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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-169865(P2017-169865A)
(43)【公開日】2017年9月28日
(54)【発明の名称】脂肪診断用超音波プローブ
(51)【国際特許分類】
   A61B 8/08 20060101AFI20170901BHJP
【FI】
   A61B8/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-59750(P2016-59750)
(22)【出願日】2016年3月24日
(71)【出願人】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(71)【出願人】
【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114030
【弁理士】
【氏名又は名称】鹿島 義雄
(72)【発明者】
【氏名】堀中 博道
(72)【発明者】
【氏名】森川 浩安
【テーマコード(参考)】
4C601
【Fターム(参考)】
4C601DD02
4C601DD20
4C601EE12
4C601GA01
4C601GC02
4C601GC10
(57)【要約】
【課題】主プローブからの超音波と副プローブからの超音波とを、駆動機構を用いることなく同軸状に照射することができる脂肪診断用超音波プローブを提供する。
【解決手段】プローブホルダ5は、主プローブ2からの超音波信号が伝播体3を直進通過する軸線L上に、軸線Lが斜めに入射するように傾斜配置され、かつ、副プローブ4から出射される超音波エネルギーを反射して軸線Lの延長方向に照射させる平板部材5aが固定され、平板部材5aは、主プローブ2からの超音波信号がラム波A0モードの伝播特性で平板部材5a内を伝播することによって平板部材5aを通過し、さらに軸線Lの延長方向に進行することができるように、超音波信号の周波数および伝播体3の材料に応じて、ラム波A0モードの伝播条件を満たす軸線Lに対する平板部材5aの傾斜角度や材料や厚さが設定されるようにする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プローブホルダに主プローブと副プローブとが装着され、前記主プローブから出射される診断用の超音波信号と前記副プローブから出射される加温用の超音波エネルギーとが前記プローブホルダ内に充填された伝播体内を伝播して被検体に照射される脂肪診断用超音波プローブであって、
前記プローブホルダは、前記主プローブからの前記超音波信号が前記伝播体を直進通過する軸線上に、当該軸線が斜めに入射するように傾斜配置され、かつ、前記副プローブから出射される超音波エネルギーを反射して前記軸線の延長方向に照射させる平板部材が固定され、
前記平板部材は、前記主プローブからの前記超音波信号がラム波A0モードの伝播特性で前記平板部材内を伝播することによって前記平板部材を通過し、さらに前記軸線の延長方向に進行することができるように、前記超音波信号の周波数および前記伝播体の材料に応じて、ラム波A0モードの伝播条件を満たす前記軸線に対する前記平板部材の傾斜角度、前記平板部材の材料、前記平板部材の厚さが設定されていることを特徴とする脂肪診断用超音波プローブ。
【請求項2】
前記主プローブからの超音波信号の周波数が2MHz〜15MHzの範囲内であり、前記副プローブからの加温用の超音波エネルギーは0.5MHz〜2MHzの範囲内である請求項1に記載の脂肪診断用超音波プローブ。
【請求項3】
前記平板部材の板厚は0.02mm〜2mmである請求項1または請求項2に記載の脂肪診断用超音波プローブ。
【請求項4】
前記軸線に対する前記平板部材の傾斜角度が略45°である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の脂肪診断用超音波プローブ。
【請求項5】
前記平板部材の材料が金属板、またはガラス板、またはその他のラム波が伝播可能な固体板である請求項1〜請求項4のいずれかに記載の脂肪診断用超音波プローブ。
【請求項6】
前記伝播体が水、またはオイル、またはその他の液体材料である請求項1〜請求項5のいずれかに記載の脂肪診断用超音波プローブ。
【請求項7】
前記プローブホルダは、前記超音波信号の周波数に応じて板厚が異なる前記平板部材が交換可能に取り付けられる請求項1〜請求項6のいずれかに記載の脂肪診断用超音波プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超音波速度変化による脂肪診断で使用する脂肪診断用超音波プローブに関する。本発明は、例えば脂肪肝の診断、血管内プラークの脂質性の診断等で利用される。
【背景技術】
【0002】
新しい脂肪診断手法として、加温前後の超音波速度変化を測定し、超音波速度が温度変化に対して負の変化をする部位を脂肪組織として検出し、脂肪分布を診断する脂肪組織の検出方法および検出装置が提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1に記載された脂肪診断装置(脂肪組織検出装置)について説明する。この装置はBモード断層画像を取得可能な反射型の超音波診断装置を元に、超音波速度変化画像を取得するために必要な制御部を追加搭載した装置本体と、被検体の体表に直接当接させて超音波照射や加温を行うプローブとを備えている。ここで使用されるプローブには、被検体の測定領域に対し画像診断用の超音波照射を行うアレイ型の多チャンネルプローブ(リニアアレイ探触子)と、当該多チャンネルプローブの隣には、被検体の測定領域を加温するために近赤外光の照射を行う赤外線レーザ光源とを並べて配置した専用のプローブが用いられている。
【0004】
多チャンネルプローブは、直線状に配列された圧電素子からなる多数の振動子を有しており、各振動子は、制御部からの駆動信号によりパルス波が励振されて超音波信号を送波し、この超音波信号に対する被検体内からの超音波エコー信号を受波する。そして制御信号により送受波を行う振動子を順に切り替えて走査するようにしてある。また、赤外線レーザ光源は多チャンネルプローブの横から700nm〜1000nmの近赤外光を照射するようにしてある。
【0005】
次に、この装置で超音波速度変化を測定し脂肪診断を行う動作について説明する。あらかじめ、上記多チャンネルプローブを駆動して取得したBモード画像による画像診断で被検体における測定領域を特定する。そして特定した測定領域に対し、赤外線レーザ光源から近赤外光を照射して加温し、所定の加温時間経過後に、リニアアレイ探触子を駆動し、パルス状の超音波信号を順次走査するようにして送波するとともに、被検体からの受信信号である超音波エコー信号を順次受波する。そして、光照射状態で受波した超音波エコー信号(受信信号)の波形を、光照射後超音波エコー信号として記憶する。
光照射後超音波エコー信号の受信波形の記憶が終わると光照射を停止する。この照射停止から所定時間経過し、被検体の温度が十分に低下したところで、再びリニアアレイ探触子を駆動し、超音波信号を送波するとともに、被検体から超音波エコー信号を受波する。そして、光照射停止状態で受波した超音波エコー信号(受信信号)の波形を非照射時超音波エコー信号として記憶する。なお、記憶された超音波エコー信号はその振幅を輝度表示することでBモード断層画像として表示される。
続いて、光照射後と非照射時の超音波エコー信号に基づいて、以下に示す関係から超音波速度変化を求める。
【0006】
図9はある部分区間の加温前(平温時)超音波エコー信号と加温後(昇温時)超音波エコー信号とを示す模式図である。加温前の超音波速度をV、加温後の超音波速度をV’とする。また、加温前にある境界間を超音波信号が伝播するときに生じるパルス間隔をτとし、同じ境界間(距離一定)を光照射後に超音波信号が伝播するときに生じるパルス間隔をτ’=τ+Δτとする。すなわち、温度変化によりΔτだけパルス間隔が長くなるようにシフトしたとする。
このとき、
V・τ = V’・(τ+Δτ) ・・・(1)
の関係が成立し、したがって、2つの超音波エコー信号におけるパルス間隔の時間変化から超音波速度変化データが次式(2)で算出できる。
V’/V = τ/(τ+Δτ) ・・・(2)
したがって、測定した2つの超音波エコー信号から関心領域におけるパルス間隔(τ)、波形シフト量(Δτ)を算出し、式(2)に基づいて各部位での超音波速度の変化(超音波速度変化比(V’/V))を算出する。
【0007】
続いて、算出された各部位の超音波速度変化比(V’/V)に基づいて、この値が1より小さい部位(加温に対する超音波速度変化が負の領域)を脂肪領域と判定する。
すなわち、水中および脂肪中を伝播する超音波速度は37℃のとき水中音速が1524m/秒、脂肪中音速が1412m/秒であるが、温度変化に対する超音波速度変化を比較すると、以下の通りである。
水: +2 m/秒・℃
脂肪: −4 m/秒・℃
よって、水分が多く含まれる筋肉や内臓(肝臓等)は温度が上がると超音波速度が増加するのに対し、脂肪部分では超音波速度が減少することになり、超音波速度変化の極性が反転する。
そこで、測定領域を温度変化させたときに超音波速度変化が負となる領域を特定すれば脂肪領域の検出を行うことができる。
【0008】
そして、アレイ型探触子を走査して受波した多数本の超音波エコー信号による超音波速度変化の解析結果から、超音波速度変化の二次元分布を画像化して表示装置に表示することにより、脂肪領域が他の部位と明確に分けて画像表示される。
【0009】
また、加温用に超音波エネルギーを利用した脂肪診断装置も提案されている。すなわち、加温用の超音波ビームを発するプローブを加熱源として、これを超音波診断用プローブに隣接して配置し、超音波ビームにより加温を行うようにして加温前後の超音波速度変化を測定することで血管プラークの脂質性組織の画像診断を行う血管プラーク画像診断装置が提案されている(特許文献2参照)。
【0010】
また、画像診断用の主プローブと加温用の副プローブとをプローブホルダに取り付け、主プローブからの超音波(信号)の進行方向と副プローブからの超音波(エネルギー)の進行方向とが同軸方向になるようにした技術が開示されている(特許文献3参照)。
具体的には、図10に示すように、従来の脂肪診断用超音波プローブ100では、超音波が伝播する伝播液(水、オイル等)を充填したプローブホルダ101の上面と側面とに、画像診断用の多チャンネルの主プローブ102と、加温用の副プローブ103とを取り付けてある。そしてプローブホルダ101内に設けた切替ミラー104の位置を切り替えることにより、主プローブ102からの超音波を直進させるか、副プローブ103からの超音波を切替ミラー104で反射させるかにより、いずれか一方からの超音波が選択的に(シリコーンゴムシートが窓材として取り付けられた)出射口105から被検体に照射することができるようにしてある。これにより、主プローブ102による画像診断で特定した測定位置(画像中央の位置)に対し、副プローブ103で正確かつ同軸状に加温できるようにするとともに、共通の出射口105から照射することで、肋骨の間の狭い幅からでも安全に超音波による加温ができることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−005271号公報
【特許文献2】特開2013−070704号公報
【特許文献3】特開2016−013176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献3に記載された脂肪診断用超音波プローブを使用すると、プローブの出射口を肋骨間の隙間に当接して超音波による加温を行うことができ、光加温に比べて体表から深い部位でも加温することができるので、例えば肋骨間から生体深部に位置する肝臓の脂肪診断が可能になる。
【0013】
ところで、図10に示した脂肪診断用超音波プローブ100によれば、副プローブ103で加温を行うときには、切替ミラー104を副プローブ103から照射される超音波の軸線上(図10の点線の位置)に配置させる。また、主プローブ102で超音波エコー信号の測定を行うときには、切替ミラー104を退避位置(図10の実線の位置)に移動させる必要があり、これを伝播体中で行う必要があるため、切替ミラー104の駆動機構が必要になるとともに構造が複雑になっていた。
【0014】
そこで、本発明は、主プローブからの超音波と副プローブからの超音波とを、駆動機構を用いることなく同軸状に照射することができる脂肪診断用超音波プローブを提供することを目的とする。
なお、以下の説明では、主プローブから出射される診断用の超音波を「超音波信号」とし、副プローブから照射される加温用の超音波を「超音波エネルギー」とする。前者はパルス波で出射され、後者は連続波で照射される。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するためになされた本発明の脂肪診断用超音波プローブは、プローブホルダに主プローブと副プローブとが装着され、前記主プローブから出射される診断用の超音波信号と前記副プローブから出射される加温用の超音波エネルギーとが前記プローブホルダ内に充填された伝播体内を伝播して被検体に照射される脂肪診断用超音波プローブであって、前記プローブホルダは、前記主プローブからの前記超音波信号が前記伝播体を直進通過する軸線上に、当該軸線が斜めに入射するように傾斜配置され、かつ、前記副プローブから出射される超音波エネルギーを反射して前記軸線の延長方向に照射させる平板部材が固定され、前記平板部材は、前記主プローブからの前記超音波信号がラム波A0モードの伝播特性で前記平板部材内を伝播することによって前記平板部材を通過し、さらに前記軸線の延長方向に進行することができるように、前記超音波信号の周波数および前記伝播体の材料に応じて、ラム波A0モードの伝播条件を満たす前記軸線に対する前記平板部材の傾斜角度、前記平板部材の材料、前記平板部材の厚さが設定されるようにしてある。
【0016】
本発明では、板ガラス等の遮音性能で問題になる「コインシデンス効果」を、超音波プローブに利用する。例えば窓ガラス(平板部材)に外部の騒音(音波)が入射したとき、通常の周波数の音波は、窓ガラス(平板部材)により吸収されて減衰(透過損失が生じる)することにより、遮音効果が得られることになる。一方、特定の周波数域の音波が入射し、平板部材に平行な成分が平板部材上を伝播する屈曲波(ラム波)として共振するようになると、音波が窓ガラスを透過(透過損失が低下)するようになり、遮音効果が得られなくなる。この現象がコインシデンス効果として知られている。
【0017】
本発明は、主プローブから出射される超音波信号の軸線上に傾斜配置された平板部材に対し、コインシデンス効果を積極利用して当該超音波信号を透過させるものである。具体的には、主プローブで発生する超音波信号の周波数およびプローブホルダ内の伝播体の材料に応じて、平板部材の傾斜角度、材料、厚さを選択することで、入射する超音波信号を平板部材で共振させてラム波を伝播させ、平板部材を透過させて軸線の延長方向に超音波信号が直進するようにしている。
一方、副プローブは、照射される超音波エネルギーが平板部材で反射され、主プローブの軸線の延長方向に照射されるように(プローブホルダに取り付ける角度を設定して)プローブホルダに装着する。
これにより、主プローブからの超音波信号は、固定された平板部材を、コインシデンス効果を利用して透過することで軸線の延長方向に直進するようになる。また、副プローブからの超音波エネルギーは、固定された平板部材で反射されて主プローブの軸線の延長方向に進行するようになる。
【0018】
なお、脂肪診断用超音波プローブで使用する2MHz〜15MHzの超音波周波数帯域では、後述する解析計算により「ラム波A0モード」で平板部材を伝播していることになる。
【0019】
ここで、主プローブからの超音波信号の周波数が2MHz〜15MHzの範囲内であり、副プローブからの加温用の超音波エネルギーは0.5MHz〜2MHzの範囲内であるのが好ましい。
これにより、0.5MHz〜2MHzの範囲の超音波エネルギーで生体深くまで加温ができるようになり、通常の肝臓の超音波画像診断(Bモード画像診断)で用いられる2MHz〜15MHzの範囲の超音波信号を送波して超音波エコー信号を受波することで、脂肪肝の診断に応用できるようになる。
【0020】
また、平板部材の板厚は0.02mm〜2mmで設定するのが望ましい。平板部材の板厚がこれよりも薄いと、平板部材が破損しやすく外部振動等のノイズの影響を受けやすくなる。逆に、平板部材の板厚がこれよりも厚いと、平板部材による超音波の吸収が大きくなり、主プローブからの超音波信号が十分な強度で平板部材を通過することが困難になる。
【0021】
また、上記発明において、軸線に対する平板部材の傾斜角度が略45°であってもよい。
主プローブからの超音波信号の軸線に対する平板部材の傾斜角度を略45°に設定することで、副プローブから出射する超音波エネルギーの方向を、主プローブからの超音波信号の軸線に対して略90°にすることができるので、主プローブの出射方向を鉛直方向、副プローブの出射方向を水平方向にすればよく、プローブホルダの上面と側面へ各プローブを取り付けるときの角度調整が容易になる。
【0022】
また、上記発明において、平板部材の材料が金属板、またはガラス板、またはその他のラム波が伝播可能な固体板であってもよい。
ここで、金属板にはアルミニウム、鉄、ステンレス等が利用できる。ガラス板にはソーダガラス、石英ガラス等が利用できる。また、アクリル板等の樹脂板も利用できる。さらに、その他の材料でも表面が平坦でラム波が伝播可能な材料であれば使用できる。
また、伝播体が水、またはオイル、またはその他の液体材料であってもよい。
ここで、オイルにはシリコーンオイル、潤滑油、スピンドル油、食用油等が利用できる。また、アセトン、アルコール等のその他の液体材料であってもよい。
【0023】
また、プローブホルダは、超音波信号の周波数に応じて板厚が異なる平板部材が交換可能に取り付けられるようにしてもよい。
周波数が異なる主プローブを差し替えてプローブホルダに取り付け、これに合わせて平板部材を差し替えることで、異なる周波数での脂肪診断が可能になる。
なお、平板部材や伝播体の材料をそれぞれ1種類に固定しておけば、主プローブの周波数に応じて交換するときの板厚が異なる平板部材の数を少なくすることができ、平板部材や伝播体の選択の種類を増やせば、その分だけ交換用の平板部材の数を増やす必要がある。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、駆動機構を用いることなく、主プローブからの超音波信号と副プローブからの超音波エネルギーとの軸線を同軸状にして照射することができる脂肪診断用超音波プローブを実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の一実施形態である脂肪診断用超音波プローブの構成を示す断面図。
図2】副プローブの構成を示す図。
図3】本発明の脂肪診断用超音波プローブを用いた脂肪診断システムの一例を示す外観図。
図4図3の脂肪診断システムの構成を示すブロック図。
図5】本発明の実施形態における透過確認実験の測定系を示す図。
図6】透過確認実験での透過超音波信号の波形を示す図。
図7A】透過確認実験での透過超音波信号の波形を示す図。
図7B】透過確認実験での透過超音波信号の波形を示す図。
図8】平板部材をアルミニウム板としたときの位相速度分散曲線を示す図。
図9】加温前と加温後の超音波エコー信号を示す模式図。
図10】従来の脂肪診断用超音波プローブを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施形態について説明する。以下では、まず、本発明に係る脂肪診断用超音波プローブの全体構造、および、これを用いた脂肪診断システムの全体構成を説明する。続いて、コインシデンス効果による透過確認実験の説明を行い、さらに本発明に関係するラム波A0モードの説明とその利用について説明する。
【0027】
図1は本発明の一実施形態である脂肪診断用超音波プローブの構成を示す断面図である。超音波プローブ1は、診断用の多チャンネルの主プローブ2、および、加温用で1チャンネルの副プローブ4を装着して一体保持するプローブホルダ5を備えている。
【0028】
主プローブ2には、多チャンネル(例えば128個の振動子)のアレイ型プローブ(市販品)が使用され、各チャンネルからパルス波の超音波信号を走査しながら送波し、生体からの超音波エコー信号を受波するようにしてある。そしてチャンネル数と同じ本数の超音波エコー信号が後述する超音波診断装置11(図3)に送られると、Bモード画像等の超音波画像が形成され、超音波診断装置11の表示画面に表示される。
主プローブ2の各チャンネルからは、1本ずつ超音波信号が出射されるので、超音波信号の進行方向となる「軸線」は出射される本数分だけ存在することになる。これらのうち、副プローブ4からの加温用の超音波エネルギーと、平板部材5aを通過後に同軸になる1つの軸線を「軸線L」とする。
本実施形態では、多チャンネルの圧電素子のうちの中央位置の圧電素子から照射される1ラインの超音波信号の軸線を「軸線L」と選定しており、副プローブ4から出射される超音波エネルギーについても、平板部材5aで反射後はこの軸線Lを中心にして同軸状に照射されるようにプローブホルダ5に取り付けるようにしてある。
【0029】
主プローブ2から照射される超音波の中心周波数は、通常の画像診断と同様に、測定部位の深さ、画像の分解能に応じて、超音波の中心周波数が2MHz〜15MHzの範囲から選択される。ここでは例えば5MHzの超音波を発振する圧電素子(トランスデューサ)が使用されるものとする。
【0030】
副プローブ4には、図2に示すように、1チャンネルの振動子4aからなる円筒状のプローブが用いられる。この振動子4aには加温用の超音波を照射可能なる大出力用の圧電素子が用いられ、また、振動子4aの周囲には放熱部材が設けられ、副プローブ4は主プローブ2に比べるとタフな構造に作られるとともに十分に放熱が行われるようにしてある。
副プローブ4から照射される超音波エネルギーの中心周波数は、生体による吸収が小さく生体の深くまで加温できるように0.5MHz〜2MHzの範囲から選択される。
【0031】
プローブホルダ5は四方が側壁5bで囲まれた方形体からなり、上面は水平断面が方形である主プローブ2が挿入される開口5cにしてある。また、側壁5bの一面には開口5eが形成してあり、ここに副プローブ4が取り付けてある。
下面は主プローブ2からの超音波信号、副プローブ4からの超音波エネルギーを出射するための開口(出射口)5dとしてあり、これらの超音波が通過可能なシリコーンゴム等のシート5fを窓材として開口5dを塞ぐようにしてある。このシート5fは、超音波を伝播させる流動性の伝播体3をプローブホルダ5内に充填するために設けられている。また、超音波の拡散を抑える音響レンズとして用いられるようにしてもよい。
伝播体3は水、オイルのように音速が既知の材料(例えば水の37℃の音速は1524m/s)のものが使用される。
なお、伝播体3とシート5fとは、音響インピーダンスの近いものが望ましい。シート5f(音響レンズ)としてシリコーンゴムを用いた場合、シリコーンゴムの音速は1000m/s程度であるため、インピーダンスマッチングの点からは音速が比較的近いシリコーンオイル(1275m/s)を伝播体3の材料とすることが好ましい。
【0032】
プローブホルダ5内には、主プローブ2から出射する超音波信号の軸線L上に、この軸線Lに対し45°傾斜させて平板部材5aが固定してある。なお、主プローブ2の軸線L以外の他のチャンネルから出射される超音波の軸線に対しても平板部材5aは45°傾斜するようにしてある。
【0033】
平板部材5aは、主プローブ2からの超音波信号が透過できる板厚のものを取り付けてある。具体的には、あらかじめ、板厚が異なる複数の候補の中から後述する透過確認実験と同様の手法により、主プローブ2の軸線Lに対し、45°に傾斜させた状態で最も透過性能が優れた板厚のもの、すなわちラム波が伝播可能な条件(共振条件)となる最適な板厚のものを実験的に求めて平板部材5aとして採用するようにしてある。
このときの平板部材5aの最適化については、ラム波の伝播特性を表す速度分布曲線(図8)を導出し、これを板厚等の最適化に利用する手法が好ましいので、その方法については後述する。
【0034】
次に、上述した脂肪診断用超音波プローブ1の使用態様について説明する。図3は本発明に係る脂肪診断用超音波プローブ1を用いた脂肪診断システム10を示す外観図であり、図4は脂肪診断システム10の構成を説明するためのブロック図である。
【0035】
この脂肪診断システム10は、図1で説明した脂肪診断用の超音波プローブ1(主プローブ2、副プローブ4、プローブホルダ5、平板部材5aを含む)と、超音波診断装置11と、制御ボックス12と、外部コンピュータ装置13とで構成される。
【0036】
超音波診断装置11には、主プローブ2を介して受波した生の超音波エコー信号(RF信号)を、外部に取り出すことができる外部出力端子を備えたものが用いられる。なお、市販の超音波診断装置の一部にはそのような外部出力端子を備えていないものがあるので、その場合は外部出力端子増設用の増設カードを取り付ける等の簡単な作業により外部出力端子を増設しておく。
超音波診断装置11は、外部出力端子から信号ケーブル14を介して、制御ボックス12に超音波エコー信号を伝送するようにしてある。
【0037】
制御ボックス12は、信号ケーブル14を介して超音波診断装置11の外部出力端子から送られてくる超音波エコー信号を受波するパルサ・レシーバ回路33、受波した超音波エコー信号をデジタル信号化するA/D変換器34、外部コンピュータ装置13へ超音波エコー信号を送り出す伝送速度の調整処理を行うバッファメモリ35を備える。また、信号ケーブル15を介して副プローブ4から照射するための加温用の超音波連続波を発生する高周波電源31を備える。さらに、副プローブ4からの超音波エネルギーの照射の制御、パルサ・レシーバ回路33による超音波エコー信号の受波の開始および停止の制御、バッファメモリ35による超音波エコー信号の伝送制御を行うコントローラ36を備えている。
【0038】
外部コンピュータ装置13は、CPU、メモリ、入力装置(キーボード等)、表示装置(液晶パネル)を備えた汎用のパーソナルコンピュータ装置(例えばノート型パソコン)が用いられる。そして超音波診断装置11と主プローブ2とによって測定され、信号ケーブル14、制御ボックス12を介して伝送される超音波エコー信号を受け取る。超音波エコー信号は、少なくとも副プローブ4で加温可能な領域に含まれる超音波エコー信号の本数分を受け取る。この超音波エコー信号は、主プローブ2を動かさずに加温前と加温後との合計2回測定されるので、それぞれを「加温前超音波エコー信号」と「加温後超音波エコー信号」として、同じ本数の超音波エコー信号のデータが記憶される。
【0039】
そして加温前超音波エコー信号と加温後超音波エコー信号に、既述の(2)式による計算を行い、超音波速度変化(ここでは超音波速度比)を算出し、さらに脂肪診断に必要な演算処理を行う。
すなわち、図9で説明した従来例と同様の原理・方法で、加温後に受波した超音波エコー信号と、加温前に受波した超音波エコー信号とに基づいて、加温前後の超音波エコー信号の波形シフト量(Δτ)の計算を行い、また、測定領域内の組織の境界間のパルス間隔(τ)を算出する処理を行う。そして式(2)に基づいて、各部分区間の超音波速度比(V’/V)を算出する処理を行う。
【0040】
外部コンピュータ装置13では、主プローブ2にて受波した複数本の超音波エコー信号データを演算処理するため、算出結果は、副プローブ4で加温された領域について超音波速度変化画像や脂肪分布画像の形成が可能な量のデータとなっている。したがって、伝送される超音波エコー信号データにより、外部コンピュータ装置6の表示画面に、超音波速度変化画像、さらには脂肪分布画像の画像表示を行うことができる。
また、表示した画面上で特定の測定ポイントを指定すれば、当該測定ポイントに対応する超音波エコー信号に基づいて、超音波速度比の値や脂肪情報(脂肪判定、脂肪割合)の演算結果を表示装置に数値表現することもできる。
【0041】
(超音波信号の透過確認実験)
超音波信号がコインシデンス効果により平板部材を透過して直進することを確認する実験結果について説明する。図5は、実験に用いた測定系を示す図である。
超音波信号の伝播体としての水が充填された容器内に、平板部材を挟んで上側に送波側トランスデューサ、下側に受波側トランスデューサを直線状に配置する。平板部材は水平方向を0°として傾斜角度θを調整できるようにしてある。
パルサ・レシーバ回路(PANAMETRICS-NDT、Model5077R)は、送波側トランスデューサに5MHzのパルス波の超音波信号を出力するとともに、受波側トランスデューサで受波した透過超音波信号が入力される。この透過超音波信号はオシロスコープで検出されるようにしてある。
平板部材にはアルミニウムの薄板を使用し、板厚と傾斜角度を変化させたときの超音波の透過特性を確認した。
【0042】
図6は平板部材の板厚tを0.1mm、0.2mm、0.3mmとし、傾斜角度θが0°、45°で透過特性を測定した透過超音波信号の波形を示す図である。比較のために平板部材を設けずに直接受波した透過超音波信号(生信号という)も示してある。
傾斜角度が0°のときは、生信号に比べて透過超音波信号は大きく減衰しており、特に板厚が厚くなるにつれて減衰が大きくなっている。
傾斜角度が45°のときは、板厚が0.3mmのときの透過超音波信号は大きく減衰しているが、板厚が0.2mm、0.1mmではあまり減衰しておらず、特に0.2mmでの生信号に対する透過超音波信号の強度比は90%であり、優れた透過特性を有している。
【0043】
図7は平板部材の板厚tを0.2mmとし、傾斜角度を0°〜70°で変化させたときの透過超音波信号の波形を示す図ある。傾斜角度が46°のときに透過小音波信号が最大となっている。
【0044】
以上のことから、伝播体を水とし、平板部材の材料をアルミニウム板とし、超音波周波数を5MHzとしたときに、傾斜角度を約45°に設定すると、板厚を0.2mmに加工することでコインシデンス効果により超音波信号が平板部材を透過できることが確認された。
【0045】
伝播体の材料(水、オイル)、平板部材の材料(ガラス、他の金属)、超音波周波数(2MHz〜15MHz)、傾斜角度、板厚を変更すれば、コインシデンス効果が得られる共振条件が変化するので、これらのいずれかのパラメータを変更して最適条件を実験的に探すようにすれば、他の条件でも本発明を実施できることはいうまでもない。
【0046】
(平板部材中の超音波の伝播解析)
上述したように、コインシデンス効果が得られる条件(共振条件)については、あらかじめ、板厚や超音波信号等のパラメータの初期値を定め、適当な範囲で変化させて最適化していくことで実験的に求めることができるが、最適化のためのパラメータの初期値を設定する際に、波動方程式から理論的に導き出した伝播特性を利用することが好ましい。
平板部材中を伝播する超音波は、波動方程式から導出されるRayleigh-Lamb方程式により表され、この方程式から板波であるラム波(Lamb波)の位相速度の分散曲線を算出する研究がなされているので、これを利用する(例えば下記文献A参照)。
【0047】
文献A:計測自動制御学会東北支部第251回研究集会(2009.7.15)「平板中のガイド波の伝搬解析」 高村周平、今野和彦 国立大学法人秋田大学 工学資源学部
【0048】
平板部材に超音波が斜め入射すると、ラム波が平板部材中を伝播する。ラム波には平板部材の上下面が対称に伸縮・屈曲するSモード(Symmetric)と非対称に伸縮・屈曲するAモード(Anti−symmetric)の屈曲波が存在する。Sモードは基本モードから高次モードの順にS0、S1、S2・・・モードが存在し、また、Aモードは基本モードから高次モードの順にA0、A1、A2・・・モードが存在する。
Sモード、Aモードの伝播特性は、Sモードが次式(3)、Aモードが次式(4)で表すことができ、Rayleigh-Lamb方程式と呼ばれている。
そして次式(5)により、ラム波(屈曲波)の位相速度cの速度分散曲線を算出することができる。
【0049】
【数1】
【0050】
ここで、kは波数、dは板厚、ωは角周波数、cはラム波の位相速度である。c、cは平板部材材料で定まる横波音速、縦波音速である。
【0051】
図8は、平板部材の材料がAl(アルミニウム)板(すなわちc=6400m/s、c=3040m/s)であるとして、算出された位相速度分散曲線を示す図である。
この分散曲線上は縦軸が位相速度cであり、横軸が超音波周波数×板厚である。外部伝播体(水)から伝送されてきた超音波が、平板部材に斜めに入射するとき、外部伝播体(水)の音速V(例えば1524m/sとする)と、平板部材中の伝播速度V(=c)とは、幾何学的関係から次式(6)を満たすことで、外部伝播体(水)の音圧分布が平板部材上で同期し、超音波が平板部材に伝播されることになる。
Vsinα=V ・・・(6)
ここで、αは入射角であり、θ+α=90°の関係をなす。
【0052】
そして、超音波周波数を5MHz、板厚t(=d)を0.2mmとし、図8の位相速度分散曲線から、伝播可能な伝播モードの位相速度Vを読み取る(横軸「周波数×板厚」が1MHzmmのときの位相速度)と、A0モード(約2200m/s)とS0モード(5400m/s)とが該当するが、
式(6)を満たすことができるαがA0モードに存在することになる。
すなわち、水の音速V=1524m/sと、A0モードの位相速度V=2200m/sとから、
sinα=1540/2200
となり、
α=44°で伝播可能となる。
【0053】
図7の実験結果ではθ=46°(すなわちα=44°)のときに最も透過特性が優れているが、これは平板部材内をA0モードで超音波信号が伝播されて透過したことに対応している。
【0054】
なお、S0モード(V=5400m/s)による伝播はθ=73°〜74°(α=16°〜17°)となり、平板部材への入射角が浅すぎるためS0モードでの透過特性を利用することは困難である。
【0055】
また、以上の例では、先に周波数(f)と板厚(t)とを決定し、これらから決定される「周波数×板厚」に対応するA0モードの位相速度(V)と外部音速(V)から入射角αを求めるようにした。
これに対し、先に入射角α(例えばα=45°(すなわちθ=45°))と外部伝播体(水)の音速V(水では1524m/s)とを決定し、これらの値と式(6)とから一義的に算出される位相速度(V)の値に対応するA0モードの「超音波周波数×板厚」の値を図8から読み取り、使用する超音波周波数に応じて板厚を定めたり、使用する板厚に応じて超音波周波数を定めたりするようにしてもよい。
【0056】
そして、位相速度分散曲線を用いて決定したパラメータを初期値として、平板部材の板厚を微調整することで伝播特性が優れた板厚の平板部材を容易に得ることができるようになる。
【0057】
以上は、平板部材5aの傾斜角度θが45°で材料がアルミニウム板のもの、伝播体に水、超音波周波数を5MHzとして説明したが、いずれかのパラメータを変更してもよいことはいうまでもない。
例えば、平板部材5aを取り付ける傾斜角度θを30°〜60°程度の範囲で変更してもよい。なお、その場合は副プローブ4をプローブホルダ5に取り付ける角度を調整し、平板部材5aに反射させた後の副プローブ4の軸線が軸線Lと同軸となるようにする必要がある。
また、平板部材5aをガラス板やステンレス板等に変更してもよい。その場合は式(5)における平板部材5a中の音速(c、c)を材料ごとに変更し、それぞれの材料についての速度分散曲線を算出することになる。
また、伝播体3を水からオイルに変更したときは、音速Vをオイルの音速に変更して計算することになる。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明は脂肪診断用超音波プローブとして利用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 脂肪診断用超音波プローブ
2 主プローブ(診断用多チャンネル超音波プローブ)
3 伝播体(水)
4 副プローブ(加温用超音波プローブ)
4a 1チャンネルトランスデューサ
5 プローブホルダ
5a 平板部材
11 超音波診断装置
12 制御ボックス
13 外部コンピュータ装置
14、15 信号ケーブル
31 高周波電源
33 パルサ・レシーバ回路
34 A/D変換器
35 バッファメモリ
36 コントローラ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10