【解決手段】本発明は、経糸及び緯糸から織成されたワイピング素材5の製造方法において、ポリアミドからなる芯セグメント10及びポリエステルからなる分割セグメント20からなる割繊用糸を経糸及び/又は緯糸として織成し布地を作製する織り工程S1と、布地を処理液中で撹拌処理することにより、ポリエステルを完全に除去して、割繊用糸を芯セグメント10のみからなる割繊糸とする減量脱線状残渣工程S2と、該減量脱線状残渣工程S2で処理された布地を洗浄する洗浄工程S3と、を備え、芯セグメント10の断面が、中心から放射状に延びる多葉形状であり、処理液が、水と金属水酸化物と芳香族アルコールとを含むワイピング素材5の製造方法である。
前記割繊用糸が前記経糸であり、ポリエステルが前記緯糸である場合、単位長さ当たりの前記経糸のポリエステルと、前記緯糸のポリエステルとの重量比が1:1〜3である請求項1又は2に記載のワイピング素材の製造方法。
前記割繊用糸が前記緯糸であり、ポリエステルが前記経糸である場合、単位長さ当たりの前記緯糸のポリエステルと、前記経糸のポリエステルとの重量比が1:1〜3である請求項1又は2に記載のワイピング素材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記特許文献1又は2に記載のワイピングテープにおいては、いわゆる割繊糸を利用しているため、微細な異物を拭き取ることは可能であるものの、塵等を拭き取る際に、割繊糸自体に含まれる線状残渣が分離してハードディスク等に付着するという問題がある。
すなわち、これらのワイピングテープの製造においては、割繊糸を形成するためにアルカリ処理(減量加工)が行われるが、その際に除去されるポリエステルの線状残渣がワイピングテープに残存又は再付着し、その後の洗浄では十分に除去できない。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、拭き取り性に優れると共に、ポリエステルの線状残渣が完全に除去されたワイピング素材の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題を解決するため鋭意検討したところ、減量脱線状残渣工程において、金属水酸化物と芳香族アルコールを併用することにより、意外にも上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0008】
本発明は、(1)経糸及び緯糸から織成されたワイピング素材の製造方法において、ポリアミドからなる芯セグメント及びポリエステルからなる分割セグメントからなる割繊用糸を経糸及び/又は緯糸として織成し布地を作製する織り工程と、布地を処理液中で撹拌処理することにより、ポリエステルを完全に除去して、割繊用糸を芯セグメントのみからなる割繊糸とする減量脱線状残渣工程と、該減量脱線状残渣工程で処理された布地を洗浄する洗浄工程と、を備え、芯セグメントの断面が、中心から放射状に延びる多葉形状であり、処理液が、水と金属水酸化物と芳香族アルコールとを含むものであるワイピング素材の製造方法に存する。
【0009】
本発明は、(2)芳香族アルコールがベンジルアルコールである上記(1)記載のワイピング素材の製造方法に存する。
【0010】
本発明は、(3)織り工程において、割繊用糸が経糸である場合、ポリエステル又はポリアミドを緯糸として用い、割繊用糸が緯糸である場合、ポリエステル又はポリアミドを経糸として用いる上記(1)又は(2)に記載のワイピング素材の製造方法に存する。
【0011】
本発明は、(4)割繊用糸が経糸であり、ポリエステルが緯糸である場合、単位長さ当たりの経糸のポリエステルと、緯糸のポリエステルとの重量比が1:1〜3である上記(1)又は(2)に記載のワイピング素材の製造方法に存する。
【0012】
本発明は、(5)割繊用糸が緯糸であり、ポリエステルが経糸である場合、単位長さ当たりの緯糸のポリエステルと、経糸のポリエステルとの重量比が1:1〜3である上記(1)又は(2)に記載のワイピング素材の製造方法に存する。
【0013】
本発明は、(6)処理液が、水に金属水酸化物を溶解させた後、芳香族アルコールを添加したものである上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載のワイピング素材の製造方法に存する。
【0014】
本発明は、(7)減量脱線状残渣工程における浴比が1:15〜30であり、減量率が52〜60%であり、処理液全量に対する金属水酸化物の配合割合が3〜3.5重量%であり、処理液全量に対する芳香族アルコールの配合割合が3〜4重量%である上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載のワイピング素材の製造方法に存する。
【発明の効果】
【0015】
本発明のワイピング素材の製造方法においては、上述した、織り工程、減量脱線状残渣工程及び洗浄工程を備え、減量脱線状残渣工程において、従来の金属水酸化物に加え、芳香族アルコールを用いることにより、拭き取り性に優れると共に、ポリエステルの線状残渣が完全に除去されたワイピング素材を製造することが可能となる。
このとき、芳香族アルコールはベンジルアルコールであることが好ましい。
【0016】
減量脱線状残渣工程において、芳香族アルコールを用いることにより、ポリエステルの線状残渣を完全に除去できる理由については定かではないが、以下のように推測される。
すなわち、減量脱線状残渣工程において、上記芳香族アルコールが、ポリアミドの収縮を促進させるため、ポリアミドとポリエステルとで収縮差が発生し、ポリエステルを効果的に分割させることができる。
また、ポリエステルのエステル部位がアルカリ成分により切断されると、芳香環を有する断片が残存することになる。
ところが、上記芳香族アルコールは、芳香環を有するため、この芳香環を有する断片と親和性があり、また、アルコールであるため、水に対する親和性も有する。
このことから、上記芳香族アルコールは、いわゆる相関移動触媒のような働きをして、残存する芳香環を有する断片をワイピング素材から取り出して、水に運ぶ役割を果たすと考えられる。なお、理由はこれに限定されない。
このことにより、得られるワイピング素材においては、芯セグメントが、放射状に延びる葉部同士の間に分割セグメントが全く残存しないエッジの効いたシャープな多葉形状となるため、拭き取り性も向上することとなる。
【0017】
本発明のワイピング素材の製造方法においては、織り工程において、割繊用糸が経糸である場合、レギュラー糸であるポリエステル又はポリアミドを緯糸として用い、割繊用糸が緯糸である場合、レギュラー糸であるポリエステル又はポリアミドを経糸として用いることにより、拭き取り性に優れるだけでなく、強度にも優れるものとなる。すなわち、割繊用糸とレギュラー糸とを混合して経糸又は緯糸とせずに、それぞれ単独で経糸又は緯糸とすることが好ましい。
また、拭き取る方向によって、拭き取りの精度を変えることができる。
【0018】
本発明のワイピング素材の製造方法においては、割繊用糸が経糸であり、レギュラー糸であるポリエステルが緯糸である場合、単位長さ当たりの経糸のポリエステルと、緯糸のポリエステルとの重量比が1:1〜3であると、経糸のポリエステルを完全に除去したとしても、緯糸のポリエステルを十分な強度を有する状態で残存させることができる。
同様に、割繊用糸が緯糸であり、レギュラー糸であるポリエステルが経糸である場合、単位長さ当たりの緯糸のポリエステルと、経糸のポリエステルとの重量比が1:1〜3であると、緯糸のポリエステルを完全に除去したとしても、経糸のポリエステルを十分な強度を有する状態で残存させることができる。
【0019】
本発明のワイピング素材の製造方法においては、処理液が、水に金属水酸化物を溶解させた後、芳香族アルコールを添加したものである場合、芳香族アルコールを処理液中に比較的均一に分散させることができる。
ちなみに、芳香族アルコールを添加した後に、金属水酸化物を加えると、芳香族アルコールの分散性が悪くなる傾向にある。
【0020】
本発明のワイピング素材の製造方法においては、減量脱線状残渣工程における浴比が1:15〜30であり、減量率が52〜60%であり、処理液全量に対する金属水酸化物の配合割合が3〜3.5重量%であり、処理液全量に対する芳香族アルコールの配合割合が3〜4重量%である場合、ポリエステルの線状残渣を完全且つ確実に除去することができ、拭き取り性が確実に向上するワイピング素材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。更に、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0023】
本発明に係るワイピング素材の製造方法において、ワイピング素材は、経糸及び緯糸から織成された布地からなるワイピングテープやワイピングクロス等を意味する。
図1は、本発明に係るワイピング素材の製造方法の一実施形態を示すフローチャートである。
図1に示すように、本実施形態に係るワイピング素材の製造方法においては、経糸及び緯糸を織成し布地を作製する織り工程と、布地を処理液中で撹拌処理する減量脱線状残渣工程と、該減量脱線状残渣工程で処理された布地を洗浄する洗浄工程と、を備える。
【0024】
以下、各工程について更に詳細に説明する。
(織り工程)
織り工程S1は、経糸及び緯糸を織成し布地を作製する工程である。
かかる布地の組織は、特に限定されず、平織、綾織、朱子織等を適宜採用することができる。
【0025】
織り工程S1においては、割繊用糸を緯糸とし、レギュラー糸を経糸として用いる。すなわち、織り工程S1は、割繊用糸を緯糸として用いて布地を作製する工程である。なお、レギュラー糸とは、通常用いられる織糸のことである。
ここで、割繊用糸及びレギュラー糸は、マルチフィラメントが好適に用いられる。
また、割繊用糸及びレギュラー糸には、仮撚り加工等が施されていてもよい。
【0026】
図2の(a)は、本実施形態に係るワイピング素材の製造方法に用いられる割繊用糸(緯糸)を長手方向とは垂直に切断した拡大断面図であり、(b)は、その斜視図である。
図2の(a)及び(b)に示すように、割繊用糸1は、複数の葉部10aが中心から放射状に延びる多葉形状の芯セグメント10と、隣合う葉部10a同士の間に充填された状態の分割セグメント20とからなる。
すなわち、割繊用糸1は、後述する減量脱線状残渣工程で分割セグメント20を除去することにより、芯セグメント10のみからなる割繊糸に変わる。
なお、割繊用糸1は、公知の割繊用紡糸口金を用い、異なるポリマーを繊維軸方向に数区画に分割しながら配向することにより得られる。
【0027】
芯セグメント10としては、ポリアミド(以下便宜的に「第1ポリアミド」という。)が用いられる。より具体的には、第1ポリアミドとしては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン4,6等が挙げられる。
そして、分割セグメント20としては、ポリエステル(以下便宜的に「第1ポリエステル」という。)が用いられる。より具体的には、第1ポリエステルとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等が挙げられる。
【0028】
割繊用糸1において、単位長さ当たりの第1ポリアミドと、第1ポリエステルとの重量比は、1:1〜4であることが好ましい。
第1ポリアミドの重量1に対する第1ポリエステルの重量が1未満であると、第1ポリアミドの重量1に対する第1ポリエステルの重量が上記範囲内にある場合と比較して、第1ポリアミドの芯セグメント10が太くなるため、拭き取り効果が低下する欠点があり、第1ポリアミドの重量1に対する第1ポリエステルの重量が4を超えると、第1ポリアミドの重量1に対する第1ポリエステルの重量が上記範囲内にある場合と比較して、第1ポリアミドの芯セグメント10が細くなるため、割繊糸の強度が不十分となる恐れがある。
【0029】
レギュラー糸は、ポリアミド(以下便宜的に「第2ポリアミド」という。)又はポリエステル(以下便宜的に「第2ポリエステル」という。)からなる。
なお、第2ポリアミドは、上述した第2ポリアミドと同義であり、第2ポリエステルは、上述した第1ポリエステルと同義である。
【0030】
レギュラー糸が第2ポリアミドである場合、第2ポリアミドは、第1ポリアミドと同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。
このときの、単位長さ当たりの第1ポリアミドと、第2ポリアミドとの重量比は、1:2〜5であることが好ましい。
第1ポリアミドの重量1に対する第2ポリアミドの重量が2未満であると、第1ポリアミドの重量1に対する第2ポリアミドの重量が上記範囲内にある場合と比較して、第1ポリアミドの芯セグメント10が太くなるため、拭き取り効果が低下する欠点があり、第1ポリアミドの重量1に対する第2ポリアミドの重量が5を超えると、第1ポリアミドの重量1に対する第2ポリアミドの重量が上記範囲内にある場合と比較して、第1ポリアミドの芯セグメント10が細くなるため、割繊糸の強度が不十分となる恐れがあり、また、第2ポリアミドが太くなるため、第1ポリアミドによる拭き取り効果を阻害する恐れがある。
【0031】
レギュラー糸が第2ポリエステル場合、第2ポリエステルは、第1ポリエステルと同じ材質であってもよく、異なる材質であってもよい。
このときの、単位長さ当たりの第1ポリエステルと、第2ポリエステルとの重量比は、1:1〜3であることが好ましい。この場合、第1ポリエステルを完全に除去したとしても、第2ポリエステルを十分な強度を有する状態で残存させることができる。なお、後述するように、減量脱線状残渣工程S2においては、芳香族アルコールが第1ポリアミドに浸透し、当該第1ポリアミドに近接する第1ポリエステルを優先的に分解することになるので、上記重量比が仮に1:1であったとしても、第1ポリエステルを完全に分解させ、第2ポリエステルを十分な強度を有する状態で残存させることができる。
第1ポリエステルの重量1に対する第2ポリエステルの重量が1未満であると、第1ポリエステルの重量1に対する第2ポリエステルの重量が上記範囲内にある場合と比較して、後述する減量脱線状残渣工程において、第1ポリエステルを完全に除去する際に、第2ポリエステルの減量も促進され、レギュラー糸が強度不足となる恐れがあり、第1ポリエステルの重量1に対する第2ポリエステルの重量が3を超えると、第1ポリエステルの重量1に対する第2ポリエステルの重量が上記範囲内にある場合と比較して、ポリエステルの分解の効率が悪くなり、時間を要するという欠点がある。
【0032】
(減量脱線状残渣工程)
図1に戻り、減量脱線状残渣工程S2は、織り工程S1で得られた布地を処理液中で撹拌処理することにより、第1ポリエステルなる分割セグメント20を完全に除去して、割繊用糸を第1ポリアミドからなる芯セグメント10のみからなる割繊糸とする工程である。
すなわち、減量脱線状残渣工程S2においては、エステル結合を有する第1ポリエステルが分解されることになる。なお、レギュラー糸が第2ポリエステルである場合、当該第2ポリエステルも同時に一部が分解されることになるが、上述したように、第2ポリエステルの重量比を調整することで、十分な強度を有する状態で第2ポリエステルを残存させることができる。
【0033】
処理液は、水と金属水酸化物と芳香族アルコールとを含む。なお、処理液には、公知のキレート剤、消泡剤、精練剤等の処理助剤が含まれていてもよい。
このように、処理液が芳香族アルコールを含むことにより、従来の減量工程とは異なり、ポリエステルの線状残渣が完全に除去されるので、拭き取り性に優れたワイピング素材とすることが可能となる。
【0034】
金属水酸化物としては、公知の水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等が挙げられる。
芳香族アルコールとしては、ベンジルアルコール、シンナミルアルコール、3−ニトロベンジルアルコール、サリチルアルコール、バニリルアルコール、ベラトリルアルコール、シナピルアルコール、ジフェニルメタノール、エチルマルトール、トリプトフォール等が挙げられる。
これらの中でも、芳香族アルコールは、第1ポリアミドへの浸透性、第1ポリエステルの線状残渣との親和性及び汎用性の観点から、ベンジルアルコールであることが好ましい。
【0035】
このとき、処理液は、水に金属水酸化物を溶解させた後、芳香族アルコールを添加することにより作成される。これにより、芳香族アルコールを、処理液中でゲル化させずに、比較的均一に水中で分散させることが可能となる。
その結果、織り工程S1で得られた布地に対して、より均一且つ効率良く第1ポリエステルを除去することができる。
【0036】
減量脱線状残渣工程S2において、織り工程S1で得られた布地の重量に対する処理液の重量(浴比)が1:15〜30であることが好ましい。
浴比が1:15未満であると、浴比が上記範囲内にある場合と比較して、減量ムラが生じる恐れがあり、浴比が1:30を超えると、浴比が上記範囲内にある場合と比較して、減量の進行に時間がかかるという欠点がある。
【0037】
減量脱線状残渣工程S2において、減量率は52〜60%であることが好ましい。すなわち、減量率がこの範囲となるように、処理温度及び処理時間が設定される。なお、処理温度が高くなるほど減量が進行し、処理時間が長くなるほど減量が進行する。
減量率が52%未満であると、減量率が上記範囲内にある場合と比較して、第1ポリエステルの線状残渣が僅かに残存する場合があり、減量率が60%を超えると、減量率が上記範囲内にある場合と比較して、レギュラー糸が第2ポリエステルである場合、レギュラー糸が必要以上に減量され、その強度が低下するという欠点がある。
【0038】
処理液において、当該処理液全量に対する金属水酸化物の配合割合は、3〜3.5重量%であることが好ましい。
金属水酸化物の配合割合が3重量%未満であると、金属水酸化物の配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、減量が十分に進まない場合があり、金属水酸化物の配合割合が3.5重量%を超えると、金属水酸化物の配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、投入量が多くなるため、溶解に時間がかかるという欠点がある。
【0039】
処理液において、当該処理液全量に対する芳香族アルコールの配合割合は、3〜4重量%であることが好ましい。
芳香族アルコールの配合割合が3重量%未満であると、芳香族アルコールの配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、第1ポリエステルの線状残渣を完全に除去できない場合があり、芳香族アルコールの配合割合が4重量%を超えると、芳香族アルコールの配合割合が上記範囲内にある場合と比較して、芳香族アルコールを処理液中で均一に分散させることが困難であり、経時的に分離する恐れもある。
【0040】
減量脱線状残渣工程S2においては、通常、液流染色機が用いられる。この場合、処理液が常に流動して撹拌された状態となるため、布地に対して、より均一且つ効率良く減量脱線状残渣加工を施すことが可能となる。
【0041】
(洗浄工程)
洗浄工程S3は、減量脱線状残渣工程S2で処理された布地を洗浄する工程である。
なお、かかる洗浄工程S3は、公知の方法で行えばよい。これにより、付着した金属水酸化物及び芳香族アルコールを除去する。
こうして、本実施形態に係るワイピング素材が得られる。
【0042】
図3の(a)は、本実施形態に係るワイピング素材の製造方法により得られるワイピング素材の緯糸(割繊糸)を長手方向とは垂直に切断した拡大断面図であり、(b)は、その斜視図である。
図3の(a)及び(b)に示すように、ワイピング素材は、緯糸の断面が、多葉形状となっている。すなわち、葉部10aの先端が尖っており、隣合う葉部10a同士の間の空隙の根元側の角度θは、断面視で鋭角となっている。
このため、ワイピング素材を、例えば、緯糸とは垂直方向に動かして拭くことにより、油膜や塵等の微細な異物を効率良く除去することができる。すなわち、拭き取る方向によって、拭き取りの精度を変えることが可能となっている。
【0043】
図4の(a)は、従来のワイピング素材の製造方法により得られるワイピング素材の緯糸を長手方向とは垂直に切断した拡大断面図であり、(b)は、その斜視図である。
図4の(a)及び(b)に示すように、従来のワイピング素材においては、葉部間の線状残渣7を完全に除去できないため、仮に葉部同士の間の空隙の根元側の角度が鋭角であったとしても、十分な拭き取り効果は得られない。
【0044】
図5は、本実施形態に係るワイピング素材の製造方法により得られるワイピング素材を示す斜視図である。
図5に示すように、ワイピング素材5は、多数の繊維を薄く広い板状に加工した布地であり、割繊糸とレギュラー糸とを経緯に組み合わせて作った織物からなる。
【0045】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されるものではない。
【0046】
例えば、本実施形態に係るワイピング素材の製造方法においては、割繊用糸1を緯糸とし、レギュラー糸を経糸として用いているが、レギュラー糸を緯糸とし、割繊用糸1を経糸として用いてもよい。割繊用糸1とレギュラー糸とを混合して経糸又は緯糸とせずに、それぞれ単独で経糸又は緯糸とすることにより、拭き取り性に優れるだけでなく、強度にも優れるものとなる。
また、拭き取り性をより向上させる観点から、割繊用糸1を経糸及び緯糸に用いてもよい。
【0047】
本実施形態に係るワイピング素材の製造方法により得られるワイピング素材は、織物からなるとしているが、編物とすることも可能である。すなわち、織り工程S1の代わりに割繊用糸1を用いた編み工程を行い、その後は同様に、減量脱線状残渣工程S2、洗浄工程S3を行えばよい。
【0048】
本実施形態に係るワイピング素材の製造方法の減量脱線状残渣工程S2においては、液流染色機が用いられているが、液流染色機は必ずしも必須ではない。
例えば、液流染色機の代わりに、ドラムタイプ、ワッシャータイプ、ジッカータイプの染色機等を用いてもよい。
【実施例】
【0049】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0050】
まず、経糸として、ポリアミドからなるレギュラー糸(36フィラメント、繊度84dtex)を用い、緯糸として、割繊用糸(ポリアミドからなる芯セグメント25%、ポリエステルからなる分割セグメント75%、18フィラメント、繊度56dtex)を用いて、織成し、布地を形成した(織り工程)。
【0051】
次に、水に、水酸化ナトリウムを溶解させ、その後、添加剤として、公知のキレート剤(一方社油脂工業社製、商品名:ビスノールAD)1gを加えた。
この混合液と布地とを液流染色機に投入して、液流染色機を稼働させると共に、混合液中にベンジルアルコールを添加した。
そして、以下に示す条件で、減量脱線状残渣加工を行った(減量脱線状残渣工程)。
【0052】
(評価1)
まず、実施例1〜4において、減量脱線状残渣加工における浴比の影響について検討した。
処理液中における水酸化ナトリウムの濃度を3重量%とし、ベンジルアルコールの濃度を3重量%とし、表1に示す浴比で、95℃で70分間減量脱線状残渣加工を行い、それによる布地の減量率を測定した。
また、ポリエステルが残存しているか否かを電子顕微鏡にて観察し評価した。
この評価を繰り返し行った結果、実施例4の浴比では、ポリエステルの残存がわずかに認められる場合もあった。これは加工時間が不十分であるためと考えられる。
また、実施例1の浴比では、ポリエステルの残存は、認められなかったが、減量ムラがわずかに認められた。
【0053】
(表1)
【0054】
(評価2)
次に、実施例5〜13及び比較例1,2において、減量脱線状残渣加工における水酸化ナトリウムとベンジルアルコール(表中「BA」と略す。)の濃度の影響について検討した。
まず、浴比を1:30とし、表2に示す濃度で、95℃で70分間減量脱線状残渣加工を行った。
そして、それによる布地の減量率を測定し、また、ポリエステルが残存しているか否かを電子顕微鏡にて観察し評価した。
この評価を繰り返し行った結果、実施例5,6,10及び11では、ポリエステルの残存がわずかに認められる場合もあった。
また、実施例9では、ポリエステルの残存は認められなかったが、素材自体の強度が低下していた。
【0055】
(表2)
【0056】
表1の結果より、減量脱線状残渣工程における浴比は、1:20〜30のときが、強度を維持でき、且つ、ポリエステルを完全に除去するという観点から、最も優れていることがわかった。
また、表2の結果から、水酸化ナトリウムの濃度が3〜3.5重量%、ベンジルアルコールの濃度が3〜4重量%であることが最も優れていることがわかった。
なお、ベンジルアルコールの代わりに、エチルマルトールを用いた場合も同様の結果であった。
【0057】
最後に、減量脱線状残渣工程を施して得られた実施例7の布地を、純水、温水、必要に応じて界面活性剤を添加した洗浄液等で洗浄し(洗浄工程)、ワイピング素材を得た。
図6の(a)に得られたワイピング素材の断面の電子顕微鏡写真を示す。なお、
図6の(b)に減量が不十分の状態のワイピング素材の断面の電子顕微鏡写真を示す。