【解決手段】以下のいずれかに記載の核酸:(a)特定の配列を有する核酸、(b)特定の配列と同一性が80%以上でありセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換するタンパク質をコードする核酸、(c)特定の配列と相補的な核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズし且つセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換するタンパク質をコードする核酸、(d)特定の配列のタンパク質をコードする核酸、(e)特定の配列と同一性が80%以上であり且つセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換するタンパク質をコードする核酸、(f)特定の配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加され且つセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換するタンパク質をコードする核酸。
セサミン又はセサミン誘導体と請求項4に記載のタンパク質とテトラヒドロ葉酸とを接触させる前記工程が、セサミン又はセサミン誘導体と請求項3に記載の形質転換体とを接触させる工程である、請求項6に記載の製造方法。
セサミン又はセサミン誘導体と請求項4に記載のタンパク質とテトラヒドロ葉酸とを接触させる前記工程が、セサミン又はセサミン誘導体とシノモナス属細菌とを接触させる工程である、請求項6に記載の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[核酸]
1実施形態において、本発明は、以下の(a)〜(f)のいずれかに記載の核酸を提供する。
(a)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸
(b)配列番号1に記載の塩基配列と同一性が80%以上である塩基配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸
(c)配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸
(d)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸
(e)配列番号2に記載のアミノ酸配列と同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸
(f)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸
【0012】
実施例において後述するように、発明者らは、テトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有する新規タンパク質(以下、「SesA」という場合がある。)を同定した。配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸は、発明者らが同定したSesA遺伝子であり、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、発明者らが同定したSesAタンパク質である。
【0013】
本明細書において、核酸はDNAであってもよくRNAであってもよい。配列番号1にはDNAの塩基配列を記載しているため、対象の核酸がRNAである場合には、配列番号1の塩基配列を対応するRNAの塩基配列に読み替えればよい。より具体的には、配列番号1に記載の塩基配列におけるチミン残基をウラシル残基に読み替えればよい。
【0014】
本実施形態の核酸は、テトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質をコードしている限り、配列番号1の塩基配列に対して変異を有していてもよい。より具体的には、配列番号1に記載の塩基配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上であればよい。
【0015】
ここで、基準塩基配列に対する、対象塩基配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準塩基配列及び対象塩基配列をアラインメントする。ここで、各塩基配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準塩基配列及び対象塩基配列において、一致した塩基の塩基数を算出し、下記式(a)にしたがって、配列同一性を求めることができる。
配列同一性(%)=一致した塩基数/対象塩基配列の総塩基数×100 (a)
【0016】
あるいは、本実施形態の核酸は、配列番号1に記載の塩基配列からなる核酸と相補的な塩基配列からなる核酸とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸であってもよい。
【0017】
ここで、「ストリンジェントな条件下」とは、例えば、Molecular Cloning−A LABORATORY MANUAL THIRD EDITION(Sambrookら、Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載の方法が挙げられる。例えば、5×SSC(20×SSCの組成:3M塩化ナトリウム,0.3Mクエン酸溶液,pH7.0)、0.1質量%N−ラウロイルサルコシン、0.02質量%のSDS、2質量%の核酸ハイブルダイゼーション用ブロッキング試薬、及び50%ホルムアミドからなるハイブリダイゼーションバッファー中で、55〜70℃で数時間から一晩インキュベーションを行うことによりハイブリダイズさせる条件を挙げることができる。なお、インキュベーション後の洗浄の際に用いる洗浄バッファーとしては、好ましくは0.1質量%SDS含有1×SSC溶液、より好ましくは0.1質量%SDS含有0.1×SSC溶液が挙げられる。
【0018】
本実施形態の核酸は、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質をコードする核酸であってもよい。
【0019】
また、本実施形態の核酸は、テトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質をコードしている限り、配列番号2に記載のアミノ酸配列と同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質をコードするものであってもよい。
【0020】
ここで、基準アミノ酸配列に対する、対象アミノ酸配列の配列同一性は、例えば次のようにして求めることができる。まず、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列をアラインメントする。ここで、各アミノ酸配列には、配列同一性が最大となるようにギャップを含めてもよい。続いて、基準アミノ酸配列及び対象アミノ酸配列において、一致したアミノ酸の数を算出し、下記式(b)にしたがって、配列同一性を求めることができる。
配列同一性(%)=一致したアミノ酸数/対象アミノ酸配列の総アミノ酸数×100 (b)
【0021】
あるいは、本実施形態の核酸は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質をコードする核酸であってもよい。
【0022】
ここで、1若しくは数個とは、例えば1〜100個であってもよく、1〜50個であってもよく、1〜30個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよい。
【0023】
本明細書において、セサミン誘導体としては、メチレンジオキシフェニル基を有する化合物が挙げられ、より具体的には、例えば、下記式(2)で表されるセサミノール、下記式(3)で表される(+)−セサモリン、下記式(4)で表される(−)−アサリニン、下記式(5)で表される(+)−エピセサミン、下記式(6)で表されるピぺリン等が挙げられる。
【0024】
実施例において後述するように、発明者らは、SesAタンパク質が、これらのセサミン誘導体をカテコール体に変換することを明らかにした。
【0030】
本明細書において、セサミン又はその誘導体のカテコール体とは、セサミン又はその誘導体のメチレンジオキシフェニル基の少なくとも1つがカテコール基に変換された化合物を意味する。
【0031】
例えば、セサミンのカテコール体としては、メチレンジオキシフェニル基の一方がカテコール基に変換されたセサミンモノカテコール、メチレンジオキシフェニル基が2つともカテコール基に変換されたセサミンジカテコールが挙げられる。下記式(7)にセサミンモノカテコールの化学式を示し、下記式(8)にセサミンジカテコールの化学式を示す。
【0034】
セサミンのカテコール体と同様に、セサミン誘導体のカテコール体とは、そのメチレンジオキシフェニル基の少なくとも1つがカテコール基に変換された化合物を意味する。
【0035】
[ベクター]
1実施形態において、本発明は、上述した核酸を含有する組換えベクターを提供する。本実施形態の組換えベクターは、発現ベクターであってもよい。本実施形態の組換えベクターを宿主中で発現させることにより、テトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質を製造することができる。
【0036】
本実施形態の組換えベクターにおいて、上述した核酸の5’末端又は3’末端に、ヒスチジンタグ、FLAGタグ等のタグ配列をコードするDNAが付加されていてもよい。上記の発現ベクターとしては、宿主細胞にSesAタンパク質を発現させる細胞系ベクターと、適当な細胞から抽出されたタンパク質合成能を有する成分からなるタンパク質翻訳系においてSesAタンパク質を発現させる無細胞系ベクターが挙げられる。
【0037】
細胞系ベクターとしては、宿主細胞に適した公知の発現ベクターが用いられる。例えば、大腸菌においてはpBR322誘導体に代表されるColE系プラスミド、p15Aオリジンを持つpACYC系プラスミド、pSC系プラスミド、Bac系等のF因子由来ミニFプラスミドが挙げられる。その他、trcやtac等のトリプトファンプロモーター、lacプロモーター、T7プロモーター、T5プロモーター、T3プロモーター、SP6プロモーター、アラビノース誘導プロモーター、コールドショックプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーター等を有する発現ベクターも挙げられる。
【0038】
無細胞系ベクターとしては、細胞系ベクターにおいて挙げられたT7プロモーターを有する発現ベクターやT3プロモーターを有する発現ベクター;SP6プロモーター又はT7プロモーターを有するpEU系プラスミド等の小麦無細胞タンパク質合成用ベクター等が挙げられる。
【0039】
無細胞系ベクターを用いたタンパク質合成においては、先ず、転写系を用いて、SesA遺伝子を転写して、mRNAを合成する。転写系としては、RNAポリメラーゼにより転写させる従来公知のものが挙げられる。RNAポリメラーゼとしては、例えばT7RNAポリメラーゼ、SP6ポリメラーゼ等が挙げられる。
【0040】
続いて、翻訳系である無細胞タンパク質合成系を用いて、mRNAを翻訳し、タンパク質を合成する。この系にはリボゾーム、翻訳開始因子、翻訳伸長因子、解離因子、アミノアシルtRNA合成酵素等、翻訳に必要な要素が含まれている。このようなタンパク質翻訳系としては、大腸菌抽出液、ウサギ網状赤血球抽出液、小麦胚芽抽出液等が挙げられる。更に、上記翻訳に必要な要素が独立に精製された因子のみからなる再構成型無細胞タンパク質合成系が挙げられる。
【0041】
細胞系ベクター又は無細胞系ベクターを用いて合成されたタンパク質からSesAタンパク質を精製して用いることができる。精製方法としては、塩析法や各種クロマトグラフィーを用いた方法が挙げられる。発現ベクターが目的タンパク質のN末端又はC末端にヒスチジンタグ等のタグ配列を発現するように設計されている場合には、ニッケルやコバルト等、このタグに親和性を有する物質を用いたアフィニティーカラムによる精製方法が挙げられる。その他、イオン交換クロマトグラフィーやゲルろ過クロマトグラフィー等を適宜組み合わせて精製することにより、SesAタンパク質の純度を高めることができる。
【0042】
[形質転換体]
1実施形態において、本発明は、上述した組換えベクターを含有する形質転換体を提供する。本実施形態の形質転換体又はその培地等より、SesAタンパク質を製造することができる。
【0043】
本実施形態の形質転換体は、上述した組換えベクターを宿主に導入することにより得ることができる。形質転換体としては、例えば、上述した組換えベクターが導入された、大腸菌、酵母、植物細胞、昆虫細胞、動物細胞等の培養細胞;上述したベクターが導入された、カイコ等の昆虫生体;上述したベクターが導入された、タバコ等の植物体等が挙げられる。
【0044】
組換えベクターの宿主への導入(形質転換)は従来公知の方法を用いて行うことができる。例えば、カルシウム処理された菌体を用いるコンピテント細胞法や、エレクトロポレーション法等が挙げられる。また、プラスミドベクター以外にも、ファージベクター、ウイルスベクター等を宿主に感染させて形質転換する方法を利用してもよい。
【0045】
[タンパク質]
1実施形態において、本発明は、以下の(g)〜(i)のいずれかに記載のタンパク質を提供する。
(g)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質
(h)配列番号2に記載のアミノ酸配列と同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質
【0046】
実施例において後述するように、配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質は、発明者らが新規に同定した、テトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するSesAタンパク質である。実施例において後述するように、SesAタンパク質のk
catは、セサミンをカテコール体に代謝する酵素として知られているヒトシトクロムP450のk
catと比較して220倍高いことが明らかとなった。
【0047】
本実施形態のタンパク質は、テトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有する限り、配列番号2のアミノ酸配列に対して変異を有していてもよい。より具体的には、配列番号2に記載のアミノ酸配列と同一性が80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上であるアミノ酸配列からなるタンパク質であってもよい。配列同一性については、上述したものと同様である。
【0048】
あるいは、本実施形態のタンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質であってもよい。
【0049】
ここで、1若しくは数個とは、例えば1〜100個であってもよく、1〜50個であってもよく、1〜30個であってもよく、1〜10個であってもよく、1〜5個であってもよい。
【0050】
本実施形態のタンパク質は、N末端又はC末端にヒスチジンタグ、FLAGタグ等のタグを有していてもよい。タグは、タンパク質の精製や検出を容易にするために利用することができる。タグは、SesAタンパク質の活性には影響しない。このため、本実施形態のタンパク質がタグを有している場合、当該タグ配列は上記の配列同一性又は付加されたアミノ酸の計算から除外してもよい。
【0051】
なお、本明細書においては、上記(g)配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質だけでなく、上記(h)配列番号2に記載のアミノ酸配列と同一性が80%以上であるアミノ酸配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質、及び上記(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり且つテトラヒドロ葉酸の存在下でセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する活性を有するタンパク質をSesAタンパク質という場合がある。
【0052】
[組成物]
1実施形態において、本発明は、上述したSesAタンパク質とテトラヒドロ葉酸とを含む、セサミン又はその誘導体のカテコール体への変換用組成物を提供する。
【0053】
実施例において後述するように、発明者らは、SesAタンパク質によるセサミン又はその誘導体のカテコール体への変換に、補酵素としてテトラヒドロ葉酸が必要であることを明らかにした。
【0054】
したがって、SesAタンパク質とテトラヒドロ葉酸とを含む組成物は、セサミン又はその誘導体のカテコール体への変換用であるということができる。
【0055】
実施例において後述するように、SesAタンパク質の酵素活性にはテトラヒドロ葉酸の存在が必要であり、テトラヒドロ葉酸の代わりに、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、アデノシン一リン酸(AMP)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、補酵素A(CoA)、ビタミンB6、チアミン−HCl、イノシトール、D−パントテン酸カルシウム、MgCl
2、Fe
2(SO
4)
3、FeSO
4又はFeCl
2を添加しても、酵素活性は認められなかった。
【0056】
1実施形態において、本発明は、セサミン又はセサミン誘導体と上述したSesAタンパク質とテトラヒドロ葉酸とを接触させる工程を備える、セサミン又はその誘導体のカテコール体の製造方法を提供する。
【0057】
実施例において後述するように、セサミン又はセサミン誘導体と上述したSesAタンパク質とテトラヒドロ葉酸とを接触させることにより、セサミン又はその誘導体のカテコール体を製造することができる。
【0058】
実施例において後述するように、SesAタンパク質のk
catは、セサミンをカテコール体に代謝する酵素として知られているヒトシトクロムP450のk
catと比較して220倍高いことが明らかとなった。したがって、本実施形態の方法により、セサミン又はその誘導体のカテコール体を効率よく製造することができる。
【0059】
本実施形態の製造方法において、セサミン又はセサミン誘導体とSesAタンパク質とテトラヒドロ葉酸とを接触させる工程は、セサミン又はセサミン誘導体と上述した形質転換体とを接触させる工程であってもよい。
【0060】
あるいは、セサミン又はセサミン誘導体とSesAタンパク質とテトラヒドロ葉酸とを接触させる上記工程は、セサミン又はセサミン誘導体とシノモナス属細菌とを接触させる工程であってもよい。
【0061】
実施例において後述するように、SesAタンパク質はシノモナス属細菌から見出されたものであるため、シノモナス属細菌はセサミン又はその誘導体をカテコール体に変換する酵素を有している蓋然性が高いということができる。
【0062】
上記のシノモナス属細菌は、受領番号NITE AP−02230であるシノモナス属細菌No.22株(Sinomonas sp. No.22)であることが好ましい。
【実施例】
【0063】
以下、実験例により本発明を説明するが、本発明は以下の実験例に限定されるものではない。
【0064】
[実験例1]
(微生物のスクリーニング)
土壌サンプルからセサミンを資化する微生物をスクリーニングした。微生物の集積培養を行った後、微生物を単離し、それぞれの微生物の細胞抽出液・無細胞抽出液を調製した。セサミンを基質として反応させ、活性測定を行うことでセサミンを代謝できる微生物を選択した。
【0065】
《集積培養》
10mLセサミン単一炭素源液体培地にゴマ畑より採取した土壌をスパーテル1杯分添加し、28℃又は37℃で3日間振とう培養を行った。続いて、新しい液体培地に2%植菌し、同条件で培養した。植継ぎは3回行った。続いて、培養液を10
−4に希釈し、100μLをセサミン単一炭素源プレート培地に広げ、28℃又は37℃で10日間平板培養した。生育したコロニーを新しい寒天培地に植継ぎ、同条件で培養し菌を単離した。
【0066】
集積培養の結果、40株の菌を単離した。得られたすべての菌株について細胞抽出液・無細胞抽出液を調製し、セサミンと反応させた。その結果、40株のうち7株でセサミンの減少及び代謝産物と思われる物質の生成が確認された。
【0067】
《細胞抽出液の調製》
細胞抽出液の調製は次のようにして行った。菌株をセサミン単一炭素源液体培地10mLで培養した後、4℃、8000rpmで10分間遠心し、上清を除去した。沈殿に、10mMリン酸カリウムバッファー(KPB)(pH7.0)を適量入れ、菌体を洗浄し、再び4℃、8000rpmで10分間遠心し、上清を除去した。沈殿を10mM KPB(pH7.0)500μLに懸濁し反応チューブに移した。超音波破砕機(型式「Microson XL2000」、Misonix社)を用いて1秒間×30回超音波処理し、菌体を破砕し、細胞抽出液を得た。
【0068】
《無細胞抽出液の調製》
無細胞抽出液の調製は次のようにして行った。菌株をセサミン単一炭素源液体培地10mLで培養した後、4℃、8000rpmで10分間遠心し、上清を除去した。沈殿に、10mMリン酸カリウムバッファー(KPB)(pH7.0)を適量入れ、菌体を洗浄し、再び4℃、8000rpmで10分間遠心し、上清を除去した。沈殿を菌体重量の2倍容量の10mM KPB(pH7.0)に懸濁して反応チューブに移した。続いて、超音波破砕機(型式「Microson XL2000」、Misonix社)を用いて1秒間×30回超音波処理し、菌体を破砕した。続いて、4℃、15000rpmで10分間遠心し、上清を無細胞抽出液として回収した。
【0069】
《セサミンとの反応》
セサミンをDMSOに溶解し10mMに調製した。細胞破砕液又は無細胞抽出液100μL、10mM KPB(pH7.0)90μL及び10mMセサミン10μLを混合し、反応液200μLを調製した。続いて、反応液を28℃で1、3、6、24時間反応させた。対照として、細胞破砕液又は無細胞抽出液の代わりに10mM KPBを混合した反応液を調製し、同様にインキュベートした。反応後、反応液に0.5倍容量のアセトニトリルを添加して反応を停止した。
【0070】
《活性測定》
細胞抽出液反応又は無細胞抽出液反応後、反応を停止した溶液を4℃、15000rpmで10分間遠心し、上清を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)に供し、基質であるセサミンの減少量を測定した。
【0071】
その結果、代謝産物と思われる2つのピークが見られた。セサミンのピークは保持時間14.2分で見られ、代謝産物と思われるピークの保持時間は11.3分及び8.4分であった。
【0072】
《微生物の同定》
セサミンの代謝活性を示した7つの菌株の16S rRNAの塩基配列を決定し、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)を用いて遺伝子データベースの相同性検索を行った。その結果、16S rRNAの類似度から、得られた菌株は表1に示す種の菌であると考えられた。
【0073】
【表1】
【0074】
[実験例2]
(菌株の解析)
菌株番号No.22株について、更に詳細な解析を行った。
図1(a)は、No.22株のLB寒天培地上でのコロニーの形状を示す写真である。コロニーの直径は1〜2mmであった。
図1(b)は、No.22株のグラム染色の結果を示す光学顕微鏡写真である。
【0075】
表2〜6に、No.22株の形態観察及び生理・生化学的性状試験の結果を示す。その結果、No.22株はシノモナス属細菌であることが明らかとなった。シノモナス属細菌No.22株を、独立行政法人製品評価技術基盤機構(千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に寄託した(受領日:平成28年3月25日、受領番号:NITE AP−02230、微生物名「Sinomonas sp. No.22」)。
【0076】
【表2】
【0077】
【表3】
【0078】
【表4】
【0079】
【表5】
【0080】
【表6】
【0081】
[実験例3]
(No.22株によるセサミン代謝産物の同定)
No.22株から調製した無細胞抽出液とセサミンを上述したものと同様にして反応させ、HPLCで分析した。
図2は、HPLC分析の結果を示すグラフである。
図2中、矢印A及びBで示すピークがセサミン代謝産物のピークである。核磁気共鳴(NMR)及び高分解能質量分析(HRMS)で構造解析を行った結果、矢印Aで示すピークが下記式(7)で表わされるセサミンモノカテコールであり、矢印Bで示すピークが下記式(8)で表わされるセサミンジカテコールであることが明らかとなった。
【0082】
【化9】
【0083】
【化10】
【0084】
[実験例4]
(酵素の精製)
No.22株の無細胞抽出液からセサミン代謝酵素の精製を行った。様々な条件検討を行った結果、硫酸アンモニウム沈殿、TOYOPEARL Butyl 650Mカラム(東ソー社)による精製、及びMimetic Orange 1 A6XLカラム(プロメティックバイオサイエンシス社)による精製により、セサミン代謝酵素を単一バンドになるまで精製することができた。以下、このセサミン代謝酵素を「SesA」という場合がある。
【0085】
また、精製の初期段階でSesAタンパク質の活性がなくなる現象が見られた。さらに検討を行った結果、SesAタンパク質の酵素活性には、補酵素としてテトラヒドロ葉酸が必要であることが明らかになった。詳細については後述する。
【0086】
《活性測定時の反応液組成の検討》
SesAタンパク質の活性を測定するにあたり、基質であるセサミンは反応液中に完全に溶解している必要がある。しかしながら、セサミンは脂溶性であることから水系バッファーには溶解しない。そこで、表7に示す組成の反応液を調製し、界面活性剤及びシクロデキストリンの検討を行った。界面活性剤としては、Tween20、Tween40、Tween60、Tween80及びSDSを検討した。シクロデキストリンとしては、α−シクロデキストリン、β−シクロデキストリン及びγ−シクロデキストリンを検討した。界面活性剤は反応液中に終濃度2%となるように添加した。シクロデキストリンは終濃度1mMとなるように添加した。セサミンが溶解しているか否かは、目視又はHPLCを用いて確認した。
【0087】
【表7】
【0088】
目視でセサミンの溶解を確認した結果、Tween80以外の界面活性剤又はシクロデキストリンを添加した全ての反応液に濁りが確認された。そこで、Tween80を添加した反応液をHPLCに供し、どの程度の濃度のセサミンが反応液中に溶解しているのか確認した。その結果、反応液中には0.5mMのセサミンを添加しているが、HPLCにより検出されたセサミンは0.38mMであった。この結果から、後述する、K
m、k
catの測定を行う際には、セサミン濃度0.3mMを基質濃度最大値として設定した。
【0089】
《酵素の活性測定》
精製の各過程の酵素液を用い、表8に示す組成で活性測定を行った。反応停止は反応液の0.5倍容量のアセトニトリルを添加することにより行った。SesAタンパク質の活性1単位を、1分間に1μmolの代謝産物を増加させる酵素量と定義した。セサミンの代謝産物の増加量はHPLCで測定した。表9に、精製の各段階での酵素活性を示す。
【0090】
【表8】
【0091】
【表9】
【0092】
図3は、各精製段階におけるタンパク質試料をSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)により解析した結果を示す写真である。
図3中、「M」は分子量マーカーを示し、「CFE」は無細胞抽出液を示し、「AS」は硫酸アンモニウム沈殿分画を示し、「BT」はTOYOPEARL Butyl 650Mカラム(東ソー社)により精製した試料を示し、「OR」はMimetic Orange 1 A6XLカラム(プロメティックバイオサイエンシス社)により精製した試料を示す。
【0093】
[実験例5]
(SesA遺伝子の塩基配列の決定)
No.22株の染色体DNAを抽出し、ゲノムの塩基配列を決定した。また、SesAタンパク質試料をSDS−PAGEに供しPVDF膜に転写した。続いて、SesAタンパク質のバンドを切り出し、N末端アミノ酸配列を解析した。その結果、SesAタンパク質のN末端アミノ酸配列は「TAEQAIN」(配列番号3)であることが明らかとなった。
【0094】
決定されたSesAタンパク質のN末端アミノ酸配列を基に、No.22株のゲノムの塩基配列を検索した結果、SesAタンパク質の塩基配列及びアミノ酸配列を同定することができた。配列番号1にSesA遺伝子の塩基配列を示し、配列番号2にSesAタンパク質のアミノ酸配列を示す。
【0095】
[実験例6]
(SesAタンパク質の分子量測定)
ゲル濾過カラムを用いて、実験例4で精製したSesAの分子量を測定した。その結果、SesAタンパク質の分子量は147835.795と計算された。SesAタンパク質モノマーの分子量は50385.51であることから、SesAタンパク質は3量体を形成していると考えられた。
【0096】
[実験例7]
(SesA遺伝子のクローニング及び組換えタンパク質の精製)
No.22株のゲノムDNAを鋳型として、配列番号4に示すSesA−Fwプライマー及び配列番号5に示すSesA−Rvプライマーを用いてSesA遺伝子を増幅し、増幅断片を精製した。続いて、発現ベクターであるpET24a(+)(Novagen社)に、増幅したSesA遺伝子断片をクローニングし、SesAタンパク質の発現プラスミドを得た。
【0097】
続いて、SesAタンパク質の発現プラスミドで大腸菌BL21(DE3)(NEB社)を形質転換した。続いて、形質転換したBL21(DE3)株を大量培養し、硫酸アンモニウム沈殿、各種クロマトグラフィーにより精製し、SesAタンパク質を単一バンドになるまで精製した。
【0098】
表10に、精製の各段階での酵素活性を示す。その結果、No.22株から精製したSesAタンパク質と、BL21(DE3)株から精製したSesAタンパク質の比活性はほぼ同一であることが確認された。
【0099】
【表10】
【0100】
また、精製したSesAタンパク質との反応により、セサミンからセサミンモノカテコール及びセサミンジカテコールの2つの代謝産物が生成された。この結果から、SesAタンパク質は下記反応スキーム1に示す2段階の反応を触媒する酵素であることが明らかとなった。
【0101】
【化11】
【0102】
[実験例8]
(酵素の特性解析)
実験例7で精製したSesAタンパク質を用いて、酵素の諸性質の解析を行った。
《温度依存性の検討》
表11に示す組成で反応液を調製した。続いて、10℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、60℃及び70℃で10分間反応させた。SesAタンパク質の添加により反応を開始し、反応直前にテトラヒドロ葉酸を添加した。また、反応液の0.5倍容量のアセトニトリルを添加することにより反応を停止した。セサミンの代謝産物の増加量はHPLCで測定した。
【0103】
【表11】
【0104】
図4(a)は温度依存性を検討した結果を示すグラフである。その結果、SesAタンパク質は40℃で最も高い活性を示し、60℃以上で失活することが明らかとなった。
【0105】
《温度安定性の検討》
まず、SesAタンパク質を10℃、20℃、25℃、30℃、35℃、40℃、45℃、50℃、60℃及び70℃で15分間インキュベートした。続いて、温度依存性の検討におけるのと同様にしてSesAタンパク質の活性を測定した。
【0106】
図4(b)は温度安定性を検討した結果を示すグラフである。その結果、SesAタンパク質は30℃まで活性を保持し、50℃以上で完全に失活することが明らかとなった。
【0107】
《pH依存性の検討》
表12に示す組成で反応液を調製した。pHは、Britton−Robinsonバッファーを用いて、pH2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12に調整した。反応は28℃で10分間行った。SesAタンパク質の添加により反応を開始し、反応直前にテトラヒドロ葉酸を添加した。また、反応液の0.5倍容量のアセトニトリルを添加することにより反応を停止した。セサミンの代謝産物の増加量はHPLCで測定した。
【0108】
【表12】
【0109】
図4(c)はpH依存性を検討した結果を示すグラフである。その結果、SesAタンパク質はpH4.5〜10で活性を示し、pH7.5〜8.5で最も高い活性を示すことが明らかとなった。
【0110】
《pH安定性の検討》
まず、SesAタンパク質(0.73mg/mL)をpH2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5、10、10.5、11、11.5、12の0.2M Britton−Robinsonバッファーで10倍希釈し、氷上で15分間インキュベートした。続いて、温度依存性の検討におけるのと同様の組成の反応液でSesAタンパク質の活性を測定した。反応は28℃で10分間行った。
【0111】
図4(d)はpH安定性を検討した結果を示すグラフである。その結果、SesAタンパク質はpH5.5〜10.5において安定であり、高い活性を保持することが明らかとなった。
【0112】
《K
m、k
catの測定》
セサミン濃度を0.3mM、0.2mM、0.1mM、0.08mM、0.05mM、0.03mM、0.01mMとした反応液を調製し、K
m及びk
catの測定を行った。また、各セサミン濃度の反応液について、28℃で、1、3、5、7、10分間反応を行った。反応はSesAタンパク質の添加で開始し、反応液の0.5倍容量のアセトニトリルの添加で停止した。各セサミン濃度、各反応時間ごとに2連でサンプルを作製し、セサミンの代謝産物の増加量をHPLCで測定した。
【0113】
活性測定の結果に基づいて、各基質濃度[S]におけるセサミンモノカテコールの生成量から傾きVを算出した。表13に、各基質濃度[S]における傾きVを示す。
【0114】
【表13】
【0115】
また、Michaelis−Mentenの式を用いてK
mを算出するため、各基質濃度[S]におけるV
max(μmol/min/mg)を求めた。まず、反応液中に7.31×10
−5mgのSesAタンパク質が含まれていたことから、Vを7.31×10
−5で割った。計算された値を表14に示す。
【0116】
【表14】
【0117】
図5は、表14に基づいて作成したグラフである。表14の値に基づいて、Michaelis−Mentenの式を用いて直接非線形最小二乗法でパラメータを求めた。その結果、K
m=0.032mM、V
max=9.3μmol/min/mgであることが明らかとなった。続いて、k
catを計算した。k
catは酵素1分子が1秒間に触媒する基質の個数である。その結果、SesAタンパク質1mgが19.8nmolであることから、9.32(μmol/min/mg)×1000/19.8=470.71/min=7.85/secと計算された。このk
catの値は、非特許文献1に記載されたヒトシトクロムP450のk
catと比較して約220倍高かった。表15にSesAタンパク質の反応速度論的パラメータをまとめた。
【0118】
【表15】
【0119】
[実験例9]
(補酵素の検討)
SesAタンパク質の補酵素であるテトラヒドロ葉酸の代わりに、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)、還元型ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADPH)、アデノシン一リン酸(AMP)、フラビンモノヌクレオチド(FMN)、フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)、アデノシン二リン酸(ADP)、アデノシン三リン酸(ATP)、補酵素A(CoA)、ビタミンB6、チアミン−HCl、イノシトール、D−パントテン酸カルシウム、MgCl
2、Fe
2(SO
4)
3、FeSO
4又はFeCl
2を添加してSesAタンパク質とセサミンとを反応させた。続いて、セサミンの代謝産物の増加量をHPLCで測定した。
【0120】
その結果、いずれの補酵素又は金属を添加した試料においてもSesAタンパク質の活性は観察されなかった。この結果は、SesAタンパク質の酵素活性にはテトラヒドロ葉酸が必要であることを示す。
【0121】
[実験例10]
(基質特異性の検討)
セサミンの立体異性体や類似体を基質とし、SesAタンパク質がそれらの基質に対して活性を有するか否かについて検討した。各基質の溶媒にはDMSOを利用し、表16に示す組成で反応液を調製した。SesAタンパク質の添加により反応を開始し、反応直前にテトラヒドロ葉酸を添加した。また、反応液の0.5倍容量のアセトニトリルを添加することにより反応を停止した。酵素活性はHPLCで測定した。
【0122】
【表16】
【0123】
その結果、SesAタンパク質は、上記式(2)で表されるセサミノール、上記式(3)で表される(+)−セサモリン、上記式(4)で表される(−)−アサリニン、上記式(5)で表される(+)−エピセサミン、上記式(6)で表されるピぺリンに対する活性を有することが確認された。
【0124】
表17に、セサミンを基質とした場合のSesAタンパク質の酵素活性を100%とした場合の各基質に対する酵素活性を示す。
【0125】
【表17】