【課題】浅い俯角でレーザ光を照射するときの筐体の揺動速度が十分に遅い速度になり、かつ、深い俯角範囲への不要なレーザ光の照射を少なくすることができるレーザレーダ装置を提供する。
【解決手段】水平方向に延びる回転軸周りに揺動可能であり、レーザ光を一定の上下方向相対角度で出射する筐体10と、筐体10を駆動させるためのモータと、モータ回転軸31aに取り付けられ、モータ回転軸31aとともに回転する回転板32と、一端が回転板32に連結され、他端が筐体10に連結されている連結棒33とを備え、リンク機構40が形成され、連結棒33の長さは、リンク機構が死点となったときに、筐体10の姿勢がレーザ光を最も浅い俯角で走査する姿勢となる長さであり、第2リンクL2の長さは、リンク機構40が動作する上限長さ以下であって、かつ、第3リンクL3の50%以上である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
レーザレーダ装置がレーザ光を走査する角度を一定の角度間隔とすると、レーザレーダ装置から遠い領域の分解能は、レーザレーダ装置から近い領域の分解能よりも低くなる。したがって、レーザレーダ装置から遠い領域の分解能をレーザレーダ装置から近い領域の分解能に近づけようとすると、レーザ光の照射角度が0度に近いとき、つまり浅い俯角でレーザ光を照射するときは、狭い角度間隔でレーザ光を照射する必要がある。
【0006】
特許文献1のレーザレーダ装置は、装置内に備えられたポリゴンミラーを回転させることで、レーザ光の俯角方向の照射角度を制御している。この特許文献1の装置とは異なり、レーザレーダ装置の筐体を水平軸周りに揺動させることで、レーザ光の俯角方向の照射角度を制御することも考えられる。以下、筐体を揺動させる形式のレーザレーダ装置を揺動型レーザレーダ装置とする。
【0007】
揺動型レーザレーダ装置において、浅い俯角でレーザ光を照射するときのレーザ光の走査角度間隔を狭くするためには、浅い俯角でレーザ光を照射するときの筐体の揺動速度を十分に遅くすることが考えられる。
【0008】
しかし、浅い俯角でレーザ光を照射するときの揺動速度に合わせて、常時、筐体の揺動速度を遅くしてしまうと、深い俯角でレーザ光を照射するときのレーザ光の走査角度間隔が狭くなりすぎて、無駄なレーザ光の照射が生じる恐れがある。
【0009】
本発明は、この事情に基づいて成されたものであり、その目的とするところは、浅い俯角でレーザ光を照射するときの筐体の揺動速度が十分に遅い速度になり、かつ、深い俯角範囲への不要なレーザ光の照射を少なくすることができるレーザレーダ装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的は独立請求項に記載の特徴の組み合わせにより達成され、また、下位請求項は、発明の更なる有利な具体例を規定する。特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、一つの態様として後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【0011】
上記目的を達成するための請求項1に係る発明は、俯角方向に照射角度を変化させつつ、レーザ光を走査するレーザレーダ装置であって、水平方向に延びる回転軸周りに揺動可能であり、レーザ光を一定の上下方向相対角度で出射する筐体(10)と、筐体を駆動させるためのモータ(31)と、モータの回転軸(31a)に取り付けられ、モータの回転軸とともに回転する回転体(32)と、一端が回転体に連結され、他端が筐体に揺動可能に連結されている連結体(33)とを備え、モータの回転軸、回転体と連結体とが連結される部分である第1連結部と、連結体と筐体とが連結される部分である第2連結部と、筐体の回転軸とが4節となるリンク機構が形成され、連結体の長さは、リンク機構が死点となったときに、筐体の姿勢がレーザ光を最も浅い俯角で走査する姿勢となる長さであり、モータの回転軸から回転体の連結体が連結されている部分までの長さである回転リンク長さは、リンク機構が動作する上限長さ以下であって、かつ、連結体の回転体が連結されている部分から筐体に連結されている部分までの長さである連結リンク長さの50%以上である。
【0012】
本発明によれば、リンク機構により筐体を揺動運動させており、連結体の長さを、リンク機構が死点となったときに、筐体の姿勢がレーザ光を最も浅い俯角で走査する姿勢となる長さとしている。リンク機構が死点となったとき、リンク機構の1つのリンクに相当する部分を備える筐体は、揺動運動の方向が変化する。また、リンク機構においては、揺動運動の方向が変化する位置に付近において揺動速度が低下する。
【0013】
したがって、リンク機構が死点となったときに筐体の姿勢がレーザ光を最も浅い俯角で走査する姿勢となるようにすれば、レーザ光を最も浅い俯角で走査する付近において筐体の揺動速度が遅くなる。
【0014】
そして、データを用いて後述するように、回転リンク長さを連結リンク長さに近づけるほど、揺動方向が変化する角度付近における、モータの回転軸の回転速度に対する筐体の回転軸の回転速度の比は小さくなる。つまり、回転リンク長さを連結リンク長さに近づけるほど、揺動方向が変化する角度付近において、筐体の揺動速度を遅くすることができる。そこで、本発明では、回転リンク長さを連結リンク長さの50%以上とする。これにより、浅い俯角でレーザ光を照射するときの筐体の揺動速度を十分に遅い速度にできる。
【0015】
また、前述のように、本発明では、筐体の姿勢がレーザ光を最も浅い俯角で走査する姿勢となる付近において筐体の揺動速度が遅くなる。換言すれば、筐体の姿勢がレーザ光を最も浅い俯角で走査する姿勢となる付近と、筐体の姿勢が最も下向きになる付近との間の中間の角度では、筐体の揺動速度が相対的に速くなる。これにより、深い俯角範囲への不要なレーザ光の照射を少なくすることができる。
【0016】
請求項2に係る発明では、筐体の姿勢がレーザ光を水平に照射する姿勢となったときの筐体の正面方向と垂直方向とを含む平面に平行な平面をxy平面とし、筐体の姿勢がレーザ光を水平に照射する姿勢となったときの筐体の正面方向を0度としたとき、筐体の姿勢がレーザ光を水平に照射する姿勢となっている状態で、連結体と筐体との連結部に対するモータの回転軸の方向が、xy平面において135度〜225度の範囲である。
【0017】
俯角が小さい範囲において、レーザ光の照射角度が俯角小へ変化していくときの筐体の揺動速度と、レーザ光の照射角度が俯角大へ変化していくときの筐体の揺動速度との差が大きいと、揺動速度が大きい側はレーザ光の照射数が相対的に少なくなる。その結果、遠方領域に存在する物体の検出精度が低下しやすい。
【0018】
請求項2のようにすれば、データを用いて後述するように、俯角が小さい範囲において、レーザ光の照射角度が俯角小へ変化していくときの筐体の揺動速度と、レーザ光の照射角度が俯角大へ変化していくときの筐体の揺動速度との差が小さくなる。よって、遠方領域存在する物体の検出精度を向上させやすい。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
図1に示すレーザレーダ装置1は、建物の壁2に固定されている。もちろん、壁2は一例であり、他の部材にレーザレーダ装置1が固定されていてもよい。
【0021】
レーザレーダ装置1の設置高さTは、測距対象物体の高さよりも高い高さとされる。なお、設置高さTは、より正確には、レーザ光が水平方向にレーザレーダ装置1から射出される場合における、レーザ光の射出位置の高さである。レーザ光が水平方向に照射される角度が俯角0度である。測距対象物体は、たとえば子供であり、設置高さTはたとえば数メートルとされる。
【0022】
レーザレーダ装置1は、俯角方向に照射角度を変化させつつ、レーザ光を走査することができる。また、レーザレーダ装置1は、水平方向の照射角度も変化させることができる。レーザ光の照射方向が俯角0度方向であり、かつ、水平方向の走査範囲の中心方向を正面方向とし、この方向をx軸とする。また、x軸と垂直に交差するとともにレーザレーダ装置1の筐体10を通る、水平面に垂直な軸をy軸とする。x軸とy軸とを含む平面であるxy平面は、筐体10が鉛直となったときの筐体10の正面方向と垂直方向とを含む平面である。
【0023】
[レーザレーダ装置1の構成]
レーザレーダ装置1は、筐体10と、支持部20と、駆動部30とを備える。筐体10は、内部に投光部、受光部、制御部などを備える。制御部は投光部と受光部を制御する。投光部から投光されたレーザ光はスクリーン11を介して筐体10の外部へ投光される。投光部は、レーザ光の出射方向を筐体10に対して水平方向に走査する。これにより、レーザ光が水平方向に走査できる。一方、投光部は、レーザ光の出射方向を筐体10の上下方向に走査する構成は備えていない。よって、筐体10から投光されるレーザ光は、筐体10およびスクリーン11に対して一定の上下方向相対角度となる。この上下方向相対角度は、たとえば、筐体10が鉛直となったときにレーザ光が俯角0度で出射される角度である。
【0024】
筐体10の外部へ投光されたレーザ光が外部の物体で反射して生じた反射光は、スクリーン11を通過して受光部に受光される。レーザ光の照射時間間隔は一定時間ごと、つまり、レーザ光の照射周期は一定周期である。
【0025】
支持部20は、台座21と固定台22を備えている。台座21は、底面が壁2に固定されている。固定台22は、底面が台座21に固定され、先端部には、筐体回転軸23が貫通している。筐体回転軸23はx軸、y軸にともに直交し、水平方向に延びる軸である。
【0026】
筐体回転軸23は、固定台22の先端部に加えて、筐体10の側面の一部および背面の一部を保持する保持体24および筐体10の側壁を貫通している。したがって、筐体10は、支持部20に支持されるとともに、筐体回転軸23を回転中心として揺動可能である。
【0027】
駆動部30は、固定台22に固定されているモータ31を備えており、このモータ31の回転軸(以下、モータ回転軸)31aは筐体回転軸23と平行に設けられる。モータ回転軸31aには回転板32が固定されている。よって、回転板32はモータ回転軸31aと一体回転する。回転板32は円盤形状であり、中心にモータ回転軸31aが固定されている。モータ31には、たとえばステッピングモータを用いる。なお、回転板32は請求項の回転体に相当する。
【0028】
回転板32の周縁部には、連結体に相当する連結棒33の一端が連結され、連結棒33の他端は保持体24に連結されている。連結棒33において回転板32に連結されている側の端部をモータ側端部33aとし、保持体24に連結されている側の端部を筐体側端部33bとする。筐体側端部33bが保持体24に連結されている位置は、保持体24において筐体回転軸23が貫通している部分よりも上部である。
【0029】
連結棒33のモータ側端部33aはピン34により回転板32に連結され、連結棒33の筐体側端部33bはピン35により保持体24に連結されている。よって、連結棒33は、回転板32、保持体24に対して相対回転可能である。なお、保持体24は、筐体回転軸23とピン35の2つにより、筐体10に取り付けられている。したがって、保持体24は筐体10に対して相対移動不能であり、連結棒33は、保持体24を介して間接的に筐体10に揺動可能に連結されていることになる。
【0030】
このように構成されたレーザレーダ装置1は、
図2に示すリンク機構40を備える。なお、
図2は、このリンク機構40を説明するための図であるので、リンク機構40の説明に不要な構成は一部省略しているとともに、概念的に認識できる第1リンクL1、第2リンクL2、第3リンクL3も示している。
【0031】
リンク機構40は、4リンク機構であり、モータ回転軸31a、ピン34、35、筐体回転軸23が4節となる。回転板32と連結棒33においてピン34が固定されている部分が、回転板32と連結棒33の連結部すなわち第1連結部であり、連結棒33と筐体10においてピン35が固定されている部分が、連結棒33と筐体10との連結部すなわち第2連結部である。
【0032】
第1リンクL1は、筐体10のうち筐体回転軸23とピン35の間の部分である。第2リンクL2は、回転板32のうちモータ回転軸31aとピン34との間の部分である。第3リンクL3は、連結棒33のうち、2つのピン34、35の間の部分である。これら3つのリンクL1、L2、L3と、モータ回転軸31aと筐体回転軸23との間の固定リンクL0とにより、4リンク機構であるリンク機構40が構成される。
【0033】
このリンク機構40において、第2リンクL2は回転板32の一部の構成であることから、第2リンクL2は回転する。この第2リンクL2の長さが請求項の回転リンク長さである。また、第3リンクL3の長さが請求項の連結リンク長さである。
【0034】
リンク機構40が動作すると、レーザレーダ装置1は、
図3(A)、(B)、(C)、(D)に示すように、筐体10が筐体回転軸23を回転中心として揺動運動する。これにより、レーザレーダ装置1は、レーザ光を、レーザレーダ装置1の前後方向へ走査することができる。
【0035】
本実施形態のレーザレーダ装置1は、これらのリンクL0、L1、L2、L3の長さを調整することで、筐体10が鉛直姿勢となったときにリンク機構40が上死点となるようにする。換言すれば、リンクL0、L1、L2、L3の長さを、リンク機構40が上死点となったときに、筐体10の姿勢がレーザ光を最も浅い俯角で走査する姿勢となるようにすることになる。筐体10が鉛直姿勢となるときのレーザ光の照射方向が、レーザ光の走査範囲において最も浅い俯角であるからである。なお、浅い俯角は俯角0度も含んでいてもよい。上死点は、リンク機構40の2つの死点のうち、筐体10が鉛直側の姿勢となる死点を意味する。上死点においては、第2リンクL2と第3リンクL3とが重なっている。なお、鉛直姿勢は、厳密に筐体10が鉛直である場合のみではなく、実質的な鉛直も含まれる意味である。
【0036】
また、本実施形態のレーザレーダ装置1は、次の第1、第2の観点も満たすようにリンク機構40を調整している。第1の観点は、上死点付近における揺動速度が遅くなるようにするという観点である。第2の観点は、上死点付近、すなわち、レーザ光の照射角度が0度付近において、照射角度が俯角小へ変化していくときの筐体10の揺動速度と、照射角度が俯角大へ変化していくときの筐体10の揺動速度との差が小さくなるようにするという観点である。
【0037】
[リンク長さの関係]
まず、筐体10が鉛直姿勢となったときにリンク機構40が上死点となるようにし、揺動角度範囲を90度あるいはそれ以上とするためのリンクL0、L1、L2、L3の長さの関係を説明する。
【0038】
次の説明では、筐体回転軸23の位置を原点とし、モータ回転軸31aの座標を(M
x、M
y)とする。よって、リンクL0の長さは式1となる。なお、式および図中、Lに続いて添字で数字を付している符号は、その添字に対応するリンクの長さを意味する。
【数1】
【0039】
図4は、筐体10が鉛直になったときに、リンク機構40が上死点となるリンクL1、L2、L3の長さの関係を示している。ピン34とピン35との間を斜辺とする、破線で示す直角三角形の各辺の長さは、
図5に示す長さとなる。したがって、三平方の定理より式2が成り立つ。
【数2】
【0040】
図6は、リンク機構40が下死点となった状態を示している。下死点では、第2リンクL2と第3リンクL3が一直線上に位置し、かつ、それら第2リンクL2と第3リンクL3に重なりがない。
【0041】
この第2リンクL2と第3リンクL3により形成される辺を斜辺とする、破線で示す直角三角形の各辺の長さは、
図7に示す長さとなる。したがって、三平方の定理より式3が成り立つ。なお、式3においてPは筐体10の振り角である。
【数3】
【0042】
式2を変形すると、式4が得られる。
【数4】
【0043】
また、式4と式3から、式5が得られる。
【数5】
【0044】
この式4、式5において、Pに90度以上の値を入れて、式4、式5を満たすように、第2リンクL2の長さと第3リンクL3の長さを設定する。これにより、筐体10が鉛直姿勢となったときにリンク機構40が上死点となり、揺動角度範囲が90度以上になる。
【0045】
[揺動速度を遅くするためのリンク機構40の調整]
次に、前述した第1の観点、すなわち、上死点付近における揺動速度が遅くなるようにするためのリンク機構40の調整について説明する。レーザ光の走査範囲をレーザレーダ装置1の前後方向に走査するための構成として、リンク機構40により筐体10を揺動させる場合、筐体10が鉛直姿勢となる付近における揺動速度を遅くすることが望まれる。筐体10が鉛直姿勢となる付近において揺動速度を遅くすれば、レーザ光の照射間隔が一定でも、筐体10が鉛直姿勢となる付近における照射角度間隔を狭くすることができるからである。
【0046】
前述した式4、5を満たすように第2リンクL2、第3リンクL3の長さを設定することにより、筐体10が鉛直姿勢となったときにリンク機構40を上死点とすることができる。一般にリンク機構は死点付近ではリンクの揺動速度が遅くなる。そのため、筐体10が鉛直姿勢となったときにリンク機構40を上死点とすることで、筐体10が鉛直姿勢となる付近における筐体10の揺動速度を遅くすることができる。
【0047】
また、次のように考察することもできる。
図3(A)と
図3(C)の比較、および、
図4と
図6の比較から分かるように、連結棒33がピン34により回転板32に連結されている部分である第1連結部が後方に位置する場合を、第1連結部が前方に位置する場合と比較すると、第1連結部が後方に位置する場合の方が、モータ回転軸31aとピン35との距離が近くなる。
【0048】
図3(A)や
図4に示す、リンク機構40が上死点になったときにも、
図3(C)や
図6に示す、リンク機構40が下死点になったときにも、ピン35は、モータ回転軸31aからピン35までの距離を回転半径として揺動するとみなすことができる。また、回転角度が同じでも、回転半径が短ければ、単位時間当たりのピン35の移動距離は短い(すなわち速度は遅い)。
【0049】
そして、リンク機構40が上死点になったときには、モータ回転軸31aとピン35との距離が最も短くなる。そのため、モータ31の回転速度が同じであっても、リンク機構40が上死点になったときには、筐体10の揺動速度は最も遅くなる。このことからも、筐体10が鉛直姿勢となったときにリンク機構40を上死点とすることで、筐体10が鉛直姿勢となる付近における筐体10の揺動速度を遅くできることが分かる。
【0050】
加えて、本発明者は、第2リンクL2の長さと第3リンクL3の長さの比を変更すると、上死点付近における筐体10の揺動速度が変化することを見出した。より具体的には、第2リンクL2の長さを第3リンクL3の長さに近づけるほど、上死点における筐体10の揺動速度を遅くできることを見出した。この理由を次に説明する。
【0051】
前述した
図4は、リンク機構40が上死点になっている状態である。この
図4をもとに、上死点付近における筐体10の揺動速度を考察する。筐体10の揺動速度は、ピン35の移動速度と考えることができる。この
図4において、実際には不可能であるが、モータ回転軸31aをピン35の位置まで移動させたと考える。この場合、ピン35の位置は変化しない。よって、筐体10の揺動速度は0となる。また、このとき、第2リンクL2の長さは第3リンクL3の長さと等しくなる。
【0052】
したがって、モータ回転軸31aが、リンク機構40が上死点となっている状態におけるピン35の位置に近いほど、上死点付近における筐体10の揺動速度を遅くできると推定できる。
【0053】
次に、この推定の検証を行う。以下では、第3リンクL3の長さに対する第2リンクL2の長さの比を、リンク長さ比とする。また、以下では、リンク長さ比をパーセントで表す。
【0054】
図8はリンク長さ比を90%とした場合の、筐体角度が0度付近における減速比率を示すグラフである。減速比率は、モータ回転軸31aの回転速度Vmに対する、筐体回転軸23の回転速度Vcの比(Vc/Vm)である。また、筐体角度は、Y軸に対する筐体10の角度を意味し、筐体角度はレーザ光の照射角度と同じになる。また、筐体角度が0度は筐体10が鉛直姿勢であることを意味する。
【0056】
図8〜
図11のいずれも、第1リンクL1の長さを30mmとし、モータ回転軸31aのY座標を30に固定し、振り角を90度とした。これにより、モータ回転軸31aのX座標を決めれば、式1より固定リンクL0の長さが算出でき、式5より第2リンクL2の長さが算出できる。さらに、第2リンクL2の長さが算出できれば、式4より第3リンクL3の長さも算出できる。このようにして、リンク機構40のすべてのリンクの長さを算出できる。
【0057】
リンク機構40の自由度は1であることから、リンク機構40のすべてのリンクの長さが算出できると、前述した減速比率も算出できる。なお、
図8〜
図11には、いずれも2本の曲線が示されている。2本の曲線が存在する理由は、リンク機構40はてこクランク機構であり、てこクランク機構には、クランク節が等速で回転していても、てこ節の揺動速度は往時と戻り時で異なるからである。これは、早戻り運動として知られている。
【0058】
前述したように、第1の観点は、上死点付近における揺動速度が遅くなるようにすることである。上死点付近は筐体角度が0度付近を意味する。付近とする角度は、要求される仕様により適宜設定することになるが、本実施形態では0度から−3度を0度付近とする。0度から−3度の範囲では−3度が最も揺動速度が速い。よって、−3度のときの揺動速度に着目する。
【0059】
揺動速度を遅くするためには、減速比率を小さくすることになる。
図8、9、10、
図11において筐体角度が−3度のときの減速比率を比較すると、リンク長さ比が小さくなっていくと、減速比率が大きくなっていることが分かる。よって、リンク長さ比が大きいほうが、筐体角度が0度付近における揺動速度を遅くできることになる。
【0060】
このように、具体的な計算結果から、モータ回転軸31aが、リンク機構40が上死点となっている状態におけるピン35の位置に近いほど、上死点付近における筐体10の揺動速度を遅くできることが検証できた。
【0061】
図12は、リンク長さ比を90%、70%、50%、30%、20%としたときのそれぞれの筐体角度−3度における減速比率を示す表である。なお、
図12に示す減速比率は、同図にも示すように、
図8〜
図11に示したグラフと同様、モータ回転軸31aのY座標は30mmに固定して、第1リンクL1の長さは30mmに固定して計算した。また、
図12において、各リンク長さ比に対して2つの減速比率の値があるのは、前述のように、往時と戻り時で揺動速度が異なるからである。
【0062】
図12からも、減速比率を小さくするためにはリンク長さ比を大きくすればよいことが分かる。リンク長さ比が大きければ大きいほど減速比率は小さくなる。したがって、減速比率にのみ着目すれば、リンク長さ比は100%であることが好ましい。しかし、リンク長さ比が100%ではリンク機構40は動作しない。当然、リンク機構40が動作することが前提となる。よって、リンク機構40が動作する範囲で、リンク長さ比が大きい、つまり第2リンクL2の長さが長いほうがよいことになる。なお、リンク機構40が動作するためのリンク長さ比の上限は、本実施形態では特に示す必要はないので、厳密な数値は省略するが、90%よりもやや大きい値がリンク機構40が動作する上限となるリンク長さ比である。
【0063】
減速比率が小さいと言えるリンク長さ比の下限は、許容される減速比率により異なる。ただし、前述したように、減速比率のみに着目すれば、前述したようにリンク長さ比が100%であることが好ましい。この値の半分以下になると、減速比率を小さくするという効果が得られにくい。よって、リンク長さの比は50%以上が好ましい。
図12には、50%以上のリンク長さ比およびそのリンク長さ比のときの減速比率を太線で囲んでいる。
図12においては、太線で示す範囲が、減速比率を小さくできる範囲となる。
【0064】
[往復時の揺動速度差を小さくするためのリンク機構40の調整]
次に、前述した第2の観点、すなわち、レーザ光の照射角度が0度付近において、レーザ光の照射角度が俯角小へ変化していくときと俯角大へ変化していくときの筐体10の揺動速度の差を小さくするためのリンク機構40の調整について説明する。なお、以下では、この揺動速度の差を、0度付近揺動速度差とする。
【0065】
往時および戻り時の一方のみの揺動速度が遅くても、他方の揺動速度が速いと、遠方領域に向けて照射するレーザ光の照射数が減少するので、遠方領域に存在する物体の検出精度が低下する。したがって、0度付近揺動速度差を小さくすることが好ましいのである。
【0066】
0度付近揺動速度差が生じる理由は、前述した早戻り運動にある。また、早戻り運動による速度差は、第2リンクL2を時計回りに回した時と、反時計周りにまわした時で、リンク機構40が一方の死点となってから他方の死点となるまでに第2リンクL2が回転する角度の差により生じる。
【0067】
図13〜
図19は、リンク機構40が上死点となったときのピン35に対するモータ回転軸31aが位置する方向(以下、モータ回転軸方向)を種々変化させて、減速比率を計算した結果を示すグラフである。
図13〜
図19における減速比率を計算するための共通入力値として、固定リンクL0および第1リンクL1の長さを30mmとし、振り角Pを90度としている。
【0068】
一方、
図13、
図14、
図15、
図16、
図17、
図18、
図19におけるモータ回転軸方向は、それぞれ、120度、135度、150度、180度、210度、225度、240度である。なお、0度は前述の正面方向であり、0度から仰角方向に角度が増加する。
【0069】
固定リンクL0の長さを決定し、かつ、リンク機構40が上死点となったときのピン35に対するモータ回転軸31aが位置する方向が定まれば、モータ回転軸31aの位置が定まる。よって、モータ回転軸31aの位置、第1リンクL1の長さ、振り角Pが定まることになるので、式1、式4、式5から、固定リンクL0の長さ、第2リンクL2の長さ、第3リンクL3の長さを計算することができる。
【0070】
図13〜
図19にそれぞれ示す2本の減速比率の線の間隔を比較すると、モータ回転軸方向が180度となる場合が、最も2本の減速比率の線の間隔が狭くなることが分かる。また、モータ回転軸方向が180度から下側に離れる場合も、180度から上側に離れる場合も、モータ回転軸方向が180度から離れるほど、2本の減速比率の線の間隔が広くなる。よって、0度付近揺動速度差を小さくするには、モータ回転軸方向が180度付近であることが好ましいと言える。
【0071】
なお、
図13〜
図19の計算においては、固定リンクL0の長さを一定値としている。しかし、揺動速度差が生じる理由は、第2リンクL2を時計回りに回した時と、反時計周りにまわした時で、リンク機構40が一方の死点となってから他方の死点となるまでに第2リンクL2が回転する回転角度に差があるからである。モータ回転軸方向を変化させずに固定リンクL0の長さを変化させても、この回転角度の差はそれほど変化しない。よって、固定リンクL0の長さによらず、0度付近揺動速度差を小さくするには、モータ回転軸方向が180度付近であることが好ましいと言える。
【0072】
0度付近揺動速度差が小さいと言えるモータ回転軸方向の上限および下限は、許容される0度付近揺動速度差により異なる。ただし、0度付近揺動速度差を最も小さくするには、モータ回転軸方向が180度付近であることが好ましい。この180度方向は、筐体10が鉛直姿勢になった状態において、ピン35に対してモータ回転軸31aが真後ろに位置する。このことから、筐体10が鉛直姿勢になった状態において、ピン35に対してモータ回転軸31aが後方に位置、すなわち、リンク機構が死点となっていることが、0度付近揺動速度差が小さくなる要件であると考えることができる。180度に対して±45度の範囲であれば、筐体10が鉛直になった状態において、ピン35に対してモータ回転軸31aが後方に位置、すなわち、リンク機構が死点となっていると考えることができる。
【0073】
以上より、0度付近揺動速度差が小さいと言えるモータ回転軸方向の範囲は、筐体10が鉛直になった状態、すなわち、筐体10がレーザ光を水平に照射する姿勢となった状態において、ピン35に対してモータ回転軸方向が135度〜225度の範囲である。
【0074】
以上、説明したように、本実施形態のレーザレーダ装置1は、リンク機構40により筐体10を揺動運動させている。また、連結棒33の長さを、リンク機構40が上死点となったときに、筐体10の姿勢がレーザ光を最も浅い俯角で走査する姿勢となる長さとしている。
【0075】
連結棒33の回転板32に連結されている部分が最もレーザレーダ装置1の後方に位置したとき、リンク機構40の第1リンクL1に相当する部分を備える筐体10は、揺動運動の方向が変化する。また、リンク機構40においては、揺動運動の方向が変化する位置に付近において揺動速度が低下する。
【0076】
したがって、リンク機構40が上死点となったときに筐体10の姿勢がレーザ光を最も浅い俯角で走査できる姿勢となるようにすれば、レーザ光を最も浅い俯角で走査する付近において筐体10の揺動速度が遅くなる。
【0077】
また、筐体角度が0度付近における減速比率は、
図8〜
図12を用いて説明したように、リンク長さ比を大きくするほど、小さくなる。つまり、リンク長さ比を大きくするほど、筐体角度0度付近において筐体10の揺動速度を遅くすることができる。
【0078】
一方、筐体角度0度付近において筐体10の揺動速度を遅くすることができることは、筐体10の姿勢がレーザ光を最も浅い俯角で走査する姿勢となる付近と最も下向きになる付近との間の中間の角度では、筐体10の揺動速度が相対的に速くなることを意味する。そのため、筐体10の角度によらず、常に筐体10の揺動速度を遅くしてしまう場合よりも、深い俯角範囲への不要なレーザ光の照射を少なくすることができる。
【0079】
さらに、モータ回転軸方向を180度付近にすれば、0度付近揺動速度差を小さくできる。0度付近揺動速度差が小さくできると、遠方領域に存在する物体の検出精度が向上する。
【0080】
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、次の変形例も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施できる。なお、以下の説明において、それまでに使用した符号と同一番号の符号を有する要素は、特に言及する場合を除き、それ以前の実施形態における同一符号の要素と同一である。また、構成の一部のみを説明している場合、構成の他の部分については先に説明した実施形態を適用できる。
【0081】
たとえば、前述の実施形態では、連結体として連結棒33を備えていたが、連結体の形状を棒状ではない形状としてもよい。