(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-171634(P2017-171634A)
(43)【公開日】2017年9月28日
(54)【発明の名称】養毛剤
(51)【国際特許分類】
A61K 8/73 20060101AFI20170901BHJP
A61K 31/721 20060101ALI20170901BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20170901BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20170901BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20170901BHJP
【FI】
A61K8/73
A61K31/721
A61Q7/00
A61P17/14
A61P43/00 105
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2016-62401(P2016-62401)
(22)【出願日】2016年3月25日
(71)【出願人】
【識別番号】000243962
【氏名又は名称】名糖産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(72)【発明者】
【氏名】安田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】酒井 和哉
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉雄
【テーマコード(参考)】
4C083
4C086
【Fターム(参考)】
4C083AD211
4C083AD212
4C083CC37
4C083DD23
4C083EE07
4C083EE22
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA14
4C086ZA92
4C086ZB22
(57)【要約】
【課題】新規の養毛剤成分を提供することを課題とする。
【解決手段】デキストラン硫酸塩からなる、毛乳頭細胞増殖促進剤及びデキストラン硫酸塩からなる、毛乳頭細胞活性化剤。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デキストラン硫酸塩からなる、毛乳頭細胞増殖促進剤。
【請求項2】
デキストラン硫酸塩がデキストラン硫酸ナトリウムである、請求項1に記載の毛乳頭細胞増殖促進剤。
【請求項3】
デキストラン硫酸塩からなる、毛乳頭細胞活性化剤。
【請求項4】
デキストラン硫酸塩がデキストラン硫酸ナトリウムである、請求項3に記載の毛乳頭細胞活性化剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、毛髪の養毛(すなわち、発毛・育毛)を促進する養毛剤に関し、さらに詳細にはデキストラン硫酸塩を有効成分とする養毛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、薄毛、脱毛等の予防・改善のための各種有効成分を配合した養毛(発毛・育毛)剤が提案されている。このような発毛・育毛剤の有効成分として、直接的に毛乳頭細胞や毛母細胞の活性を高めるミノキシジルやアデノシン等が提唱されている。
【0003】
一方、末梢血流の改善によって、間接的に毛乳頭細胞や毛母細胞の活性を高めるとして、発毛・育毛剤において様々な補助成分の使用が提案されている。
【0004】
デキストラン硫酸ナトリウム(以下、DS−Naと称することがある)には、血行促進、血流改善作用があることが報告されていることから、発毛・育毛剤の補助成分として使用されることがある。
【0005】
特許文献1〜9には、養毛料、毛髪化粧料等が開示されている。特許文献1〜6では、DS−Naが皮膚末梢血管拡張剤、血行促進剤等として添加されているが、発毛育毛作用のある有効成分の働きを助けるための補助成分として用いられているに過ぎない。
特許文献7〜9では、DS−Naは有効成分の浸透促進剤として用いられており、有効成分として用いられていない。
【0006】
従って、DS−Na単独で十分な発毛・育毛効果を発揮するという報告はなく、DS−Naを発毛・育毛剤に配合するに当たっては、発毛・育毛促進効果を有する有効成分の存在を前提としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7−112916号公報
【特許文献2】特開平9−227342号公報
【特許文献3】特開2006−347955号公報
【特許文献4】特開2008−31129号公報
【特許文献5】特開2013−71908号公報
【特許文献6】特表2013−537206号公報
【特許文献7】国際公開第02/098372号パンフレット
【特許文献8】特開2008−201767号公報
【特許文献9】特開2014−114321号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のとおり、各種養毛剤が提案されているが、さらに効果の高い養毛剤の有効成分の開発が求められている。本発明は、新規の養毛剤成分を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者等は上記課題を解決するために鋭意検討を行った。その結果、デキストラン硫酸塩が直接的に毛乳頭細胞を刺激することで、毛乳頭細胞自身の生育増殖を高めること、毛乳頭細胞が毛母細胞の増殖を促進する線維芽細胞増殖因子(FGF)−7(角化細胞増
殖因子(KGF)ともいう。同名称で用いられる場合も本発明の範囲に包含される)の産生を高めること、毛乳頭細胞が血管内皮細胞の増殖を促進する血管内皮増殖因子(VEGF)の産生を高めることを見出した。
つまり、デキストラン硫酸塩単独でも発毛・育毛の効果が高く、ミノキシジル等の従来の発毛・育毛剤の有効成分と同等以上の効果があること、デキストラン硫酸塩を発毛・育毛剤の有効成分として用いることができ、それ以外に発毛・育毛促進効果を有する有効成分が存在しなくてもよいことを見出した。
同知見に基づき、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明の要旨は、以下に示すとおりである。
[1] デキストラン硫酸塩からなる、毛乳頭細胞増殖促進剤。
[2] デキストラン硫酸塩がデキストラン硫酸ナトリウムである、[1]に記載の毛乳頭細胞増殖促進剤。
[3] デキストラン硫酸塩からなる、毛乳頭細胞活性化剤。
[4] デキストラン硫酸塩がデキストラン硫酸ナトリウムである、[3]に記載の毛乳頭細胞活性化剤。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、新規の毛乳頭細胞増殖促進剤及び毛乳頭細胞活性化剤が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の構成について詳述する。
(1)有効成分
本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤及び毛乳頭細胞活性化剤は、デキストラン硫酸塩を有効成分とする。
上述のとおり、本発明者等は、デキストラン硫酸塩が直接的に毛乳頭細胞を刺激することで、毛乳頭細胞自身の生育増殖を高める作用及び毛乳頭細胞を活性化する作用、例えば、毛乳頭細胞が毛母細胞の増殖を促進するFGF−7の産生を高める作用、毛乳頭細胞が血管内皮細胞の増殖を促進するVEGFの産生を高める作用を有することを知見した。本発明は、同知見に基づいてなされたものである。さらに、毛乳頭細胞から産生されたFGF−7により毛母細胞の増殖が促進され、また、毛乳頭細胞から産生されたVEGFにより血管内皮細胞の増殖が促進されると考えられる。デキストラン硫酸塩がこのような用途で用いられる場合も本発明の範囲に包含される。
本発明で用いられるデキストラン硫酸塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩等のうちから任意に用いられるが、特にナトリウム塩が好ましい。
本発明に用いられるデキストラン硫酸塩は、主として2位、3位、4位が硫酸基に置換されたグルコースのα−1,6結合を主体とした多糖体である。本発明に用いられるデキストラン硫酸塩としては、例えば、市場で入手したものを用いてよく、または、リューウコノストク(Leuconostoc)属、ストレプトコッカス(Streptococcus)属からなる群より選ばれる細菌、例えば、リューウコノストク・メゼンテロイデス(Leuconostoc mesenteroides)等を、通常の培養条件にて、例えば、ショ糖含有栄養培地で培養して得られたデキストランを通常の方法に従って硫酸化したものでもよい。例えば、ホルムアミドやピリジン等を溶媒にクロロスルホン酸等の硫酸化剤を作用させればよい。
【0013】
本発明に用いられるデキストラン硫酸塩の原料となるデキストランの数平均分子量は、通常1,000〜50万程度、好ましくは1,000〜50,000、更に好ましくは1,000〜10,000である。本発明に用いられるデキストラン硫酸塩としては、例えば、市販のデキストラン硫酸塩、並びに、上記細菌の培養により得られたデキストランをそのまま、または、更にこれを部分的加水分解処理して適当な分子量のデキストランにし
た後に、硫酸塩にしたものを用いることが可能である。
本発明に用いられるデキストラン硫酸塩の硫酸基の数は特に制限しないが、通常、単糖1分子あたりの硫酸基の数は平均0.1〜3であり、この範囲に入るデキストラン硫酸塩は本発明において用いることが可能である。また、好ましくは単糖1分子当たりの硫酸基の数は、0.5〜3であり、更に好ましくは2〜3である。
【0014】
(2)養毛剤
本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤及び/又は毛乳頭細胞活性化剤は、本発明の効果を妨げない限り、通常養毛剤に使用される成分等を組み合わせ、養毛剤とすることができる。
本発明の養毛剤中における、毛乳頭細胞増殖促進剤及び/又は毛乳頭細胞活性化剤、すなわちデキストラン硫酸塩の配合量は、通常0.1質量%〜20質量%、好ましくは0.5質量%〜15質量%、より好ましくは0.5質量%〜5質量%である。少なすぎると本発明の効果が十分に発揮されない可能性がある。多すぎると製剤化が困難になる傾向があり、効果が頭打ちになる傾向がある。
【0015】
また、本発明の養毛剤は、本発明の毛乳頭細胞増殖促進剤及び/又は毛乳頭細胞活性化剤に加えてさらに、通常養毛剤に使用される各種の有効成分、例えば、他の発毛・育毛剤、保湿剤、抗炎症剤、抗酸化剤、細胞賦活剤、紫外線防御剤、血行促進剤等から選ばれる一種又は二種以上と併用することができる。
【0016】
本発明の養毛剤はさらに、添加剤を含むことができる。添加剤としては特に限定されず、柔軟剤、経皮吸収促進剤、無痛化剤、防腐剤、酸化防止剤、色素剤、増粘剤、香料、pH調整剤等から選ばれる一種又は二種以上を使用することができる。
【0017】
本発明の養毛剤、毛乳頭細胞増殖促進剤及び/又は毛乳頭細胞活性化剤の剤形は、特に限定されない。例えば、リキッド、ローション、ペースト、クリーム、フォーム、乳液、パック、軟膏、粉剤、エアゾール、貼付剤等が挙げられる。なお、本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品のいずれにも適用することができる。例えば、養毛剤、発毛・育毛剤、ヘアートニック、ヘアーリキッド、ヘアースプレー、頭部用ローション、頭部用乳液、頭部用クリーム、頭部用ムース、シャンプー、リンス、ヘアートリートメント等に適用することができる。
【0018】
本発明の養毛剤、毛乳頭細胞増殖促進剤及び/又は毛乳頭細胞活性化剤の投与方法は特に限定されないが、例えば、頭皮に直接塗布あるいは散布して投与することができる。
本発明の養毛剤、毛乳頭細胞増殖促進剤及び/又は毛乳頭細胞活性化剤の投与量は、剤型、使用者の体重、状態などに応じて適宜設定することができる。通常、1回の投与につき、使用部位における有効成分の量として0.01μg〜0.1mg/cm
2程度を投与することができ、好ましくは0.1μg〜0.01mg/cm
2程度を投与することができる。投与は、一日一回〜数回行うことができる。
【実施例】
【0019】
以下に実施例を示して、本発明について更に詳細に説明を加えるが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0020】
<実施例1>
デキストラン硫酸塩による毛乳頭細胞の増殖促進効果を検討した。
ヒト正常毛乳頭細胞(PromoCell GmbHより購入)の起眠時、継代培養、必要細胞数取得までの増殖には、ヒト毛乳頭細胞増殖培地(PromoCell GmbHより購入)を使用した。培養はインキュベーター(5%CO
2、37℃)内で行い、その後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を無血清DMEM培地に懸濁
後、5x10
3cells/100μL/wellの濃度で96wellマイクロプレートに播種し、24時間前培養した。培養終了後、培養液上清を無血清DMEM培地に各種デキストラン硫酸塩(デキストラン硫酸ナトリウム塩又はカリウム塩;名糖産業株式会社製)を溶解した試料溶液(0.0001、0.001、0.01、0.1、1、10、100μg/mL)に交換して、48時間培養した。
毛乳頭増殖促進作用は、Cell Counting Kit−8(株式会社同仁化学研究所より購入)を用いて測定した。マイクロプレートの各wellへ、測定試薬10μLを添加して、5%CO
2、37℃でインキュベートした。2時間後にマイクロプレートリーダーを用いて、450nmの吸光度を測定した。なお、コントロールとして、試料溶液の代わりに無血清DMEM培地(デキストラン硫酸塩0μg/mL)を添加した場合についても同様の測定を行った。陽性対照として、無血清DMEM培地に溶解したミノキシジル(東京化成工業株式会社製)、硫酸ミノキシジル(Toront Research
Chemicals,Inc製)、アデノシン(和光純薬工業株式会社製)を用いた。細胞増殖率(%)は、コントロールの吸光度を100%として算出した。
表1に示すように、いずれのデキストラン硫酸塩でも0.001μg/mL以上の濃度で、アデノシン、ミノキシジル、硫酸ミノキシジルと同等またはそれ以上の優れたヒト毛乳頭細胞増殖促進作用が認められた。
【0021】
【表1】
【0022】
<実施例2>
毛乳頭細胞は毛母細胞の増殖を促進するFGF−7を産生することが知られている。デキストラン硫酸塩によるFGF−7産生の促進効果を検討した。なお、実施例1よりデキストラン硫酸塩の中でデキストラン平均分子量/硫酸化度が2,000/1−3のデキストラン硫酸ナトリウム塩が最も高い効果を示したため、これを用いて検討した。
ヒト毛乳頭細胞をインキュベーター(5%CO
2、37℃)内でコンフルエントまで培養を行った。培養上清を取り除き、ヒト毛乳頭細胞増殖培地で洗浄後、試料をヒト毛乳頭細胞増殖培地で各濃度(0.25、2.5、12.5、25μg/mL)に調整した試料溶液に交換した。24時間培養した後、培養上清を採取し、FGF−7測定まで冷凍保存した。FGF−7の測定は、Human FGF−7 ELISA Kit (RayBiotech, Incより購入)を使用し、キットのプロトコールに準じて行った。なお、コントロールとして、試料溶液の代わりにヒト毛乳頭細胞増殖培地を添加した場合についても同様の測定を行った。陽性対照として、ヒト毛乳頭細胞増殖培地に溶解したアデノシン、ミノキシジルを用いた。FGF−7産生促進率(%)は、コントロールのFGF−7産生量を100%として算出した。
表2に示すように、デキストラン硫酸塩にはアデノシン、ミノキシジル以上の優れたFGF−7産生促進能が認められた。
【0023】
【表2】
【0024】
<実施例3>
毛乳頭細胞が、血管内皮細胞の増殖を促進するVEGFを産生することが知られている。デキストラン硫酸塩によるVEGF産生の促進効果を検討した。なお、実施例2と同様にデキストラン平均分子量/硫酸化度が2,000/1−3のデキストラン硫酸ナトリウム塩を用いて検討した。
ヒト毛乳頭細胞をインキュベーター(5%CO
2、37℃)内でコンフルエントまで培養を行った。培養上清を取り除き、ヒト毛乳頭細胞増殖培地で洗浄後、試料をヒト毛乳頭細胞増殖培地で各濃度(0.25、2.5、12.5、25μg/mL)に調整した試料溶液に交換した。24時間培養した後、培養上清を採取し、VEGF測定まで冷凍保存した。VEGF測定は、Human VEGF ELISA KIT (Aviva Systems Biology, Corp.より購入)を使用し、キットのプロトコールに準じて行った。
なお、コントロールとして、試料溶液の代わりにヒト毛乳頭細胞増殖培地を添加した場合についても同様の測定を行った。陽性対照として、ヒト毛乳頭細胞増殖培地に溶解したミノキシジルを用いた。
VEGF産生促進率(%)は、コントロールのVEGF産生量を100%として算出した。
表3に示すように、デキストラン硫酸塩にはミノキシジル以上の優れたVEGF産生促進能が認められた。
【0025】
【表3】
【0026】
デキストラン硫酸塩は従来、末梢血流の改善作用が知られていたが、本発明により、デキストラン硫酸塩が直接的に毛乳頭細胞の活性を高める効果を有することが明らかとなった。さらに、デキストラン硫酸塩の毛乳頭細胞増殖促進、FGF−7産生促進、VEGF産生促進等の効果は、従来の養毛剤の有効成分の効果に匹敵又はそれを上回る可能性も期待されることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0027】
本発明は、化粧品、医薬部外品、医薬品等に応用できる。