【解決手段】本発明に係る積層鉄心の製造方法は、順送り金型に帯状の鉄心材料を供給する工程と、鉄心材料から第1の形状を有する鉄心片を打ち抜く工程と、第1の形状を有する鉄心片を複数枚重ねてなる第1積層ブロックを得る工程と、鉄心材料から第2の形状を有する鉄心片を打ち抜く工程と、第2の形状を有する鉄心片を複数枚重ねてなる第2積層ブロックを得る工程と、第1積層ブロックと第2積層ブロックとを含む積層体を順送り金型から排出する工程と、積層体を構成する積層ブロックの積層順を入れ替える工程と、積層ブロックの積層順を入れ替えた後の積層体を一体化させる工程とを含む。
前記第2積層ブロックは、前記積層体を構成する積層ブロックのうち、前記順送り金型内において最後に形成されるものであり且つ最も積厚が厚い又は二番目の積厚を有する、請求項1に記載の積層鉄心の製造方法。
前記第1積層ブロックは、前記積層体を構成する積層ブロックのうち、前記順送り金型内において最初に形成されるものであり且つ最も積厚が厚い又は二番目の積厚を有する、請求項1〜3のいずれか一項に記載の積層鉄心の製造方法。
【背景技術】
【0002】
積層鉄心はモーターの部品であり、所定の形状に加工された複数の鉄心片を積み重ね、これらを締結することによって形成される。モーターは積層鉄心からなる回転子(ロータ)及び固定子(ステータ)を備え、固定子にコイルを巻き付ける工程、回転子にシャフトを取り付ける工程などを経て完成する。積層鉄心が採用されたモーターは、従来、冷蔵庫、エアコン、ハードディスクドライブ、電動工具等の駆動源として使用され、近年ではハイブリッドカーの駆動源としても使用されている。
【0003】
積層鉄心の製造には一般に順送り金型が使用される。この順送り金型内において、帯状の鉄心材料から鉄心片が連続的に打ち抜かれるとともに所定の積厚になるまで複数の鉄心片が積み重ねられる。順送り金型から排出される積層体は、その積厚が製造すべき積層鉄心の厚さに応じた公差内に収まっていることが求められる。しかし、帯状の鉄心材料は必ずしも板厚が均一ではないため、つまり板厚偏差があるため、単に所定の枚数の鉄心片を積層させたのでは板厚偏差の影響によって積層体の積厚が公差内に収まらない場合がある。
【0004】
特許文献1は、積層する鉄心片の厚みを事前に測定し、そのデータに基づいて打抜装置を制御することにより、鉄心片の厚みのバラツキの如何にかかわらず一定厚の積層鉄心を得る装置を開示する。
【0005】
特許文献2は、カウンタボアを有する積層鉄心、すなわち、形状の異なる2種類以上の鉄心片を組み合わせて構成される積層鉄心の製造方法を開示する。特許文献2に記載の製造方法においては、積層枚数が指定されているカウンタボアを除くカウンタボアの内の一つを指定して積層枚数を補正する制御プログラムが利用される。なお、形状の異なる2種類以上の鉄心片を組み合わせて構成される積層鉄心は、カウンタボアを有するものに限られず、積層鉄心の内部に冷媒流路を有するものが他の例として挙げられる(特許文献3参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述のように、特許文献2に記載の発明においては、形状の異なる2種類以上の鉄心片を組み合わせて構成される積層鉄心を製造するに際し、特定の箇所の積層枚数を補正する制御プログラムを採用している。しかし、近年では、例えば特許文献3に記載の冷媒流路を有する積層鉄心のように、積層鉄心の構成が複雑化しており、従来の制御プログラムによる積層枚数の補正では十分に対応できない場合があった。
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、形状の異なる2種類以上の鉄心片を組み合わせて構成される積層鉄心を効率的に製造するのに有用な方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、形状の異なる2種類以上の鉄心片を組み合わせて構成される積層鉄心の製造方法に関する。この製造方法は、順送り金型に帯状の鉄心材料を供給する工程と、鉄心材料から第1の形状を有する鉄心片を打ち抜く工程と、第1の形状を有する鉄心片を複数枚重ねることによって第1積層ブロックを得る工程と、鉄心材料から第2の形状を有する鉄心片を打ち抜く工程と、第2の形状を有する鉄心片を複数枚重ねることによって第2積層ブロックを得る工程と、第1積層ブロックと第2積層ブロックとを含む積層体を順送り金型から排出する工程と、積層体を構成する積層ブロックの積層順を入れ替える工程と、積層ブロックの積層順を入れ替えた後の積層体を一体化させる工程とを含む。
【0010】
上記製造方法によれば、積層鉄心の製造過程において、複数の積層ブロックが任意の順で積み重ねられている積層体が製造される。その後、その積層順を入れ替える工程を経て積層鉄心が製造される。したがって、上記積層体を構成する最後の積層ブロックとして、積厚がある程度変動しても積層鉄心の性能に大きな影響を与えない積層ブロックを適宜選択することができる。この最後の積層ブロックの積厚を調整するとともに、その後、積層体を構成する積層ブロックの積層順を入れ替えることで、積厚が公差以内である積層鉄心を効率的に製造することができる。
【0011】
上述の「積層鉄心の性能に大きな影響を与えない積層ブロック」の一例は、積層体を構成する積層ブロックのうち、積厚が比較的厚い積層ブロックである。すなわち、例えば、積層体を構成する積層ブロックのうち、第2積層ブロックが順送り金型内において最後に形成されるものとした場合、この第2積層ブロックは最も積厚が厚い又は二番目の積厚を有することが好ましい。この場合、積層鉄心の積厚が公差以内に収まるように、第2積層ブロックの積層枚数を調整すればよい。
【0012】
本発明において、積層体を構成する積層ブロックのうち、第1積層ブロックが順送り金型内において最初に形成されるものとした場合、この第1積層ブロックは最も積厚が厚い又は二番目の積厚を有してもよい。この場合、第1積層ブロックがカシメによって一体化されたものであると、順送り金型から積層体を安定的に排出することができるという効果が奏される(
図8参照)。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、形状の異なる2種類以上の鉄心片を組み合わせて構成される積層鉄心を効率的に製造するのに有用な製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において、同一要素又は同一機能を有する要素には同一符号を用いることとし、重複する説明は省略する。
【0016】
<第一実施形態>
(回転子用積層鉄心)
図1及び
図2は本実施形態に係る回転子用の積層鉄心Rの斜視図及び断面図である。積層鉄心Rの形状は略円筒形である。積層鉄心Rは、複数の鉄心片からなる積層体10と、積層体10の中央部に位置しておりシャフト(不図示)を挿入するための軸孔12とを備える。
図2に示すように、軸孔12は両端部の内径が段階的に拡大しているカウンタボアである。すなわち、軸孔12は、その両端部に形成されており且つ最も内径が大きい第1の拡径部12aと、その内側にそれぞれ形成された第2の拡径部12bと、二つの第2の拡径部12bを連通するように形成された軸孔本体部12cとによって構成されている。
【0017】
積層体10は、軸孔12の内径の大きさに応じた三対の積層ブロック10a,10b,10c(計六個)によって構成されている。
図2に示すように、積層体10は、下から積層ブロック10a、積層ブロック10b、積層ブロック10c、積層ブロック10c、積層ブロック10b、積層ブロック10aの順序で積層されている。なお、鉄心材料の板厚偏差の影響を抑制するため、各積層ブロック間で転積がされていることが好ましい。ここでいう転積とは、積層ブロックを積層させて積層体を得るに際し、既に積み重ねされている積層ブロックの積層体と、当該積層体に新たに積み重ねる積層ブロックとの角度を相対的にずらすことをいう。
【0018】
積層ブロック10aは第1の拡径部12aを構成するものであり、積層ブロック10bと同じ積厚を有する。積層ブロック10aを構成する複数枚の鉄心片はカシメ1aによって互いに締結されている。積層ブロック10bは第2の拡径部12bを構成するものである。積層ブロック10bを構成する複数枚の鉄心片もカシメ1aによって互いに締結されている。積層ブロック10cは軸孔本体部12cを構成するものであり、積層ブロック10a,10b,10cのうち、最も積厚が厚い積層ブロックである。本実施形態においては、積厚がある程度変動しても積層鉄心Rの性能に大きな影響を与えない積層ブロックに積層ブロック10cが該当する。積層ブロック10cを構成する複数枚の鉄心片もカシメ1aによって互いに締結されている。
【0019】
図2に示すとおり、積層ブロック10a,10b,10cのそれぞれの最下層をなす鉄心片にはカシメ1aの代わりに穿孔1bが形成されている。最下層をなす鉄心片に穿孔1bを形成することで、積層鉄心Rの製造過程において積層ブロックに対して他の積層ブロックを積み重ねたときに、これらが互いに締結されることを防止できる。なお、積層鉄心Rを構成する複数の積層ブロックは溶接や接着によって最終的に一体化される。各鉄心片に樹脂充填用の開口(不図示)を形成し、この開口に樹脂を充填することによって複数の積層ブロックを一体化させてもよい。
【0020】
(積層体製造装置)
図3は、形状の異なる2種類以上の鉄心片を打抜き加工によって積層体を製造するための装置の一例を示す概要図である。この積層体製造装置100によって、
図4に示す積層体20が作製される。積層体20は積層ブロック10a,10b,10cによって構成される点において
図2に示す積層体10と同じであるが、これらの積層ブロックの積層順が異なる。
図4に示すように、積層体20は、下から積層ブロック10b(第1積層ブロック)、積層ブロック10a、積層ブロック10a、積層ブロック10b、積層ブロック10c、積層ブロック10c(第2積層ブロック)の順序で積層されている。積層体20を構成する積層ブロックの順序を入れ替えることによって
図1に示す積層体10が得られる。
【0021】
積層体製造装置100は、巻重体Cが装着されるアンコイラー110と、巻重体Cから引き出された帯状の鉄心材料(以下「被加工板W」という。)の送り装置130と、被加工板Wに対して打抜き加工を行う順送り金型140と、順送り金型140を動作させるプレス機械120とを備える。
【0022】
アンコイラー110は、巻重体Cを回転自在に保持する。巻重体Cを構成する電磁鋼板の長さは例えば500〜10000mである。巻重体Cを構成する電磁鋼板の厚さは0.1〜0.5mm程度であればよく、積層鉄心Rのより優れた磁気的特性を達成する観点から、0.1〜0.3mm程度であってもよい。電磁鋼板(被加工板W)の幅は50〜500mm程度であればよい。
【0023】
送り装置130は被加工板Wを上下から挟み込む一対のローラ130a,130bを有する。被加工板Wは、送り装置130を介して順送り金型140へと導入される。順送り金型140は、被加工板Wに対して打抜き加工、プッシュバックなどを連続的に実施するためのものである。
【0024】
図5は積層体20を構成する鉄心片を製造するための打抜きレイアウトを示す模式図である。
図5(a)に示す工程は被加工板Wにパイロット孔Hpと必要に応じて穿孔1bとを形成する工程である。
図5(b)に示す工程は被加工板Wに必要に応じてカシメ1aを形成する工程である。
図5(c)〜(e)は被加工板Wに開口5c、開口5b及び開口5aのいずれかを形成する工程である。なお、開口5aが第1の拡径部12aを構成し、開口5bが第2の拡径部12bを構成し、開口5cが軸孔本体部12cを構成する。穿孔1b及びカシメ1a、並びに開口5a、開口5b及び開口5cをそれぞれ形成するためのパンチ(不図示)は突出長さが可変であり、製造すべき鉄心片の態様に応じて適宜、穿孔1b又はカシメ1a、並びに開口5a、開口5b又は開口5cが被加工板Wに形成される。
図5(f)に示す工程は鉄心片の外周を打ち抜く工程(開口5dを形成する工程)である。
【0025】
順送り金型140は、打抜き加工によって得た鉄心片を順次重ね合わせることによって積層体20を製造する機能と、製造した積層体20を排出する機能とを有する。
図6に示すとおり、鉄心片の外周抜きを行うパンチPの下方にはダイ141が配置され、ダイ141の下にスクイズリング141aが配置されている。スクイズリング141aは、鉄心片の外径よりも一回り小さい内径を有する。パンチPによって打ち抜かれた鉄心片はダイ141のスクイズリング141aの上側開口に圧入される。カシメ1aによって締結されるべき鉄心片同士はパンチPの押圧力と支持体142の反力とスクイズリング141aの内面との摩擦力とによって締結される。他方、スクイズリング141aの下側開口からは徐々に鉄心片が押し出されてくる。支持体142上に積層体20が形成されると、支持体142は下方に移動し、ステージ143と面一となる。この状態において側方に位置するプッシャー145が作動し、積層体20を次の工程へと搬送する。
【0026】
(回転子用積層鉄心の製造方法)
次に積層鉄心Rの製造方法について説明する。この製造方法は以下の工程をこの順序で含む。
・順送り金型140に被加工板Wを供給する工程。
・順送り金型140により、開口5bが形成された鉄心片3bを被加工板Wから打ち抜く工程。
・複数枚の鉄心片3bを重ねることによって積層ブロック10bを得る工程。
・順送り金型140により、開口5aが形成された鉄心片3aを被加工板Wから打ち抜く工程。
・複数枚の鉄心片3aを重ねることによって積層ブロック10aを得る工程。
・順送り金型140により、開口5aが形成された鉄心片3aを被加工板Wから打ち抜く工程。
・複数枚の鉄心片3aを重ねることによって積層ブロック10aを得る工程。
・順送り金型140により、開口5bが形成された鉄心片3bを被加工板Wから打ち抜く工程。
・複数枚の鉄心片3bを重ねることによって積層ブロック10bを得る工程。
・順送り金型140により、開口5cが形成された鉄心片3cを被加工板Wから打ち抜く工程。
・複数枚の鉄心片3cを重ねることによって積層ブロック10cを得る工程。
・順送り金型140により、開口5cが形成された鉄心片3cを被加工板Wから打ち抜く工程。
・複数枚の鉄心片3cを重ねることによって積層ブロック10cを得る工程。
・
図4に示す構成の積層体20を順送り金型140から排出する工程。
・積層体20を構成する積層ブロックの積層順を入れ替えることによって積層体10を得る工程。この工程は、例えばロボットアームによって自動で実施してもよいし、手作業によって実施してもよい。
・積層体10を構成する積層ブロックを溶接や接着などによって一体化させる工程。
【0027】
上述のとおり、本実施形態においては、積層ブロック10cの積厚が多少変動しても積層鉄心Rの性能に大きな影響を及ぼさない。したがって、積層体20の製造において最後に製造される積層ブロック10c(第2積層ブロック)の積厚を調整し、最終的に得られる積層鉄心Rの積厚が公差内に収まるようにすればよい。例えば、積層体20の積厚が目標積厚よりも薄ければ一枚又は複数枚の鉄心片3cを積層ブロック10cに付加すればよく、積層体20の積厚が目標積厚よりも厚ければ一枚又は複数枚の鉄心片3cを積層ブロック10cから取り除けばよい。本実施形態によれば、複雑な制御プログラムを採用しなくても、形状の異なる2種類以上の鉄心片を組み合わせて構成される積層鉄心を効率的に製造することができる。
【0028】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが本発明は上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態においては、
図4に示す積層順の積層体20を製造する場合を例示したが、例えば、
図7に示す積層順で複数の積層ブロックを積層させてもよい。
図7に示す積層体30は、下から積層ブロック10c(第1積層ブロック)、積層ブロック10b、積層ブロック10a、積層ブロック10a、積層ブロック10b、積層ブロック10c(第2積層ブロック)の順序で積層されている。すなわち、積層体30を構成する複数の積層ブロックのうち、最も積厚が厚い積層ブロックを積層体製造装置100内において最初に形成している。かかる構成を採用することにより、順送り金型140から積層体30を安定的に排出することができるという効果が奏される。その理由は以下のとおりである。
図8に示すように、順送り金型140から作製済みの積層体30を排出するために支持体142を下方に移動させると、その上の積層体30は支持体142によって支持されない状態となる。積層体30の最も下方に位置する積層ブロック10cの積厚が十分に厚いと、
図8(b)に示す状態となっても、スクイズリング141aから積層ブロック10cが落下することを十分に抑制できる。
【0029】
上記実施形態においては、内部にカウンタボアを有する積層鉄心Rを製造する場合を例示したが、内部に冷媒流路を有する積層鉄心の製造に本発明を適用してもよい。また、積層体を構成する積層ブロックの数は6個に限定されず、2個以上であればよく、好ましくは4〜6個であり、6〜10個であってもよい。
【0030】
上記実施形態においては、回転子用の積層鉄心Rを製造する場合を例示したが、固定子用の積層鉄心の製造に本発明を適用してもよい。また、上記実施形態においては、一枚の被加工板Wから鉄心片を打ち抜く場合を例示したが、複数の被加工板Wを重ね合せて鉄心を打ち抜くようにしてもよい。この場合、複数の被加工板Wを併用する場合、種類、厚さ及び/又は幅が異なるものを組み合わせて使用してもよい。更に、一つの被加工板Wから回転子用の鉄心片と固定子用の鉄心片の両方を打ち抜いてもよい。また、上記実施形態においては、カシメ1a及び穿孔1bによって一体化された積層ブロックを例示したが、最終製品である積層鉄心にカシメが残らないように、仮カシメを採用してもよい。なお、「仮カシメ」とは打抜き加工によって製造される複数の鉄心片を一時的に一体化させるのに使用され且つ製品(積層鉄心)を製造する過程において取り除かれるカシメを意味する。