【課題】対象物に対応して、対象物に負荷される圧力を分散する圧力分散性能や対象物の姿勢を維持する姿勢維持性能を向上することができる弾性構造体および弾性構造体の製造方法を提供する。
【解決手段】利用者Pを支持する本体部11と、本体部11に設けられた第一の弾性調整部21と、第二の弾性調整部22と、第三の弾性調整部23とを備え、各弾性調整部21,22,23は、本体部11に対する利用者Pからの荷重印加方向Fと交差する面方向に積層セル31として複数分割されており、各積層セル31は、異なる弾性率を有する複数の弾性体33が荷重印加方向Fに積層されている。本体部11は、利用者Pの仰臥した状態における体幹Paに対応した位置に設けられた体幹支持部15と、利用者Pの頭部Pbが配置される枕設置部13と、を有し、体幹支持部15には、第一の弾性調整部21が設けられている。
前記各積層セルの支える荷重は、前記対象物としての利用者における前記積層セルに対応する部位の重量であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の弾性構造体。
仰臥した状態における前記対象物としての利用者の身長方向に沿うように設定された軸線に対し、左右対称位置に配置された前記各積層セルにおける前記複数の弾性体の積層割合は、互いに略同一であることを特徴とする請求項1から5のいずれか1項に記載の弾性構造体。
対象物を支持する本体部と、前記本体部の一部に設けられた弾性調整部と、を備え、前記弾性調整部は、前記本体部に対する前記対象物からの荷重印加方向と交差する面方向に積層セルとして複数分割されており、各前記積層セルは、異なる弾性率を有する複数の弾性体が前記荷重印加方向に積層された弾性構造体を製造する弾性構造体の製造方法であって、
前記積層セルに含まれるそれぞれの前記弾性体の前記荷重印加方向の厚さの割合である積層割合と、前記積層セルの荷重に対する変形量と、前記積層セルの前記荷重に対する反力とが対応付けられた積層セル情報が記憶された積層セル情報記憶媒体から、前記積層セル情報を取得する積層セル情報取得ステップと、
前記弾性構造体の利用者の体幹形状を示す体幹形状情報を取得する体幹形状情報取得ステップと、
前記弾性構造体の位置のうちの前記利用者の体幹に対応した位置に配置される複数の前記積層セルのそれぞれについて、前記積層割合を、前記積層セル情報取得ステップにおいて取得された前記積層セル情報と、前記体幹形状情報取得ステップにおいて取得された前記体幹形状情報に基づいて決定する積層割合決定ステップと、
を有することを特徴とする弾性構造体の製造方法。
前記積層割合決定ステップは、前記弾性構造体の用途に応じた前記弾性構造体の反力分布の態様を示す反力分布情報に基づいて、前記積層割合を決定することを特徴とする請求項12から14のいずれか1項に記載の弾性構造体の製造方法。
前記積層セルについて、変形挙動を表すひずみエネルギ関数を用いてシミュレーションを行うことで、前記積層割合と前記変形量と前記反力とが対応付けられた前記積層セル情報を取得する積層セル情報取得ステップを有することを特徴とする請求項12から請求項16のいずれか1項に記載の弾性構造体の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。
(体圧分散型のマットレス)
本実施形態の弾性構造体は寝具のマットレスであり、弾性構造体に支持される対象物はマットレスの利用者である。
図1は、実施形態におけるマットレスと仰臥した状態の利用者とを対応させて示す断面図であり、
図2は、マットレスの平面図であり、
図3は、積層セルの斜視図であり、
図4は、弾性調整部の部分斜視図であり、
図5は、体幹支持部に体幹を支持した状態を示す断面図である。
【0037】
図1および
図2に示すように、マットレス10は、利用者Pを支持するための本体部11を備えている。本体部11は全体が弾力性を有する部材により構成されている。
本体部11には軸線Lに沿って、体幹支持部15と、枕設置部13と、足配置部17と、が設けられている。軸線Lは、マットレス10に利用者Pが仰臥した際、身長方向に沿うように延びる直線として設定されている。
【0038】
体幹支持部15は、マットレス10に仰臥した状態における利用者Pの体幹Paに対応した位置に設けられている。
枕設置部13は、体幹支持部15に仰臥した状態で利用者Pの頭部Pbが配置される部位に対応した位置に設けられている。枕設置部13には枕が配置されていてもよいが、ここでは本体部11と一体に枕が設けられていてもよい。
足配置部17は、体幹支持部15を挟んで枕設置部13の反対側に設けられている。足配置部17は仰臥した状態で利用者Pの足部Pcが配置される部位に対応した位置に設けられている。
【0039】
体幹支持部15は周囲の本体部11に囲まれた第一の弾性調整部21を備えている。枕設置部13は、周囲の本体部11に囲まれた第二の弾性調整部22を備えている。足配置部17は、周囲の本体部11に囲まれた第三の弾性調整部23を備えている。
本体部11の枕設置部13、体幹支持部15および足配置部17を除く部位は、略一定の弾性力の分布に形成されている。第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23は、本体部11とは異なり、所望の弾性力分布に形成されている。
【0040】
第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23は、本体部11への荷重印加方向Fと交差する面方向に、積層セル31として複数に分割されている。
図3に示すように、積層セル31は、互いに異なる弾性率を有する複数の弾性体33が荷重印加方向Fに積層されている。積層セル31は、平面視で正方形を有する四角柱状に形成されている。なお、積層セル31は、平面視で長方形を有する四角柱状に形成されていてもよい。
【0041】
積層セル31を構成する複数の弾性体33は、それぞれ荷重印加方向Fに圧縮されて弾性変形可能な材料により形成されており、互いに異なる弾性特性を有している。荷重印加方向Fに隣接する弾性体33同士は互いに密接している。
弾性体33は、例えばウレタンフォーム等の合成樹脂発泡品を含むのが好適である。
【0042】
本実施形態では各弾性体33はウレタンフォームからなる。互いに硬さが異なる第1のウレタン33aと第2のウレタン33bを用いて、第1のウレタン33aからなる弾性体33や第2のウレタン33bからなる弾性体33が、所望の弾性特性を得るように組み合わされている。なお、弾性体33は、様々な種類のウレタンであってもよい。
図3および
図4では、各積層セル31が第1のウレタン33aからなる弾性体33と第2のウレタン33bからなる弾性体33とを組み合わせて構成されている。第1のウレタン33aは、例えば第2のウレタン33bよりも利用者P側に配置されている。
ここで、本実施形態では、第1のウレタンの硬さの方が、第2のウレタンの硬さよりも、低い(つまり、柔らかい)。
具体的には、第1のウレタン33aの種類として、低反発ウレタンが用いられている。また、第2のウレタン33bの種類として、高反発ウレタン、または、半硬質ウレタンが用いられている。
本実施形態では、低反発ウレタン、高反発ウレタン、半硬質ウレタンという語を、これら3つのなかで、低反発ウレタンが最も低い硬度であり(つまり、最も柔らかく)、高反発ウレタンが中程度の硬度であり(つまり、中程度の硬さであり)、半硬質ウレタンが最も高い硬度である(つまり、最も硬い)という意味で使用する。但し、これらの語は説明の便宜上で使用するものであり、その語に限定されることはなく、第1のウレタンと第2のウレタンとで硬さが異なれば、任意の名称のウレタンが用いられてもよい。
なお、低反発ウレタンは、例えば、軟質ウレタンの一種であり、押し込んだ際(圧縮時)にゆっくりと復元する性質のものが呼ばれる。また、高反発ウレタンは、例えば、軟質ウレタンの一種であり、ゴムのような反発力を持つ性質のものが呼ばれる。また、半硬質ウレタンは、例えば、軟質ウレタンと硬質ウレタンとの中間的な性質のものである。硬質ウレタンは、例えば、独立気泡で復元性が無いものが呼ばれる。但し、上記したように、これらの名称は明確に区分されない場合もあるため、本実施形態で使用する名称に限定されない。
【0043】
第一の弾性調整部21を構成する複数の積層セル31や第二の弾性調整部22を構成する複数の積層セル31、第三の弾性調整部23を構成する複数の積層セル31は、互いに略同じ形状に形成されており、荷重印加方向Fにおける全長も略同一に形成されている。
各積層セル31は、弾性体33の種類と荷重印加方向Fの長さの比等の積層割合とを調整することで、それぞれ所望の弾性特性を実現している。
【0044】
第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23では、本体部11に設けられた凹部内に複数の積層セル31が収容されている。
第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23の複数の積層セル31は、隣り合う積層セル31の側面同士が接触した状態で互いに直交する方向に配列している。
【0045】
配列した複数の積層セル31の上部には、弾性体により形成された表層19が設けられている。表層19は、第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23を構成する複数の積層セル31に対して重ねて設けられている。本実施形態の表層19は、マットレス10の本体部11の上面全体を構成するように連続して設けられている。
配列した複数の積層セル31の下部には、弾性体により形成された表層20(裏層と呼ばれてもよい。)が設けられている。表層20は、第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23を構成する複数の積層セル31に対して重ねて設けられている。本実施形態の表層20は、マットレス10の本体部11の下面全体を構成するように連続して設けられている。
このように、本実施形態では、マットレス10の本体部11の上面と下面の両方から表層19,20で当該本体部11を挟んでいる。
なお、本実施形態では、表層19と表層20とで、互いに厚さが同じである場合を示すが、他の構成例として、互いに厚さが異なる構成が用いられてもよい。
【0046】
第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23では、マットレス10の利用者Pの体形や体重等に応じ、各位置の積層セル31における弾性特性が設定されている。
図5に示すように、第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23は、仰臥した状態における利用者Pの各部位に対応する積層セル31が弾性変形して利用者Pに適度な体圧で接触するように、弾性特性が調整されている。
【0047】
本実施形態の場合、各積層セル31により支える荷重は、略均一となるように、各積層セル31の弾性体33の種類および積層割合が調整されている。例えば利用者Pの所定部位における重量を、その所定部位に接触する積層セル31の数で均等に分けた荷重を各積層セル31により支える設定としていてもよい。
【0048】
本実施形態では、軸線Lに対して左右対称位置に配置された各積層セル31における複数の弾性体33の種類および積層割合は、互いに略同一にしている。また各積層セル31における弾性体33の積層割合は、肩幅方向に略同一にしている。
第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23において、体圧を分散するように積層セル31の弾性特性や配置を設定するには、例えば後述するような設計により行うことができる。
【0049】
以上のようなマットレス10によれば、本体部の一部に弾性調整部が設けられ、弾性調整部が積層セルとして複数に分割されているので、弾性調整部を対象物に対応する適切な範囲に設定することで、本体部における対象物の各部に適した位置の弾性を容易に調整できる。
また各積層セルが互いに異なる弾性率の弾性体を荷重印加方向に複数積層して構成されているので、各積層セルの積層割合を調整することで、弾性調整部の各位置における変形量および反力を調整できる。
さらに、対象物の各部に負荷される圧力を適切に調整したり対象物の姿勢に対応するように弾性調整部を適切に変形させたりすることができる。したがって、対象物に対応して、対象物に負荷される圧力を分散する圧力分散性能や対象物の姿勢を維持する姿勢維持性能を向上することができる弾性構造体を提供することが可能である。
【0050】
また、このマットレス10によれば、利用者Pが体幹支持部15に仰臥した状態で頭部Pbが配置される部位に枕設置部13が設けられている。そのため利用者Pが枕設置部13に頭部Pbを配置するように仰臥すれば、そのまま体幹Paを体幹支持部15の第一の弾性調整部21に配置されることになる。そのため利用者Pは意識せずに体幹Paを第一の弾性調整部21に配置することができて使い勝手がよい。
【0051】
また、このマットレス10によれば、枕設置部13に第二の弾性調整部22が設けられ、足配置部17に第三の弾性調整部23が設けられている。そのため利用者Pの頭部Pbや足部Pcについて沈込み量や分布を調整でき、利用者Pの体の傾きなどを適切に調整できて寝心地を向上できる。
【0052】
また、このマットレス10によれば、各積層セル31が支える荷重ができるだけ均一となるように弾性調整部21,22,23の弾性特性が調整されている。そのため利用者Pの各部位に受ける反力のバラツキを低減でき、局部的に強い反力を受けることを緩和したり、利用者<の寝姿における広い範囲に接触させ易くしたりできる。これにより利用者Pの寝姿における体圧を分散する性能を向上できる。
【0053】
また、このマットレス10によれば、軸線Lに対して左右対称位置に配置された各積層セル31の積層割合が互いに略同一となっている。仰臥した状態における利用者Pの各部の重量は、通常、略左右対称のため、弾性調整部21,22,23全体における各積層セル31の積層割合や配置を、利用者Pの半身のデータによって容易に設計することができる。
【0054】
また、このマットレス10によれば、各積層セル31における積層割合が肩幅方向に略同一となっている。そのため利用者Pが寝返りを打っても寝心地を損なわず、使い勝手がよい。
【0055】
また、このマットレス10によれば、弾性体33が合成樹脂発泡品を含むので、軽量でクッション性を確保し易い。さらに圧縮されたときに圧縮方向と交差する方向へ広がり難いため、設計通りの弾性を得ることができ、所望の弾性力の分布を容易に実現できる。
【0056】
また、このマットレス10によれば、複数の積層セル31の端部に連続して重ねて表層(本実施形態では、表層19および表層20)が設けられているので、配列した複数の積層セル31が連続して滑らかに変形でき、使い勝手がよい。
【0057】
(変形例:姿勢維持型のマットレス)
次に、各積層セル31の弾性体33の種類および積層割合を調整する方法についての変形例を説明する。
上記では、第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23において、各積層セル31により支える荷重ができるだけ均一となるように調整した。これに対して、実施形態の変形例では、利用者Pの姿勢を維持するように各積層セル31を調整する。
【0058】
すなわち、各積層セル31の弾性体33の種類および積層割合は、各積層セル31が支える荷重が利用者Pにおける積層セル31に対応する部位の重量となるように調整される。各部位の重量は、例えば利用者Pにおける積層セル31に対応する部位の密度と厚みとにより算出してもよい。
第一の弾性調整部21、第二の弾性調整部22および第三の弾性調整部23において、利用者Pの姿勢を維持するように積層セル31の弾性特性や配置を設定するには、例えば後述するように行うことができる。
【0059】
実施形態の変形例によれば、各積層セル31が利用者Pにおける積層セル31に対応する部位の重量を支えるように構成している。そのため利用者Pの寝姿における各部位の形状に合わせて各積層セル31を変形させることができる。したがって、体形を維持して無理なく支持することができ、利用者Pの寝姿における姿勢を維持する性能を向上することが可能である。
【0060】
本発明の技術範囲は上述した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば上記実施形態ではマットレス10の例を用いて説明したが、本発明の弾性構造物は対象物を載置したり、対象物の周囲に配置することで保護したりする梱包材などにも適用可能である。
【0061】
また、上記では枕設置部13に第二の弾性調整部22を設け、足配置部17に第三の弾性調整部23を設けたが、枕設置部13および足配置部17は周囲の本体部11と同様の弾性力分布となるように形成されていてもよい。さらに枕設置部13または足配置部17の一方だけに第二の弾性調整部22が設けられていてもよい。
【0062】
また、上記では各積層セル31は平面視で正方形状のものを使用したが、積層セル31の形状は適宜変更可能である。例えば軸線Lに対して直交する方向に長く連続した帯状に形成したものであってもよい。
図6を参照して、このような構成例を説明する。
図6は、他の例におけるマットレスの平面図である。
図6に示すように、マットレス10Aは、利用者Pを支持するための本体部11Aを備えている。本体部11Aには軸線LAに沿って、体幹支持部15Aと、枕設置部13Aと、足配置部17Aと、が設けられている。体幹支持部15Aは第一の弾性調整部21Aを備えており、枕設置部13Aは第二の弾性調整部22Aを備えており、足配置部17Aは第三の弾性調整部23Aを備えている。第一の弾性調整部21A、第二の弾性調整部22Aおよび第三の弾性調整部23Aは、本体部11Aへの荷重印加方向Fと交差する面方向に、積層セル31Aとして複数に分割されている。
ここで、
図6の例では、
図2の例と比べて、各積層セル31Aが軸線LAに対して直交する方向に長く連続した帯状に形成されたものであって、当該方向において1つの一体物として構成されている点が相違しており、他の点は同様である。この帯状の長さは任意であってもよく、
図6の例では、マットレス10Aの肩幅方向の両端まで届く長さとなっている。このような帯状の積層セル31Aを備えるマットレス10Aでは、肩幅方向に関して利用者Pが寝ることが可能な位置(ここでは、利用者Pの下に弾性調整部が存在する位置)を広くすることができるという効果があり、特に、肩幅方向の両端まで届く帯状の積層セル31Aを備える構成ではその効果を最大限に発揮することができる。なお、
図6の例に係るマットレス10Aに利用者Pが仰臥した場合に側面から見た様子(断面)は
図1と同様である。
なお、
図2および
図6の例では3つの弾性調整部(第一の弾性調整部21,21A、第二の弾性調整部22,22A、第三の弾性調整部23,23A)を備えるマットレス10,10Aの構成例を示したが、他の構成例として、任意の1つの弾性調整部のみ(例えば、体幹部の第一の弾性調整部21,21Aのみ)を備えるマットレス、または、任意の2つの弾性調整部を備えるマットレス、または、4つ以上の弾性調整部を備えるマットレスが設計および製造されてもよい。
さらに、上記では隣り合う積層セル31,31A同士が互いに接触して配置されていたが、隣り合う積層セル31,31A同士が隙間を設けて配置されていてもよい。
【0063】
(実施形態の弾性構造体の製造方法)
図7および
図8は、実施形態におけるマットレスの製造方法の処理の手順の一例を示す図である。
図7および
図8では、全体の処理としてステップS1〜ステップS23を示してある。このうち、マットレスを発注する顧客の処理はステップS1、S23であり、マットレスを製造する業者の処理はステップS2〜ステップS16、ステップS18〜ステップS22である。また、マットレスを製造するためのデータが用意されており、この入力データはステップS17で使用される。
【0064】
図7および
図8を参照して、実施形態におけるマットレスの製造方法の処理の手順の一例を説明する。
顧客は、業者に対してマットレスを発注する(ステップS1)。
業者は、顧客の注文内容が適切か否かを判断する(ステップS2)。この結果、注文内容が適切でない場合には(ステップS2:NO)、業者は、顧客に対して注文内容を問い合わせる(ステップS3)。この場合、業者は、必要な顧客情報を確認し、必要に応じて顧客に確認する。その後、ステップS4の処理へ移行する。
注文内容が適切であった場合(ステップS2:YES)には、またはステップS3で注文内容を問い合わせた後に、業者は、発注者情報を入力する(ステップS4)。この入力先は、例えば、業者のコンピュータであり、当該コンピュータを介して当該発注者情報が記憶装置に記憶される。
【0065】
次に、業者は、顧客との間で、人体の計測(測定)の日程を調整する(ステップS5)。これにより、業者は、計測を実施するスケジュールを立てる。この人体計測は、マットレスの利用者(マットレスの使用予定者)の人体の計測である。利用者は、顧客自身でもよく、または、他の人でもよい。
そして、業者は、調整した日程で、利用者の人体形状を計測する(ステップS6)。また、業者は、利用者の体重を計測する(ステップS7)。これらにより、業者は、人体形状のデータ(人体形状データ)と、体重のデータ(体重データ)を取得する。
ここで、
図7の例では、ステップS5〜ステップS7で業者が利用者の計測を行ったが、他の例として、顧客が計測結果のデータを業者に提供して、業者が当該データを取得してもよい。
【0066】
業者は、取得した人体形状データを修正する(ステップS8)。これにより、業者は、設計モデルを作成する。ここで、例えば、設計対象部となる体幹部(本実施形態では、その1/2)に対応する部分の人体モデルを生成する。
また、業者は、修正後の人体形状データおよび取得した体重データに基づいて、体幹部の重量を算出する(ステップS9)。この際、例えば、従来知られている人体重量配分割合の情報を用いてもよい。
【0067】
業者は、積層セルの分割数を設定する(ステップS10)。この分割数は、例えば、利用者の身長に応じて設定される。
また、業者は、マットレスの沈み込み量を設定する(ステップS11)。
そして、業者は、マットレスの沈み込み量に基づいて、各積層セルの変形量を設定する(ステップS12)。
【0068】
次に、業者は、設計手法として、設計コンセプトの確認に基づき、体圧分散型の設計手法を用いるか、または姿勢維持型の設計手法(本実施形態では、変形例として説明する)を用いるかを判断する。この判断は、例えば、顧客の希望や、業者の経験などに基づいて、行われてもよい。
この結果、体圧分散型の設計手法が用いられる場合(ステップS13:体圧分散型)、業者は、(体幹部重量/積層セルの数)の計算により、その解として、均等な荷重値(均等荷重値)を算出する(ステップS14)。一方、姿勢維持型の設計手法が用いられる場合(ステップS13:姿勢維持型)、業者は、(各積層セルの上面における人体の重量)の計算により、その解として、各積層セルの荷重値を算出する(ステップS15)。
【0069】
業者は、ブロックマトリクスの情報が算出した荷重値と変形量を網羅しているか否かを判断する(ステップS16)。ここで、ブロックマトリクスは、積層セルの積層割合と、変形量と、反力との関係を格納する。ブロックマトリクスは、例えば、あらかじめ用意される。
この結果、ブロックマトリクスの情報が算出した荷重値と変形量を網羅していない場合(ステップS16:NO)、業者は、網羅していない部分について、ブロックマトリクスを作成する(ステップS17)。そして、再びステップS16の処理へ移行する。
一方、ブロックマトリクスの情報が算出した荷重値と変形量を網羅している場合(ステップS16:YES)、業者は、設定した変形量で発生する反力と算出した荷重値が釣り合う積層割合を導出する(ステップS18)。
【0070】
そして、業者は、マットレスを製造する(ステップS19)。その後、業者は、マットレスの製品を検査する(ステップS20)。業者は、製品が設計寸法通りに出来ているか否かを判断する(ステップS21)。この結果、製品が設計寸法通りに出来ていない場合(ステップS21:NO)、業者は、再びステップS19の処理(マットレスの製造)へ移行する。
一方、製品が設計寸法通りに出来ている場合(ステップS21:YES)、製品を梱包して出荷する(ステップS22)。
これによって、顧客に製品が納品される(ステップS23)。
【0071】
図9は、実施形態におけるブロックマトリクスの作成方法の処理の手順の一例を示す図である。
ここでは、業者がブロックマトリクスを作成する場合を示すが、他の者によってブロックマトリクスが作成されてもよい。
作成者は、ブロックマトリクスの作成を開始する(ステップS101)。
作成者は、材料を選定して手配する(ステップS102)。作成者は、取得した材料を試験片形状に加工する(ステップS103)。試験片形状は、例えば、円筒形またはダンベル形状などである。作成者は、試験片の寸法を計測する(ステップS104)。作成者は、試験片について、圧縮試験および引張試験を行う(ステップS105)。
その後、作成者は、Ogden−foamのひずみエネルギ関数を導出する(ステップS106)。そして、作成者は、導出したひずみエネルギ関数を用いたシミュレーションを行う(ステップS107)。これにより、実実験との精度を検証することができる。ここで、本実施形態では、一例として、Ogden−foamで近似している。また、本実施形態では、一例として、有限要素法(FEM:Finite Element Method)を用いてシミュレーションを行う。
【0072】
作成者は、精度が許容範囲内であるか否かを判断する(ステップS108)。
この結果、精度が許容範囲内ではない場合(ステップS108:NO)、作成者は、再びステップS106の処理へ移行する。
一方、精度が許容範囲内である場合(ステップS108:YES)、作成者は、ブロックマトリクスを作成する(ステップS109)。その後、ブロックマトリクスの作成を終了する(ステップS110)。
【0073】
以下で、実施形態におけるマットレスの製造方法について、より詳しく説明する。
【0074】
<利用者の体形の三次元形状計測および体重計測などの一例>
利用者の体形の三次元形状計測の一例について説明する。
利用者の体形を三次元スキャナ(3Dスキャナ)を用いて計測する。計測機器は任意の機器であってもよい。これにより、利用者の全身の体形を表すポリゴンデータを取得する。
一例として、利用者に計測用の着衣に着替えてもらい、利用者に対して安全上の観点から計測について説明し、3Dスキャナを用いて利用者の体形を計測し、利用者の体重を計測し、利用者の体圧分布を計測する。
ここで計測した体重あるいは体圧分布に基づき、設計対象部(本実施形態では、体幹部)の重量を推定し、マットレスの設計に活用する。全身の人体モデルの情報には、体幹形状情報が含まれる。
【0075】
図10は、計測姿勢(側面)の一例を示す図である。
図11は、計測姿勢(後面)の一例を示す図である。
図10および
図11の例は、人体101の安静立位での計測姿勢である。本例では、計測点の例として、乳様突起(耳垂)121、肩峰122、大転子123、膝蓋骨後面124、外果の1〜2cm前方125、後頭隆起126、椎骨棘突起127、殿裂128を示してある。
これらのデータを用いて人体のモデル(人体モデル)を生成する。なお、人体モデルの生成の際に、検出した特徴点を用いた切断位置(例えば、体幹部を抽出するための位置)へのマーキングが行われてもよい。
【0076】
<利用者の体形の三次元形状計測の他の例>
利用者の体形の三次元形状計測の他の例について説明する。
X線CT(Computed Tomography)およびMRI(Magnetic Resonance Imaging)の画像に基づいて人体のモデル(人体モデル)を構築する。これにより、人体の内部組織の形状情報を有する三次元人体モデルを生成する。なお、CTとMRIは、例えば、両方が行われてもよく、または、任意の一方のみが行われてもよい。また、さらに、3Dスキャナを用いて利用者の体形を計測して、その結果(全身の体形を表すポリゴンデータ)を用いてもよい。
なお、既に人体モデルが構築済みである場合には、当該人体モデルが用いられてもよい。
全身の人体モデルの情報には、体幹形状情報が含まれる。
【0077】
図12は、人体モデル151(前面)の一例を示す図である。
図13は、人体モデル151(側面)の一例を示す図である。
この人体モデル151は、全身のモデルであり、ポリゴンデータである。
【0078】
図14は、人体モデル171(体幹部1/2)の一例を示す図である。
この人体モデル171は、設計対象範囲を決定して、不要な部分を削除したものである。本実施形態では、体幹部が左右対称であるとみなして、1/2の部分のモデルを用いる。
【0079】
<設計対象範囲の決定とその重量の決定>
ここで、設計対象範囲の決定とその重量の決定について説明する。
図15は、設計対象範囲の一例を示す図である。
図15には、人体モデル191を示してある。位置201および位置202はそれぞれ右の肩峰および左の肩峰に対応している。これら2つの位置201,202の間の距離(肩幅方向の距離)L1は、本実施形態では、積層セルの幅(本実施形態では、50mm)の倍数である。
位置221は第七頸椎に対応しており、位置222は第七頸椎から所定の距離の位置に対応している。当該所定の距離(身長方向の距離)L2は、本実施形態では、積層セルの幅(本実施形態では、50mm)の倍数である。
なお、本実施形態では、すべての積層セルの幅が同じ(均等)である場合を示すが、他の構成例として、積層セルごとに幅が異なり得る構成が用いられてもよく、この構成では、距離L1や距離L2は、必ずしも、1つの積層セルの幅の倍数になるとは限らない。また、他の構成例として、肩幅方向と身長方向とで積層セルの幅が異なる構成が用いられてもよい。
ここで、長方形の内部の範囲241を設計対象範囲とする。この範囲241は4つの位置201〜202、221〜222を頂点とする長方形の内部である。そして、第七頸椎で頭部を切断し、肩峰にて両腕を切断する(例えば、非特許文献1参照)。
【0080】
設計対象部の重量決定の第1の方法では、生成した人体モデルを、範囲242と範囲243との境界で切断する(例えば、非特許文献2参照)。これら2つの範囲242〜243は、合わせて、範囲241を形成する。
男性の人体に関し、範囲242の重量を体重の48.9%とみなし、また、女性の人体に関し、範囲242の重量を体重の45.7%とみなす(例えば、非特許文献2参照)。
範囲243は、利用者の全身モデルから大腿部を切り出して得た体積と、非特許文献2の重量から密度を算出し、範囲243の体積に乗じることで求める(例えば、非特許文献2参照)。
設計対象部の重量として、範囲242の重量と範囲243の重量との合計値を使用する。なお、本実施形態では、設計対象部の重量として、体幹部の重量の推定結果が用いられている。
【0081】
設計対象部の重量決定の第2の方法では、実施済みの体圧分布計測結果から体幹部の重量を推定する。すなわち、体圧分布計測結果から得られる体重に対する設計対象部(範囲241)の重量の割合を計算し、この割合を計測済みの体重に乗じた結果が設計対象部の重量であると推定する。
【0082】
<体圧分散型の手法によるマットレスの設計>
図16〜
図26を参照して、体圧分散型の手法によるマットレスの設計について説明する。
図16は、マットレスの構造の一例を示す図である。
図16の例では、実施形態のマットレスの平面構造301と断面形状302を示してある。設計対象部321は、マットレスの肩幅方向に関して中央に配置されている。設計対象部321には、複数の積層セルがマトリクス状に並べられて配置されている。積層セルごとに、弾性体322aおよび弾性体322bが積層されている。
【0083】
一例として、マットレスの寸法は、身長方向の長さL11が2000mmであり、肩幅方向の長さL21が1000mmであり、厚さL23が100mmである。設計対象部321とマットレスの頭側の端との距離L12が400mmである。各積層セルは、平面視したときに正方形であり、当該正方形の一辺の長さL31が50mmである。また、各積層セルの厚さは100mmである。設計対象部321は、身長方向の長さL13が50mmの倍数であり、肩幅方向の長さL22が300mmである。
ここで、設計対象部321の身長方向の長さL13は,決定された設計対象範囲(
図15に示される範囲241)と同じ長さとする。
【0084】
各積層セルでは、弾性体としてウレタンを用いている。各積層セルでは、低反発ウレタン、高反発ウレタン、半硬質ウレタンのうちの2種を積層し、素材の積層割合を変えることで硬さ特性を変える。本実施形態では、低反発ウレタンと高反発ウレタンとの組み合わせ、または、低反発ウレタンと半硬質ウレタンとの組み合わせを用いる。マットレスの上面側に低反発ウレタンを配置し、その下側(マットレスの下面側)に高反発ウレタンあるいは半硬質ウレタンを配置する。
【0085】
マットレスの設計において、生成した人体モデルの背中がマットレスの上面に接するように配置して、人体(人体モデル)がマットレスに沈み込む量を決定する。
図17は、マットレスの上面に人体モデルを配置した例を示す図である。
図17には、マットレス351に人体モデル352が沈み込んでいない状態と、マットレス371に人体モデル372が沈み込んだ状態を示してある。ここで、説明の便宜上から符号を変えたが、マットレス351とマットレス371は同じものであり、人体モデル352と人体モデル372は同じものである。沈み込んだ状態では、沈み込み量分だけ人体モデル372をマットレス371の側に平行移動している。
なお、
図17では、説明の便宜上から、マットレス351,371を構成する各積層セルを2層構造のモデルとして示したが、これは説明のための表示であって設計上必要はなく、各積層セルの構造もこの段階では決定していない。
【0086】
マットレス371に人体モデル372が沈み込んだ状態に基づき、マットレス371の底面側面心点から人体(人体モデル372)までの垂直距離(荷重印加方向の距離)を積層セルごとに計測する。そして、積層セルごとに、当該垂直距離をマットレス371の厚さから減じた値を当該積層セルの変形量とする。
図18は、マットレス371の上面に人体モデル372を配置した場合の沈み込み量の一例を示す図である。
図18の例では、マットレス371に対する人体モデル372の沈み込み量(平行移動する量)を所定値L53(この例では、60mm)としてある。また、マットレス371の底面(各積層セルの底面)から人体モデル372までの距離L51と、各積層セルの変形量L52を示してある。
【0087】
ここで、
図19〜
図21を参照して、各積層セルの変形量を求める方法について、より詳しく説明する。
図19は、マットレス411(体幹部1/2)の上面に人体モデル412(体幹部1/2)の背中が接するように配置した例を示す図である。本実施液体では、体幹部の1/2の部分を用いる。また、
図19には、複数の積層セル431を示してある。
次に、
図19に示される情報に基づいて、各積層セル431の上端面(マットレスの上面)の中心に点(中心点)を生成する。
図20は、各積層セル431の上端面の中心点432の例を示す図である。
図20には、XYZ直交座標系を示してある。XY平面は積層セル431の上端面(マットレスの上面)に設けられており、Z軸は当該上端面に対して垂直方向(マットレスの厚さ方向)の軸である。なお、
図20の例では、Z軸の正から負に向かう方向が、荷重印加方向である。
【0088】
図21は、積層セル431の変形量の導出を説明するための図である。
図21には、マットレス411と、積層セル431と、沈み込み前(平行移動前)の人体モデル412と、マットレス411の上面から当該人体モデル412までの距離γ
n[mm](nは各積層セルの識別番号とする)と、沈み込み後(平行移動後)の人体モデル451と、生成した中心点432と、中心点432を通ってマットレス411の面に直交する線と沈み込み後の人体モデル451との交点(点491、点492)と、人体モデル412がマットレス411に沈み込む量(沈み込み量L71)を示してある。当該沈み込み量L71が積層セル431が沈み込む量となる。
【0089】
積層セル431ごとに、中心点432から沈み込み前の人体モデル412までのZ軸方向の距離γ
nを算出する。この算出は、任意の機能を用いて行われてもよく、例えば、Geomagic Controlを使用して行われてもよい。
沈み込み後の人体モデル451がマットレス411に沈み込む量(沈み込み量L71)を所定値(本実施形態では、60mm)に設定する。そして、積層セル431ごとに、変形量(60−γ
n)を算出する。
設計対象としている体幹部の重量を算出値(この例では、21.9kgとする)に設定する。なお、当該算出値の代わりに、推定値が用いられてもよい(例えば、非特許文献1、2参照)。本例では、体圧分散型であるため、各積層セル431が等しい荷重を受け持つ。この例では、体幹部の積層セル431の数(総数)が42個であるとし、この場合、各積層セル431は0.521kg(=21.9kg/42を四捨五入した値)の荷重(反力となる)を受け持つ。
これにより、変形量と反力が決まるため、ブロックマトリクス711を読み取ることで、ウレタンの構成が決まる。この結果を各積層セル431の各弾性体に適用する。そして、マットレスの設計が終了する。
【0090】
ここで、本実施形態では、各積層セル431の上端面の面積はすべて等しい値(50mm×50mm)である。このため、各積層セル431で等しい荷重を支えることで、各積層セル431の上端面にかかる面圧が等しくなる。このとき、1個の積層セル431が支える荷重としては、設計対象部の人体の重量を積層セル431の数(総数)で除した結果の値を用いることが理想的な一例である。
【0091】
このように、体圧分散型のマットレスを設計する場合、すべての積層セルが同じ重量を支える構造とする。この場合、すべての積層セルが同じ重量を支えることから、体圧が平均化されることになる。このため、設計対象部の重量を積層セルの数(総数)で除した値(設計ごとに一定値となる)を反力(支える重量)とする。
そして、各積層セルについて、各弾性体の変形量と、反力(支える重量)に基づいて、ブロックマトリクスを使用して、必要となるウレタンの構成(積層割合)を導く。
【0092】
ここで、本実施形態では、
図33に示されるブロックマトリクス711が用いられる。ブロックマトリクス711では、各積層セルのウレタンの構成と、各弾性体の変形量と、反力(支える重量)といった3つのパラメーターの対応関係を格納している。このため、これら3つのパラメーターのうちの2つが決まると、残りの1つを決めることができる。
なお、ブロックマトリクス711の生成の詳細については後述する。
【0093】
図22は、体圧分散型のマットレスの設計結果の一例を示す図である。
図22には、設計結果に係るマットレスの構造511を示してある。
図22には、説明のためにX1−Y1直交座標を示してあり、Y1軸の正の方向が人体の頭側である。
図22の例では、マットレスの構造511は、複数(=6×14)個の積層セルを含んでおり、高反発−低反発の積層セル531と半硬質−低反発の積層セル532とを模様分けして示してある。
高反発−低反発の積層セル531は、高反発ウレタンと低反発ウレタンを組み合わせて構成される。
半硬質−低反発の積層セル532は、半硬質ウレタンと低反発ウレタンを組み合わせて構成される。
図22において、各積層セル531、532に示された値(P1−Q1という形式の値)は、左側の値P1が高反発ウレタンあるいは半硬質ウレタンの厚さ[mm]を表わしており、右側の値Q1が低反発ウレタンの厚さ[mm]を表している。
ここで、本実施形態では、人体は左右対称であると仮定している。このため、人体の右半分あるいは左半分の片側のみについて設計を行い、当該片側を設計した後に左右対称に展開する。
【0094】
また、本実施形態では、体幹部を設計対象部として弾性調整部(
図2の例における体幹支持部15に対応する第一の弾性調整部21)を設計する場合を示した。さらに、人体の他の部分(
図2の例における枕設置部13に対応する第二の弾性調整部22や、足配置部17に対応する第三の弾性調整部23)を設計する場合には、当該部分を設計対象部として、当該部分の情報(人体の情報)に基づいて設計する。
【0095】
実施形態で設計して製造(ここでは、試作)したマットレスと、従来品のマットレスとを対比した結果の例を参考として示す。
図23は、実施形態に係る体圧分散型のマットレスに関する体圧分布計測結果551の一例を示す図である。
図24は、従来品に係るマットレスに関する体圧分布計測結果571の一例を示す図である。
【0096】
図25は、実施形態と従来品との最大体圧の比較の例を示す図である。
図25において、縦軸は最大体圧値(mmHg)を表わしている。実施形態の体圧分散型のマットレスの最大体圧値1001は、従来品の最大体圧値1002と比べて、約23%低減することが確認された。
図26は、実施形態と従来品との接触面積の比較の例を示す図である。
図26において、縦軸は接触面積(mm
2)を表わしている。実施形態の体圧分散型のマットレスの接触面積1011は、従来品の接触面積1012と比べて、約15%増加する(つまり、より広い面で体重を支える)ことが確認された。
このように、実施形態の体圧分散型のマットレスでは、従来品と比べて、良好な性能が得られた。
【0097】
(変形例)
<姿勢維持型の手法によるマットレスの設計>
以下で、上述した体圧分散型の手法によるマットレスの設計とは相違する点を説明し、共通な部分は詳しい説明を省略する。
例えば、マットレスが複数の積層セルから構成されるという構造、ブロックマトリクス711、および人体モデルの作成の手法については、体圧分散型の手法と同様なものが用いられる。
姿勢維持型の手法では、体圧分散型の手法と比べて、マットレスの設計時に想定する積層セルが受け持つ荷重が相違する。
【0098】
図27〜
図31を参照して、姿勢維持型の手法によるマットレスの設計について説明する。
マットレスを設計する際、各積層セルが受け持つ重量を均一にするのではなく、各積層セルの上部に存在する人体の重量とする。これにより、人体がマットレスに沈み込んだ後の姿勢を人体モデルの姿勢に維持することができるマットレスの設計が期待できる。
【0099】
図27は、積層セル612にかかる人体の重量の算出を説明するための図である。
図27には、マットレス611と、積層セル612と、沈み込み前(平行移動前)の人体モデル601と、マットレス611の上面から当該人体モデル601までの距離γ
n[mm](nは各積層セルの識別番号とする)と、沈み込み後(平行移動後)の人体モデル602と、生成した中心点624と、中心点624を通ってマットレス611の面に直交する線と沈み込み前の人体モデル601との交点(点621、点622)と、当該線と沈み込み後の人体モデル602との交点(前記した点622、点623)と、人体モデル602がマットレス611に沈み込む量(沈み込み量L101)と、中心点624を通ってマットレス611の面に直交する方向における人体(人体モデル601)の厚さL102(=δ
n)を示してある。当該沈み込み量L101が積層セル612が沈み込む量となる。
【0100】
人体の密度を設定する。人体の密度は、例えば、利用者の人体の実際の密度が計測された値であってもよく、または、標準的な人体の密度が定義された値であってもよく、または、他の値であってもよい。
積層セル612ごとに、中心点624から沈み込み前の人体モデル601までのZ軸方向の距離γ
nを算出する。この算出は、任意の機能を用いて行われてもよく、例えば、Geomagic Controlを使用して行われてもよい。
沈み込み後の人体モデル602がマットレス611に沈み込む量(沈み込み量L101)を所定値(本実施形態では、60mm)に設定する。そして、積層セル612ごとに、変形量(60−γ
n)を算出する。
設計対象としている体幹部の重量を算出値(この例では、21.9kgとする)に設定する。なお、当該算出値の代わりに、推定値が用いられてもよい(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0101】
本例では、姿勢維持型であるため、次のようにして、各積層セル612の上部に存在する人体の重量を算出する。
すなわち、各積層セル612の上部に存在する人体(人体モデル601)の厚さL102(=δ
n)を算出する。各積層セル612の上端面の面積(本実施形態では、50mm×50mm)と当該厚さL102(=δ
n)の算出値に基づいて、各積層セル612の上部に存在する人体の体積を近似的に算出する。この算出は、例えば、当該面積と当該厚さとの積である。次に、各積層セル612について、算出した体積に対して人体の密度を乗算し、その結果の値を当該各積層セル612の上部に存在する人体の重量とみなす。
これにより、変形量と反力(人体の重量)が決まるため、ブロックマトリクス711を読み取ることで、ウレタンの構成が決まる。この結果を各積層セル612の各弾性体に適用する。そして、マットレスの設計が終了する。
【0102】
図28は、姿勢維持型のマットレスの設計結果の一例を示す図である。
図28には、設計結果に係るマットレスの構造651を示してある。
図28には、説明のためにX2−Y2直交座標を示してあり、Y2軸の正の方向が人体の頭側である。
図28の例では、マットレスの構造651は、複数(=6×14)個の積層セルを含んでおり、高反発−低反発の積層セル671と半硬質−低反発の積層セル672とを模様分けして示してある。
高反発−低反発の積層セル671は、高反発ウレタンと低反発ウレタンを組み合わせて構成される。
半硬質−低反発の積層セル672は、半硬質ウレタンと低反発ウレタンを組み合わせて構成される。
図28において、各積層セル671,672に示された値(P2−Q2という形式の値)は、左側の値P2が高反発ウレタンあるいは半硬質ウレタンの厚さ[mm]を表わしており、右側の値Q2が低反発ウレタンの厚さ[mm]を表している。
ここで、本実施形態では、人体は左右対称であると仮定している。このため、人体の右半分あるいは左半分の片側のみについて設計を行い、当該片側を設計した後に左右対称に展開する。
【0103】
また、本実施形態では、体幹部を設計対象部として弾性調整部(
図2の例における体幹支持部15に対応する第一の弾性調整部21)を設計する場合を示した。さらに、人体の他の部分(
図2の例における枕設置部13に対応する第二の弾性調整部22や、足配置部17に対応する第三の弾性調整部23)を設計する場合には、当該部分を設計対象部として、当該部分の情報(人体の情報)に基づいて設計する。
【0104】
図29〜
図31を参照して、実施形態の姿勢維持型のマットレスの効果を確認した結果の例を示す。
図29は、3DのCADによるモデリングを説明するための図である。
図29には、設計した姿勢維持型のマットレスの形状を3DのCADでモデリングした結果(マットレス691)と、人体モデル692を示してある。この人体モデル692は、皮質骨、椎間板、その他の組織で構成される人体モデルであって、利用者の体形と同じモデルである。
当該人体モデル692を当該マットレス691の上部に配置した。
ここで、皮質骨および椎間板の情報として、「身体組織の物性値データベース」(URL http://cfd−duo.riken.jp/cbms−mp/j/を参照。)から引用した力学的特性値を適用した。また、その他の組織の情報として、脂肪の力学的特性値を適用した。これらにより、人体(人体モデル692)がマットレス691に沈み込んだ際に姿勢の変化(人体モデル692の変形)が起きる場合に、椎間板が変形して、椎間板モデル内に応力が生じるようにした。
【0105】
図30は、人体モデルの解析結果の一例を示す図である。
図30には、変形後におけるマットレス693および人体モデル694を示してある。また、変形量の最大点695を示してある。
【0106】
図31は、実施形態と従来品とで椎間板に生じる応力の比較の例を示す図である。
図31に示されるグラフでは、横軸は人体の身長方向の位置を表わしており、縦軸は椎間板応力[MPa]を表わしている。当該グラフでは、実施形態に係る姿勢維持型のマットレスについての特性1021と、従来品に係るマットレスの特性1022を示してある。
なお、人体の身長方向の位置として、頸椎(第五頸椎〜第七頸椎)と、胸椎(第一胸椎〜第十二胸椎)と、腰椎(第一腰椎〜第五腰椎)を示してある。
【0107】
このように、設計した姿勢維持型のマットレスの形状を3DのCADでモデリングし、各積層セルに適切な力学的特性を適用し、人体モデルを活用した生体力学シミュレーションにより効果の確認を行った。この際、マットレスの設計時に想定した重量を人体に定義し、人体モデルがマットレスに沈み込む生体力学シミュレーションを行った。
この結果、実施形態に係る姿勢維持型のマットレスでは、従来品と比べて、第十胸椎と第四腰椎との間に生じる応力が小さくなった(
図31に示される範囲1031を参照)。これは、実施形態に係る姿勢維持型のマットレスでは、従来品と比べて、椎間板の形状が解析開始前から変形していないことを示しており、解析開始前の姿勢(すなわち、人体モデル作成時の姿勢)を維持して寝ることができることを示している。
【0108】
以下で、マットレスの設計準備について、より詳しく説明する。
本実施形態では、設計準備は、体圧分散型のマットレスを設計して製造する場合と、姿勢維持型のマットレスを設計して製造する場合とで、共通である。
【0109】
<設計準備における材料試験>
設計準備における材料試験について説明する。
マットレスの素材であるウレタンの材料試験を行い、その変形挙動をFEM解析で再現できるひずみエネルギ関数を導出する。当該ひずみエネルギ関数は、変形挙動を表す。
具体的には、まず、マットレスの素材の材料試験を行う。例えば、素材ごとに、マットレスの素材であるウレタンを円柱形状に切り出して、圧縮試験と体積試験を行う。また、素材ごとに、ウレタンをダンベル形状に切り出して、引張り試験を行う。各ウレタンの材料試験では、応力−ひずみ線図が得られる。
次に、応力−ひずみ線図に基づいて、素材ごとに、ウレタンの変形挙動を再現するひずみエネルギ関数を導出する。本実施形態では、材料試験の結果を、体積変化を再現できるひずみエネルギ関数で近似する。本実施形態では、ひずみエネルギ関数の一例として、Ogden−foamを選定した。また、近似作業は、コンピュータなどを用いて行われてもよく、例えば、ANSYS APDLのカーブフィッティングで実行する。
【0110】
ここで、ひずみエネルギ関数Wに関し、Ogden−foamを式(1)に示してある。式(1)における変数λ
1,λ
2,λ
3は三方向の伸長比を表し、Jは弾性変形勾配の行列式を表し、Nは次数を表し、他の変数α
i、β
i、μ
iは素材等(例えば、物理的な特性)に応じて決まる材料定数を表す。ここで、次数Nについても、材料定数の一つとして取り扱っている。なお、iは1〜Nをとる変数として計算上用いられる。本実施形態では、式(1)をフィッティングに利用する。
【0112】
次に、直方体に切り出したウレタンの中央を押し込む実験と再現の解析を行い、FEM解析で変形挙動を再現できることを確認した。この解析は、コンピュータなどを用いて行われてもよく、例えば、ANSYS Workbenchで実行する。
【0113】
図32は、変形挙動の再現結果の一例を示す図である。
図32に示されるグラフにおいて、横軸は変位[mm]を表わしており、縦軸は荷重[N]を表わしている。実験結果の特性1101と、FEM解析による再現の結果の特性1102を示してある。これらは実用可能な程度で近い特性になっており、変位が小さいところでは一致度が良好である。
【0114】
<設計準備におけるブロックマトリクスの作成>
設計準備におけるブロックマトリクスの作成について説明する。本実施形態では、ひずみエネルギ関数を用いて、コンピュータシミュレーションを行って、ブロックマトリクスを作成する。
【0115】
図33は、実施形態に係るブロックマトリクス711(積層セル情報)の一例を示す図である。
ブロックマトリクス711の情報は、積層セル情報記憶媒体に記憶される。積層セル情報記憶媒体は、例えば、コンピュータなどが有する記憶装置であってもよく、または、持ち運びが可能な記録媒体(記憶媒体)であってもよく、または、紙などの媒体であってもよい。ブロックマトリクス711の情報は、例えば、コンピュータなどの装置により取得されてもよく、または、人(本実施形態では、業者)により取得されてもよい。
【0116】
ブロックマトリクス711は、ウレタンの構成(積層割合)を示す部分(欄721)と、ウレタンの変形量を示す部分(欄722)と、ウレタンの反力(=重量)を示す部分(欄723)を含む。
ウレタンの構成を示す部分(欄721)は、2つの欄(
図33の例では、A欄とB欄)を含んでいる。積層セルに関し、一方の欄(A欄)には低反発ウレタンの厚さ(積層方向の長さ)の値が格納されており、他方の欄(B欄)には高反発ウレタンまたは半硬質ウレタンの厚さ(積層方向の長さ)の値が格納されている。本実施形態では、A欄の値とB欄の値との和(厚み方向の高さの合計値)が100mmに固定されている。
ウレタンの変形量を示す部分(欄722)には、当該変形量の値が格納されている。
ウレタンの反力(=支える重量)を示す部分(欄723)には、当該反力の値が格納されている。
図33の例では、反力の値を「ak−j」と示してあり、k(k=0〜100)は素材Aの厚さを表わしており、j(j=1〜99)は変形量を表わしている。
これらにより、ブロックマトリクス711では、積層セルに関し、低反発ウレタンの厚さと、高反発ウレタンまたは半硬質ウレタンの厚さと、変形量と、反力とが対応付けられて格納されている。
なお、本実施形態では、積層セルをブロックとみなして、「ブロックマトリクス」と呼んでいる。各積層セルは、複数の硬さ(弾性率)の異なる素材(本実施形態では、2つの素材A、B)で構成される。そして、積層セルの厚さを一定(本実施形態では、100mm)として、各素材の積層割合を変えることで、積層セルの硬さを調整する。
ここで、本実施形態では、積層セルの厚さを一定とした場合を示すが、他の構成例として、設計時等に積層セルの厚さを変更することが可能な構成が用いられてもよく、例えば、顧客の要求等に応じて積層セルの厚さ(積層セルの厚さという項目の値)を変更してマットレスを設計および製造することが可能であってもよい。
【0117】
ブロックマトリクス711は、一例として、次のようにして作成される。
まず、積層セルを再現するCADモデルを生成する(例えば、
図3に示されるようなモデル)。積層セルを構成するブロックのサイズは50mm×50mm×100mmである。本実施形態では、各積層セルは2種類の異なる素材(素材A、素材B)を積層して構成され、各素材A、Bの厚さを変化させることで、ブロックの硬さを変化させる。
【0118】
次に、生成したCADモデルに、上述した材料試験で導出したひずみエネルギ関数を適用する。
本実施形態では、各素材A、Bの厚さを1mm単位で変化させる場合を示す。この場合、ウレタンの構成に関し、素材Aの厚さが0mmで素材Bの厚さが100mmである状態から、素材Aの厚さを1mm単位で増加させていき(つまり、素材Bの厚さを1mm単位で減少させていき)、素材Aの厚さが100mmで素材Bの厚さが0mmの状態まで変化させる。これらそれぞれの素材A、Bの厚さの状態について、ブロックがD[mm]の変形量だけ変形した場合の反力をFEM解析で算出する。本実施形態では、変形量Dは、1mm単位で1mmから99mmまで変化させている。
これらにより、素材A、Bの厚さ、変形量、反力の関係が得られ、ブロックマトリクス711を作成することができる。本実施形態では、ブロックマトリクス711には、9999(=101×99)パターンの情報が格納される。
【0119】
これらの結果をまとめて、ブロックマトリクス711を作成することができる。
本実施形態では、素材A(
図3の例では、第1のウレタン33a)が低反発ウレタンであり素材B(
図3の例では、第2のウレタン33b)が高反発ウレタンである場合のブロックマトリクスと、素材A(
図3の例では、第1のウレタン33a)が低反発ウレタンであり素材B(
図3の例では、第2のウレタン33b)が半硬質ウレタンである場合のブロックマトリクスとの両方を作成する。そして、高反発ウレタンを使用する場合には高反発ウレタンに対応するブロックマトリクスを参照し、半硬質ウレタンを使用する場合には半硬質ウレタンに対応するブロックマトリクスを参照する。
【0120】
なお、本実施形態では、有限要素法による数値解析を用いており、その場合に、ひずみエネルギ関数の一例としてOgden−foamを用いたが、他の構成例として、他の任意の計算手法が用いられてもよい。すなわち、本実施形態に係るブロックマトリクス711のような素材A、Bの厚さ、変形量、反力の関係を得ることができれば、任意の計算手法が用いられてもよい。また、そのために、任意の計測手法が用いられてもよい。
また、本実施形態では、各積層セルを構成する弾性体を2種類(2層)としたが、他の構成例として、3種類以上(3層以上)としてもよく、この場合、ブロックマトリクスでは素材A、B、C、・・・といったように、素材の欄には3種類以上の弾性体の厚さのパラメーターが格納される。
【0121】
ここで、上記では各積層セル31は平面視で正方形状のものを使用したが、
図6に示されるように帯状に形成された積層セル31Aが用いられてもよい。
図34を参照して、
図6の例に対応するマットレスの構造について説明する。なお、
図34の例では、体幹部の第一の弾性調整部21Aに相当する弾性調整部のみを備えるマットレスを設計および製造する場合を示す。なお、同様な設計手法が、他の弾性調整部(例えば、第二の弾性調整部22A、第三の弾性調整部23A)に適用されてもよい。
図34は、他の例におけるマットレスの構造の一例を示す図である。
図34の例では、他の例におけるマットレスの平面構造301Aと断面形状302Aを示してある。設計対象部321Aは、マットレスの肩幅方向に関して両端に届くように配置されている。設計対象部321Aには、複数の帯状の積層セルが身長方向に並べられて配置されている。積層セルごとに、弾性体822aおよび弾性体822bが積層されている。
なお、
図34の例では、各寸法L11〜L13,L21,L23,L31については、
図16の例と同じにしてあるが、他の値が用いられてもよい。
【0122】
図34に示されるマットレスを設計する手法の一例を示す。
概略的には、
図34に示されるような帯状の積層セルを備える弾性調整部は、まず
図16に示されるように肩幅方向に複数(
図16の例では、6個)の小さい積層セルを備える弾性調整部を想定して設計した後に、その設計の結果の情報を使用(活用)して設計される。ここで、肩幅方向に複数の小さい積層セルを備える弾性調整部を想定する場合、当該複数の小さい積層セルの両端は肩幅方向の両端には届かない(つまり、当該複数の小さい積層セルの両端の周囲に枠があるような)構成を想定して設計し、その後、それよりも肩幅方向に長い(本実施形態では、肩幅方向の両端まで届かせた)帯状の積層セルへ置き換える。この理由は、本実施形態では、マットレスの上に利用者の人体が存在する範囲に基づいて弾性調整部を設計するためであり、逆に言えば、マットレスの上に利用者の人体が存在しないところについては弾性調整部を設計できないからである。
図34に示されるマットレスを設計する手法の手順の一例として(手順1)〜(手順3)を示す。
(手順1)まず、上記のように、
図16に示されるように肩幅方向に複数の小さい積層セルを備える弾性調整部を想定して設計する。
(手順2)それぞれの列ごと(それぞれの身長方向ごと)に、前記した肩幅方向の複数の小さい積層セルを帯状にひとまとめにし、さらに肩幅方向の両端まで届くようにした積層セル(
図34に示されるような帯状の積層セル)へ置き換える。これにより、それぞれの列ごと(それぞれの身長方向ごと)に、前記した肩幅方向の複数の小さい積層セルが、1つの帯状の積層セルに置き換えられる。
(手順3)前記した置き換え後のそれぞれの帯状の積層セルの硬さを決定する。これにより、帯状の積層セルごとに硬さが決まった弾性調整部が設計される。
ここで、それぞれの帯状の積層セルの硬さを決定する手法としては、任意の手法が用いられてもよく、例えば、次の(決定手法1)〜(決定手法4)のうちの任意の1つが用いられてもよい。
(決定手法1)それぞれの列ごと(それぞれの身長方向ごと)に、帯状の積層セルへ置き換える前における肩幅方向の複数の小さい積層セルの設計結果に基づいて、これら複数の小さい積層セルのうちで最も硬い(つまり、最も硬度が高い)積層セルの硬さと同じ硬さに、帯状の積層セルの硬さを決定する。
(決定手法2)それぞれの列ごと(それぞれの身長方向ごと)に、帯状の積層セルへ置き換える前における肩幅方向の複数の小さい積層セルの設計結果に基づいて、これら複数の小さい積層セルのうちで最も柔らかい(つまり、最も硬度が低い)積層セルの硬さと同じ硬さに、帯状の積層セルの硬さを決定する。
(決定手法3)それぞれの列ごと(それぞれの身長方向ごと)に、帯状の積層セルへ置き換える前における肩幅方向の複数の小さい積層セルの設計結果に基づいて、これら複数の小さい積層セルの硬さの平均値(平均の硬度)に、帯状の積層セルの硬さを決定する。
(決定手法4)それぞれの列ごと(それぞれの身長方向ごと)に、帯状の積層セルへ置き換える前における肩幅方向の複数の小さい積層セルの設計結果に基づいて、これら複数の小さい積層セルのうちで中心(人体の正中線に相当する部分)に位置する(または、その付近に位置する)積層セルの硬さと同じ硬さに、帯状の積層セルの硬さを決定する。なお、当該中心に位置する積層セルは、
図16の例では、肩幅方向に並ぶ6個の小さい積層セルのうちの3個目または4個目の積層セルであり、本実施形態では、肩幅方向に直交する中心軸に対して対称であるため3個目と4個目の積層セルの硬さは同じである。
【0123】
以上のように、本実施形態では、マットレスの利用者の体形に基づいて、マットレスを設計して製造する。これにより、従来品に対して体圧分散性を向上させたマットレス(体圧分散型のマットレス)、あるいは、従来品に対して寝姿勢をコントロールできるマットレス(姿勢維持型のマットレス)を提供することができる。
例えば、本実施形態では、3Dスキャナなどを用いて利用者の体形を計測し、これにより得られた三次元形状データを活用してマットレスを設計して製造する。
また、本実施形態では、積層セルごとに、硬さの異なる複数の素材を積層して、各素材の厚さを変更することで、マットレスの硬さを変更する。
また、本実施形態では、材料試験の結果に基づいて取得した素材の力学的な特性を活用して、コンピュータシミュレーションを行うことで、変形挙動を再現した結果に基づいてマットレスを設計して製造する。
また、本実施形態では、複数の素材を積層したときの積層割合(ウレタンの構成)と、変形量と、反力との関係をコンピュータシミュレーションで求め、その結果をまとめた表(ブロックマトリクス711)を活用してマットレスを設計して製造する。
【0124】
以下で、
図7〜
図9に示される処理の手順によって、
図1〜
図5に示されるマットレス10を製造する場合における処理ステップの構成例を示す。また、この場合に、
図33に示されるブロックマトリクス711を用いる。
一構成例として、弾性構造体(
図1〜
図5の例では、マットレス10)の製造方法では、対象物(
図1〜
図5の例では、利用者P)を支持する本体部(
図1〜
図5の例では、本体部11)と、本体部の一部に設けられた弾性調整部(
図1〜
図5の例では、例えば、弾性調整部21)と、を備え、弾性調整部は、本体部に対する対象物からの荷重印加方向(
図1〜
図5の例では、荷重印加方向F)と交差する面方向に積層セル(
図1〜
図5の例では、積層セル31)として複数分割されており、各積層セルは、異なる弾性率を有する複数の弾性体(
図1〜
図5の例では、弾性体33a,33b)が荷重印加方向に積層された弾性構造体を製造する弾性構造体の製造方法である。そして、積層セルに含まれるそれぞれの弾性体の荷重印加方向の厚さの割合である積層割合と、積層セルの荷重に対する変形量と、積層セルの荷重に対する反力とが対応付けられた積層セル情報(
図33の例では、ブロックマトリクス711)が記憶された積層セル情報記憶媒体から、積層セル情報を取得する積層セル情報取得ステップ(本実施形態では、
図8に示されるステップS16の処理)と、弾性構造体の利用者の体幹形状を示す体幹形状情報を取得する体幹形状情報取得ステップ(本実施形態では、
図7に示されるステップS8の処理)と、弾性構造体の位置のうちの利用者の体幹(
図1〜
図5の例では、体幹Pa)に対応した位置に配置される複数の積層セルのそれぞれについて、積層割合を、積層セル情報取得ステップにおいて取得された積層セル情報と、体幹形状情報取得ステップにおいて取得された体幹形状情報に基づいて決定する積層割合決定ステップ(本実施形態では、
図8に示されるステップS18)の処理と、を有する。
したがって、積層セルに含まれるそれぞれの弾性体の荷重印加方向の厚さの割合である積層割合と、積層セルの荷重に対する変形量と、積層セルの荷重に対する反力とが対応付けられた積層セル情報が記憶された積層セル情報記憶媒体に基づいて、複数の積層セルのそれぞれの積層割合が決定されるため、利用者にとって快適な弾性構造体を製造することができる。
【0125】
一構成例として、弾性構造体の製造方法では、体幹形状情報取得ステップにおいて取得された体幹形状情報に基づいて、利用者の体幹部の重量を推定する体幹部重量推定ステップ(本実施形態では、
図7に示されるステップS9の処理)を有し、積層割合決定ステップは、体幹部重量推定ステップにおいて推定された利用者の体幹部の重量に基づいて、積層割合を決定する。
したがって、利用者の体幹部の重量を推定して積層割合を決定するため、利用者の体幹部の重量を考慮して、利用者にとって快適な弾性構造体を製造することができる。
【0126】
一構成例として、弾性構造体の製造方法では、体幹部重量推定ステップは、利用者の体重に基づいて、利用者の体幹部の重量を推定する。
したがって、利用者の体重に基づいて体幹部の重量を推定するため、利用者の実際の情報(体重)に基づいて体幹部の重量を推定することができ、利用者にとって快適な弾性構造体を製造することができる。
【0127】
一構成例として、弾性構造体の製造方法では、積層割合決定ステップは、弾性構造体の用途に応じた弾性構造体の反力分布の態様を示す反力分布情報に基づいて、積層割合を決定する。
したがって、弾性構造体の用途に応じた弾性構造体の反力分布の態様を示す反力分布情報に基づいて積層割合を決定するため、弾性構造体の用途に応じて、利用者にとって快適な弾性構造体を製造することができる。
本実施形態では、例えば、体圧分散型の用途、あるいは、姿勢維持型の用途などに応じて、それぞれの圧力分布(反力の分布)の情報に基づいてマットレスが製造される。
【0128】
一構成例として、弾性構造体の製造方法では、弾性構造体は寝具のマットレスである。
したがって、利用者にとって快適なマットレスを製造することができる。
【0129】
一構成例として、弾性構造体の製造方法では、積層セルについて、変形挙動を表すひずみエネルギ関数を用いてシミュレーションを行うことで、積層割合と変形量と反力とが対応付けられた積層セル情報を取得する積層セル情報取得ステップ(本実施形態では、
図9に示されるステップS101〜ステップS110の処理を有する。
したがって、積層セルについて、変形挙動を表すひずみエネルギ関数を用いてシミュレーションを行うことで、好適な積層セル情報を取得することができる。
【0130】
なお、本実施形態では、
図7〜
図9に示される処理の手順は、例えば、顧客や業者が実行し、必要に応じて、コンピュータや各種の計測機器などの装置を利用する。他の構成例として、
図7〜
図9に示される処理の手順のうちの任意の部分が、あらかじめ設定されたコンピュータプログラムにしたがってコンピュータにより自動的に実行される構成が用いられてもよく、この場合、コンピュータにより使用される情報(データ)は当該コンピュータにより読み取り可能な記憶媒体に記憶されていてもよく、または、人の操作によって当該コンピュータに入力されてもよい。例えば、ステップS8、ステップS9、ステップS12、ステップS14、ステップS15、ステップS18のうちの1つ以上がコンピュータにより入力情報に基づいて自動的に実行されるシステムが構築されてもよい。
【0131】
上述のように、以上に示した実施形態に係る各処理の機能を実現するためのプログラムをコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録して、この記録媒体に記録されたプログラムをコンピュータシステムに読み込ませ、実行することにより、処理を行うことが可能である。
なお、ここでいう「コンピュータシステム」とは、オペレーティング・システム(OS:Operating System)や周辺機器等のハードウェアを含むものであってもよい。
また、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM(Read Only Memory)、フラッシュメモリ等の書き込み可能な不揮発性メモリ、DVD(Digital Versatile Disc)等の可搬媒体、コンピュータシステムに内蔵されるハードディスク等の記憶装置のことをいう。
さらに、「コンピュータ読み取り可能な記録媒体」とは、インターネット等のネットワークや電話回線等の通信回線を介してプログラムが送信された場合のサーバやクライアントとなるコンピュータシステム内部の揮発性メモリ(例えばDRAM(Dynamic Random Access Memory))のように、一定時間プログラムを保持しているものも含むものとする。
また、上記のプログラムは、このプログラムを記憶装置等に格納したコンピュータシステムから、伝送媒体を介して、あるいは、伝送媒体中の伝送波により他のコンピュータシステムに伝送されてもよい。ここで、プログラムを伝送する「伝送媒体」は、インターネット等のネットワーク(通信網)や電話回線等の通信回線(通信線)のように情報を伝送する機能を有する媒体のことをいう。
また、上記のプログラムは、前述した機能の一部を実現するためのものであってもよい。さらに、上記のプログラムは、前述した機能をコンピュータシステムに既に記録されているプログラムとの組み合わせで実現できるもの、いわゆる差分ファイル(差分プログラム)であってもよい。
【0132】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
例えば、マットレスを構成する各部の形状や寸法等として、実施形態の例に限られず、様々な態様が用いられてもよい。
例えば、1つの弾性調整部を構成する複数の積層セルに関し、積層セルの列の数(身長方向の数)や、積層セルの行の数(肩幅方向の数)や、積層セルの総数としては、それぞれ、任意の数が用いられてもよく、マットレスの利用者の体形等に応じて可変に決められてもよい。具体的には、
図2および
図6の例では、身長方向の積層セルの数を3個(第二の弾性調整部)、14個(第一の弾性調整部)、8個(第三の弾性調整部)としたが、これらの数は任意の数であってもよい。また、
図2および
図16の例では、肩幅方向の積層セルの数を6個としたが、この数は任意の数であってもよい。また、
図16および
図34の例では、身長方向の積層セルの数を14個としたが、この数は任意の数であってもよい。
また、例えば、マットレスに弾性調整部を設ける範囲(設計範囲)は、任意であってもよく、マットレスの利用者の体形等に応じて可変に決められてもよい。