【解決手段】熔解槽は、ガラス原料を熔解槽に貯留される熔融ガラスの液面の略全面に投入するための投入口と、投入口から投入されたガラス原料を加熱して熔解する複数の加熱装置と、熔解槽に貯留される熔融ガラスに電流を流して通電加熱する複数の一対の電極と、投入口に対向する熔解槽の側壁位置に熔融ガラスを成形装置に向けて流す流出口と、を有し、加熱装置は、一対の電極が設けられた位置の熔融ガラスの液面より上方位置に設けられ、熔融ガラスの液面において、投入口から流出口に向かって少なくとも第1領域、第2領域、第3領域があり、第1領域から第2領域に熔融ガラスが流れるよう第1領域の加熱量>第2領域の加熱量とし、第3領域から第2領域に熔融ガラスが流れるよう第3領域の加熱量>第2領域の加熱量とし、第3領域から第1領域に流れるよう第3領域の加熱量>第1領域の加熱量とする。
前記投入口側から、前記流出口側に向かう程、前記熔解槽の熔融ガラスの底部における温度が上昇し、かつ、前記熔解槽の熔融ガラスの底部における最高温度が、ガラス原料の投入される位置における熔融ガラスの表層の温度に対して高くなるように、熔融ガラスの加熱制御をすることにより、前記流出口から前記下流工程に熔融ガラスを流すとともに、前記流出口から流れなかった熔融ガラスの一部が、前記流出口が設けられた前記熔解槽の側壁に沿って液面に向かって上昇し、前記液面に上昇した熔融ガラスの一部が前記液面に沿って、前記投入口側の前記熔解槽の側壁に向かって流れ、前記投入口側の前記熔解槽の側壁に沿って前記液面から下降し、さらに前記底面に沿って前記投入口側から前記流出口側に向かって流れるように、熔融ガラスの対流を作る、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のガラス基板の製造方法について説明する。
(ガラス基板の製造方法の全体概要)
図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)、清澄工程(ST2)、均質化工程(ST3)、供給工程(ST4)、成形工程(ST5)、徐冷工程(ST6)、および、切断工程(ST7)を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有してもよい。製造されたガラス基板は、必要に応じて梱包工程で積層され、納入先の業者に搬送される。
【0016】
熔解工程(ST1)では、ガラス原料を加熱することにより熔融ガラスを作る。清澄工程(ST2)では、熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれる酸素、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡が発生する。この泡が熔融ガラス中に含まれる清澄剤(酸化スズ等)の還元反応により生じた酸素を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に浮上して放出される。その後、清澄工程では、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中の酸素等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄剤による酸化反応及び還元反応は、熔融ガラスの温度を制御することにより行われる。
なお、清澄工程は、熔融ガラスに存在する泡を減圧雰囲気で成長させて脱泡させる減圧脱泡方式を用いることもできる。減圧脱泡方式は、清澄剤を用いない点で有効である。しかし、減圧脱泡方式は装置が複雑化及び大型化する。このため、清澄剤を用い、熔融ガラス温度を上昇させる清澄方法を採用することが好ましい。
【0017】
均質化工程(ST3)では、スターラを用いて熔融ガラスを撹拌することにより、ガラス成分の均質化を行う。これにより、脈理等の原因であるガラスの組成ムラを低減することができる。均質化工程は、後述する撹拌槽において行われる。
供給工程(ST4)では、撹拌された熔融ガラスが成形装置に供給される。
【0018】
成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)は、成形装置で行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスをシートガラスに成形し、シートガラスの流れを作る。成形には、オーバーフローダウンドロー法が用いられる。
徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、反りが生じないように冷却される。
切断工程(ST7)では、徐冷後のシートガラスを所定の長さに切断することで、板状のガラス基板を得る。切断されたガラス基板はさらに、所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。
【0019】
図2は、本実施形態における熔解工程(ST1)〜切断工程(ST8)を行うガラス基板の製造装置の概略図である。ガラス基板の製造装置は、
図2に示すように、主に熔解装置100と、成形装置108と、切断装置109と、を有する。熔解装置100は、熔解槽101と、清澄管102と、攪拌槽103と、移送管104、105と、ガラス供給管106と、を有する。
図2に示す熔解槽101には、図示されないバーナー等の加熱手段が設けられている。熔解槽には清澄剤が添加されたガラス原料が投入され、熔解工程(ST1)が行われる。熔解槽101で熔融した熔融ガラスは、移送管104を介して清澄管102に供給される。
清澄管102では、熔融ガラスMGの温度を調整して、清澄剤の酸化還元反応を利用して熔融ガラスの清澄工程(ST2)が行われる。具体的には、清澄管102内の熔融ガラスが昇温されることにより、熔融ガラス中に含まれる酸素、CO
2あるいはSO
2を含んだ泡が、清澄剤の還元反応により生じた酸素を吸収して成長し、熔融ガラスの液面に浮上して気相空間に放出される。その後、熔融ガラスの温度を低下させることにより、清澄剤の還元反応により得られた還元物質が酸化反応をする。これにより、熔融ガラスに残存する泡中の酸素等のガス成分が熔融ガラス中に再吸収されて、泡が消滅する。清澄後の熔融ガラスは、移送管105を介して攪拌槽103に供給される。
攪拌槽103では、攪拌機107によって熔融ガラスが攪拌されて均質化工程(ST3)が行われる。攪拌槽103で均質化された熔融ガラスは、ガラス供給管106を介して成形装置108に供給される(供給工程ST4)。
成形装置108では、オーバーフローダウンドロー法により、熔融ガラスからシートガラスSGが成形され(成形工程ST5)、徐冷される(徐冷工程ST6)。
切断装置109では、シートガラスSGから切り出された板状のガラス基板が形成される(切断工程ST7)。
【0020】
(熔解槽の構成)
熔解槽では、ガラス原料を、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスの液面の略全面に投入することにより、液面を含む表層において均一にガラス原料が熔融した熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽の内側側壁のうち、第1の方向に向く内側側壁の底部に設けられた流出口から後工程に向けて熔融ガラスを流す。
ここで、ガラス原料が投入される熔融ガラスの液面の「略全面」とは、熔解槽の熔融ガラスの液面の80%以上をいう。ガラス原料の投入方法は、ガラス原料を収めたバケットを反転して熔融ガラスにガラス原料を分散投入する方式でも、ベルトコンベアを用いてガラス原料を搬送して分散投入する方式、あるいは略全面に一時に投入する方式でも、スクリューフィーダによりガラス原料を分散投入する方式、あるいは一時に略全面に一時に投入する方式でもよい。本実施形態では、バケット101dを用いてガラス原料が投入される。また、熔融ガラスの「表層」とは、液面から溶解槽の底部に向かった深さの5%以下の範囲内の液面を含む領域をいい、熔融ガラスの「下層」とは、表層以外の領域をいう。また、流出口が設けられる「底部」とは、上記下層の一部であって、底面に近い領域をいう。好ましくは、溶解槽の深さ方向において底面からの深さが、液面と溶解槽の底部との間の深さの1/2以下である領域をいう。
【0021】
図3は、本実施形態の熔解槽101の概略的な斜視図である。
図4は、熔解槽101の長手方向に直交する方向の断面図である。熔解槽101の長手方向は、ガラス原料の投入口から移送管104へ向かう方向であり、
図3において複数の電極対114の並び方向である。熔解槽101は、主として、熔解槽本体を構成する壁110と、バーナー112と、電極対114と、迫部118とを備える。熔解槽101は、ガラス原料を、熔解槽101に蓄えられた熔融ガラスMGの液面101cの略全面に投入することにより、液面を含む表層において均一にガラス原料が熔融した熔融ガラスを作る。さらに、熔解槽101は、熔解槽101の内側側壁のうち、
図3中の左右方向(第1の方向)に向く内側側壁の底部に設けられた流出口104aから後工程に向けて熔融ガラスMGを流す。
【0022】
熔解槽101は、耐火レンガ等の耐火物により構成された壁110を有する。熔解槽101は、壁110で囲まれた内部空間を有する。熔解槽101の内部空間は、上記空間に投入されたガラス原料が熔解してできた熔融ガラスMGを加熱しながら収容する液槽101aと、熔融ガラスMGの上層に形成され、ガラス原料が投入される、気相である上部空間(気相空間)101bとを有する。
【0023】
熔解槽101の底壁110cは、複数種類の耐火物が鉛直方向に積層された構造を有している。
図4に示されるように、底壁110cは、少なくとも3種類の耐火物が積層された構造を有している。底壁110cは、第1耐火物121、第2耐火物122および第3耐火物123が、鉛直方向上方から下方に向かって積層している構造を有している。第1耐火物121、第2耐火物122および第3耐火物123は、耐熱耐火レンガ等である。第1耐火物121は、底壁110cの最上層を構成し、熔解槽本体110に貯留される熔融ガラスMGと接触する。側壁110aは、第1耐火物121と接続されている。第2耐火物122は、第1耐火物121の下面と接触する。第3耐火物123は、第2耐火物122の下面と接触する。
【0024】
第1耐火物121は、ジルコニア系電鋳耐火物である。ジルコニア系電鋳耐火物は、ジルコニア(ZrO2)の含有量が90質量%以上である耐火物である。第2耐火物122は、デンスジルコン耐火物、または、ジルコニア系焼成耐火物である。デンスジルコン耐火物、または、ジルコニア系焼成耐火物は、ジルコン(ZrSiO
4)の含有量が90質量%以上であり、かつ、圧縮後の焼成によって成形される耐火物である。第3耐火物123は、第1耐火物121および第2耐火物122より安価であり、かつ、後述の条件を満たす任意の耐火物である。第1耐火物121は、例えば、AGCセラミックス株式会社製のジルコニア系電鋳耐火物(ZB−X9510)が用いられる。第2耐火物122は、第1耐火物121と比べて、電気抵抗率および熱伝導率がより高く、かつ、より安価なデンスジルコン耐火物が用いられる。第2耐火物は、例えば、コルハート社製のデンスジルコン耐火物(ZS1300)が用いられる。第3耐火物123は、例えば、ヨータイ社製の電融ムライト耐火物(ML−FMS)が用いられる。なお、耐火物の熱伝導率が低いほど、その耐火物の断熱性および保温性が高い。すなわち、耐火物の熱伝導率が低いほど、耐火物から外部に熱が逃げにくく、内部に熱がこもりやすい。また、ジルコニア系電鋳耐火物である第1耐火物121は、ジルコニア系焼成耐火物である第2耐火物122と比べて、熔融ガラスMGに対する耐食性がより高い。そのため、第1耐火物121は、熔融ガラスMGと接触する耐火物として用いられる。
【0025】
迫部113は、熔解槽101の気相空間110cを覆う天井壁である。
図4には、迫部113の詳細が示されている。迫部113は、高温の熔融ガラスMGに対して耐熱性を有する素材で成形されている。迫部113の頂部には、温度センサ113aが取り付けられている。温度センサ113aは、気相空間110c、液面101cの温度を測定する。温度センサ113aが測定した温度に基づいて、後述するバーナー112での加熱量(発熱量)が制御される。なお、気相空間仕切り壁116および迫部113は、例えば、Al
2O
3、ZrO
2及びSiO
2を含むAZS系電鋳耐火レンガから構成される。
【0026】
溶解槽101の上部空間101bの上記第1の方向に平行な壁110には、燃料と酸素等を混合した燃焼ガスが燃焼して火炎を発する複数のバーナー(加熱装置)112が設けられる。バーナー112は、一対の電極114が設けられた位置の熔融ガラスMGの液面101cより上方位置に設けられ、火炎によって上部空間101bの耐火物を加熱して壁110を高温にする。ガラス原料は、高温になった壁110の輻射熱により、また、高温となった気相の雰囲気によって加熱される。バーナー112が、投入されたガラス原料を加熱して熔解する加熱装置として機能する。バーナー112は、燃料と酸素等を混合した燃焼ガスの燃焼により生じる火炎を上部空間(気相空間)101bに放出する。バーナー112は、上部空間101bを加熱することで、熔解槽101に貯留されている熔融ガラスMGを間接的に加熱する。バーナー112は、後述するコンピュータ118の指示に従って熔融ガラスMGの液面101c(ガラス原料)を加熱する加熱量が制御されるように構成されている。
図3、4に示されるように、上部空間101bの互いに対向する一対の壁に、それぞれ3基のバーナー112が取り付けられている。
図3では、熔解槽本体110の奥側の壁に取り付けられているバーナー112のみが示されている。バーナー112は、互いに対向する位置に設けられておらず、互い違いの位置に設けられている。すなわち、
図4では、2基のバーナー112が互いに対向する位置に設けられるように見えるが、この2基のバーナー112は、
図4の紙面に対して垂直方向の異なる位置に設けられている。なお、バーナー112は、互いに対向する一対の壁の一方のみに設けられてもよい。
【0027】
図3中の熔解槽101の左側側壁には、上部空間101bに接する面には、原料投入窓(投入口)101fが設けられている。この原料投入窓101fを通して、ガラス原料を収めたバケット101dが上部空間101bに出入りし、後述するコンピュータ118の指示に従って熔融ガラスMGの液面101c上を前後左右に移動するように構成されている。
【0028】
ガラス原料は、熔解槽101に蓄えられた熔融ガラスMGの液面の略全面に投入される。すなわち、熔解槽101は、コンピュータ118の指示によって、バケット101dがガラス原料を収めた状態で、バケット101dを目標とする区域に移動させ、バケット101dの上面を下面に反転させるパケット動作機構を備える。バケット101dがガラス原料を投入する区域および投入する時間間隔は、熔融ガラスMGの液面101cに浮遊するガラス原料が無くならないように、予め定められている。したがって、熔解槽101内部では、熔融ガラスMGの液面の略全面に投入されるので、常に熔融ガラスMGの液面101cをガラス原料が覆うように浮遊している。
【0029】
このようにガラス原料を、常時液面101cを覆うように浮遊させるのは、熔融ガラスMGの熱が液面101cを通して、気相である上部空間101bに放射されず、熔融ガラスMGの液面を含む表層において均一にガラス原料が熔融した熔融ガラスを形成させるためである。また、ガラス原料のうち、SiO
2(シリカ)等の熔解性の低い(熔解温度が高い)原料成分を効率よく熔解させ、SiO
2(シリカ)等の原料成分の熔け残りを防止するためである。SiO
2等の熔解温度の高い原料成分は、他の成分、例えばB
2O
3(酸化ホウ素)等の原料成分と混合された状態では、SiO
2等の固有の熔解温度より低い温度でSiO2等は溶解され得る。このため、熔融ガラスMGの液面101c上にガラス原料が常に存在して液面101cを覆うように、ガラス原料を絶えず分散投入する。これにより、B
2O
3等の原料成分が、熔けにくいSiO
2等の原料成分とともに熔解するので、SiO
2(シリカ)等の原料成分の熔け残りを防止することができる。ガラス原料が、熔融ガラスの液面の一部に投入される場合、熔け難いSiO
2等の原料成分が熔け残り、熔融ガラスの対流によって、ガラス原料の投入位置から遠くに離れた液面に異質素地として浮遊する場合がある。また、この異質素地は、熔融ガラスの対流によって熔解槽内部に移動し、場合によっては、熔解槽の流出口から流出して後処理工程に流れる場合もあり、脈理等のガラス組成のムラの原因となりやすい。このため、本実施形態では、熔解槽101において、ガラス原料を、熔融ガラスMGの液面の略全面に投入する。
【0030】
熔解槽101の上記第1の方向に平行で、お互いに対向する液槽101aの内側側壁110a,110bに、酸化錫あるいはモリブデン等の耐熱性を有する導電性材料で構成された3対の電極114が設けられている。3対の電極114は、内側側壁110a,110bのうち、熔融ガラスMGの下層に対応する領域に設けられている。3対の電極114はいずれも、液槽101aの外壁の面から内壁の面まで延びている。3対の電極114のそれぞれの対のうち、図中奥側の電極は図示されていない。3対の電極114の各対は、熔融ガラスMGを通してお互いに対向するように、内側壁110a,110bに設けられている。各対の電極114は、電極間に位置する熔融ガラスMGに電流を流す。熔融ガラスMGはこの通電により、ジュール熱を自ら発して熔融ガラスMGを加熱する。熔解槽101では、熔融ガラスMGは例えば1500℃以上に加熱される。加熱された熔融ガラスMGは、ガラス供給管104を通して清澄槽102へ送られる。
本実施形態では、熔解槽101には3対の電極114が設けられるが、2対あるいは4対以上の電極が設けられてもよい。
【0031】
電極114のそれぞれは、制御ユニット116に接続されており、下層における熔融ガラスMGの温度分布を均一化するために、電極114のそれぞれに投入する電力(交流)が、電極114の対毎に制御されている。制御ユニット116は、さらにコンピュータ118と接続されている。コンピュータ118は、制御ユニット116が電極114に投入する電力、具体的に電圧と電流の値を制御ユニット116から受け取り、この電圧及び電流の情報から、熔解槽101内の電極114間に挟まれた熔融ガラスMGの温度情報を求める。コンピュータ118は、さらにこの温度情報に基づいて、3対の電極114のそれぞれの対における熔融ガラスMGの温度が所定の許容範囲内、例えば5℃以内、好ましくは3℃以内の範囲で揃うように、電極114に投入する電力の指示を制御ユニット116に送る。また、コンピュータ118は、制御ユニット116を通して後述するバケット101dを動作するように、図示されないバケット動作機構に指示をする。
【0032】
ガラス原料は、熔解槽101に蓄えられた熔融ガラスMGの液面101cに投入される。すなわち、熔解槽101は、コンピュータ118の指示によって、バケット101dがガラス原料を収めた状態で、目標とする区域にバケット101dを移動させ、バケット101dの上面を下面に反転させるパケット動作機構を備える。ガラス原料の投入位置は、熔融ガラスMGの液面101cの略全面の領域である。熔解槽101内部では、ガラス原料が熔融ガラスMGの液面に投入されるが、その一部、例えばSiO
2(シリカ)等の熔解性の低い(熔解温度が高い)原料成分が液面上を浮遊してシリカリッチの異質素地120(
図4参照)を作る場合がある。この異質素地120については、後述する。
【0033】
熔解槽101の流出口104aは、ガラス供給管104を通して、清澄槽102と接続されている。
【0034】
図5は、本実施形態における熔解槽101内部の熔融ガラスの対流を説明する図である。本実施形態では、熔解槽101の内側側壁のうち、第1の方向に向く内側側壁の底部に設けられた流出口104aから清澄工程に向けて熔融ガラスMGを流す。このとき、熔解槽101の底部に位置する熔融ガラスMGの温度が原料投入側から流出口104aの側に向かう程、上昇するように熔融ガラスMGを加熱制御する。これにより、流出口104aの側において、流出口104aから下流工程である清澄工程に熔融ガラスMGを流すとともに、熔融ガラスMGの対流を作る。すなわち、流出口104aから流れなかった熔融ガラスMGの一部が熔解槽101の側壁に沿って液面101cに向かって上昇し、液面101cに上昇した熔融ガラスMGの一部が液面101cに沿って原料投入側の熔解槽101の側壁に向かって流れ、原料投入側の熔解槽101の側壁に沿って液面101cから下降し、さらに底面に沿って原料投入側から排出口104aの側に向かって流れる。また、熔解槽101の電極114が設けられた領域では、熔融ガラスMGが加熱され、熔解槽101の底面側から液面側に向かって上昇する対流が発生する。電極114と電極114との間の領域では、電極114が設けられた領域に比べ熔融ガラスMGの温度が下がるため、熔解槽101の液面側から底面側に向かって下降する対流が発生する。
【0035】
このような対流を生じさせる理由は以下の通りである。すなわち、シリカ濃度の高い難熔性のガラスでは、ガラス原料の分解、熔解時に、熱分解温度の低いアルカリ土類金属成分が、周りの熔融ガラスに比べて先に溶け込み、難熔性のシリカ成分の濃度の高い異質素地120が生成し易い。生成した異質素地120が何らかの理由で、熔解槽の流出口側の側壁に漂っていき沈み込んで下流工程に流出すると、周りの熔融ガラスよりシリカ濃度が高く、粘度が高いので、脈理となる。
しかし、本実施形態の熔解槽101では、前述のような熔融ガラスMGの対流を形成しているので、異質素地120が、流出口104a側の側壁付近に漂って来ることはない。さらに、流出口104a側の側壁では、熔融ガラスMGの流れが底面から液面に向けて流れているので、異質素地が沈み込むことも無い。
【0036】
熔解槽101において、
図5に示す矢印で示す対流を形成させるには、
図5における原料投入側から流出口104aの側に向かうにつれて、熔解槽101の底部を流れる熔融ガラスMGの温度が徐々に高くなるように、
図5に示す例では、温度T1<温度T2<温度T3にするとともに、原料投入位置における熔融ガラスMGの表層の温度T4に対して温度T3(最高温度)が高くなるように、電極114に供給する電力を制御するとよい。温度T1は、
図3中の原料投入側に設けられた一対の電極114の位置における熔融ガラスMGの温度であり、温度T2は、複数ある対の電極114の内、真ん中に位置する一対の電極114の位置における熔融ガラスMGの温度であり、温度T3は、複数ある対の電極114の内、流出口の側に位置する一対の電極114の位置における熔融ガラスMGの温度である。このような温度分布を形成するように、温度センサ115の計測結果に基づいて電極114へ供給する電力がコンピュータ118及び制御ユニット116を介して制御される。
【0037】
図5に示す矢印で示す対流のうち、液面101c付近である表層での対流を形成するためには、液面101cに投入されるガラス原料を加熱熔解するバーナー112による加熱も重要になる。
図6は、熔解槽101の熔融ガラスMGの液面を上方から見た模式図である。
図6では、熔融ガラスMGの流れ(対流)を明確に示すために、5つ1対の電極114と、電極114の上方(
図6中の紙面手前側)に設けられる5つの1対のバーナー112(112a〜112e)とが、熔解槽101に設けられたものとして説明する。バーナー112は、一対の電極114が設けられた位置の熔融ガラスMGの液面101cより上方位置に設けられ、液面領域A1〜液面領域A5を加熱する。熔解槽101に貯留される熔融ガラスMGの温度は、電極114付近において高くなる。電極114加熱による温度差によって熔融ガラスMGの対流が発生する。この熔融ガラスMGの対流を、電極114の加熱と連動させて、バーナー112によって熔融ガラスMGの表層を加熱することにより、対流を促進させることができる。図中の矢印は、熔融ガラスMGの模式的な流れを示すものである。本実施形態では、液面101c付近の対流は、ガラス供給管104側の液面領域A5から、バケット101dがある側(原料投入窓(投入口)101f側)の液面領域A1に向かうように形成される。液面領域A5では、熔解槽101の底面側から液面側に向かって上昇してきた熔融ガラスMGが、液面領域A4側に流れるようにバーナー112の加熱量(発熱量)を制御する。具体的には、液面領域A5を加熱するバーナー112eの加熱量を、液面領域A4を加熱するバーナー112dの加熱量より大きくすることにより、液面領域A5の温度T9が、液面領域A4の温度T8より高くなるようにする。これにより、液面領域A5から液面領域A4に向かう熔融ガラスMGの流れが形成される。次に、液面領域4では、液面領域A5側から流れてきた熔融ガラスMGが、液面領域A3側に流れるようにバーナー112の加熱量(発熱量)を制御する。具体的には、液面領域A4を加熱するバーナー112dの加熱量を、液面領域A3を加熱するバーナー112cの加熱量より小さくし、液面領域A3を加熱するバーナー112cの加熱量を、液面領域A5を加熱するバーナー112eの加熱量より小さくする。液面領域A4の温度T8が液面領域A3の温度T7より低くなると、熔融ガラスMGは液面領域A3側から液面領域A4側に向かう流れが発生するが、液面領域A3の温度T7を液面領域A5の温度T9より低くする。これにより、液面領域A5側から液面領域A4側への流れを、液面領域A3側から液面領域A4側への流れより強めることができ、液面領域A5から液面領域A3に向かう熔融ガラスMGの流れが形成される。ここで、液面領域A3から液面領域A4に向かう流れと液面領域A5から液面領域A4に向かう流れとがぶつかることにより、熔融ガラスMGが攪拌されるためシリカリッチの異質素地も攪拌される。このため、ガラス原料の熔解ムラを抑制でき、脈理等の発生を抑制することができる。次に、液面領域A3では、液面領域A4側から流れてきた熔融ガラスMGが、液面領域A2側に流れるようにバーナー112の加熱量(発熱量)を制御する。具体的には、液面領域A3を加熱するバーナー112cの加熱量を、液面領域A2を加熱するバーナー112bの加熱量より大きくすることにより、液面領域A3の温度T7が、液面領域A2の温度T6より高くなるようにする。これにより、液面領域A3から液面領域A2に向かう熔融ガラスMGの流れが形成される。次に、液面領域2では、液面領域A3側から流れてきた熔融ガラスMGが、液面領域A1側に流れるようにバーナー112の加熱量(発熱量)を制御する。具体的には、液面領域A2を加熱するバーナー112bの加熱量を、液面領域A1を加熱するバーナー112aの加熱量より小さくし、液面領域A1を加熱するバーナー112aの加熱量を、液面領域A3を加熱するバーナー112cの加熱量より小さくする。液面領域A3側から液面領域A2側への流れを、液面領域A1側から液面領域A2側への流れより強めることにより、液面領域A3から液面領域A1に向かう熔融ガラスMGの流れが形成される。液面101c付近である表層での対流を形成するために、液面領域A1の温度T5>液面領域A2の温度T6、液面領域A2の温度T6<液面領域A3の温度T7、液面領域A3の温度T7>液面領域A4の温度T8、液面領域A4の温度T8>液面領域A5の温度T9、液面領域A1の温度T5<液面領域A3の温度T7<液面領域A5の温度T9、を満たすように、バーナー112a〜バーナー112eの加熱量(発熱量)がコンピュータ118及び制御ユニット116を介して制御される。
【0038】
一方、
図7は、従来の方式における熔融ガラスの対流を説明する図である。
熔解槽のほぼ中央付近Aのガラス温度を一番高くすることで、中央付近Aの底部から熔融ガラスが湧上り、ガラス原料の投入口側と、流出口側に分かれて流れる熔融ガラスの対流を形成する。この時、このような対流が強く安定して形成できれば、異質素地120が、流出口側の側壁に漂っていくことは無い。通常のソーダライムガラスでは、ガラスの温度をそれほど上げなくても粘度が下がるので、対流を強く安定して維持することは容易であるが、高温粘性の高いガラスでは、対流を強く安定して維持することが難しい。熔融ガラスの対流が弱くなり、異質素地120が
図7に示すように、流出口側の側壁の前に漂っていけば、異質素地120は、流出口側の側壁に沿って沈み込むガラスの流れに巻き込まれ、下流工程に流出し易くなってしまう。
【0039】
本実施形態では、
図5に示すような対流を形成するように、熔融ガラスMGの場所に応じた加熱を行うので、異質素地120が流出口104の側に流れることを抑制できる。従って、従来のように、異質素地120が対流に沿って流出口から流出する機会が増えることがなく、脈理等のガラス組成のムラの原因が生じにくい。
したがって、粘性の高い熔融ガラス、例えば、10
2.5 poiseにおける温度が1500℃以上(例えば、1500℃以上1650℃以下)であるガラスに対して、本実施形態の製造方法を適用することができ、従来の製造方法の場合に比べて、脈理等のガラス組成のムラを抑制することができる利点が大きい。
【0040】
本実施形態では、従来のように、ホットスプリングを強く安定して維持するために、熔融ガラスの温度を過度に高くする必要が無い。そのため、熔解槽101を構成するレンガの侵食が速まり、熔解槽101の寿命を短くすることがない。さらに、レンガ成分の熔融ガラスMG中への熔解量が増えることで、下流の工程で、ガラス中に失透が生成しやすくなるということも無い。また、泡の除去のために熔融ガラスMG中に含まれる清澄剤の還元反応(酸素放出反応)が清澄槽102ではなく、熔解槽101で促進してしまい、泡品質が悪化するということも起こりにくい。
【0041】
本実施形態では、複数ある対のバーナー112のそれぞれの対は、
図3、
図5、
図6中の左右の方向(第1の方向)に直交する方向に向いてお互いに対向しているので、熔融ガラスMGの第1の方向に沿った表層における温度分布を目標どおりの分布にすることができる。
【0042】
(ガラス組成)
本実施形態に用いるガラスの組成については、アルミノシリケートガラスで構成され、SiO
2(シリカ)を55質量%以上含むことができる。このガラス組成を有するアルミノシリケートガラスに適用した本実施形態の製造方法は、従来に比べて効果的にガラス組成のムラを抑制することができる。さらには、SiO
2を60質量%以上含むことができ、さらに、SiO
2を65質量%以上含むこともできる。SiO
2を55質量%含み、シリカリッチの異質素地120ができやすいガラス組成であっても、シリカリッチの異質素地120が流出口104a側の側壁に漂って行くのを、熔融ガラスMGの液面101cの対流が防ぐので、また、流出口104a側の側壁では、ガラスの流れがボトム(底面)の側から素地面(液面)の側に向けて流れているので、シリカリッチの異質素地120が、流出口104aから流出することを防ぐことができる。
また、SiO
2を55質量%以上含み熔融ガラスMGの粘性が高いガラス組成に対して、シリカリッチの異質素地120の流出を防ぐためには、従来は、ホットスプリングを強く安定して維持するために熔融ガラスMGの温度を上げる必要があった。このため、熔解槽を構成するレンガの侵食が速くなり、熔解槽の寿命が短くなり易かった。また、熔融ガラス中に含まれる清澄剤の還元反応(酸素放出反応)が清澄槽ではなく、熔解槽で促進してしまうことで、泡品質が悪化し易かった。しかし、本実施形態は、従来のようにホットスプリングを強く安定して維持するために熔融ガラスMGの温度を高める必要が無いので、熔解槽101の寿命の短縮や泡品質の悪化を防げることができる。なお、SiO
2のガラス組成における含有率の上限は例えば70質量%である。
【0043】
また、SiO
2とAl
2O
3とを合計で70質量%以上含むことができ、このガラス組成を有するアルミノシリケートガラスを適用した本実施形態の製造方法は、従来に比べて効果的にガラス組成のムラを抑制することができる。さらに、SiO
2とAl
2O
3とを合計で75質量%以上含むことができる。
SiO
2とAl
2O
3とを合計で70質量%以上含みシリカリッチの異質素地120ができ易いガラス組成であっても、熔融ガラスMGの液面101cの対流が、シリカリッチの異質素地120が流出口104a側の側壁に漂って行くのを防ぐ。また、流出口104a側の側壁では、熔融ガラスMGの流れがボトム(底面)側から素地面(液面)の側に向けて流れているので、シリカリッチの異質素地120が、流出口104aから流出することを防ぐことができる。
また、SiO
2とAl
2O
3とを合計で70質量%以上含み、熔融ガラスMGの粘性が高いガラス組成に対して、シリカリッチの異質素地120の流出を防ぐためには、従来は、ホットスプリングを強く安定して維持するために熔融ガラスの温度を上げる必要があった。このため、熔解槽101を構成するレンガの侵食が速くなり、熔解槽101の寿命が短くなり易かった。また、熔融ガラス中に含まれる清澄剤の還元反応(酸素放出反応)が清澄槽ではなく、熔解槽101で促進してしまうことで、泡品質が悪化し易かった。しかし、本実施形態は、従来のようにホットスプリングを強く安定して維持するために熔融ガラスMGの温度を高める必要が無いので、熔解槽101の寿命の短縮や泡品質の悪化を防げることができる。
なお、ガラス組成において、SiO
2とAl
2O
3との合計の含有率の上限は、例えば85質量%である。
【0044】
本実施形態が適用されるガラス基板は、例えば以下の組成を含む無アルカリガラスからなる。
SiO
2:55−80質量%
Al
2O
3:8−20質量%
B
2O
3:0−18質量%
RO 0〜17モル%(ROはMgO、CaO、SrO及びBaOの合量)、
R’
2O 0〜2モル%(R’
2OはLi
2O、Na
2O及びK
2Oの合量)。
【0045】
SiO
2は60〜75質量%、さらには、63〜72質量%であることが、熱収縮率を小さくするという観点から好ましい。
ROのうち、MgOが0〜10質量%、CaOが0〜10質量%、SrOが0〜10質量%、BaOが0〜10質量%であることが好ましい。
【0046】
また、SiO2、Al
2O
3、B
2O
3、及びROを少なくとも含み、モル比((2×SiO2)+Al
2O
3)/((2×B
2O
3)+RO)は4.5以上であるガラスであってもよい。また、MgO、CaO、SrO、及びBaOの少なくともいずれか含み、モル比(BaO+SrO)/ROは0.1以上であることが好ましい。
【0047】
また、質量%表示のB
2O
3の含有率の2倍と質量%表示のROの含有率の合計は、30質量%以下、好ましくは10〜30質量%であることが好ましい。
さらに、熔融ガラス中で価数変動する金属の酸化物(酸化スズ、酸化鉄)を合計で0.05〜1.5質量%含んでいることが好ましい。
AS
2O
3、Sb
2O
3、PbOを実質的に含まないことが好ましいが、これらを任意に含んでいてもよい。
また、ガラス中で価数変動する金属の酸化物(酸化スズ、酸化鉄)を合計で0.05〜1.5質量%含み、As
2O
3、Sb
2O
3及びPbOを実質的に含まないということは必須ではなく任意である。
【0048】
本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板を含むディスプレイ用ガラス基板に好適である。IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS(低温度ポリシリコン)半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、有機ELディスプレイ用ガラス基板にも好適である。言い換えると、本実施形態のガラス基板の製造方法は、ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。その他、携帯端末機器などのディスプレイや筐体用のカバーガラス、タッチパネル板、太陽電池のガラス基板やカバーガラスとしても用いることができる。特に、ポリシリコンTFTを用いた液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【0049】
以上、本発明のガラス基板の製造方法及びガラス基板の製造装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。