(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】特開2017-177519(P2017-177519A)
(43)【公開日】2017年10月5日
(54)【発明の名称】部材の接合方法およびその方法により作製される光学素子
(51)【国際特許分類】
B29C 65/02 20060101AFI20170908BHJP
G02B 3/00 20060101ALI20170908BHJP
【FI】
B29C65/02
G02B3/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2016-67735(P2016-67735)
(22)【出願日】2016年3月30日
(71)【出願人】
【識別番号】000220343
【氏名又は名称】株式会社トプコン
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【弁理士】
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】高橋 崇
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 龍也
(72)【発明者】
【氏名】堀田 沙希
【テーマコード(参考)】
4F211
【Fターム(参考)】
4F211AD04
4F211AD32
4F211AH73
4F211AR02
4F211AR06
4F211TA01
4F211TA13
4F211TH24
4F211TN01
4F211TQ01
(57)【要約】
【課題】ワーク同士の位置がずれることを抑制し、また、接合面に気泡が入ることを抑制する部材の接合方法を提供する。
【解決手段】樹脂、ガラスまたは水晶からなる第1の部材および第2の部材を接合する方法であって、両部材の接合面の少なくとも一方に紫外線またはプラズマを照射して表面改質し、照射後、両部材の前記接合面同士を接触させ、両部材を真空状態の中に配置し、同時に、その接合面を加熱および加圧する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂、ガラスまたは水晶からなる第1の部材および第2の部材を接合する方法であって、
両部材の接合面の少なくとも一方に紫外線またはプラズマを照射して表面改質し、
前記照射後、両部材の前記接合面同士を接触させ、
両部材を真空状態の中に配置し、同時に、その接合面を加熱および加圧することを特徴とする部材の接合方法。
【請求項2】
前記紫外線の波長は、200nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の部材の接合方法。
【請求項3】
前記加熱温度は、50〜150℃であることを特徴とする請求項1に記載の部材の接合方法。
【請求項4】
前記加圧力は、1〜10MPaであることを特徴とする請求項1に記載の部材の接合方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の接合方法により、樹脂、ガラスまたは水晶からなる第1の部材および第2の部材が接合された光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、樹脂、ガラスおよび水晶から選択される異種または同種の部材を、接着剤層を有することなく接合させた光学素子、及びその接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、光学特性の異なる複数の部材を接着剤にて接合した光学素子が広く知られている。しかしながら、部材間に介在する接着剤層によって光学素子の強度が低下したり、部材の有する光学特性が損なわれたりする問題があった。
【0003】
これに対して、特許文献1に示すように、樹脂と樹脂もしくは樹脂とガラスからなる第一及び第二のワーク同士を貼り合わせる方法であって、両ワークの貼り合わせる面の少なくとも一方に紫外光を照射し、光照射後、両ワークの上記貼り合わせる面同士が接触するように積層し、両ワークを、その接触面が加圧されるように加圧し、加圧を解除後、両ワークを加熱するワークの貼り合わせ方法が知られている。この方法によれば、接着剤を用いずに両部材を直接接合することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5152361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1のワーク貼り合わせ方法では、密着性が小さく、接合面に紫外光を照射し、面同士が接触するように積層し、両ワークをその接合面が加圧されるように加圧し、両ワークを加熱するというように連続して複数の工程を行うため、ワーク同士の隙間に気泡が混入してしまう可能性がある。
【0006】
また、上記複数の工程を行う際に、それぞれの装置内にワークを移動させることが必要となり、ワーク同士の位置がずれてしまう可能性がある。
【0007】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、接着剤を用いずに部材同士を直接接合させるに際して、複数の工程を経る間に部材同士の位置がずれることを抑制し、また、接合面に気泡が入ることを抑制する部材の接合方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、両接合部材の加熱および加圧を真空下で行うことで、部材同士の密着性を高め、部材間に混入する気泡を低減することができ、複数の部材を高い精度で位置合わせすることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、請求項1に記載の発明は、樹脂、ガラスまたは水晶からなる第1の部材および第2の部材を接合する方法であって、両部材の接合面の少なくとも一方に紫外線またはプラズマを照射して表面改質し、照射後、両部材の接合面同士を接触させ、両部材を真空状態の中に配置し、同時に、その接合面を加熱および加圧する部材の接合方法である。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の接合方法において、紫外線の波長が200nm以下である部材の接合方法である。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1に記載の接合方法において、加熱温度が50〜150℃である部材の接合方法である。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1に記載の接合方法において、加圧力が1〜10MPaである部材の接合方法である。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜4のいずれかに記載の接合方法により、樹脂、ガラスまたは水晶からなる第1の部材および第2の部材が接合された光学素子である。
【発明の効果】
【0014】
本発明の接合方法によれば、第1の部材と第2の部材の接合面の少なくとも一方の表面が紫外線またはプラズマにより活性化されるので、両部材の接合面間に直接化学的な結合が形成される。このため、両部材間に接着剤層を介さずに両部材を接合することができ、接着剤層によって光学的特性が損なわれることが抑制される。また、加熱および加圧工程を真空下で行うので、接合面に気泡が入ることが抑制される。さらに、加熱および加圧工程を同時に行うので、部材同士の位置がずれることが抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】接合する部材の表面処理工程および状態変化を示す模式図である。
【
図3】真空中に配置され、加熱および加圧される部材の状態変化を示す模式図である。
【
図4】真空中に配置され、加熱および加圧される同種・異種の組み合わせの各部材の状態変化を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、樹脂、ガラスまたは水晶からなる第1の部材および第2の部材を接合する方法であって、これら部材の少なくとも一方の接合面に、紫外線またはプラズマを照射し、表面改質を行い、光照射後、両部材の接合面同士を接触させ、両部材を真空状態の中に配置し、同時に、その接触面の加熱および加圧を行い、光学素子を作製することを特徴としているが、以下、本発明を実施するにあたり、その具体的な態様を図面を参照しながら詳細に説明する。
【0017】
(接合する第1の部材および第2の部材、接合された光学素子)
第1の部材および第2の部材としては、例えば、水晶と水晶、ガラスとガラス、樹脂と樹脂のように同種を接合するのでもよく、また、水晶、ガラスおよび樹脂から異種の物を選んで接合するのでもよい。このような第1の部材および第2の部材から構成される光学素子としては、具体的には、レンズ、プリズム、DVDやブルーレーザの読取装置に用いられる波長板、偏光板、液晶パネル、液晶パネル用のバックライト、プロジェクタの光学系、携帯電話の液晶パネル、有機ELパネル、太陽電池パネル、自動車の燃料電池の成形用金型の離型剤貼り付け、レンズ成型用型の離型剤貼り付け、等幅広く応用される。
図4(a)は、光学素子がフィルム1とガラス2、(b)は、フィルム1aとフィルム1b、(c)は、ガラス2aとガラス2b同士を接合する場合の模式図をそれぞれ示す。
【0018】
図1に、フィルム1とガラス2の接合による光学素子の作製を説明する。まず、光学素子となるフィルム1とガラス2を用意する。フィルム1の材料としては、ポリカーボネイト(PC)、シクロオレフィン系ポリマー(COP)、ポリスチレン、ポリエステル、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)、ポリビニルアルコール(PVA)、トリアセチルセルロース(TAC)、セルロースアセテートの共重合体、ポリカーボネイト(PC)とポリスチレン(PS)の共重合体、ポリメタクリル酸メチル樹脂(PMMA)とポリスチレン(PS)の共重合体などがある。COPは具体的には三井化学製のアペル(登録商標)、日本ゼオン製のゼオノア(登録商標)、JSR製のアートンがある。これらのうち、同一材料あるいは異種材料からなるフィルム1と、ガラス2を接合することによって、光学素子を作製する。本発明の実施例の場合、例えばポリカーボネイト(PC)からなるフィルム1とガラス2を接合する。
【0019】
ガラス2としては、鏡面研磨あるいは光学研磨された平面度が高い基材を使用する。
【0020】
(親水化処理(表面改質)工程)
本発明の好ましい1つの実施形態においては、上記のような光学素子を作製するために選択されたガラス、樹脂、水晶のいずれかで形成された第1の部材および第2の部材のうち少なくとも一方の部材の表面に水酸基が存在するように、親水化処理(表面改質)を施す。なお、表面改質させる面は、平面度が高い部材が望ましい。
【0021】
まず、本発明の実施例の場合、
図1に示すように、ポリカーボネイトからなるフィルム1の表面を親水化するような表面改質処理を行う。好ましい方法としては、表面に紫外線を照射する。紫外線は、エキシマレーザや、プラズマなどである。
【0022】
特に好ましい紫外線の照射条件を述べると、光源としては、200nm以下の波長域の光を用い、172nmの輝線を持つエキシマレーザ又はエキシマランプが好ましいが、低圧水銀ランプ、キセノンランプ、重水素ランプを用いることができる。また、200nm以下の光であればよいので、数nmから数十nm程度の電子線を照射する方法であってもよい。例えば、5nmから90nm程度の電子線であってもよい。照度は、好ましくは10mW/cm
2で、少なくとも10秒、最も望ましくは30秒程度照射する。
【0023】
また、部材表面にプラズマを照射した場合にも同様の表面改質を行うことができ、例えば大気圧プラズマ発生装置により発生したプラズマを照射した場合にも表面の親水化処理(表面改質)が可能である。
【0024】
以上のような紫外線照射あるいはプラズマ照射により、空気中の酸素及び照射により酸素から発生したオゾンが紫外線あるいはプラズマと作用して活性酸素が発生する。この活性酸素が、フィルム1の表面を改質する。その結果、フィルム1は、
図1のように水酸基を有するようになり接合に適した表面状態になる。
【0025】
なお、
図1に示すように、フィルム1と同様に、ガラス2表面にも紫外線あるいはプラズマを照射し、表面改質を行ってもよいし、フィルム1またはガラス2の接合する面のいずれか一方だけに照射してもよい。さらに、
図4に示すように、フィルム1同士、ガラス2同士を接合する場合も同様である。
【0026】
(加熱・加圧工程)
その後、表面が改質された、ガラス、樹脂、水晶のいずれかで形成された2つの部材の表面同士を密着させた後に、
図2に示すように、これを真空状態にて平面板からなる加圧部材4、5間に配置する。加圧部材としては、面精度が高い金属平面板あるいは面精度が高く弾性を有する部材を選択することができる。
【0027】
表面処理を行った面同士を接触させ、真空中にて加圧部材間に配置し、加熱及び加圧処理を行う。このとき、加熱温度は50℃から150℃程度の範囲が有効で、最も望ましい温度は80℃程度である。加圧力は1〜10MPaの範囲が有効で、最も望ましい加圧力は約2MPaである。加熱及び加圧処理する処理時間は30秒〜300秒の範囲が有効で、最も望ましい処理時間は100秒程度である。
【0028】
この加熱および加圧処理によって、
図3に示すように、2つの部材の表面は、水が脱離して表面の酸素を介した共有結合により接合される。または、
図5に示すように、水酸基同士の水素結合により接合されるか、共有結合および水素結合が混在した状態で接合される。つまり、2つの部材の表面は、接着剤による接着層あるいは接着膜なしで直接的に接合されるのである。
【0029】
(その他)
本発明の方法は、ポリカーボネイトのフィルムとガラスだけではなく、フィルム同士、ガラス同士、あるいは異なる種類のフィルムとの接合にも採用することが可能である。
接合する部材の組み合わせの他の好適例としては、次のものがある。
(a)樹脂フィルムとガラス基板の接合
(b)樹脂フィルムと水晶基板の接合
樹脂フィルムとガラス基板の接合は、フィルムの光学素子の板厚を調整する場合に適用される。例えば、フィルム単体では0.05mm程度であるが、0.5mmのガラス基板を接合すれば0.55mmとなり、剛性も得られる。光学素子は、位相差板や偏光板である。また液晶パネルや、パネルとブラックライトの接合部材、プロジェクタの光学系、携帯電話の液晶パネル、有機ELパネル、太陽電池パネル等に用いられる。
【0030】
また、接合するガラス基板が回折格子である場合、位相差フィルムと接合することにより偏光機能と回折機能を併せ持つ複合光学素子の作製が可能となる。
【0031】
樹脂の位相差フィルムと水晶基板の接合は、水晶基板が位相差板であれば、樹脂の位相差フィルムの接合と同様に積層による位相差板の広帯域化が可能となる。
【0032】
水晶基板同士の接合の場合、BD波長のレーザ光への耐光性が高い位相差板の作製が可能となる。
【0033】
つまり、樹脂の位相差フィルムを用いた位相差板や水晶の位相差板を接着剤や粘着材で貼り合せた位相差板のように、有機材料を部材に用いた位相差板は、BD波長のレーザ光の照射により有機材料部分の劣化が生じる懸念があるが、本発明の製造方法によれば、BD波長のレーザ光の照射による劣化の懸念がない水晶位相差板の作製が可能となる。
【0034】
(本発明の効果)
本発明は、2つの部材を、接着剤、接合膜等を用いることなく、透過率、耐湿性を維持したまま接合することが可能となる光学素子の製造方法及びその方法を用いて製造した光学素子を提供することができる。そのため、第1の部材と第2の部材の接合部は、外観上、接着剤や粘着材を用いた場合に見られる接着層がなく、歪みなどが生じていないという特徴がある。
【0035】
また、複数の工程を順に進める従来の貼り合わせ方法に比べ、加熱および加圧を真空下で同時に行っているので、部材間に含まれる気泡の混入が低減でき、密着力は数倍向上し、部材同士の高精度な位置合わせを行うことができる。
【符号の説明】
【0036】
1、1a、1b:フィルム
2、2a、2b:ガラス
3:接合体(光学素子)
4、5:加圧部材(平面板)