【解決手段】密閉型二次電池の残容量予測方法において、残容量を予測する時点よりも前の充放電サイクルC1中に密閉型二次電池の変形を検出し、その密閉型二次電池の充放電容量と変形量との関係を表す第1曲線を求めるステップと、所定の基準状態における密閉型二次電池の充放電容量と変形量との関係を表す基準曲線を、前記第1曲線にフィッティング処理して第2曲線L2を求めるステップと、前記充放電サイクルC1より後の充放電サイクルC2中に密閉型二次電池の変形量Tmを検出するステップと、密閉型二次電池の変形量Tmに対応する充放電容量Qmを第2曲線L2に基づいて取得し、第2曲線L2における完全放電状態の充放電容量Qdと充放電容量Qmとの差を残容量Qrとして求めるステップとを備える。
前記基準曲線が、充電深度100(%)を超える満充電状態からの放電容量または充電深度100(%)を超える満充電状態までの充電容量と、前記密閉型二次電池の変形量との関係を表すものである請求項1または2に記載の密閉型二次電池の残容量予測方法。
前記基準曲線を前記第1曲線にフィッティング処理するときに用いた充放電容量の拡大率を、活物質の維持率として取得する請求項1〜3いずれか1項に記載の密閉型二次電池の残容量予測方法。
前記基準曲線を前記第1曲線にフィッティング処理するときに用いた充放電容量のシフト量を、副反応による正負極の容量バランスずれ量として取得する請求項1〜4いずれか1項に記載の密閉型二次電池の残容量予測方法。
前記密閉型二次電池に高分子マトリックス層を貼り付け、前記高分子マトリックス層は、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有したものであり、
その高分子マトリックス層の変形に応じた前記外場の変化を検出することにより、前記密閉型二次電池の変形を検出する請求項1〜5いずれか1項に記載の密閉型二次電池の残容量予測方法。
前記基準曲線が、充電深度100(%)を超える満充電状態からの放電容量または充電深度100(%)を超える満充電状態までの充電容量と、前記密閉型二次電池の変形量との関係を表すものである請求項8または9に記載の密閉型二次電池の残容量予測システム。
前記制御装置が、前記基準曲線を前記第1曲線にフィッティング処理するときに用いた充放電容量の拡大率を、活物質の維持率として取得可能に構成されている請求項8〜10いずれか1項に記載の密閉型二次電池の残容量予測システム。
前記制御装置が、前記基準曲線を前記第1曲線にフィッティング処理するときに用いた充放電容量のシフト量を、副反応による正負極の容量バランスずれ量として取得可能に構成されている請求項8〜11いずれか1項に記載の密閉型二次電池の残容量予測システム。
前記高分子マトリックス層が前記フィラーとしての磁性フィラーを含有しており、前記検出部が前記外場としての磁場の変化を検出可能に構成されている請求項13に記載の密閉型二次電池の残容量予測システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、密閉型二次電池の残容量を簡便且つ高精度に予測できる方法及びシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る密閉型二次電池の残容量予測方法は、密閉型二次電池の残容量予測方法において、残容量を予測する時点よりも前の充放電サイクルC1中に前記密閉型二次電池の変形を検出し、前記密閉型二次電池の充放電容量と変形量との関係を表す第1曲線を求めるステップと、所定の基準状態における前記密閉型二次電池の充放電容量と変形量との関係を表す基準曲線を、前記第1曲線にフィッティング処理して第2曲線を求めるステップと、前記充放電サイクルC1より後の充放電サイクルC2中に前記密閉型二次電池の変形量Tmを検出するステップと、前記密閉型二次電池の変形量Tmに対応する充放電容量Qmを前記第2曲線に基づいて取得し、前記第2曲線における完全放電状態の充放電容量Qdと前記充放電容量Qmとの差を残容量として求めるステップとを備えるものである。
【0009】
この方法では、二次電池の残容量を予測する際、その時点での充放電サイクルC2中に二次電池の変形量Tmを検出する。そして、変形量Tmに対応する充放電容量Qmを第2曲線に基づいて取得し、その第2曲線における完全放電状態の充放電容量Qdと充放電容量Qmとの差によって残容量を予測する。第2曲線は、充放電サイクルC2より前の充放電サイクルC1にて求められた第1曲線に基準曲線をフィッティング処理して得られる。これにより、充放電サイクルの繰り返しによる劣化の影響、具体的には、充放電に寄与する活物質量の減少や、副反応による正負極の容量バランスずれ、二次電池のガス膨れの影響を踏まえて、二次電池の残容量を簡便且つ高精度に予測することができる。
【0010】
前記充放電サイクルC1が前記充放電サイクルC2の直近100サイクル以内にあることが好ましい。残容量の予測精度を高めるうえでは、なるべく充放電サイクルC1が充放電サイクルC2に近いことが好都合であるため、充放電サイクルC1は充放電サイクルC2の直近50サイクル以内がより好ましく、直近10サイクル以内が更に好ましい。充放電サイクルC1が充放電サイクルC2の直前であると特に好ましい。
【0011】
前記基準曲線が、充電深度100(%)を超える満充電状態からの放電容量または充電深度100(%)を超える満充電状態までの充電容量と、前記密閉型二次電池の変形量との関係を表すものであることが好ましい。かかる方法によれば、充放電容量の放電側(
図4のグラフではX軸の正方向)に基準曲線をシフトしてフィッティング処理した場合であっても、それにより求めた第2曲線の値が満充電状態の近傍に存在し得る状態となり、その領域での残容量予測を確保できる。
【0012】
前記基準曲線を前記第1曲線にフィッティング処理するときに用いた充放電容量の拡大率を、活物質の維持率として取得することが好ましい。この充放電容量の拡大率は、基準状態で充放電に使用された活物質量に対する、充放電サイクルC1で充放電に使用された活物質量の割合に相当する。よって、これを指標として、活物質の維持率、即ち充放電に寄与する活物質がどの程度維持されているか(裏を返せば、どの程度の活物質が失活しているか)を把握でき、延いては二次電池の状態をより精度良く知得できる。
【0013】
前記基準曲線を前記第1曲線にフィッティング処理するときに用いた充放電容量のシフト量を、副反応による正負極の容量バランスずれ量として取得することが好ましい。この充放電容量のシフト量は、正極での副反応量(イオンの挿入や脱離以外で使用された電流量)と負極での副反応量との差に相当する。よって、これを指標として、副反応による正負極の容量バランスずれ量を把握でき、延いては二次電池の状態をより精度良く知得できる。
【0014】
前記密閉型二次電池に高分子マトリックス層を貼り付け、前記高分子マトリックス層は、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有したものであり、その高分子マトリックス層の変形に応じた前記外場の変化を検出することにより、前記密閉型二次電池の変形を検出することが好ましい。これによって密閉型二次電池の変形を高感度に検出し、その二次電池の残容量を精度良く予測することができる。
【0015】
上記においては、前記高分子マトリックス層が前記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、前記外場としての磁場の変化を検出することにより、前記密閉型二次電池の変形を検出することが好ましい。これにより、高分子マトリックス層の変形に伴う磁場の変化を配線レスで検出することができる。また、感度領域が広いホール素子を利用できることから、より広範囲にわたって高感度な検出が可能となる。
【0016】
また、本発明に係る密閉型二次電池の残容量予測システムは、密閉型二次電池の残容量予測システムにおいて、前記密閉型二次電池の変形を検出する検出センサと、前記密閉型二次電池の残容量の予測値を算出する制御装置とを備え、前記制御装置が、残容量を予測する時点よりも前の充放電サイクルC1中に前記密閉型二次電池の変形を検出し、前記密閉型二次電池の充放電容量と変形量との関係を表す第1曲線を求め、所定の基準状態における前記密閉型二次電池の充放電容量と変形量との関係を表す基準曲線を、前記第1曲線にフィッティング処理して第2曲線を求め、前記充放電サイクルC1より後の充放電サイクルC2中に前記密閉型二次電池の変形量Tmを検出し、前記密閉型二次電池の変形量Tmに対応する充放電容量Qmを前記第2曲線に基づいて取得し、前記第2曲線における完全放電状態の充放電容量Qdと前記充放電容量Qmとの差を残容量として求めるように構成されているものである。
【0017】
このシステムでは、二次電池の残容量を予測する時点で、その充放電サイクルC2中に二次電池の変形量Tmを検出する。そして、変形量Tmに対応する充放電容量Qmを第2曲線に基づいて取得し、その第2曲線における完全放電状態の充放電容量Qdと充放電容量Qmとの差によって残容量を予測する。第2曲線は、充放電サイクルC2より前の充放電サイクルC1にて求められた第1曲線に基準曲線をフィッティング処理して得られる。そのため、充放電サイクルの繰り返しによる劣化の影響、具体的には、充放電に寄与する活物質量の減少や、副反応による正負極の容量バランスずれ、及び、二次電池のガス膨れの影響を踏まえて、二次電池の残容量を簡便且つ高精度に予測することができる。
【0018】
前記充放電サイクルC1が前記充放電サイクルC2の直近100サイクル以内にあるものが好ましい。残容量の予測精度を高めるうえでは、なるべく充放電サイクルC1が充放電サイクルC2に近いことが好都合であるため、充放電サイクルC1は充放電サイクルC2の直近50サイクル以内がより好ましく、直近10サイクル以内が更に好ましい。充放電サイクルC1が充放電サイクルC2の直前であると特に好ましい。
【0019】
前記基準曲線が、充電深度100(%)を超える満充電状態からの放電容量または充電深度100(%)を超える満充電状態までの充電容量と、前記密閉型二次電池の変形量との関係を表すものであることが好ましい。かかる構成によれば、充放電容量の放電側(
図4のグラフではX軸の正方向)に基準曲線をシフトしてフィッティング処理した場合であっても、それにより求めた第2曲線の値が満充電状態の近傍に存在し得る状態となり、その領域での残容量予測を確保できる。
【0020】
前記制御装置が、前記基準曲線を前記第1曲線にフィッティング処理するときに用いた充放電容量の拡大率を、活物質の維持率として取得可能に構成されていることが好ましい。この充放電容量の拡大率は、基準状態で充放電に使用された活物質量に対する、充放電サイクルC1で充放電に使用された活物質量の割合に相当する。よって、これを指標として、活物質の維持率、即ち充放電に寄与する活物質がどの程度維持されているか(裏を返せば、どの程度の活物質が失活しているか)を把握でき、延いては二次電池の状態をより精度良く知得できる。
【0021】
前記制御装置が、前記基準曲線を前記第1曲線にフィッティング処理するときに用いた充放電容量のシフト量を、副反応による正負極の容量バランスずれ量として取得可能に構成されていることが好ましい。この充放電容量のシフト量は、正極での副反応量と負極での副反応量との差に相当する。よって、これを指標として、副反応による正負極の容量バランスずれ量を把握でき、延いては二次電池の状態をより精度良く知得できる。
【0022】
前記検出センサが、前記密閉型二次電池に貼り付けられる高分子マトリックス層と、検出部とを備え、前記高分子マトリックス層が、その高分子マトリックス層の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有しており、前記検出部が前記外場の変化を検出可能に構成されているものが好ましい。これにより密閉型二次電池の変形を高感度に検出し、密閉型二次電池の劣化を精度良く診断することができる。
【0023】
前記高分子マトリックス層が前記フィラーとしての磁性フィラーを含有しており、前記検出部が前記外場としての磁場の変化を検出可能に構成されているものが好ましい。これにより、高分子マトリックス層の変形に伴う磁場の変化を配線レスで検出することができる。また、感度領域が広いホール素子を検出部として利用できることから、より広範囲にわたって高感度な検出が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0026】
図1は、電気自動車やハイブリッド車といった電動車両に搭載されるシステムを示している。このシステムは、複数の密閉型二次電池2により構成された組電池を筐体内に収容してなる電池モジュール1を備える。本実施形態では、4つの二次電池2が2並列2直列に接続されているが、電池の数や接続形態はこれに限定されない。
図1では電池モジュール1を1つだけ示しているが、実際には複数の電池モジュール1を含んだ電池パックとして装備される。電池パックでは、複数の電池モジュール1が直列に接続され、それらがコントローラなどの諸般の機器と一緒に筐体内に収容される。電池パックの筐体は、車載に適した形状に、例えば車両の床下形状に合わせた形状に形成される。
【0027】
図2に示した二次電池2は、密閉された外装体21の内部に電極群22が収容されたセル(単電池)として構成されている。電極群22は、正極23と負極24がそれらの間にセパレータ25を介して積層または捲回された構造を有し、セパレータ25には電解液が保持されている。本実施形態の二次電池2は、外装体21としてアルミラミネート箔などのラミネートフィルムを用いたラミネート電池であり、具体的には容量1.44Ahのラミネート型リチウムイオン二次電池である。二次電池2は全体として薄型の直方体形状に形成され、X,Y及びZ方向は、それぞれ二次電池2の長さ方向,幅方向及び厚み方向に相当する。また、Z方向は、正極23と負極24の厚み方向でもある。
【0028】
二次電池2には、その二次電池2の変形を検出する検出センサ5が取り付けられている。検出センサ5は、二次電池2に貼り付けられる高分子マトリックス層3と、検出部4とを備える。高分子マトリックス層3は、その高分子マトリックス層3の変形に応じて外場に変化を与えるフィラーを分散させて含有している。本実施形態の高分子マトリックス層3は、柔軟な変形が可能なエラストマー素材によりシート状に形成されている。検出部4は、外場の変化を検出する。二次電池2が膨れて変形すると、それに応じて高分子マトリックス層3が変形し、その高分子マトリックス層3の変形に伴う外場の変化が検出部4により検出される。このようにして、二次電池2の変形を高感度に検出できる。
【0029】
図2の例では、二次電池2の外装体21に高分子マトリックス層3を貼り付けているため、外装体21の変形(主に膨れ)に応じて高分子マトリックス層3を変形させることができる。一方、
図3のように、二次電池2の電極群22に高分子マトリックス層3を貼り付けてもよく、かかる構成によれば、電極群22の変形(主に膨れ)に応じて高分子マトリックス層3を変形させることができる。検出する二次電池2の変形は、外装体21及び電極群22の何れの変形であっても構わない。
【0030】
検出センサ5によって検出した信号は制御装置6に伝達され、これにより二次電池2の変形に関する情報が制御装置6に供給される。制御装置6は、その情報を用いて、具体的には以下のステップ1〜4に基づき、好ましくはステップ5やステップ6も経て、二次電池2の残容量を予測する。二次電池2は、充放電サイクルを繰り返すことによって劣化し、その劣化の進行に伴って残容量の正確な把握が難しくなる。ここで、1サイクルの充放電とは、例えば、電池を使用し始めた時点から、充電器に接続して充電が終了する時点までを指し、電気自動車のブレーキによる回生の充電などは含まない。本実施形態では、500回の充放電サイクルを経て劣化した二次電池2を対象として、その502回目の充放電サイクル(以下、単に「502サイクル目」と呼ぶ)において残容量を予測する例を示す。
【0031】
まず、残容量を予測する時点より前の充放電サイクルC1中に二次電池2の変形を検出し、その二次電池2の充放電容量と変形量との関係を表す第1曲線を求める(ステップ1)。充放電サイクルC1は、残容量を予測する時点より前の充放電サイクルから採択され、本実施形態では、残容量予測を行う502サイクル目の直前となる501サイクル目である。充放電容量は放電容量と充電容量との総称であり、本実施形態では放電容量、具体的には満充電状態からの放電容量である例を示す。
【0032】
図4のグラフは、充放電サイクルC1(501サイクル目)中に求めた、二次電池2の満充電状態からの放電容量と変形量との関係を表す第1曲線L1を示す。500サイクル目までの充放電工程では、二次電池2を25℃の恒温槽に入れ、120分静置後、1.44Aの充電電流で4.3Vまで定電流充電し、4.3Vに到達後、0.07Aに電流値が減衰するまで定電圧充電を行い、その後10分間の開回路状態を保持し、1.44Aの電流で3.0Vまで定電流放電を行う操作を500回繰り返した。また、501サイクル目の充放電工程では、二次電池2を25℃の恒温槽に入れ、120分静置後、0.144Aの充電電流で4.3Vまで定電流充電し、4.3Vに到達後、0.07Aに電流値が減衰するまで定電圧充電を行い、その後10分間の開回路状態を保持し、0.144Aの電流で3.0Vまで定電流放電を行った。尚、このときの満充電状態から完全放電状態までの放電容量は1.27Ahであった。
【0033】
図4のグラフにおいて、横軸は、原点を満充電状態とする放電容量Qであり、縦軸は、検出した二次電池2の変形量Tである。満充電状態からの放電容量Qが増加するにつれて、二次電池2の変形量Tは小さくなっている。これは、充電された二次電池2では、負極活物質の体積変化による電極群22の膨れ(以下、「電極膨れ」と呼ぶことがある)が生じており、その電極膨れが放電に伴って小さくなるためである。
【0034】
基準曲線LSは、所定の基準状態における二次電池2の充放電容量(本実施形態では、満充電状態からの放電容量)と変形量との関係を表す。基準曲線LSは、劣化していない初期段階の二次電池2を基準状態として、例えば製造時または出荷前の二次電池2を用いて求められ、その基準曲線LSに関する情報は、制御装置6が備える不図示の記憶部に予め記憶されている。基準曲線LSを求めた充放電工程では、出荷前の二次電池2を25℃の恒温槽に入れ、120分静置後、0.144Aの充電電流で4.32Vまで定電流充電し、4.32Vに到達後、0.07Aに電流値が減衰するまで定電圧充電を行い、その後10分間の開回路状態を保持し、0.144Aの電流で3.0Vまで定電流放電を行った。このときの満充電状態から完全放電状態までの放電容量は1.44Ahであった。
【0035】
二次電池2では、過充電などに起因して電解液が分解されると、その分解ガスによる内圧の上昇に伴って膨れ(以下、「ガス膨れ」と呼ぶことがある)を生じることがある。検出センサ5は、このガス膨れによる二次電池2の変形も検出するが、それは変形量Tの全体的な大きさとして反映されるに過ぎず、放電容量Qの増加に伴う変化としては現れない。したがって、
図4において、放電容量Qの増加に伴って変形量Tが減少しているのは電極膨れの影響であり、同じ放電容量Qでも第1曲線L1の方が基準曲線LSよりも大きい変形量Tを示すのはガス膨れの影響である。
【0036】
第1曲線L1及び基準曲線LSは、電極のステージ変化に起因して、
図4のように幾分かの凹凸(勾配の変化)を含んだ形状となる。例えば負極にグラファイト(黒鉛)を用いたリチウムイオン二次電池の場合、そのグラファイトの結晶状態は、満充電状態から放電するに伴って順次にステージ変化することが知られている。これは、リチウムイオンの挿入量に伴ってグラフェン層間の距離が段階的に拡大することで負極活物質が膨張するためである。要するに、ステージ変化によって活物質の体積は段階的に変化し、それが第1曲線L1と基準曲線LSに反映されている。このような曲線を求めるうえで、二次電池2の変形を高感度に検出する検出センサ5が好適である。
【0037】
リチウムイオン二次電池の負極に用いられる活物質には、リチウムイオンを電気化学的に挿入及び脱離することが可能なものが用いられる。上記のような凹凸を含む形状の第1曲線L1や基準曲線LSを得るうえでは、例えばグラファイトやハードカーボン、ソフトカーボン、シリコン、硫黄などを含む負極が好ましく用いられ、これらの中でもグラファイトを含む負極がより好ましく用いられる。また、正極に用いられる活物質としては、LiCoO
2 、LiMn
2O
4、LiNiO
2、Li(MnAl)
2O
4、Li(NiCoAl)O
2、LiFePO
4、Li(NiMnCo)O
2などが例示される。
【0038】
上記ステップ1の後、基準曲線LSを第1曲線L1にフィッティング処理して第2曲線L2を求める(ステップ2)。既述の通り、第1曲線L1は上記ステップ1において求められ、基準曲線LSは劣化前の基準状態において予め求められている。フィッティング処理は、最小二乗法などの汎用的に用いられる手法により行うことができ、例えばマイクロソフト社製エクセル(登録商標)内のソルバー(登録商標)のような、多くの市販ソフトウェアパッケージに内蔵されているソフトウェアを用いて実施できる。
【0039】
図5のグラフは、フィッティング処理により求めた第2曲線L2を示す。フィッティング処理では、基準曲線LSのX軸方向の長さの拡大率に相当する「充放電容量の拡大率Xr」、基準曲線LSのX軸方向のシフト量に相当する「充放電容量のシフト量Xs」、基準曲線LSのY軸方向の長さの拡大率に相当する「変形量の拡大率Yr」、及び、基準曲線LSのY軸方向のシフト量に相当する「変形量のシフト量Ys」という4つのパラメータを変化させた。本実施形態では、Xr:0.92、Xs:−0.055Ah、Yr:0.8、Ys:+0.01mmであった。これは、基準曲線LSのX軸方向の長さを0.92倍、同じくY軸方向の長さを0.8倍し、その基準曲線LSをX軸方向に沿って−0.055Ahシフトし、Y軸方向に沿って+0.01mmシフトしたことを意味する。
【0040】
本実施形態では、充放電容量の充電側(
図4のグラフではX軸の負方向)に基準曲線LSをシフトしているが、これとは反対に、充放電容量の放電側(
図4のグラフではX軸の正方向)に基準曲線をシフトすることがある。その場合、求めた第2曲線の値が満充電状態の近傍(原点の近傍)に存在していないと、その領域での残容量予測が困難になる。それ故、基準曲線LSは、充電深度100(%)を超える満充電状態からの放電容量(または充電深度100(%)を超える満充電状態までの充電容量)と、二次電池2の変形量との関係を表すものであることが好ましく、それにより満充電状態の近傍領域での残容量予測を確保できる。上記の如き100(%)を超える充電深度は、実使用で想定されている充放電深度の範囲よりも大きいものである。
【0041】
そして、充放電サイクルC1より後の充放電サイクルC2中に二次電池2の変形量Tmを検出する(ステップ3)。上述したように、本実施形態での充放電サイクルC2は502サイクル目であり、501サイクル目を終えて一旦充電(満充電でなくてもよい)した後の放電中に、残容量を予測したい任意のタイミングで変形量Tmを検出する。尚、上記ステップ3は上記ステップ1及び2の後に行う必要はなく、これらの前後関係は特に限定されない。即ち、上記ステップ3にて変形量Tmを検出した後で、充放電サイクルC2より前の充放電サイクルC1のデータに基づいて上記ステップ1及び2を実行しても構わない。
【0042】
上記ステップ1〜3の後、
図5のように、二次電池2の変形量Tmに対応する充放電容量Qmを第2曲線L2に基づいて取得し、その第2曲線L2における完全放電状態の充放電容量Qdと充放電容量Qmとの差を残容量Qrとして求める(ステップ4)。この充放電容量Qmは、502サイクル目において変形量Tmを検出した時点での放電容量の予測値であり、その充放電容量Qmを完全放電状態の充放電容量Qdから差し引いて得られる残容量Qrは、その時点での残容量の予測値となる。
【0043】
このように、検出した二次電池2の変形量Tmと上記のフィッティング処理により求めた第2曲線L2とに基づいて充放電容量Qmを取得し、その充放電容量Qmと充放電容量Qdとから残容量Qrを求めているので、充放電サイクルの繰り返しによる劣化の影響、具体的には、充放電に寄与する活物質量の減少や、副反応による正負極の容量バランスずれ、及び、二次電池2のガス膨れの影響を踏まえて、二次電池2の残容量を簡便且つ高精度に予測できる。これを利用して、例えば、電動車両の走行中に、その電動車両があと何km走行できるのか予測可能となる。
【0044】
図5において変形量Tmを求めたときの充放電工程では、二次電池2を25℃の恒温槽に入れ、120分静置後、1.44Aの充電電流で4.3Vまで定電流充電し、4.3Vに到達後、0.07Aに電流値が減衰するまで定電圧充電を行い、その後10分間の開回路状態を保持し、0.144Aの電流で10秒間放電するたびに変形量Tmを取得した。
【0045】
図6は、二次電池2の放電時間と放電容量との関係を示すグラフである。上述の手法で求めた放電容量の予測値(放電容量Qm)の推移を破線L3で示し、実際に放電した容量の推移を実線L4で示している。破線L3は実線L4に沿って推移しており、502サイクル目において変形量Tmを検出した時点での放電容量Qを高精度に予測できていることが分かる。
【0046】
図7は、二次電池2の放電時間と残容量との関係を示すグラフである。上述の手法で求めた残容量の予測値(残容量Qr)を破線L5で示し、502サイクル目の放電終了後に得た実際の残容量を実線L6で示している。破線L5は実線L6に沿って推移しており、二次電池2の残容量を高精度に予測できていることが分かる。
【0047】
本実施形態では、充放電サイクルC1が充放電サイクルC2の直前の充放電サイクルである例を示したが、これに限られるものではない。但し、残容量の予測精度を高めるうえでは、なるべく充放電サイクルC1が充放電サイクルC2に近いことが好都合であり、充放電サイクルC1は充放電サイクルC2の直近100サイクル以内にあることが好ましく、直近50サイクル以内にあることがより好ましく、直近10サイクル以内にあることが更に好ましい。
【0048】
また、フィッティング処理の煩雑化を防ぐ観点から、前述の実施形態のように、第1曲線が電極のステージ変化に起因した凹凸(勾配の変化)を含んでいることが好ましく、そのような形状の第1曲線が得られる充放電サイクルを充放電サイクルC1として採用することが望まれる。同様の観点から、第1曲線が放電容量と変形量との関係を表す場合には、完全放電状態かその近傍まで放電した充放電サイクルを充放電サイクルC1として採用し、第1曲線が充電容量と変形量との関係を表す場合には、完全放電状態かその近傍から充電した充放電サイクルを充放電サイクルC1として採用することが好ましい。
【0049】
本実施形態では、更に、後述するステップ5を実行することにより、活物質の維持率(及び失活率)を取得して、二次電池2の劣化状態をより精度良く知得できる。また、それに代えてまたは加えて、後述するステップ6を実行することにより、副反応による正負極の容量バランスずれ量を取得して、二次電池2の劣化状態をより精度良く知得できる。残容量を予測するためのステップ1〜4及びステップ5,6は、制御装置6によって実行される。
【0050】
残容量の予測に際して、基準曲線LSを第1曲線L1にフィッティング処理するときに用いた充放電容量の拡大率Xrを、活物質の維持率として取得する(ステップ5)。負極にグラファイトを用いたリチウムイオン二次電池の場合、そのステージ変化は、カーボン24個に対してリチウムイオン1個以上が挿入されたときと、カーボン12個に対してリチウムイオン1個以上が挿入されたときに生じる。充放電容量の減少は、このようなリチウムイオンの挿入や脱離が可能なカーボン量の減少を示唆するものであり、充放電容量の拡大率Xrから活物質の失活を推察できる。本実施形態では、拡大率Xrが0.92であったので、活物質の維持率は92%、即ち充放電に寄与する負極活物質が92%維持されていると診断できる。逆に、1−Xrにより求められる活物質の失活率は8%、即ち8%の負極活物質が失活して充放電に利用できなくなったものと診断できる。
【0051】
また、残容量の予測に際して、基準曲線LSを第1曲線L1にフィッティング処理するときに用いた充放電容量のシフト量Xsを、副反応による正負極の容量バランスずれ量として取得する(ステップ6)。充放電容量のシフト量Xsは、正極23と負極24との容量バランスにずれが生じている結果であり、そのずれば、正極23での副反応量と負極24での副反応量との相違により生じる。よって、どちらの電極でどれ程の副反応量が増えているのかについて、シフト量Xsから推察できる。シフト量Xsが正の値であれば、正極23での副反応量が負極24での副反応量よりも多く、シフト量Xsが負の値であれば、負極24での副反応量が正極23での副反応量よりも多いと考えられる。本実施形態では、シフト量Xsが−0.055Ahであったので、負極24での副反応量が正極23での副反応量よりも0.055Ah多いと診断できる。
【0052】
電池を劣化させる一因である電解液の分解などの電気化学反応は電位によって引き起こされる。しかしながら、通常電池の制御は、負極電位と正極電位の差である電圧によって制御され、正負極の電位をそれぞれ取得することは困難であった。
図8に負極半電池の放電容量と電位の関係L7および放電容量と変形量の関係L8を示す。負極半電池とは、負極とリチウムメタルなどの一定電位を示す電極と組み合わせた電池を示す。L8を前記フィッティング方法と同様の方法で前記L1にフィッティングする(ステップ7)。この時の充放電容量の拡大率XrとX軸方向のシフト量XsをL7に適用し、フィッティング後の負極半電池の放電容量と電位の関係L9を取得する(ステップ8)。
前記ステップ4で取得したQmの値を、
図9に示すL9から参照し、その時のE
Amを負極電位とみなす(ステップ9)。
前記Tmの時に取得した電池電圧VからE
Amを減じた値E
Cmは正極電位とみなす(ステップ10)。
本方法により、通常の制御方法では電池電圧しか取得できなかったところ、正極と負極それぞれの電位を取得することが出来る。
このE
AmとE
Cmが予め設定した値の範囲内で電池を使用することで、正極または負極での副反応を抑制することができ、これにより電池寿命を向上させることができる。
【0053】
前述の実施形態では、第1曲線L1及び基準曲線LSが、二次電池2の放電容量(具体的には、満充電状態からの放電容量)と変形量との関係を表すものであったが、これに限られるものではなく、二次電池の充電容量(例えば、満充電状態までの充電容量)と変形量との関係を表すものでもよい。その場合であっても、上記と同様の手順によって二次電池の残容量を予測することができる。
【0054】
図2に示した実施形態では、正極23と負極24の厚み方向、即ちZ方向(
図2(b)の上下方向)に電極群22と対向する外装体21の壁部28aに高分子マトリックス層3を貼り付けている。壁部28aの外面は外装体21の上面に相当する。高分子マトリックス層3は、壁部28aを挟んで電極群22と相対し、電極群22の上面と平行に配置されている。電極膨れは、活物質の体積変化に伴う電極群22の厚み変化に起因するためにZ方向での作用が大きい。したがって、高分子マトリックス層3を壁部28aに貼り付けた本実施形態では、電極膨れを高感度に検出でき、延いては二次電池2の残容量を精度良く予測できる。
【0055】
図3に示した実施形態では、電極群22に対して、正極23と負極24の厚み方向、即ちZ方向(
図3(b)の上下方向)から高分子マトリックス層3を貼り付けている。これにより、金属缶などの堅牢な材料で外装体が形成されている場合であっても、その電極群22の膨れ、即ち電極膨れを高精度に検出でき、延いては二次電池2の残容量を精度良く予測できる。
【0056】
検出部4は、外場の変化を検出可能な箇所に配置され、好ましくは二次電池2の膨れによる影響を受けにくい比較的堅固な箇所に貼り付けられる。本実施形態では、
図2(b)のように、壁部28aに対向する電池モジュールの筐体11の内面に検出部4を貼り付けている。電池モジュールの筐体11は、例えば金属またはプラスチックにより形成され、ラミネートフィルムが用いられる場合もある。図面上、検出部4は、高分子マトリックス層3と近接して配置されているが、高分子マトリックス層3から離して配置しても構わない。
【0057】
本実施形態では、高分子マトリックス層3が上記フィラーとしての磁性フィラーを含有し、検出部4が上記外場としての磁場の変化を検出する例を示す。この場合、高分子マトリックス層3は、エラストマー成分からなるマトリックスに磁性フィラーが分散してなる磁性エラストマー層であることが好ましい。
【0058】
磁性フィラーとしては、希土類系、鉄系、コバルト系、ニッケル系、酸化物系などが挙げられるが、より高い磁力が得られる希土類系が好ましい。磁性フィラーの形状は、特に限定されるものではなく、球状、扁平状、針状、柱状および不定形のいずれであってよい。磁性フィラーの平均粒径は、好ましくは0.02〜500μm、より好ましくは0.1〜400μm、更に好ましくは0.5〜300μmである。平均粒径が0.02μmより小さいと、磁性フィラーの磁気特性が低下する傾向にあり、平均粒径が500μmを超えると、磁性エラストマー層の機械的特性が低下して脆くなる傾向にある。
【0059】
磁性フィラーは、着磁後にエラストマー中に導入しても構わないが、エラストマーに導入した後に着磁することが好ましい。エラストマーに導入した後に着磁することで磁石の極性の制御が容易となり、磁場の検出が容易になる。
【0060】
エラストマー成分には、熱可塑性エラストマー、熱硬化性エラストマーまたはそれらの混合物を用いることができる。熱可塑性エラストマーとしては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素ゴム系熱可塑性エラストマー等を挙げることができる。また、熱硬化性エラストマーとしては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、ニトリルゴム、エチレン−プロピレンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン−プロピレンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系合成ゴム、および天然ゴム等を挙げることができる。このうち好ましいのは熱硬化性エラストマーであり、これは電池の発熱や過負荷に伴う磁性エラストマーのへたりを抑制できるためである。更に好ましくは、ポリウレタンゴム(ポリウレタンエラストマーともいう)またはシリコーンゴム(シリコーンエラストマーともいう)である。
【0061】
ポリウレタンエラストマーは、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させることにより得られる。ポリウレタンエラストマーをエラストマー成分として用いる場合、活性水素含有化合物と磁性フィラーを混合し、ここにイソシアネート成分を混合させて混合液を得る。また、イソシアネート成分に磁性フィラーを混合し、活性水素含有化合物を混合させることで混合液を得ることも出来る。その混合液を離型処理したモールド内に注型し、その後硬化温度まで加熱して硬化することにより、磁性エラストマーを製造することができる。また、シリコーンエラストマーをエラストマー成分として用いる場合、シリコーンエラストマーの前駆体に磁性フィラーを入れて混合し、型内に入れ、その後加熱して硬化させることにより磁性エラストマーを製造することができる。尚、必要に応じて溶剤を添加してもよい。
【0062】
ポリウレタンエラストマーに使用できるイソシアネート成分としては、ポリウレタンの分野において公知の化合物を使用できる。例えば、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,2’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、p−フェニレンジイソシアネート、m−フェニレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート、エチレンジイソシアネート、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、4,4’−ジシクロへキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等の脂環式ジイソシアネートを挙げることができる。これらは1種で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。また、イソシアネート成分は、ウレタン変性、アロファネート変性、ビウレット変性、及びイソシアヌレート変性等の変性化したものであってもよい。好ましいイソシアネート成分は、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、より好ましくは2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネートである。
【0063】
活性水素含有化合物としては、ポリウレタンの技術分野において、通常用いられるものを用いることができる。例えば、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体等に代表されるポリエーテルポリオール、ポリブチレンアジペート、ポリエチレンアジペート、3−メチル−1,5−ペンタンアジペートに代表されるポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカプロラクトンのようなポリエステルグリコールとアルキレンカーボネートとの反応物などで例示されるポリエステルポリカーボネートポリオール、エチレンカーボネートを多価アルコールと反応させ、次いで得られた反応混合物を有機ジカルボン酸と反応させたポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリヒドロキシル化合物とアリールカーボネートとのエステル交換反応により得られるポリカーボネートポリオール等の高分子量ポリオールを挙げることができる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
活性水素含有化合物として上述した高分子量ポリオール成分の他に、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、トリメチロールプロパン、グリセリン、1,2,6−ヘキサントリオール、ペンタエリスリトール、テトラメチロールシクロヘキサン、メチルグルコシド、ソルビトール、マンニトール、ズルシトール、スクロース、2,2,6,6−テトラキス(ヒドロキシメチル)シクロヘキサノール、及びトリエタノールアミン等の低分子量ポリオール成分、エチレンジアミン、トリレンジアミン、ジフェニルメタンジアミン、ジエチレントリアミン等の低分子量ポリアミン成分を用いてもよい。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。更に、4,4’−メチレンビス(o−クロロアニリン)(MOCA)、2,6−ジクロロ−p−フェニレンジアミン、4,4’−メチレンビス(2,3−ジクロロアニリン)、3,5−ビス(メチルチオ)−2,4−トルエンジアミン、3,5−ビス(メチルチオ)−2,6−トルエンジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,4−ジアミン、3,5−ジエチルトルエン−2,6−ジアミン、トリメチレングリコール−ジ−p−アミノベンゾエート、ポリテトラメチレンオキシド−ジ−p−アミノベンゾエート、1,2−ビス(2−アミノフェニルチオ)エタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、N,N’−ジ−sec−ブチル−4,4’−ジアミノジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジエチル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジイソプロピル−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトラエチルジフェニルメタン、4,4’−ジアミノ−3,3’,5,5’−テトライソプロピルジフェニルメタン、m−キシリレンジアミン、N,N’−ジ−sec−ブチル−p−フェニレンジアミン、m−フェニレンジアミン、及びp−キシリレンジアミン等に例示されるポリアミン類を混合することもできる。好ましい活性水素含有化合物は、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体、3−メチル−1,5−ペンタンアジペート、より好ましくはポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体である。
【0065】
イソシアネート成分と活性水素含有化合物の好ましい組み合わせとしては、イソシアネート成分として、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、および4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートの1種または2種以上と、活性水素含有化合物として、ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体、および3−メチル−1,5−ペンタンアジペートの1種または2種以上との組み合わせである。より好ましくは、イソシアネート成分として、2,4−トルエンジイソシアネートおよび/または2,6−トルエンジイソシアネートと、活性水素含有化合物として、ポリプロピレングリコール、および/またはプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドの共重合体との組み合わせである。
【0066】
高分子マトリックス層3は、分散したフィラーと気泡を含有する発泡体でもよい。発泡体としては、一般の樹脂フォームを用いることができるが、圧縮永久歪などの特性を考慮すると熱硬化性樹脂フォームを用いることが好ましい。熱硬化性樹脂フォームとしては、ポリウレタン樹脂フォーム、シリコーン樹脂フォームなどが挙げられ、このうちポリウレタン樹脂フォームが好適である。ポリウレタン樹脂フォームには、上掲したイソシアネート成分や活性水素含有化合物を使用できる。
【0067】
磁性エラストマー中の磁性フィラーの量は、エラストマー成分100重量部に対して、好ましくは1〜450重量部、より好ましくは2〜400重量部である。これが1重量部より少ないと、磁場の変化を検出することが難しくなる傾向にあり、450重量部を超えると、磁性エラストマー自体が脆くなる場合がある。
【0068】
磁性フィラーの防錆などを目的として、高分子マトリックス層3の柔軟性を損なわない程度に、高分子マトリックス層3を封止する封止材を設けてもよい。封止材には、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂またはそれらの混合物を用いることができる。熱可塑性樹脂としては、例えばスチレン系熱可塑性エラストマー、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリブタジエン系熱可塑性エラストマー、ポリイソプレン系熱可塑性エラストマー、フッ素系熱可塑性エラストマー、エチレン・アクリル酸エチルコポリマー、エチレン・酢酸ビニルコポリマー、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、フッ素樹脂、ポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリスチレン、ポリブタジエン等を挙げることができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えばポリイソプレンゴム、ポリブタジエンゴム、スチレン・ブタジエンゴム、ポリクロロプレンゴム、アクリロニトリル・ブタジエンゴム等のジエン系合成ゴム、エチレン・プロピレンゴム、エチレン・プロピレン・ジエンゴム、ブチルゴム、アクリルゴム、ポリウレタンゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、エピクロルヒドリンゴム等の非ジエン系ゴム、天然ゴム、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等を挙げることができる。これらのフィルムは積層されていてもよく、また、アルミ箔などの金属箔や上記フィルム上に金属が蒸着された金属蒸着膜を含むフィルムであってもよい。
【0069】
高分子マトリックス層3は、その厚み方向にフィラーが偏在しているものでも構わない。例えば、高分子マトリックス層3が、フィラーが相対的に多い一方側の領域と、フィラーが相対的に少ない他方側の領域との二層からなる構造でもよい。フィラーを多く含有する一方側の領域では、高分子マトリックス層3の小さな変形に対する外場の変化が大きくなるため、低い内圧に対するセンサ感度を高められる。また、フィラーが相対的に少ない他方側の領域は比較的柔軟で動きやすく、この領域を貼り付けることにより、高分子マトリックス層3(特に一方側の領域)が変形しやすくなる。
【0070】
一方側の領域でのフィラー偏在率は、好ましくは50を超え、より好ましくは60以上であり、更に好ましくは70以上である。この場合、他方側の領域でのフィラー偏在率は50未満となる。一方側の領域でのフィラー偏在率は最大で100であり、他方側の領域でのフィラー偏在率は最小で0である。したがって、フィラーを含むエラストマー層と、フィラーを含まないエラストマー層との積層体構造でも構わない。フィラーの偏在には、エラストマー成分にフィラーを導入した後、室温あるいは所定の温度で静置し、そのフィラーの重さにより自然沈降させる方法を使用でき、静置する温度や時間を変化させることでフィラー偏在率を調整できる。遠心力や磁力のような物理的な力を用いて、フィラーを偏在させてもよい。或いは、フィラーの含有量が異なる複数の層からなる積層体により高分子マトリックス層を構成しても構わない。
【0071】
フィラー偏在率は、以下の方法により測定される。即ち、走査型電子顕微鏡−エネルギー分散型X線分析装置(SEM−EDS)を用いて、高分子マトリックス層の断面を100倍で観察する。その断面の厚み方向全体の領域と、その断面を厚み方向に二等分した2つの領域に対し、それぞれ元素分析によりフィラー固有の金属元素(本実施形態の磁性フィラーであれば例えばFe元素)の存在量を求める。この存在量について、厚み方向全体の領域に対する一方側の領域の比率を算出し、それを一方側の領域でのフィラー偏在率とする。他方側の領域でのフィラー偏在率も、これと同様である。
【0072】
フィラーが相対的に少ない他方側の領域は、気泡を含有する発泡体で形成されている構造でも構わない。これにより、高分子マトリックス層3が更に変形しやすくなってセンサ感度が高められる。また、他方側の領域とともに一方側の領域が発泡体で形成されていてもよく、その場合の高分子マトリックス層3は全体が発泡体となる。このような厚み方向の少なくとも一部が発泡体である高分子マトリックス層は、複数の層(例えば、フィラーを含有する無発泡層と、フィラーを含有しない発泡層)からなる積層体により構成されていても構わない。
【0073】
磁場の変化を検出する検出部4には、例えば、磁気抵抗素子、ホール素子、インダクタ、MI素子、フラックスゲートセンサなどを用いることができる。磁気抵抗素子としては、半導体化合物磁気抵抗素子、異方性磁気抵抗素子(AMR)、巨大磁気抵抗素子(GMR)、トンネル磁気抵抗素子(TMR)が挙げられる。このうち好ましいのはホール素子であり、これは広範囲にわたって高い感度を有し、検出部4として有用なためである。ホール素子には、例えば旭化成エレクトロニクス株式会社製EQ-430Lが使用できる。
【0074】
ガス膨れが進行した二次電池2は発火や破裂などのトラブルに至ることがあるため、本実施形態では、二次電池2が変形したときの膨張量が所定以上である場合に、充放電が遮断されるように構成されている。具体的には、検出センサ5によって検出した信号が制御装置6に伝達され、設定値以上の外場の変化が検出センサ5により検出された場合に、制御装置6がスイッチング回路7へ信号を発信して発電装置(または充電装置)8からの電流を遮断し、電池モジュール1への充放電が遮断される状態にする。これにより、ガス膨れに起因するトラブルを未然に防止することができる。
【0075】
前述の実施形態では、二次電池がリチウムイオン二次電池である例を示したが、これに限られない。使用される二次電池は、リチウムイオン電池などの非水系電解液二次電池に限られず、ニッケル水素電池などの水系電解液二次電池であっても構わない。
【0076】
前述の実施形態では、高分子マトリックス層の変形に伴う磁場の変化を検出部により検出する例を示したが、他の外場の変化を検出する構成でもよい。例えば、高分子マトリックス層がフィラーとして金属粒子、カーボンブラック、カーボンナノチューブなどの導電性フィラーを含有し、検出部が外場としての電場の変化(抵抗および誘電率の変化)を検出する構成が考えられる。
【0077】
本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能である。