【解決手段】貴金属線材11を覆って焼結させた金属酸化物を主成分とし、被検知ガスと接触するガス感応部12を設けたガス検知素子10を有する水素ガスセンサXにおいて、電極である貴金属線材11の表面に、水素ガスを透過しない水素不透過部13を設けた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載のセンサは、SiO
2の薄膜を通過した水素分子は、当該薄膜が無い場合と比べて雰囲気中に抜け難くなるため、ガス検知後も暫く水素ガスの感度が残る虞があった。また、ガス検知後において、ガス感応部に酸素ガスが侵入することで迅速に応答復帰するが、ガス感応部の表面にSiO
2の薄膜を形成することで酸素ガスが侵入し難くなる。このようにガス感応部に対して、水素ガスの抜け難さおよび酸素ガスの侵入し難さが起こることでセンサの応答復帰が遅れる虞があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、応答復帰が迅速な水素ガスセンサを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る水素ガスセンサは、貴金属線材を覆って焼結させた金属酸化物を主成分とし、被検知ガスと接触するガス感応部を設けたガス検知素子を有する水素ガスセンサであって、その第一特徴構成は、電極である貴金属線材の表面に、水素ガスを透過しない水素不透過部を設けた点にある。
【0007】
本構成によれば、電極である貴金属線材の表面に水素不透過部を設けることで、貴金属線材の電極としてのガス検知活性を低下させることができる。即ち、貴金属線材の表面に水素不透過部を設けると、被検知ガスとして最も径の小さい水素分子や他のメタンなどの被検知ガスを貴金属線材の側に透過させないようにすることができる。このとき、水素ガスやメタンなどの被検知ガスに対するガス検知活性は低下する。しかし、水素ガスは最も燃焼し易い(反応し易い)ガスであるため、水素ガスはガス感応部の表面に吸着した酸素と反応してある程度の自由電子が生じるため、水素ガスに対するガス検知活性は残ることとなる。そのため、本発明の水素ガスセンサは、水素ガス選択性センサとなる。
【0008】
また、本発明の水素ガスセンサは、特許文献1の水素ガス選択性センサのようにガス感応部の表面に水素分子のみを通過させる燃焼非活性の薄膜を形成したものではないため、ガス検知後において、水素ガスはガス感応部から抜け易くなり、かつ、ガス感応部に酸素ガスが侵入し易くなる。従って、本発明の水素ガスセンサは、ガス感応部において、水素ガスの抜け易さおよび酸素ガスの侵入し易さが起こることでセンサの応答復帰が迅速となる。
【0009】
本発明に係る水素ガスセンサの第二特徴構成は、前記貴金属線材が白金を含有し、前記水素不透過部をシロキサン結合を有するシリカ層で構成した点にある。
【0010】
本構成によれば、触媒活性の高い白金を貴金属線材が含有することで、センサの水素ガス選択性が向上する。また、水素不透過部を、例えばシロキサン結合を有するシリコン化合物を原料に用いて層を形成したシリカ層で構成することで、貴金属線材の表面に化学蒸着等の手法で水素不透過部を容易に形成することができる。
【0011】
本発明に係る水素ガスセンサの第三特徴構成は、前記水素不透過部の表面が、電極反応の場である三相界面となる点にある。
【0012】
本構成によれば、水素不透過部の表面付近に三相界面が形成されることにより、当該三相界面が形成される領域が安定化することで、ガスセンサにおける水素ガス検知性能にバラつきが発生し難くなる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示したように、本発明の水素ガスセンサXは、貴金属線材11を覆って焼結させた金属酸化物を主成分とし、被検知ガスと接触するガス感応部12を設けたガス検知素子10を有する水素ガスセンサXにおいて、電極である貴金属線材11の表面に、水素ガスを透過しない水素不透過部13を設けてある。
【0015】
本実施形態では、ガス感応部12を被支持基板部14に形成し、当該被支持基板部14をMEMS技術により形成してある態様について説明する。
【0016】
即ち、ガス検知素子10は、ガス感応部12を設けた被支持基板部14が支持基板部15に支持してある。これら被支持基板部14・支持基板部15は1つの部材で構成してあり、別のSi基材16に取り付けてある。
【0017】
被支持基板部14の上には絶縁膜17が形成してあり、検出電極である貴金属線材11・ガス感応部12が積層された積層体Aを形成してある。本実施形態の貴金属線材11はヒータ兼用とした場合について説明する。
【0018】
尚、被支持基板部14が絶縁膜の機能を有する場合は、当該絶縁膜17は設けなくてもよい。積層体Aのうち、ガス感応部12を除いた各構成はMEMS技術を利用して作製してある。MEMS技術は、超微小構造の電子機器システムの製造技術である。当該技術により微細な回路の加工を行うことができる。積層体Aは、MEMS技術を利用して公知の方法により形成できる。
【0019】
貴金属線材11は白金を含有する態様、例えば白金や白金−ロジウム合金等の貴金属線材を使用することができるが、これらに限定されるものではない。ガス感応部12は、酸化インジウム・酸化スズ等の金属酸化物を主成分とする金属酸化物半導体を使用することができるが、これらに限定されるものではない。本発明の水素ガスセンサXは、ガス検知素子10として、上記貴金属線材11に、上記金属酸化物を主成分とする金属酸化物半導体を塗布して覆い、乾燥後焼結成形してあるガス感応部12を備えた基板型半導体式センサや熱線型半導体式センサなどが使用できる。
【0020】
本発明の水素ガスセンサXは、貴金属線材11の表面に、水素ガスを透過しない水素不透過部13を設けてある。当該水素不透過部13は、水素分子を透過しない態様であり、かつ導通が図れる態様であればよい。即ち、水素不透過部13は、水素分子を透過しない程度の微細な孔を有する態様の緻密な層とすることが可能である。このような水素不透過部13は、シロキサン結合を有するシリカ層で構成することができるが、これに限定されるものではない。
【0021】
シロキサン結合を有するシリカ層は、貴金属線材11の表面に、例えばシロキサン結合を有するシリコン化合物を原料に用いて化学蒸着などの公知の手法によって層を形成することが可能である。このように層を形成することで、スパッタリングによって製膜したものと異なり、シリコン化合物が有するシロキサン結合から結合態様が変性したシリカ層とすることができる。化学蒸着は、例えば以下の手法によって行うことが可能である。
【0022】
ガス感応部12を除いた各構成をMEMS技術を利用して作製し、珪素のシロキサン化合物の一つであるヘキサメチルジシロキサン(以後HMDSと呼ぶ)の飽和蒸気圧中(30〜35℃、約7〜9vol%)の環境において加熱する。加熱は、貴金属線材11に電流を流通させ、ジュール熱を発生させることにより貴金属線材11がヘキサメチルジシロキサンの分解温度以上になるように調整する。コイルのジュール熱で約500〜550℃に加熱し、貴金属線材11の表面で所定時間(約1〜2時間)熱分解して貴金属線材11の表面に緻密なシロキサン結合を有するシリカ層を蒸着形成する。
【0023】
シリカ層を形成するため、シロキサン結合を有するシリコン化合物であれば特に限定されるものではなく、HMDSの他に、ハロシラン(SiXx H4-x )、アルキルシラン(Rx SiH4-x )、アルキルハロシラン(Rx SiX4-x )、シリルアルコキシド(RO)x Si(OH)4-x (ただしXはハロゲン、Rはアルキル基であり、xは1〜4の整数であり、X、Rともに複数種混在してもかまわない)等、他のケイ素化合物を用いてもよい。
【0024】
これにより、貴金属線材11の表面には極めて薄い燃焼非活性なシロキサン結合を有するシリカ層を形成することができる。当該シロキサン結合を有するシリカ層は、水素分子を透過しない態様であり、かつ導通が図れるものとなる。
【0025】
貴金属線材11の表面に形成された水素不透過部13において、その表面付近は、電極反応の場である三相界面となっている。即ち、水素不透過部13は水素分子を透過しない程度の微細な孔を有するため、水素不透過部13の表面付近は、触媒金属(貴金属線材11)、固体化合物半導体(ガス感応部12)、気体の三相界面が形成される。
【0026】
このように水素不透過部13の表面付近に三相界面が形成されることにより、当該三相界面が形成される領域が安定化することで、ガスセンサにおける水素ガス検知性能にバラつきが発生し難くなる。
【0027】
本発明の水素ガスセンサXのように、電極である貴金属線材11の表面に水素不透過部13を設けることで、貴金属線材11の電極としてのガス検知活性を低下させることができる。即ち、貴金属線材11の表面に水素不透過部13を設けると、被検知ガスとして最も径の小さい水素分子や他のメタンなどの被検知ガスを貴金属線材11の側に透過させないようにすることができる。このとき、水素ガスやメタンなどの被検知ガスに対するガス検知活性は低下する。しかし、水素ガスは最も燃焼し易い(反応し易い)ガスであるため、水素ガスはガス感応部12の表面に吸着した酸素と反応してある程度の自由電子が生じるため、水素ガスに対するガス検知活性は残ることとなる。そのため、本発明の水素ガスセンサXは、水素ガス選択性センサとなる。
【0028】
また、本発明の水素ガスセンサXは、ガス感応部12の表面に水素分子のみを通過させる燃焼非活性の薄膜を形成したものではないため、ガス検知後において水素ガスはガス感応部12から抜け易くなり、かつ、ガス感応部12に酸素ガスが侵入し易くなる。従って、本発明の水素ガスセンサXは、ガス感応部12において、水素ガスの抜け易さおよび酸素ガスの侵入し易さが起こることでセンサの応答復帰が迅速となる。
【0029】
〔別実施の形態〕
上述した実施形態では、貴金属線材11はヒータ兼用とした場合について説明した。しかし、これに限定されるものではなく、貴金属線材11およびヒータを別体として構成してもよい。この場合、ヒータは、例えば被支持基板部14の裏側(貴金属線材11とは反対側)に配設するのがよい。
【実施例】
【0030】
〔実施例1〕
本発明の実施例について説明する。
以下の手法により、本発明の水素ガスセンサXを作製した。
ガス感応部12を除いた各構成を公知のMEMS技術を利用して作製し、HMDSの飽和蒸気圧中(30〜35℃、約7〜9vol%)の環境において、貴金属線材11に電流を流通させて500℃で2時間の加熱を行った。このようにして貴金属線材11の表面に緻密なシロキサン結合を有するシリカ層を蒸着形成した後、以下のようにしてガス感応部12を形成した。
【0031】
市販の水酸化インジウム(In(OH)
3)((株)高純度化学研究所社製、純度99.99重量%)の微粉体を、電気炉を用いて900℃で4時間焼成して酸化インジウムの粉体を得た。この酸化インジウムをさらに粉砕して微粉体とし、1.3−ブタンジオール(分散媒)を用いてペースト状にし、シロキサン結合を有するシリカ層を蒸着形成した貴金属線材11を覆って塗布し、乾燥後、貴金属線材11に電流を流通させ、500℃で30分間空気中で焼結し、ガス検知素子10を得た。
【0032】
〔実施例2〕
実施例1で作製したガス検知素子10を有する水素ガスセンサXを使用して、ガス検知を行った。被検知ガスは水素ガス、メタンガスおよびイソブタンガスとした。駆動条件は、400℃、3秒サイクルにて0.05秒の印加電圧パターンとなる間欠駆動で行った。結果を
図2に示した。
【0033】
この結果、水素ガスはガス検知した直後から鋭敏な立ち上がりが確認でき、高濃度となった場合であっても良好な感度を有するものと認められた。一方、メタンガスおよびイソブタンガスは、低濃度から高濃度に至るまで殆ど感度を有しなかった。そのため、本発明の水素ガスセンサXは、水素ガスに対して選択的に感度を有するものと認められた。
【0034】
〔実施例3〕
実施例1で作製したガス検知素子10を有する水素ガスセンサXを使用して、ガス検知後の応答復帰について調べた。比較例として、ガス感応部にシロキサン結合を有するシリカ層を形成したセンサを使用した。当該シロキサン結合を有するシリカ層の形成条件は、実施例1に準じて行った。被検知ガスとして水素ガス3000ppmを検知したのちの応答復帰の状態を確認した。尚、本発明の水素ガスセンサXの駆動条件は、400℃、3秒サイクルにて0.05秒の印加電圧パターンとなる間欠駆動で行い、比較例のセンサの駆動条件は、500℃、3秒サイクルにて0.1秒の印加電圧パターンとなる間欠駆動で行った。本発明の水素ガスセンサXの結果を
図3に示し、比較例のセンサの結果を
図4に示した。
【0035】
この結果、本発明の水素ガスセンサXは、水素ガスの検知後、直ちに応答復帰をするものと認められた。一方、比較例のセンサは、水素ガスの検知後、緩やかに応答復帰するものと認められた。
【0036】
また、本発明の水素ガスセンサXの消費電力は13mW(平均消費電力0.217mW)であり、比較例のセンサの消費電力は34mW(平均消費電力1.13mW)であった。そのため、本発明の水素ガスセンサXは比較例のセンサに比べて低い消費電力で動作が可能であるため、低コストで駆動可能であることが判明した。
【0037】
また、本発明の水素ガスセンサXの動作温度は400℃であったのに対して、比較例のセンサの動作温度は500℃であった。そのため、本発明の水素ガスセンサXは、従来のセンサより低い動作温度で駆動できることが判明した。
【0038】
〔実施例4〕
実施例1で作製したガス検知素子10において、ガス感応部12に触媒を添加した場合に、水素ガスセンサXの感度がどのように変化するかを調べた。添加する触媒はCr(添加割合0.5mol%)とした。被検知ガスおよび駆動条件は実施例2の条件と同様とした。結果を
図5に示した。
【0039】
この結果、本実施例の水素ガスセンサXにおける水素ガスの感度は、良好な立ち上がりが確認でき、高濃度となった場合であっても良好な感度を有するものと認められた。一方、メタンガスおよびイソブタンガスは、低濃度から高濃度に至るまで殆ど感度を有しなかった。
【0040】
このとき、本実施例の水素ガスセンサXにおける水素ガスの感度は、実施例2(
図2)の結果と比べて、鋭敏な立ち上がりは示さなかったものの、水素ガスに対して選択的に感度を有する状態で特性を変化させることができると認められた。
【0041】
尚、添加する触媒はCrに限らず、Mo,Rh,Al,Cu,Sb,Co,Niなどを使用した場合であっても、Crと同様に水素ガスに対して選択的に感度を有する状態で特性を変化させることができた(結果は示さない)。