【解決手段】光学素子10は、多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体および多官能(メタ)アクリレートを含有する硬化性樹脂組成物の硬化物製の基材12と、前記基材の表面に近い側から順に、五酸化タンタルを含む層21と二酸化珪素を含む層22とが交互に積層された偶数の層を有する積層膜20とを備える。前記積層膜20は、4層である。光学素子10の表面の鉛筆硬度が6Hである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[実施の形態1]
図1は、カメラモジュール40の構成を説明する断面図である。カメラモジュール40は、光学素子10、内部レンズ30、基板42、撮像素子43およびホルダ41を有する。
【0010】
光学素子10は、基材12および積層膜20を有する凸レンズである。基材12および積層膜20の詳細については後述する。内部レンズ30は、カメラモジュール40の内部に配置されたレンズである。カメラモジュール40は複数の内部レンズ30を有する場合がある。また、光学素子10と内部レンズ30との間には、環状のスペーサ45が配置されている。
【0011】
撮像素子43は、光学素子10および内部レンズ30により結像した光学像を電気信号に変換するセンサである。撮像素子43は、基板42に実装されている。光学素子10、内部レンズ30および基板42は、ホルダ41により保持されている。
【0012】
基材12は、たとえば多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体および多官能(メタ)アクリレートを含有する硬化性樹脂組成物を射出成型して製作される。
【0013】
基材12は、たとえば(A)成分:脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)、2官能(メタ)アクリル酸エステル(b)と、2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(c)を含む成分を共重合して得られる共重合体であって、側鎖に2官能(メタ)アクリル酸エステル(b)由来の反応性の(メタ)アクリレート基を有し、末端に2,4−ジフェニル−4−メチル−1−ペンテン(c)由来の構造単位を有する共重合体であり、重量平均分子量が2000〜20000であり、さらにトルエン、キシレン、テトラヒドロフラン、ジクロロエタンまたはクロロホルムに可溶である可溶性多官能(メタ)アクリル酸エステル共重合体、(B)成分:多官能(メタ)アクリレ−ト、および(C)成分:開始剤を含有する組成物であり、(B)成分の配合量が(A)成分100重量部に対し、5〜250重量部、及び(C)成分の配合量が(B)成分と(A)成分の配合量の合計100重量部に対し、0.1〜10重量部である硬化性樹脂組成物を硬化させることにより製作される。
【0014】
基材12の原材料である硬化性樹脂組成物の(A)成分中の脂環式構造を有する単官能(メタ)アクリル酸エステル(a)は、イソボルニルメタクリレート、イソボルニルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ジシクロペンテニルアクリレ−ト、ジシクロペンテニルオキシエチルアクリレ−ト、ジシクロペンタニルアクリレ−ト、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレ−ト、およびジシクロペンタニルメタクリレートからなる群から選ばれる一種以上の単官能(メタ)アクリル酸エステルであることが望ましい。
【0015】
基材12の原材料である硬化性樹脂組成物の(A)成分中の2官能(メタ)アクリル酸エステル(b)は、シクロヘキサンジメタノールジアクリレート、およびジメチロールトリシクロデカンジアクリレートからなる群から選ばれる一種以上の2官能(メタ)アクリル酸エステルであることが望ましい。
【0016】
基材12の原材料である硬化性樹脂組成物の(B)成分中の多官能(メタ)アクリレ−トは、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリオキシエチル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートであることが望ましい。
【0017】
基材12の原材料である硬化性樹脂組成物の(C)成分中の開始剤は、たとえばベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;アセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−フェニルプロパン−1−オン、ジエトキシアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モルホリノプロパン−1−オンなどのアセトフェノン類;2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−クロロアントラキノン、2−アミルアントラキノンなどのアントラキノン類;2,4−ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントンなどのチオキサントン類;アセトフエノンジメチルケタール、ベンジルジメチルケタールなどのケタール類;ベンゾフェノン、4−ベンゾイル−4'−メチルジフェニルサルファイド、4,4'−ビスメチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のホスフィンオキサイド類等であることが望ましい。
【0018】
開始材は、上記の成分単独または2種以上の混合物として使用でき、さらにはトリエタノールアミン、メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、N,N−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル等の安息香酸誘導体等の促進剤などと組み合わせて使用することができる。
【0019】
基材12の鉛筆硬度は6H程度である。鉛筆硬度は、日本工業規格であるJIS(Japanese Industrial Standards) K5600−5−4「塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第4節:引っかき硬度(鉛筆法)」により定められた試験法により測定した硬度を意味する。鉛筆硬度が6Hであるとは、6Hの鉛筆の芯を用いて所定の方法で引っかいた場合に傷がつかないことを意味する。6Hは、このJIS規格で定められた鉛筆硬度の最高値である。なお、JIS K5600−5−4は塗膜の試験方法であるが、樹脂の表面の引っかき硬度の評価にも使用されている。
【0020】
基材12の硬化度は70%以上であることが望ましい。硬化度は、硬化性樹脂の硬化反応の完了程度、すなわち反応済の官能基の割合を示す指標である。以下の説明では、FT−IR(Fourier Transform Infrared Spectrometer)法により測定した硬化度を使用する。
【0021】
本実施の形態においては、基材12の材料に新日鉄化学株式会社製エスドリマー(登録商標)を使用した。本実施の形態の基材12および一般的な光学素子に用いられる光学ガラス材料であるBK7の物性を表1に示す。
【0023】
基材12は、BK7と同等の屈折率および透過率を備えている。また射出成型により成型することができるため、非球面レンズを容易に製造することができる。基材12の鉛筆硬度は、硬化条件等により変動するが、最大の鉛筆硬度である場合にはBK7と同様に6Hである。
【0024】
図2は、積層膜20の構成を説明するA部拡大断面図である。積層膜20は、光学素子10の表面における光の反射を防止する反射防止膜である。
図2を使用して積層膜20の構造を説明する。基材12の表面に高屈折率層21と低屈折率層22とが交互に2層ずつ積層されている。各層の厚さは、100ナノメートル程度である。各層の厚さは、光学素子10の用途、特に反射を防止するべき光の波長の範囲により定められる。
【0025】
高屈折率層21の材質は五酸化タンタル(Ta
2O
5)が好適である。五酸化タンタルは、可視光域の光の屈折率が高く、高温に強く、安定した膜質を得ることができる材料である。たとえば、550ナノメートルにおける五酸化タンタルの屈折率は、2.16程度である。さらに、基材12の表面に直接五酸化タンタルの層を積層することにより、剥離しにくい反射防止膜を作成することが可能である。
【0026】
低屈折率層22の材質は、二酸化珪素(SiO
2)が好適である。二酸化珪素は、可視光域の光の屈折率が低く、高温に強く、安定した膜質を得ることができる材料である。たとえば、550ナノメートルにおける二酸化珪素の屈折率は、1.46程度である。
【0027】
高屈折率層21および低屈折率層22は、金属酸化物のナノ粒子等の添加物を含んでも良い。積層膜20は、基材12に接する側が高屈折率層21、最外層が低屈折率層22であれば、4層以外の層数であっても良い。
【0028】
図3は、成型機50の構成を説明する説明図である。成型機50は、第1金型51、第2金型52、駆動部53、ノズル54および供給チューブ55を有する。第1金型51および第2金型52は、両者を合わせると内部に基材12の形状となる空洞が形成される金型である。第1金型51は、成型機50に固定されている。第2金型52は、駆動部53に固定されている。駆動部53は、第2金型52を
図3の左右方向に動作させる。ノズル54の一端は供給チューブ55に、他端は第1金型51に接続されている。
【0029】
図4は、光学素子10の製造工程を説明するフローチャートである。
図3および
図4を使用して、本実施の形態の光学素子10の製造方法を説明する。
【0030】
まず、基材12を製作する成型工程について説明する。成型機50は、第1金型51と第2金型52とを合わせる(ステップS501)。第1金型51と第2金型52との間には、基材12に対応する形状の空洞が形成される。空洞は、ノズル54に連結されている。
【0031】
成型機50は、供給チューブ55およびノズル54を介して、未硬化の樹脂を第1金型51と第2金型52との間に注入する(ステップS502)。成型機50は、第1金型51および第2金型52を加熱して硬化させる(ステップS503)。成型機50は、駆動部53を動作させて第2金型52を第1金型51から離すことにより硬化させた基材12を離型する(ステップS504)。以上で成型工程が終了する。
【0032】
成型工程が終了した段階で、基材12の硬化度が70%以上100%以下であることが望ましい。硬化度は高いほど、次の成膜工程で安定した性質の積層膜20を製作できるが、実現可能な硬化度の最大値は100%であるからである。
【0033】
基材12の表面に積層膜20を付与する成膜工程について説明する。なお、成型工程と成膜工程との間で、基材12の表面をエチルアルコールとエーテルを混合した有機溶媒またはレンズクリーナ液等を染み込ませたレンズペーパー等により拭きとって、清浄化しても良い。このようにすることにより、後述の成膜工程で成膜する積層膜20が基材12から剥離しにくくすることができる。
【0034】
成膜装置は、基材12を所定の温度に加熱する(ステップS511)。所定の温度については、後述する。
【0035】
成膜装置は、基材12の表面に直接高屈折率層21を成膜する(ステップS512)。成膜装置は、高屈折率層21の表面に低屈折率層22を成膜する(ステップS513)。成膜装置は、低屈折率層22の表面に高屈折率層21を成膜する(ステップS514)。成膜装置は、高屈折率層21の表面に低屈折率層22を成膜する(ステップS515)。
【0036】
ステップS512からステップS515までの各成膜工程は、真空蒸着法により行うことが望ましい。成膜温度の詳細については後述する。片面ずつ成膜行う場合には、ステップS515の後で基材12を裏返して、再度ステップS512からステップS515までの成膜工程を繰り返して実施しても良い。ステップS512からステップS515までの工程ごとに基材12を裏返して、両面に成膜しても良い。
【0037】
成膜装置は、成膜後の基材12を常温に冷却する(ステップS516)。冷却条件については後述する。成膜装置はアニール処理を行う(ステップS517)。アニール処理は、成膜後の基材12を成膜時の温度よりも若干低い程度温度に加熱した状態を数時間保持することにより、成型および成膜により生じた内部歪を除去する工程である。アニール処理の終了後、常温まで冷却する。以上により基材12の表面に4層の積層膜20が成膜された光学素子10が完成する。
【0038】
光学素子10は、鉛筆硬度6Hの基材12に4層の合計で400ナノメートル程度の積層膜20を付与した構造である。積層膜20は、基材12と同等の鉛筆硬度を有する。したがって、鉛筆硬度が6Hの光学素子10を製作することができる。
【0039】
ステップS512からステップS515までの工程の温度について説明する。表2は、成膜温度と積層膜20へのクラックの発生状態との関係を調べた実験結果を示す。ここで成膜温度は、成膜工程中の基材12の温度を意味する。
【0041】
成膜温度は、ステップS512からステップS515までの成膜工程における基材12の温度を示す。摂氏90度から摂氏150度までの4通りの成膜温度で蒸着を行った。
【0042】
試験条件は、
図4を使用して説明した一連の工程が終了して完成した光学素子10に対して行った耐久性試験の条件を示す。摂氏105度および摂氏120度の2種類の温度を、それぞれ1000時間維持した。
【0043】
所定の時間が経過した後、光学素子10を常温まで冷却し、実体顕微鏡を使用して観察することにより積層膜20へのクラックの発生有無を確認した。表2中の「×」は、積層膜20にクラックが発生したことを示す。表2中の「○」は、積層膜20にクラックが発生しなかったことを示す。表2中の「△」は、積層膜20にクラックが発生したサンプルと発生しなかったサンプルが混在したことを示す。表2中の「−」は、実験を行わなかったことを示す。
【0044】
表2によると、摂氏120度で成膜することにより、摂氏105度の温度に1000時間耐えることが可能な積層膜20を作成することができる。一方、摂氏110℃で成膜した積層膜20の場合には、摂氏105度の温度に1000時間安定的に耐えることはできず、クラックが発生する。
【0045】
摂氏150度で成膜することにより、摂氏120度の温度に1000時間耐えることが可能な積層膜20を作成することができる。以上により、積層膜20は、基材12を120度以上、さらに望ましくは150度に加熱した状態で成膜することが望ましい。なお、ここで150度とは1の位を四捨五入して150度である温度、すなわち145度以上155度未満であることを意味する。同様に、120度とは1の位を四捨五入して120度である温度、すなわち115度以上125度未満であることを意味する。
【0046】
ステップS516の冷却条件について説明する。表3は、ステップS516の冷却時間と、基材12への割れの発生状態との関係を調べた実験結果を示す。なお、表3に示す実験では、積層膜20を摂氏150度で成膜したサンプルを使用した。
【0048】
冷却時間は、ステップS516において150度から常温まで冷却した際の所要時間を示す。冷却は、単位時間あたりの冷却温度が一定になるように制御して実施した。
【0049】
冷却完了後、実体顕微鏡を使用して光学素子10を観察することにより、基材12への割れの発生有無を確認した。表3中の「×」は、基材12に割れが発生したことを示す。表3中の「○」は、基材12に割れが発生しなかったことを示す。表3中の「△」は、基材12に割れが発生したサンプルと発生しなかったサンプルが混在したことを示す。
【0050】
表2によると、ステップS516において60分またはそれ以上の時間をかけてゆっくりと冷却することにより、基材12への割れの発生を防止することが可能である。なお、ここで60分とは1の位を四捨五入して60分である時間、すなわち55分以上65分未満であることを意味する。
【0051】
冷却時間を60分にするためには、成膜温度である摂氏150度から常温である摂氏25度までを60分間かけて冷却する、すなわち毎分2.1度の速度で冷却する。なお、60分以上の任意の時間をかけてゆっくりと冷却しても良い。しかしながら、12時間を越えることは、生産効率の観点から望ましくない。
【0052】
本実施の形態によると、傷つきにくい樹脂製の光学素子10を提供することができる。本実施の形態の光学素子10は、たとえば車載用途向けのカメラモジュール40の最外層のレンズ等、引っかき傷を生じやすい用途に使用することができる。
【0053】
樹脂製の基材12を使用することにより、非球面の光学素子10を容易に製造することができる。したがって、少ない枚数のレンズで高い解像度の映像を撮影するカメラモジュール40を実現することができる。
【0054】
基材12の表面に、高屈折率層21である五酸化タンタルを含む層を直接積層することにより、反射防止膜がはがれにくい光学素子10を実現することができる。
【0055】
基材12の表面に、高屈折率層21と低屈折率層22とを交互に積層し、最外層を
低屈折率層22にすることにより、表面での光の反射を防止する反射防止膜の機能を有する積層膜20を備える光学素子10を実現することができる。
【0056】
なお、内側レンズ30に基材12および積層膜20を有する光学素子10を使用しても良い。
【0057】
[実施の形態2]
本実施の形態は、平行平板状の光学素子10に関する。
図5は、実施の形態2のカメラモジュール40の構成を説明する断面図である。実施の形態1と共通する部分については、説明を省略する。
【0058】
カメラモジュール40は、光学素子10、2個の内部レンズ30、基板42、撮像素子43およびホルダ41を有する。光学素子10は、平行平板形状の光学窓である。
【0059】
光学素子10は、平行平板形状の基材12および基材12の両面に成膜された積層膜20により構成されている。基材12は、実施の形態1と同様に成型機50を使用して成型することができる。
【0060】
基材12は平板ガラスの上に未硬化の樹脂材料を流し、上から別の平板ガラスをかぶせた状態で硬化させることにより製作しても良い。平板ガラスの表面をたとえばPET(PolyEthylene Terephthalate)製のシートで覆うことにより、容易に離型することが可能である。
【0061】
本実施の形態によると、様々な光学機器に共通して使用することができる光学素子10を提供することができる。
【0062】
光学素子10は、たとえばレーザープリンタ、複写機等の光学機器に使用するシリンドリカルレンズ、fθレンズ等でも良い。用途に応じた形状に成型した基材12の表面に積層膜20を形成することにより、光学素子10を作成する。光学素子10はプリズムであっても良い。プリズムである場合には、基材12を三角柱に成型した後に、光を入射する面および出射する面に積層膜20を成膜する。
【0063】
各実施例で記載されている技術的特徴(構成要件)はお互いに組合せ可能であり、組み合わせすることにより、新しい技術的特徴を形成することができる。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって、制限的なものでは無いと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味では無く、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。