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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-176053(P2017-176053A)
(43)【公開日】2017年10月5日
(54)【発明の名称】ムラサキ科植物の栽培方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 7/00 20060101AFI20170908BHJP
   A01G 1/00 20060101ALI20170908BHJP
【FI】
   A01G7/00 601C
   A01G1/00 301Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-69535(P2016-69535)
(22)【出願日】2016年3月30日
(71)【出願人】
【識別番号】509164164
【氏名又は名称】地方独立行政法人山口県産業技術センター
(71)【出願人】
【識別番号】304020177
【氏名又は名称】国立大学法人山口大学
(71)【出願人】
【識別番号】000005049
【氏名又は名称】シャープ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】500094543
【氏名又は名称】新日本製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100111132
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 浩
(72)【発明者】
【氏名】吉村 和正
(72)【発明者】
【氏名】荊木 康臣
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 真一
(72)【発明者】
【氏名】青木 仁志
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 信二
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 達文
(72)【発明者】
【氏名】末岡 昭宣
【テーマコード(参考)】
2B022
【Fターム(参考)】
2B022AA01
2B022AA03
2B022AA05
2B022AB08
2B022AB13
2B022DA02
2B022DA08
(57)【要約】
【課題】ムラサキ科植物の根に蓄積されるシコニン又はその誘導体の量を増大させることができるムラサキ科植物の栽培方法を提供する。
【解決手段】波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光を人工的にムラサキ科植物の植物体の葉又は茎に照射することで、ムラサキ科植物の根に蓄積されるシコニン又はその誘導体の量を増大させることを特徴とするムラサキ科植物の栽培方法による。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光を人工的にムラサキ科植物の植物体の葉又は茎に照射することを特徴とするムラサキ科植物の栽培方法。
【請求項2】
前記ムラサキ科植物の根に蓄積されるシコニン又はその誘導体の量を増大させることを特徴とする請求項1に記載のムラサキ科植物の栽培方法。
【請求項3】
日の出及び/又は日没時点を基準にして、その前後3時間のうちの少なくとも1時間の間、前記紫色光を照射することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のムラサキ科植物の栽培方法。
【請求項4】
前記葉又は前記茎に対して前記紫色光を間欠照射することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載のムラサキ科植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ムラサキ科植物の根に蓄積されるシコニン又はその誘導体の量を増大させることができるムラサキ科植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、日本各地や中国、朝鮮半島に自生する多年草であるムラサキ科植物の根には、有用成分であるシコニン又はその誘導体が含まれており、古来より生薬として用いられてきた。
また、シコニン又はその誘導体は、抗菌作用、効炎症作用、皮膚活性化作用、肉芽増殖作用、育毛効果等を有することが知られており、皮膚の美容効果も期待できるので、近年、化粧水や美容液における有用成分としても用いられている。
そして、化粧水や美容液等において生薬としてシコニン又はその誘導体を用いるには、ムラサキ科植物からシコニン又はその誘導体を抽出する必要があり、シコニン又はその誘導体を効率良く生産するためのムラサキ科植物の栽培方法に関する発明がいくつか開示されている。
【0003】
特許文献1には「ムラサキの栽培方法」という名称で、生薬あるいは天然染料として利用されており、かつ絶滅危惧種に指定されているムラサキの栽培方法に関する発明が開示されている。
特許文献1に開示される発明は、有底筒状の育苗容器に砂を入れ、その砂の上にムラサキの種子を数粒撒き、その後前記種子が見えなくなるまで、更にその種子上に砂を撒いて播種し、播種後0〜−10℃の低温に7〜30日間曝すと共に砂の表面が乾いたら散水し、その後は徐々に温度上昇させて発芽させ、発芽後背丈が7〜15cmになった時点で、育苗容器から取り出して根に付いた砂を分離して農地に移植し、その育苗容器から取り出すまでの間は引き続き砂の表面が乾いたら散水し、移植後は農地にて育成し開花させて種子を採取することを特徴とするものである。
上記構成の特許文献1に開示される発明によれば、ムラサキの種子から高率で発芽させることができ、その発芽した苗は育苗用容器中で生存率を高く維持することができ、農地に移植後も順調に生育させることができる。この結果、本発明のムラサキの栽培方法は、生薬あるいは紫根染料等の多くの消費量に対応することができる大量生産に適した栽培方法を提供することができる。
【0004】
特許文献2には「薬用植物の栽培方法」という名称で、主に根部及び地下茎部を利用する薬用植物の栽培方法に関する発明が開示されている。
特許文献2に開示される発明は、文献中に記載される符号をそのまま用いて説明すると、養分に富んだ培土1を充填し底板2に排水孔3を複数設けた栽培用筒体4を、温度、日照量、風速及び水分をコントロール出来るハウス5内の土壌6に立設し、栽培用筒体4に根部及び地下茎部7を利用する薬用植物8を植えて、ハウス5により乾燥環境を創出し、栽培用筒体4内の培土1に水を供給してその水分量をコントロールし、栽培用筒体4の側壁及び底板2により根部及び地下茎部が垂直に伸長する方向付けを行い生育を規制して、底板2の排水孔3によりハウス5内の土壌6の地下水分及び養分を吸収させて、栽培用筒体4内の薬用植物8の根部及び地下茎部7を肥大化育成することを特徴とするものである。
上記構成の特許文献2に開示される発明によれば、天候に左右されず、栽培用筒体内の養分に加えてハウス内の土壌からも養分を吸収して、栽培用筒体内の根部及び地下茎部が短期間で分枝しないで真っ直ぐ且つ肥大化して、有用成分を一定量以上含むこととなり、収穫や採取後の加工も容易となって、その結果、コストパフォーマンスに優れた薬用植物を得ることが出来るという効果を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−217675号公報
【特許文献2】特開2010−29181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示される発明では、人工栽培するムラサキ科植物の個体数を増やすことで、薬用成分の生産量を増加させている。
また、特許文献2に開示される発明では、根部及び地下茎部の収量を増やすことで、薬用成分の生産量を増加させている。
しかしながら、特許文献1,2に開示される発明はいずれも、ムラサキ科植物の根部及び地下茎部における有用成分の含有量を増やそうとするものではなかった。
従って、特許文献1,2に開示される発明においてさらに有用成分の収量を増加させようとする場合は、ムラサキ科植物の個体数を増やす必要があり、栽培面積の拡大が不可避であった。
【0007】
本発明はかかる従来の事情に対処してなされたものであり、人工栽培するムラサキ科植物の個体数を増やすことなく、有用成分の収量を効率的に増加させることができるムラサキ科植物の栽培方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため第1の発明であるムラサキ科植物の栽培方法は、波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光を人工的にムラサキ科植物の植物体の葉又は茎に照射することを特徴とするものである。
【0009】
また、第2の発明であるムラサキ科植物の栽培方法は、上記第1の発明であって、ムラサキ科植物の根に蓄積されるシコニン又はその誘導体の量を増大させることを特徴とするものである。
【0010】
さらに、第3の発明であるムラサキ科植物の栽培方法は、上記第1又は第2の発明であって、日の出及び/又は日没時点を基準にして、その前後3時間のうちの少なくとも1時間の間、紫色光を照射することを特徴とするものである。
【0011】
加えて、第4の発明であるムラサキ科植物の栽培方法は、上記第1乃至第3のそれぞれの発明であって、葉又は茎に対して紫色光を間欠照射することを特徴とするものである。
【0012】
上記構成の第1乃至第4のそれぞれの発明において、ムラサキ科植物の栽培時に、その葉又は茎に波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光を人工的に照射することで、ムラサキ科植物に対して人為的にストレスを与えることができ、これによりムラサキ科植物体内においてこのストレスに対抗する物質としてシコニン又はその誘導体を生成させて根に蓄積させるという作用を有する。
なお、シコニン又はその誘導体としては例えば、以下に示すものが知られているが、本発明においては下記に示すもの以外の同等の作用を有する未確認の化合物についても包含する概念である。また、以下に示す試験結果においては、シコニン又はその誘導体の蓄積量として、シコニン及びアセチルシコニンの蓄積量を調べた。
・デオキシシコニン(deoxyshikonin):C1616
・イソバレリルシコニン(isovalerylshikonin ):C2124
・シコニン(shikonin ): C1616
【0013】
【化1】
【0014】
・アセチルシコニン(acetylshikonin): C1818
【0015】
【化2】
【0016】
・イソブチリルシコニン(isobutyrylshikonin ):C2022
・β,β−ジメチルアクリルシコニン(β,β-dimethylacrylshikonin ):C2122
・α−メチル−n−ブチリルシコニン(α-methyl-n-butyrylshikonin):C2124
・β−ヒドロキシイソバレリルシコニン(β hydroxyisovalerylshikonin):C2124
【発明の効果】
【0017】
上述のような第1乃至第4のそれぞれの発明によれば、ムラサキ科植物の根に蓄積される有用成分であるシコニン又はその誘導体の量を増大させることができる。
この結果、栽培するムラサキ科植物の個体数を増やすことなく、シコニン又はその誘導体の収量を増加させることができる。
これにより、ムラサキ科植物の栽培面積を増やすことなく、シコニン又はその誘導体の収量を増加させることができるので、シコニン又はその誘導体の生産性を向上できる。
よって、第1乃至第4のそれぞれの発明によれば、有用成分であるシコニン又はその誘導体を、効率良く量産することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例1に係るムラサキ科植物の栽培設備を示す概念図である。
図2】本発明の実施例1に係るムラサキ科植物の栽培設備におけるフレーム構造の概念図である。
図3】本発明の実施例2に係るムラサキ科植物の栽培設備を示す概念図である。
図4】本発明の実施例3に係るムラサキ科植物の栽培設備を示す概念図である。
図5】試験1の試験結果を示すグラフである。
図6】試験2の試験結果を示すグラフである。
図7】試験3の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態に係るムラサキ科植物の栽培方法について図1乃至図4を参照しながら詳細に説明する。
【実施例1】
【0020】
はじめに、図1を参照しながら実施例1に係るムラサキ科植物の栽培方法の基本構成について説明する。
図1は本発明の実施例1に係るムラサキ科植物の栽培設備を示す概念図である。
実施例1に係るムラサキ科植物の栽培方法は、図1に示すように、屋外の地表面11上にムラサキ科植物9を植え付けて栽培する際に、その葉又は茎9aに波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を人工的に照射することで、ムラサキ科植物9の根9bに蓄積される有用成分であるシコニン又はその誘導体の量を、紫色光12を照射しないムラサキ科植物9よりも増大させたものである。
一般にムラサキ科植物9では、植物体内において生合成されたシコニン又はその誘導体は根9bに蓄積される。
このため、ムラサキ科植物9から得られるシコニン又はその誘導体の量を増大させるためには、ムラサキ科植物9全体の収量、とりわけ、その根9bの収量を増加させることが有効であった(特許文献1,2を参照)。
これに対し、本発明の発明者らは鋭意研究の結果、ムラサキ科植物9の栽培時に、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aに波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を人工的に照射することで、根9bに蓄積されるシコニン又はその誘導体の量を増大させることができることを見出した。
【0021】
なお、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aに、波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を人工的に照射した際に、その根9bに蓄積されるシコニン又はその誘導体の量が増大する詳細なメカニズムについては現時点では解明されていないが、波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12は、光合成に利用し難い波長域の光であるためムラサキ科植物9にとってストレスになると考えられる。
そして、ムラサキ科植物9では紫色光12の照射によるストレスの付加が引き金となり、植物体内において抗菌作用等を有するシコニン又はその誘導体が生成されて根9bに蓄積されると考えられる。
この根拠として、ムラサキ科植物9に波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を連続照射した場合と、紫色光12を間欠照射(照射と非照射の繰り返し)した場合とを比較すると、後者の方がムラサキ科植物9の根9bに蓄積されるシコニン又はその誘導体の量が増加する傾向が認められた。
【0022】
よって、実施例1に係るムラサキ科植物の栽培方法によれば、栽培するムラサキ科植物9の個体数を増やすことなしに、ムラサキ科植物9(特に根9b)から抽出されるシコニン又はその誘導体の量を増加させることができる。
この結果、実施例1に係るムラサキ科植物の栽培方法によれば、ムラサキ科植物9から効率良く有用成分であるシコニン又はその誘導体を得ることができる。よって、実施例1に係るムラサキ科植物の栽培方法によれば、生薬としてのシコニン又はその誘導体の生産性を向上することができる。
【0023】
ここで上述の実施例1に係る薬用植物ムラサキの栽培方法の基本構成に対して、任意で付加可能な技術内容について個別に説明する。
(1)紫色光12の照射時期について
通常、ムラサキ科植物9体内において生合成されたシコニン又はその誘導体は、根9bに一方的に蓄積され続けるのではなく、必要がなければ植物体内において生分解される、あるいは代謝されるなどして植物体内から消失してしまう。
このため、ムラサキ科植物9の栽培期間中の全期間にわたって波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射し続けたからといって根9bに蓄積されるシコニン又はその誘導体の量を最大化できるわけではない。
従って、ムラサキ科植物9の栽培期間において、ムラサキ科植物9の収穫時点以前の、少なくとも1ヶ月間、好ましくは3ヶ月間、より好ましくは7ヶ月間、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aに対して波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射することで、より効率良く根9bに蓄積されるシコニン又はその誘導体の量を増大させることができる。
【0024】
(2)紫色光12の照射強度について
加えて、ムラサキ科植物9に波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射する場合は、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aの表面における紫色光12の照射強度を10W/m以上に設定することで、より好ましくは10〜45W/mの範囲内とすることでムラサキ科植物9に適度なストレスを与えることができ、これにより根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量増大効果を発揮させることができる。
この点をより具体的に説明すると、紫色光12の照射強度を10W/m、30W/mに設定した場合は、30W/mに設定した場合の方がシコニン又はその誘導体の蓄積量増大効果が大きかった。他方、紫色光12を照射しなかった試験区(Cont.)と、紫色光12の照射強度を60W/mに設定して照射した場合とを比較すると、照射強度を60W/mに設定した場合の方がシコニン又はその誘導体の蓄積量増大効果が大きいものの、紫色光12の照射強度を30W/mに設定した場合との比較では、シコニン又はその誘導体の蓄積量に大差はなかった。このため、紫色光12の照射強度が30W/mを超える場合は、シコニン又はその誘導体の蓄積量増大効果が発揮される一方で、紫色光12の照射に伴う強光阻害が起きて、シコニン又はその誘導体の蓄積量増大効果が相殺されている可能性がある。
【0025】
(3)紫色光12の照射時間帯について
また、ムラサキ科植物9の葉又は茎9bに対し、日の出及び/又は日没時点を基準にして、その前後3時間のうちの少なくとも1時間の間、紫色光12を照射してもよい。
より具体的に説明すると、例えば、ある日の日の出時刻が6:00、日没時刻が18:00である場合は、紫色光12の照射時間帯を下記(a)〜(c)のいずれかのように設定すればよい。
(a)3:00〜9:00までの6時間の内の少なくとも1時間
(b)15:00〜21:00までの6時間の内の少なくとも1時間
(c)上記(a)の時間帯、及び、上記(b)の時間帯
この場合も、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量増大効果を発揮させることができる。
例えば、ムラサキ科植物9に対し、波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を、一日のうちの4−8時までの4時間照射してもよい。この場合、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量増大効果を発揮させることができる。
さらに、例えば、上記時間帯(一日のうちの4−8時までの4時間)に加えて、一日のうちの16−20時までのさらに4時間紫色光12の照射を追加してもよい。この場合、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量増大効果を一層高めることができる。
つまり、日の出及び/又は日没時点を基準にして、その前後3時間のうちの少なくとも1時間以上人工的に紫色光12を葉又は茎9aに照射することで、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量を増加させることができる。なお、この紫色光12の照射時間の「1時間」とは、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aに実質的に紫色光12が当たっている時間を意味している。従って、ムラサキ科植物9に対して紫色光12を間欠照射する場合、葉又は茎9aに実質的に紫色光12を1時間照射するには、間欠照射(例えば、15分間照射、45分間非照射の繰り返し)を4時間行う必要がある。
また、このように日の出及び/又は日没時点を基準にして、その前後3時間にムラサキ科植物9の葉又は茎9aに対して人工的に紫色光12を照射する場合は、ムラサキ科植物9において紫色光12が光ストレスとしてとして認識されやすくなり、その根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量を効率的に増加させることができると考えられる。
【0026】
(4)紫色光12の照射方法について
さらに、ムラサキ科植物9に波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を間欠照射してもよい。つまり、ムラサキ科植物9に対して、紫色光12を点灯と消灯を繰り返しながら照射してもよい。
この場合、ムラサキ科植物9の根9bに効率良くシコニン又はその誘導体を蓄積させることができる。
より具体的には、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aに対して紫色光12を、一日における所望時間の間で、かつ、1時間のうちの15分間照射、残りの45分間は消灯することを繰返す間欠照射を行うことで、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量増加効果を発揮させることができる。
【0027】
なお、上記技術内容(1)〜(4)のそれぞれは、上述の実施例1に係る薬用植物ムラサキの栽培方法の基本構成にそれぞれ単独で付加してもよいし、2つ以上の技術内容を適宜組み合わせて付加してもよい。
いずれの場合も、ムラサキ科植物9の根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量を増加させることができる。
【0028】
ここで図1を参照しながら、実施例1に係る薬用植物ムラサキの栽培方法を実現するための具体的な栽培設備について詳細に説明する。
図1に示すように、実施例1に係るムラサキ科植物の栽培設備1Aは、地表面11に植え付けられたムラサキ科植物9の周囲にフレーム構造2を配し、このフレーム構造2により補光装置6aを直接又は間接的に保持又は固定することで、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aに波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射可能に構成してなるものである。
そして、図1に示すようなムラサキ科植物の栽培設備1Aを用いてムラサキ科植物9を栽培することで、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量を増大させることができる。
【0029】
さらに、図1に示すように、実施例1に係るムラサキ科植物の栽培設備1Aでは、ムラサキ科植物9を、地表面11上に立設した中空管体4中に培養土5を充填したものに植え込んでもよい。この場合、ムラサキ科植物9を地表面11に直に植え付ける場合に比べて、根9bの水平方向への広がりを抑えて中空管体4内に太い主根を効率良く生育させることができる。この結果、ムラサキ科植物9の根9bの収量を容易に増加させることができるので、この根9bから抽出されるシコニン又はその誘導体の量も多くなる。よって、ムラサキ科植物9の栽培時に中空管体4を用いることで、シコニン又はその誘導体の収量を増加させることができる。
さらに、中空管体4を用いてムラサキ科植物9を育てる場合は、地表面11を掘り起こすことなく根9bを収穫することができるので、その収穫作業を容易にするというメリットも有する。
また、中空管体4として、例えば、合成樹脂製(例えば、塩化ビニル等)のパイプや紙筒等を使用することができる。
【0030】
さらに、ムラサキ科植物9を中空管体4を用いて栽培する場合は、培養土5を充填した中空管体4と地表面11の間に、複数の貫通孔8aが穿設された目皿8を介設しておいてもよい。
この場合、ムラサキ科植物9が、中空管体4の下端から地表面11中に主根(根9b)を伸ばすのを抑制できる。これにより、ムラサキ科植物9の根9bの収穫時に、地表面11中に伸びた根9bの一部が切断されて収穫できなくなるという不具合を防止できる。
【0031】
続いて、図2を参照しながら実施例1に係るムラサキ科植物の栽培設備1Aについてより詳細に説明する。
図2は本発明の実施例1に係るムラサキ科植物の栽培設備における格子部材の概念図である。図1に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
ムラサキ科植物9を中空管体4に植え付ける場合は、図1,2に示すように、フレーム構造2に格子部材3を設け、この格子部材3の空隙3aに中空管体4を収容保持するとともに、格子部材3に補光装置6aを固設してもよい。
この場合、格子部材3を備えることで、中空管体4の保持構造と、補光装置6aの保持構造を1つの構成により実現することができる。
また、格子部材3を備えることで、補光装置6aをムラサキ科植物9の葉又は茎9aの間近に配することができるので、光源7aから発せられる光の強度が弱くとも、ムラサキ科植物9に対して適度なストレスを付加することが可能になる。
この結果、ムラサキ科植物9の根9bに蓄積されるシコニン又はその誘導体の量を増大させることができる。
【0032】
なお、図1に示すムラサキ科植物の栽培設備1Aでは、格子部材3に支柱10aを着脱可能に固設し、この支柱10aの所望位置に、砲弾型のLEDを複数集合させてなる光源7aを複数備えた補光装置6aを用いる場合を例に挙げて説明している。なお、支柱10a上における光源7aの取付け位置は自由に変更することができる。
また、光源として図1に示すような砲弾型のLEDを複数集合させてなる光源7aを用いる場合は、光源7aからの発熱量も小さいので、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aに光源7aを近接した場合でも、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aに熱による障害が起こり難い。
【0033】
また、実施例1に係る薬用植物ムラサキの栽培方法では、ムラサキ科植物9における紫色光12の照射部位を葉又は茎9aに特定している。
一般に、植物体では葉以外の部位においても感光性を有する場合がある。例えば、茎が葉緑素を備える場合は、茎も葉と同様に感光性を有している。
そして、本発明ではこのような植物の感光性を利用して植物体(特に、ムラサキ科植物9)に光によるストレスを与えることで、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量を増加させている。
従って、実施例1に係る薬用植物ムラサキの栽培方法では、感光性を有する茎のみに390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射するだけでも、目的とする効果を十分に発揮させることができる。
【実施例2】
【0034】
実施例2に係るムラサキ科植物の栽培設備について図3を参照しながら説明する。
図3は本発明の実施例2に係るムラサキ科植物の栽培設備を示す概念図である。なお、図1,2に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
実施例2に係るムラサキ科植物の栽培設備1Bは、補光装置6b以外の構成は実施例1に係るムラサキ科植物の栽培設備1Aと同じである。このため、ここでは補光装置6bについて詳細に説明する。
補光装置6bは、格子部材3に着脱可能に固設される棒状の支柱10bの表面に、多数のLEDからなる光源7bを備えてなるものである。
このような補光装置6bによれば、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aの全域にくまなく390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射することができる。
なお、図3ではフレーム構造2に設けられる格子部材3に補光装置6bを着脱可能に固設する場合を例に挙げて説明しているが、格子部材3を設けることなくフレーム構造2に直接補光装置6bを固設してもよい。
また、図3に示すような補光装置6bを用いる場合は、図1に示す補光装置6aのように光源7aの取付け位置を変更する必要がないので、その取扱いが容易である。
上述のような実施例2に係るムラサキ科植物の栽培設備1Bは、実施例1に係るムラサキ科植物の栽培設備1Aと同じ効果を有する。
【実施例3】
【0035】
実施例3に係るムラサキ科植物の栽培設備について図4を参照しながら説明する。
図4は本発明の実施例3に係るムラサキ科植物の栽培設備を示す概念図である。なお、図1乃至図3に記載されたものと同一部分については同一符号を付し、その構成についての説明は省略する。
実施例3に係るムラサキ科植物の栽培設備1Cは、補光装置6c以外の構成は実施例1又は実施例2に係るムラサキ科植物の栽培設備1A,1Bと同じである。従って、ここでは補光装置6cについて詳細に説明する。
補光装置6cは、格子部材3に架設される支柱10cに、例えば、390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を発する高出力のLEDからなる光源7cを備え、ムラサキ科植物9の鉛直上方側からその葉又は茎9aに紫色光12を照射できるよう構成されてなるものである。
このような補光装置6cによれば、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aの全域にくまなく390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射することができる。
また、光量や照射範囲を調整することで、一つの補光装置で複数のムラサキ科植物に照射することもでき、これにより、補光装置6aや補光装置6bを用いる場合に比べて、設置台数を減らすことができるという利点がある。植物の生育に必要な太陽光を出来るだけ遮らないように、設置台数や設置位置を調整したり、補光装置の光源部以外の例えば電源部等(図示せず)は植物の上方以外に設置することが望ましい。
光源7cは、紫色光12を照射可能なものであれば特に限定されないが、砲弾型LEDより高出力な表面実装型LEDやCOB(Chip On Board)型LEDを単数あるいは複数個使用したものを採用することができる。
また、光源7cはLED以外でもよく、この場合は、ハロゲンランプや放電ランプ等と波長選択フィルターとを組み合わせて用いることで390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射することもできる。
なお、図4ではフレーム構造2に設けられる格子部材3に支柱10c及び光源7cを着脱可能に固設する場合を例に挙げて説明しているが、格子部材3を設けることなくフレーム構造2に直接支柱10c及び光源7cを固設してもよい。
上述のような実施例3に係るムラサキ科植物の栽培設備1Cは、実施例1,2に係るムラサキ科植物の栽培設備1A,1Bと同じ効果を有する。
【0036】
以下に、本発明に係る薬用植物ムラサキの栽培方法による効果を確認するために行った試験結果について図5乃至図7を参照しながら説明する。
はじめに、表1を参照しながら試験1〜3の実施条件について説明する。
【0037】
【表1】
【0038】
上表1に示すように、試験1ではムラサキ科植物9(ムラサキ属ムラサキ、学名:Lithospermum erythrorhizon Siebold et Zucc)に対して390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射する際に、連続照射と間欠照射、及び、照射時間が根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量に与える影響について調べた。
また、試験2では、ムラサキ科植物9に対して390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射する際の照射時期が、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量に与える影響について調べた。
さらに、試験3では、ムラサキ科植物9に対して390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を間欠照射する際に、ON/OFFの切替えタイミングが、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量に与える影響について調べた。
【0039】
なお、上表1中の試験2,3において、照射装置が補光装置6aから補光装置6bに変更されているのは、ムラサキ科植物9の草丈の変化によるものである。
より具体的に説明すると、植え付け直後のムラサキ科植物9は、草丈が低い時期は補光装置6aのみで植物体全体に波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射することが可能であるが、その生育に伴い補光装置6aだけではムラサキ科植物9の葉又は茎9aの全域に紫色光12を照射することが困難になった。そこで、ムラサキ科植物9の株間に補光装置6bを配置して葉又は茎9aの全域に紫色光12が照射されるようにした。
試験1〜3はともに図1,3に示すようなムラサキ科植物の栽培設備1A,1Bを用いて行い、各試験区とも上表1に示す条件以外のムラサキ科植物9の栽培条件は同じになるようにした。また、各試験区においてムラサキ科植物9のサンプル数はそれぞれ下記のように設定した。
・試験1:20本/区
・試験2:12本/区
・試験3:12本/区
【0040】
図5は試験1の試験結果を示すグラフである。なお、図5では、390〜420nmの間にピークを有する紫色光12の照射を行わなかった試験区(図5中の「Cont.」)のシコニン又はその誘導体の蓄積量の平均値を1.0とし、これに対する試験区A〜Cのシコニン又はその誘導体の蓄積量の平均値をその比で示した。
また、各試験においてシコニン又はその誘導体の蓄積量を、[ムラサキ科植物9の根の重量(g)]×[アセチルシコニン含量(%)]の式により得られた数値とし、各試験区毎に定量して求めた。なお、「根の重量(g)」は生重量、乾物重のいずれでもよい。
図5に示すように、試験1の結果、390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を連続照射した試験区Aにおいてシコニン又はその誘導体の蓄積量は、紫色光12を照射しなかった試験区「Cont.」と比較して増加する傾向が認められた。従って、ムラサキ科植物9に対して390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射することで、その根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量を増加させることができることが確認された。さらに、ムラサキ科植物9に対して紫色光12の間欠照射を行った試験区B,Cでは、試験区Aよりもシコニン又はその誘導体の蓄積量が顕著に増加する傾向が認められた。
従って、試験1の結果から、ムラサキ科植物9の根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量を増加させるには、紫色光12を連続照射するよりも間欠照射した方が、その効果が高くなることが示された。
さらに、試験1では紫色光12を、4−8時までの4時間のみ間欠照射(紫色光12の実質的な照射時間は1時間)を行った試験区Cよりも、4−8時の4時間及び16−18時の4時間の合計8時間(紫色光12の実質的な照射時間は2時間)照射を行った試験区Bの方が、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量が多かった。従って、ムラサキ科植物9に対して、4−8時の4時間のみ(日没時刻を基準にその前後3時間のうちの少なくとも1時間のみ)紫色光12を照射するだけでも、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量の増大効果が発揮される可能性は極めて高い。
【0041】
図6は試験2の試験結果を示すグラフである。なお、図6では、390〜420nmの間にピークを有する紫色光12の照射を行わなかった試験区(図5中の「Cont.」)のシコニン又はその誘導体の蓄積量の平均値を1.0とし、これに対する試験区D,Eのシコニン又はその誘導体の蓄積量の平均値をその比で示した。
図6に示すように、試験2の結果、ムラサキ科植物9の栽培期間中の全期間にわたって390〜420nmの間にピークを有する紫色光12の照射を行った場合(試験区D)と、ムラサキ科植物9の栽培期間中の後期にのみ紫色光12の照射を行った場合(試験区E)はともに、試験区「Cont.」よりもシコニン又はその誘導体の蓄積量が増加する傾向が認められた。
また、試験区Dと試験区Eとを比較すると、シコニン又はその誘導体の蓄積量に大差は認められなかった。この結果から、ムラサキ科植物9の根9bに含有されるシコニン又はその誘導体の蓄積量を増加させるには、収穫時期以前の所望期間の間(より具体的には、収穫時期以前の少なくとも1ヶ月間、好ましくは3ヶ月間、より好ましくは7ヶ月間)、波長390〜420nmの間にピークを有する紫色光12を照射するだけでもムラサキ科植物9の根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量を増加させることができると考えられる。
【0042】
図7は試験3の試験結果を示すグラフである。なお、図7では、390〜420nmの間にピークを有する紫色光12の照射を行わなかった試験区(図7中の「Cont.」)のシコニン又はその誘導体の蓄積量の平均値を1.0とし、これに対する試験区F,Gのシコニン又はその誘導体の蓄積量の平均値をその比で示した。
図7に示すように、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aに対して紫色光12を間欠照射する際に、紫色光12の照射時間の合計を一定にし、紫色光12の照射状態と非照射状態を頻繁に切り替えた場合(試験区G)と、そうでない場合(試験区F)とでは、根9bにおけるシコニン又はその誘導体の蓄積量の平均値に大きな差は認められなかった。
よって、試験3の結果から、ムラサキ科植物9の葉又は茎9aに紫色光12を間欠照射する場合、紫色光12照射のON/OFFの切替えを頻繁に行った方が、その根9bにより多くのシコニン又はその誘導体を蓄積させることができる可能性が高いことが示唆された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
以上説明したように本発明は、ムラサキ科植物の根に蓄積されるシコニン又はその誘導体の量を増大させることができるムラサキ科植物の栽培方法であり、農業、医薬、美容に関する技術分野において利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
1A〜1C…ムラサキ科植物の栽培設備 2…フレーム構造 3…格子部材 3a…空隙 4…中空管体 5…培養土 6a〜6c…補光装置 7a〜7c…光源 8…目皿 8a…貫通孔 9…ムラサキ科植物 9a…葉又は茎 9b…根 10a〜10c…支柱 11…地表面 12…紫色光
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7