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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-171412(P2017-171412A)
(43)【公開日】2017年9月28日
(54)【発明の名称】クリーンルーム構造体
(51)【国際特許分類】
   B66B 9/00 20060101AFI20170901BHJP
   E04H 5/02 20060101ALI20170901BHJP
   H01L 21/02 20060101ALI20170901BHJP
【FI】
   B66B9/00 D
   E04H5/02 B
   H01L21/02 D
【審査請求】有
【請求項の数】3
【出願形態】OL
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-56234(P2016-56234)
(22)【出願日】2016年3月18日
(71)【出願人】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000108890
【氏名又は名称】株式会社ダイキンアプライドシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 和夫
【テーマコード(参考)】
3F301
【Fターム(参考)】
3F301AA05
3F301BA15
3F301BB07
3F301BB21
(57)【要約】
【課題】昇降装置が併設されるクリーンルーム構造体に関し、併設される昇降装置の構成を変更することなく、安価に且つ容易に昇降路からクリーンルームへの空気の侵入を抑制する。
【解決手段】内部にクリーンルーム(S1)を区画する一方、シャフト外殻(30)とキャリッジ(40)とを有して階上又は階下に物品(2)を搬送する昇降装置(1)が併設されるクリーンルーム構造体(10)の1つの側壁(20)を、シャフト外殻(30)の外壁面(31)に沿うように設けられ、該外壁面(31)に形成された搬出入口(34)に対応して開口する側壁開口(14)が形成された側壁本体(21)と、該側壁本体(21)に取り付けられて昇降路(60)内の空気がクリーンルーム(S1)に侵入しないように側壁開口(14)を閉塞するエアタイト扉(22)とで構成する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にクリーンルーム(S1,S2)を区画する一方、内部に昇降路(60)を形成するシャフト外殻(30)と該昇降路(60)において昇降するキャリッジ(40)とを有して階上又は階下に物品(2)を搬送する昇降装置(1)が併設されるクリーンルーム構造体であって、
上記クリーンルーム構造体の1つの側壁(20)は、
上記シャフト外殻(30)の外壁面(31)に沿うように設けられ、該外壁面(31)に形成された搬出入用の開口(34)に対応して開口する側壁開口(14)が形成された側壁本体(21)と、
上記側壁本体(21)に取り付けられ、上記昇降路(60)内の空気が上記クリーンルーム(S1,S2)に侵入しないように上記側壁開口(14)を閉塞するエアタイト扉(22)とで構成されている
ことを特徴とするクリーンルーム構造体。
【請求項2】
請求項1において、
上記エアタイト扉(22)は、上記側壁開口(14)よりも大きい外形を有し、上記クリーンルーム(S1,S2)側から上記側壁本体(21)に取り付けられて上記側壁開口(14)を閉塞するように構成されている
ことを特徴とするクリーンルーム構造体。
【請求項3】
請求項1又は2において、
上記エアタイト扉(22)の上記側壁開口(14)を閉塞する閉状態から該側壁開口(14)を開放する開状態への移動を禁止するロック状態と、上記エアタイト扉(22)の上記閉状態から上記開状態への移動を許容するアンロック状態とを切り換えるロック機構(70)を備え、
上記ロック機構(70)は、上記キャリッジ(40)の動作停止時にのみ上記アンロック状態に切り換え可能に構成されている
ことを特徴とするクリーンルーム構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部にクリーンルームを区画し、階上又は階下の室内との間において物を搬送する昇降装置が併設されるクリーンルーム構造体に関し、特に、昇降路からクリーンルームへの空気侵入対策に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体や薬品等を製造する工場等の施設において、クリーンルームを区画するクリーンルーム構造体に、階上又は階下の作業室内へ物品を搬送するための昇降装置を併設することがある(下記の特許文献1を参照)。
【0003】
図4に示すように、この種のクリーンルーム構造体(110)では、併設される昇降装置(100)のシャフト外殻(130)の一側面が、クリーンルーム構造体(110)の側壁の一部を構成している。そのため、シャフト外殻(130)に形成された物品の搬出入口(134)は、クリーンルーム(S1,S2)において開口する。一方、シャフト外殻(130)には、搬出入口(134)を開閉する扉(135)が設けられている。そのため、扉(135)を閉じると、搬出入口(134)が閉塞され、シャフト外殻(130)内に形成されるキャリッジ(140)の昇降路(160)とクリーンルーム(S1,S2)とが遮断されることとなる。
【0004】
しかしながら、上記クリーンルーム(S1,S2)では、シャフト外殻(130)の搬出入口(134)を単なる板状の扉(135)によって塞ぐだけの構造であるため、シャフト外殻(130)の側壁(131)と扉(135)との間が、気密性の高い構造となっていない。そのため、キャリッジ(140)が昇降する際に、昇降路(160)に空気の流れが生じ、シャフト外殻(130)の側壁(131)と扉(135)との隙間から昇降路(160)内の清浄度の低い空気がクリーンルーム(S1,S2)内に侵入するおそれがあった(図4の矢印を参照)。
【0005】
これに対し、下記の特許文献2では、昇降装置を改造し、昇降路内を流通する空気を清浄化する一方、昇降路からクリーンルームへの空気の流入を抑制している。具体的には、特許文献2では、シャフト外殻に形成された給気口及び排気口にHEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタを設け、ファンによって清浄空気が昇降路の内外において循環するように構成している。また、シャフト外殻の搬出入口を閉塞する扉が閉じている際に、昇降路内の空気が外部に漏れないように扉をシャフト外殻に押し付ける押圧機構が設けられている。さらに、シャフト外殻とキャリッジの両扉の開放時に、シャフト外殻内に進出して両扉の隙間を塞ぐ筒状部材を設け、両扉の開放時に、両扉の隙間を介して昇降路からクリーンルームへ清浄度が低い空気(クリーンルームに比べて)が流入することを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−14758号公報
【特許文献2】特許5565330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2に開示されたクリーンルーム向けの特殊仕様の昇降装置では、HEPAフィルタを用いたり、押圧機構や筒状部材を設けたりしている。そのため、上記特許文献2のクリーンルーム構造体では、上述した特殊仕様の昇降装置を用いることで、昇降路からクリーンルームへの清浄度が比較的低い空気の流入を抑制することはできたとしても、通常仕様の昇降装置を用いる場合に比べてコストが高くなり、また、構造も複雑化するという新たな問題が発生する。
【0008】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、昇降装置が併設されるクリーンルーム構造体に関し、併設される昇降装置の構成を変更することなく、安価に且つ容易に昇降路からクリーンルームへの空気の侵入を抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第1の発明は、内部にクリーンルーム(S1,S2)を区画する一方、内部に昇降路(60)を形成するシャフト外殻(30)と該昇降路(60)において昇降するキャリッジ(40)とを有して階上又は階下に物品(2)を搬送する昇降装置(1)が併設されるクリーンルーム構造体であって、上記クリーンルーム構造体の1つの側壁(20)は、上記シャフト外殻(30)の外壁面(31)に沿うように設けられ、該外壁面(31)に形成された搬出入用の開口(34)に対応して開口する側壁開口(14)が形成された側壁本体(21)と、上記側壁本体(21)に取り付けられ、上記昇降路(60)内の空気が上記クリーンルーム(S1,S2)に侵入しないように上記側壁開口(14)を閉塞するエアタイト扉(22)とで構成されている。
【0010】
第1の発明では、クリーンルーム構造体(10)の1つの側壁(20)が、昇降装置(1)のシャフト外殻(30)の外壁面(31)に沿う側壁本体(21)と、該側壁本体(21)に形成された側壁開口(14)を閉塞するエアタイト扉(22)とで構成されている。つまり、昇降装置(1)の昇降路(60)とクリーンルーム(S1,S2)との間は、シャフト外殻(30)とクリーンルーム構造体(10)の側壁(20)との2重の壁で仕切られることとなる。また、クリーンルーム構造体(10)の側壁(20)を、側壁本体(21)とエアタイト扉(22)とで気密性の高い構造に構成している。そのため、昇降路(60)においてキャリッジ(40)が昇降する際に、昇降路(60)において空気の流れが生じ、シャフト外殻(30)と搬出入用の開口(34)を塞ぐ扉(35)との隙間から昇降路(60)内の清浄度の低い空気が漏れ出したとしても、清浄度の低い空気は、クリーンルーム構造体(10)の気密性の高い側壁(20)によってクリーンルーム(S1,S2)内への侵入を阻まれることとなる。
【0011】
第2の発明は、第1の発明において、上記エアタイト扉(22)は、上記側壁開口(14)よりも大きい外形を有し、上記クリーンルーム(S1,S2)側から上記側壁本体(21)に取り付けられて上記側壁開口(14)を閉塞するように構成されている。
【0012】
ところで、クリーンルーム(S1,S2)は、外部の空気が流入しないように、大気圧よりも高い圧力雰囲気となるように制御される。
【0013】
そのため、上記第2の発明のように、エアタイト扉(22)を、側壁開口(14)よりも大きい外形に形成し、クリーンルーム(S1,S2)側から側壁本体(21)に取り付けて側壁開口(14)を閉塞するように構成すると、クリーンルーム(S1,S2)の内外の圧力差により、エアタイト扉(22)が側壁本体(21)に押し付けられることとなる。
【0014】
第3の発明は、第1又は第2の発明において、上記エアタイト扉(22)の上記側壁開口(14)を閉塞する閉状態から該側壁開口(14)を開放する開状態への移動を禁止するロック状態と、上記エアタイト扉(22)の上記閉状態から上記開状態への移動を許容するアンロック状態とを切り換えるロック機構(70)を備え、上記ロック機構(70)は、上記キャリッジ(40)の動作停止時にのみ上記アンロック状態に切り換え可能に構成されている。
【0015】
第3の発明では、キャリッジ(40)の動作が停止しているときにのみ、エアタイト扉(22)の側壁開口(14)を閉塞する閉状態から該側壁開口(14)を開放する開状態への移動を禁止するロック状態が解除されてアンロック状態となるように構成されている。これにより、キャリッジ(40)の動作中には、昇降路(60)内に空気の流れが生じるが、エアタイト扉(22)の閉状態からから開状態への移動が禁止されるため、誤ってエアタイト扉(22)を開いて昇降路(60)内の清浄度の低い空気がクリーンルーム(S1,S2)に流入することがない。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、クリーンルーム構造体(10)の1つの側壁(20)を、昇降装置(1)のシャフト外殻(30)の外壁面(31)に沿う側壁本体(21)と、該側壁本体(21)に形成された側壁開口(14)を閉塞するエアタイト扉(22)とで構成することとした。つまり、昇降装置(1)の昇降路(60)とクリーンルーム(S1,S2)との間を、シャフト外殻(30)とクリーンルーム構造体(10)の側壁(20)との2重の壁で仕切ることとした。さらに、クリーンルーム構造体(10)の側壁(20)を、側壁本体(21)とエアタイト扉(22)とで気密性の高い構造に構成した。そのため、昇降路(60)においてキャリッジ(40)が昇降する際に、昇降路(60)において空気の流れが生じ、シャフト外殻(30)と搬出入用の開口(34)を塞ぐ扉との隙間から昇降路(60)内の清浄度の低い空気が漏れ出したとしても、清浄度の低い空気は、クリーンルーム構造体(10)の気密性の高い側壁(20)によってクリーンルーム(S1,S2)内への侵入を阻まれる。よって、上記クリーンルーム構造体(10)の構成によれば、昇降装置(1)の構成を変更することなく、安価に且つ容易に昇降路(60)からクリーンルーム(S1,S2)への空気の侵入を抑制することができる。
【0017】
また、第2の発明によれば、エアタイト扉(22)を、側壁開口(14)よりも大きい外形に形成し、クリーンルーム(S1,S2)側から側壁本体(21)に取り付けて側壁開口(14)を閉塞するように構成し、クリーンルーム(S1,S2)の内圧が、大気圧よりも高い圧力雰囲気に調整されることを利用して、クリーンルーム(S1,S2)の内外の圧力差によってエアタイト扉(22)を側壁本体(21)に押し付けることとした。そのため、押圧機構等を用いることなく、エアタイト扉(22)を側壁本体(21)に押し付けて気密性を高めることができる。よって、キャリッジ(40)の昇降時における昇降路(60)からクリーンルーム(S1,S2)への空気の侵入をより抑制することができる。
【0018】
第3の発明によれば、エアタイト扉(22)の側壁開口(14)を閉塞する閉状態から該側壁開口(14)を開放する開状態への移動を禁止するロック状態と閉状態から開状態への移動を許容するアンロック状態とを切り換えるロック機構(70)を設け、キャリッジ(40)の動作が停止しているときにのみ、ロック状態が解除されてアンロック状態となるように構成した。これにより、キャリッジ(40)の動作中には、昇降路(60)内に空気の流れが生じるが、エアタイト扉(22)の閉状態から開状態への移動が禁止されるため、誤ってエアタイト扉(22)を開いて昇降路内の清浄度の低い空気がクリーンルーム(S1,S2)に流入することを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は、本実施形態1に係るクリーンルーム構造体を適用したクリーンルーム施設の概略断面図である。
図2図2は、図1のクリーンルーム構造体部分を拡大した部分拡大図である。
図3図3は、図2において扉開放時の状態を示す動作図である。
図4図4は、従来のクリーンルーム構造体を適用したクリーンルーム施設の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0021】
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係るクリーンルーム構造体(10)を示している。クリーンルーム構造体(10)は、例えば、2階建て以上の薬品工場等の施設に設けられ、クリーンルーム(S1,S2)を内部に区画し、階上又は階下に物品(2)を搬送する昇降装置(1)が併設されるものである。
【0022】
図1に示すように、本実施形態では、工場内の1階と2階のそれぞれにクリーンルーム構造体(10)が設けられている。1階と2階のクリーンルーム構造体(10)は、同様に構成され、1階のクリーンルーム構造体(10)は、内部に第1クリーンルーム(S1)を区画し、2階のクリーンルーム構造体(10)は、内部に第2クリーンルーム(S2)を区画している。
【0023】
−構成−
〈昇降装置の構成〉
図1に示すように、昇降装置(1)は、第1クリーンルーム(S1)と第2クリーンルーム(S2)との間において物品(2)を搬送可能なように、2つのクリーンルーム構造体(10)に併設されている。昇降装置(1)は、シャフト外殻(30)とキャリッジ(40)と昇降機構(50)とを備えている。
【0024】
シャフト外殻(30)は、4つの側面パネル(31)と天井パネル(32)と底面パネル(33)とによって、縦長の直方形状の箱体に構成されている。シャフト外殻(30)の内部には、キャリッジ(40)が昇降する昇降路(60)が区画されている。シャフト外殻(30)は、工場の1階の床面から2階の天井面のさらに上方にまで延びている。
【0025】
シャフト外殻(30)の4つの側面パネル(31)のうち、第1及び第2クリーンルーム(S1,S2)に対向する側面パネル(外壁面)(31)には、キャリッジ(40)によって搬送される物品(2)を搬出・搬入するための搬出入口(34)が1階と2階とにそれぞれ1つずつ形成されている。2つの搬出入口(34)は、本実施形態では、矩形状に形成されている。また、シャフト外殻(30)は、2つの搬出入口(34)をそれぞれ閉塞する2つの扉(35)を備えている。本実施形態では、各扉(35)は、搬出入口(34)よりも大きい矩形状に形成され、搬出入口(34)が形成された側面パネル(31)の内壁面に沿ってスライドして搬出入口(34)を開閉するように構成されている。また、各扉(35)は、図示しない駆動機構によって駆動されてスライドするように構成されている。
【0026】
キャリッジ(40)は、シャフト外殻(30)の内部に収容され、昇降路(60)に設けられている。キャリッジ(40)は、キャリッジ本体(41)と、該キャリッジ本体(41)に形成された搬出入口(42)を開閉する扉(43)とを備えている。
【0027】
キャリッジ本体(41)は、シャフト外殻(30)の搬出入口(34)が形成された側面パネル(31)に対向する側面が開口する箱体によって構成されている。なお、キャリッジ本体(41)の開口は、矩形状に形成され、被搬送物である物品(2)を搬出・搬入するための搬出入口(42)を構成する。
【0028】
本実施形態では、扉(43)は、キャリッジ本体(41)の搬出入口(42)より大きい矩形状に形成され、キャリッジ本体(41)のシャフト外殻(30)の搬出入口(34)が形成された側面パネル(31)に対向する側面に沿ってスライドして搬出入口(42)を開閉するように構成されている。また、扉(43)は、図示しない駆動機構によって駆動されてスライドするように構成されている。
【0029】
昇降機構(50)は、吊り下げ機構(51)と駆動機構(52)とを備えている。吊り下げ機構(51)は、2つの定滑車と、該2つの定滑車に巻き架けられ、中途部にキャリッジ(40)が繋がれたチェーンとによって構成されている。なお、チェーンは、キャリッジ本体(41)の天井面と底面とに繋がれている。一方、駆動機構(52)は、吊り下げ機構(51)の定滑車を回転させるモータによって構成されている。
【0030】
昇降機構(50)では、このような構成により、モータが定滑車を正方向に回転駆動すると、チェーンに繋がれたキャリッジ(40)が上昇し、モータが定滑車を逆方向に回転駆動すると、チェーンに繋がれたキャリッジ(40)が下降する。
【0031】
〈クリーンルーム構造体の構成〉
図2に示すように、クリーンルーム構造体(10)は、4つの側壁(11)と天井(12)と床(13)とによって、直方形状の箱体に構成されている。クリーンルーム構造体(10)の内部には、上述のようにクリーンルーム(第1クリーンルーム(S1)、第2クリーンルーム(S2))が区画されている。4つの側壁(11)と天井(12)と床(13)とは、不燃性の断熱材が充填された断熱パネルによって形成されている。
【0032】
なお、図示を省略しているが、両クリーンルーム(S1,S2)には、空調機が設置され、また、その吹出口及び吸込口には、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルタが設けられ、清浄化された空気が供給され、両クリーンルーム(S1,S2)は、ISOクラス5程度の清浄度に保たれている。なお、ISOクラスとは、ISO(International Organization for Standardization)によって規定された空気清浄度に関する規格である。また、両クリーンルーム(S1,S2)は、上記空調機によって、空気温度を設定温度に調節されると共に、外部の空気が流入しないように、大気圧よりも高い圧力雰囲気となるように圧力が制御される。
【0033】
クリーンルーム構造体(10)の4つの側壁(11)のうち、昇降装置(1)のシャフト外殻(30)の側面パネル(外壁面)(31)に対向する対向側壁(20)は、側壁本体(21)とエアタイト扉(22)とを備えている。
【0034】
側壁本体(21)は、他の側壁(11)や天井(12)や床(13)と同様に、不燃性の断熱材が充填された断熱パネルによって矩形状に形成され、昇降装置(1)のシャフト外殻(30)の側面パネル(31)に沿うように設置されている。側壁本体(21)には、シャフト外殻(30)の搬出入口(34)に対応して開口する側壁開口(14)が形成されている。側壁開口(14)は、本実施形態では、矩形状に形成され、シャフト外殻(30)の搬出入口(34)と同じ大きさに形成されている。また、側壁本体(21)の側壁開口(14)を形成する枠部分には、側壁開口(14)の全周を取り囲むシール部材(15)が設けられている。シール部材(15)は、側壁本体(21)の枠部分に形成されてクリーンルーム(S1,S2)側に開口する環状溝に埋め込まれている。
【0035】
エアタイト扉(22)は、側壁本体(21)と同様に、不燃性の断熱材が充填された断熱パネルによって矩形状に形成されている。本実施形態では、エアタイト扉(22)は、外側部分が側壁本体(21)の側壁開口(14)内に嵌まり込む大きさの矩形状に形成され、内側部分が側壁開口(14)より大きい矩形状に形成されている。エアタイト扉(22)は、鉛直方向に延びるヒンジによって水平方向に回動する片開きの扉に構成されている。また、エアタイト扉(22)は、側壁開口(14)に重なる閉状態において、図示しない固定具によって、クリーンルーム(S1,S2)側から側壁本体(21)に押し付けられて固定されて側壁開口(14)を閉塞する。
【0036】
また、エアタイト扉(22)には、該エアタイト扉(22)の側壁開口(14)を閉塞する閉状態から該側壁開口(14)を開放する開状態への回動を禁止するロック状態と、閉状態から開状態への回動を許容するアンロック状態とを切り換えるロック機構(70)が設けられている。ロック機構(70)は、ロック状態とアンロック状態との切換が可能なものであればいかなる構成であってもよい。例えば、ロック機構(70)は、上述したエアタイト扉(22)の固定具等に内蔵され、ロック状態では固定具が手動で動かないように構成するもの等でもよい。
【0037】
ロック機構(70)は、昇降装置(1)の制御部(図示省略)と双方向に通信可能に構成されている。ロック機構(70)は、昇降装置(1)の制御部から少なくともキャリッジ(40)の動作状態に関する信号を受信可能に構成されている。そして、ロック機構(70)は、昇降装置(1)の制御部からキャリッジ(40)の動作が停止しているとの信号(動作停止信号)を受信している場合にのみ、アンロック状態に切り換えることができるように構成されている。これにより、エアタイト扉(22)は、キャリッジ(40)の動作停止時にのみ、閉状態から開状態へ回動可能なアンロック状態となる。一方、ロック機構(70)は、昇降装置(1)の制御部に対し、少なくともロック機構(70)の状態(ロック状態又はアンロック状態)に関する信号を送信するように構成されている。
【0038】
ところで、エアタイト扉(22)が、側壁本体(21)に押し付けられて固定される際、側壁本体(21)の環状溝に埋め込まれたシール部材(15)がエアタイト扉(22)の側壁開口(14)よりも大きい内側部分の周縁部に当接する。これにより、側壁本体(21)とエアタイト扉(22)との隙間がシール部材(15)によって塞がれる。
【0039】
また、シャフト外殻(30)の4つの側面パネル(31)のうち、クリーンルーム(S1,S2)に対向する側面パネル(31)と側壁本体(21)との間にも、搬出入口(34)及び側壁開口(14)を取り囲む位置に、シール部材(16)が設けられている。該シール部材(16)によって、クリーンルーム(S1,S2)に対向する側面パネル(31)と側壁本体(21)との隙間が塞がれている。
【0040】
−動作−
〈物品の搬送動作〉
以下では、工場内の1階の第1クリーンルーム(S1)から2階の第2クリーンルーム(S2)へ物品(2)を搬送する際の動作について説明する。
【0041】
まず、昇降装置(1)の制御部によって、昇降機構(50)が作動してキャリッジ(40)を1階の所定の停止位置まで下降させる。キャリッジ(40)の動作が停止すると、1階の第1クリーンルーム(S1)を区画するクリーンルーム構造体(10)側では、ロック機構(70)が、昇降装置(1)の制御部から送信されたキャリッジ(40)の動作停止信号を受信し、エアタイト扉(22)の側壁開口(14)を閉塞する閉状態から該側壁開口(14)を開放する開状態への回動を禁止するロック状態から、閉状態から開状態への回動を許容するアンロック状態に切り換える。
【0042】
第1クリーンルーム(S1)の作業者は、ロック機構(70)がアンロック状態に切り換わったのを確認した後、まず、エアタイト扉(22)の固定具を外し、エアタイト扉(22)を回動させて側壁開口(14)が開放された開状態にする。次に、作業者は、シャフト外殻(30)の扉(35)とキャリッジ(40)の扉(43)とをそれぞれスライドさせて、キャリッジ(40)の搬出入口(42)とシャフト外殻(30)の搬出入口(34)とを開放する。
【0043】
以上の動作により、キャリッジ(40)の搬出入口(42)、シャフト外殻(30)の搬出入口(34)、クリーンルーム構造体(10)の側壁開口(14)が開放され、キャリッジ(40)内部と第1クリーンルーム(S1)とが連通する開放状態となる。この開放状態において、作業者は、第1クリーンルーム(S1)内の物品(2)をキャリッジ(40)内に載置する。
【0044】
物品(2)の載置が完了すると、作業者は、まず、キャリッジ(40)の扉(43)とシャフト外殻(30)の扉(35)とをそれぞれスライドさせ、キャリッジ(40)の搬出入口(42)とシャフト外殻(30)の搬出入口(34)とを閉塞する。次に、作業者は、エアタイト扉(22)を回動して閉状態とし、固定具によって、エアタイト扉(22)を側壁本体(21)に固定して側壁開口(14)を閉塞する。そして、作業者は、入力作業などにより、ロック機構(70)を、エアタイト扉(22)の閉状態から開状態への回動を許容するアンロック状態から、閉状態から開状態への回動を禁止するロック状態に切り換える。
【0045】
昇降装置(1)の制御部は、ロック機構(70)からアンロック状態である旨の信号を受信すると、昇降機構(50)を作動させてキャリッジ(40)を1階から2階の所定の停止位置まで上昇させる。キャリッジ(40)の動作が停止すると、第2クリーンルーム(S2)を区画するクリーンルーム構造体(10)側では、ロック機構(70)が、昇降装置(1)の制御部から送信されたキャリッジ(40)の動作停止信号を受信し、エアタイト扉(22)の閉状態から開状態への回動を禁止するロック状態から、閉状態から開状態への回動を許容するアンロック状態に切り換える。
【0046】
第2クリーンルーム(S2)の作業者は、ロック機構(70)がアンロック状態に切り換わったのを確認した後、まず、エアタイト扉(22)の固定具を外し、エアタイト扉(22)を回動させて側壁開口(14)が開放された開状態にする。次に、作業者は、シャフト外殻(30)の扉(35)とキャリッジ(40)の扉(43)とをそれぞれスライドさせて、キャリッジ(40)の搬出入口(42)とシャフト外殻(30)の搬出入口(34)とを開放する。
【0047】
以上の動作により、キャリッジ(40)の搬出入口(42)、シャフト外殻(30)の搬出入口(34)、クリーンルーム構造体(10)の側壁開口(14)が開放され、キャリッジ(40)内部と第2クリーンルーム(S2)とが連通する開放状態となる。この開放状態において、作業者は、キャリッジ(40)内の物品(2)を出して、第2クリーンルーム(S2)内で用いる。
【0048】
−搬送路内空気のクリーンルームへの流入抑制作用−
ところで、上述した物品(2)の搬送中、キャリッジ(40)が昇降路(60)内を昇降することにより、昇降路(60)内に空気の流れが生じる。そのため、図4に示すような従来の構造では、シャフト外殻(130)の側壁(131)と扉(135)との隙間から昇降路(160)の清浄度の低い空気がクリーンルーム(S1,S2)内に侵入するおそれがあった。
【0049】
しかしながら、本実施形態のクリーンルーム構造体(10)では、4つの側壁(11)のうちの昇降装置(1)のシャフト外殻(30)の側面パネル(外壁面)(31)に対向する対向側壁(20)が、昇降装置(1)のシャフト外殻(30)の側面パネル(31)に沿う側壁本体(21)と、該側壁本体(21)に形成された側壁開口(14)を閉塞するエアタイト扉(22)とで構成されている。つまり、昇降装置(1)の昇降路(60)とクリーンルーム(S1,S2)との間が、シャフト外殻(30)とクリーンルーム構造体(10)の対向側壁(20)との2重の壁で仕切られることとなる。また、クリーンルーム構造体(10)の対向側壁(20)を、側壁本体(21)と、シール部材(15)によって隙間がシールされるように側壁本体(21)に取り付けられるエアタイト扉(22)とで気密性の高い構造に構成している。そのため、昇降路(60)においてキャリッジ(40)が昇降する際に、昇降路(60)において空気の流れが生じ、シャフト外殻(30)と搬出入口(34)を塞ぐ扉(35)との隙間から昇降路(60)内の清浄度の低い空気が漏れ出したとしても、清浄度の低い空気は、クリーンルーム構造体(10)の気密性の高い対向側壁(20)によってクリーンルーム(S1,S2)内への侵入を阻まれることとなる。
【0050】
また、クリーンルーム(S1,S2)は、上述したように、空調機によって外部の空気が流入しないように、大気圧よりも高い圧力雰囲気となるように圧力が制御されている。そのため、エアタイト扉(22)は、クリーンルーム(S1,S2)の内外の圧力差によって側壁本体(21)に押し付けられる。これにより、エアタイト扉(22)が側壁本体(21)により密着するため、このような構成によっても、昇降路(60)から漏れ出した清浄度の低い空気が、クリーンルーム(S1,S2)内へ侵入することが阻まれる。
【0051】
一方、図3に示すように、キャリッジ(40)の搬出入口(42)、シャフト外殻(30)の搬出入口(34)、クリーンルーム構造体(10)の側壁開口(14)の開放時には、キャリッジ(40)内部とクリーンルーム(S1,S2)とが連通するが、上述したように、クリーンルーム(S1,S2)は、大気圧よりも高い圧力雰囲気であるため、キャリッジ(40)内の空気がクリーンルーム(S1,S2)内に流入することはなく、クリーンルーム(S1,S2)内の清浄度の高い空気がキャリッジ(40)内へ漏れ出ることとなる。
【0052】
−実施形態1の効果−
本実施形態1によれば、クリーンルーム構造体(10)の側壁(11)のうち、昇降装置(1)のシャフト外殻(30)の側面パネル(外壁面)(31)に対向する対向側壁(20)を、昇降装置(1)のシャフト外殻(30)の側面パネル(31)に沿う側壁本体(21)と、該側壁本体(21)に形成された側壁開口(14)を閉塞するエアタイト扉(22)とで構成することとした。つまり、昇降装置(1)の昇降路(60)とクリーンルーム(S1,S2)との間を、シャフト外殻(30)とクリーンルーム構造体(10)の対向側壁(20)との2重の壁で仕切ることとした。さらに、クリーンルーム構造体(10)の対向側壁(20)を、側壁本体(21)とエアタイト扉(22)とで気密性の高い構造に構成した。そのため、昇降路(60)においてキャリッジ(40)が昇降する際に、昇降路(60)において空気の流れが生じ、シャフト外殻(30)と搬出入口(34)を塞ぐ扉との隙間から昇降路(60)内の清浄度の低い空気が漏れ出したとしても、清浄度の低い空気は、クリーンルーム構造体(10)の気密性の高い対向側壁(20)によってクリーンルーム(S1,S2)内への侵入を阻まれる。よって、上記クリーンルーム構造体(10)の構成によれば、昇降装置(1)の構成を変更することなく、安価に且つ容易に昇降路(60)からクリーンルーム(S1,S2)への空気の侵入を抑制することができる。
【0053】
また、本実施形態1によれば、エアタイト扉(22)を、側壁開口(14)よりも大きい外形に形成し、クリーンルーム(S1,S2)側から側壁本体(21)に取り付けて側壁開口(14)を閉塞するように構成し、クリーンルーム(S1,S2)の内圧が、大気圧よりも高い圧力雰囲気に調整されることを利用して、クリーンルーム(S1,S2)の内外の圧力差によってエアタイト扉(22)を側壁本体(21)に押し付けることとした。そのため、押圧機構等を用いることなく、エアタイト扉(22)を側壁本体(21)に押し付けて気密性を高めることができる。よって、キャリッジ(40)の昇降時における昇降路(60)からクリーンルーム(S1,S2)への空気の侵入をより抑制することができる。
【0054】
また、本実施形態1によれば、エアタイト扉(22)の側壁開口(14)を閉塞する閉状態から該側壁開口(14)を開放する開状態への回動を禁止するロック状態と閉状態から開状態への回動を許容するアンロック状態とを切り換えるロック機構(70)を設け、キャリッジ(40)の動作が停止しているときにのみ、ロック状態が解除されてアンロック状態となるように構成した。これにより、キャリッジ(40)の動作中には、昇降路(60)内に空気の流れが生じるが、エアタイト扉(22)の閉状態から開状態への移動が禁止されるため、誤ってエアタイト扉(22)を開いて昇降路(60)内の清浄度の低い空気がクリーンルーム(S1,S2)に流入することを確実に防止することができる。
【0055】
《その他の実施形態》
上記実施形態については、以下のような構成としてもよい。
【0056】
上記実施形態1では、2つのクリーンルーム(S1,S2)間において物品(2)を搬送する昇降装置(1)が併設されたクリーンルーム構造体(10)について説明したが、昇降装置(1)の物品(2)の搬送先又は搬送元は、クリーンルームでなくてもよい。例えば、上記実施形態1において2階で昇降装置(1)が併設される室内が、クリーンルームに比べて気密性の低い通常の居室を形成する構造体からなるものであってもよい。
【0057】
また、上記実施形態1では、1階と2階とに跨がる昇降装置(1)が併設されたクリーンルーム構造体(10)について説明したが、本発明に係るクリーンルーム構造体(10)は、3階以上の階数に跨がる昇降装置(1)が併設されるものであってももちろんよい。
【0058】
上記実施形態1では、エアタイト扉(22)は、側壁開口(14)より大きい矩形状の片開きの扉によって構成されていたが、エアタイト扉(22)の形状及び構造は実施形態1のものに限られない。エアタイト扉(22)は、昇降路(60)内の空気がクリーンルーム(S1,S2)に侵入しないように側壁開口(14)を閉塞することができるものであればいかなる形状及び構造であってもよい。
【0059】
なお、以上の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0060】
以上説明したように、本発明は、内部にクリーンルームを区画し、階上又は階下の室内との間において物を搬送する昇降装置が併設されるクリーンルーム構造体について有用である。
【符号の説明】
【0061】
1 昇降装置
2 物品
10 クリーンルーム構造体
14 側壁開口
20 対向側壁(側壁)
21 側壁本体
22 エアタイト扉
30 シャフト外殻
31 側面パネル(外壁面)
34 搬出入口
35 扉
40 キャリッジ
60 昇降路
70 ロック機構
S1 第1クリーンルーム
S2 第2クリーンルーム
図1
図2
図3
図4