【解決手段】薄膜トランジスタ100は、チャネル領域131、並びに、チャネル領域131より抵抗率が低いソース領域132及びドレイン領域133を有する酸化物半導体層130と、酸化物半導体層130のチャネル領域131上に設けられたゲート絶縁層140と、ゲート絶縁層140上に設けられたゲート電極150と、ゲート絶縁層140の側面、並びに、ソース領域132及びドレイン領域133を覆う酸化アルミニウム層160とを備え、ゲート絶縁層140は、第1絶縁層141と第2絶縁層142とを含む多層構造を有し、第1絶縁層141は、シリコン酸化物を主成分として含み、チャネル領域131上に接触して設けられている。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、本発明の実施の形態に係る薄膜トランジスタについて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、いずれも本発明の好ましい一具体例を示すものである。したがって、以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する趣旨ではない。よって、以下の実施の形態における構成要素のうち、本発明の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0012】
また、各図は、模式図であり、必ずしも厳密に図示されたものではない。したがって、例えば、各図において縮尺などは必ずしも一致しない。また、各図において、実質的に同一の構成については同一の符号を付しており、重複する説明は省略又は簡略化する。
【0013】
また、本明細書において、「上方」及び「下方」という用語は、絶対的な空間認識における上方向(鉛直上方)及び下方向(鉛直下方)を指すものではなく、積層構成における積層順を基に相対的な位置関係により規定される用語として用いる。また、「上方」及び「下方」という用語は、2つの構成要素が互いに間隔を空けて配置されて2つの構成要素の間に別の構成要素が存在する場合のみならず、2つの構成要素が互いに密着して配置されて2つの構成要素が接する場合にも適用される。
【0014】
(実施の形態)
[1.有機EL表示装置]
まず、本実施の形態に係る有機EL表示装置の概要について、
図1〜
図4を用いて説明する。なお、
図1は、本実施の形態に係る薄膜半導体アレイ基板1の構成を示す図である。
図2は、本実施の形態に係る有機EL表示装置10の一部切り欠き斜視図である。
図3は、本実施の形態に係る有機EL表示装置10のピクセルバンクの一例を示す図である。
図4は、本実施の形態に係る有機EL表示装置10における画素回路31の回路構成を示す図である。
【0015】
まず、薄膜半導体アレイ基板1は、
図1に示すように、複数(
図1では2個)の有機EL表示装置10を含んでいる。また、複数の有機EL表示装置10の各々は、
図2に示すように、複数個の薄膜トランジスタが配置されたTFT基板(TFTアレイ基板)20と、下部電極である陽極41、有機材料からなる発光層であるEL層42及び透明な上部電極である陰極43からなる有機EL素子(発光部)40との積層構造により構成される。
【0016】
TFT基板20には複数の画素30がマトリクス状に配置されており、各画素30には画素回路31が設けられている。
【0017】
有機EL素子40は、複数の画素30の各々に対応して形成されており、各画素30に設けられた画素回路31によって各有機EL素子40の発光の制御が行われる。有機EL素子40は、複数の薄膜トランジスタを覆うように形成された層間絶縁膜(平坦化層)の上に形成される。
【0018】
また、有機EL素子40は、陽極41と陰極43との間にEL層42が配置された構成となっている。陽極41とEL層42との間にはさらに正孔輸送層が積層形成され、EL層42と陰極43との間にはさらに電子輸送層が積層形成されている。なお、陽極41と陰極43との間には、その他の有機機能層(例えば、正孔注入層、電子注入層など)が設けられていてもよい。
【0019】
陽極41の材料としては、例えば、モリブデン、アルミニウム、金、銀、銅などの導電性金属若しくはこれらの合金、PEDOT:PSSなどの有機導電性材料、酸化亜鉛、又は、亜鉛添加酸化インジウムなどを用いることができる。陽極41は、例えば、真空蒸着法、電子ビーム蒸着法、RFスパッタリング法又は印刷法などによって形成される。
【0020】
EL層42は、陽極41上でバンク(図示せず)の開口部内に画素30毎又はライン毎に形成される。EL層42の材料としては、例えば、Alq3(tris(8−hydroxyquinoline)aluminum)を用いることができる。また、例えば、正孔注入層として銅フタロシアニンを、正孔輸送層としてα−NPD(Bis[N−(1−Naphthyl)−N−Phenyl]benzidine)を、電子輸送層としてオキサゾール誘導体を、電子注入層としてAlq3を用いることができる。なお、これらの材料は、あくまで一例であって、他の材料を用いてもよい。
【0021】
陰極43の材料としては、例えば、ITO、SnO
2、In
2O
3、ZnO又はこれらの組み合わせを用いることができる。
【0022】
各画素30は、それぞれの画素回路31によって駆動制御される。また、TFT基板20には、画素30の行方向に沿って配置される複数のゲート配線(走査線)50と、ゲート配線50と交差するように画素30の列方向に沿って配置される複数のソース配線(信号配線)60と、ソース配線60と平行に配置される複数の電源配線(図示せず)とが形成されている。各画素30は、例えば、直交するゲート配線50とソース配線60とによって区画されている。
【0023】
ゲート配線50は、各画素回路31に含まれるスイッチング素子として動作する薄膜トランジスタのゲート電極と行毎に接続されている。ソース配線60は、各画素回路31に含まれるスイッチング素子として動作する薄膜トランジスタのソース電極と列毎に接続されている。電源配線は、各画素回路31に含まれる駆動素子として動作する薄膜トランジスタのドレイン電極と列毎に接続されている。
【0024】
図3に示すように、有機EL表示装置10の各画素30は、3色(赤色、緑色、青色)のサブ画素30R、30G、30Bによって構成されており、これらのサブ画素30R、30G、30Bはそれぞれ、表示面上に複数個がマトリクス状に配列されるように形成されている。各サブ画素30R、30G、30Bは、バンク21によって互いに分離されている。
【0025】
バンク21は、ゲート配線50に平行に延びる突条と、ソース配線60に平行に延びる突条とが互いに交差するように、格子状に形成されている。そして、この突条で囲まれる部分(すなわち、バンク21の開口部)の各々とサブ画素30R、30G、30Bの各々とが一対一で対応している。なお、本実施の形態において、バンク21はピクセルバンクとしたが、ラインバンクとしても構わない。
【0026】
陽極41は、TFT基板20上の層間絶縁膜(平坦化層)上でかつバンク21の開口部内に、サブ画素30R、30G、30B毎に形成されている。同様に、EL層42は、陽極41上でかつバンク21の開口部内に、サブ画素30R、30G、30B毎に形成されている。透明な陰極43は、複数のバンク21上で、かつ、全てのEL層42(全てのサブ画素30R、30G、30B)を覆うように、連続的に形成されている。
【0027】
さらに、画素回路31は、各サブ画素30R、30G、30B毎に設けられており、各サブ画素30R、30G、30Bと、対応する画素回路31とは、コンタクトホール及び中継電極によって電気的に接続されている。なお、サブ画素30R、30G、30Bは、EL層42の発光色が異なることを除いて同一の構成である。
【0028】
ここで、画素30における画素回路31の回路構成について、
図4を用いて説明する。
図4は、本実施の形態に係る有機EL表示装置10における画素回路31の構成を示す電気回路図である。
【0029】
図4に示すように、画素回路31は、駆動素子として動作する薄膜トランジスタ32と、スイッチング素子として動作する薄膜トランジスタ33と、対応する画素30に表示するためのデータを記憶するキャパシタ34とで構成される。本実施の形態において、薄膜トランジスタ32は、有機EL素子40を駆動するための駆動トランジスタであり、薄膜トランジスタ33は、画素30を選択するためのスイッチングトランジスタである。
【0030】
薄膜トランジスタ32は、薄膜トランジスタ33のドレイン電極33d及びキャパシタ34の一端に接続されるゲート電極32gと、電源配線70に接続されるドレイン電極32dと、キャパシタ34の他端と有機EL素子40の陽極41とに接続されるソース電極32sと、半導体膜(図示せず)とを備える。薄膜トランジスタ32は、キャパシタ34が保持しているデータ電圧に対応する電流を電源配線70からソース電極32sを通じて有機EL素子40の陽極41に供給する。これにより、有機EL素子40では、陽極41から陰極43へと駆動電流が流れてEL層42が発光する。
【0031】
薄膜トランジスタ33は、ゲート配線50に接続されるゲート電極33gと、ソース配線60に接続されるソース電極33sと、キャパシタ34の一端及び薄膜トランジスタ32のゲート電極32gに接続されるドレイン電極33dと、半導体膜(図示せず)とを備える。薄膜トランジスタ33は、接続されたゲート配線50及びソース配線60に所定の電圧が印加されると、ソース−ドレイン間が導通する。これにより、ソース配線60に印加された電圧がデータ電圧としてキャパシタ34に保存される。
【0032】
なお、上記構成の有機EL表示装置10では、ゲート配線50とソース配線60との交点に位置する画素30毎に表示制御を行うアクティブマトリクス方式が採用されている。これにより、各画素30(各サブ画素)の薄膜トランジスタ32及び33によって、対応する有機EL素子40が選択的に発光し、所望の画像が表示される。
【0033】
なお、
図4では、画素回路31として、2つの薄膜トランジスタ32及び33と1つのキャパシタ34とを備える、いわゆる2Tr1C構成の画素回路について示したが、これに限らない。例えば、画素回路31は、トランジスタの閾値電圧の補正を行うためのトランジスタなどをさらに備えてもよい。
【0034】
[2.TFT]
以下では、本実施の形態に係るTFT基板20に形成される薄膜トランジスタについて、
図5を用いて説明する。
【0035】
本実施の形態に係る薄膜トランジスタ100は、トップゲート型のTFTである。薄膜トランジスタ100は、例えば、
図4に示す薄膜トランジスタ32である。すなわち、薄膜トランジスタ100は、駆動トランジスタとして利用することができる。具体的には、薄膜トランジスタ100が薄膜トランジスタ32である場合、ゲート電極150がゲート電極32gに、ソース電極180sがソース電極32sに、ドレイン電極180dがドレイン電極32dに、それぞれ相当する。
【0036】
なお、薄膜トランジスタ100は、例えば、
図4に示す薄膜トランジスタ33でもよい。すなわち、薄膜トランジスタ100は、スイッチングトランジスタとして利用してもよい。
【0037】
図5は、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ100の断面図である。
図5に示すように、薄膜トランジスタ100は、基板110と、アンダーコート層120と、酸化物半導体層130と、ゲート絶縁層140と、ゲート電極150と、酸化アルミニウム層160と、層間絶縁層170と、ドレイン電極180d及びソース電極180sとを備える。
【0038】
なお、以降の説明において、「上方」とは、基板110を基準としてアンダーコート層120側を意味し、具体的には、各層の積層方向を意味する。一方、「下方」とは、基板110を基準としてアンダーコート層120とは反対側を意味し、具体的には、各層の積層方向の反対方向を意味する。
【0039】
[2−1.基板]
基板110は、例えば、電気絶縁性を有する材料から構成される基板である。例えば、基板110は、無アルカリガラス、石英ガラス、高耐熱性ガラスなどのガラス材料、又は、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイミドなどの樹脂材料から構成される基板である。
【0040】
なお、基板110は、例えば、シート状又はフィルム状の可撓性を有するフレキシブル基板でもよい。基板110は、例えば、ポリイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのフィルム材料の単層又は積層で構成されたフレキシブル樹脂基板である。
【0041】
なお、基板110がフレキシブル基板の場合、薄膜トランジスタ100の製造工程では、基板110の裏面にガラス基板などの支持基板が設けられている。例えば、薄膜トランジスタ100及び有機EL素子40を形成した後に、支持基板が基板110から剥離されることで、TFT基板20をフレキシブルディスプレイに用いることができる。
【0042】
[2−2.アンダーコート層]
アンダーコート層120は、基板110上に設けられた無機層の一例である。アンダーコート層120は、基板110の表面(酸化物半導体層130が形成される側の面)に形成されている。アンダーコート層120が設けられることにより、基板110に含まれる不純物(例えば、ナトリウム及びリンなど)、又は、大気中の水分などが酸化物半導体層130に浸入するのを抑制することができる。これにより、酸化物半導体層130の膜質を安定化させて、TFT特性を安定化させることができる。
【0043】
アンダーコート層120は、例えば、酸化物絶縁層又は窒化物絶縁層を用いた単層絶縁層又は積層絶縁層である。一例として、アンダーコート層120としては、シリコン酸化膜(SiO
x)、シリコン窒化膜(SiN
x)、シリコン酸窒化膜(SiON
x)若しくは酸化アルミニウム膜(AlO
x)などの単層膜、又は、これらの積層膜を用いることができる。本実施の形態では、アンダーコート層120は、複数の絶縁膜を積層することによって形成された積層膜である。アンダーコート層120の膜厚は、例えば、100nm〜2000nmである。
【0044】
[2−3.酸化物半導体層]
酸化物半導体層130は、チャネル層として用いられる。具体的には、
図5に示すように、酸化物半導体層130は、チャネル領域131、ソース領域132及びドレイン領域133を有する。チャネル領域131は、ゲート絶縁層140を挟んでゲート電極150と対向する領域である。ソース領域132及びドレイン領域133は、チャネル領域131より抵抗率が低い低抵抗化領域である。ソース領域132及びドレイン領域133は、例えば、成膜した酸化物半導体の所定の領域に対して酸素欠損を引き起こすことで形成される。
【0045】
酸化物半導体層130は、基板110の上方、具体的には、アンダーコート層120上に所定形状で設けられている。酸化物半導体層130は、金属の酸化物を主成分として含んでいる。金属は、例えば、インジウム(In)、ガリウム(Ga)又は亜鉛(Zn)である。酸化物半導体層130としては、例えば、InGaZnO、InTiZnO、ZnO、InGaO、InZaOなどを用いることができる。InGaZnOの場合を例にとると、各元素の構成比の一例としては、In
xGa
yZn
zO
1.5x+1.5y+z(x、y、zは整数)である。酸化物半導体層130の膜厚は、例えば、10nm〜300nmである。
【0046】
[2−4.ゲート絶縁層]
ゲート絶縁層140は、酸化物半導体層130のチャネル領域131上に設けられている。本実施の形態では、ゲート絶縁層140の側面は、チャネル領域131の側面と面一であり、上面視において、ゲート絶縁層140の輪郭線とチャネル領域131の輪郭線とは略一致している。なお、本実施の形態では、ゲート絶縁層140は、酸化物半導体層130のチャネル領域131上のみに形成されているが、これに限らない。
【0047】
図5に示すように、ゲート絶縁層140は、第1絶縁層141と、第2絶縁層142とを含む多層構造を有する。
【0048】
第1絶縁層141は、シリコン酸化物を主成分として含み、チャネル領域131上に接触して設けられている。第1絶縁層141の膜厚は、例えば、50nm〜150nmである。第1絶縁層141は、例えば、屈折率が1.6以下、好ましくは1.57以下の絶縁層である。
【0049】
第2絶縁層142は、第1絶縁層141より酸素含有率が低い絶縁層である。具体的には、第2絶縁層142は、酸素を実質的に含まない絶縁層である。例えば、第2絶縁層142は、シリコン窒化物を主成分として含んでいる。第2絶縁層142の膜厚は、例えば、50nm〜150nmである。
【0050】
[2−5.ゲート電極]
ゲート電極150は、ゲート絶縁層140上に設けられている。本実施の形態では、ゲート電極150の側面は、ゲート絶縁層140の側面と面一であり、上面視において、ゲート電極150の輪郭線とゲート絶縁層140の輪郭線とは略一致している。
【0051】
ゲート電極150は、金属などの導電性材料又はその合金などの単層構造又は積層構造の電極である。ゲート電極150の材料としては、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、モリブデンタングステン(MoW)、銅(Cu)、チタン(Ti)、クロム(Cr)などを用いることができる。ゲート電極150の膜厚は、例えば、50nm〜300nmである。
【0052】
[2−6.酸化アルミニウム層]
酸化アルミニウム層160は、酸化物半導体層130上に設けられ、かつ、ソース領域132及びドレイン領域133に接触している。本実施の形態では、酸化アルミニウム層160は、酸化物半導体層130の上面のうち、ゲート絶縁層140によって覆われていない部分に設けられている。具体的には、酸化アルミニウム層160は、ソース領域132上及びドレイン領域133上に設けられている。
【0053】
より具体的には、酸化アルミニウム層160は、ゲート電極150の上面及び側面、ゲート絶縁層140の側面、並びに、ソース領域132及びドレイン領域133の各々の上面を覆っている。なお、酸化アルミニウム層160は、ゲート電極150上には設けられていなくてもよい。
【0054】
また、酸化アルミニウム層160及び層間絶縁層170には、所定の領域を貫通するように複数の開口部(コンタクトホール)が形成されている。当該コンタクトホールを介して、ソース領域132とソース電極180sとが電気的及び物理的に接続され、ドレイン領域133とドレイン電極180dとが電気的及び物理的に接続されている。
【0055】
酸化アルミニウム層160は、酸化物半導体層130の低抵抗化を促進する低抵抗化促進層である。本実施の形態では、酸化アルミニウム層160は、酸化物半導体層130のソース領域132及びドレイン領域133の低抵抗化を促進する。具体的には、酸化アルミニウム層160は、ソース領域132及びドレイン領域133の酸素を引き抜くことで、酸素欠損を発生させる。これにより、ソース領域132及びドレイン領域133が低抵抗化される。
【0056】
ソース領域132及びドレイン領域133はそれぞれ、ソース電極180s及びドレイン電極180dと電気的に接続される領域である。このため、ソース領域132及びドレイン領域133は、コンタクト抵抗が低いことが好ましい。酸化アルミニウム層160がソース領域132及びドレイン領域133を低抵抗化させるので、コンタクト抵抗が低下し、TFT特性を高めることができる。
【0057】
酸化アルミニウム層160の膜厚は、酸化物半導体層130から酸素を引き抜くのに十分な厚さであればよく、例えば、10nm以上であり、好ましくは、20nm以上である。また、酸化アルミニウム層160の膜密度は、例えば、2.7g/cm
3以下である。
【0058】
[2−7.層間絶縁層]
層間絶縁層170は、酸化アルミニウム層160を覆うように設けられている。具体的には、層間絶縁層170は、薄膜トランジスタ100が形成されている素子領域の全面を覆うように形成されている。
【0059】
層間絶縁層170は、有機物又は無機物を主成分とする材料によって形成される。例えば、層間絶縁層170は、シリコン酸化膜(SiO
x)、シリコン窒化膜(SiN
x)、シリコン酸窒化膜(SiON
x)又は酸化アルミニウム膜(AlO
x)などの単層膜、又は、積層膜である。このとき、層間絶縁層170は、比誘電率が小さい材料を用いて、厚膜に形成してもよい。これにより、ゲート電極150とソース電極180s又はドレイン電極180dとの間の寄生容量を低減することができる。
【0060】
[2−8.ソース電極及びドレイン電極]
ソース電極180s及びドレイン電極180dは、層間絶縁層170上に所定形状で形成されている。ソース電極180s及びドレイン電極180dの各々は、酸化物半導体層130と電気的に接続されている。
【0061】
本実施の形態では、ソース電極180sは、層間絶縁層170及び酸化アルミニウム層160に形成されたコンタクトホールを介してソース領域132と電気的及び物理的に接続されている。また、ドレイン電極180dは、層間絶縁層170及び酸化アルミニウム層160に形成されたコンタクトホールを介してドレイン領域133と電気的及び物理的に接続されている。
【0062】
ソース電極180s及びドレイン電極180dは、導電性材料又はその合金などの単層構造又は積層構造の電極である。ソース電極180s及びドレイン電極180dの材料としては、例えば、アルミニウム(Al)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、モリブデンタングステン(MoW)、銅(Cu)、チタン(Ti)、クロム(Cr)などを用いることができる。ソース電極180s及びドレイン電極180dの膜厚は、例えば、50nm〜300nmである。
【0063】
[3.TFTの製造方法]
次に、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ100の製造方法について、
図6A〜
図6Cを用いて説明する。
【0064】
図6A〜
図6Cはそれぞれ、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ100の製造方法を示す断面図である。具体的には、
図6Aは、基板110の準備工程から第2絶縁膜142aの成膜工程までを示している。
図6Bは、ゲート金属膜150aの成膜工程から酸化アルミニウム層160の形成工程までを示している。
図6Cは、層間絶縁層170の形成工程とコンタクトホール171s及び171dの形成工程とを示している。
【0065】
まず、
図6Aの(a)に示すように、基板110を準備する。基板110としては、例えば、無アルカリガラスなどのガラス基板を用いるが、樹脂基板、合成石英基板、熱酸化膜付きシリコン基板などを用いてもよい。
【0066】
次に、
図6Aの(b)に示すように、基板110上にアンダーコート層120を形成する。例えば、プラズマCVD法、スパッタリング法、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法などによって、シリコン窒化膜とシリコン酸化膜との積層膜をアンダーコート層120として形成する。
【0067】
次に、
図6Aの(c)に示すように、基板110の上方に酸化物半導体層130aを形成する。具体的には、アンダーコート層120上に所定形状の酸化物半導体層130aを形成する。酸化物半導体層130aの材料としては、InGaZnOなどの透明アモルファス半導体(TAOS)を用いることができる。例えば、60nmのInGaZnO膜を酸化物半導体層130aとして形成する。
【0068】
この場合、まず、スパッタリング法、レーザアブレーション法又はプラズマCVD法などにより、InGaZnOからなる酸化物半導体膜を成膜する。具体的には、In、Ga及びZnを含むターゲット材(例えば、InGaO
3(ZnO)
4組成を有する多結晶焼結体)を用いて、真空チャンバ内に不活性ガスとしてアルゴンガスを導入すると共に、反応性ガスとして酸素(O
2)を含むガスを導入し、所定のパワー密度の電力をターゲット材に印加する。
【0069】
その後、成膜した酸化物半導体膜をフォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法を用いてパターニングすることにより、
図6Aの(c)に示すように、所定形状に加工された酸化物半導体層130aを形成することができる。酸化物半導体層130aは、所定形状に島化されている。なお、InGaZnOのウェットエッチングには、例えば、リン酸(H
3PO
4)、硝酸(HNO
3)、酢酸(CH
3COOH)及び水(H
2O)を混合した薬液を用いることができる。
【0070】
次に、
図6Aの(d)に示すように、酸化物半導体層130a上に第1絶縁膜141aを成膜する。本実施の形態では、酸化物半導体層130aを覆うように全面にシリコン酸化膜を第1絶縁膜141aとして成膜する。
【0071】
シリコン酸化膜は、例えば、プラズマCVD法によって成膜される。具体的には、真空チャンバ内にシランガス(SiH
4)及び亜酸化窒素ガス(N
2O)を導入し、プラズマを発生させることで、シリコン酸化膜が形成される。このときのシランガスの割合は、例えば、3.6%以上である。
【0072】
次に、
図6Aの(e)に示すように、第1絶縁膜141a上に第2絶縁膜142aを成膜する。本実施の形態では、第1絶縁膜141aを覆うように全面にシリコン窒化膜を第2絶縁膜142aとして成膜する。
【0073】
シリコン窒化膜は、例えば、プラズマCVD法によって成膜される。具体的には、真空チャンバ内にシランガス(SiH
4)、アンモニアガス(NH
3)及び窒素ガス(N
2)を導入し、プラズマを発生させることで、シリコン窒化膜が成膜される。
【0074】
本実施の形態では、第1絶縁膜141aと第2絶縁膜142aとがそれぞれシリコン酸化膜又はシリコン窒化膜から形成されるので、連続成膜することができる。つまり、第1絶縁膜141aとして必要な膜厚のシリコン酸化膜を形成した後、導入ガスを変化させることで、チャンバ内から成膜中の基板を取り出すことなく、第2絶縁膜142aを連続して形成することができる。
【0075】
次に、
図6Bの(f)に示すように、第2絶縁膜142a上にゲート金属膜150aを成膜する。例えば、スパッタリング法などによって、第2絶縁膜142a上に、Ti/Al/Tiの積層膜をゲート金属膜150aとして成膜する。
【0076】
次に、
図6Bの(g)に示すように、ゲート金属膜150a、第1絶縁膜141a及び第2絶縁膜142aを加工することにより、ゲート電極150、並びに、第1絶縁層141及び第2絶縁層142の多層構造を含むゲート絶縁層140を形成する。これにより、酸化物半導体層130aの一部(具体的には、ソース領域132及びドレイン領域133となる部分)を露出させる。
【0077】
具体的には、まず、フォトリソグラフィ法及びエッチング法によって、ゲート金属膜150aをパターニングすることにより、第2絶縁膜142a上に所定形状のゲート電極150を形成する。Ti/Al/Tiの積層膜であるゲート金属膜150aのエッチングは、例えば、六フッ化硫黄(SF
6)、酸素(O
2)、三塩化ホウ素(BCl
3)などのガスを用いた反応性イオンエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)などのドライエッチングによって行うことができる。
【0078】
続いて、ゲート電極150をマスクとして、第2絶縁膜142a及び第1絶縁膜141aをパターニングすることで、自己整合的に、ゲート電極150と平面視形状が略同じゲート絶縁層140を形成する。例えば、シリコン窒化膜である第2絶縁膜142a及びシリコン酸化膜である第1絶縁膜141aのエッチングは、四フッ化炭素(CF
4)及び酸素ガス(O
2)などのガスを用いたドライエッチングによって行うことができる。本実施の形態では、例えば、ドライエッチングによって、ゲート金属膜150aの加工と、第2絶縁膜142aの加工と、第1絶縁膜141aの加工とをこの順で連続して行うことができる。なお、第2絶縁膜142a(シリコン窒化膜)は、例えば、リン酸(H
3PO
4)液を用いたウェットエッチングによって加工してもよい。第1絶縁膜141a(シリコン酸化膜)は、フッ酸(HF)液を用いたウェットエッチングによって加工してもよい。
【0079】
次に、
図6Bの(h)に示すように、酸化物半導体層130a上に、酸化アルミニウム層160を形成する。酸化物半導体層130a上に酸化アルミニウム層160を形成することで、酸化物半導体層130aの、酸化アルミニウム層160に接触する領域を低抵抗化する。これにより、酸化物半導体層130には、低抵抗化されたソース領域132及びドレイン領域133が形成される。
【0080】
本実施の形態では、全面に酸化アルミニウム層160を成膜する。具体的には、ゲート電極150の上面及び側面、ゲート絶縁層140(第1絶縁層141及び第2絶縁層142)の側面、並びに、ソース領域132及びドレイン領域133の上面を覆うように、酸化アルミニウム層160を形成する。例えば、反応性スパッタリングによって、30nmの酸化アルミニウム層160を形成する。
【0081】
なお、酸化アルミニウム層160を形成する前に、加熱(アニール)処理を行ってもよい。これにより、これまでのプロセスによってダメージを受けた酸化物半導体層130aのダメージを回復させることができる。
【0082】
次に、
図6Cの(i)に示すように、酸化アルミニウム層160を覆うように、層間絶縁層170を形成する。例えば、プラズマCVD法によって200nmのシリコン酸化膜を層間絶縁層170として形成する。
【0083】
次に、
図6Cの(j)に示すように、ソース領域132及びドレイン領域133の各々の一部を露出させるように、層間絶縁層170及び酸化アルミニウム層160に開口部(コンタクトホール171s及び171d)を形成する。具体的には、フォトリソグラフィ法及びエッチング法によって、層間絶縁層170及び酸化アルミニウム層160の一部をエッチング除去することによって、ソース領域132及びドレイン領域133上にコンタクトホール171s及び171dを形成する。
【0084】
例えば、シリコン酸化膜である層間絶縁層170は、四フッ化炭素(CF
4)及び酸素ガス(O
2)を用いたドライエッチングによって一部を除去することができる。酸化アルミニウム層160は、三塩化ホウ素(BCl
3)などのガスを用いたドライエッチングによって一部を除去することができる。なお、酸化アルミニウム層160は、例えば、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)水溶液を用いたウェットエッチングによって一部が除去されてもよい。
【0085】
最後に、コンタクトホール171s及び171dを介して、ソース領域132に電気的及び物理的に接続されたソース電極180sと、ドレイン領域133に電気的及び物理的に接続されたドレイン電極180dとを形成する。具体的には、まず、コンタクトホール171s及び171dを埋めるようにして、層間絶縁層170上に金属膜(ソースドレイン金属膜)をスパッタリング法などによって成膜する。成膜した金属膜を、フォトリソグラフィ法及びウェットエッチング法を用いてパターニングすることにより、所定形状のソース電極180s及びドレイン電極180dを形成する。例えば、合計膜厚が500nmのMoW/Al/MoWの3層構造の金属膜をソース電極180s及びドレイン電極180dとして形成した。
【0086】
以上のようにして、
図5に示す薄膜トランジスタ100を製造することができる。
【0087】
[4.効果など]
ここで、
図7〜
図11を用いて、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ100の効果について説明する。
【0088】
[4−1.比較例]
まず、比較例に係る薄膜トランジスタ100xの特性を測定した結果について、
図7〜
図9を用いて説明する。
図7は、比較例に係る薄膜トランジスタ100xの断面図である。
図7に示すように、比較例に係る薄膜トランジスタ100xは、ゲート絶縁層140xがシリコン窒化物又はシリコン酸化物を主成分として含む単層構造を有する点を除いて、実施の形態に係る薄膜トランジスタ100と同じである。
【0089】
ここでは、ゲート絶縁層140xの膜質が異なる2種類(比較例1及び2)の薄膜トランジスタ100xを製作し、各々のドレイン電流特性及び耐圧特性について測定した。具体的には、比較例1及び2に係るゲート絶縁層140xはそれぞれ、膜厚200nmのシリコン窒化膜及びシリコン酸化膜である。
【0090】
図8は、比較例に係る薄膜トランジスタ100xのドレイン電流特性を示す図である。
図8の(a)及び(b)はそれぞれ、比較例1及び2(シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜)に係る薄膜トランジスタ100xのドレイン電流特性を示している。なお、(a)及び(b)の各図に示される複数のグラフは、面内における測定点(具体的には16点)毎の結果を示している。これは、後述する
図9〜
図11についても同様である。
【0091】
図8の(b)に示すように、ゲート絶縁層140xがシリコン酸化膜である場合、薄膜トランジスタ100xは、閾値電圧が0V付近にあり、良好なドレイン電流特性が得られた。一方で、
図8の(a)に示すように、ゲート絶縁層140xがシリコン窒化膜である場合、明確な線形領域及び飽和領域が確認されず、ゲート電圧によらずにドレイン電流が流れており、閾値電圧が大きく下がってしまっていることが分かる。ゲート絶縁層140xがシリコン窒化膜である場合には、ゲート絶縁層140xに含まれる水素原子の影響で酸化物半導体層130のチャネル領域131が低抵抗化したために閾値電圧の低下を招いたと考えられる。
【0092】
以上のことから、ゲート絶縁層140xとしてシリコン酸化膜を形成した場合には薄膜トランジスタ100xのドレイン電流特性が良くなることが分かる。
【0093】
図9は、比較例に係る薄膜トランジスタ100xの耐圧特性を示す図である。
図9の(a)及び(b)はそれぞれ、比較例1及び2(シリコン窒化膜及びシリコン酸化膜)に係る薄膜トランジスタ100xの耐圧特性を示している。
【0094】
比較例に係る薄膜トランジスタ100xでは、
図7に示すように、ゲート絶縁層140xの側面が酸化アルミニウム層160に接触している。このため、ゲート絶縁層140xがシリコン酸化膜である場合には、酸化アルミニウム層160によってゲート絶縁層140xから酸素が引き抜かれ、ゲート絶縁層140xの側面付近の酸素含有率が低くなる。このため、側面付近では、シリコン酸化膜の絶縁性が低くなり、リーク電流が流れやすくなる。これにより、
図9の(b)に示すように、シリコン酸化膜をゲート絶縁層140xとして備える薄膜トランジスタ100xの耐圧が低くなる。
【0095】
一方で、ゲート絶縁層140xがシリコン窒化膜である場合には、そもそも引き抜かれる酸素をゲート絶縁層140xが含まないため、ゲート絶縁層140xの絶縁性はほとんど変化しない。したがって、
図9の(a)に示すように、シリコン窒化膜をゲート絶縁層140xとして備える薄膜トランジスタ100xでは、良好な耐圧特性が得られた。
【0096】
以上のことから、ゲート絶縁層140xとしてシリコン酸化膜を形成した場合には薄膜トランジスタ100xの耐圧特性が悪くなる。
【0097】
このように、比較例に係る薄膜トランジスタ100xでは、ドレイン電流特性と耐圧特性とがトレードオフの関係にあるため、閾値電圧の低下の抑制と、耐圧の向上とを同時に実現することができない。
【0098】
[4−2.実施例]
上述した比較例に対して、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ100は、
図5に示したように、ゲート絶縁層140が第1絶縁層141と第2絶縁層142とを含む多層構造を有する。以下では、実施例に係る薄膜トランジスタ100の特性を測定した結果について、
図10及び
図11を用いて説明する。
【0099】
実施例に係る薄膜トランジスタ100では、第1絶縁層141は、シリコン酸化膜から形成され、第2絶縁層142は、シリコン窒化膜から形成される。なお、シリコン酸化膜を形成するときのシランガスの割合(=SiH
4/(SiH
4+N
2O))は、3.6%とした。
【0100】
ここでは、第1絶縁層141と第2絶縁層142との膜厚が異なる3種類(実施例1〜3)の薄膜トランジスタ100を製作し、各々のドレイン電流特性及び耐圧特性について測定した。実施例1に係る薄膜トランジスタ100は、第1絶縁層141の膜厚が第2絶縁層142の膜厚より大きく、具体的には、第1絶縁層141の膜厚が150nmであり、第2絶縁層142の膜厚が50nmである。実施例2に係る薄膜トランジスタ100は、第1絶縁層141の膜厚と第2絶縁層142の膜厚とが等しく、具体的には、それぞれの膜厚が100nmである。実施例3に係る薄膜トランジスタ100は、第1絶縁層141の膜厚が第2絶縁層142より小さく、具体的には、第1絶縁層141の膜厚が50nmであり、第2絶縁層142の膜厚が150nmである。
【0101】
図10は、実施例に係る薄膜トランジスタ100のドレイン電流特性を示す図である。
図10の(a)〜(c)はそれぞれ、実施例1〜3に係る薄膜トランジスタ100のドレイン電流特性を示している。
【0102】
図10に示すように、実施例1〜3のいずれの場合も線形領域と飽和領域とが確認された。実施例1〜3に係る薄膜トランジスタ100の閾値電圧は、この順で低くなっている。例えば、実施例1に係る薄膜トランジスタ100の閾値電圧は、0Vより高く、実施例3に係る薄膜トランジスタ100の閾値電圧は、0Vより低い。
【0103】
このように、第1絶縁層141の膜厚が小さい程、閾値電圧は低くなっていることが分かる。したがって、閾値電圧の低下を抑制するためには、第1絶縁層141の膜厚を大きくすればよいことが分かる。
【0104】
本実施の形態に係る薄膜トランジスタ100では、酸化物半導体層130の直上の絶縁膜である第1絶縁層141は、シリコン酸化膜から形成されている。シリコン酸化膜は、シリコン窒化膜に比べて水素をほとんど含まない。このため、酸化物半導体層130のチャネル領域131の低抵抗化が抑制される。
【0105】
なお、上述したように、シリコン酸化膜の形成は、シランガス及び亜酸化窒素ガスを用いたプラズマCVDによって行われる。このとき、シランガスの割合が低い場合(例えば、1.2%以下)には、シリコン酸化膜の成膜時にN
2Oプラズマによってチャネル領域131が曝される量が多くなる。これにより、チャネル領域131に酸素欠損が発生し、チャネル領域131が低抵抗化する恐れがある。
【0106】
このため、第1絶縁層141は、シランガスの割合が大きい導入ガス(例えば、3.6%以上)を用いて成膜される。これにより、酸化物半導体層130のチャネル領域131がN
2Oプラズマに曝される量を抑制することができる。よって、チャネル領域131の低抵抗化を抑制し、閾値電圧の低下を抑制することができる。
【0107】
図11は、実施例に係る薄膜トランジスタ100の耐圧特性を示す図である。
図11の(a)〜(c)はそれぞれ、実施例1〜3に係る薄膜トランジスタ100の耐圧特性を示している。
【0108】
図11の(a)に示すように、実施例1に係る薄膜トランジスタ100では、約30V以上のゲート電圧を印加したときにゲート電流が流れた箇所が一点のみ存在している。これを除いた他の15点の実施例1に係る薄膜トランジスタ100、並びに、実施例2及び3に係る薄膜トランジスタ100では、50Vのゲート電圧を印加したときにもゲート電流はほとんど流れていないことが分かる。
【0109】
本実施の形態では、第1絶縁層141上にシリコン窒化膜である第2絶縁層142が形成されている。第2絶縁層142の側面と酸化アルミニウム層160とが接触したとしても、第2絶縁層142には引き抜かれる酸素がほとんど含まれていないため、第2絶縁層142の絶縁性はほとんど変わらない。このように、第2絶縁層142の側面近傍での絶縁性を確保することができるので、薄膜トランジスタ100の耐圧を高めることができる。
【0110】
[5.まとめ]
以上のように、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ100は、チャネル領域131、並びに、チャネル領域131より抵抗率が低いソース領域132及びドレイン領域133を有する酸化物半導体層130と、酸化物半導体層130のチャネル領域131上に設けられたゲート絶縁層140と、ゲート絶縁層140上に設けられたゲート電極150と、ゲート絶縁層140の側面、並びに、ソース領域132及びドレイン領域133を覆う酸化アルミニウム層160とを備え、ゲート絶縁層140は、第1絶縁層141と第2絶縁層142とを含む多層構造を有し、第1絶縁層141は、シリコン酸化物を主成分として含み、チャネル領域131上に接触して設けられている。例えば、第2絶縁層142は、第1絶縁層141より酸素含有率が低い絶縁層である。例えば、第2絶縁層142は、シリコン窒化膜を主成分として含む。
【0111】
これにより、第1絶縁層141はシリコン酸化膜であり、水素原子の含有量が少ないので、チャネル領域131が低抵抗化するのを抑制することができる。よって、閾値電圧の低下を抑制することができる。
【0112】
また、本実施の形態に係る薄膜トランジスタ100では、第2絶縁層142は、第1絶縁層141より酸素含有率が低い絶縁層であり、例えば、シリコン窒化膜などの酸素を実質的に含まない絶縁層である。このため、第2絶縁層142の側面から酸化アルミニウム層160による酸素の引き抜きが実質的に行われない。したがって、酸化アルミニウム層160と第2絶縁層142とが接触した場合でも、第2絶縁層142の絶縁性は保たれる。したがって、薄膜トランジスタ100の耐圧を高めることができる。
【0113】
また、例えば、チャネル領域131、ゲート絶縁層140及びゲート電極150の各々の側面は、略面一である。
【0114】
これにより、ゲート絶縁層140及びゲート電極150を自己整合的に形成することができるので、薄膜トランジスタ100の特性ばらつきを抑えることができ、信頼性を高めることができる。マスク合わせなどの工程を削減することができるので、低コストで薄膜トランジスタ100を製造することができる。
【0115】
(変形例1)
以下では、上記の実施の形態の変形例1について説明する。
【0116】
図12は、本変形例に係る薄膜トランジスタ200の断面図である。
図5に示す実施の形態に係る薄膜トランジスタ100と比較して、薄膜トランジスタ200は、ゲート絶縁層140の代わりにゲート絶縁層240を備える点が相違する。以下では、相違点を中心に説明し、同じ点については、説明を省略又は簡略化する。
【0117】
ゲート絶縁層240は、
図12に示すように、第1絶縁層141と、第2絶縁層242との多層構造を有する。
【0118】
第2絶縁層242は、第1絶縁層141より酸素含有率が高いシリコン酸化物を主成分として含んでいる。例えば、第2絶縁層242は、酸素リッチなシリコン酸化膜から形成されている。第2絶縁層242の膜厚は、例えば、50nm〜150nmである。第2絶縁層242は、例えば、屈折率が1.58以上の絶縁層である。
【0119】
酸素リッチなシリコン酸化膜は、例えば、プラズマCVD法によって成膜される。具体的には、真空チャンバ内にシランガス(SiH
4)及び亜酸化窒素ガス(N
2O)を導入し、プラズマを発生させることで、シリコン酸化膜が形成される。このときのシランガスの割合は、例えば、1.2%以下である。なお、シランガスの割合が低い程、形成されるシリコン酸化膜の酸素含有率が高くなる。本変形例では、第1絶縁層141を形成する際に導入するガスに含まれるシランガスの割合よりも、第2絶縁層242を形成する際に導入するガスに含まれるシランガスの割合の方が小さい。
【0120】
本変形例では、第1絶縁層141と第2絶縁層242とがシリコン酸化膜から形成されるので、連続成膜することができる。つまり、第1絶縁層141として必要な膜厚のシリコン酸化膜を成膜した後、シランガスの割合を変化させることで、チャンバ内から成膜中の基板を取り出すことなく、酸素リッチなシリコン酸化膜を連続して成膜することができる。
【0121】
成膜されたシリコン酸化膜は、例えば、ドライエッチング又はウェットエッチングによって加工される。ドライエッチングは、例えば、四フッ化炭素(CF
4)及び酸素ガス(O
2)などのガスを用いたRIEによって行われる。また、ウェットエッチングは、例えば、フッ酸(HF)液を用いて行われる。
【0122】
本変形例に係る薄膜トランジスタ200では、第1絶縁層141は、酸素含有率が低いシリコン酸化膜であり、シランガスの割合が高い導入ガスを用いたプラズマCVD法によって形成される。したがって、第1絶縁層141の成膜時に、チャネル領域131がN
2Oプラズマに曝されて低抵抗化するのを抑制することができる。よって、閾値電圧の低下を抑制することができる。
【0123】
また、第2絶縁層242は、第1絶縁層141より酸素含有率が高いシリコン酸化物を主成分として含むので、耐圧を高めることができる。特に、本変形例のように、ゲート絶縁層240の側面と酸化アルミニウム層160とが接触している場合には、酸化アルミニウム層160によってゲート絶縁層240から酸素が引き抜かれるので、耐圧が低下しやすくなる。
【0124】
本変形例では、第2絶縁層242の酸素含有率が高いので、第2絶縁層242の側面近傍での低抵抗化が抑制される。つまり、酸化アルミニウム層160による酸素の引き抜きがあったとしても、第2絶縁層242の絶縁性を確保することができる。したがって、本変形例に係る薄膜トランジスタ200では、耐圧の低下が抑制される。
【0125】
(変形例2)
次に、上記の実施の形態の変形例2について説明する。
【0126】
図13は、本変形例に係る薄膜トランジスタ300の断面図である。
図5に示す実施の形態に係る薄膜トランジスタ100と比較して、薄膜トランジスタ300は、ゲート絶縁層140の代わりにゲート絶縁層340を備える点が相違する。以下では、相違点を中心に説明し、同じ点については、説明を省略又は簡略化する。
【0127】
ゲート絶縁層340は、
図13に示すように、第1絶縁層141と、第2絶縁層342との多層構造を有する。
【0128】
第2絶縁層342は、第1絶縁層141より酸素との結合エネルギーが高い絶縁層である。具体的には、第2絶縁層342は、酸化アルミニウム層160と接触した場合に、第1絶縁層141よりも酸素が引き抜かれにくい絶縁層である。例えば、第2絶縁層342は、酸化アルミニウム、フッ素添加シリコン酸化物、炭素添加シリコン酸化物、又は、シリコン酸窒化物を主成分として含んでいる。第2絶縁層342の膜厚は、例えば、50nm〜150nmである。
【0129】
第2絶縁層342は、例えば、プラズマCVD法又はスパッタリング法などによって、酸化アルミニウム膜又はフッ素添加シリコン酸化膜などの絶縁膜が成膜される。成膜された絶縁膜は、例えば、ドライエッチング又はウェットエッチングによって加工される。ドライエッチングに用いる導入ガス、又は、ウェットエッチングに用いる薬液は、成膜した絶縁膜の種別に応じて適宜選択することができる。
【0130】
このように、本変形例に係る薄膜トランジスタ300によれば、酸化物半導体層130のチャネル領域131は、上記の実施の形態と同様に、第1絶縁層141によって覆われている。これにより、上記の実施の形態と同様に、チャネル領域131の低抵抗化が抑制され、閾値電圧の低下を抑制することができる。
【0131】
また、本変形例に係る薄膜トランジスタ300では、第2絶縁層342は、酸素が引き抜かれにくい絶縁層である。このため、第2絶縁層342の側面から酸化アルミニウム層160による酸素の引き抜きが行われにくく、第2絶縁層342の絶縁性を保つことができる。したがって、薄膜トランジスタ300の耐圧を高めることができる。
【0132】
(変形例3)
次に、上記の実施の形態の変形例3について説明する。
【0133】
図14は、本変形例に係る薄膜トランジスタ400の断面図である。
図5に示す実施の形態に係る薄膜トランジスタ100と比較して、薄膜トランジスタ400は、ゲート絶縁層140の代わりにゲート絶縁層440を備える点が相違する。以下では、相違点を中心に説明し、同じ点については、説明を省略又は簡略化する。
【0134】
ゲート絶縁層440は、
図14に示すように、第1絶縁層141と、第3絶縁層443と、第2絶縁層142との多層構造を有する。
【0135】
第3絶縁層443は、第1絶縁層141と第2絶縁層142との間に積層されている。第3絶縁層443は、例えば、変形例2と同様に、第1絶縁層141より酸素との結合エネルギーが高い絶縁層である。例えば、第3絶縁層443は、酸化アルミニウム膜である。
【0136】
第2絶縁層142は、シリコン窒化物を主成分として含むので、内部に水素を含んでいる。このため、第2絶縁層142は、第1絶縁層141を介して酸化物半導体層130のチャネル領域131に水素を供給する水素供給源となる恐れがある。
【0137】
これに対して、本変形例に係る薄膜トランジスタ400では、酸化アルミニウム膜が第3絶縁層443として設けられているので、水素の透過を抑制することができる。したがって、第3絶縁層443は、第2絶縁層142から第1絶縁層141を介してチャネル領域131に水素が浸入するのを抑制することができる。
【0138】
なお、本変形例では、第3絶縁層443は、例えば、変形例1に係る第2絶縁層242と同様に、第1絶縁層141より酸素含有率の高いシリコン酸化物を主成分として含んでいてもよい。また、第3絶縁層443は、第2絶縁層142上に積層されていてもよい。また、ゲート絶縁層440は、3層に限らず、4層以上の多層構造を有してもよい。
【0139】
(その他)
以上、本発明に係る薄膜トランジスタについて、上記実施の形態及びその変形例に基づいて説明したが、本発明は、上記の実施の形態に限定されるものではない。
【0140】
例えば、上記の実施の形態では、ソース領域132及びドレイン領域133を低抵抗化させるために酸化アルミニウム層160を形成したが、これに限らない。例えば、酸化物半導体層130から酸素を引き抜くことができる別の金属酸化物層を形成してもよい。
【0141】
具体的には、酸化アルミニウム層160の代わりに形成される金属酸化物層は、酸化物半導体層130に含まれる第1金属より、酸素との結合解離エネルギーが高い第2金属の酸化物を主成分として含んでいる。第2金属は、例えば、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)である。
【0142】
なお、第1金属と酸素との結合解離エネルギーは、以下の通りである。具体的には、インジウム(In)と酸素との結合解離エネルギーは、360kJ/molである。亜鉛(Zn)と酸素との結合解離エネルギーは、284kJ/molである。ガリウム(Ga)と酸素との結合解離エネルギーは、285kJ/molである。
【0143】
一方で、第2金属と酸素との結合解離エネルギーは、以下の通りである。具体的には、アルミニウム(Al)と酸素との結合解離エネルギーは、512kJ/molである。チタン(Ti)と酸素との結合解離エネルギーは、662kJ/molである。モリブデン(Mo)と酸素との結合解離エネルギーは、607kJ/molである。タングステン(W)と酸素との結合解離エネルギーは、653kJ/molである。
【0144】
したがって、例えば、金属酸化物層として、酸化モリブデン層、酸化チタン層、酸化タングステン層などを形成してもよい。
【0145】
また、例えば、上記の実施の形態では、薄膜トランジスタ100が有機EL表示装置10の駆動回路に利用される例について示したが、液晶ディスプレイなどの駆動回路に利用されてもよい。
【0146】
その他、各実施の形態に対して当業者が思いつく各種変形を施して得られる形態や、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で各実施の形態における構成要素及び機能を任意に組み合わせることで実現される形態も本発明に含まれる。