(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-168234(P2017-168234A)
(43)【公開日】2017年9月21日
(54)【発明の名称】電解液及びそれを用いたアルミニウム二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0568 20100101AFI20170825BHJP
H01M 10/054 20100101ALI20170825BHJP
H01M 4/46 20060101ALI20170825BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20170825BHJP
【FI】
H01M10/0568
H01M10/054
H01M4/46
H01M10/0567
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-50367(P2016-50367)
(22)【出願日】2016年3月15日
(71)【出願人】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】知久 昌信
(72)【発明者】
【氏名】松村 祥太
(72)【発明者】
【氏名】井上 博史
【テーマコード(参考)】
5H029
5H050
【Fターム(参考)】
5H029AJ01
5H029AK00
5H029AL11
5H029AM00
5H029AM09
5H050AA01
5H050BA15
5H050CA00
5H050CB11
(57)【要約】
【課題】安全面で問題のある有機溶媒や塩化物イオンCl
−を用いることなく高電圧を出力することが可能な電解液を提供する。
【解決手段】負極がアルミニウム又はアルミニウム化合物である二次電池に用いられる電解液であって、アルミニウムビストリフルオロメタンスルホンイミドと、アミドとを含むことにより、有機溶媒や塩化物イオンCl
−を用いることなく高電圧の出力を可能にして、安全で有用なアルミニウム二次電池等の電解液を実現する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
負極がアルミニウム又はアルミニウム化合物である二次電池に用いられる電解液であって、
アルミニウムビスペンタフルオロエタンスルホンイミド、アルミニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、アルミニウムビスヘプタフルオロプロパンスルホンイミド及びアルミニウムビスノナフルオロブタンスルホンイミドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、
アミドとを含むことを特徴とする電解液。
【請求項2】
前記アミドは、2級アミドであることを特徴とする請求項1に記載の電解液。
【請求項3】
前記アミドは、2級アミド及び尿素であることを特徴とする請求項1に記載の電解液。
【請求項4】
前記2級アミドは、N−メチルアセトアミドであることを特徴とする請求項2又は請求項3に記載の電解液。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の電解液と、
アルミニウム又はアルミニウム化合物である負極と、
正極とを備えることを特徴とするアルミニウム二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負極がアルミニウムやアルミニウム化合物からなる二次電池に用いられる電解液、及び、その電解液を用いたアルミニウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯用端末機器等に代表される小型の電子機器が広く普及しており、そのさらなる小型化及び軽量化と長寿命化が求められている。これに伴い、電源として小型かつ軽量で高エネルギ密度を得ることが可能な二次電池の開発が進められている。
【0003】
アルミニウムAlの単位体積当たりの理論エネルギ密度は8050Ah/lであり、リチウムLiの約4倍に相当する。したがって、アルミニウムを負極に用いる二次電池、いわゆるアルミニウム二次電池は、単位体積当たりの電流容量が大きく、重量当たりの電流容量も大きく、非常に魅力的である。
【0004】
アルミニウム二次電池では、放電時には、酸化反応により負極であるアルミニウムAlから電解液中にアルミニウムイオンAl
3+が溶出し、正極側へ移動する。そして、正極側ではアルミニウムイオンAl
3+が正極と反応してアルミニウム化合物が生成される。一方、充電時には、これとは逆の反応が起こる。すなわち、還元反応により正極から電解液中にアルミニウムイオンAl
3+が放出されて負極側へ移動し、負極でアルミニウムAlが析出する。
【0005】
このようなアルミニウム二次電池の実現には、電解液の開発が必要不可欠であるが、充電及び放電反応の媒介として機能する電解液の組成については、電池性能に大きな影響を与えることから、様々な検討がなされている。これらの化学反応がスムーズに行われるためには、電解液中を移動するアルミニウムイオンAl
3+が豊富に存在することが重要となる。
【0006】
しかしながら、熱力学的にアルミニウムAlは水素よりも著しく還元されにくいため、水溶液系の電解液を用いてアルミニウムAlを電気化学的かつ可逆的に電析させることは非常に困難である。また、アルミニウムAlは酸素原子と強い親和性を有することから、その表面には強固かつ緻密で絶縁性の高い酸化皮膜が存在する。したがって、放電時におけるアルミニウムイオンAl
3+の均一な溶出は極めて困難となり放電特性が低下する。
【0007】
そこで、アルミニウムイオンAl
3+の生成量を多くすることができ、充電及び放電時のアルミニウムイオンAl
3+の移動が速やかに行われ、電池特性が向上する非水電解液が開発されている。具体例としては、塩化アルミニウムAlCl
3等のアルミニウム塩と、ジメチルスルホンやジプロピルスルホン等のアルキルスルホンと、トルエン等の有機溶媒とを含む電解液が挙げられる(例えば特許文献1参照)。
【0008】
また、パーフルオロメチルスルフォニルイミドのアルミニウム塩と、有機溶媒とを含む電解液も開示されている(例えば特許文献2参照)。この場合には、有機溶媒として、PC(プロピレンカーボネート)とDME(ジメトキシエタン)との混合溶媒、AN(アセトニトリル)、THF(テトラヒドロフラン)、EC(エチレンカーボネート)とEMC(エチルメチルカーボネート)との混合溶媒等が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2003−100347号公報
【特許文献2】特開平11−233109号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述したような電解液を用いたアルミニウム二次電池では、充放電時において、アルミニウムイオンAl
3+を電気化学的に効率よく析出及び溶解させることが困難であるため、充分な放電電圧を得ることができなかった。
また、有機溶媒は揮発しやすく引火性が高いため、高温環境下で使用される場合や、過充電、過放電、短絡等が発生した場合等において、安全性を充分に確保することが難しいという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
発明者らは、有機溶媒を用いることなく高電圧を出力可能とする電解液について検討した。上述したような電解液を用いたアルミニウム二次電池では、
図4に示すように、AlCl
4−の酸化反応により電位窓(放電電圧)が約2.0Vに制限されていることがわかった。そこで、電解液の材料として、塩化物イオンCl
−を含まず、酸化されにくいアルミニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(TFSIアニオン)等の特定の化合物に注目した。また、アルミニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド等の特定の化合物と、アミドとを組み合わせることにより、有機溶媒を含まずに常温で液体(常温溶融塩)となることを見出した。常温溶融塩は、常温で液状であるにも拘わらず揮発性が殆どなく、しかも難燃性や不燃性であるため、高温環境下での使用や、過充電、過放電、短絡等が発生した場合時等の安全性に優れている。
【0012】
すなわち、本発明の電解液は、負極がアルミニウム又はアルミニウム化合物である二次電池に用いられる電解液であって、アルミニウムビスペンタフルオロエタンスルホンイミド、アルミニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド、アルミニウムビスヘプタフルオロプロパンスルホンイミド及びアルミニウムビスノナフルオロブタンスルホンイミドからなる群から選択される少なくとも1種の化合物と、アミドとを含むようにしている。
【発明の効果】
【0013】
以上のように、本発明の電解液によれば、有機溶媒や塩化物イオンCl
−を用いることなく高電圧を出力することができ、アルミニウム二次電池等の電解液として有用である。
【0014】
(他の課題を解決するための手段および効果)
また、本発明の電解液において、前記アミドは、2級アミドであるようにしてもよい。
また、本発明の電解液において、前記アミドは、2級アミド及び尿素であるようにしてもよい。
さらに、本発明の電解液において、前記2級アミドは、N−メチルアセトアミドであるようにしてもよい。
【0015】
そして、本発明のアルミニウム二次電池は、上述したような電解液と、アルミニウム又はアルミニウム化合物である負極と、正極とを備えるようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係るコインセルの一例を示す概略構成断面図。
【
図2】実施例1に係るサイクリックボルタモグラムの結果を示すグラフ。
【
図3】比較例1に係るサイクリックボルタモグラムの結果を示すグラフ。
【
図4】比較例2に係るサイクリックボルタモグラムの結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。なお、本発明は、以下に説明するような実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の態様が含まれることはいうまでもない。
【0018】
本発明の電解液は、特定の化合物と、アミドとを含む。
【0019】
上記特定の化合物として、下記化学式(1)で示されるアルミニウムビスフルオロスルホンイミド、下記化学式(1’)で示されるアルミニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(Al(TFSI)
3)、下記化学式(1’’)で示されるアルミニウムビスペンタフルオロエタンスルホンイミド、下記化学式(1’’’)で示されるアルミニウムビスヘプタフルオロプロパンスルホンイミド、下記化学式(1’’’’)アルミニウムビスノナフルオロブタンスルホンイミド等が挙げられ、化学式(1’)で示されるアルミニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(Al(TFSI)
3)が特に好ましい。
Al((FSO
2)
2N)
3 ・・・(1)
Al((CF
3SO
2)
2N)
3 ・・・(1’)
Al((CF
3CF
2SO
2)
2N)
3 ・・・(1’’)
Al((CF
3CF
2CF
2SO
2)
2N)
3 ・・・(1’’’)
Al((CF
3CF
2CF
2CF
2SO
2)
2N)
3 ・・・(1’’’’)
そして、上記特定の化合物は、電解液中において20重量%以上70重量%以下で含まれていることが好ましい。
【0020】
上記アミドは、下記化学式(2)で示されるものである。
R
1CONR
2R
3 ・・・(2)
R
1としては、特に限定されないが、例えば、水素、アミノ基、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
R
2及びR
3としては、特に限定されないが、例えば、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基等が挙げられる。
上記アミドとしては、2級アミドが好ましく、具体的にはN−メチルアセトアミドや尿素等が挙げられ、N−メチルアセトアミドと尿素との組み合わせがより好ましい。
そして、上記アミドは、電解液中において30重量%以上80重量%以下で含まれていることが好ましい。また、その中でも上記N−メチルアセトアミドは、電解液中において45重量%以上75重量%以下で含まれることがより好ましく、上記尿素は、電解液中において5重量%以上35重量%以下で含まれることがより好ましい。
【0021】
また、本発明のアルミニウム二次電池は、本発明に係る電解液と、負極と、正極とを備える。
負極は、アルミニウム又はアルミニウム化合物である。上記アルミニウム化合物としては、例えばAl−Au、Al−Ga、Al−In、Al−Mn、Al−Ni、Al−Pt、Al−Si等が挙げられる。
【0022】
正極については、特に限定されず、公知のアルミニウム二次電池等で使用されている正極を採用できる。
なお、本発明のアルミニウム二次電池は、本発明に係る電解液を用いる他は、公知のアルミニウム二次電池の構成要素を採用することができる。また、電池の形状についても特に限定されるものではなく、例えばコイン型、円筒型、角型、シート型等を採用することができる。
【0023】
ここで、
図1は、本発明に係るコインセルの一例を示す概略構成断面図である。
コインセル(アルミニウム二次電池)10は、モリブデン製の負極ケース12の下面中央部にAl製の負極11が形成され、負極ケース12の周縁部にはポリプロピレン製の絶縁ガスケット13が設けられている。また、絶縁ガスケット13の外周にはモリブデン製の正極ケース15が固定されており、正極ケース15上面中央部にモリブデン製の正極14が形成されている。そして、負極11と正極14との間には、ガラス製の多孔質フィルムからなるセパレータ16が介在しているとともに、本発明に係る電解液17が充填されている。
【実施例】
【0024】
以下に述べる実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0025】
<実施例1>
50重量部のN−メチルアセトアミドと、10重量部の尿素と、40重量部のアルミニウムビストリフルオロメタンスルホンイミド(化学式(1’))とを混合することにより、実施例1に係る電解液を得た。
【0026】
<比較例1>
76重量部のN−メチルアセトアミドと、19重量部の尿素と、5重量部のアルミニウムトリフルオロメタンスルホンイミド(Al(TfO)
3、特定の化合物以外)とを混合することにより、比較例1に係る電解液を得た。
【0027】
<比較例2>
10重量部のジプロピルスルホンと、3重量部のトルエンと、1重量部の塩化アルミニウムAlCl
3とを混合することにより、比較例2に係る電解液を得た。
【0028】
<評価>
実施例1及び比較例1、2に係る電解液を用いて、30℃の恒温槽内においてサイクリックボルタンメトリによりアルミニウムAlの酸化還元反応時に流れる電流iを測定した。なお、作用極としてモリブデン(Mo)板を用い、参照極として銀(Ag)ワイヤを用い、対極としてアルミニウム(Al)板を用いた。また、掃引速度を図中に示した以外は10mv/sとして、参照極の電位(V)に対して作用極の電位(V)を−2.0V以上10V以下の範囲内で変化させた。
【0029】
図2は、実施例1に係るサイクリックボルタモグラムの結果を示すグラフであり、
図3は、比較例1に係るサイクリックボルタモグラムの結果を示すグラフであり、
図4は、比較例2に係るサイクリックボルタモグラムの結果を示すグラフである。
【0030】
図2の下のグラフに示すように、実施例1に係る電解液は、電位窓が広く、8V程度の高電圧に耐えることができた。これは、実施例1に係る電解液が、有機溶媒や塩化物イオンCl
−を含まないことに起因すると考えられる。一方、比較例1に係る電解液では、
図3の下のグラフに示すように電位窓(放電電圧)が2.3V程度に制限され、また、比較例2に係る電解液では、
図4に示すように電位窓(放電電圧)が2V程度に制限される結果となった。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、負極がアルミニウムやアルミニウム化合物であるアルミニウム二次電池に用いられる電解液等に利用することができる。
【符号の説明】
【0032】
10 コインセル(アルミニウム二次電池)
11 負極
12 負極ケース
13 絶縁ガスケット
14 正極
15 正極ケース
16 セパレータ
17 電解液