周期的に推移した。これは、縦糸が伸長するときは、ヘテロコア部1aの湾曲度合が大きくなって光損失が増加し、縦糸が短縮するときは、ヘテロコア部1aの湾曲度合が小さくなって光損失が減少したたためであると考えられる。
【0090】
一方、上記台の上に載置した織物3の左右両端部(横糸の延在する方向の両端部)を実験者が左右の手の指で台に押し付けながら上下方向に往復移動させた。この状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を検出装置10を用いて6秒間計測した。
【0091】
図8Bはかかる検証試験による測定データを示している。
図8Bに示すように、ヘテロコア光ファイバ1の相対的な光損失は0dBで一定であった。これは、織物3の左右方向の伸縮によっては、横糸の代わりに織り込まれたヘテロコア光ファイバ1のヘテロコア部1aの湾曲度合が変化しなかったためであると考えられる。
【0092】
以上の検証試験の結果から、変形感受性織物100は付与される伸縮を、伸縮の方向に応じて検出する性能を有することが判った。よって、変形感受性織物100は、伸縮の方向に応じた伸縮の大きさを検出することができ有用であると考えられる。さらに、変形感受性織物100の横糸に代えてヘテロコア光ファイバ1を織り込むだけでなく、縦糸にもヘテロコア光ファイバ1を織り込むことによって、2次元の方向に伸縮の大きさを検出することが可能となると考えられる。
【0093】
(脈拍計測試験)
変形感受性織物100を用いた脈拍計測試験について説明する。
【0094】
この試験では、
図9に示すように、変形感受性織物100を、被験者の右手首の上に載置した。このとき、ヘテロコア部1aの中心が脈拍計測位置である皮膚のほぼ真上で接触するように配置した。なお、織物3は手首の上に単に載置しただけあり、固定しなかった。そして、この状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を検出装置10を用いて10秒間計測した。
【0095】
図10はかかる脈拍計測試験による測定データを示している。なお、
図10の横軸は、経過時間[秒]を表し、縦軸は、ヘテロコア光ファイバ1の光損失[dB]を表している。
【0096】
図10に示すように、ヘテロコア光ファイバ1の光損失は、時間経過に伴って周期的に変化していることが判る。これは、被験者の脈動による脈拍計測位置における皮膚の表面上に生じる微妙な上下変動による圧力により周期的にヘテロコア部1aの湾曲度合が変化したためであると考えられる。
【0097】
そして、ヘテロコア光ファイバ1の光損失は、10秒間にほぼ11回の周期的な変動をしており、これから所定時間当りの脈拍数を得られることが判った。
【0098】
以上の脈拍計測試験の結果から、変形感受性織物100は脈拍計測位置における脈動による微小な圧力の経時的な変化を検出する性能を有することが判った。よって、変形感受性織物100は、人体の身体表面に生じる脈拍数を計測でき、有用であると考えられる。
【0099】
そして、ヘテロコア光ファイバ1の光損失は、各周期で約0.04dBでほぼ一定であり脈動による圧力変動、すなわち脈圧も計測できる可能性があることも判る。
【0100】
なお、ヘテロコア光ファイバ1の光損失は、時間経過に伴って僅かであるが大きくなった。これは、時間経過に伴い、被験者の手首に対するヘテロコア部1aの位置が僅かにずれたためであると考えられる。このような事態を防止するには、変形感受性織物100を被験者の手首に、接着テープ、ゴムバンドなどの公知の固定手段によって固定すればよい。
【0101】
(手の開閉計測試験)
変形感受性織物100を用いた手の開閉計測試験について説明する。
【0102】
この試験では、
図11に示すように、織物3を、被験者の右前腕の先端部に巻き付けた。このとき、ヘテロコア部1aの中心が手の開閉に応じて動作する筋の真上に位置する皮膚と接触するように織物3を配置した。そして、この状態で被験者が手の開閉を繰り返しながら、ヘテロコア光ファイバ1の光損失を検出装置10を用いて7秒間計測した。
【0103】
図12はかかる手の開閉試験による測定データを示している。なお、
図12の横軸は、経過時間[秒]を表し、縦軸は、ヘテロコア光ファイバ1の光損失[dB]を表している。
【0104】
図12に示すように、ヘテロコア光ファイバ1の光損失は、手を開いたときには約0.1dBであった。これは、ヘテロコア光ファイバ1が前腕の周囲方向に婉曲しているためである。また、手を閉じているときは約0.6〜0.8dBと大きくなっていることが判る。これは、被験者の手の開閉によって計測位置における筋肉が動作し、皮膚の表面上に微妙な上下変動が生じ、それによる圧力がヘテロコア部1aの湾曲度合を変化させたためであると考えられる。
【0105】
以上の手の開閉試験の結果から、変形感受性織物100は手の開閉に伴う筋の微小な動きによる微小な圧力の変化を検出する性能を有することが判った。よって、変形感受性織物100は、人体の身体表面に生じる筋の動きを計測でき、各所の関節の動作を検出することが可能であると考えられる。
【0106】
さらに、ヘテロコア光ファイバ1の光損失は、関節角度も計測できる可能性がある。
【0107】
なお、ヘテロコア光ファイバ1の光損失の最大値は、時間経過に伴って僅かであるが大きくなった。これは、時間経過に伴い、被験者の手首に対するヘテロコア部1aの位置が僅かにずれたためであると考えられる。このような事態を防止するには、変形感受性織物100を被験者の手首に、接着テープ、ゴムバンドなどの公知の固定手段によって固定すればよい。
【0108】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態を図面を参照して以下に説明する。なお、本実施形態は、ヘテロコア光ファイバ1を織り込んだ織物6の構成だけが、第1実施形態と相違するものである。このため、第1実施形態と同一の事項については説明を省略する。
【0109】
図13A及び
図13Bに示すように、本発明の光ファイバ式センサ装置の第2実施形態である変形感受性織物100Aにおいて、ヘテロコア光ファイバ1は、その少なくも長手方向の一部に亘って、糸2から解き分割された複数本の糸又は繊維と撚り合わされ、光ファイバ組込み撚糸4とされている。そして、複数本の糸2を縦糸又は横糸として全体を織り上げて織物、又は布地としている。なお、1本の光ファイバ組込み撚糸4に複数本のヘテロコア光ファイバ1を1本又は複数本の糸2と撚り合わせてもよく、1本の光ファイバ組込み撚糸4を複数本のヘテロコア光ファイバ1のみを撚り合わせて形成してもよい。
【0110】
光ファイバ組込み撚糸4を横糸として用いた場合、ヘテロコア光ファイバ1のヘテロコア部1aを、当該ヘテロコア光ファイバ1と接触する縦糸である糸2の方向に投影した投影空間内において、当該光ファイバ組込み撚糸4と当該糸2とが接触している。このとき、ヘテロコア部1aの軸方向の中心部を当該糸2の方向に投影した投影空間において、光ファイバ組込み撚糸4と糸2とが接触していることが好ましい。
図13Aでは、ヘテロコア部1aの下方において光ファイバ組込み撚糸4と糸2とが接触している。
【0111】
ヘテロコア光ファイバ1の素材のほうが糸2の素材よりも硬質であるので、
図13Aに示すように、織物5の縦糸方向に対して張力が付与されていない状態ではヘテロコア部1aに対する曲率は非常に小さい。
【0112】
この状態から、織物6が縦糸の延在する方向に引っ張られると、光ファイバ組込み撚糸4に接触する縦糸としての糸2にも張力が付与され、糸2は直径が減少して硬くなる。その結果、
図13Bに示すように、糸2の硬さの増加に従ってヘテロコア部1aの湾曲度合(平均的な曲率)が増加し、伝搬光強度がリークにより減少する。
【0113】
(検証試験)
次に、変形感受性織物100Aの実施例の動作特性の検証試験について説明する。
【0114】
(実施例)
検証試験に用いるために作製した変形感受性織物100Aの実施例の仕様は次の通りである。
【0115】
すなわち、コア径9μmのシングルモード光ファイバと、コア径5μmのシングルモード光ファイバとを、それぞれ、伝送路光ファイバ1b、ヘテロコア部1aの光ファイバとして用いて、
図2に示した構造のヘテロコア光ファイバ1を作製した。ヘテロコア部1aの長さは2mm、ヘテロコア部1a及び伝送路光ファイバ1bのそれぞれのクラッド1a2,3b2の外径は125μmである。伝送路光ファイバ1bとヘテロコア部1aの光ファイバとは融着により接合した。
【0116】
糸2として、平均直径2mmの毛糸を用いた。
【0117】
そして、1本の糸2を解き4本の糸に分け、ヘテロコア光ファイバ1を4本の糸の中央に組込み撚り合わせて光ファイバ組込み撚糸4を作製した。そして、糸2を縦糸及び横糸に、1本の光ファイバ組込み撚糸4を横糸として織り込み、縦糸及び横糸の間に隙間の無い平織により、50mm×90mmのサイズの長方形状の織物6を作製した。ヘテロコア光ファイバ1のヘテロコア部1aの軸方向の中心部の真上に1本の縦糸としての糸2が径方向の中心で接触するように構成した。
【0118】
(伸縮特性)
変形感受性織物100Aの伸縮特性を検証するための検証試験について説明する。この検証試験では、変形感受性織物100Aの実施例に付与した伸縮と、ヘテロコア光ファイバ1の光損失との関係を計測した。
【0119】
織物6の上下方向(縦糸の延在する方向)の一方の端部を、糸2と比較して十分に硬質な金属からなる平坦な固定台上に、金属とプラスチックにより固定した。そして、この織物6の上下方向の他方の端部を、固定台と同じ材質からなる平坦な可動ステージ上に、金属とプラスチックにより固定した。そして、可動ステージを0.1mm刻みで固定台から離間する方向に1mmまで往復移動させた。このような状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を検出装置10を用いて計測した。
【0120】
図14の線A,Bにかかる検証試験による測定データを示している。なお、
図14の横軸は、変位量[mm]を表し、縦軸は、織物6の当初状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を基準とする相対的な光損失[dB]を表している。
【0121】
図14の線Aに示すように、織物6が上下方向に伸長するほどに単調にヘテロコア光ファイバ1の光損失が増加した。これは、織物6が伸長すると、縦糸の糸2も伸長して細く且つ硬くなったので、これと接触する光ファイバ組込み撚糸4内のヘテロコア光ファイバ1のヘテロコア部1aの湾曲度合が大きくなって、光損失が増加したためであると考えられる。
【0122】
一方、織物6を上下方向に短縮させたときは、
図14の線Bに示すように、短縮するほどに単調にヘテロコア光ファイバ1の光損失は減少した。これは、織物6が短縮すると、縦糸の糸2も短縮して太く且つ柔らかくなったので、これと接触する光ファイバ組込み撚糸4内のヘテロコア光ファイバ1のヘテロコア部1aの湾曲度合が小さくなって、光損失が減少したためであると考えられる。
【0123】
また、織物6を上下方向に伸長させた場合と短縮させた場合とでは、ヘテロコア光ファイバ1の光損失の変化がヒステリシス特性を有することが確認された。
図14の線A,Bに示す測定データでは、織物6を上下方向に伸長させた場合と短縮させた場合とでは、織物6の伸長量が同一であっても、ヘテロコア光ファイバ1の光損失が若干相違するものとなっている。
【0124】
次に、織物6の左右方向(横糸の延在する方向)の一方の端部を、上記固定台上に、金属とプラスチックにより固定した。そして、この織物6の左右方向の他方の端部を、上記可動ステージ上に、金属とプラスチックにより固定した。そして、可動ステージを0.1mm刻みで固定台から離間する方向に1mmまで往復移動させた。このような状態でのヘテロコア光ファイバ1の光損失を検出装置10を用いて計測した。
【0125】
図14の線Cに、かかる検証試験による測定データを示している。
【0126】
図14の線Cに示すように、織物6の左右方向の伸長量に拘わらずヘテロコア光ファイバ1の光損失は同じであった。これは、織物6が左右方向に伸長又は収縮しても、縦糸は伸長又は収縮しないので、これと接触する光ファイバ組込み撚糸4内のヘテロコア光ファイバ1のヘテロコア部1aの湾曲度合も同じであり、光損失が変化しなかったためであると考えられる。
【0127】
(素材による伸縮感度)
素材の違いによる変形感受性織物100Aの伸縮感度を検証するための検証試験について説明する。
【0128】
糸2の素材を変更して、上記した光ファイバ組込み撚糸4を作製した。そして、これら各素材ごとに、上記伸縮特性を検証するための検証試験を、織物6を上下方向に伸長させる場合について行った。
【0129】
図14の線A,Bに示すように、糸2が直径が2mmの毛糸である場合には、変位量1mmにおけるヘテロコア光ファイバ1の光損失の相対的な増加は約0.2dBであった。
【0130】
糸2が綿からなり直径0.7mmの綿糸である場合には、変位量1mmにおけるヘテロコア光ファイバ1の光損失の相対的な増加は約1.31dBであった。
【0131】
糸2が絹からなり直径0.7mmの絹糸である場合には、変位量0.5mmにおけるヘテロコア光ファイバ1の光損失の相対的な増加は約0.88dBであった。
【0132】
糸2がポリエステルからなり直径0.5mmのポリエステル糸である場合には、変位量1mmにおけるヘテロコア光ファイバ1の光損失の相対的な増加は約1.29dBであった。
【0133】
これらの結果から、糸2の素材が硬いほど伸縮感度が増加することが判った。
【0134】
[変形態様について]
次に、本発明の変形態様について説明する。
【0135】
上記第1及び第2実施形態に示した変形感受性織物100,100Aにおいては、ヘテロコア光ファイバ1又は光ファイバ組込み撚糸4を縦糸又は横糸として織り込んだ織物3,6によって構成されている場合について説明した。しかし、本発明の光ファイバを組み込んだ変形感受性生地はこれに限定されない。
【0136】
例えば、本発明の光ファイバを組み込んだ変形感受性生地は、ヘテロコア光ファイバ1又は光ファイバ組込み撚糸4を糸2と共に編み込んだ編物として構成してもよい。編み方は、例えば平編やゴム編であるが、これらに限定されない。
【0137】
また、織物3,6又は編物の表面に被覆層を備えていてもよい。例えば、服飾などで使用されるビニール、ポリウレタンなどの素材からなる層を被覆層とすることができる。これにより、被覆層に応じた効果を織物3,6又は編物に与えることが可能となる。
【0138】
さらに、上記第1及び第2実施形態に示した変形感受性織物100,100Aにおいては、ヘテロコア部1aを有するヘテロコア光ファイバ1を用いて構成されている。ただし、本発明の光ファイバを組み込んだ変形感受性生地は、光透過部の湾曲度合に応じて、比較的高い相関性で光の伝送特性が変化し得るものであれば、ヘテロコア光ファイバ1以外の光ファイバを使用することもできる。
【0139】
例えば、ヘテロコア光ファイバ1以外の光ファイバとして、長周期光ファイバグレーティングを使用することもできる。この場合、光ファイバの湾曲度合に応じて共鳴波長のシフトを生じるので、光ファイバにおける伝送光のスペクトルに基づいて、光ファイバの湾曲度合を検知することが可能である。